説明

増速回路

【課題】破砕機に用いられる作動シリンダの作動ロッドの伸長及び縮短を増速する増速回路を提供する。
【解決手段】反転シリンダ2とボトム側上流切換バルブ3、ボトム側下流切換バルブ4及びロッド側切換バルブ5とから構成され、ボトム側上流切換バルブ3は、ボトム側上流入口をボトム側ライン6と、ボトム側上流切換前出口を反転ロッド側区画22と、ボトム側上流切換後出口を作動ボトム側区画11と接続し、ボトム側下流切換バルブ4は、ボトム側下流入口を反転シリンダ2の反転ボトム側区画21と、ボトム側下流切換前出口を作動ボトム側区画11と、ボトム側下流切換後出口をロッド側ライン7と接続し、ロッド側切換バルブ5は、ロッド側入口を作動ロッド側区画12と、ロッド側切換前出口をロッド側ライン7と、ロッド側切換後出口を反転ロッド側区画22と接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダにおけるロッドの伸長又は縮短を増速する増速回路に関する。
【背景技術】
【0002】
増速回路は、例えば可動あごを開閉動作させて対象構造物を破砕する破砕機に用いられる油圧シリンダ(本発明では特に作動シリンダと呼び、作動シリンダにおける各部を「作動〜」と呼ぶ。)の作動ロッドの伸長を増速し、前記可動あごの閉動作を速くする。例えば特許文献1が開示する増速回路は、移動する作動ピストンに押されて作動ロッド側区画から排出される油を、ボトム側ライン(本来、作動シリンダのボトム側に接続される油圧ラインを、便宜上、ボトム側ラインと呼ぶ。)を通じて前記作動ボトム側区画に戻すことにより、作動ロッドの伸長を増速し、可動あごの閉動作を速くする。増速回路を用いると、増速中の作動ロッドの推力は小さくなるが、可動あごが対象構造物に接触すると、油の流量を通常にして前記油による推力を本来の強さに戻す(特許文献1の図1及び図2参照)。特許文献1は、片口あご式破砕機に適用された増速回路を例示しているが、油圧ラインを分岐することにより両口あご式破砕機にも増速回路を適用しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-266587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示する増速回路は、可動あごの閉動作を速くするが開動作が変らない。説明を簡単にするため、作動ピストンを移動させたときの作動ボトム側区画と作動ロッド側区画との油の給排割合を2:1と仮定する。また、ポンプからロッド側ライン(本来、作動シリンダのロッド側区画に接続される油圧ラインを、便宜上、ロッド側ラインと呼ぶ。)又はボトム側ラインを通じて流量「1」の油が供給されるとする。可動あごを閉じる場合、作動ロッド側区画から排出される油がボトム側ラインに戻され、作動ボトム側区画へ供給される油に追加される。このため、ポンプからボトム側ラインを通じて流量「1」の油が作動ボトム側区画へ供給されると、作動ロッド側区画から流量「1」の油がボトム側ラインに戻され、作動ボトム側区画へ流量「2」の油が供給されるようになり、増速回路がない場合に比べて可動あごの閉動作を2倍速くする。作動ロッド側区画から排出される油は、作動ボトム側区画にすべて戻されるため、圧損が実質発生しない。
【0005】
これに対し、可動あごを開く場合、ポンプから流量「1」の油がそのまま作動ロッド側区画へ供給されるため、可動あごの開動作は速くならない。むしろ、作動ボトム側区画から流量「2」の油が排出されるため、ボトム側ラインに発生する圧損によりロッド側ラインから供給する油が減少し、作動ピストンの移動は少なからず減速する。破砕機は、可動あごの閉動作が速くなれば十分で、増速回路も前記閉動作を速くできればよいと考えることもできるが、破砕作業全般の時間短縮を鑑みた場合、逆に可動あごの開動作が遅くなるようでは意味がない。そこで、建設機械の破砕機に用いられる作動シリンダにおける作動ロッドの伸長及び縮短を増速する増速回路を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
