説明

地盤改良方法

【課題】地盤の固結に際して有害物質を発生せず、このため環境への悪影響を与えることがなく、しかも大掛かりな装置や有害な薬品を必要とせず、液状化対策工事、構造物基礎下の耐震補強、土砂や岩盤の止水等に適した地盤改良方法を得る。
【解決手段】地盤中に、シリカ化合物および微生物を投入し、微生物による有機物の代謝作用によって二酸化炭素を発生させ、発生した二酸化炭素によりシリカ化合物を硬化させて地盤を固結する。上述シリカ化合物は水ガラス、活性シリカ、およびコロイダルシリカの群から選択され、微生物は乳酸菌、イースト菌、好気性菌および嫌気性菌の群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤中で微生物による代謝によって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素によりシリカ化合物を硬化させて地盤を固結する地盤改良方法に係り、特に、地盤の固結に際して有害物質を発生せず、このため環境への悪影響を与えることがなく、しかも大掛かりな装置や有害な薬品を必要とせず、液状化対策工事、構造物基礎下の耐震補強、土砂や岩盤の止水等に適した地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
注入材により地盤を固結して地盤改良を図る方法として、従来、地盤中に注入材として水ガラスや、セメントを注入して地盤を固結する方法が採用されていた。
【0003】
しかし、この方法では注入材が強アルカリであったり、あるいは強酸を使用したり等、環境への悪影響を与える恐れがあり、さらには取り扱いに注意が必要であり、また、使用できる地盤が限定されている。
【0004】
また、本出願人による先願として、水ガラスと炭酸ガスとを一定比率で加圧し供給し、炭酸ガスの吸収された水ガラス水溶液を吐出して地盤注入薬液を得る製造方法が公知となっている。
【0005】
本発明者らはさらに上記方法を改良し、活性シリカや、水ガラスや、水ガラスをコロイド状にしたものを注入材として用い、微生物による代謝作用によって二酸化炭素を発生させることにより、酸やアルカリの使用量を少なくしても、ゲル化時間の長い、安定したゲルを得ることを見出し、環境に悪影響を与えないグラウトを開発して本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題はシリカ化合物を強酸や強アルカリによることなく固結し、環境への悪影響の低減を追求し、改良地盤周辺に有害な物質を発生させず、しかも地盤改良後においても有害な物質を発生させず、上述の公知技術に存する欠点を改良した地盤改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明によれば、地盤中シリカ化合物および微生物を投入し、この微生物による有機物の代謝作用によって二酸化炭素を発生させ、発生した二酸化炭素によりシリカ化合物を硬化させてゲル化物を形成し地盤を固結することを特徴とする

【発明の効果】
【0008】
本発明に使用される物質は自然界に一般的に存在するものであり、地盤改良後も周辺の地盤に影響を与えにくく、地下水や土壌を汚染することも少ないため、環境保全上デリケートな場所において有効に地盤改良し、改良後も環境汚染の恐れがない。
【0009】
また、大掛かりな装置や、有害な薬品を使う必要がないため、地盤改良の工事現場にて容易に設置できる。特に液状化対策工事等、構造物基礎下のガス、電気、水道管等の地下埋設が多い条件の耐震補強にも適している。さらにカルシウム化合物、栄養分(栄養源)、二酸化炭素、ゲル化調整剤の一種または複数を注入することで、ゲル化時間の調整や改良地盤の強度増加をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施例によって詳述する。
【0011】
本発明は上述のとおり、シリカ化合物および微生物を注入等によって地盤中に投入する。投入された微生物は地盤中に存在する有機物等の栄養源を代謝作用によって分解し、二酸化炭素を発生する。シリカ化合物はこの発生した二酸化炭素により硬化し、地盤を固結して地盤改良する。
【0012】
