説明

塗布具

【課題】マスキングを行わないで、部分的な電解メッキが行え、生産効率の向上が図れる塗布具の提供。
【解決手段】装飾のために、電気的な導通性を有する導電性インクによって軸筒20の表面の上に形成された導電性インク層31と、所定の金属で導電性インク層31の上に形成された金属層32とを備えた装飾パターン30を軸筒20の表面に形成する。シルクスクリーン印刷で導電性インクを印刷することで形成した導電性インク層31の上に、電解メッキで金属層32を形成するので、軸筒20の表面に対してマスキングを行わなくとも、メッキによる金属層32を有する装飾パターン30を軸筒20の表面に部分的に形成できる。よって、メッキを行わない部分をマスキングする作業と、マスキングをはがす作業とが不要となるので、生産効率の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布対象物に触れて塗布剤を塗布する塗布部と、この塗布部を収容する合成樹脂製の収容部とを備え、該収容部の表面に装飾パターンが形成された塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、塗布対象物に触れて塗布剤を塗布する化粧料容器や筆記具等の塗布具が利用されている。このような塗布具は、塗布対象物に塗布剤を塗布する塗布部と、この塗布部を収容する収容部とを有している。
たとえば、筆記具としてのボールペンは、塗布対象物である紙に塗布剤であるインクを塗布するものであり、塗布具としての一例として挙げることができる。このようなペンには、インクを塗布する塗布部として、筆記ボールを内蔵したペン先が設けられ、かつ、ペン先を収容する収容部として、細長い筒状の軸筒が設けられている。
このような塗布具としては、収容部の表面がメッキされたものがある。塗布具の収容部がたとえば真鍮製あるいは合成樹脂製であった場合でも、メッキによって、錆びにくい金属光沢が付与され、これにより、高級感を付与することができる。
【0003】
ここで、導電性を有さない合成樹脂製の収容部の表面全体にメッキを施す場合は、あらかじめ、収容部の表面を導電性フィラーを含有する高分子化合物で覆えば、収容部の表面に導電性が付与される。これにより、収容部の表面にメッキを施すことができ、合成樹脂製の収容部に、錆びにくい金属光沢を付与することができる(たとえば、特許文献1参照)。
また、表面に導電性を有する収容部、たとえば、金属製の収容部、あるいは、表面に導電性を有する樹脂層を有する収容部の表面にメッキを施す場合、あらかじめ、導電性を有する導電性インクで立体的な凸パターンを形成した後、収容部の表面全体に対してメッキを行えば、収容部のメッキされた表面に、当該表面から突出する凸パターンが形成され、収容部の意匠性を向上させることができる(たとえば、特許文献2又は3参照)。
【0004】
以上のように、収容部の表面全体にメッキを施せば、金属光沢で高級感を演出できる。しかし、収容部の表面全体がメッキの金属色となってしまうので、収容部の色彩的なバリエーションが乏しくなる。また、合成樹脂のカラフルな下地面を生かして、メッキの模様を部分的に形成することもできない。
そこで、次の(1)〜(7)の処理を順次行えば、収容部の表面にメッキによる金属層を有する装飾パターンを部分的に形成することができる。
(1)収容部の表面において、装飾パターン以外の部分をマスキングする保護皮膜を形成するマスキング処理。
(2)マスキングされていない部分をクロム酸等で処理して表面を粗くするエッチング処理。
(3)エッチング処理を施した表面に、触媒であるパラジウムを含み、吸着力の強いコロイドであるパラジウム−スズ・コロイドを付着させるキャタリスト処理。
(4)塩酸等で表面を処理してパラジウム−スズ・コロイドのスズをスズ塩とし、これを溶解・除去し、収容部の表面に金属化したパラジウムの皮膜を形成するアクセラレーター処理。
(5)ニッケル金属イオンを含むメッキ液中において、収容部の表面に付着している活性化パラジウムでニッケル金属イオンを還元し、収容部の表面に金属化したニッケルの皮膜を形成する無電解メッキ処理。
(6)無電解メッキ処理で形成したニッケルの皮膜を電極として、当該ニッケルの皮膜の上に銅、ニッケル、クロム又は金等の皮膜を形成する電解メッキ処理。
(7)保護皮膜を除去するマスキング除去処理。