検討の結果開発したものが、油を作動ボトム側区画に供給して作動ロッドを伸長し、油を作動ロッド側区画に供給して作動ロッドを縮短する作動シリンダの増速回路において、反転ボトム側区画と反転ロッド側区画との油の給排割合が作動ボトム側区画と作動ロッド側区画との油の給排割合に等しい反転シリンダを備え、無負荷時に作動ロッドを伸長する際、反転ボトム側区画を作動ボトム側区画に接続し、反転ロッド側区画をボトム側ラインに接続して、反転シリンダを介して油を作動ボトム側区画に供給し、負荷時に作動ロッドを伸長する際、作動ボトム側区画をボトム側ラインに接続して、反転シリンダを介さずに油を作動ボトム側区画に供給する作動シリンダの増速回路である。本発明では、作動シリンダ同様、反転シリンダにおける各部を「反転〜」と呼ぶ。
【0007】
具体的な増速回路は、ポンプ又はタンクから延びるボトム側ラインに反転シリンダ及びボトム側上流切換バルブを介在させ、反転シリンダは、反転ボトム側区画と反転ロッド側区画との油の給排割合が作動ボトム側区画と作動ロッド側区画との油の給排割合に等しい油圧シリンダで、反転ボトム側区画をボトム側下流ラインにより作動ボトム側区画と接続し、ボトム側上流切換バルブは、ボトム側上流パイロットラインをボトム側ラインに接続し、ボトム側上流入口をボトム側ラインに接続し、ボトム側上流切換前出口をボトム側上流基本ラインにより反転ロッド側区画と接続し、ボトム側上流切換後出口をボトム側上流分岐ラインにより作動ボトム側区画と接続して構成する。
【0008】
より好ましい増速回路は、ボトム側下流ラインにボトム側下流切換バルブを、ポンプ又はタンクから延びるロッド側ラインにロッド側切換バルブをそれぞれ介在させ、ボトム側下流切換バルブは、ボトム側下流パイロットラインをボトム側ラインに接続し、ボトム側下流入口をボトム側下流ラインにより反転ボトム側区画と接続し、ボトム側下流切換前出口をボトム側下流基本ラインにより作動ボトム側区画と接続し、ボトム側下流切換後出口をボトム側下流分岐ラインによりロッド側ラインと接続し、ロッド側切換バルブは、ロッド側パイロットラインをボトム側ラインに接続し、ロッド側入口をロッド側基本ラインにより作動ロッド側区画と接続し、ロッド側切換前出口をロッド側ラインに接続し、ロッド側切換後出口をロッド側分岐ラインにより反転ロッド側区画と接続して構成する。
【0009】
反転シリンダは、反転ボトム側区画と反転ロッド側区画との油の給排割合が作動ボトム側区画と作動ロッド側区画との油の給排割合に等しければ、例えば反転チューブの内径や反転ピストンの移動範囲が、作動チューブの内径や作動ピストンの移動範囲と異なってもよい。しかし、反転ボトム側区画と反転ロッド側区画との油の給排割合が作動ボトム側区画と作動ロッド側区画との油の給排割合に等しくするため、反転ピストンは前記作動ピストンと同一に移動することが好ましい。これから、反転シリンダは、少なくとも反転チューブの内径や反転ピストンの移動範囲等、反転ピストンの移動に関して作動シリンダと同一仕様の油圧シリンダ、好ましくはすべての仕様が全く同一の油圧シリンダを用いるとよい。反転シリンダは、外部に仕事をせず、反転ロッドを常に無負荷にする。
【0010】
