説明

塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドの複合体を含有する吸収促進組成物

【課題】効率よく生体に吸収されて十分な生理活性を発揮することができ、食品、化粧品、医薬品、飼料などの製造において煩雑な加工工程を経ることなく利用しうるという特徴を備えた塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有する組成物、及びその製法を提供すること。
【解決手段】塩基性生理活性タンパク質濃度を0.001%〜10%、より好ましくは0.01%〜0.5%、ソホロリピッド濃度を0.01%〜10%、より好ましくは0.1%〜1%、塩基性生理活性タンパク質対ソホロリピッドの濃度比率を0.0001〜100、より好ましくは0.01〜5、pHを3〜8、より好ましくはpH5〜7の範囲に制御することで、生体への吸収に適切な粒子サイズ、且つ塩基性生理活性タンパク質の3次構造を維持した複合体を形成させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッド含有製剤に関するものであり、塩基性生理活性タンパク質のキャリアとしてソホロリピッドを使用する。巨大なタンパク質分子は、生体内へ吸収されること、標的細胞内に取り込まれた後も活性を有すること、の二つを同時に実現するのは非常に困難であり、いずれか一方の性能を高めれば他方が損なわれるのが一般的である。本発明はこのように相反する2つの機能をともに損なわず、最適化された塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「塩基性生理活性タンパク質」はアミノ酸の配列から計算される等電点(pI)が生体内のpHよりも高いものであり、より具体的にはpIとして7.5以上のものである。例えばラクトフェリン(Lactoferrin;Lf)、上皮成長因子(Epidermal Growth Factor;EGF)、ラクトペルオキシダーゼ(Lactoperoxidase;LPO)、線維芽細胞増殖因子(Fibroblast Growth Factor;FGF)などが挙げられる。
【0003】
塩基性生理活性タンパク質としては上記以外に様々なものが存在し、その生体への利用には様々な工夫がなされているが、その中から、乳由来の多機能性タンパク質としてラクトフェリンを具体的な例として挙げる。
【0004】
ラクトフェリンは健康食品、化粧品に利用されている他、医薬品への応用にも期待がかけられている多機能性の有用物質である。ラクトフェリンの様々な生理活性として、抗菌、抗炎症、免疫賦活、抗癌、抗ウィルス、乳酸菌増殖促進、骨代謝正常化、創傷治癒、脂質代謝促進などが示されており(非特許文献1)、皮膚に関する作用としては、皮膚線維芽細胞のコラーゲン合成、ヒアルロン酸合成を促進することが示されている(非特許文献2)。このようなラクトフェリンの有用性は医薬品、健康食品や化粧品に利用することが期待されているが、実際に生体へ作用させるためには安定性やターゲット細胞へ輸送されたときの機能性を担保することが課題であり、ラクトフェリンの多彩な機能が十分には利用されていないのが現状である。
【0005】
従来からの技術として特許文献1に、胃液中で溶出せず、ペプシンによる分解が低減されるような特殊加工を施したラクトフェリン複合体及びその製法技術が報告されており、ラクトフェリンの生理活性を維持したまま腸管に到達させることができる。しかしながら、この技術では、ラクトフェリンと高分子酸の粉末をあらかじめ脂質皮膜でコーティングし、水溶液中に分散させ、加熱下で複合体を形成させた後に回収するため、非常に煩雑な工程を経る必要がある。特許文献1に限らず、従来からのラクトフェリン複合体の製法においては、調製方法の煩雑さが実用性を低下せしめているのが現状である。
【0006】
引用文献では、有効成分を生体内(の標的細胞)へ輸送する手法の一例として、リン脂質などの両親媒性物質の会合によって形成する二分子膜からなるリポソームと呼ばれるベシクルを利用したものがある。リポソームは薬物担体として脚光を集めたが、一般にベシクルは熱力学的に不安定であり、ベシクル粒子同士の凝集や融合、膜成分の結晶化による沈殿の生成、粒子径の増大などが起こり、効力の低下や外観変化による商品価値の損失が生じやすい。
【0007】
K.Tsuchiya et al.,Langmuir 20,2117−2122(2004)ではアニオン系の界面活性剤(例えばオクチル硫酸ナトリウム)とカチオン系の界面活性剤(例えばセチルトリメチルアンモニウムブロマイド)の混合により熱力学的に安定なベシクルを形成することが報告されており、粒子同士の凝集、融合、膜成分の結晶化による沈殿、粒子径の増大がおこらず長期間安定である(非特許文献3)。しかしながら、カチオン系の界面活性剤は毒性を示すことから、生体への適用には適さない。また、調製に手間がかかることも実用性を低下させる問題点である。
【0008】
