説明

圧電アクチュエータの駆動装置

【課題】電源から電源電圧を供給した直後の、駆動回路が駆動する前における第1活性部の充電による駆動回路の故障を防止する。
【解決手段】駆動回路61は、第1給電系統70と接続されており、制御基板60から駆動電位が付与される。コンデンサ81の一端側である中間電極44aは、第1給電系統70から分岐した第2給電系統71と接続されており、制御基板60から直接駆動電位が付与される。コンデンサ82の一端側である下部電極43は、グランドに接続されている。コンデンサ81、82それぞれの他端側である上部電極45は、駆動回路61の出力端子に接続されており、駆動電位とグランド電位のうち、いずれか一方の電位が選択的に付与される。第2給電系統71において、コンデンサ81に対して直列的に抵抗器83が接続されているとともに、コンデンサ81に対して並列的にコンデンサ84が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、図9(a)に示すように、一方の電極となる振動板211の上面に、圧電層212が積層されて配置されており、圧電層212の上面に電極213が形成された圧電アクチュエータ210が知られている。このような圧電アクチュエータ210は、圧電層212の電極213と振動板211に挟まれた部分が両者の電位差によって変形する活性部R10となっており、電極213に駆動回路201から出力されたグランド電位とグランド電位とは異なる所定の駆動電位のいずれかの一方の電位が付与され、振動板211にグランド電位が付与される。また、駆動回路201は、電源200に接続されており、この電源200から供給された電源電圧で駆動する。そして、圧電アクチュエータ210は、電極213と振動板211との間に生じた電位差によって、電界が作用したときの活性部R10の変形(圧電歪)を利用して、対象を駆動する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、活性部R10は、電極213と振動板211に絶縁性の圧電層212が挟まれており、充放電するコンデンサとみなすことができる。そして、電源200から圧電アクチュエータ210までの電気的構成は、図9(b)に示すように、電源200が駆動回路201に接続され、この駆動回路201の出力端子が活性部R10であるコンデンサ202の一端(電極213)に接続され、コンデンサ202の他端(振動板211)にグランドが接続された等価回路とみなすことができる。そして、駆動回路201に対して並列的にコンデンサ204が接続されている。このコンデンサ204は、電源200から駆動回路201へ供給される電源電圧が常に一定となるように、電圧降下を抑制するとともに、電源電圧以上の電圧が駆動回路201へ供給されないようにするためのものである。このような圧電アクチュエータ210では、駆動回路201の出力端子に高い電圧が印加されることはない。
【0004】
また、圧電アクチュエータは、特許文献1に記載されているもの以外に、電源から直接電源電圧が付与される第1電極と、グランド電位が付与される第2電極と、駆動回路201から出力されたグランド電位と駆動電位のいずれかの一方の電位が付与される第3電極とを有し、第2電極と第3電極の間だけではなく、第1電位と第3電位との間でもコンデンサ(第1活性部)を構成するものがある。
【0005】
例えば、特願2008−094150に記載されているような圧電アクチュエータ32においては(本願図6参照)、振動板40の上面に、2枚の圧電層41、42が積層されて配置されており、振動板40の上面、下側の圧電層41の上面、及び、上側の圧電層42の上面に、下部電極43(第2電極)、中間電極44a(第1電極)、及び、上部電極45(第3電極)がそれぞれ形成されている。そして、上側の圧電層42の、中間電極44aと上部電極45に挟まれた部分が第1活性部R1となっている。一方、2枚の圧電層41、42の、上部電極45と下部電極43に挟まれ、平面視で第1活性部R1よりも外周の部分が第2活性部R2となっている。このような圧電アクチュエータ32は、下部電極43をグランド電位に保持するとともに、中間電極44aを所定の正の電位(例えば、20V程度)に保持した状態で、上部電極45の電位をグランド電位と上記正の電位とで選択的に切り替える。そして、電位を切り替えることにより第1活性部R1及び第2活性部R2を変形させる。