本発明の増速回路は、反転シリンダとボトム側上流切換バルブとにより、油の流量優先又は推力優先を切り換える機能選択機構を構成する。これにより、作動ロッドの伸長に際して作動ボトム側区画に送り込む油の流量を増やし、また作動ロッドの縮短に際して作動ボトム側区画から排出される油による圧損の発生を抑制又は防止して、作動ロッドの伸長及び縮短双方を増速する(従来生じていた圧損による減速がなくなり、従来に比べて増速する)。また、ボトム側下流切換バルブとロッド側切換バルブとにより、作動ピストンと反転ピストンとを同期させるピストン同期機構を構成する。これにより、作動ピストンと反転ピストンとを同じだけ移動させ、反転ピストンが先に反転チューブの始端又は終端に到達する等、反転ピストンが作動ピストンの移動を妨げる虞をなくすことができる。
【0011】
以下では、反転シリンダ、ボトム側上流切換バルブ、ボトム側下流切換バルブ及びロッド側切換バルブをすべて備えて構成される本発明の増速回路の働きを説明する。ここで、上述同様に説明を簡単にするため、作動ピストンを移動させたときの作動ボトム側区画と作動ロッド側区画との油の給排割合を2:1と仮定する。また、反転シリンダは、両区画の油の給排割合が作動シリンダと同じ(2:1)である同一仕様の油圧シリンダとする。そして、建設機械本体のポンプからロッド側ライン又はボトム側ラインを通じて流量「1」の油が供給されるとする。
【0012】
無負荷時に作動ロッドが伸長する場合、ポンプから供給される流量「1」の油が、ボトム側ライン、ボトム側上流切換バルブ、ボトム側上流基本ラインを経て反転ロッド側区画に送り込まれる。これにより、反転ボトム側区画から排出された流量「2」の油が、ボトム側下流ライン、ボトム側下流切換バルブ、ボトム側下流基本ラインを経て作動ボトム側区画に送り込まれる。そして、作動ロッド側区画から排出された流量「1」の油が、ロッド側基本ライン、ロッド側切換バルブ、ロッド側ラインを経てタンクに戻される。このように、本発明の増速回路は、作動ピストンを押す油の流量は増加するが、ポンプから供給される油とタンクに戻される油とは流量が同じで、作動ロッドの伸長に際して圧損の発生を防止又は大きく抑制して、作動ピストンの移動を増速、すなわち作動ロッドの伸長を増速させる。
【0013】
負荷時の作動ロッドの伸長(例えば破砕機の可動あごが対象構造物に接触した後の作動ロッドの伸長)では、ポンプから供給される油は油圧を上昇させ、ボトム側上流切換バルブ、ボトム側下流切換バルブ、そしてロッド側切換バルブがいずれも切り換わる。これにより、ポンプから供給される流量「1」の油が、ボトム側ライン、ボトム側上流切換バルブ、ボトム側上流分岐ラインを経て作動ボトム側区画へ直接送り込まれる。こうして作動ボトム側区画へ直接送り込まれた油は、本来の推力を発揮して作動ピストンを押し、負荷に対抗する。作動ロッド側区画から排出された流量「0.5」の油は、ロッド側基本ライン、ロッド側切換バルブ、ロッド側分岐ライン、ボトム側上流基本ラインを経て反転ロッド側区画に送り込まれる。これにより、反転ボトム側区画から排出された流量「1」の油が、ボトム側下流ライン、ボトム側下流切換バルブ、ボトム側下流分岐ラインを経てタンクに戻される。
【0014】
作動ロッドの縮短では、ポンプから供給される流量「1」の油が、ロッド側ライン、ロッド側切換バルブ、ロッド側基本ラインを経て作動ロッド側区画に送り込まれる。これにより、作動ボトム側区画から排出された流量「2」の油が、ボトム側下流基本ライン、ボトム側下流切換バルブ、ボトム側下流ラインを経て反転ボトム側区画に送り込まれる。そして、反転ロッド側区画から排出された流量「1」の油が、ボトム側上流基本ライン、ボトム側上流切換バルブ、ボトム側ラインを経てタンクに戻される。このように、作動ピストンを押す油は流量が変らないものの、タンクに戻される油は流量が少ないので、本発明の増速回路は、作動ロッドの縮短で圧損を発生させることなく、作動ピストンの移動を減速させない、すなわち従来の増速回路に比べて作動ロッドの縮短を増速させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、建設機械の破砕機に用いられる作動シリンダにおける作動ロッドの伸長及び縮短をいずれも増速する増速回路が提供できるようになる。