【0005】
以上のようなメッキを行えば、収容部の表面にメッキによる金属層を有する装飾パターンを部分的に形成することができる。そして、この装飾パターンによって、合成樹脂のカラフルな下地面を生かしつつ、豪華な金属光沢を有するメッキの模様を形成でき、収容部の意匠性をさらに向上させることができる(たとえば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−303293号公報
【特許文献2】特開平9−125261号公報
【特許文献3】特開2001−10296号公報
【特許文献4】特開平7−173671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、収容部の表面にメッキによる金属層を有する装飾パターンを部分的に形成するには、メッキを施さない部分に対して、事前にマスキングを行う必要がある。このため、メッキの前にマスキングを行う工程が必要になるとともに、メッキの後には、マスキングをはがす工程が必要になる。これらの工程によって、収容部の表面全体をメッキする場合よりも、加工の手間が増えて製造コストが高くなる。これに対し、マスキングを行わずに部分的な電解メッキが行えるようにしたい、という要望がある。
なお、合成樹脂の表面に無電解メッキを行う場合、クロム酸等で合成樹脂の表面をエッチングするが、クロム酸等の使用は、自然環境に悪影響を与えるおそれがあるので、クロム酸等の使用を避けたい、という要望もある。
【0008】
そこで、本発明は、上記した従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、マスキングを行わないで、部分的な電解メッキを行うことができ、これにより生産効率の向上を図ることができる塗布具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)第1の発明
上記の目的に鑑み、本願の第1発明は、塗布対象物に触れて塗布剤を塗布する塗布部11と、この塗布部11を収容する合成樹脂製の収容部20とを備えた塗布具10であって、前記収容部20の表面には、装飾のための装飾パターン30が形成され、前記装飾パターン30は、電気的な導通性を有する導電性インクによって前記収容部20の表面21の上に形成された導電性インク層31と、所定の金属で前記導電性インク層31の上にメッキ処理により形成された金属層32とを備え、前記導電性インク層31は、その表面抵抗の値が10Ω/cm2 以下であることを特徴とする。
【0010】
(2)第2の発明
本願の第2の発明は、前述した第1の発明の特徴に加え、前記装飾パターン30として、途中で分断された箇所がないように、全体が連続するように形成されたものが採用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成されている本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
(1)第1の発明の効果
すなわち、本願の第1の発明によれば、装飾パターンとして、電気的な導通性を有する導電性インクによって収容部の表面の上に形成された導電性インク層と、所定の金属で導電性インク層の上に形成された金属層とを備えたものを採用した。したがって、導電性インク層を形成するにあたり、シルクスクリーン印刷等の印刷技術を利用することができる。また、導電性インクを収容部の表面に印刷することで、複雑な形状の導電性インク層でも容易に収容部の表面の上に形成することができる。
【0012】
なお、シルクスクリーン印刷で導電性インクを収容部の表面に印刷すれば、目視で確認可能な寸法まで導電性インク層の厚さを増すことができ、収容部の表面に装飾パターンによる凹凸を形成することもできる。
ここで、導電性インク層の表面抵抗の値を10Ω/cm2 以下としたので、印刷された導電性インク層を電極として利用することができる。これにより、当該導電性インク層の上に銅、ニッケル、クロム又は金等の皮膜を形成する電解メッキを行うことが可能となり、導電性インク層に倣った金属層を形成することができる。
このため、収容部の表面に対してマスキングを行わなくとも、メッキによる金属層を有する装飾パターンを収容部の表面に部分的に形成することができる。そして、このような装飾パターンによって、合成樹脂のカラフルな下地面を生かしつつ、豪華な金属光沢を有するメッキの模様が形成されるようにもできるので、収容部の意匠性をさらに一層向上させることができる。