カチオン系の界面活性剤を用いない方法としては、ポリエチレングリコールとリン脂質を混合してベシクルを形成させる技術も開示されているが(特許文献2)、多成分系であるため、ベシクル形成の煩雑さが課題として残されている。
【0009】
ベシクル形成の煩雑さを改善する素材として、酵母や細菌が作る界面活性剤(バイオサーファクタント)を用いる方法が報告されており、マンノシルエリスリトールリピッドを利用した技術(特許文献3)やソホロリピッドを利用した技術(特許文献4)がある。マンノシルエリスリトールリピッドはマンノース骨格を有し、マンノース骨格の1位の水酸基に糖アルコールがグリコシド結合しているバイオサーファクタントであり、ソホロリピッドは、ソホロース(グルコースが2つ結合したもの)とヒドロキシ脂肪酸からなる両親媒性の糖脂質である。いずれの特許もこれらのバイオサーファクタントをキャリアとして用いることにより有効成分の経皮吸収性が上昇することを特徴としている。
【0010】
しかしながら、生体内へ輸送される有効成分の分子サイズは1kDa程度の化合物のデータが示されているのみであり、数十〜数百kDaにも及ぶタンパク質を有効成分とする場合について皮膚への浸透性が十分に得られるかの検証がなされていない。更にタンパク質は界面活性剤による変性を起こすことが予想され、浸透性は高まっても有効性が失われる可能性が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2006/016595
【特許文献2】特開2002−212106号公報
【特許文献3】特開2009−167159号公報
【特許文献4】特開2009−62288号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Suzuki and Lonnerdal,Functional Food Rev (2010)
【非特許文献2】Saito et al.,Biotechnol.Lett (2010)
【非特許文献3】K.Tsuchiya et al.,Langmuir 20,2117−2122 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
効率よく生体に吸収されて十分な生理活性を発揮することができ、食品、化粧品、医薬品、飼料などの製造において煩雑な加工工程を経ることなく利用しうるという特徴を備えた塩基性生理活性タンパク質とキャリア複合体組成物、及びその製法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0014】
塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドの複合体を含有する組成物
【0015】
塩基性生理活性タンパク質濃度0.001%〜10%、ソホロリピッド濃度0.01%〜10%、塩基性生理活性タンパク質対ソホロリピッドの濃度比率0.0001〜100、pH3〜8、に制御することを特徴とする[0014]に記載の組成物
【0016】
塩基性生理活性タンパク質濃度0.01%〜0.5%、ソホロリピッド濃度0.1%〜1%、塩基性生理活性タンパク質対ソホロリピッドの濃度比率0.01〜5、pH5〜7に制御することを特徴とする[0014]に記載の組成物
【0017】
塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドの複合体粒子のサイズを1nm〜3μmであることを特徴とする[0014]から[0016]のいずれかに記載の組成物
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、立体構造変化をほとんど起こさせず細胞間隙を浸透させるに十分な粒子径の塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドの複合体を形成することにより、複合体の生体吸収性は塩基性生理活性タンパク質単独の場合と比べ飛躍的に高まり、同時に塩基性生理活性タンパク質の様々な生理活性は複合体においても維持あるいは増進される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】塩基性生理活性タンパク質の濃度とソホロリピッド濃度とpHの間の相関関係を示す図
【図2】a,b,c,d,e,f。ソホロリピッド、ラクトフェリン、及び混合物の粒度分布を示す図
【図3】ラクトフェリン、およびラクトフェリン−ソホロリピッド複合体による3次元培養皮膚モデルを使用した経皮吸収性試験の結果を示す図
【図4】ラクトフェリン、およびラクトフェリン−ソホロリピッド複合体による線維芽細胞の増殖促進効果(リン酸バッファー、pH7)を示す図
【図5】ラクトフェリン、及びラクトフェリン−ソホロリピッド複合体による線維芽細胞の増殖促進効果(クエン酸バッファー、pH5)を示す図
【図6】ラクトフェリン及びラクトフェリン−ソホロリピッド複合体のCDスペクトルを示す図
