説明

壁紙用裏打ち紙及びそれを用いた壁紙

【課題】 裏打ち紙のバインダー含浸が不要で製造コストが低く、塩化ビニルペースト等の塗工時、あるいはその後の乾燥工程において毛羽立ちの発生が少なく、壁紙に糊を塗工した場合のカールが小さく、施工後の目開きを抑制することが可能であり、接着性が低めの専用糊で接着し、リフォーム時に壁紙を壁から剥離する際には、壁面に壁紙の一部が残らないように剥離することができる壁紙を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を含む合成繊維を5〜25質量%含有し、灰分が3%未満の壁紙用裏打ち紙であって、前記合成繊維は、芯部が融点200℃以上のポリエステル、鞘部が軟化点100℃以上150℃以下の、ポリエチレン又は低融点ポリエステルからなる芯鞘繊維であり、かつ、繊維長が4mm以上7mm以下、繊度が0.5dtex以上3.0dtex以下であることを特徴とする裏打ち紙を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル壁紙等に使用される壁紙用裏打ち紙とそれを用いた壁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
壁紙は、一般住居、ホテル、病院等において室内の美麗化のために、長期間壁に貼付される。壁紙にはビニル壁紙、オレフィン壁紙、織物壁紙、紙壁紙、無機質壁紙等があるが、これらの壁紙は、ビニル層、オレフィン層、織物層、紙層、無機質層等の化粧層と、該化粧層を保持するための裏打ち紙により構成されている。
【0003】
これらの壁紙は施工時、澱粉、酢酸ビニル樹脂系、メチルセルロース等の水系の糊によって壁に貼合されるが、糊付け工程で裏打ち紙が糊中の水分を吸収するため、壁紙が柔らかくなったり、裏打ち紙が水分増加により伸びたりすることがある。これらが原因となって、壁紙がカールし、壁への貼り付け作業が困難になったり、貼り付け後捲れが発生しやすくなったりする等の問題が生じた。更に、糊が乾燥すると裏打ち紙が収縮するために、隣接して貼り合わせた壁紙同士の繋ぎ目部分に隙間(目開き)が生じ、施工後の意匠性を損なうなどの問題があった。
【0004】
裏打ち紙の寸法安定性の改善として、水分による伸縮の少ないガラス繊維等の無機系繊維を配合した裏打ち紙(特許文献1〜5)、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の合成繊維を配合した裏打ち紙が開示されている。
しかしながら、ガラス繊維等の無機繊維は自己接着性がないため、繊維がシートから脱落しやすくなる作業性が劣る上、抄造時、壁紙加工時に繊維の毛羽立ちが生じる。また、ガラス繊維が剛直であることから、皮膚に接触するとチクチクするような刺激が生じ、人に不快感を与えたりするので、無機繊維を配合した裏打ち紙はあまり普及していない。
【0005】
また、合成樹脂系繊維を使用した裏打ち紙も提案されている(特許文献6〜9)。これらの裏打ち紙は、合成樹脂系繊維が疎水性である一方木材パルプが親水性であり、抄紙後の合成樹脂系繊維と木材パルプの繊維間結合(水素結合)が弱く、裏打ち紙の層間強度が弱くなるため、リフォーム時の剥離は壁紙の層間で剥離させるものが殆どである。
また、壁紙施工後の再剥離は層間で剥離させないものとして、第1層と第2層の機能を分離した2層構造の壁紙裏打ち用不織布が提案されている(特許文献10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−122236号公報
【特許文献2】特開平8−100394号公報
【特許文献3】特開平8−325997号公報
【特許文献4】特公平8−26631号公報
【特許文献5】特許第3252265号公報
【特許文献6】特開平5−59696号公報
【特許文献7】特開平5−59698号公報
【特許文献8】特開平5−59699号公報
【特許文献9】特開2007−77526号公報
【特許文献10】特開2009−179900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献6〜9に記載されるような合成繊維を配合する壁紙用裏打ち紙を用いた壁紙においては、壁紙の層間で剥離させた場合に、壁面に壁紙の一部がランダムに残り、貼り替え時に下地を平坦に整える作業が必要となるという問題があった。また、特許文献10に記載される壁紙の場合は、裏打ち紙が2層となるため設備上の制約を受ける上、第1層と第2層で原材料が異なるために製造工程が煩雑である。更に壁面と壁紙の間に存在する糊層で剥離させるためにバインダーを裏打ち紙中に含浸させる方法も考えられるが、塗工設備が必要であり、バインダーを含浸させるとコストが高くなるという問題がある。