以上により、メッキによる金属層を有する装飾パターンを収容部の表面に部分的に形成するにあたり、メッキを行わない部分に対してマスキングを行う必要がない。したがって、メッキの前にマスキングを行う工程、及び、メッキの後にマスキングをはがす工程が不要となる。よって、生産効率の向上が図ることができる。
【0013】
そのうえ、導電性インクは、合成樹脂の表面によくなじむので、導電性インクを収容部の表面に印刷する際に、事前に、クロム酸等の薬剤で合成樹脂の表面をエッチングする必要がない。また、自然環境に悪影響を与えるおそれのあるクロム酸等の薬剤の使用を回避することもできる。
(2)第2の発明の効果
本願の第2発明によれば、前記第1の発明の効果に加え、途中で分断された箇所がないように、全体が連続するように形成された装飾パターンを採用したので、収容部の表面に印刷された導電性インク層を電極として利用して電解メッキを行う際に、当該導電性インク層の適当な一カ所に電源線を接続すれば、当該導電性インク層の全体に電圧を印加することができる。よって、当該導電性インク層に接続される電源線の本数が1本ですみ、電解メッキ処理時における収容部の取り扱いが容易となり、収容部に対する電解メッキ処理を容易かつ迅速にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗布具を示す側面図である。
【図2】図1における収容部を示す側面図である。
【図3】図2のIII−III断面の一部を拡大したものである。
【図4】収容部の別の例を示す側面図である。
【図5】収容部のさらに別の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態である一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
(ボールペンの概略構成)
本実施形態は、塗布対象物に触れて塗布剤を塗布する塗布具10として、図1に示すように筆記具の一種であるボールペン10を採用したものである。なお、以下の説明において、ボールペン10における先端とは、用紙等の書き込み対象に接する側の端部をいう。また、これとは反対側の端部を、ボールペン10における後端という。
また、ボールペン10は、その外形部分を形成する収容部20としての軸筒20と、この軸筒20の内部に収容される、塗布対象物に塗布剤を塗布する塗布部11としてのボールペンリフィル11とを備えている。また、軸筒20の後端には、クリップ13を備えた尾栓12が装着される。さらに、尾栓12の後端からは、ボールペンリフィル11の先端を軸筒20の先端から出没させる操作に用いられるノックボタン14が突出している。
【0016】
(軸筒)
軸筒20は合成樹脂製の円筒状部材であり、図2に示すように、先端が先細りに形成される。軸筒20を形成する合成樹脂としては、ポリカーボネート(以下、「PC」と略す。)又はABSを採用するのが好ましい。
また、軸筒20の表面21には、細長い帯状に形成されるとともに螺旋状に延びる一条の装飾パターン30が形成されている。この装飾パターン30は、途中で分断された箇所がないように、全体が連続するように形成されたものとなっている。
装飾パターン30には、図3に示すように、電気的な導通性を有する導電性インクによって軸筒20の表面21の上に形成された導電性インク層31と、所定の金属メッキによって導電性インク層31の上に形成された金属層32とが形成されている。
【0017】
導電性インク層31は、シルクスクリーン印刷で導電性インクを軸筒20の表面21に印刷することで形成されたものである。
この印刷された導電性インク層31は、市販の導電性インクの中から、適当なものを適宜選択することで、その表面抵抗の値が10Ω/cm2 以下となるように形成されたものである。そして、導電性インク層31は、その表面抵抗の値が10Ω/cm2 以下にされることにより、銅、ニッケル、クロム又は金等の皮膜を形成する電解メッキを行う際に、電極として利用することが可能なものとなっている。
金属層32は、導電性インク層31の上に電解メッキを施すことにより導電性インク層31に倣って形成された金属メッキ皮膜である。