【0006】
このような構成における電源から圧電アクチュエータまでの電気的構成は、上述したような従来の電源から圧電アクチュエータまでの間の電気的構成に加えて、図10に示すように、駆動回路201の出力端子が第1活性部R1であるコンデンサ205の一端(上部電極45)に接続され、他端(中間電極44a)に電源200が直接接続された等価回路とみなすことができる。
【0007】
【特許文献1】特開2005−35018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、駆動回路などのICは、電源電圧が供給されて駆動する前に出力端子に対して高い電圧が印加されてしまうと、内部のトランジスタなどが破壊されてしまい、故障してしまうおそれがある。ここで、特願2008−094150に記載の圧電アクチュエータ32における、電源200から圧電アクチュエータ32までの電気的構成では、電源200から駆動回路201に電源電圧が供給された直後において、駆動回路201が駆動する前に、中間電極44aと上部電極45に挟まれた第1活性部R1であるコンデンサ205の充電が開始されて、コンデンサ205に瞬間的に電流が流れてしまうおそれがある。すると、駆動回路201の出力端子と接続された上部電極45の電位が瞬間的に高くなってしまい、その結果、上述したように駆動回路201が故障してしまうおそれがある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、電源から駆動回路に電源電圧が供給された直後の第1活性部の充電時における駆動回路の故障を防止した圧電アクチュエータの駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧電アクチュエータの駆動装置は、圧電層と、この圧電層に設けられた第1電極、第2電極、及び、第3電極を有し、前記第1電極には所定の第1電位が付与され、前記第2電極には前記第1電位よりも低い所定の第2電位が付与され、前記第3電極の電位は前記第1電位と前記第2電位との間で切り換えられ、前記第1電極と前記第3電極とに挟まれた圧電層部分からなり、両電極間の電位差によってコンデンサとして作用する第1活性部と、前記第2電極と前記第3電極の間に挟まれた圧電層部分からなり、前記第1活性部と同じくコンデンサとして作用する第2活性部とを備え、前記第3電極の電位を前記第1電位と前記第2電位の間で切り換える駆動回路と、前記駆動回路と電源とを接続する第1給電系統と、前記第1給電系統から分岐して、前記駆動回路を介さずに前記電源と前記第1電極とを接続し、前記第1電極に前記第1電位を付与する第2給電系統を有し、前記第2給電系統において、前記第1活性部に対して直列的に第1の抵抗器が設けられるとともに、前記第1活性部に対して並列的に第1のコンデンサが設けられている。
【0011】
本発明の圧電アクチュエータの駆動装置によると、コンデンサとして作用する第1活性部に対して充電を行う第2給電系統において、第1活性部と直列的に抵抗器、並列的にコンデンサを設けることで、第2給電系統のRC時定数を大きくして、第1電極へ付与される電圧の立ち上がりをなまらせて、第1活性部の充電速度を遅らせている。これにより、電源から第1給電系統を介して駆動回路に電源電圧が供給されてから、第1活性部がゆるやかに充電され始めることになり、駆動回路の駆動開始前に第3電極(駆動回路の出力端子)に高い電位が付与されることがない。したがって、電源から電源電圧を供給した直後の、駆動回路が駆動する前における第1活性部の充電による駆動回路の故障を防止することができる。なお、第1のコンデンサは、圧電アクチュエータの通常駆動時において、電源から第1電極に付与されている電位が第1活性部の充放電時に第1電位よりも低下するのを抑制するとともに、第1電極に第1電位以上の電位が付与されないようにする役割も有する。
【0012】
また、前記第1給電系統において、前記駆動回路に対して直列的に第2の抵抗器が設けられるとともに、前記駆動回路に対して並列的に第2のコンデンサが設けられていることが好ましい。これによると、第1給電系統においても、第2給電系統と同様に、駆動回路と直列的に抵抗器、並列的にコンデンサを設けることで、この第1給電系統のRC時定数を大きくして、駆動回路に電源から電源電圧が供給されるのを遅らせることができる。また、第1電極に接続される第2給電系統は、この第1給電系統から分岐しているため、第1給電系統の時定数の影響は第2給電系統にも及び、第1活性部の充電によって生じる、第3電極の電位の上昇は一層遅れることになる。なお、第2のコンデンサは、圧電アクチュエータの通常駆動時において、電源から駆動回路に付与されている電位が第1電位よりも低下するのを抑制するとともに、駆動回路に第1電位以上の電位が付与されないようにする役割も有する。
