説明

塩素バイパス排ガスの処理装置及び処理方法

【課題】塩素バイパス排ガスを、初期コスト及び運転コストを低く抑え、熱損失を抑制しながら処理する。
【解決手段】セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部G1を抽気するとともに、抽気した燃焼ガスを低温ガスにより冷却するプローブ3と、プローブで抽気されたガスに含まれるダストD2を集塵する少なくとも250℃以上、好ましくは300℃の耐熱性を有する集塵装置6と、集塵装置の後段に乾式脱硫装置8とを備える塩素バイパス排ガスの処理装置1。乾式脱硫装置は、乾式脱硫剤を用いて集塵装置から排出されたガスを脱硫することができ、集塵装置は、ろ過式電気集塵装置とすることができる。集塵後の抽気ガスの温度を250℃以上、好ましくは300℃以上、600℃以下とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパス設備から排出されるガスを処理する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造設備におけるプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となる塩素、硫黄、アルカリ等の中で、塩素が特に問題となることに着目し、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気して塩素を除去する塩素バイパス設備が用いられている。
【0003】
塩素バイパス設備は、図2に示すように、セメントキルン32の窯尻から最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部を抽気するプローブ33と、プローブ33内に冷風を供給して抽気ガスG1を急冷する冷却ファン34と、抽気ガスG1に含まれるダストの粗粉D1を分離する分級機としてのサイクロン35と、サイクロン35から排出された微粉D2を含む抽気ガスG2を冷却する冷却器36と、冷却器36に冷風を供給する冷却ファン37と、冷却器36で冷却された抽気ガスG2中のダストの微粉D2を集塵するバグフィルタ38と、冷却器36及びバグフィルタ38から排出された微粉D2を回収するダストタンク39とを備える。
【0004】
上記構成を有する塩素バイパス設備31では、セメントキルン32の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路からの燃焼ガスの一部G1をプローブ33によって抽気しながら、冷却ファン34からの冷風によって冷却することで塩素化合物の微結晶が生成される。この塩素化合物の微結晶は、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に偏在しているため、サイクロン35で分級した粗粉D1をセメントキルン32に付設されたプレヒータ等にセメント原料として戻す。
【0005】
一方、サイクロン35によって分離された微粉D2を含む抽気ガスG2を冷却器36に導入し、冷却された抽気ガスG2をバグフィルタ38に導入し、バグフィルタ38において抽気ガスG2に含まれるダストD2を回収する。バグフィルタ38で回収したダストD2は、冷却器36から排出されたダストと共に、塩素濃度の高い塩素バイパスダストとしてダストタンク39に貯留した後、セメント焼成工程の系外に排出し、処理する。
【0006】
しかし、上記塩素バイパス設備31では、微粉D2を集塵するにあたってバグフィルタ38を用いている。しかし、バグフィルタ38は、圧力損失が高いため運転コストが高くなると共に、ろ布を定期的に交換する必要があるため保守管理費用が増加するという問題がある。これに加え、バグフィルタ38へ抽気ガスG2を導入する前に冷却器36を設置して抽気ガスG2の調温をする必要があるため、冷却器36の保守も必要になり、さらに、抽気ガスG2をバグフィルタ38の耐熱温度まで冷却するため、それによる熱損失が生ずるという問題もある。
【0007】
特に、間接冷却方式の冷却器36を用いると、冷却器36内で固結が発生して能力が低下したり、閉塞状態となって運転継続が困難になる虞もある。また、セメントキルンの窯尻でリサイクル燃料を使用しているため、燃焼した燃料の一部がバグフィルタ38に達し、バグフィルタ38のろ布を目詰まりさせたり、ろ布を焼損する虞もある。
【0008】
そこで、近年開発された高耐熱型バグフィルタを塩素バイパス設備に導入することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この高耐熱型バグフィルタは、ハニカムセル化した棒状のセラミック管を複数配列し、900℃程度までの耐熱性を有する。
【0009】
この高耐熱型バグフィルタを用いた塩素バイパス設備51は、図3に示すように、セメントキルン52の燃焼ガスの一部G1を抽気するプローブ53と、プローブ53内に冷風を供給して抽気ガスG1を急冷する冷却ファン54と、抽気ガスG1に含まれるダストの粗粉D1を分離する分級機としてのサイクロン55と、サイクロン55から排出された微粉D2を含む抽気ガスG2を高温のまま集塵する高耐熱型バグフィルタ56とで構成される。そのため、図2に示した塩素バイパス設備31の冷却器36が不要となり、冷却器56の保守管理や、冷却による熱損失が生ずることはない。
【0010】
また、集塵後の抽気ガスG2には、高濃度のSO2が含まれるため、上記塩素バイパス設備51に脱硫装置57を付設し、高効率で脱硫処理する。その処理方式として、石灰−石膏法や水マグ法等の湿式処理が用いられるが、これらの方法では、大幅に塩素バイパス排ガスの温度が低下するため、熱損失が大きくなったり、大量の水が必要になるという問題があった。