特に、本発明はポンプ又はタンクと作動シリンダとの間に反転シリンダを介在させることにより、ポンプから作動シリンダへ送り込む油を反転シリンダにより増加させ、また作動シリンダからタンクに戻す油を反転シリンダにより減少させて、作動ロッドの伸長及び縮短に関係なく、ポンプから送り込む油とタンクに戻る油とを等量にして圧損の発生を抑制又は防止する。本発明の増速回路は作動シリンダ毎に適用されるため、片あご式破砕機に適用されることを基本とするが、一対のシリンダそれぞれに本発明を適用すれば、両あご式破砕機にも適用できる。こうして、本発明を適用した片あご式又は両あご式破砕機は、可動あごの開動作及び閉動作をいずれも速くして、破砕作業の作業時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に基づく増速回路の一例において、無負荷時に作動ロッドを伸長する場合を表す回路ブロック図である。
【図2】本発明に基づく増速回路の一例において、負荷時に作動ロッドを伸長する場合を表す回路ブロック図である。
【図3】本発明に基づく増速回路の一例において、作動ロッドを縮短する場合を表す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。まず、本例の増速回路の構成について、図1により説明する。本例の増速回路は、図1に見られるように、ポンプ又はタンク(いずれも図示略)から延びるボトム側ライン6及びロッド側ライン7と作動シリンダ1との間に介在する反転シリンダ2とボトム側上流切換バルブ3、ボトム側下流切換バルブ4及びロッド側切換バルブ5とから構成される。本例の反転シリンダ2は、作動シリンダ1と全く同一仕様の油圧シリンダ、すなわち反転ボトム側区画21と反転ロッド側区画22との油の給排割合が作動ボトム側区画11と作動ロッド側区画12との油の給排割合に等しい油圧シリンダである。このため、反転チューブ25の内径や反転ピストン23の移動範囲が作動チューブ15の内径や作動ピストン13の移動範囲と同一である。ただ、反転シリンダ2は、外部に仕事をせず、反転ロッド24を常に無負荷にしている。
【0018】
ボトム側上流切換バルブ3は、ボトム側上流パイロットライン31をボトム側ライン6に接続し、ボトム側上流入口をボトム側ライン6に接続し、ボトム側上流切換前出口をボトム側上流基本ライン32により反転ロッド側区画22と接続し、ボトム側下流基本ライン42に合流するボトム側上流分岐ライン33によりボトム側上流切換後出口を作動ボトム側区画11と接続している。本例は、作動ボトム側区画11に向けた油の流れのみを許すボトム側上流チェックバルブ331をボトム側上流分岐ライン33に介在させている。本例のボトム側上流切換バルブ3は、常態としてボトム側ライン6とボトム側上流基本ライン32とを連通させ、無負荷時に作動ロッド14を伸長する場合にポンプから反転ロッド側区画22へ油を送り込み、作動ロッド14を縮短する場合に反転ロッド側区画22からタンクへ油を戻すようにしている。また、本例のボトム側上流切換バルブ3は、ボトム側ライン6の油圧が高くなると切り換わり、ボトム側ライン6とボトム側上流分岐ライン33とを連通させて、負荷時に作動ロッド14を伸長する場合にポンプから作動ボトム側区画11へ油を送り込めるようにしている。
【0019】