【発明の効果】
【0013】
第2給電系統のRC時定数を大きくして、第1電極へ付与される電圧の立ち上がりをなまらせて、第1活性部の充電速度を遅らせている。これにより、電源から第1給電系統を介して駆動回路に電源電圧が供給されてから、第1活性部がゆるやかに充電され始めることになり、駆動回路の駆動開始前に第3電極(駆動回路の出力端子)に高い電位が付与されることがない。したがって、電源から電源電圧を供給した直後の、駆動回路が駆動する前における第1活性部の充電による駆動回路の故障を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るプリンタの概略構成図である。
【図2】インクジェットヘッドの斜視図である。
【図3】インクジェットヘッドの平面図である。
【図4】(a)が図3の部分拡大図であり、(b)〜(d)が、(a)の振動板及び各圧電層の表面の図である。
【図5】図4(a)のV−V線断面図である。
【図6】図4(a)のVI−VI線断面図である。
【図7】圧電アクチュエータと制御基板との接続構成を概略的に示す図である。
【図8】制御基板から上部電極、中間電極及び下部電極までの等価回路図である。
【図9】従来における電源から2つの電極までの接続構成を概略的に示す図であり、(a)は概略構成図であり、(b)は等価回路図である。
【図10】従来における電源から上部電極、中間電極及び下部電極までの等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るプリンタの概略構成図である。図1に示すように、プリンタ1は、キャリッジ2、インクジェットヘッド3、搬送ローラ4、制御基板60(電源:図7参照)などを備えている。
【0016】
キャリッジ2は、走査方向(図1の左右方向)に往復移動する。インクジェットヘッド3は、キャリッジ2の下面に取り付けられており、その下面に形成されたノズル15(図3参照)からインクを吐出する。搬送ローラ4は、記録用紙Pを紙送り方向(図1の手前方向)に搬送する。そして、プリンタ1においては、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド3のノズル15から、記録用紙Pにインクが吐出されることにより、記録用紙Pに印刷が行われる。また、印刷が完了した記録用紙Pは、搬送ローラ4によって紙送り方向に排出される。
【0017】
次に、インクジェットヘッド3について詳細に説明する。図2は、図1のインクジェットヘッドの分解斜視図である。図3は、図2のインクジェットヘッドの平面図である。図4(a)は、図3の部分拡大図である。図4(b)〜(d)は、それぞれ、図4(a)における、後述する振動板40、下部圧電層41及び上部圧電層42の上面を示した図である。図5は、図4(a)のV−V線断面図である。図6は、図4(a)のVI−VI線断面図である。
【0018】
なお、図面を分かりやすくするため、図3、図4においては、後述する流路ユニット31の圧力室10及びノズル15除くインク流路の図示を省略し、図3においては、圧電アクチュエータ32の下部電極43及び中間電極44の図示を省略している。また、図4(a)においては、ともに点線で図示すべき下部電極43及び中間電極44を、それぞれ二点鎖線及び一点鎖線で図示している。さらに、図4(b)〜(d)においては、それぞれ、後述する下部電極43、中間電極44及び上部電極45にハッチングを付している。また、図6においては、流路ユニット31の圧力室10よりも下の部分の図示を省略している。
【0019】