【0018】
ここで、装飾パターン30は、前述したように、途中で分断された箇所がないように、全体が連続するように形成されたものとなっている。これにより、導電性インク層31は、途中で分断された箇所がなく、全体が連続したものとなっている。このため、導電性インク層31の上に電解メッキを行う際に、導電性インク層31の適当な一箇所に1本の電源線を接続すれば、当該導電性インク層31の全体に電圧が印加されるようになっている。
また、金属層32は、銅、ニッケル、クロム又は金等のいずれか一つからなる単層の皮膜として形成することもできるし、あるいは、これらのうちの複数種類の金属からなる皮膜が複数重なった複数層の皮膜として形成することもできる。
【0019】
続いて、軸筒20の表面に装飾パターン30を形成する手順について簡単に説明する。
まず、軸筒20の表面にシルクスクリーン印刷で導電性インク層31を形成する。
この後、軸筒20の表面に形成した導電性インク層31の上に金属をメッキする電解メッキ処理を行う。
すなわち、軸筒20の表面に形成した導電性インク層31に電線を電気的に接続し、電解メッキ槽に浸した後、導電性インク層31に電圧を印加し、導電性インク層31の上に金属メッキを施す。
このような電解メッキ処理を必要に応じた回数だけ行い、必要な金属被膜を導電性インク層31の上に形成することで、所望の金属層32を軸筒20の表面に形成する。そして、所望の金属層32が完成したら、すべての電解メッキ処理が完了する。
【0020】
以上の本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
すなわち、装飾パターン30として、電気的な導通性を有する導電性インクによって軸筒20の表面の上に形成された導電性インク層31と、所定の金属で導電性インク層31の上に形成された金属層32とを備えたものを採用したので、導電性インク層31を形成するにあたり、シルクスクリーン印刷を利用することができる。そして、シルクスクリーン印刷で導電性インクを軸筒20の表面に印刷することで、導電性インク層31を形成したので、複雑な形状の導電性インク層31でも容易に軸筒20の表面の上に形成することができる。
ここで、導電性インク層31の表面抵抗の値を10Ω/cm2 以下としたので、印刷された導電性インク層31を電極として利用することができ、これにより、当該導電性インク層31の上に銅、ニッケル、クロム又は金等の金属メッキ皮膜を形成する電解メッキを施すことが可能となり、電解メッキによって導電性インク層31に忠実に倣った金属層32を容易に形成することができる。
【0021】
したがって、軸筒20の表面に対してマスキングを行わなくとも、メッキによる金属層32を有する装飾パターン30を軸筒20の表面に部分的に形成することができる。そして、このような装飾パターン30によって、軸筒20を形成する合成樹脂のカラフルな下地面を生かしつつ、豪華な金属光沢を有するメッキの模様を形成することができるので、軸筒20の意匠性をさらに一層向上することができる。
以上により、メッキによる金属層32を有する装飾パターン30を軸筒20の表面に部分的に形成するにあたり、メッキを行わない部分に対してマスキングを行う必要がなく、このため、メッキの前にマスキングを行う工程、及び、メッキの後にマスキングをはがす工程が不要となるので、部分的にメッキを行っても、加工の手間が何ら増えることがなく、生産性の向上を図ることができ、これにより、製造コストを抑えることができる。
【0022】
そのうえ、導電性インクは、クロム酸等の薬剤で合成樹脂の表面をエッチングしなくとも、合成樹脂の表面になじむので、導電性インクを収容部の表面に印刷する際に、事前に、クロム酸等の薬剤で合成樹脂の表面をエッチングする必要がない。また、自然環境に悪影響を与えるおそれのあるクロム酸等の薬剤の使用を回避することができる。
また、シルクスクリーン印刷で導電性インクを軸筒20の表面に印刷することで導電性インク層31を形成するようにしたので、目視で確認可能な寸法まで導電性インク層31の厚さ寸法を確保することができる。また、導電性インク層31の厚さ寸法を目視で確認可能な寸法にすることで、軸筒20の表面に装飾パターン30で凹凸を形成することができ、金属層32の金属光沢と相まって、軸筒20に高級感を付与することができる。
