説明

基板支持部材

【課題】高周波電極の基板が載置されている側の空間におけるプラズマ生成密度の均等化を図ることができる基板支持部材を提供する。
【解決手段】高周波電極12には孔121またはスリット122が設けられている。高周波電極12はそのα倍(0.25≦α≦0.75)の半径αrを有する同心円Cにより複数の範囲に区分されている。当該範囲のそれぞれにおける孔121またはスリット122の分布または配置態様が差別化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波プラズマ処理装置に搭載される基板支持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波プラズマを利用してウェハ等の基板上に薄膜を形成するためのCVD装置等の半導体プロセス装置に用いられる基板支持部材として、セラミックス基体にヒーターエレメントとプラズマ発生用電極とが埋設されて構成されているヒータープレートが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−088498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来、図6に示されているように平滑な金属箔または印刷金属層等が、セラミック基体に内蔵されている高周波電極として用いられている。また、高周波電極およびこれに対する電力供給系をプラズマガスから保護する等の観点から、図6に示されているように高周波電力が高周波電極に対してその中央部分(破線で囲まれている略中心給電位置)を通じて供給される。その結果、高周波電流は高周波電極の略中心付近から径方向外側に伝播するが、電極の体積抵抗率または厚さなどの因子のため、電極上方の空間におけるプラズマインピーダンス、ひいてはプラズマ生成密度が不均一になる。このため、製膜プロセスによっては膜厚が基板ごとに相違する、あるいは、膜厚が高周波電極の径方向について不均一となる傾向がある。
【0005】
また、複数の円形孔が一様に設けられている円板状の金属電極またはメッシュ状の金属が高周波電極として用いられる場合も、電極の径方向について高周波電流の伝播に進みまたは遅れが生じることにより、電極の上方空間におけるプラズマ生成密度が不均一になる。このため、基板に形成される膜厚が高周波電極の径方向について不均一となる傾向がある。
【0006】
そこで、本発明は、高周波電極の基板が載置されている側の空間におけるプラズマ生成密度の均等化を図ることができる基板支持部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板が載置される載置面を有するセラミックス基体と、前記載置面に対して平行な姿勢で前記セラミックス基体に埋設されている金属または金属間化合物からなる略円板形状の高周波電極と、前記高周波電極の中央部分に接続されている高周波電力供給用の端子とを備えている基板支持部材に関する。
【0008】
本発明は、前記高周波電極には孔またはスリットが設けられ、前記高周波電極のα倍(0.25≦α≦0.75)の半径を有する同心円により区分されている前記高周波電極の複数の範囲のそれぞれにおける前記孔または前記スリットの分布または配置態様が差別化されていることを特徴とする。
【0009】
前記孔または前記スリットが前記高周波電極の中心回りの回転対称性を有するように設けられていてもよい。
【0010】
前記高周波電極が円状の第1範囲と、前記第1範囲を取り囲む環状の第2範囲とに区分され、前記第1範囲および前記第2範囲のうち一方には孔またはスリットが設けられている一方、前記第1範囲および前記第2範囲のうち他方には孔およびスリットがなく平坦であってもよい。
【0011】
前記高周波電極が円状の第1範囲と、前記第1範囲を取り囲む環状の第2範囲とに区分され、前記第1範囲および前記第2範囲のそれぞれに前記孔または前記スリットが設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の基板支持部材の構成説明図。
【図2】第1実施形態の高周波電極の構成説明図。
【図3】第1実施形態の高周波電極におけるスリット等の配置態様に関する説明図。
【図4】第2実施形態の高周波電極の構成説明図。
【図5】第2実施形態の高周波電極におけるスリット等の配置態様に関する説明図。
【図6】従来の高周波電極の構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(基体支持部材の構成)