図2〜図6に示すように、インクジェットヘッド3は、流路ユニット31と圧電アクチュエータ32と、を有している。インクジェットヘッド3の圧電アクチュエータ32の上面には、COF50が接続されている。流路ユニット31は、複数のプレート21〜27が互いに積層されることによって、インク供給口9からインクが供給されるマニホールド流路11、及び、マニホールド流路11の出口からアパーチャ流路12を経て圧力室10に至り、さらに、圧力室10からディセンダ流路14を経てノズル15に至る複数の個別インク流路を有するインク流路が形成されている。そして、後述するように、圧電アクチュエータ32により、圧力室10内のインクに圧力が付与されると、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
【0020】
複数の圧力室10は、走査方向(図3の左右方向)を長手方向とする略楕円形の平面形状を有しており、紙送り方向(図3の上下方向)に沿って配列されて1つの圧力室列8を構成しており、このような圧力室列8が、走査方向に2列に配列されることによって1つの圧力室群7を構成している。さらに、このような圧力室群7が走査方向に沿って5つ配列されている。ここで、1つの圧力室群7に含まれる2列の圧力室列8を構成する圧力室10同士は、紙送り方向に関して互いにずれて配置されている。また、複数のノズル15も、複数の圧力室10と同様に配置されている。
【0021】
そして、これら5つの圧力室群7のうち、図3の右側の2つを構成する圧力室10に対応するノズル15からはブラックのインクが吐出され、図3の左側の3つを構成する圧力室10に対応するノズル15からは、図3の右側に配列されているものから順に、イエロー、シアン、マゼンタのインクが吐出される。なお、インク流路の他の部分の構成については、従来のものと同様であるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
【0022】
圧電アクチュエータ32は、振動板40及び下部圧電層41、上部圧電層42、下部電極43(第2電極)、中間電極44(第1電極)、上部電極45(第3電極)を有している。振動板40は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなり、複数の圧力室10を覆うように、流路ユニット31の上面に配置されている。また、振動板40の厚みは20μm程度となっている。なお、この振動板40は必ずしも圧電材料からなる必要はない。
【0023】
下部圧電層41及び上部圧電層42は、振動板40と同様の圧電材料からなり、互いに積層されて振動板40の上面に配置されている。また、下部圧電層41及び上部圧電層42の厚みは、それぞれ20μm程度となっている。
【0024】
下部電極43は、振動板40の上面に形成され、振動板40と下部圧電層41との間に配置されており、各圧力室群7に対応して、各圧力室群7を構成する2列の圧力室列8に沿って紙送り方向に延びており、これら2列の圧力室列8を構成する複数の圧力室10と対向している。また、図示しないが、上記紙送り方向に延びた部分同士は互いに接続されている。また、下部電極43には、COMが入力されており、常にグランド電位(第2電位)に保持されている。
【0025】
中間電極44は、下部圧電層41の上面に形成され、下部圧電層41と上部圧電層42との間に配置されており、圧力室群7毎に、それぞれ、複数の対向部44a及び接続部44b、44cを有している。複数の対向部44aは、紙送り方向に関する長さが圧力室10よりも短い略矩形の平面形状を有しており、複数の圧力室10の中央部分と対向するように配置されている。
【0026】
接続部44bは、紙送り方向に延びて、各圧力室群7を構成する2列の圧力室列8のうち、図4の右側に配置された圧力室列8を構成する複数の圧力室10に対応する複数の対向部44aの図4右側の端同士を接続している。接続部44cは、紙送り方向に延びて、各圧力室群7を構成する2列の圧力室列8のうち、図4の左側に配置された圧力室列8を構成する複数の圧力室10に対応する複数の対向部44aの図4左側の端同士を接続している。また、中間電極44には、VDD2が入力されており、常にグランド電位とは異なる所定の駆動電位(例えば、20V程度:第1電位)に保持されている。
【0027】
複数の上部電極45は、上部圧電層42の上面(下部圧電層41と反対側の面)に形成され、複数の圧力室10に対応して、複数の圧力室10のほぼ全域と対向するように配置されており、紙送り方向に関する長さが中間電極44の対向部44aよりも長い、略矩形の平面形状を有している。また、上部電極45は、走査方向に関するノズル15と反対側の端における一部分が、走査方向に圧力室10と対向しない部分まで延びており、この部分がCOF50に接続される接続端子45aとなっている。また、上部電極45には、後述する駆動回路61からグランド電位と上記所定の駆動電位(例えば、20V)のいずれかの電位が選択的に付与される。