【0023】
さらに、途中で分断された箇所がないように、全体が連続するように形成された装飾パターン30を採用したので、装飾パターン30の導電性インク層31も途中で分断された箇所がなく、全体が連続するものとなり、軸筒20の表面に印刷された導電性インク層31を電極として利用して電解メッキを行う際に、当該導電性インク層31の適当な一箇所に電源線を接続すれば、当該導電性インク層31の全体に電圧を印加することができる。このため、当該導電性インク層に接続される電源線の本数が1本ですみ、電解メッキ処理時における収容部の取り扱いが容易となり、軸筒20に対する電解メッキ処理を容易かつ迅速に行うことができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の効果を具体的な実施例に基づいて説明する。
本実施例は、市販されている導電性インクの中から4つの商品を選択し、表1に示すように、選択した導電性インクのそれぞれを利用することで形成された装飾パターン30を有する軸筒20を実施例1〜3及び比較例1〜4とした。
具体的には、絵柄パターンが形成されたポリエステル製#200メッシュのスクリーン版及び導電性インクのそれぞれを使用して、PC製の軸筒20の表面に印刷を行うことによって、導電性インク層31を形成した。
導電性インク層31の形成が完了した後、70℃に保たれた空気中で、1時間、導電性インク層31を乾燥させた後、各軸筒20に対して脱脂洗浄及び水洗浄を行った。
【0025】
そして、脱脂洗浄及び水洗浄の後、実施例1及び2並びに比較例1及び2については、電解銅メッキ槽に入れて、各導電性インク層31に2Vの電圧を印加して電解銅メッキを5分間行った。実施例3並びに比較例3及び4については、電解銅メッキ槽に入れて、各導電性インク層31に2Vの電圧を印加して電解銅メッキを2分間行った。
以上のような電解銅メッキによって、各導電性インク層31の上に銅の金属層32を形成することで、実施例1〜3及び比較例1〜4の各々に係る軸筒20の表面に装飾パターン30を形成した。
【0026】
【表1】

【0027】
(実施例1〜3及び比較例1〜5の評価)
前述の実施例1〜3及び比較例1〜4について、導電性インク層31の表面におけるメッキの析出の程度(以下、「メッキ性」という。)、及び、金属層32の導電性インク層31への密着している程度(以下、「密着性」という。)について以下のように評価を行った。
メッキ性の評価は、導電性インク層31の表面に形成された金属層32の状態を目視することで行った。
この際、析出した銅メッキによって導電性インク層31の全面が覆われていると判断できる場合、その評価を「A」とした。また、析出した銅メッキによって覆われた面が、導電性インク層31の表面全体の全面には及ばないが50%以上であると判断できる場合、その評価を「B」とした。さらに、析出した銅メッキによって覆われている面が導電性インク層31の表面全体の50%未満であると判断できる場合、その評価を「C」とした。
【0028】
密着性の評価は、導電性インク層31の表面に形成された金属層32に、ニチバン製18mm幅のセロファンテープを指で強く擦りつけて貼り付けた後、貼付面に対して垂直方向に引っ張って一気に剥がし、テープの粘着面に金属層32の銅が剥がれているか否か目視で確認することで行った。
この際、テープの粘着面に金属層32から剥がれた銅が認められない場合、その評価を「A」とした。また、テープの粘着面に金属層32から剥がれた銅が視認された場合、その評価を「B」とした。
以上のようなメッキ性及び密着性についての評価結果を表2に示す。なお、密着性の評価が可能な程、メッキが析出していなかったために、密着性が評価できなかった場合、表2の該当欄に「−」を記した(比較例1〜4)。
【0029】
【表2】

【0030】
以上のような評価結果から、本発明に基づく実施例1及び3のように、導電性インクの表面抵抗が小さければ、実施例3のように短時間の電解メッキでも、良好な金属層32、すなわち、良好なメッキ被膜が得られることが判る。
また、本発明に基づく実施例2のように、導電性インクの表面抵抗が比較的大きくても、電解メッキに充分時間をかければ、良好な金属層32、すなわち、良好なメッキ被膜が得られることが判る。