図1に示されている、本発明の一実施形態としての基体支持部材1は、基板Wが載置される載置面10を有するセラミックス基体11と、載置面10に対して平行な姿勢でセラミックス基体11に埋設されている高周波電極12と、高周波電極12の中央部分に接続されている高周波電力供給用の端子13とを備えている。
【0014】
セラミックス基体11は、略円盤状のセラミックス焼結体であり、温度分布に局所的な不均等を抑制するため、たとえば、熱伝導率が高い窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする原料から製造されている。また、均熱性を向上させるため、原料にイットリア(Y23)が添加されてもよい。セラミックス基体11は、窒化アルミニウムのほか、炭化ケイ素(SiC)、Mg2Al24、Al23等を原料としたセラミックス焼結体であってもよい。
【0015】
プラズマ発生用電極としての高周波電極12は、好ましくはモリブデンまたはタングステンなどの耐熱金属の箔またはメッシュ状シートからパターン加工されて形成されている。高周波電極12は印刷によって形成されてもよい。高周波電極12の詳細な構成については後述する。
【0016】
端子13は、コバール、モリブデンまたはニッケル等の比較的熱膨張係数の小さな金属により略有底円筒状に形成され、ロウ付け等により高周波電極12の中央部分に接続かつ固定されている。端子13の当該筒の内部には耐熱性および耐酸化性の観点からNi等からなるロッド電極14が挿入された上で、ロウ付けにより接続かつ固定されている。
【0017】
セラミックス基体11には、たとえば高周波電極12の下方に、基体Wの温度を調節するための抵抗発熱体が埋設されていてもよい。一対以上のNi等のロッド電極が抵抗発熱体に対して接続され、ヒーター電源(図示略)から当該ロッド電極を通じて抵抗発熱体に電力が供給されることにより、抵抗発熱体は発熱する。
【0018】
図1に示されている基体支持部材1は、その載置面10と反対側の面の中央部分においてシャフト15と接合されている。接合されて使用することでシャフト15へ熱量が伝わることにより支持部材端部は冷却されやすい。そのため図1に示したような中心付近にシャフト15を接合したような基体支持部材1は中心付近の温度分布が変化しやすく、成膜プロセスにおける膜厚制御が困難である。
【0019】
また、冷却の速度やプロセス温度は成膜条件によって異なる。そのためプラズマ生成密度の均一化を図るために、本発明のような電極形態にすることは非常に有意義である。
【0020】
(高周波電極の構成)
高周波電極12には孔またはスリット(適宜「スリット等」という。)が設けられている。高周波電極12の半径(または中心から最外郭の弧状の縁までの距離)rのα倍(0.25≦α≦0.75)の半径αrを有する同心円により区分されている高周波電極12の複数の範囲のそれぞれにおける孔またはスリットの分布または分布態様が差別化されている。αが0.25未満または0.75を超える場合は、プラズマ生成密度の均等化の効果が減じてしまう。基体支持部材1の載置面10の上方空間におけるプラズマ生成密度の均等化を図るため、より好ましくはαが0.40〜0.60の範囲の値に設定されてもよい。
【0021】
(高周波電極の構成(第1実施形態))
第1実施形態の基体支持部材1に用いられる高周波電極12は、図2(a)〜(c)に示されているように、半径αrの1つの同心円C(破線参照)により、円状の第1範囲S1と、第1範囲S1を取り囲む環状の第2範囲S2とに区分されている。第1範囲S1および第2範囲S2のうち一方にはスリット等が設けられている一方、第1範囲S1および第2範囲S2のうち他方には孔もスリットもなく平坦とされている。
【0022】
高周波電極12の輪郭は完全に円形である必要はなく、その輪郭のうち80%以上の部分が同一の円周上にある等、略円形状であればよい。
【0023】
(実施例1)
主成分である窒化アルミニウム(AlN)に3wt%のイットリア(Y23)が添加された原料から、外径300[mm]、厚さ25[mm]の円盤状のセラミックス焼結体がセラミックス基体1として製造された。窒化アルミニウム(AlN)に5wt%のイットリア(Y23)が添加された原料から、外径50[mm]、内径は40[mm]、高さ150[mm]の略円筒状のシャフト15が製造された。高周波電極12はφ290[mm]、厚さ0.1[mm]のMoシートにより構成されている。
【0024】
図2(a)に示されているように、高周波電極12の第1範囲S1において、回転対称性を有するように配置されている3つのスリット122が形成されている。各スリット122は、まっすぐな線分がその真ん中付近で約120°だけ屈曲した形状であり、高周波電極12の中心付近に当該屈曲箇所が位置している。その一方、高周波電極12の第2範囲S2にはスリットも孔も形成されていない。αは「0.50」に設定された。
