圧電モーター、液体噴射装置及び時計
【課題】コストが高騰することなく、長期間の駆動を行っても回転特性の低下を抑制することができる圧電モーター、液体噴射装置及び時計を提供する。
【解決手段】圧電体層と該圧電体層を挟んで両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極60とを有する圧電素子と、該圧電素子が固定された振動部材と、を有する圧電アクチュエーター10と、前記振動部材の端面が当接されて回転駆動する回転軸3と、前記圧電アクチュエーター10を前記回転軸側に向かって付勢する付勢手段と、を具備する圧電モーターであって、前記圧電素子に駆動信号を印加すると共に、前記駆動信号の電圧をオフセットする制御部300を有する。
【解決手段】圧電体層と該圧電体層を挟んで両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極60とを有する圧電素子と、該圧電素子が固定された振動部材と、を有する圧電アクチュエーター10と、前記振動部材の端面が当接されて回転駆動する回転軸3と、前記圧電アクチュエーター10を前記回転軸側に向かって付勢する付勢手段と、を具備する圧電モーターであって、前記圧電素子に駆動信号を印加すると共に、前記駆動信号の電圧をオフセットする制御部300を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子によって被駆動部を駆動する圧電モーター、圧電モーターを用いた液体噴射装置及び圧電モーターを用いた時計に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電モーターは、圧電素子を具備する圧電アクチュエーターによって回転軸を回転駆動させるものである。ここで、圧電モーターに用いられる圧電アクチュエーターは、振動部材と、振動部材の一方面又は両面側に保持された圧電素子とを具備する。圧電素子は、振動部材側に設けられた第1電極と、圧電体層と第1電極とは反対側に設けられた第2電極とで構成されている。
【0003】
このような圧電アクチュエーターでは、圧電素子の第1電極と第2電極との間に電圧を印加し、圧電素子を振動部材の面内方向において縦振動及び屈曲振動させることで、振動部材の端部を面内で回転駆動させる。そして、圧電アクチュエーターを付勢ばねによって回転軸に向かって付勢しながら、振動部材の端部を回転軸に当接させることで回転軸を回転させる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−267482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、振動部材の端部と回転軸との間の当接時の摩擦によって、回転軸が摩耗し、摩耗によって圧電アクチュエーターと回転軸との距離が離れ、付勢ばねの付勢力が弱まって回転軸のトルクや回転数が低下してしまうという問題がある。
【0006】
また、回転軸の摩耗量に基づいて、付勢ばねの付勢力を調整する調整手段を設けることも考えられるものの、調整手段を設けると装置が大型化してしまうと共にコストが高騰してしまうという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、コストが高騰することなく、長期間の駆動を行っても回転特性の低下を抑制することができる圧電モーター、液体噴射装置及び時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、圧電体層と該圧電体層を挟んで両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極とを有する圧電素子と、該圧電素子が固定された振動部材と、を有する圧電アクチュエーターと、前記振動部材の端面が当接されて回転駆動する回転軸と、前記圧電アクチュエーターを前記回転軸側に向かって付勢する付勢手段と、を具備する圧電モーターであって、前記圧電素子に駆動信号を印加すると共に、前記駆動信号の電圧をオフセットする制御部を有することを特徴とする圧電モーターにある。
【0009】
かかる態様では、圧電素子を駆動する駆動信号の電圧をオフセットすることで、駆動信号を示す駆動波形の電圧を正方向又は負方向にシフトさせることができ、圧電素子をオフセット前に比べて伸張又は収縮させて、反らせた状態で駆動することができる。これにより、振動部材が回転軸に当接する領域をずらすことができ、回転軸の局所的な摩耗の進行を抑制することができる。これにより、付勢力を機械的に調整する大がかりな調整手段等が不要となり、低コストで長期間の駆動に耐久性を有する圧電モーターを実現できる。
【0010】
ここで、前記振動部材には、両面にそれぞれ前記圧電素子が設けられていると共に、前記制御部は、前記振動部材の一方面に設けられた前記圧電素子と、前記振動板の他方面に設けられた前記圧電素子とに、互いに異なる電圧でオフセットした前記駆動信号を印加することが好ましい。これによれば、圧電アクチュエーターを圧電素子と振動部材の積層方向で容易に且つ確実に反らせることができる。
【0011】
また、前記制御部は、前記振動部材の一方面に設けられた前記圧電素子と、前記振動板の他方面に設けられた前記圧電素子とに、互いに逆符号となる同じ電圧でオフセットした前記駆動信号を印加することが好ましい。これによれば、オフセット前の駆動信号で駆動した圧電アクチュエーターと同じ寸法で反らせて駆動することができ、回転特性を均一に保つことができる。
【0012】
また、前記振動部材の端面が、前記回転軸の外周面に当接するように配置されていることが好ましい。これによれば、圧電アクチュエーターが外周面に当接することによって、圧電アクチュエーターの反りにより回転特性が変化するのを抑制できる。
【0013】
また、前記振動部材の端面が、前記回転軸の軸方向端面に当接するように配置されていてもよい。これによれば、圧電アクチュエーターが端面に当接することで、圧電アクチュエーターの反りにより回転数やトルクなどの回転特性を可変させることができる。
【0014】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の圧電モーターを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、低コスト化、小型化及び長寿命化した液体噴射装置を実現できる。
【0015】
ここで、前記圧電モーターが、液体が噴射される被噴射媒体を搬送する給紙手段として用いられることが好ましい。これによれば、特に小型化及び長寿命化した液体噴射装置を実現できる。
【0016】
また、本発明の他の態様は、上記態様の圧電モーターを具備することを特徴とする時計にある。かかる態様では、低コスト化、小型化及び長寿命化した時計を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係る圧電モーターの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る圧電モーターの平面図である。
【図3】実施形態1に係る圧電モーターの断面図である。
【図4】実施形態1に係る制御系を示す概略図である。
【図5】実施形態1に係る制御系を示す概略図である。
【図6】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【図7】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの動作を示す平面図である。
【図8】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの動作を示す平面図である。
【図9】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【図10】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【図11】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【図12】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの動作を示す断面図である。
【図13】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの動作を示す断面図である。
【図14】実施形態2に係る圧電モーターの平面図である。
【図15】一実施形態に係る記録装置の概略斜視図である。
【図16】一実施形態に係る記録装置の要部拡大平面図である。
【図17】一実施形態に係る時計の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る圧電モーターの分解斜視図であり、図2は、圧電モーターの平面図であり、図3は、図2のA−A′断面図である。
【0019】
図示するように、本実施形態の圧電モーター1を構成する圧電アクチュエーター10は、振動部材20と、振動部材20の両面にそれぞれ接着された圧電素子30とを具備する。
【0020】
振動部材20の両面にそれぞれ設けられた圧電素子30は、圧電体層40と、圧電体層40の振動部材20側に設けられた第1電極50と、圧電体層40の第1電極50とは反対側に設けられた第2電極60と、を有する。
【0021】
圧電体層40は、電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物からなる。圧電体層40としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。もちろん、本実施形態の圧電体層40は、上記した材料に限定されるものではないが、優れた電気機械変換作用を有する圧電体層40として、鉛を含有するものが挙げられる。
【0022】
第1電極50は、圧電体層40の振動部材20側の面に亘って連続して設けられて、圧電素子30の共通電極となっている。
【0023】
第2電極60は、圧電体層40の第1電極50とは反対側に設けられており、溝部70によって互いに電気的に隔離されて面内方向で複数に分割されている。
【0024】
第2電極60を分割する溝部70は、圧電素子30の幅(短手方向)をほぼ三等分するように形成された第1溝部71と、第1溝部71によって分割された3つの電極のうち短手方向両側の電極を長手方向でほぼ二等分するように形成された第2溝部72とからなる。第2電極60は、これら第1溝部71及び第2溝部72からなる溝部70によって、短手方向中央部に長手方向に亘って設けられた縦振動用電極部61と、この縦振動用電極部61の短手方向両側に、縦振動用電極部61を挟んで対角となるように配置されて対をなす2組の屈曲振動用電極部62、63との合計5つに分割されている。ここで、圧電素子30は、第2電極60の縦振動用電極部61が設けられた領域が、圧電素子30の長手方向の縦振動を励起する縦振動励起領域41となっている。これに対して、縦振動励起領域41の短手方向両側の屈曲振動用電極部62、63が設けられた領域が、それぞれ圧電素子30の短手方向に屈曲振動を励起する屈曲振動励起領域42、43となっている。このため、第2電極60は、分割されて各領域を個別に駆動するための個別電極として機能する。
【0025】
このような圧電素子30は、第1電極50側が振動部材20に接合されている。ここで、振動部材20は、ステンレス鋼(SUS)等の金属や樹脂材料で形成された板状部材からなる。本実施形態では、振動部材20を導電性を有するステンレス鋼で形成し、2つの圧電素子30の第1電極50同士は、振動部材20を介して電気的に導通される。ちなみに、第1電極50と振動部材20とを絶縁性の接着剤で接着したとしても、第1電極50と振動部材20とを互いに押圧した状態で接着することで両者を互いに電気的に導通することができる。すなわち、本実施形態の振動部材20は、2つの圧電素子30の第1電極50同士を導通させる共通電極としても機能する。
【0026】