本発明に用いられるシリカ化合物としては、水ガラス、活性シリカ、シリカコロイド等が挙げられる。また、微生物としては、人体や環境に影響を与えにくいものならば、使用可能である。特に、乳酸菌やイースト菌等、従来より食品に利用されているものや、好気性ないしは嫌気性条件下で炭酸ガスを発生する微生物であって、地盤中に多く存在するものであれば良い。また、自然界に存在する微生物であってもよい。
【0013】
通常、一般の土壌には1g当り10〜10個の微生物が存在しており、細菌、真菌、藻類、原生動物、藻等が挙げられる。そのうち本発明に有効に働く微生物としては糖、脂肪族、乳酸のエーテル結合やエステル結合を加水分解する酵素をもつセルロース分解菌が特に有効である。
【0014】
地中で活性化する微生物としては爆気、攪拌による空気を送る必要のない通性嫌気性菌である醗酵菌、腐敗菌を用いることもできる。特に酵母菌、乳酸菌はアンモニア、メタン等の有毒物質を生成せず、同時に注入する堆肥中の有機物を用いて増殖し代謝を促進する働きを持つ。
【0015】
特に、ラクトバチルス(乳酸菌)のような嫌気性菌は全て無胞子の嫌気性菌であって、酵素を消耗しない状態でアルコールや有機酸を生成する。好気性担子菌や、糸状菌は地表面から1〜10cm位にある土中の草木を腐らす。また、ラクトバチルス菌群は表層、中層、下層に分布される。
【0016】
したがって、本発明ではたとえ空気が殆どない地中5〜10m、あるいはそれ以深に埋設されていても、同時にこれらの嫌気性菌を注入し、あるいは填充することにより、二酸化炭素を発生しシリカ化合物を固化せしめることが出来る。上述菌として、具体的には、ラクトバチルスで醗酵させた植物性有機物(油かす、米ぬか)、動物性有機物、あるいは植土、汚泥、コンポスト等、植物繊維の腐蝕したもの、あるいは醗酵したもの等が使用される。
【0017】
なお、本発明では併用する微生物が活性化するPHに調整する必要があるため、少量のPH調整剤を用いても良い。シリカコロイドはコロイド化しており、Na含有量が少ないことにより中性付近のPHで長時間安定し、また少ない硬化剤によってゲル化することから、本発明に適している。また、シリカ化合物に微量の酸を加え、コロイド化したものを使用することで、ゲル化時間を調整することもできる。
【0018】
本発明に用いられるシリカ化合物は水ガラス、活性シリカ、コロイダルシリカ、中性ないしは酸性シリカゾル等である。ここで、水ガラスとしては水ガラス水溶液、これに酸、塩あるいは有機系反応剤、例えば、グリオキザール等のアルデヒド化合物、酢酸エステル、ジエステル、トリエステル、炭酸エステル等のエステル類を加えた水ガラス水溶液、あるいは水ガラスのアルカリを酸で中和して得られる中性〜酸性シリカ溶液、活性シリカ、シリカコロイド、ホワイトカーボン水溶液等が挙げられる。
【0019】
活性シリカは水ガラスをイオン交換樹脂、またはイオン交換膜で処理して水ガラス中のアルカリの一部または全部を除去して得られる。また、水ガラスと酸を混合してなる酸性水ガラスをイオン交換樹脂、またはイオン交換膜に通過させ、水ガラス中の塩の一部または全部を脱塩して得られたものであってもよい。
【0020】
なお、活性シリカのシリカ濃度が低い場合には、加熱濃縮したり、コロイダルシリカ、水ガラス等を適宜に添加してシリカ濃度を上げることもできる。活性シリカのシリカ濃度は1〜8重量%、PHは2〜4である。このような活性シリカはシリカリ粒径が1〜5nmに成長して数日後にはゲル化するが、苛性アルカリや水ガラス等のアルカリを加えてアルカリ側のPHにすることにより安定化される。この安定化した活性シリカに現場で酸や塩を加えてアルカリPHやゲル化時間を調整し、使用に供される。また、活性シリカに酸を加え、可使時間を長くしてゲル化時間を調整することもできる。この種の活性シリカはゲル化時間を長く調整できるのみならず、低濃度でもゲル化し、かつ固結後の耐久性にも優れている。粘度は水とほとんど変わらず、2cps以下である。
【0021】
コロイダルシリカは上述の活性シリカを加熱することにより濃縮増粒し、PHを9〜10に調整して安定化して得られるが、PHが酸性〜中性であってもよい。このようにして得られたコロイダルシリカはシリカ濃度が5%以上、通常は30%程度であり、また粒径が5〜20nmであるが、それ以上、例えば、100nm程度まで大きくすることができる。
【0022】