【図7】ラクトフェリン及びラクトフェリン−ソホロリピッド複合体の表面疎水性度を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において「塩基性生理活性タンパク質」とは天然の塩基性生理活性タンパク質分子そのもののほか、遺伝子組み換え型タンパク質、及び塩基性生理活性タンパク質の活性フラグメントなどの塩基性生理活性タンパク質の機能的等価物をも包含し、由来する生物種を問わない。また、本発明において「塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有する組成物」は塩基性生理活性タンパク質を含有する組成物であって、食品、化粧品、医薬品、飼料などの他の製品の素材として使用されうるものであり、塩基性生理活性タンパク質の生理活性又は特徴をそれが使用された製品において発揮させることを少なくとも1つの目的として使用されるべき素材組成物を意味する。
【0021】
本発明において「ソホロリピッド」とはスタルメレラ属に属する微生物、Starmerella bombicola、あるいはカンジダ属C.Apicola、C.petrophilum、C.bogoriensisなどの酵母を培養することにより、その培地中に生産物として得ることができる。
【0022】
ソホロリピッドはソホロース又はヒドロキシル基が一部アセチル化したソホロースと、ヒドロキシ脂肪酸とからなる糖脂質である。なお、ソホロースとはβ1→2結合した2分子のブドウ糖からなる糖であり、ヒドロキシ脂肪酸はヒドロキシル基を有する脂肪酸である。ソホロリピッドは分子内のソホロースが結合したラクトン型と、ヒドロキシル脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型とに大別され、ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド塩が存在する。
【0023】
塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドをそれぞれ、又は粉体混合後に水に溶解、または分散させ、各単独に分散または溶解させた場合はそれぞれの水溶液を混合し攪拌により均一な溶液とすることにより、最終濃度に調整する。
【0024】
塩基性生理活性タンパク質の濃度が0.001%よりも少なくなると十分な生理作用を発揮することができなくなり、10%よりも多くなるとソホロリピッドとの複合体形成及び粒子サイズを制御することが困難になる。また、価格的にも産業利用の上で非現実的な配合量となる。十分な生理活性が得られ、且つ複合体形成の制御を行いやすい塩基性生理活性タンパク質の最終溶液中濃度として0.01%〜1%とすることが好ましい(図1)。
【0025】
次にソホロリピッドの濃度が0.01%より低くなると生理作用を期待できる濃度の塩基性生理活性タンパク質との複合体形成が十分になされず、機能の面で不完全となり、10%より多くなるとソホロリピッドの有する界面活性能により塩基性生理活性タンパク質の立体構造を変化させるリスクが高くなり、その結果として塩基性生理活性タンパク質の生理活性が損なわれてしまう。塩基性生理活性タンパク質との複合体形成に十分であり、かつ生理活性を損なわないためのソホロリピッド濃度としては0.1%〜1%とするのがより好ましい(図1)。
【0026】
塩基性生理活性タンパク質対ソホロリピッド濃度比率が0.0001以下となると、塩基性生理活性タンパク質過多のため、細胞間隙の浸透性が低くなり、標的細胞へ届けられる塩基性生理活性タンパク質輸送効率が著しく低下し、100以上となるとソホロリピッド過多となり、塩基性生理活性タンパク質の変性に伴う生理活性の低下がおこる。塩基性生理活性タンパク質の輸送効率を上げ、生理活性を維持させるために塩基性生理活性タンパク質対ソホロリピッドの濃度比率は0.01〜10とするのがより好ましい(図1)。
【0027】
このような配合量、及び配合比率で形成させる塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドの複合体溶液のpHは3〜8の範囲に制御することが必要であり、より好ましくはpHを5〜7の範囲に制御することが望ましい。pHが3よりも低くなると複合体の粒子サイズが大きくなりすぎて、細胞間隙を浸透させることが難しくなり、pHが8を越えると塩基性生理活性タンパク質の等電点に近づくために、塩基性生理活性タンパク質の安定性が損なわれる。複合体粒子サイズを適正に制御し、塩基性生理活性タンパク質を安定な状態に保つためにpHは5〜7とするのがより好ましい(図1)。
【0028】
本発明の複合体は塩基性生理活性タンパク質を含有する粉末とソホロリピッドを含有する粉末とをそれぞれ別々に容器に収容しておき、必要なときにこれらを混合し、水性溶液と一緒にすることもできる。あるいは、塩基性生理活性タンパク質を含有する粉末とソホロリピッドを含有する粉末とを既に混合された状態で容器に収容しておき必要時には水性溶液と一緒にするだけの原料製品として提供してもよい。