なお、実施例2で利用した導電性インクは、カーボンをフィラーとするインクであり、実施例1及び3で利用した銀をフィラーとする導電性インクよりもコストが安く、この点で、実施例1及び3よりも、さらに一層、生産性の向上に寄与することができる。
【0031】
一方、各比較例のように、導電性インクの表面抵抗が本発明の範囲を逸脱すると、電解メッキに充分時間をかけても(比較例1及び2)、良好な金属層32、すなわち、良好なメッキ被膜を得ることができないことが判る。
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲における変形及び改良などをも含むものである。
たとえば、前記実施形態では、収容部に形成される装飾パターンとして、細長い帯状に形成されるとともに螺旋状に延びる一条の装飾パターン30を採用したが、これに限らず、収容部に形成される装飾パターンとしては、図4に示すように、互いに逆方向に旋回するとともに、途中部分が互いに交差するように形成された螺旋帯部33, 33を有する装飾パターン30が採用できる。また、図5に示すように、軸筒20の軸方向に延びる縞状帯部34と、収容部の周方向に延びる環状帯部35とを有する装飾パターン30も採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、インクを収容するインクタンクを有し、インクタンク内に収容しているインクを塗布対象物に塗布するボールペン等の筆記具に限らず、次の(1)〜(4)に示すような製品にも適用できる。
(1)修正液を収容する修正液タンクを有し、修正液タンク内に収容している修正液を塗布対象物に塗布する修正具。
(2)液体の化粧料を収容する化粧料タンクを有し、化粧料タンク内に収容している化粧料を塗布対象物(人体)に塗布する化粧料容器。
(3)液体薬剤を収容する薬品タンクを有し、薬品タンク内に収容している液体薬剤を塗布対象物に塗布する医薬品塗布具。
(4)着剤を収容する接着剤タンクを有し、接着剤タンク内に収容している接着剤を塗布対象物に塗布する接着剤容器。
【0033】
ここで、本発明が適用可能な筆記具の具体例としては、油性マーカー、ボードマーカー、ラインマーカー、ペイントマーカー、水性マーカー、及び、医療用マーカー等が挙げられる。
また、本発明が適用可能な化粧料容器の具体例としては、アイライナー、アイシャドウ、アイブロー、毛染めマーカー、チーク・フェイスカラー、リップライナー、リップグロス、コンシーラー、マニキュアリムーバー、ネイルケア化粧料容器、スキンケア化粧料容器、ホワイトニング、メイク落とし、歯の清掃剤塗布具、まつ毛ケア化粧料容器、及び、香水ペン等が挙げられる。
【符号の説明】
【0034】
10 ボールペン(塗布具) 11 ボールペンリフィル(塗布部)
12 尾栓 13 クリップ 14 ノックボタン
20 軸筒(収容部) 21 表面
30 装飾パターン 31 導電性インク層 32 金属層
33 螺旋帯部 34 縞状帯部 35 環状帯部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布対象物に触れて塗布剤を塗布する塗布部と、この塗布部を収容する合成樹脂製の収容部とを備えた塗布具であって、
前記収容部の表面には、装飾のための装飾パターンが形成され、
前記装飾パターンは、
電気的な導通性を有する導電性インクによって前記収容部の表面の上に形成された導電性インク層と、
所定の金属で前記導電性インク層の上にメッキ処理により形成された金属層と、
を備え、
前記導電性インク層は、その表面抵抗の値が10Ω/cm2 以下であることを特徴とする塗布具。
【請求項2】
前記装飾パターンは、途中で分断された箇所がないように、全体が連続するように形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の塗布具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−23763(P2013−23763A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162934(P2011−162934)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【出願人】(598060774)株式会社カワイ化工 (2)
【Fターム(参考)】