酸性〜中性シリカゾルは水ガラスを過剰またはほぼ当量の酸と混合し、水ガラス中のアルカリ分を中和除去して得られるPHが酸性ないしは5〜9程度の中性シリカ水溶液である。これは通常、注入現場で調整され、通常の地盤注入ではシリカ濃度では3〜10%で使用される。このシリカゾルもまたアルカリが除去されているため、耐久性に優れ、シリカ濃度が1%以下でもゲル化する。粘度は水とほとんど同じであり、2cps以下である。
【0023】
上述の栄養分とは微生物の栄養源となるものであり、これをシリカ化合物や微生物とともに地盤中に投入してもよい。この具体例としては、土壌中の微生物によって代謝分解される糖類であり、例えばグルコースやフラクトースなどの単糖類、スクロース、マルトースあるいはガラクトースなどの2糖類、その他オリゴ糖、でんぷんやマルトデキストリンなどの多糖類、その他の糖類を例示することができる。なかでも、幅広い、微生物によって容易に代謝されるグルコース、あるいはスクロースの利用が好ましい。
【0024】
さらに、本発明は多価金属化合物を併用することもできる。この多価金属化合物は二酸化炭素と反応して不溶性の多価金属炭酸塩を生成し、シリカ化合物のゲル化反応を調整し、かつ、固結物の強度を増強する。上述の多価金属化合物としては、塩化カルシウム等のカルシウム塩や塩化マグネシウム等の多価金属塩、カルシウム水酸化物、微粒子石灰や、微粒子セメント、微粒子スラグ、石膏、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、地盤中に含まれる貝殻等のカルシウムや石灰等も反応に影響する。
【0025】
さらに本発明はシリカ化合物のゲル化調整剤を併用することもできる。ゲル化調整剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム等の無機塩、微量の酸、有機塩等が挙げられる。
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
炭酸ガスとシリカ化合物の反応実験
試験管にシリカ化合物としてコロイダルシリカ、活性シリカ、水ガラスをそれぞれ10mlとり、炭酸ガスをホースにて送った。炭酸ガスはドライアイスを気化させたものを用いそれぞれ室温、大気下で24時間静置した。24時間後、すべてのシリカ化合物にゲル化が見られた。
【0027】
水ガラス:比重(20℃)1.32、SiO濃度25.5%、NaO濃度7.23%、モ ル比3.75、PH11.5のものを使用。
コロイダルシリカ:陽イオン交換樹脂で処理した水ガラス水溶液にアルカリを添加し、加 熱して縮合安定化せしめ、濃縮した無水珪酸のこう質溶液であって、
SiO:約30%、NaO:0.7%以下、比重(20℃): 1.21〜1.22、PH:9〜10の物性を呈するコロイダルシリ カ。
活性シリカ:JIS3号水ガラスを水で希釈した液を陽イオン交換樹脂に通過して処理 し、得られるPH2.7、比重1.03、SiO=4.0%の活性シリカ。
【実施例2】
【0028】
イースト菌とシリカコロイドのゲル化
実施例1にて使用したシリカコロイドに微生物を加えた時のゲル化の有無を調べた。
シリカコロイド10mlに微生物としてイースト菌(日清フーズ株式会社製、日清スーパーカメリヤ)0.6g,栄養源としてグルコースC120.3gを表1の配合にて、ねじ口試験管に加え、よく混合し、室温、大気下で24時間静置した。24時間後に試験管を上下に倒置してゲル化の有無を確認した。
【0029】
【表1】

【0030】
イースト菌無添加の比較例1、2ではゲル生成物は認められなかったが、イースト菌を含む本発明1、2では試験管を倒置しても内容物が落下せず微生物によるシリカコロイドのゲル化が確認された。また、本発明2のコロイダルシリカに微生物のみを加えた試験管では一部にゲル化が見られたのに対し、本発明1のコロイダルシリカに微生物と栄養源を加えた試験管ではコロイダルシリカ溶液全体がゲル化したことから、微生物の代謝によって放出した炭酸ガスがゲル化にあずかり、特に栄養源によってゲル化を促進できることがわかった。
【実施例3】
【0031】
シリカ化合物に微生物、カルシウム化合物、ゲル化調整剤を反応させる実験を行った。
(1)使用材料
水ガラス:実施例1で使用したもの。
コロイダルシリカ:実施例1で使用したもの。
微生物:イースト菌(日清フーズ株式会社製、日清スーパーカメリヤ)
栄養源:グルコース
4%AS:上記水ガラスにゲル化調整剤として少量の75%リン酸を加えてシリカ濃度 4%に調節したもの。
8%AS:上記水ガラスにゲル化調整剤として少量の75%リン酸を加えてシリカ濃度 8%に調節したもの。