【0025】
高周波電極12におけるスリット等の分布態様は、高周波電極12の中心から距離xにある同心円の円周の長さに対する、当該円周のうちスリット等が重なっている部分の長さの比率yにより表わされる。スリット等の分布態様は、当該距離xに対する当該比率yの変化態様を意味する。
【0026】
実施例1の高周波電極12のスリット等の分布態様を示す図3(a)から、第1範囲S1に相当する距離範囲のうち、同心円が同幅のスリット122に重なる距離範囲において、高周波電極12の中心からの距離xに対して比率yが反比例して減少している箇所があることがわかる。
【0027】
プロセスにも依存するが、たとえば、PECVD製膜プロセスでは、(1)プラズマのアシストにより原料ガスが分解し、(2)中間体が基板に吸着し、(3)基板上に吸着した中間体が脱水や脱アルコールなどの反応を経て、最終製膜物に化学変化するというようにいくつかの素反応から構成される。そのなかでプラズマの均一性が律速になる素反応がある場合、その変動を抑制または制御する必要がある。その場合の手段として電極の半径方向のインピーダンスの調整が必要かつ効果が高い。
【0028】
基体支持部材1の載置面10側の空間におけるプラズマ生成密度の均一性を評価するため、本実施例ではPECVD製膜プロセス1により基板W上にSiO2膜が形成され、その膜厚の標準偏差が測定された。その結果、その標準偏差を平均膜厚で割った変動係数は1.0[%]であった。
【0029】
(実施例2)
図2(b)に示されているように、高周波電極12の第1範囲S1において、複数の同心円のそれぞれに沿って回転対称性を有するように配置されている複数の円形状の孔121が形成されている。その一方、高周波電極12の第2範囲S2にはスリットも孔も形成されていない。これ以外の構成は第1実施例と同様である。
【0030】
実施例2の高周波電極12のスリット等の分布態様を示す図3(b)から、第1範囲S1に相当する距離範囲において、高周波電極12の中心からの距離xに対して、比率yが断続的に増減を繰り返していることがわかる。
【0031】
本実施例で使用したPECVD製膜プロセス1により基板W上に形成されたSiO2膜の膜厚の変動係数は0.6[%]であった。このときのαは「0.50」に設定された。
【0032】
(実施例3)
図2(c)に示されているように、高周波電極12の第2範囲S2において、複数の同心円のそれぞれに沿って回転対称性を有するように配置されている複数の円形状の孔121が形成されている。その一方、高周波電極12の第1範囲S1にはスリットも孔も形成されていない。これ以外の構成は第1実施例と同様である。
【0033】
実施例3の高周波電極12のスリット等の分布態様を示す図3(c)から、第2範囲S2に相当する距離範囲において、高周波電極12の中心からの距離xに対して、比率yが断続的に増減を繰り返していることがわかる。
【0034】
本実施例で使用したPECVD製膜プロセス2により基板W上に形成されたSiO2膜の膜厚の変動係数は0.9[%]であった。このときのαは「0.75」に設定された。
【0035】
(第2実施形態の高周波電極の構成)
第2実施形態の基体支持部材1に用いられる高周波電極12は、図4に示されているように、半径αrの1つの同心円C(破線参照)により、円状の第1範囲S1と、第1範囲S1を取り囲む環状の第2範囲S2とに区分されている。第1範囲S1および第2範囲S2のそれぞれにスリット等が設けられている。
【0036】
(実施例4)
図4に示されているように、高周波電極12の第1範囲S1には、回転対称性を有するように配置されている複数の扇状のスリット122が形成されている。また、高周波電極12の第2範囲S2には回転対称性を有するように配置されている複数の直線状のスリット122が形成されている。
【0037】
実施例4の高周波電極12のスリット等の分布態様を示す図5から、第1範囲S1に相当する距離範囲のうち、同心円が扇状のスリット122に重なる距離範囲において、高周波電極12の中心からの距離xに対して比率yが徐々に減少している箇所があることがわかる。同じく図5から、第2範囲S2に相当する距離範囲のうち、同心円が直線状のスリット122に重なる距離範囲において、高周波電極12の中心からの距離xに対して比率yが徐々に減少している箇所があることがわかる。
【0038】
第1範囲S1および第2範囲S2のそれぞれにおけるスリット122の形状の相違等のため、第2範囲S2における距離xに対する比率yの減少率は、第1範囲S1における距離xに対する比率yの減少率よりも小さい。
【0039】
本実施例で使用したPECVD製膜プロセス1により基板W上に形成されたSiO2膜の膜厚の変動係数は0.5[%]であった。このときのαは「0.25」に設定された。