また、図1に示すように、振動部材20は、上述のように圧電素子30の第1電極50側と同じ表面形状を有すると共に、長手方向の一端部側に圧電素子30よりも突出するように延設された当接部21が設けられている。また、振動部材20の圧電素子30の長手方向中央部には、圧電素子30の短手方向両側に向かって延設された一対の腕部22を有する。この腕部22には、厚さ方向に貫通する貫通孔23が設けられており、貫通孔23を挿通させたねじ部材86を介して詳しくは後述する保持部材81に固定される。すなわち、圧電アクチュエーター10は、振動部材20の腕部22が保持部材81に固定されることで、圧電素子30は保持部材81に対して腕部22を基点として縦振動及び屈曲振動が可能となるように保持される。
【0027】
一方、圧電モーター1には、装置本体2に軸を中心として回転自在となる回転軸3が設けられている。そして、この回転軸3に圧電アクチュエーター10の楕円軌道を描くように回転駆動される当接部21を当接させることで、回転軸3は回転される。本実施形態では、圧電アクチュエーター10の当接部21が楕円軌道を描く回転方向が、回転軸3の回転方向となるように、当接部21が回転軸3の周方向の表面に当接するようにした。もちろん、当接部21が、回転軸3の端面に当接するようにしてもよい。
【0028】
また、圧電モーター1には、圧電アクチュエーター10を回転軸3方向に向かって所定の圧力で押圧する付勢手段80が設けられている。
【0029】
付勢手段80は、圧電アクチュエーター10を保持する保持部材81と、保持部材81に一端が固定されたコイルばね等のばね部材82と、ばね部材82の他端に当接すると共に装置本体2に固定された支持ピン83とを具備する。
【0030】
保持部材81は、圧電アクチュエーター10の腕部22が固定される一対の固定部84と、固定部84の間に一体的に設けられて装置本体2に対してスライド移動可能に支持されるスライド部85とを具備する。固定部84には、腕部22の貫通孔23に対応して、ねじ部材86が螺合される雌ねじ部87が形成されている。この雌ねじ部87に腕部22の貫通孔23を挿通したねじ部材86を螺合させることで、圧電アクチュエーター10は保持部材81に保持される。
【0031】
スライド部85には、厚さ方向に貫通し、且つスライド方向に延設された長孔である2つのスライド孔88が設けられている。そして、各スライド孔88に挿通されて装置本体2に固定されたスライドピン89によってスライド部85は装置本体2に対してスライド移動可能に支持されている。
【0032】
ばね部材82は、コイルばねからなり、固定部84に一端が固定されると共に、装置本体2に固定された支持ピン83の側面に他端が当接するように配置されている。また、ばね部材82は、スライド部85のスライド方向に沿って配置されている。このような、ばね部材82は、圧電アクチュエーター10を装置本体2に対して回転軸3に向かって付勢する。
【0033】
なお、本実施形態では、ばね部材82としてコイルばねを用いたが、ばね部材82は特にこれに限定されず、例えば、板ばね等を用いるようにしてもよい。
【0034】
このような付勢手段80によって、圧電アクチュエーター10は、圧電素子30の長手方向(縦振動方向)が回転軸3の軸中心となるように、所定の圧力で回転軸3に押圧される。すなわち、本実施形態の圧電アクチュエーター10は、圧電素子30の長手方向が回転軸3の径方向になるように配置され、回転軸3の径方向に向かってスライド移動可能に設けられている。したがって、圧電アクチュエーター10は、圧電素子30の長手方向が回転軸3の径方向となるように押圧される。
【0035】
そして、上述のように、付勢手段80によって圧電アクチュエーター10の当接部21を回転軸3に押圧しながら、圧電素子30に縦振動及び屈曲振動を交互に行わせて当接部21を楕円軌道を描くように回転駆動することで、回転軸3を回転駆動することができる。
【0036】
ここで、本実施形態の圧電モーター1の制御系について図4〜図6を参照して説明する。なお、図4及び図5は、圧電モーターの制御系を示すブロック図であり、図6は、駆動信号を示す駆動波形である。
【0037】
本実施形態の駆動信号を示す駆動波形は、共通電極である第1電極50を基準電位(本実施形態では0V)として、個別電極である第2電極60に印加されるものである。
【0038】
図4に示すように、駆動信号を生成する制御部300は、所定の周波数の駆動信号を生成する信号発生装置301と、ドライバー回路302とを具備する。信号発生装置301が生成する駆動信号としては、本実施形態では、交番電圧からなるアナログ信号や、矩形波のデジタル信号を用いることができる。本実施形態の信号発生装置301が生成する駆動信号は、図6に示すように、基準となる駆動信号400である。
【0039】
また、ドライバー回路302は、信号発生装置301が生成した基準となる駆動信号400を移相する移相器303と、移相器303が生成した駆動信号を反転させる位相反転手段304と、各駆動信号をオフセットするオフセット手段305とを具備する。
【0040】
信号発生装置301が生成した駆動信号400は、オフセット手段によって電圧がオフセットされて圧電素子30の縦振動用電極部61に印加される。すなわち、信号発生装置301が生成した駆動信号400は、圧電素子30の縦振動に用いられる縦振動用駆動信号400として利用される。
【0041】
移相器303は、信号発生装置301から出力された駆動信号400の位相を90度遅らせる機能を有する。具体的には、移相器303は、圧電アクチュエーター10に縦振動を行わせる基準となる駆動信号400に対し、図6に示すように、位相が90度遅れた屈曲振動を行わせる駆動信号である第1屈曲振動用駆動信号401を生成する。移相器303によって生成された第1屈曲振動用駆動信号401は、圧電素子30の第1屈曲振動用電極部62に印加される。
【0042】
また、移相器303によって90度位相が遅れた第1屈曲振動用駆動信号401は、位相反転手段304に入力される。位相反転手段304は、例えば、インバーター回路等で構成され、図6に示すように、移相器303からの第1屈曲振動用駆動信号401に対して位相が180度反転した屈曲振動用の駆動信号である第2屈曲振動用駆動信号402を生成する。位相反転手段304によって生成された第2屈曲振動用駆動信号402は、第2屈曲振動用電極部63に印加される。
【0043】
すなわち、基本的には、圧電素子30の縦振動用電極部61には、基準となる駆動信号400が縦振動用駆動信号400として印加され、第1屈曲振動用電極部62には、縦振動用駆動信号400に対して90度位相を遅らせた第1屈曲振動用駆動信号401が印加される。また、圧電素子30の第2屈曲振動用電極部63には、第1屈曲振動用駆動信号401に対して180度反転した第2屈曲振動用駆動信号402が印加される。
【0044】
ここで、このような制御部300によって駆動される圧電アクチュエーター10の基本動作について説明する。なお、図7及び図8は、圧電アクチュエーターの動作を示す平面図である。
【0045】
制御部300から出力された縦振動用駆動信号400が圧電素子30の縦振動用電極部61に供給されると、図7(a)に示すように、圧電アクチュエーター10は振動部材20の面方向において、縦振動励起領域41が縦方向(長手方向)に伸張・収縮して、長手方向に縦振動する。
【0046】
また、制御部300から出力された互いに位相が反転する第1屈曲振動用駆動信号401及び第2屈曲振動用駆動信号402が、圧電素子30の第1屈曲振動用電極部62及び第2屈曲振動用電極部63にそれぞれ供給されると、屈曲振動励起領域42、43が伸張・収縮して、圧電アクチュエーター10は屈曲駆動する。具体的には、圧電素子30の短手方向で対角となる一方の組の屈曲振動励起領域42を伸張させると同時に対角となる他方の一対の屈曲振動励起領域43を収縮させる。これにより、図7(b)に示すように圧電素子30をS字状に変形させる。また、伸張していた屈曲振動励起領域42を収縮させると同時に収縮していた屈曲振動励起領域43を伸張させることで、図7(c)に示すように、圧電素子30を逆S字状に屈曲させる。この図7(b)及び図7(c)に示す屈曲変形を交互に繰り返させることで、圧電アクチュエーター10はS字状及び逆S字状を交互に繰り返す屈曲振動する。
【0047】
そして、上述のように、縦振動用駆動信号400に対して、第1屈曲振動用駆動信号401及び第2屈曲振動用駆動信号402は、位相が90度遅れているため、圧電アクチュエーター10の長手方向一端部に設けられた当接部21は、図8に示すように、楕円軌道を描くように回転駆動する。具体的には、圧電素子30に、縦方向(長手方向)の伸張、S字状の屈曲、縦方向の収縮、逆S字状の屈曲の変形を順次繰り返し行わせることで、当接部21を振動部材20の面内において時計方向に楕円軌道を描くように回転駆動することができる。
【0048】
また、圧電素子30に変形を行わせる際に、屈曲の順番を入れ替えることで、当接部21を振動部材20の面内において反時計方向に楕円軌道を描くように回転駆動することができる。すなわち、縦振動用駆動信号400に対して、第1屈曲振動用駆動信号401及び第2屈曲振動用駆動信号402の位相を90度進めるようにすればよい。これは、例えば、図4に示すように、移相器303に、切換信号を出力する正逆切換信号源306を接続し、正逆切換信号源306からの切換信号により移相器303が屈曲振動用の駆動信号として、縦振動用の駆動信号の位相を90度進めたものを生成するようにすればよい。このように、屈曲振動の駆動信号を、縦振動用の駆動信号に対して+90度または−90度位相をずらすことにより、当接部21が描く楕円軌道の方向を正逆反転させることができる。これにより回転軸3の回転方向を制御することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、振動部材20の両面にそれぞれ圧電素子30が設けられているが、2つの圧電素子30の各縦振動励起領域41及び屈曲振動励起領域42、43は、圧電アクチュエーター10を一方の圧電素子30の第2電極60側から平面視した際に重なるように配置されており、平面視した際に重なる領域において同じ方向の伸張・収縮を行わせることで、振動部材20は面内方向に変形する。
【0050】
一方、図4及び図5に戻り、制御部300を構成するオフセット手段305についてさらに図9〜図11を参照して説明する。なお、図9〜図11、駆動信号を示す駆動波形である。
【0051】
図4に示すように、オフセット手段305は、各駆動信号400〜402(図6参照)を示す駆動波形の駆動電圧を正方向又は負方向にシフトさせるバイアス電圧を印加するものであり、バイアス電源生成部として機能する。また、オフセット手段305は、図9〜図11に示すように、入力された基準となる駆動信号400〜402に対して、異なるバイアス電圧(オフセット電圧)でオフセットした2種類のオフセット駆動信号400A〜402A、400B〜402Bを生成する。例えば、図9〜図11に示すように、オフセット手段305が、基準となる駆動信号400〜402を正方向にシフトさせるバイアス電圧V1を印加した場合には、オフセット駆動信号400A〜402Aを生成する。また、オフセット手段305が、基準となる駆動信号400〜402を負方向にシフトさせるバイアス電圧V2を印加した場合には、オフセット駆動信号400B〜402Bを生成する。すなわち、オフセット手段305は、振動部材20の一方の圧電素子30Aに印加するオフセット駆動信号400A〜402Aと、他方の圧電素子30Bに印加するオフセット駆動信号400B〜402Bとのオフセット量(オフセット電圧でありバイアス電圧V1、V2)は、互いに異なるオフセット量(オフセット電圧)となるようにしている。
【0052】
そして、図5に示すように、オフセット手段305から出力された一方のオフセット駆動信号400A〜402Aは振動部材20の一方面に設けられた圧電素子30Aに印加される。これに対して、オフセット手段305から出力された他方のオフセット駆動信号400B〜402Bは振動部材20の他方の面に設けられた圧電素子30Bに印加される。