【0029】
本発明の複合体は複合体を形成させた後、そのままの形態、すなわちコロイド状の沈殿物、ゾル、又はゲルなどの形態で使用することができるが、形成された複合体をさらに処理して、粉末、乳化懸濁液などの別の形態にしてもよい。たとえば、複合体を形成させたあと、遠心分離などで処理し、この複合体をさらに凍結乾燥し、粉砕加工して粉末状にすることもできる。
【0030】
本発明の複合体組成物は、上記のような形態の複合体そのままであってもよく、また、複合体に付加的な成分を加えて、又は加えずに、錠剤、顆粒、丸薬などの任意の形態にして利用することができる。このような形態への加工の方法は製剤技術の分野において公知である。
【0031】
本発明の組成物には塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドに加えて、一般的に使用されているその他の付加的な成分を含むことができ、そのような成分の種類、添加量の選択は製造しようとする具体的な組成物の形態、用途など及び組成物を適用しようとする製品の性質などに応じて適宜行うことができる。
【0032】
付加的な成分とは、例えば、可塑剤、賦形剤、乳化剤、安定剤、ビタミン類、ミネラル類、EPA,DHA,コエンザイムQ10など脂溶性又は水溶性の一般的栄養成分、モルヒネなどの薬効成分、乳酸菌類、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進剤、保湿剤、ホルモン剤、色素、たんぱく質、脂質などが挙げられる。
【0033】
具体的な成分名としては、例えば、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ種子油、ヤシ油、パーム油、マカデミアナッツ油、ワックス類、流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、パラフィン、セレシン、オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、アクリル酸、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2−ペンタンジオール、2,4−ヘキシレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、グアガム、カラギーナン、アラビアガム、ペクチン、キサンタンガム、カードラン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、コラーゲン、コラーゲン誘導体、エラスチン、エラスチン誘導体、ヒアルロン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、卵黄レシチン、水添卵黄レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン、羅漢果配糖体、ステビオサイド、グリチルリチン、グリチルリチン酸2カリウム、イソフラボン配糖体、アスタキサンチンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0034】
本発明を以下に実施例によって説明するが、これら実施例は例示のみを意図しており、本発明の範囲を限定しない。本発明の範囲内の他の局面、利点、および改変は、本発明の当業者には明らかである。
【0035】
(性能確認試験1)塩基性生理活性タンパク質−ソホロリピッド複合体形成の確認塩基性生理活性タンパク質としてラクトフェリンを使用したソホロリピッドとラクトフェリンの複合体形成に関しては動的光散乱式粒度分布測定装置による粒度分布測定をおこなった。測定温度は25℃、粒度分布は体積基準(d4,3)で表した。
【0036】
図2に示されるとおり、ソホロリピッド単独溶液における粒子の直径はpH条件に応じて40nm〜2μmであり、pHが低いほど粒子の直径が大きくなる傾向が認められた。ラクトフェリンはpH条件によらず、直径約10nmの粒子サイズであったが、ソホロリピッド、ラクトフェリン混合溶液では、それぞれの粒子サイズがシフトした。
pH5ではラクトフェリン単独で見られた粒子サイズが消失し、ソホロリピッドの粒子サイズへシフトし、pH7ではソホロリピッド単独で見られた粒子サイズが消失し、ラクトフェリンの粒子サイズへシフトした。以上の結果より、ラクトフェリン−ソホロリピッドの複合体が形成されることが示された
【0037】
(性能確認試験2)ラクトフェリンの経皮吸収性の測定
ラクトフェリン単独、及びラクトフェリンとソホロリピッド複合体を3次元培養皮膚(東洋紡績株式会社:TESTSKIM)の表皮側に作用させ、30,60,120分後に真皮側の下層溶液を回収し、ラクトフェリンの量をELISAキット(BETHYL社製)にて定量した。
【0038】