【0028】
そして、このように下部電極43、中間電極44及び上部電極45が配置されることにより、上部圧電層42における圧力室10の中央部分と対向する部分において、上部電極45と中間電極44とが対向することとなる。そして、中間電極44から上部電極45に向かって上向きに分極されていることで、この領域は第1活性部R1となっている。
【0029】
さらに、上部圧電層42及び下部圧電層41における圧力室10と対向する部分のうち、中間電極44と対向する部分よりも外周の部分(中間電極44と対向しない部分)において上部電極45と下部電極43とが対向することとなる。そして、上部電極45から下部電極43に向かって下向きに分極されていることで、この領域は、第2活性部R2となっている。
【0030】
なお、下部圧電層41のうち、中間電極44と下部電極43とに挟まれた部分は、中間電極44から下部電極43に向かって下向きに分極されている。
【0031】
ここで、圧電アクチュエータ32の動作について説明する。まず、圧電アクチュエータ32がインクを吐出させる動作を行う前の待機状態においては、前述したように、下部電極43及び中間電極44が、それぞれ、常にグランド電位及び上記所定の駆動電位(例えば、20V)に保持されているとともに、上部電極45の電位が予めグランド電位に保持されている。この状態では、上部電極45が中間電極44よりも低電位になっているとともに、下部電極43と同電位となっている。
【0032】
これにより、上部電極45と中間電極44との間の電位差が生じ、第1活性部R1にはその分極方向と同じ上向きの電界が発生し、第1活性部R1がこの電界と直交する水平方向に収縮する。これにより、いわゆるユニモルフ変形が生じ、上部圧電層42、下部圧電層41及び振動板40の圧力室10と対向する部分が全体として圧力室10に向かって凸となるように変形する。この状態では、上部圧電層42、下部圧電層41及び振動板40が変形していない場合と比較して、圧力室10の容積が小さくなっている。
【0033】
そして、インクを吐出させるべく圧電アクチュエータ32を駆動させる際には、上部電極45の電位を、一旦、上記所定の駆動電位に切り替えた後、グランド電位に戻す。上部電極45の電位を上記所定の駆動電位に切り替えると、上部電極45が中間電極44と同電位となるとともに、下部電極43よりも高電位となる。これにより、第1活性部R1の上記収縮が元に戻る。そして、これと同時に、上部電極45と下部電極43との間に電位差が生じ、第2活性部R2にはその分極方向と同じ下向きの電界が発生し、第2活性部R2が水平方向に収縮する。これにより、上部圧電層42、下部圧電層41及び振動板40が全体として、圧力室10と反対側に凸となるように変形し、圧力室10の容積が増加する。
【0034】
この後、上部電極45の電位をグランド電位に戻すと、前述したのと同様に、上部圧電層42、下部圧電層41及び振動板40の圧力室10と対向する部分が全体として圧力室10に向かって凸となるように変形し、圧力室10の容積が小さくなる。これにより、圧力室10内のインクの圧力が上昇し(圧力室10内のインクに圧力が付与され)、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
【0035】
また、上述したようにして圧電アクチュエータ32を駆動させる場合、上部電極45の電位をグランド電位から所定の駆動電位に切り替えたときには、第1活性部R1が収縮した状態から収縮前の状態に伸長すると同時に、第2活性部R2が収縮するため、第1活性部R1の伸長が第2活性部R2の収縮に一部吸収される。一方、上部電極45の電位を所定の駆動電位からグランド電位に戻したときには、第1活性部R1が収縮するとともに、第2活性部R2が収縮前の状態まで伸長するため、第1活性部R1の収縮が第2活性部R2の伸長によって一部吸収される。
【0036】
以上のことから、下部圧電層41及び上部圧電層42の圧力室10と対向する部分の変形が、他の圧力室10と対向する部分に伝達して当該他の圧力室10に連通するノズル15からのインクの吐出特性が変動してしまう、いわゆるクロストークが抑制される。