【0053】
なお、図4及び図5に示すように、オフセット手段305には、オフセット量指示手段307が接続されている。このオフセット量指示手段307は、例えば、所定のオフセット量指示プログラムが動作するパーソナルコンピューター等であり、オフセット手段305に駆動信号400〜402のオフセット量を指示する指令信号を出力する。オフセット手段305は、オフセット量指示手段307からオフセット量を指示する指令信号を受け取ったら、指令信号に基づいた電圧値のバイアス電圧を基準となる駆動信号400に印加する。なお、オフセット量指示手段307は、キー操作や圧電モーター1に接続される図示しないダイヤル操作によって、オフセット量を指示する指令信号を出力するものであってもよく、また、時間経過と共にオフセットする電圧を可変的に変更するように指示する指令信号を出力するものであってもよい。
【0054】
ここで、オフセット手段305によって生成されたオフセット駆動信号400A〜402A、400B〜402Bを各圧電素子30A、30Bに印加した場合の圧電アクチュエーターの動作について説明する。なお、図12は、圧電アクチュエーターの動作を示す断面図である。
【0055】
オフセット手段305から出力されたオフセット駆動信号400A〜402Aが一方の圧電素子30Aに印加されると、この圧電素子30Aは、縦方向(長手方向)にバイアス電圧V1の分だけ伸張した状態で縦振動及び屈曲振動が行われる。これに対して、オフセット手段305から出力されたオフセット駆動信号400B〜402Bが他方の圧電素子30Bに印加されると、この圧電素子30Bは縦方向(長手方向)にバイアス電圧V2の分だけ収縮した状態で縦振動及び屈曲振動が行われる。すなわち、図12(a)に示すように、圧電アクチュエーター10は、圧電素子30A側が凸、圧電素子30B側が凹となるように反った状態で縦振動及び屈曲振動が行われる。
【0056】
また、オフセット量指示手段307によってオフセット手段305が駆動信号400〜402に印加するバイアス電圧V1、V2の符号を逆にすると、圧電素子30Aがバイアス電圧V1の分だけ収縮し、圧電素子30Bがバイアス電圧V2の分だけ伸張する。この結果、図12(b)に示すように、圧電素子30A側が凹、圧電素子30B側が凸となるように反った状態で縦振動及び屈曲振動が行われる。
【0057】
すなわち、圧電アクチュエーター10は、基準となる駆動信号400〜402で駆動した反りのない状態での駆動と、圧電素子30A側が凸となるように反った状態の駆動と、圧電素子30A側が凹となるように反った状態の駆動との3種類の駆動を行うことができる。そして、この反り量は、基準となる駆動信号400〜402をオフセットするバイアス電圧V1、V2の電圧値によって可変可能となる。
【0058】
このように、圧電アクチュエーター10を圧電素子30A、振動部材20及び圧電素子30Bの積層方向で反らせて駆動することで、振動部材20の当接部21が回転軸3に当接する領域を変更することができる。
【0059】
すなわち、圧電アクチュエーター10を常に基準となる駆動信号400〜402で駆動すると、振動部材20の当接部21は、常に回転軸3の同じ領域に当接するため、回転軸3の摩耗が早く進行する。この回転軸3の摩耗により、圧電アクチュエーター10は、回転軸3側に移動することになり、付勢手段80による付勢力が低下する。この結果、回転軸3のトルクの低下、回転数の低下が生じる。これに対して、本発明では、圧電アクチュエーター10を反らせて当接部21が回転軸3に当接する領域を一定時間毎に変更することで、回転軸3の当接部21に当接される領域が広くなり、摩耗の進行(当接する面が軸中心側に移動する進行)が遅くなる。したがって、駆動時間が長期経過しても、圧電アクチュエーター10の回転軸3の中心側に移動する移動量が低く、トルクの低下及び回転数の低下を抑制することができる。また、回転軸3の寿命を延長することができるため、回転軸3の交換頻度を低減して、運用コストを低減することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、圧電素子30Aに印加するオフセット駆動信号400A〜402Aの基準となる駆動信号400〜402からのオフセット量(バイアス電圧V1)と、圧電素子30Bに印加するオフセット駆動信号400B〜402Bの駆動信号400〜402からのオフセット量(バイアス電圧V2)とは、逆符号で且つ絶対値が同じとなるようにしている。このため、圧電素子30Aの伸張又は収縮する変化量と、圧電素子30Bの伸張又は収縮する変化量とは反比例する。この結果、圧電アクチュエーター10全体で基準となる駆動信号400〜402で駆動した場合と略同じ長さで反らせることが可能となり、回転軸3のトルクや回転数などが変化するのを低減することができる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の圧電モーター1では、当接部21が回転軸3に当接する領域を変更する大がかりな機械的な調整手段等を設けることなく、2つの圧電素子30A、30Bに印加する駆動信号の電圧を異なる値でオフセットするだけで、当接部21が回転軸3に当接する領域を変更して、駆動時間の経過に伴う回転軸3の摩耗を低減することができる。これにより、小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、オフセット手段305によって、2つの圧電素子30A、30Bに、それぞれ符号が逆で絶対値が同じバイアス電圧V1、V2でオフセットした駆動信号400A〜402A、400B〜402Bを印加するようにしたが、特にこれに限定されない。例えば、2つの圧電素子30A、30Bのそれぞれに異なる絶対値となるバイアス電圧でオフセットした駆動信号を印加するようにしてもよい。すなわち、2つの圧電素子30A、30Bに印加される駆動信号400〜402やオフセット駆動信号400A〜402A、400B〜402Bの駆動電圧を、圧電素子30A、30Bで同一の正方向又は負方向となるようにオフセット(第2オフセット)してもよい。
【0063】
すなわち、2つの圧電素子30A、30Bに同一の駆動信号400〜402を印加する場合には、2つの圧電素子30A、30Bに印加する駆動信号400〜402に同一のバイアス電圧を印加して2つの圧電素子30A、30Bに印加される駆動電圧がそれぞれ同一方向にオフセットするようにすればよい。
【0064】
例えば、2つの圧電素子30A、30Bに印加する駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで示される駆動波形の駆動電圧を正方向にさらにオフセット(第2オフセット)した場合、圧電素子30A、30Bは、図13(a)に示すように、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで駆動した場合よりも第2オフセットしたバイアス電圧(オフセット電圧)の分だけ縦方向(圧電素子30の長手方向)に伸張した状態で上述した縦振動及び屈曲振動を行う。なお、図13は、圧電モーターの平面図である。
【0065】
このように圧電アクチュエーター10が長手方向に伸張すると、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで駆動した圧電アクチュエーター10の当接部21と腕部23との距離に比べて、圧電アクチュエーター10の当接部21と腕部22との距離が長くなる。ここで当接部21は、付勢手段80によって回転軸3に当接されて規制されるため、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで圧電アクチュエーター10を駆動した際の腕部22(固定部84)と支持ピン83との距離L1に比べて、第2オフセットした駆動信号で駆動した圧電アクチュエーター10の腕部22(固定部84)と支持ピン83との距離L2は短くなる。これにより、ばね部材82が縮められて、付勢手段80が圧電アクチュエーター10(保持部材81)を付勢する付勢力が増大する。この結果、圧電アクチュエーター10により回転される回転軸3のトルクが高くなる。
【0066】
一方、例えば、2つの圧電素子30A、30Bに印加する駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで示される駆動波形の駆動電圧を負方向にさらにオフセット(第2オフセット)した場合、圧電素子30A、30Bは、図13(b)に示すように、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで駆動した場合よりも第2オフセットしたバイアス電圧(オフセット電圧)の分だけ縦方向(圧電素子30の長手方向)に収縮した状態で上述した縦振動及び屈曲振動を行う。
【0067】
このように圧電アクチュエーター10が長手方向に収縮すると、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで駆動した圧電アクチュエーター1の当接部21と腕部23との距離に比べて、圧電アクチュエーター10の当接部21と腕部22との距離が短くなる。ここで当接部21は、付勢手段80によって回転軸3に当接されて規制されるため、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで圧電アクチュエーター10を駆動した際の腕部22(固定部84)と支持ピン83との距離L1に比べて、第2オフセットした駆動信号で駆動した圧電アクチュエーター10の腕部22(固定部84)と支持ピン83との距離L3は長くなる。これにより、ばね部材82が伸びた状態で付勢することになり、付勢手段80が圧電アクチュエーター10(保持部材81)を付勢する付勢力が減少する。この結果、圧電アクチュエーター10により回転される回転軸3のトルクが低くなる。
【0068】
このように、駆動信号400〜402やオフセットされた駆動信号400A〜402A、400B〜402Bの駆動電圧をさらにオフセット(第2オフセット)するだけで、圧電アクチュエーター10を回転軸3に向かって付勢する付勢力を調整することができ、回転軸3のトルクを調整することができる。また、当接部21が楕円状に回転する軌道の外周側で回転軸3に当接すると、回転軸3の回転数は下がり、楕円軌道の中心側で回転軸3に当接すると回転数が高くなる。したがって、付勢力を調整することで、回転軸3の回転数も調整することができる。
【0069】
このため、例えば、振動部材20の当接部21と回転軸3との摩耗によって、圧電アクチュエーター10と回転軸3との距離が短くなったとしても、圧電アクチュエーター10を駆動する駆動信号の電圧をオフセット(第2オフセット)させることで、圧電アクチュエーター10を縦方向(付勢方向)に伸張させて、圧電アクチュエーター10と回転軸3との距離を摩耗前と同じ距離にして、同じ付勢力で付勢させることができる。これにより、振動部材20や回転軸3の摩耗に拘わらず、回転軸3を常に均一なトルクや回転数で回転させることができる。
【0070】
また、回転軸3の回転の始めは付勢力を小さくし、回転数が上がるに従い付勢力を大きくするようにオフセット量を調整してもよい。これにより、始動性を向上して、短時間で所望の回転数まで回転させることが可能である。
【0071】
(実施形態2)
図14は、本発明の実施形態2に係る圧電モーターの分解斜視図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0072】
図14に示すように、圧電モーター1Aを構成する圧電アクチュエーター10Aに搭載された圧電素子30Cは、第2電極60Aが溝部70Aによって3分割されている。具体的には、第2電極60Aは、圧電素子30Cの対角に、L字状の溝部70Aが設けられることによって、電気的に接続されて中央に略Z字状となるように駆動電極64が形成されている。そして、駆動電極64の外側の溝部70Aで分割された2つの電極は、駆動されない非駆動電極65となっている。