【0040】
(比較例)
図6に示されている平坦な高周波電極が採用されている場合、PECVD製膜プロセスにより基板W上に形成されたSiO2膜の膜厚の変動係数は3.5[%]であった。
【0041】
表1には、各実施例および比較例のPECVD製膜プロセスにより基板W上に形成されたSiO2膜の膜厚の変動係数が示されている。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から、実施例1〜4のそれぞれにおける膜厚の変動係数は、比較例の膜厚の変動係数より小さく、成膜の均等化が図られていること、ひいては、プラズマ生成密度の均一化が図られていることがわかる。また、αは0.25〜0.75の範囲で好適であることがわかる。
【0044】
(本発明の作用効果)
前記構成の本発明の基板支持部材によれば、高周波電極12に設けられている孔121またはスリット122の分布態様または分布態様(図3および図5参照)が工夫されたことにより、当該高周波電極12、ひいては載置面10側の空間におけるプラズマ生成密度の均等化を図ることができる。これにより、載置面10に載置されている基板Wの表面処理の均等化が図られる(表1参照)。
【0045】
(本発明の他の実施形態)
前記実施形態では、高周波電極12が1つの同心円Cにより、円状の第1範囲S1と、1つの環状の第2範囲S2とに区分されたが、他の実施形態として、高周波電極12が複数の同心円Cにより、円状の第1範囲S1と、これを取り囲む複数の環状の第2範囲S2とに区分されてもよい。また、複数の第2範囲のそれぞれにおけるスリット等の分布態様が相互に差別化されてもよい。
【0046】
高周波電極に設けられるスリット等が当該高周波電極の中心回りの回転対称性を有するように配置されていなくてもよい。
【0047】
高周波電極に孔およびスリットの両方が設けられてもよい。たとえば、第1実施形態において、第1範囲S1および第2範囲S2のうち一方にスリットおよび孔の両方が設けられてもよい。また、第2実施形態において、第1範囲S1および第2範囲S2のうち一方または両方にスリットおよび孔の両方が設けられてもよく、第1範囲S1および第2範囲S2のうち一方にスリットが設けられる一方、他方に孔が設けられてもよい。
【0048】
高周波電極には基板を静電吸着するための電圧が重畳されてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1‥基体支持部材、10‥載置面、11‥セラミックス基体、12‥高周波電極、13‥端子、14‥ロッド電極、15‥シャフト、121‥孔、122‥スリット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が載置される載置面を有するセラミックス基体と、前記載置面に対して平行な姿勢で前記セラミックス基体に埋設されている金属または金属間化合物からなる円板形状の高周波電極と、前記高周波電極の中央部分に接続されている高周波電力供給用の端子とを備えている基板支持部材であって、
前記高周波電極には孔またはスリットが設けられ、
前記高周波電極のα倍(0.25≦α≦0.75)の半径を有する同心円により区分されている前記高周波電極の複数の範囲のそれぞれにおける前記孔または前記スリットの分布または配置態様が差別化されていることを特徴とする基板支持部材。
【請求項2】
請求項1記載の基板支持部材において、
前記孔または前記スリットが前記高周波電極の中心回りの回転対称性を有するように設けられていることを特徴とする基板支持部材。
【請求項3】
請求項1または2記載の基板支持部材において、
前記高周波電極が円状の第1範囲と、前記第1範囲を取り囲む環状の第2範囲とに区分され、前記第1範囲および前記第2範囲のうち一方には孔またはスリットが設けられている一方、前記第1範囲および前記第2範囲のうち他方には孔およびスリットがなく平坦であることを特徴とする基板支持部材。
【請求項4】
請求項1または2記載の基板支持部材において、
前記高周波電極が円状の第1範囲と、前記第1範囲を取り囲む環状の第2範囲とに区分され、前記第1範囲および前記第2範囲のそれぞれに前記孔または前記スリットが設けられていることを特徴とする基板支持部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−182221(P2012−182221A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42763(P2011−42763)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】