図3に示されるとおり、ソホロリピッドと複合体を形成させることにより、ラクトフェリンの経皮吸収性が飛躍的に上昇することが示された。
【0039】
ラクトフェリンの標的細胞への生理作用を評価するために、ヒト皮膚真皮線維芽細胞にラクトフェリン、ソホロリピッド単独及び複合体溶液を作用させ、細胞増殖促進効果を評価した。培養3日目・4日目それぞれについて、バッファーのみを加えた群に対するその他の群における細胞増殖率を図4に示した。
【0040】
培養3日後には、今回試験を行ったすべての濃度において細胞賦活活性が認められ、バッファー群と比較してラクトフェリン0.01%により36.8%、ラクトフェリン0.03%により27.3%、ラクトフェリン0.05%により22.9%、それぞれ有意に細胞増殖率が上昇していた(p<0.01,図4)。これと同濃度のラクトフェリンに関して、ソホロリピッド0.01%と混合することによって形成させたラクトフェリン−ソホロリピッド複合体で線維芽細胞を処理した場合、ソホロリピッド0.01%+ラクトフェリン0.01%における細胞増殖率の上昇は35.2%、ソホロリピッド0.01%+ラクトフェリン0.03%では32.5%、ソホロリピッド0.01%+ラクトフェリン0.05%は22.4%であり、バッファー群との比較においては有意な細胞増殖率の上昇を認めたが(p<0.01,図4)、いずれの濃度においても、ラクトフェリン単独で作用させた場合と有意な差はなかった(Tukey−Kramer検定による)。培養4日後においても、細胞増殖率の増加幅がやや異なるものの、培養3日目における結果とほぼ同じ傾向を示した。従って、pH=7におけるソホロリピッドとラクトフェリンの複合体形成は、ラクトフェリンによる線維芽細胞の増殖促進効果に関して影響がないことが示された。
【0041】
一方、クエン酸バッファー、(pH5)を用いた場合、図5に示したように、培養3日後にはラクトフェリン0.01%により14.9%、0.03%により17.2%と、リン酸バッファー、(pH7)よりは弱いものの有意な細胞増殖率の上昇が認められた(p<0.01,図5)。しかし、ラクトフェリン0.05%では、細胞増殖率に有意な変化がみられなかった。これと同濃度のラクトフェリンに関して、ソホロリピッド0.01%と混合することによって形成させたラクトフェリン−ソホロリピッド複合体で線維芽細胞を処理した場合、ソホロリピッド0.01%+ラクトフェリン0.03%のみで12.5%の細胞増殖率の上昇(p<0.05,図5)を認めたが、ソホロリピッド0.01%+ラクトフェリン0.01%およびソホロリピッド0.01%+ラクトフェリン0.05%では、細胞増殖率の上昇は有意な変化とはいえなかった(上昇率はそれぞれ10.9%,0.6%)。培養4日後のラクトフェリンによる細胞増殖促進効果は、濃度0.01%で24.4%、0.03%で17.2%、0.05%で10.7%と、いずれの濃度においても有意な増殖促進効果が認められた(p<0.01,図5)。
【0042】
しかしながら、クエン酸バッファー系(pH=5)においては、評価を行ったすべてのラクトフェリン濃度について、ラクトフェリン−ソホロリピッドによる細胞賦活性は、ラクトフェリン単独で作用させた場合の細胞賦活性よりも有意に低下していた(図5、ソホロリピッドを含まない同濃度のラクトフェリン群との比較で#p<0.05,##p<0.01)。
【0043】
図4、及び図5で示されたとおり、皮膚真皮由来の線維芽細胞におけるラクトフェリンの細胞増殖促進効果はソホロリピッド共存下でも保持された。しかし、pH、ラクトフェリン濃度、ソホロリピッド濃度によって複合体の細胞増殖促進効果が異なることも示唆された。
【0044】
化粧品ローションとしての実施例
実施例1 比較例1
ラクトフェリン 0.2% 0.2%
ソホロリピッド 0.2% −
1,3−ブチレングリコール 4.0% 4.0%
ジプロピレングリコール 1.0% 1.0%
セタノール 2.0% 2.0%
POE硬化ヒマシ油 0.2% 0.2%
スクワラン 0.5% 0.5%
エタノール 5.0% 5.0%
pH調整剤 適量(6.0)適量(6.0)
防腐剤 適量 適量
水 残量 適量
【0045】
実施例2:塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有する顆粒形態の素材組成物
ラクトフェリン5g、ソホロリピッド5g、エリスリトール20g、デキストリン70g、pH調整剤適量(pH6.5となるように調整)を流動層造粒機にいれ、イオン交換水100gを噴霧して造粒し、顆粒形態の素材組成物を得た。この素材組成物は顆粒状食品、医薬品、飼料に適用できる。
【0046】
実施例3:塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有する液状形態の組成物
ラクトフェリン0.5g、ソホロリピッド0.25g、エリスリトール5g、スクラロース0.3g、pH調整剤適量(pH3.5となるように調整)、防腐剤適量、残量をイオン交換水で総量100gとし、75℃まで昇温し、プロペラ攪拌機により15分間分散溶解させ、液状形態の組成物を得た。本組成物は清涼飲料、飼料として適用できる。