【0073】
一方、振動部材20Aには、圧電素子30Cの長手方向一端部の駆動電極64側に偏った位置に当接部21Aが設けられている。
【0074】
そして、振動部材20Aの圧電素子30Cの長手方向における中央部には、短手方向に延設された一対の腕部22が設けられており、一方の腕部22の先端部が装置本体2に固定されている。この装置本体2に固定された一方の腕部22が、板ばね状になっており、圧電アクチュエーター10Aを回転軸に付勢する付勢手段としても機能する。
【0075】
このような圧電アクチュエーター10Aでは、駆動電極64に駆動信号が印加されることにより、圧電素子30Cは振動部材20Aの面内で、駆動電極64が設けられた対角線に沿って菱形となるように伸張・収縮する。そして、圧電アクチュエーター10Aの当接部21Aを、回転軸3の軸中心から偏心した位置に当接させると共に、圧電素子30の長手方向が回転軸3の径方向とは交差する方向に配置することで、回転軸3は一方向のみに回転駆動される。
【0076】
具体的には、圧電素子30が対角線上に沿って伸張することで、当接部21は、回転軸3の軸中心とは偏心した位置を押圧する。このとき、回転軸3は回転方向のみに移動可能であるため、当接部21Aによる押圧は、回転方向に変換される。そして、回転軸3の回転に伴い圧電アクチュエーター10Aの当接部21Aにも回転軸3の回転方向への圧力が印加されて、結果、当接部21Aは楕円軌道を描くように回転駆動される。
【0077】
このような構成の圧電モーター1Aであっても、上述した実施形態1と同様に、制御部300によって、基準となる駆動信号に対して電圧をオフセットしたオフセット駆動信号400A〜402A、400B〜402Bを圧電アクチュエーター10Aの2つの圧電素子30Cに印加して駆動することで、上述した実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0078】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は、上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1及び2では、振動部材20、20Aの両面に圧電素子30(30A、30B)、30Cを設けるようにしたが、特にこれに限定されず、振動部材20、20Aの一方面のみに圧電素子30(30A又は30B)、30Cを設けるようにしてもよい。このような場合であっても、一方面に設けられた圧電素子30、30Cに印加する駆動信号を所定の電圧でオフセットすれば、圧電アクチュエーターを圧電素子30、30Cと振動部材20、20Aとの積層方向に反らせて、当接部21、21Aが回転軸3に当接する領域をずらすことができる。
【0079】
また、上述した実施形態1及び2では、振動部材20、20Aの当接部21、21Aが、回転軸3の外周面に当接されるようにしたが、特にこれに限定されず、当接部21、21Aが、回転軸3の軸方向の端面に当接するようにしてもよい。この場合には、圧電アクチュエーター10、10Aを積層方向で屈曲させることにより、当接部21、21Aは、回転中心側又は回転中心とは反対側に当接するため、回転軸3の回転数を変更することができる。すなわち、当接部21、21Aが回転軸の回転中心側に移動して当接すれば、回転軸3の回転速度は速まると共にトルクが低くなる。また、逆に当接部21、21Aが回転軸の回転中心とは反対側に移動して当接すれば、回転速度は遅まると共にトルクは高くなる。
【0080】
また、上述した実施形態の圧電モーター1、1Aは、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の駆動手段として用いることができる。ここで、実施形態1の圧電モーター1を用いたインクジェット式記録装置の一例を図15及図16に示す。なお、図15は、一実施形態に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の概略斜視図であり、図16は、要部を拡大した平面図である。
【0081】
図15に示すインクジェット式記録装置100において、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッド101を有する記録ヘッドユニット102は、インク供給手段を構成するカートリッジ103が着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット102を搭載したキャリッジ104は、記録装置本体105に取り付けられたキャリッジ軸106に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット102は、例えば、ブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0082】
そして、駆動モーター107の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト108を介してキャリッジ104に伝達されることで、記録ヘッドユニット102を搭載したキャリッジ104はキャリッジ軸106に沿って移動される。一方、記録装置本体105にはキャリッジ軸106に沿ってプラテン109が設けられており、給紙手段110によって給紙された紙等の被噴射媒体である記録シートSがプラテン109に巻き掛けられて搬送される。記録シートSは、プラテン109上でインクジェット式記録ヘッド101から吐出されたインクによって印刷される。そしてプラテン109上で印刷された記録シートSは、プラテン109の給紙手段110とは反対側に設けられた排紙手段120によって排紙される。
【0083】
図16に示すように、給紙手段110は、給紙ローラー111と従動ローラー112とで構成されている。給紙ローラー111には、その端部に上述した圧電モーター1の回転軸3が固定されており、圧電アクチュエーター10の駆動によって回転駆動される。また、給紙ローラー111には、同軸上に第1歯車113が設けられている。
【0084】
排紙手段120は、排紙ローラー121と従動ローラー122とで構成されている。排紙ローラー121には同軸上に第2歯車123が設けられている。そして、給紙ローラー111の第1歯車113が、この第1歯車113に噛み合う第3歯車130、第3歯車130に噛み合う第4歯車131、第4歯車に噛み合う第5歯車132を介して排紙ローラー121の第2歯車123に噛み合うことで、給紙ローラー111を回転駆動する圧電モーター1の駆動力が、排紙ローラー121に伝達される。
【0085】
なお、図15及び図16に示す例では、圧電モーター1によって、給紙手段110及び排紙手段120を回転駆動するものであるが、例えば、上述した実施形態の圧電モーター1を、キャリッジ104を移動させる駆動モーター107の代わりに用いることも可能である。もちろん、その他の駆動系、例えば、インクジェット式記録ヘッド101にインクを供給するポンプ等に圧電モーター1を用いることもできる。また、本実施形態では、上述した実施形態1の圧電モーター1を用いたが、特にこれに限定されず、例えば、上述した実施形態2の圧電モーター1Aを用いるようにしてもよい。
【0086】
なお、本発明は、広く液体噴射装置全般を対象としたものであり、圧電モーターは、上述したインクジェット式記録装置以外の液体噴射装置に搭載することが可能である。その他の液体噴射装置としては、例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射装置、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射装置等が挙げられる。
【0087】
さらに、上述した実施形態の圧電モーター1、1Aは、時計の駆動手段としても用いることができる。ここで、実施形態1の圧電モーター1を用いた時計の一例を図17に示す。
【0088】
図17に示すように、時計200を構成するカレンダー表示機能は、圧電モーター1に連結されており、その駆動力によって駆動される。
【0089】
カレンダー表示機能の主要部は、圧電モーター1の回転軸3の回転を減速する減速輪列とリング状の日車201とを具備する。また、減速輪列は日回し中間車202と、日回し車203とを有する。
【0090】
そして、上述の圧電モーター1の圧電アクチュエーター10によって回転軸3を時計回りに回転駆動させると、回転軸3の回転は、日回し中間車202を介して日回し車203に伝達され、この日回し車203が日車201を時計回りに回転させる。これら圧電アクチュエーター10から回転軸3、回転軸3から減速輪列(日回し中間車202、日回し車203)、減速輪列から日車201への力の伝達は、何れも面内方向で行われる。このためカレンダー表示機構を薄型化することができる。
【0091】
また、日車201には、周方向に沿って日付を表す文字が印刷された円盤状の文字板204が固定されている。そして、時計200の本体には、文字板204に設けられた一文字を露出する窓部205が設けられており、窓部205から日付が覗けるようになっている。なお、時計200には、特に図示していないが、長針及び短針や、これら長針及び短針を駆動するムーブメント等が設けられている。
【0092】
なお、圧電モーター1は、カレンダー表示機構だけではなく、時計の長針・短針等を駆動するムーブメントとして利用することができる。これら時計の長針・短針等を駆動する構造については従来周知の電磁モーター等の代わりに上述した圧電モーター1、1Aを組み込むだけで可能である。
【0093】
また、本発明は、広く圧電モーター全般を対象としたものであり、上述した液体噴射装置や時計以外の小型デバイスに利用することが可能である。圧電モーターを利用できる小型デバイスとしては、医療用ポンプ、カメラ、産業用や義手などのロボット等が挙げられる。
【符号の説明】
【0094】
1、1A 圧電モーター、 3 回転軸、 10、10A 圧電アクチュエーター、 20、20A 振動部材、 30、30A、30A、30C 圧電素子、 40 圧電体層、 50 第1電極、 60、60A 第2電極、 70、70A 溝部、 80 付勢手段、 100 記録装置、 200 時計、 300 制御部、 305 オフセット手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子によって被駆動部を駆動する圧電モーター、圧電モーターを用いた液体噴射装置及び圧電モーターを用いた時計に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電モーターは、圧電素子を具備する圧電アクチュエーターによって回転軸を回転駆動させるものである。ここで、圧電モーターに用いられる圧電アクチュエーターは、振動部材と、振動部材の一方面又は両面側に保持された圧電素子とを具備する。圧電素子は、振動部材側に設けられた第1電極と、圧電体層と第1電極とは反対側に設けられた第2電極とで構成されている。
【0003】
このような圧電アクチュエーターでは、圧電素子の第1電極と第2電極との間に電圧を印加し、圧電素子を振動部材の面内方向において縦振動及び屈曲振動させることで、振動部材の端部を面内で回転駆動させる。そして、圧電アクチュエーターを付勢ばねによって回転軸に向かって付勢しながら、振動部材の端部を回転軸に当接させることで回転軸を回転させる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−267482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、振動部材の端部と回転軸との間の当接時の摩擦によって、回転軸が摩耗し、摩耗によって圧電アクチュエーターと回転軸との距離が離れ、付勢ばねの付勢力が弱まって回転軸のトルクや回転数が低下してしまうという問題がある。
【0006】