【0037】
なお、上述した待機状態及び圧電アクチュエータ32が駆動されている間においては、下部圧電層41の中間電極44と下部電極43との間の部分には常に電位差が生じており、下部圧電層41のこの部分には、その分極方向と同じ方向の電界が発生している。これにより、下部圧電層41のこの部分は電界方向に垂直な方向に常に収縮した状態となっている。
【0038】
次に、インクジェットヘッド3の圧電アクチュエータ32と、プリンタ1の制御基板60との接続構成について説明する。図7は、圧電アクチュエータと制御基板との接続構成を概略的に示す図である。圧電アクチュエータ32に接続されたCOF50には、圧電アクチュエータ32を駆動する2つのドライバIC51a、51bが実装されている。また、COF50は、フレキシブルプリント基板(FPC)102、キャリッジ基板104及びフラットケーブル(FFC)106を介して制御基板60に電気的に接続されている。各ドライバIC51a、51b内には、駆動回路61がそれぞれ設けられており、駆動回路61の複数の出力端子が、圧電アクチュエータ32の複数の上部電極45にそれぞれ接続されている。
【0039】
そして、ドライバIC51a、51bは、FPC102、キャリッジ基板104及びFFC106を介して制御基板60から入力された信号に基づき、COF50上の配線を介して、駆動回路61から複数の上部電極45に対して、所定の駆動電位とグランド電位のうち、いずれか一方の電位を選択的に付与する。なお、COF50に実装された各ドライバIC51a、51bは、それぞれ、圧電アクチュエータ32の全ての上部電極45のうち、予め対応付けられた半数の上部電極45に対して電位を付与するように構成されている。
【0040】
ここで、制御基板60からドライバIC51へ入力される各種入力信号について簡単に説明する。VDD1は、ドライバIC51を駆動するための制御用の低圧電源(例えば、3.3V)の電圧入力、VDD2は、圧電アクチュエータ32駆動用の高圧電源(例えば、20V)の電圧入力、COMは、下部電極43用のグランド入力、CLKは、制御基板60からドライバIC51a、51bへのデータ転送用クロックをそれぞれ示している。また、FIRE1〜6は、1つのノズル15に対して、液滴を噴射しない、及び、5種類の液滴噴射サイズ(液滴体積)の計6種類の噴射態様のそれぞれ対応した6種類の駆動波形データ、SINA_1〜3、SINB_1〜3は、ドライバIC51a、51bごとに1つのノズル15の各々の噴射タイミングに6種類の噴射態様のうち1つを対応づけるための3ビットの選択データのシリアル入力である。
【0041】
また、VDD2が入力される配線は、FPC102上で分岐して、VDD2と同じ電位のVCOMが入力される配線となっており、このVCOMはドライバIC51a、51bを介さずに中間電極44へ直接入力される信号である。なお、制御基板60からドライバIC51a、52bの駆動回路61までのVDD2が入力される配線を第1給電系統70とし、VDD2が入力される配線(第1給電系統70)から分岐して、VCOMが入力される配線を第2給電系統71とする(図8参照)。
【0042】
次に、制御基板60から上部電極45、中間電極44a及び下部電極43までの等価回路について説明する。なお、本実施形態における制御基板60から上部電極45、中間電極44a及び下部電極43までの間の、駆動電位やグランド電位が供給される配線や基板、具体的にはCOF50、ドライバIC51、駆動回路61、FPC102、キャリッジ基板104及びFFC106が、本発明における駆動装置に相当する。図8は、制御基板から上部電極、中間電極及び下部電極までの等価回路図である。図8に示すように、上部電極45と中間電極44aに挟まれ、分極された上部圧電層42の駆動領域である第1活性部R1は、充放電を行うコンデンサ81とみなすことができる。また、上部電極45と下部電極43に挟まれ、分極された下部圧電層41の駆動領域である第2活性部R2は、充放電を行うコンデンサ82とみなすことができる。
【0043】
そして、駆動回路61は、VDD2が入力される第1給電系統70と接続されており、制御基板60から駆動電位が付与される(電源電圧が供給される)。コンデンサ81の一端側である中間電極44aは、第1給電系統70から分岐した第2給電系統71と接続されており、制御基板60から直接駆動電位が付与される。コンデンサ82の一端側である下部電極43は、グランドに接続されている。コンデンサ81、82それぞれの他端側である上部電極45は、駆動回路61の出力端子に接続されている。