【0011】
また、高耐熱型バグフィルタを用いた塩素バイパス設備のもう一つの例として、図4に示す塩素バイパス設備71は、図3に示した塩素バイパス設備51の高耐熱型バグフィルタ56の後段にガスガスヒータ72を設置し、ガスガスヒータ72によって脱硫装置57からの排ガスを昇温しているため、熱損失を小さく抑えることができる。しかし、この塩素バイパス設備71では、機器点数が増加するため、設備の初期コストが高騰するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】2009−298677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、塩素バイパス設備から排出されるガス(塩素バイパス排ガス)を、初期コスト及び運転コストを低く抑え、熱損失を抑制しながら処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、塩素バイパス排ガスの処理装置であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気するとともに、抽気した燃焼ガスを低温ガスにより冷却するプローブと、該プローブで抽気されたガスに含まれるダストを集塵する少なくとも250℃の耐熱性を有する集塵装置と、該集塵装置の後段に乾式脱硫装置とを備えることを特徴とする。
【0015】
そして、本発明によれば、少なくとも250℃の耐熱性を有する集塵装置と、乾式脱硫装置とで抽気ガスを高温の状態で乾式処理するため、機器点数の増加を抑えて初期コストを低く抑え、湿式処理に必須の大量の水も不要となって運転コストも低く抑えることができ、熱損失を抑制しながら塩素バイパス排ガスを処理することができる。
【0016】
上記塩素バイパス排ガスの処理装置において、前記乾式脱硫装置は、乾式脱硫剤を用いて前記集塵装置から排出されたガスを脱硫することができる。
【0017】
また、前記集塵装置をろ過式電気集塵装置とすることができ、ろ過式電気集塵装置は、高耐熱型バグフィルタのようなバグの保守管理等が不要で、圧力損失も低く抑えることができるため、塩素バイパス排ガスの処理に要する運転コストを低く抑えることができる。
【0018】
さらに、上記塩素バイパス排ガスの処理装置において、前記低温ガスに添加する窒素ガスを発生させる窒素ガス発生装置を設けることができ、ダイオキシンの発生を防止しながら抽気ガスの冷却を行うことができる。
【0019】
また、本発明は、塩素バイパス排ガスの処理方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、抽気ガスに含まれるダストを、該抽気ガスを250℃以上の温度に維持しながら集塵し、集塵後の抽気ガスを乾式脱硫法により脱硫することを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、初期コスト及び運転コストを低く抑え、熱損失を抑制しながら塩素バイパス排ガスを処理することができる。
【0020】
上記塩素バイパス排ガスの処理方法において、前記集塵後の抽気ガスの温度を250℃以上、600℃以下にすることができ、セメントキルンの排ガス系に戻した場合でも、熱損失を抑制することができ、セメント原料等の乾燥熱源等としても有効利用することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、冷却器の設備コストを削減することができ、冷却器及びバグフィルタの保守管理にかかる費用を削減できる。また、機器点数の減少や、圧力損失の抑制により、電力等の運転コストの削減が可能になると共に、熱損失を抑制しながら処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる塩素バイパス排ガスの処理装置の一実施の形態を示す全体構成図である。
【図2】従来の塩素バイパス設備の一例を示す全体構成図である。
【図3】従来の塩素バイパス設備の他の例を示す全体構成図である。
【図4】従来の塩素バイパス設備の他の例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明にかかる塩素バイパス排ガスの処理装置の一実施の形態を設けた塩素バイパス設備を示し、この塩素バイパス設備1は、セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロン(不図示)に至るまでのキルン排ガス流路より、燃焼ガスの一部G1を冷却ファン4からの冷風で冷却しながら抽気するプローブ3と、プローブ3で抽気した抽気ガスG1に含まれるダストの粗粉D1を分離する分級機としてのサイクロン5と、サイクロン5から排出された抽気ガスG2に含まれる微粉D2を集塵するろ過式電気集塵装置6と、ファン7と、ろ過式電気集塵装置6から排出された排ガスG3を脱硫する乾式脱硫装置8、窒素ガス発生装置9等で構成される。プローブ3〜サイクロン5については、従来の塩素バイパス設備に設置されているものと同様の構成を有するため、詳細説明を省略する。
【0025】
ろ過式電気集塵装置6は、例えば古河システムズ株式会社製フィルタ式電気集じん装置を使用することができ、その内部に、コロナ放電を発生させる放電電極と、集塵機能とフィルタ機能を併せ持った箱型の集塵電極等を備え、含塵ガス中のダストは、放電電極で発生したコロナ放電にて電荷を与えられ、集塵電極で捕集された後、これらの集塵電極(フィルタ)を通過するときにろ過される。