また、回転軸の摩耗量に基づいて、付勢ばねの付勢力を調整する調整手段を設けることも考えられるものの、調整手段を設けると装置が大型化してしまうと共にコストが高騰してしまうという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、コストが高騰することなく、長期間の駆動を行っても回転特性の低下を抑制することができる圧電モーター、液体噴射装置及び時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、圧電体層と該圧電体層を挟んで両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極とを有する圧電素子と、該圧電素子が固定された振動部材と、を有する圧電アクチュエーターと、前記振動部材の端面が当接されて回転駆動する回転軸と、前記圧電アクチュエーターを前記回転軸側に向かって付勢する付勢手段と、を具備する圧電モーターであって、前記圧電素子に駆動信号を印加すると共に、前記駆動信号の電圧をオフセットする制御部を有することを特徴とする圧電モーターにある。
【0009】
かかる態様では、圧電素子を駆動する駆動信号の電圧をオフセットすることで、駆動信号を示す駆動波形の電圧を正方向又は負方向にシフトさせることができ、圧電素子をオフセット前に比べて伸張又は収縮させて、反らせた状態で駆動することができる。これにより、振動部材が回転軸に当接する領域をずらすことができ、回転軸の局所的な摩耗の進行を抑制することができる。これにより、付勢力を機械的に調整する大がかりな調整手段等が不要となり、低コストで長期間の駆動に耐久性を有する圧電モーターを実現できる。
【0010】
ここで、前記振動部材には、両面にそれぞれ前記圧電素子が設けられていると共に、前記制御部は、前記振動部材の一方面に設けられた前記圧電素子と、前記振動板の他方面に設けられた前記圧電素子とに、互いに異なる電圧でオフセットした前記駆動信号を印加することが好ましい。これによれば、圧電アクチュエーターを圧電素子と振動部材の積層方向で容易に且つ確実に反らせることができる。
【0011】
また、前記制御部は、前記振動部材の一方面に設けられた前記圧電素子と、前記振動板の他方面に設けられた前記圧電素子とに、互いに逆符号となる同じ電圧でオフセットした前記駆動信号を印加することが好ましい。これによれば、オフセット前の駆動信号で駆動した圧電アクチュエーターと同じ寸法で反らせて駆動することができ、回転特性を均一に保つことができる。
【0012】
また、前記振動部材の端面が、前記回転軸の外周面に当接するように配置されていることが好ましい。これによれば、圧電アクチュエーターが外周面に当接することによって、圧電アクチュエーターの反りにより回転特性が変化するのを抑制できる。
【0013】
また、前記振動部材の端面が、前記回転軸の軸方向端面に当接するように配置されていてもよい。これによれば、圧電アクチュエーターが端面に当接することで、圧電アクチュエーターの反りにより回転数やトルクなどの回転特性を可変させることができる。
【0014】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の圧電モーターを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、低コスト化、小型化及び長寿命化した液体噴射装置を実現できる。
【0015】
ここで、前記圧電モーターが、液体が噴射される被噴射媒体を搬送する給紙手段として用いられることが好ましい。これによれば、特に小型化及び長寿命化した液体噴射装置を実現できる。
【0016】
また、本発明の他の態様は、上記態様の圧電モーターを具備することを特徴とする時計にある。かかる態様では、低コスト化、小型化及び長寿命化した時計を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1に係る圧電モーターの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る圧電モーターの平面図である。
【図3】実施形態1に係る圧電モーターの断面図である。
【図4】実施形態1に係る制御系を示す概略図である。
【図5】実施形態1に係る制御系を示す概略図である。
【図6】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【図7】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの動作を示す平面図である。
【図8】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの動作を示す平面図である。
【図9】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【図10】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【図11】実施形態1に係る駆動信号を示す駆動波形である。
【図12】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの動作を示す断面図である。
【図13】実施形態1に係る圧電アクチュエーターの動作を示す断面図である。
【図14】実施形態2に係る圧電モーターの平面図である。
【図15】一実施形態に係る記録装置の概略斜視図である。
【図16】一実施形態に係る記録装置の要部拡大平面図である。
【図17】一実施形態に係る時計の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る圧電モーターの分解斜視図であり、図2は、圧電モーターの平面図であり、図3は、図2のA−A′断面図である。
【0019】
図示するように、本実施形態の圧電モーター1を構成する圧電アクチュエーター10は、振動部材20と、振動部材20の両面にそれぞれ接着された圧電素子30とを具備する。
【0020】
振動部材20の両面にそれぞれ設けられた圧電素子30は、圧電体層40と、圧電体層40の振動部材20側に設けられた第1電極50と、圧電体層40の第1電極50とは反対側に設けられた第2電極60と、を有する。
【0021】
圧電体層40は、電気機械変換作用を示す圧電材料、特に圧電材料の中でも一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物からなる。圧電体層40としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。もちろん、本実施形態の圧電体層40は、上記した材料に限定されるものではないが、優れた電気機械変換作用を有する圧電体層40として、鉛を含有するものが挙げられる。
【0022】
第1電極50は、圧電体層40の振動部材20側の面に亘って連続して設けられて、圧電素子30の共通電極となっている。
【0023】
第2電極60は、圧電体層40の第1電極50とは反対側に設けられており、溝部70によって互いに電気的に隔離されて面内方向で複数に分割されている。
【0024】
第2電極60を分割する溝部70は、圧電素子30の幅(短手方向)をほぼ三等分するように形成された第1溝部71と、第1溝部71によって分割された3つの電極のうち短手方向両側の電極を長手方向でほぼ二等分するように形成された第2溝部72とからなる。第2電極60は、これら第1溝部71及び第2溝部72からなる溝部70によって、短手方向中央部に長手方向に亘って設けられた縦振動用電極部61と、この縦振動用電極部61の短手方向両側に、縦振動用電極部61を挟んで対角となるように配置されて対をなす2組の屈曲振動用電極部62、63との合計5つに分割されている。ここで、圧電素子30は、第2電極60の縦振動用電極部61が設けられた領域が、圧電素子30の長手方向の縦振動を励起する縦振動励起領域41となっている。これに対して、縦振動励起領域41の短手方向両側の屈曲振動用電極部62、63が設けられた領域が、それぞれ圧電素子30の短手方向に屈曲振動を励起する屈曲振動励起領域42、43となっている。このため、第2電極60は、分割されて各領域を個別に駆動するための個別電極として機能する。
【0025】
このような圧電素子30は、第1電極50側が振動部材20に接合されている。ここで、振動部材20は、ステンレス鋼(SUS)等の金属や樹脂材料で形成された板状部材からなる。本実施形態では、振動部材20を導電性を有するステンレス鋼で形成し、2つの圧電素子30の第1電極50同士は、振動部材20を介して電気的に導通される。ちなみに、第1電極50と振動部材20とを絶縁性の接着剤で接着したとしても、第1電極50と振動部材20とを互いに押圧した状態で接着することで両者を互いに電気的に導通することができる。すなわち、本実施形態の振動部材20は、2つの圧電素子30の第1電極50同士を導通させる共通電極としても機能する。
【0026】
また、図1に示すように、振動部材20は、上述のように圧電素子30の第1電極50側と同じ表面形状を有すると共に、長手方向の一端部側に圧電素子30よりも突出するように延設された当接部21が設けられている。また、振動部材20の圧電素子30の長手方向中央部には、圧電素子30の短手方向両側に向かって延設された一対の腕部22を有する。この腕部22には、厚さ方向に貫通する貫通孔23が設けられており、貫通孔23を挿通させたねじ部材86を介して詳しくは後述する保持部材81に固定される。すなわち、圧電アクチュエーター10は、振動部材20の腕部22が保持部材81に固定されることで、圧電素子30は保持部材81に対して腕部22を基点として縦振動及び屈曲振動が可能となるように保持される。
【0027】
一方、圧電モーター1には、装置本体2に軸を中心として回転自在となる回転軸3が設けられている。そして、この回転軸3に圧電アクチュエーター10の楕円軌道を描くように回転駆動される当接部21を当接させることで、回転軸3は回転される。本実施形態では、圧電アクチュエーター10の当接部21が楕円軌道を描く回転方向が、回転軸3の回転方向となるように、当接部21が回転軸3の周方向の表面に当接するようにした。もちろん、当接部21が、回転軸3の端面に当接するようにしてもよい。
【0028】
また、圧電モーター1には、圧電アクチュエーター10を回転軸3方向に向かって所定の圧力で押圧する付勢手段80が設けられている。
【0029】
付勢手段80は、圧電アクチュエーター10を保持する保持部材81と、保持部材81に一端が固定されたコイルばね等のばね部材82と、ばね部材82の他端に当接すると共に装置本体2に固定された支持ピン83とを具備する。
【0030】
保持部材81は、圧電アクチュエーター10の腕部22が固定される一対の固定部84と、固定部84の間に一体的に設けられて装置本体2に対してスライド移動可能に支持されるスライド部85とを具備する。固定部84には、腕部22の貫通孔23に対応して、ねじ部材86が螺合される雌ねじ部87が形成されている。この雌ねじ部87に腕部22の貫通孔23を挿通したねじ部材86を螺合させることで、圧電アクチュエーター10は保持部材81に保持される。
【0031】
スライド部85には、厚さ方向に貫通し、且つスライド方向に延設された長孔である2つのスライド孔88が設けられている。そして、各スライド孔88に挿通されて装置本体2に固定されたスライドピン89によってスライド部85は装置本体2に対してスライド移動可能に支持されている。
【0032】
ばね部材82は、コイルばねからなり、固定部84に一端が固定されると共に、装置本体2に固定された支持ピン83の側面に他端が当接するように配置されている。また、ばね部材82は、スライド部85のスライド方向に沿って配置されている。このような、ばね部材82は、圧電アクチュエーター10を装置本体2に対して回転軸3に向かって付勢する。
【0033】
なお、本実施形態では、ばね部材82としてコイルばねを用いたが、ばね部材82は特にこれに限定されず、例えば、板ばね等を用いるようにしてもよい。
【0034】