【0044】
このような回路構成により、制御基板60からVDD2及びCOMが入力されることで、中間電極44aに所定の駆動電位、及び、下部電極43にグランド電位が直接付与される。また、制御基板60から電源電圧が入力されることで、駆動回路61は駆動し、この駆動回路61から上部電極45に所定の駆動電位とグランド電位のうち、いずれか一方の電位を選択的に付与可能となる。
【0045】
ここで、一般的に、駆動回路61などのICは、電源電圧が供給されて駆動する前に出力端子に対して高い電圧が印加されてしまうと、内部のトランジスタなどが破壊されてしまい、故障してしまうおそれがある。図8に示すような等価回路において、仮に、後述する抵抗器83及びコンデンサ84が接続されていないとすると、制御基板60から駆動回路61に電源電圧が供給された直後において、駆動回路61が駆動する前に、中間電極44と上部電極45に挟まれたコンデンサ81の充電が開始されて、コンデンサ81に瞬間的に電流が流れてしまうおそれがある。すると、駆動回路61の出力端子と接続された上部電極45の電位が瞬間的に高くなってしまい、その結果、上述したように駆動回路61が故障してしまうおそれがある。
【0046】
そこで、本実施形態では、第2給電系統71において、コンデンサ81に対して直列的に抵抗器83(第1の抵抗器)を接続しているとともに、コンデンサ81に対して並列的にコンデンサ84(第2のコンデンサ)を接続している。このように、第2給電系統71においてRC回路を構成することで、時定数を大きくして、中間電極44aに付与される電圧の立ち上がりをなまらせて、コンデンサ81の充電速度を遅らせている。具体的には、抵抗器83及びコンデンサ84は、COF50上に設けられる(図7参照)。
【0047】
これにより、制御基板60から第1給電系統70を介して駆動回路61に電源電圧が確実に供給されてから、コンデンサ81がゆるやかに充電され始めることになり、駆動回路61の駆動開始前に上部電極45(駆動回路61の出力端子)に高い電位が付与されることがない。その結果、制御基板60から電源電圧を供給した直後の、駆動回路61が駆動する前におけるコンデンサ81の充電による駆動回路61の故障を防止することができる。なお、コンデンサ84は、圧電アクチュエータ32の通常駆動時における、制御基板60から中間電極44aに付与されている電位がコンデンサ81の充放電時の所定の駆動電位よりも低下するのを抑制するとともに、中間電極44aに所定の駆動電位以上の電位が付与されないようにする役割も有する。
【0048】
さらに、本実施形態では、第1給電系統70において、駆動回路61に対して直列的に抵抗器85(第2の抵抗器)を接続しているとともに、駆動回路61に対して並列的にコンデンサ86(第2のコンデンサ)を接続している。具体的には、抵抗器85及びコンデンサ86は、FFC106上に設けられる(図7参照)。
【0049】
このように、第1給電系統70においても、第2給電系統71と同様に、駆動回路61と直列的に抵抗器85、並列的にコンデンサ86を設けて、この第1給電系統70においてRC回路を構成することで、時定数を大きくして、駆動回路61に制御基板60から電源電圧が供給されるのを遅らせることができる。また、中間電極44aに接続される第2給電系統71は、この第1給電系統70から分岐しているため、第1給電系統70の時定数の影響は第2給電系統71にも及び、コンデンサ81の充電によって生じる、上部電極45の電位の上昇は一層遅れることになる。なお、コンデンサ86は、圧電アクチュエータ32の通常駆動時における、制御基板60から駆動回路61に付与される電位が所定の駆動電圧よりも低下するのを抑制するとともに、駆動回路61に所定の駆動電位以上の電圧が印加されないようにする役割も有する。
【0050】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0051】