【0026】
乾式脱硫装置8は、例えば、金属酸化物を乾式脱硫剤として用い、還元された金属酸化物をSOxと反応させて硫化物とすることでガス中から硫黄分を除去し、この際に生じた硫化物を酸素と反応させ、硫黄分をSO2として放出させることにより繰り返し利用する装置である。金属酸化物には、酸化鉄(Fe23)、亜鉛フェライト(ZnFe24)等を用いることができる。再生時に放出されたSO2は、硫黄回収装置(不図示)で別途回収する。また、この装置により硫黄分をさらに高濃度に濃縮することが可能になるため、効率的に、かつコンパクトな処理設備で、カルシウム分と反応させて石膏として回収したり、硫酸として回収することもできる。
【0027】
窒素ガス発生装置9は、周囲の空気を取り込んで窒素ガスを発生させ、発生した窒素ガスを冷却ファン4からプローブ3に供給される冷風に導入し、ダイオキシンの発生を防止するために備えられる。
【0028】
上記構成を有する塩素バイパス設備1についても、図2〜図3に示した塩素バイパス設備と同様に、セメントキルン2の窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路からの燃焼ガスの一部G1をプローブ3によって抽気しながら、冷却ファン4からの冷風によって冷却する。これによって、抽気ガスが550℃程度以下に急冷され、塩素化合物の微結晶が生成される。この塩素化合物の微結晶は、抽気ガスG1に含まれるダストの微粉側に偏在しているため、サイクロン5で分級した粗粉D1をセメントキルン2に付設されたプレヒータ等にセメント原料として戻す。ここで、上述のように、窒素ガス発生装置9で発生した窒素ガスを抽気ガスG1の冷却に用いることで、オキシクロリネーション反応を抑制し、ダイオキシンの発生を防止することができる。一方、ダイオキシンの発生の問題がない場合には、大気による冷却を行っても問題はない。
【0029】
次に、サイクロン5によって分離された微粉D2を含み、400℃程度の抽気ガスG2をろ過式電気集塵装置6に導入し、微粉D2を回収する。ろ過式電気集塵装置6で回収したダストD2は、塩素濃度の高い塩素バイパスダストとして、セメント焼成工程の系外に排出し、処理する。
【0030】
一方、ろ過式電気集塵装置6から排出されファン7で下流側に供給された排ガスG3は、乾式脱硫装置8によって脱硫後、セメントキルン2の排ガス系、すなわちセメントキルン2の排ガスを誘引するファン(IDF)の出口側に戻すことができ、セメント原料等の乾燥熱源等としても有効利用することができる。
【0031】
尚、上記実施の形態においては、サイクロン5から排出された抽気ガスG2に含まれる微粉D2を集塵するにあたって、ろ過式電気集塵装置6を用いた場合について説明したが、この集塵装置には、高温のまま集塵する高耐熱型バグフィルタを用いることもでき、少なくとも250℃以上、好ましくは300℃以上の耐熱性を有する集塵装置であれば使用することができる。
【0032】
また、上記実施の形態においては、乾式脱硫装置として、酸化鉄、亜鉛フェライト等の金属酸化物を乾式脱硫剤として用いるものを例示したが、ろ過式電気集塵装置6で集塵した後の排ガスG3を250℃以上、好ましくは300℃以上、600℃以下の状態で乾式脱硫することができる乾式脱硫装置であれば、他の形式のものを使用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 塩素バイパス設備
2 セメントキルン
3 プローブ
4 冷却ファン
5 サイクロン
6 ろ過式電気集塵装置
7 ファン
8 乾式脱硫装置
9 窒素ガス発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気するとともに、抽気した燃焼ガスを低温ガスにより冷却するプローブと、
該プローブで抽気されたガスに含まれるダストを集塵する少なくとも250℃の耐熱性を有する集塵装置と、
該集塵装置の後段に乾式脱硫装置とを備えることを特徴とする塩素バイパス排ガスの処理装置。
【請求項2】
前記乾式脱硫装置は、乾式脱硫剤を用いて前記集塵装置から排出されたガスを脱硫することを特徴とする請求項1に記載の塩素バイパス排ガスの処理装置。
【請求項3】
前記集塵装置は、ろ過式電気集塵装置であることを特徴とする請求項1に記載の塩素バイパス排ガスの処理装置。
【請求項4】
前記低温ガスに添加する窒素ガスを発生させる窒素ガス発生装置を備えることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の塩素バイパス排ガスの処理装置。
【請求項5】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を冷却しながら抽気し、
抽気ガスに含まれるダストを、該抽気ガスを250℃以上の温度に維持しながら集塵し、
集塵後の抽気ガスを乾式脱硫法により脱硫することを特徴とする塩素バイパス排ガスの処理方法。
【請求項6】
前記集塵後の抽気ガスの温度を250℃以上、600℃以下とすることを特徴とする塩素バイパス排ガスの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−200627(P2012−200627A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65154(P2011−65154)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】