このような付勢手段80によって、圧電アクチュエーター10は、圧電素子30の長手方向(縦振動方向)が回転軸3の軸中心となるように、所定の圧力で回転軸3に押圧される。すなわち、本実施形態の圧電アクチュエーター10は、圧電素子30の長手方向が回転軸3の径方向になるように配置され、回転軸3の径方向に向かってスライド移動可能に設けられている。したがって、圧電アクチュエーター10は、圧電素子30の長手方向が回転軸3の径方向となるように押圧される。
【0035】
そして、上述のように、付勢手段80によって圧電アクチュエーター10の当接部21を回転軸3に押圧しながら、圧電素子30に縦振動及び屈曲振動を交互に行わせて当接部21を楕円軌道を描くように回転駆動することで、回転軸3を回転駆動することができる。
【0036】
ここで、本実施形態の圧電モーター1の制御系について図4〜図6を参照して説明する。なお、図4及び図5は、圧電モーターの制御系を示すブロック図であり、図6は、駆動信号を示す駆動波形である。
【0037】
本実施形態の駆動信号を示す駆動波形は、共通電極である第1電極50を基準電位(本実施形態では0V)として、個別電極である第2電極60に印加されるものである。
【0038】
図4に示すように、駆動信号を生成する制御部300は、所定の周波数の駆動信号を生成する信号発生装置301と、ドライバー回路302とを具備する。信号発生装置301が生成する駆動信号としては、本実施形態では、交番電圧からなるアナログ信号や、矩形波のデジタル信号を用いることができる。本実施形態の信号発生装置301が生成する駆動信号は、図6に示すように、基準となる駆動信号400である。
【0039】
また、ドライバー回路302は、信号発生装置301が生成した基準となる駆動信号400を移相する移相器303と、移相器303が生成した駆動信号を反転させる位相反転手段304と、各駆動信号をオフセットするオフセット手段305とを具備する。
【0040】
信号発生装置301が生成した駆動信号400は、オフセット手段によって電圧がオフセットされて圧電素子30の縦振動用電極部61に印加される。すなわち、信号発生装置301が生成した駆動信号400は、圧電素子30の縦振動に用いられる縦振動用駆動信号400として利用される。
【0041】
移相器303は、信号発生装置301から出力された駆動信号400の位相を90度遅らせる機能を有する。具体的には、移相器303は、圧電アクチュエーター10に縦振動を行わせる基準となる駆動信号400に対し、図6に示すように、位相が90度遅れた屈曲振動を行わせる駆動信号である第1屈曲振動用駆動信号401を生成する。移相器303によって生成された第1屈曲振動用駆動信号401は、圧電素子30の第1屈曲振動用電極部62に印加される。
【0042】
また、移相器303によって90度位相が遅れた第1屈曲振動用駆動信号401は、位相反転手段304に入力される。位相反転手段304は、例えば、インバーター回路等で構成され、図6に示すように、移相器303からの第1屈曲振動用駆動信号401に対して位相が180度反転した屈曲振動用の駆動信号である第2屈曲振動用駆動信号402を生成する。位相反転手段304によって生成された第2屈曲振動用駆動信号402は、第2屈曲振動用電極部63に印加される。
【0043】
すなわち、基本的には、圧電素子30の縦振動用電極部61には、基準となる駆動信号400が縦振動用駆動信号400として印加され、第1屈曲振動用電極部62には、縦振動用駆動信号400に対して90度位相を遅らせた第1屈曲振動用駆動信号401が印加される。また、圧電素子30の第2屈曲振動用電極部63には、第1屈曲振動用駆動信号401に対して180度反転した第2屈曲振動用駆動信号402が印加される。
【0044】
ここで、このような制御部300によって駆動される圧電アクチュエーター10の基本動作について説明する。なお、図7及び図8は、圧電アクチュエーターの動作を示す平面図である。
【0045】
制御部300から出力された縦振動用駆動信号400が圧電素子30の縦振動用電極部61に供給されると、図7(a)に示すように、圧電アクチュエーター10は振動部材20の面方向において、縦振動励起領域41が縦方向(長手方向)に伸張・収縮して、長手方向に縦振動する。
【0046】
また、制御部300から出力された互いに位相が反転する第1屈曲振動用駆動信号401及び第2屈曲振動用駆動信号402が、圧電素子30の第1屈曲振動用電極部62及び第2屈曲振動用電極部63にそれぞれ供給されると、屈曲振動励起領域42、43が伸張・収縮して、圧電アクチュエーター10は屈曲駆動する。具体的には、圧電素子30の短手方向で対角となる一方の組の屈曲振動励起領域42を伸張させると同時に対角となる他方の一対の屈曲振動励起領域43を収縮させる。これにより、図7(b)に示すように圧電素子30をS字状に変形させる。また、伸張していた屈曲振動励起領域42を収縮させると同時に収縮していた屈曲振動励起領域43を伸張させることで、図7(c)に示すように、圧電素子30を逆S字状に屈曲させる。この図7(b)及び図7(c)に示す屈曲変形を交互に繰り返させることで、圧電アクチュエーター10はS字状及び逆S字状を交互に繰り返す屈曲振動する。
【0047】
そして、上述のように、縦振動用駆動信号400に対して、第1屈曲振動用駆動信号401及び第2屈曲振動用駆動信号402は、位相が90度遅れているため、圧電アクチュエーター10の長手方向一端部に設けられた当接部21は、図8に示すように、楕円軌道を描くように回転駆動する。具体的には、圧電素子30に、縦方向(長手方向)の伸張、S字状の屈曲、縦方向の収縮、逆S字状の屈曲の変形を順次繰り返し行わせることで、当接部21を振動部材20の面内において時計方向に楕円軌道を描くように回転駆動することができる。
【0048】
また、圧電素子30に変形を行わせる際に、屈曲の順番を入れ替えることで、当接部21を振動部材20の面内において反時計方向に楕円軌道を描くように回転駆動することができる。すなわち、縦振動用駆動信号400に対して、第1屈曲振動用駆動信号401及び第2屈曲振動用駆動信号402の位相を90度進めるようにすればよい。これは、例えば、図4に示すように、移相器303に、切換信号を出力する正逆切換信号源306を接続し、正逆切換信号源306からの切換信号により移相器303が屈曲振動用の駆動信号として、縦振動用の駆動信号の位相を90度進めたものを生成するようにすればよい。このように、屈曲振動の駆動信号を、縦振動用の駆動信号に対して+90度または−90度位相をずらすことにより、当接部21が描く楕円軌道の方向を正逆反転させることができる。これにより回転軸3の回転方向を制御することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、振動部材20の両面にそれぞれ圧電素子30が設けられているが、2つの圧電素子30の各縦振動励起領域41及び屈曲振動励起領域42、43は、圧電アクチュエーター10を一方の圧電素子30の第2電極60側から平面視した際に重なるように配置されており、平面視した際に重なる領域において同じ方向の伸張・収縮を行わせることで、振動部材20は面内方向に変形する。
【0050】
一方、図4及び図5に戻り、制御部300を構成するオフセット手段305についてさらに図9〜図11を参照して説明する。なお、図9〜図11、駆動信号を示す駆動波形である。
【0051】
図4に示すように、オフセット手段305は、各駆動信号400〜402(図6参照)を示す駆動波形の駆動電圧を正方向又は負方向にシフトさせるバイアス電圧を印加するものであり、バイアス電源生成部として機能する。また、オフセット手段305は、図9〜図11に示すように、入力された基準となる駆動信号400〜402に対して、異なるバイアス電圧(オフセット電圧)でオフセットした2種類のオフセット駆動信号400A〜402A、400B〜402Bを生成する。例えば、図9〜図11に示すように、オフセット手段305が、基準となる駆動信号400〜402を正方向にシフトさせるバイアス電圧V1を印加した場合には、オフセット駆動信号400A〜402Aを生成する。また、オフセット手段305が、基準となる駆動信号400〜402を負方向にシフトさせるバイアス電圧V2を印加した場合には、オフセット駆動信号400B〜402Bを生成する。すなわち、オフセット手段305は、振動部材20の一方の圧電素子30Aに印加するオフセット駆動信号400A〜402Aと、他方の圧電素子30Bに印加するオフセット駆動信号400B〜402Bとのオフセット量(オフセット電圧でありバイアス電圧V1、V2)は、互いに異なるオフセット量(オフセット電圧)となるようにしている。
【0052】
そして、図5に示すように、オフセット手段305から出力された一方のオフセット駆動信号400A〜402Aは振動部材20の一方面に設けられた圧電素子30Aに印加される。これに対して、オフセット手段305から出力された他方のオフセット駆動信号400B〜402Bは振動部材20の他方の面に設けられた圧電素子30Bに印加される。
【0053】
なお、図4及び図5に示すように、オフセット手段305には、オフセット量指示手段307が接続されている。このオフセット量指示手段307は、例えば、所定のオフセット量指示プログラムが動作するパーソナルコンピューター等であり、オフセット手段305に駆動信号400〜402のオフセット量を指示する指令信号を出力する。オフセット手段305は、オフセット量指示手段307からオフセット量を指示する指令信号を受け取ったら、指令信号に基づいた電圧値のバイアス電圧を基準となる駆動信号400に印加する。なお、オフセット量指示手段307は、キー操作や圧電モーター1に接続される図示しないダイヤル操作によって、オフセット量を指示する指令信号を出力するものであってもよく、また、時間経過と共にオフセットする電圧を可変的に変更するように指示する指令信号を出力するものであってもよい。
【0054】
ここで、オフセット手段305によって生成されたオフセット駆動信号400A〜402A、400B〜402Bを各圧電素子30A、30Bに印加した場合の圧電アクチュエーターの動作について説明する。なお、図12は、圧電アクチュエーターの動作を示す断面図である。
【0055】
オフセット手段305から出力されたオフセット駆動信号400A〜402Aが一方の圧電素子30Aに印加されると、この圧電素子30Aは、縦方向(長手方向)にバイアス電圧V1の分だけ伸張した状態で縦振動及び屈曲振動が行われる。これに対して、オフセット手段305から出力されたオフセット駆動信号400B〜402Bが他方の圧電素子30Bに印加されると、この圧電素子30Bは縦方向(長手方向)にバイアス電圧V2の分だけ収縮した状態で縦振動及び屈曲振動が行われる。すなわち、図12(a)に示すように、圧電アクチュエーター10は、圧電素子30A側が凸、圧電素子30B側が凹となるように反った状態で縦振動及び屈曲振動が行われる。
【0056】
また、オフセット量指示手段307によってオフセット手段305が駆動信号400〜402に印加するバイアス電圧V1、V2の符号を逆にすると、圧電素子30Aがバイアス電圧V1の分だけ収縮し、圧電素子30Bがバイアス電圧V2の分だけ伸張する。この結果、図12(b)に示すように、圧電素子30A側が凹、圧電素子30B側が凸となるように反った状態で縦振動及び屈曲振動が行われる。
【0057】
すなわち、圧電アクチュエーター10は、基準となる駆動信号400〜402で駆動した反りのない状態での駆動と、圧電素子30A側が凸となるように反った状態の駆動と、圧電素子30A側が凹となるように反った状態の駆動との3種類の駆動を行うことができる。そして、この反り量は、基準となる駆動信号400〜402をオフセットするバイアス電圧V1、V2の電圧値によって可変可能となる。
【0058】
このように、圧電アクチュエーター10を圧電素子30A、振動部材20及び圧電素子30Bの積層方向で反らせて駆動することで、振動部材20の当接部21が回転軸3に当接する領域を変更することができる。
【0059】