【0047】
実施例4:塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有する固形状の錠剤
ラクトフェリン2.5g、ソホロリピッド1g、マルチトール33g、ソルビトール33g、エリスリトール15g、クエン酸4g、香料2g、ステアリン酸カルシウム3g、ミルクカルシウム6g、スクラロース0.5gで総量100gとし、打錠装置を用いて固形状形態の錠剤を得た。本錠剤は食品サプリメント、飼料に適用できる。
【0048】
実施例5:塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有するクリーム
油相成分としてホホバ油5g、プロピルパラベン0.1g、ソホロリピッド2.5g、スクワラン10gを80℃で加温溶解した。水相成分として、イオン交換水70g、カルボキシビニルポリマー0.4g、グリセリン5g、ラクトフェリン0.5g、メチルパラベン0.2g、Tween80、0.25g、pH調整剤適量(最終pH6.5に調整)を80℃で加温溶解した。油相分散液を攪拌しながら水相溶解液を加え10分間攪拌し、トリエタノールアミン0.4gとイオン交換水残量を加え、総量100gに調整し、攪拌しながら35℃まで冷却し、クリームを得た。
【0049】
実施例6:塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有するゲル状組成物
カルボキシビニルポリマーの2重量%水溶液を10g、キサンタンガム10g、ヘキシレングリコール10g、ソホロリピッド1g、グリセリン1g、フェノキシエタノール0.5g、ラクトフェリン0.5g、エタノール5g、アスコルビン酸0.1g(pH6前後)、ビタミンE0.0001g、香料0.01g、イオン交換水残量を加え、総量100gに調整し、ゲル状組成物を得た。ゲル状化粧品基材(美白剤など)として適用できる。
【0050】
実施例7:塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドを含有するゾル状組成物
パラチノース8g、キシリトール2g、ラクトフェリン0.2g、ソホロリピッド0.2g、クエン酸ナトリウム0.12g、クエン酸0.22g、香料0.2g、キサンタンガム0.5g、イオン交換水残量で全量100gに調整し、加温攪拌溶解し、ゾル状組成物を得た。食品、飼料として適用する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のラクトフェリン−ホロリピッド複合体を含有する製剤は化粧品、医薬品、食品、飼料、及びそれらの添加剤として好適に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドの複合体を含有する組成物
【請求項2】
塩基性生理活性タンパク質濃度0.001%〜10%、ソホロリピッド濃度0.01%〜10%、塩基性生理活性タンパク質対ソホロリピッドの濃度比率0.0001〜100、pH3〜8、に制御することを特徴とする請求項1に記載の組成物
【請求項3】
塩基性生理活性タンパク質濃度0.01%〜0.5%、ソホロリピッド濃度0.1%〜1%、塩基性生理活性タンパク質対ソホロリピッドの濃度比率0.01〜5、pH5〜7に制御することを特徴とする請求項1に記載の組成物
【請求項4】
塩基性生理活性タンパク質とソホロリピッドの複合体粒子のサイズを1nm〜3μmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の組成物

【図1】
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【図2】
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【図2】
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【図2】
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【図2】
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【図2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−232963(P2012−232963A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115206(P2011−115206)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000106106)サラヤ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】