表2に示す配合にて24時間後のゲル化の有無の観察を行った。
【0032】
【表2】

【0033】
1.コロイダルシリカにイースト菌を加えたものは(No.1)は、1000分以内にゲル 化が見られた。またグルコースの量を増やした配合(No.2)も1000分以内にゲ ル化が見られた。
2.水ガラスにイースト菌を加えたもの(No.3)はイースト菌が溶解せずゲル化し なかった。イースト菌を水で希釈し水ガラスに加えた配合(No.4)は1000分以 内にゲル化せず約4000分でゲル化した。
3.シリカ濃度4%、8%に希釈した水ガラスに少量の75%燐酸を加えた配合(比較 1、2)は1000分後にはゲル化しないが、イースト菌とグルコース、水を加えると 約200分でゲル化した(No.5、6)
【0034】
以上より、次のことが検証された。
1.コロイダルシリカにイースト菌を加えると配合後微生物の代謝により二酸化炭素が発生し、薬液中のPHが低くならためにゲル化する。
2.水ガラスそのものにはイースト菌が溶解しにくいためゲル化しにくい。
3.希釈した水ガラスはイースト菌を加えてもゲル化するが、ゲル化時間が長くなる。
4.希釈した水ガラスに少量のゲル化調整剤を加えたものにイースト菌を加えると、イースト菌を加えないときと比べ、あるいは希釈した水ガラスにイースト菌を加えた時と比べ、ゲル化時間を短くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
地盤中で微生物による代謝によって二酸化炭素を発生させ、この二酸化炭素によりシリカ化合物を硬化させて地盤を固結することにより、地盤の固結に際して有害物質を発生せず、このため環境への悪影響を与えることがなく、しかも大掛かりな装置や有害な薬品を必要とせず、したがって、液状化対策工事、構造物基礎下の耐震補強等に適した地盤改良方法であって、地盤の固結技術分野への利用性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に、シリカ化合物および微生物を投入し、微生物による有機物の代謝作用によって二酸化炭素を発生させ、発生した二酸化炭素によりシリカ化合物を硬化させて地盤を固結することを特徴とする地盤改良方法。
【請求項2】
請求項1において、シリカ化合物が水ガラス、活性シリカ、およびコロイダルシリカの群から選択される請求項1の地盤改良方法。
【請求項3】
請求項1において、微生物が乳酸菌、イースト菌、好気性菌および嫌気性菌の群から選択される請求項1の地盤改良方法。
【請求項4】
請求項1において、さらに地盤中に微生物栄養源を投入する請求項1の地盤改良方法。
【請求項5】
請求項4において、微生物栄養源が単糖類、二糖類および多糖類の群から選択される請求項4の地盤改良方法。
【請求項6】
請求項5において、単糖類がグルコースまたはフラクトースであり、二糖類がスクロース、マルトース、またはガラクトースであり、多糖類がオリゴ糖、でんぷんまたはマルトデキストリンである請求項5に記載の地盤改良方法。
【請求項7】
請求項1において、二酸化炭素、炭酸水、または酸素を併用して有機物の代謝作用を調整し、かつシリカ化合物のゲル化時間を調整する請求項1の地盤改良方法。
【請求項8】
請求項1において、さらに、多価金属化合物を併用し、この多価金属化合物と二酸化炭素が反応して、不溶性の多価金属炭酸塩を生成し、シリカ化合物のゲル化時間を調整し、かつ固結物の強度を増強する請求項1の地盤改良方法。
【請求項9】
請求項8において、多価金属化合物がカルシウム塩、多価金属塩、カルシウム水酸化物、微粒子石灰、微粒子セメント、微粒子スラグ、石膏、および炭酸カルシウムの群から選択される請求項8の地盤改良方法。
【請求項10】
請求項1において、さらにゲル化調整剤を併用する請求項1の地盤改良方法。
【請求項11】
請求項10において、ゲル化調整剤が塩化カルシウム、および/または塩化ナトリウムからなる無機塩、微量の酸、有機塩およびシリカ化合物の群から選択される請求項10の地盤改良方法。


【公開番号】特開2007−332617(P2007−332617A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164265(P2006−164265)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】