すなわち、圧電アクチュエーター10を常に基準となる駆動信号400〜402で駆動すると、振動部材20の当接部21は、常に回転軸3の同じ領域に当接するため、回転軸3の摩耗が早く進行する。この回転軸3の摩耗により、圧電アクチュエーター10は、回転軸3側に移動することになり、付勢手段80による付勢力が低下する。この結果、回転軸3のトルクの低下、回転数の低下が生じる。これに対して、本発明では、圧電アクチュエーター10を反らせて当接部21が回転軸3に当接する領域を一定時間毎に変更することで、回転軸3の当接部21に当接される領域が広くなり、摩耗の進行(当接する面が軸中心側に移動する進行)が遅くなる。したがって、駆動時間が長期経過しても、圧電アクチュエーター10の回転軸3の中心側に移動する移動量が低く、トルクの低下及び回転数の低下を抑制することができる。また、回転軸3の寿命を延長することができるため、回転軸3の交換頻度を低減して、運用コストを低減することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、圧電素子30Aに印加するオフセット駆動信号400A〜402Aの基準となる駆動信号400〜402からのオフセット量(バイアス電圧V1)と、圧電素子30Bに印加するオフセット駆動信号400B〜402Bの駆動信号400〜402からのオフセット量(バイアス電圧V2)とは、逆符号で且つ絶対値が同じとなるようにしている。このため、圧電素子30Aの伸張又は収縮する変化量と、圧電素子30Bの伸張又は収縮する変化量とは反比例する。この結果、圧電アクチュエーター10全体で基準となる駆動信号400〜402で駆動した場合と略同じ長さで反らせることが可能となり、回転軸3のトルクや回転数などが変化するのを低減することができる。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の圧電モーター1では、当接部21が回転軸3に当接する領域を変更する大がかりな機械的な調整手段等を設けることなく、2つの圧電素子30A、30Bに印加する駆動信号の電圧を異なる値でオフセットするだけで、当接部21が回転軸3に当接する領域を変更して、駆動時間の経過に伴う回転軸3の摩耗を低減することができる。これにより、小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、オフセット手段305によって、2つの圧電素子30A、30Bに、それぞれ符号が逆で絶対値が同じバイアス電圧V1、V2でオフセットした駆動信号400A〜402A、400B〜402Bを印加するようにしたが、特にこれに限定されない。例えば、2つの圧電素子30A、30Bのそれぞれに異なる絶対値となるバイアス電圧でオフセットした駆動信号を印加するようにしてもよい。すなわち、2つの圧電素子30A、30Bに印加される駆動信号400〜402やオフセット駆動信号400A〜402A、400B〜402Bの駆動電圧を、圧電素子30A、30Bで同一の正方向又は負方向となるようにオフセット(第2オフセット)してもよい。
【0063】
すなわち、2つの圧電素子30A、30Bに同一の駆動信号400〜402を印加する場合には、2つの圧電素子30A、30Bに印加する駆動信号400〜402に同一のバイアス電圧を印加して2つの圧電素子30A、30Bに印加される駆動電圧がそれぞれ同一方向にオフセットするようにすればよい。
【0064】
例えば、2つの圧電素子30A、30Bに印加する駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで示される駆動波形の駆動電圧を正方向にさらにオフセット(第2オフセット)した場合、圧電素子30A、30Bは、図13(a)に示すように、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで駆動した場合よりも第2オフセットしたバイアス電圧(オフセット電圧)の分だけ縦方向(圧電素子30の長手方向)に伸張した状態で上述した縦振動及び屈曲振動を行う。なお、図13は、圧電モーターの平面図である。
【0065】
このように圧電アクチュエーター10が長手方向に伸張すると、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで駆動した圧電アクチュエーター10の当接部21と腕部23との距離に比べて、圧電アクチュエーター10の当接部21と腕部22との距離が長くなる。ここで当接部21は、付勢手段80によって回転軸3に当接されて規制されるため、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで圧電アクチュエーター10を駆動した際の腕部22(固定部84)と支持ピン83との距離L1に比べて、第2オフセットした駆動信号で駆動した圧電アクチュエーター10の腕部22(固定部84)と支持ピン83との距離L2は短くなる。これにより、ばね部材82が縮められて、付勢手段80が圧電アクチュエーター10(保持部材81)を付勢する付勢力が増大する。この結果、圧電アクチュエーター10により回転される回転軸3のトルクが高くなる。
【0066】
一方、例えば、2つの圧電素子30A、30Bに印加する駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで示される駆動波形の駆動電圧を負方向にさらにオフセット(第2オフセット)した場合、圧電素子30A、30Bは、図13(b)に示すように、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで駆動した場合よりも第2オフセットしたバイアス電圧(オフセット電圧)の分だけ縦方向(圧電素子30の長手方向)に収縮した状態で上述した縦振動及び屈曲振動を行う。
【0067】
このように圧電アクチュエーター10が長手方向に収縮すると、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで駆動した圧電アクチュエーター1の当接部21と腕部23との距離に比べて、圧電アクチュエーター10の当接部21と腕部22との距離が短くなる。ここで当接部21は、付勢手段80によって回転軸3に当接されて規制されるため、駆動信号400〜402、400A〜402A、400B〜402Bで圧電アクチュエーター10を駆動した際の腕部22(固定部84)と支持ピン83との距離L1に比べて、第2オフセットした駆動信号で駆動した圧電アクチュエーター10の腕部22(固定部84)と支持ピン83との距離L3は長くなる。これにより、ばね部材82が伸びた状態で付勢することになり、付勢手段80が圧電アクチュエーター10(保持部材81)を付勢する付勢力が減少する。この結果、圧電アクチュエーター10により回転される回転軸3のトルクが低くなる。
【0068】
このように、駆動信号400〜402やオフセットされた駆動信号400A〜402A、400B〜402Bの駆動電圧をさらにオフセット(第2オフセット)するだけで、圧電アクチュエーター10を回転軸3に向かって付勢する付勢力を調整することができ、回転軸3のトルクを調整することができる。また、当接部21が楕円状に回転する軌道の外周側で回転軸3に当接すると、回転軸3の回転数は下がり、楕円軌道の中心側で回転軸3に当接すると回転数が高くなる。したがって、付勢力を調整することで、回転軸3の回転数も調整することができる。
【0069】
このため、例えば、振動部材20の当接部21と回転軸3との摩耗によって、圧電アクチュエーター10と回転軸3との距離が短くなったとしても、圧電アクチュエーター10を駆動する駆動信号の電圧をオフセット(第2オフセット)させることで、圧電アクチュエーター10を縦方向(付勢方向)に伸張させて、圧電アクチュエーター10と回転軸3との距離を摩耗前と同じ距離にして、同じ付勢力で付勢させることができる。これにより、振動部材20や回転軸3の摩耗に拘わらず、回転軸3を常に均一なトルクや回転数で回転させることができる。
【0070】
また、回転軸3の回転の始めは付勢力を小さくし、回転数が上がるに従い付勢力を大きくするようにオフセット量を調整してもよい。これにより、始動性を向上して、短時間で所望の回転数まで回転させることが可能である。
【0071】
(実施形態2)
図14は、本発明の実施形態2に係る圧電モーターの分解斜視図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0072】
図14に示すように、圧電モーター1Aを構成する圧電アクチュエーター10Aに搭載された圧電素子30Cは、第2電極60Aが溝部70Aによって3分割されている。具体的には、第2電極60Aは、圧電素子30Cの対角に、L字状の溝部70Aが設けられることによって、電気的に接続されて中央に略Z字状となるように駆動電極64が形成されている。そして、駆動電極64の外側の溝部70Aで分割された2つの電極は、駆動されない非駆動電極65となっている。
【0073】
一方、振動部材20Aには、圧電素子30Cの長手方向一端部の駆動電極64側に偏った位置に当接部21Aが設けられている。
【0074】
そして、振動部材20Aの圧電素子30Cの長手方向における中央部には、短手方向に延設された一対の腕部22が設けられており、一方の腕部22の先端部が装置本体2に固定されている。この装置本体2に固定された一方の腕部22が、板ばね状になっており、圧電アクチュエーター10Aを回転軸に付勢する付勢手段としても機能する。
【0075】
このような圧電アクチュエーター10Aでは、駆動電極64に駆動信号が印加されることにより、圧電素子30Cは振動部材20Aの面内で、駆動電極64が設けられた対角線に沿って菱形となるように伸張・収縮する。そして、圧電アクチュエーター10Aの当接部21Aを、回転軸3の軸中心から偏心した位置に当接させると共に、圧電素子30の長手方向が回転軸3の径方向とは交差する方向に配置することで、回転軸3は一方向のみに回転駆動される。
【0076】
具体的には、圧電素子30が対角線上に沿って伸張することで、当接部21は、回転軸3の軸中心とは偏心した位置を押圧する。このとき、回転軸3は回転方向のみに移動可能であるため、当接部21Aによる押圧は、回転方向に変換される。そして、回転軸3の回転に伴い圧電アクチュエーター10Aの当接部21Aにも回転軸3の回転方向への圧力が印加されて、結果、当接部21Aは楕円軌道を描くように回転駆動される。
【0077】
このような構成の圧電モーター1Aであっても、上述した実施形態1と同様に、制御部300によって、基準となる駆動信号に対して電圧をオフセットしたオフセット駆動信号400A〜402A、400B〜402Bを圧電アクチュエーター10Aの2つの圧電素子30Cに印加して駆動することで、上述した実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0078】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は、上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1及び2では、振動部材20、20Aの両面に圧電素子30(30A、30B)、30Cを設けるようにしたが、特にこれに限定されず、振動部材20、20Aの一方面のみに圧電素子30(30A又は30B)、30Cを設けるようにしてもよい。このような場合であっても、一方面に設けられた圧電素子30、30Cに印加する駆動信号を所定の電圧でオフセットすれば、圧電アクチュエーターを圧電素子30、30Cと振動部材20、20Aとの積層方向に反らせて、当接部21、21Aが回転軸3に当接する領域をずらすことができる。
【0079】
また、上述した実施形態1及び2では、振動部材20、20Aの当接部21、21Aが、回転軸3の外周面に当接されるようにしたが、特にこれに限定されず、当接部21、21Aが、回転軸3の軸方向の端面に当接するようにしてもよい。この場合には、圧電アクチュエーター10、10Aを積層方向で屈曲させることにより、当接部21、21Aは、回転中心側又は回転中心とは反対側に当接するため、回転軸3の回転数を変更することができる。すなわち、当接部21、21Aが回転軸の回転中心側に移動して当接すれば、回転軸3の回転速度は速まると共にトルクが低くなる。また、逆に当接部21、21Aが回転軸の回転中心とは反対側に移動して当接すれば、回転速度は遅まると共にトルクは高くなる。