本実施形態においては、抵抗器83はCOF50上に設けられていたが、第2給電系統71、すなわちVCOMが入力される配線上であれば、いかなる位置に設けられてもよい。また、コンデンサ84はCOF50上に設けられていたが、第2給電系統71、すなわちVCOMが入力される配線とCOMが入力される配線との間であれば、いかなる位置に設けられてもよい。また、抵抗器85はFFC106上に設けられていたが、第1給電系統70、すなわちVDD2が入力される配線上であれば、例えば、キャリッジ基板104やFPC102などいかなる位置に設けられてもよい。また、コンデンサ86はFFC106上に設けられていたが、第1給電系統70、すなわちVCOMが入力される配線とCOMが入力される配線との間であれば、例えば、キャリッジ基板104やFPC102などいかなる位置に設けられてもよい。
【0052】
また、抵抗器83、85は、抵抗素子ではなく、配線の長さや幅による抵抗成分であってもよい。例えば、抵抗器の抵抗値を大きくしたい場合には、配線の長さを長くしたり、幅を細くしたりする。これによると、抵抗素子を配置するスペースが必要なくなり、省スペース化を図ることができる。
【0053】
さらに、本実施形態においては、第1給電系統70において、駆動回路61に対して直列的に抵抗器85を接続しているとともに、駆動回路61に対して並列的にコンデンサ86を接続していたが、圧電アクチュエータ32の通常駆動時における、制御基板60から中間電極44aに付与されている電位がコンデンサ81の充放電時の所定の駆動電位よりも低下するのを抑制するとともに、中間電極44aに所定の駆動電位以上の電位が付与されないようにする役割だけを果たすためであれば、抵抗器85を設けずに、コンデンサ86だけ設けられてもよい。
【0054】
また、本実施形態においては、圧電層を2つの電極で厚み方向に挟んで活性部が構成されていたが、圧電層の面方向に2つの電極が離間して配置され、この2つの電極間を活性部としてもよい。このとき、活性部は電極の対向する方向(圧電層の面方向)に分極させる。
【0055】
以上、説明した実施形態及びその変更形態では、本発明を、記録用紙にインクを噴射して画像などを記録するインクジェットヘッド用の圧電アクチュエータの駆動装置に適用したが、本発明の適用対象は、このようなインクジェットヘッド用の圧電アクチュエータに限られず、様々な用途に使用される圧電アクチュエータの駆動装置に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 プリンタ
3 インクジェットヘッド
32 圧電アクチュエータ
40 振動板
41、42 圧電層
45 上部電極
44 中間電極
43 下部電極
60 制御基板
61 駆動回路
70 第1給電系統
71 第2給電系統
81、82、84、86 コンデンサ
83、85 抵抗器
R1 第1活性部
R2 第2活性部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層と、この圧電層に設けられた第1電極、第2電極、及び、第3電極を有し、
前記第1電極には所定の第1電位が付与され、前記第2電極には前記第1電位よりも低い所定の第2電位が付与され、前記第3電極の電位は前記第1電位と前記第2電位との間で切り換えられ、
前記第1電極と前記第3電極とに挟まれた圧電層部分からなり、両電極間の電位差によってコンデンサとして作用する第1活性部と、前記第2電極と前記第3電極の間に挟まれた圧電層部分からなり、前記第1活性部と同じくコンデンサとして作用する第2活性部とを備え、
前記第3電極の電位を前記第1電位と前記第2電位の間で切り換える駆動回路と、
前記駆動回路と電源とを接続する第1給電系統と、
前記第1給電系統から分岐して、前記駆動回路を介さずに前記電源と前記第1電極とを接続し、前記第1電極に前記第1電位を付与する第2給電系統を有し、
前記第2給電系統において、前記第1活性部に対して直列的に第1の抵抗器が設けられるとともに、前記第1活性部に対して並列的に第1のコンデンサが設けられていることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動装置。
【請求項2】
前記第1給電系統において、前記駆動回路に対して直列的に第2の抵抗器が設けられるとともに、前記駆動回路に対して並列的に第2のコンデンサが設けられていることを特徴とする圧電アクチュエータの駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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