ボトム側下流切換バルブ4は、ボトム側下流パイロットライン41をボトム側ライン6に接続し、ボトム側下流入口をボトム側下流ライン44により反転ボトム側区画21と接続し、ボトム側下流切換前出口をボトム側下流基本ライン42により作動ボトム側区画11と接続し、ボトム側下流切換後出口をボトム側下流分岐ライン43によりロッド側ライン7と接続している。本例のボトム側下流切換バルブ4は、常態としてボトム側下流ライン44とボトム側下流基本ライン42とを連通させ、無負荷時に作動ロッド14を伸長する場合に反転ボトム側区画21から作動ボトム側区画11へ油を送り込み、作動ロッド14を縮短する場合に作動ボトム側区画11から反転ボトム側区画21へ油を送り込めるようにしている。また、本例のボトム側下流切換バルブ4は、ボトム側ライン6の油圧が高くなると切り換わり、ボトム側下流ライン44とボトム側下流分岐ライン43とを連通させて、負荷時に作動ロッド14を伸長する場合に反転ボトム側区画21からタンクへ油を戻せるようにしている。
【0020】
ロッド側切換バルブ5は、ロッド側パイロットライン51をボトム側ライン6に接続し、ロッド側入口をロッド側基本ライン52により作動ロッド側区画12と接続し、ロッド側切換前出口をロッド側ライン7に接続し、ボトム側上流基本ライン32に合流するロッド側分岐ライン53によりロッド側切換後出口を反転ロッド側区画22と接続している。本例は、反転ロッド側区画22に向けた油の流れのみを許すロッド側チェックバルブ531をロッド側分岐ライン53に介在させている。本例のロッド側切換バルブ5は、常態としてロッド側基本ライン52とロッド側ライン7とを連通させ、無負荷時に作動ロッド14を伸長する場合に作動ロッド側区画12からタンクへ油を戻し、作動ロッド14を縮短する場合にポンプから作動ロッド側区画12へ油を送り込めるようにしている。また、本例のロッド側切換バルブ5は、ボトム側ライン6の油圧が高くなると切り換わり、ロッド側基本ライン52とロッド側分岐ライン53とを連通させ、負荷時に作動ロッド14を伸長する場合に作動ロッド側区画12から反転ロッド側区画22へ油を送り込めるようにしている。
【0021】
次に、本例の増速回路の働きを、無負荷時及び負荷時における作動ロッド14の伸長と作動ロッド14の縮短とに従って説明する。説明を簡単にするため、作動ピストン13を移動させたときの作動ボトム側区画11と作動ロッド側区画12との油の給排割合を2:1と仮定する。これから、本例の反転シリンダ2は、作動シリンダ1と全くの同仕様であるので、反転ボトム側区画21と反転ロッド側区画22との油の給排割合も2:1である。ロッド側ライン7及びボトム側ライン6は、一方がポンプに接続されると、他方がタンクに接続されるように、切換バルブ(図示略)を介してそれぞれがポンプ又はタンクに接続されている。そして、ポンプに接続されたロッド側ライン7又はボトム側ライン6は、流量「1」の油を供給すると仮定する。また、各図において、作動シリンダ1に向けて供給される油は黒塗り矢印、作動シリンダ1から排出される油は白抜き矢印で表している。
【0022】
無負荷時の作動ロッド14の伸長では、図1に見られるように、ボトム側上流切換バルブ3はボトム側ライン6とボトム側上流基本ライン32とを連通させ、ボトム側下流切換バルブ4はボトム側下流ライン44とボトム側下流基本ライン42とを連通させ、そしてロッド側切換バルブ5はロッド側基本ライン52とロッド側ライン7とを連通させている。これにより、ポンプから供給される流量「1」の油は、反転ロッド側区画22に送り込まれ、反転ピストン23を押して反転ロッド24を縮短させる。そして、前記反転ピストン23の移動により、反転ボトム側区画21から流量「2」の油が排出され、作動ボトム側区画11に送り込まれ、作動ピストン13を押して作動ロッド14を伸長させる。このとき、ポンプからは流量「1」の油しか供給されないが、作動ボトム側区画11に送り込まれる油は流量「2」になっており、作動ピストン13が増速されている。これは、反転シリンダ2において、油の給排割合が「反転」された格好になっている(「反転」シリンダは、この意味で名付けている。)。
【0023】