【0080】
また、上述した実施形態の圧電モーター1、1Aは、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の駆動手段として用いることができる。ここで、実施形態1の圧電モーター1を用いたインクジェット式記録装置の一例を図15及図16に示す。なお、図15は、一実施形態に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置の概略斜視図であり、図16は、要部を拡大した平面図である。
【0081】
図15に示すインクジェット式記録装置100において、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッド101を有する記録ヘッドユニット102は、インク供給手段を構成するカートリッジ103が着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット102を搭載したキャリッジ104は、記録装置本体105に取り付けられたキャリッジ軸106に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット102は、例えば、ブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0082】
そして、駆動モーター107の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト108を介してキャリッジ104に伝達されることで、記録ヘッドユニット102を搭載したキャリッジ104はキャリッジ軸106に沿って移動される。一方、記録装置本体105にはキャリッジ軸106に沿ってプラテン109が設けられており、給紙手段110によって給紙された紙等の被噴射媒体である記録シートSがプラテン109に巻き掛けられて搬送される。記録シートSは、プラテン109上でインクジェット式記録ヘッド101から吐出されたインクによって印刷される。そしてプラテン109上で印刷された記録シートSは、プラテン109の給紙手段110とは反対側に設けられた排紙手段120によって排紙される。
【0083】
図16に示すように、給紙手段110は、給紙ローラー111と従動ローラー112とで構成されている。給紙ローラー111には、その端部に上述した圧電モーター1の回転軸3が固定されており、圧電アクチュエーター10の駆動によって回転駆動される。また、給紙ローラー111には、同軸上に第1歯車113が設けられている。
【0084】
排紙手段120は、排紙ローラー121と従動ローラー122とで構成されている。排紙ローラー121には同軸上に第2歯車123が設けられている。そして、給紙ローラー111の第1歯車113が、この第1歯車113に噛み合う第3歯車130、第3歯車130に噛み合う第4歯車131、第4歯車に噛み合う第5歯車132を介して排紙ローラー121の第2歯車123に噛み合うことで、給紙ローラー111を回転駆動する圧電モーター1の駆動力が、排紙ローラー121に伝達される。
【0085】
なお、図15及び図16に示す例では、圧電モーター1によって、給紙手段110及び排紙手段120を回転駆動するものであるが、例えば、上述した実施形態の圧電モーター1を、キャリッジ104を移動させる駆動モーター107の代わりに用いることも可能である。もちろん、その他の駆動系、例えば、インクジェット式記録ヘッド101にインクを供給するポンプ等に圧電モーター1を用いることもできる。また、本実施形態では、上述した実施形態1の圧電モーター1を用いたが、特にこれに限定されず、例えば、上述した実施形態2の圧電モーター1Aを用いるようにしてもよい。
【0086】
なお、本発明は、広く液体噴射装置全般を対象としたものであり、圧電モーターは、上述したインクジェット式記録装置以外の液体噴射装置に搭載することが可能である。その他の液体噴射装置としては、例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射装置、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射装置等が挙げられる。
【0087】
さらに、上述した実施形態の圧電モーター1、1Aは、時計の駆動手段としても用いることができる。ここで、実施形態1の圧電モーター1を用いた時計の一例を図17に示す。
【0088】
図17に示すように、時計200を構成するカレンダー表示機能は、圧電モーター1に連結されており、その駆動力によって駆動される。
【0089】
カレンダー表示機能の主要部は、圧電モーター1の回転軸3の回転を減速する減速輪列とリング状の日車201とを具備する。また、減速輪列は日回し中間車202と、日回し車203とを有する。
【0090】
そして、上述の圧電モーター1の圧電アクチュエーター10によって回転軸3を時計回りに回転駆動させると、回転軸3の回転は、日回し中間車202を介して日回し車203に伝達され、この日回し車203が日車201を時計回りに回転させる。これら圧電アクチュエーター10から回転軸3、回転軸3から減速輪列(日回し中間車202、日回し車203)、減速輪列から日車201への力の伝達は、何れも面内方向で行われる。このためカレンダー表示機構を薄型化することができる。
【0091】
また、日車201には、周方向に沿って日付を表す文字が印刷された円盤状の文字板204が固定されている。そして、時計200の本体には、文字板204に設けられた一文字を露出する窓部205が設けられており、窓部205から日付が覗けるようになっている。なお、時計200には、特に図示していないが、長針及び短針や、これら長針及び短針を駆動するムーブメント等が設けられている。
【0092】
なお、圧電モーター1は、カレンダー表示機構だけではなく、時計の長針・短針等を駆動するムーブメントとして利用することができる。これら時計の長針・短針等を駆動する構造については従来周知の電磁モーター等の代わりに上述した圧電モーター1、1Aを組み込むだけで可能である。
【0093】
また、本発明は、広く圧電モーター全般を対象としたものであり、上述した液体噴射装置や時計以外の小型デバイスに利用することが可能である。圧電モーターを利用できる小型デバイスとしては、医療用ポンプ、カメラ、産業用や義手などのロボット等が挙げられる。
【符号の説明】
【0094】
1、1A 圧電モーター、 3 回転軸、 10、10A 圧電アクチュエーター、 20、20A 振動部材、 30、30A、30A、30C 圧電素子、 40 圧電体層、 50 第1電極、 60、60A 第2電極、 70、70A 溝部、 80 付勢手段、 100 記録装置、 200 時計、 300 制御部、 305 オフセット手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体層と該圧電体層を挟んで両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極とを有する圧電素子と、該圧電素子が固定された振動部材と、を有する圧電アクチュエーターと、
前記振動部材の端面が当接されて回転駆動する回転軸と、
前記圧電アクチュエーターを前記回転軸側に向かって付勢する付勢手段と、を具備する圧電モーターであって、
前記圧電素子に駆動信号を印加すると共に、前記駆動信号の電圧をオフセットする制御部を有することを特徴とする圧電モーター。
【請求項2】
前記振動部材には、両面にそれぞれ前記圧電素子が設けられていると共に、前記制御部は、前記振動部材の一方面に設けられた前記圧電素子と、前記振動板の他方面に設けられた前記圧電素子とに、互いに異なる電圧でオフセットした前記駆動信号を印加することを特徴とする請求項1記載の圧電モーター。
【請求項3】
前記制御部は、前記振動部材の一方面に設けられた前記圧電素子と、前記振動板の他方面に設けられた前記圧電素子とに、互いに逆符号となる同じ電圧でオフセットした前記駆動信号を印加することを特徴とする請求項2記載の圧電モーター。
【請求項4】
前記振動部材の端面が、前記回転軸の外周面に当接するように配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電モーター。
【請求項5】
前記振動部材の端面が、前記回転軸の軸方向端面に当接するように配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電モーター。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の圧電モーターを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
前記圧電モーターが、液体が噴射される被噴射媒体を搬送する給紙手段として用いられることを特徴とする請求項6記載の液体噴射装置。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか一項に記載の圧電モーターを具備することを特徴とする時計。
【請求項1】
圧電体層と該圧電体層を挟んで両側にそれぞれ設けられた第1電極及び第2電極とを有する圧電素子と、該圧電素子が固定された振動部材と、を有する圧電アクチュエーターと、
前記振動部材の端面が当接されて回転駆動する回転軸と、
前記圧電アクチュエーターを前記回転軸側に向かって付勢する付勢手段と、を具備する圧電モーターであって、
前記圧電素子に駆動信号を印加すると共に、前記駆動信号の電圧をオフセットする制御部を有することを特徴とする圧電モーター。
【請求項2】
前記振動部材には、両面にそれぞれ前記圧電素子が設けられていると共に、前記制御部は、前記振動部材の一方面に設けられた前記圧電素子と、前記振動板の他方面に設けられた前記圧電素子とに、互いに異なる電圧でオフセットした前記駆動信号を印加することを特徴とする請求項1記載の圧電モーター。
【請求項3】
前記制御部は、前記振動部材の一方面に設けられた前記圧電素子と、前記振動板の他方面に設けられた前記圧電素子とに、互いに逆符号となる同じ電圧でオフセットした前記駆動信号を印加することを特徴とする請求項2記載の圧電モーター。
【請求項4】
前記振動部材の端面が、前記回転軸の外周面に当接するように配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電モーター。
【請求項5】
前記振動部材の端面が、前記回転軸の軸方向端面に当接するように配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の圧電モーター。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の圧電モーターを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項7】
前記圧電モーターが、液体が噴射される被噴射媒体を搬送する給紙手段として用いられることを特徴とする請求項6記載の液体噴射装置。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか一項に記載の圧電モーターを具備することを特徴とする時計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−233337(P2010−233337A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77872(P2009−77872)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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