作動ピストン13の移動は、作動ロッド側区画12から流量「1」の油を排出させ、タンクへ戻す。これから理解されるように、本発明の増速回路によれば、作動ピストン13を押す油の流量は増加するが、ポンプから供給される油とタンクに戻される油とは流量が同じになり、圧損の発生を防止又は大きく抑制する。ここで、本例の作動シリンダ1と反転シリンダ2とは全くの同一仕様であるため、作動ピストン13の移動量と反転ピストン23の移動量とは全く同じであり、両者は同期している。これにより、反転ピストン23が作動ピストン13より先に移動始端又は移動終端に到達し、作動ピストン13を移動させるために必要な油の供給又は排出が妨げられることがなくなる。後述するように、負荷時の作動ロッド14の伸長で、作動ロッド側区画12から排出された油をあえて反転ロッド側区画22へ戻す理由は、こうした作動ピストン13と反転ピストン23との同期を図るためである。
【0024】
負荷時の作動ロッド14の伸長では、図2に見られるように、ボトム側ライン6の油圧が上昇する結果、ボトム側上流切換バルブ3が切り換わってボトム側ライン6とボトム側上流分岐ライン33とを連通させ、ボトム側下流切換バルブ4が切り換わってボトム側下流ライン44とボトム側下流分岐ライン43とを連通させ、そしてロッド側切換バルブ5が切り換わってロッド側基本ライン52とロッド側分岐ライン53とを連通させる。
これにより、ポンプから供給される流量「1」の油は、直接作動ボトム側区画11に送り込まれ、作動ピストン13を押して作動ロッド14を伸長させる。本発明の増速回路は、反転シリンダ2を経て作動ボトム側区画11に流量「2」の油を送り込むので推力が落ちるが、作動ボトム側区画11に流量「1」の油を送り込むことで本来の推力を発揮させる。これから、反転シリンダ2とボトム側上流切換バルブ3との組み合わせは、ボトム側ライン6を通じて供給する油の流量優先又は推力優先を切り換える機能選択機構を構成していると見ることができる。
【0025】
作動ピストン13の移動により作動ロッド側区画12から排出される油は、そのままタンクへ戻しても構わない。しかし、上述したように、作動ピストン13と反転ピストン23とを同期させておくため、作動ロッド側区画12から排出された流量「0.5」の油は反転ロッド側区画22に送り込み、反転ピストン23を作動ピストン13と同じだけ移動させ、反転ボトム側区画21から排出される流量「1」の油をタンクに戻すようにしている。これにより、無負荷時又は負荷時を問わず、作動ロッド14の伸長に際して、作動ピストン14と反転ピストン24との同期を図ることができる。これから、ボトム側下流切換バルブ4とロッド側切換バルブ5との組み合わせは、作動ピストン14と反転ピストン24とを同期させるピストン同期機構を構成していると見ることができる。こうして反転シリンダ2を経てタンクに戻される油は、ポンプから供給される油と流量が同じになり、作動ロッド14の伸長に際して圧損の発生を防止又は大きく抑制する。
【0026】
作動ロッド14の縮短では、図3に見られるように、ボトム側上流切換バルブ3はボトム側ライン6とボトム側上流基本ライン32とを連通させ、ボトム側下流切換バルブ4はボトム側下流ライン44とボトム側下流基本ライン42とを連通させ、そしてロッド側切換バルブ5はロッド側基本ライン52とロッド側ライン7とを連通させている。これにより、ポンプから供給される流量「1」の油は、作動ロッド側区画12に送り込まれ、作動ピストン13を押して作動ロッド14を縮短させる。そして、前記作動ピストン13の移動により、作動ボトム側区画11から流量「2」の油が排出され、反転ボトム側区画21に送り込まれ、反転ピストン23を押して反転ロッド24を伸長させる。反転ボトム側区画21に送り込まれる油は、流量が増しているため、反転ピストン23を増速するが、反転ロッド24は外部に何ら仕事をしないので、前記油はあくまで反転ピストン23を移動させるに過ぎない。
【0027】
反転ピストン23の移動は、反転ロッド側区画22から流量「1」の油を排出させ、タンクへ戻す。このように、反転シリンダ2を経てタンクに戻される油は、ポンプから供給される油と流量が同じになり、圧損の発生を防止又は大きく抑制する。このように圧損の発生を防止又は大きく抑制する働きは、作動シリンダ1から排出される油の流量を減少(本例では半減)させてからタンクに戻す反転シリンダ2によるものであり、この意味で反転シリンダ2は圧損防止機構を構成していると見ることもできる。また、作動ロッド側区画12に供給される油は流量が増加されているわけではないので、作動ロッド14の縮短を絶対的に増速するものではないが、前述のように圧損が発生しないため、作動ピストン13の移動が減速されなくなり、従来の増速回路に比べて作動ロッド14の縮短を増速させることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 作動シリンダ
2 反転シリンダ
3 ボトム側上流切換バルブ
4 ボトム側下流切換バルブ
5 ロッド側切換バルブ
6 ボトム側ライン
7 ロッド側ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油を作動ボトム側区画に供給して作動ロッドを伸長し、油を作動ロッド側区画に供給して作動ロッドを縮短する作動シリンダの増速回路において、
反転ボトム側区画と反転ロッド側区画との油の給排割合が作動ボトム側区画と作動ロッド側区画との油の給排割合に等しい反転シリンダを備え、
無負荷時に作動ロッドを伸長する際、反転ボトム側区画を作動ボトム側区画に接続し、反転ロッド側区画をボトム側ラインに接続して、反転シリンダを介して油を作動ボトム側区画に供給し、
負荷時に作動ロッドを伸長する際、作動ボトム側区画をボトム側ラインに接続して、反転シリンダを介さずに油を作動ボトム側区画に供給することを特徴とする作動シリンダの増速回路。
【請求項2】
反転シリンダ及びボトム側上流切換バルブをボトム側ラインに介在させ、
反転シリンダは、反転ボトム側区画をボトム側下流ラインにより作動ボトム側区画と接続し、
ボトム側上流切換バルブは、ボトム側上流パイロットラインをボトム側ラインに接続し、ボトム側上流入口をボトム側ラインに接続し、ボトム側上流切換前出口をボトム側上流基本ラインにより反転ロッド側区画と接続し、ボトム側上流切換後出口をボトム側上流分岐ラインにより作動ボトム側区画と接続した請求項1記載の作動シリンダの増速回路。
【請求項3】
ボトム側下流切換バルブをボトム側下流ラインに、ロッド側切換バルブをロッド側ラインにそれぞれ介在させ、
ボトム側下流切換バルブは、ボトム側下流パイロットラインをボトム側ラインに接続し、ボトム側下流入口をボトム側下流ラインにより反転ボトム側区画と接続し、ボトム側下流切換前出口をボトム側下流基本ラインにより作動ボトム側区画と接続し、ボトム側下流切換後出口をボトム側下流分岐ラインによりロッド側ラインと接続し、
ロッド側切換バルブは、ロッド側パイロットラインをボトム側ラインに接続し、ロッド側入口をロッド側基本ラインにより作動ロッド側区画と接続し、ロッド側切換前出口をロッド側ラインに接続し、ロッド側切換後出口をロッド側分岐ラインにより反転ロッド側区画と接続した請求項2記載の作動シリンダの増速回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38627(P2011−38627A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189405(P2009−189405)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(391038224)株式会社タグチ工業 (12)
【Fターム(参考)】