従って、本発明の目的はバインダーを紙中に含浸させないでも、毛羽立ちが少なく、施工のために壁紙に糊を塗工した場合にカールが小さく、施工後の目開きが発生せず、リフォーム時の剥離の際には糊層で剥離させることが可能となる壁紙用裏打ち紙及び壁紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的について鋭意検討した結果、抄紙機で製造される壁紙用裏打ち紙に、特定の範囲の繊維長、繊度を有し、特定の融点または軟化点を有する熱可塑性樹脂を含む合成繊維を含有させ、さらに裏打ち紙中の灰分を特定した場合に(好ましくは、壁紙に加工後の糊を塗る面の平滑度を特定した場合に)、上記問題を解決することが可能となるとことを見出し、本発明を達成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、熱可塑性樹脂を含む合成繊維を5〜25質量%含有し、灰分が3%未満の壁紙用裏打ち紙であって、前記合成繊維は、芯部が融点200℃以上のポリエステル、鞘部が軟化点100℃以上150℃以下のポリエチレン又は低融点ポリエステルからなる芯鞘繊維であり、かつ、繊維長が4mm以上7mm以下、繊度が0.5dtex以上3.0dtex以下であることを特徴とする壁紙用裏打ち紙である。
また、本発明は上記壁紙用裏打ち紙を使用した壁紙であり、さらに、壁紙製造後の糊塗工面側の王研式平滑度が測定圧力は水柱2000mmに相当する圧力で20秒以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の壁紙は、裏打ち紙のバインダー含浸が不要で製造コストが低く、接着性が低めの専用糊で接着し、リフォーム時に壁紙を壁から剥離する際には、壁面に壁紙の一部が残らないように剥離することができる。更に裏打ち紙に合成繊維を配合することにより、壁紙に糊を塗工した場合のカールが小さく、施工後の目開きを抑制することが可能であり、2層構造としたり、バインダー含浸を行わなくても毛羽立ちによる印刷欠陥を抑制することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の壁紙用裏打ち紙はその表面に化粧層を設けて壁紙とする。例えば、化粧層として塩化ビニル樹脂層、オレフィン樹脂層、織物層、紙層、無機質層を設け、壁紙とすることができる。いずれの場合にも、化粧層には必要に応じて表面印刷、発泡処理、エンボス処理を行うことができる。
【0012】
本発明で使用する熱可塑性樹脂を含む合成繊維の形態としては、繊維の繊維長が4〜7mmであることが必須である。4mm未満であると抄紙性は良好であるが、裏打ち紙の木材パルプと合成繊維の絡み合いが少なくなり、糊層での剥離性が悪化する。繊維の繊維長が7mmを超えると、繊維の離解や分散等の調製工程時に、配管、パルプ貯蔵槽、抄紙機ストックインレット、脱水ワイヤー等において、合成繊維同士あるいは合成繊維と木材パルプ繊維が絡まり合ってフロックを形成し易くなり、地合の悪化や断紙が起こり易くなる。更に印刷欠陥の原因となる毛羽立ちが多く発生する。より好ましくは6mm未満である。
【0013】
本発明で使用する熱可塑性樹脂を含む合成繊維の繊度(太さ)は0.5〜3.0dtexであることが必須である。繊維の繊度が0.5dtex未満であると裏打ち紙の紙力が低下し、断紙が起こり易くなる。更に壁紙に糊を塗工した場合のカールが大きくなり、施工後の目開きが発生しやすくなる。繊維の繊度が3.0dtexを超えると、合成繊維が剛直になるため毛羽立ちの発生量が多くなる。また、壁紙原紙中の重量当りの合成繊維の本数が少なくなるため、発泡・エンボス工程での加熱処理後に繊維の融着本数が少なくなるため、層間強度が高くならずに剥離性が悪化する。好ましくは2.5dtex以下であり、より好ましくは、2.0dtex以下である。
【0014】
本発明の壁紙用裏打ち紙は、上述した合成繊維を5質量%以上25質量%以下の範囲で含有する。このように、水分による伸縮の起こり難い合成繊維を使用することにより、壁紙への糊塗工による吸水カール及び乾燥後の目開きの発生を抑制することができる。また、合成繊維を含有させることにより、木材パルプ繊維のみから製造する壁紙原紙と比較して、ビニルペースト塗工時等に生じるブリスター(裏打ち紙と塩化ビニル層との間の膨れ)の発生を抑制することができる。
合成繊維が5質量%未満であると吸水、乾燥に対する寸法安定性が十分でなく、カール、目開きが発生し易くなる。また、発泡・エンボス工程での加熱処理後に繊維の融着が少なくなるため、層間強度が高くならずに剥離性が悪化する。一方、熱可塑性合成繊維の含有率が25質量%を超えると抄造時または化粧層として塩化ビニル樹脂層、オレフィン樹脂層、織物層、紙層、無機質層を設ける加工の際に断紙が発生しやすくなる。更には塩化ビニルペースト等の塗工時に毛羽立ちの発生量が多くなる。熱可塑性樹脂を含む合成繊維のより好ましい含有量は15質量%以下である。
【0015】
本発明においては、芯部が融点200℃以上のポリエステル、鞘部が軟化点100℃以上150℃以下の、ポリエチレン又は低融点ポリエステルの芯鞘繊維を使用することが必須である。鞘部の樹脂の軟化点が100℃より低い場合には抄紙機のドライヤーへ合成繊維が付着して汚れが発生しやすくなる。また、壁紙原紙に化粧層を設けた後の発泡・エンボス加工の加熱工程で200℃程度に加熱されるため、芯部を構成する樹脂の融点が200℃以上であると、鞘部のみが溶融して芯部は溶融せずに主体繊維として残り、主体繊維同士または木材パルプと融着することにより、吸水・乾燥によって引き起こされるパルプ繊維の膨張・収縮による寸法変化を抑制する効果があり、寸法安定性が優れる。鞘部の樹脂の軟化点が150℃を超える場合には鞘部が溶融しがたくなり上記効果を得ることができない。
【0016】
前記芯鞘繊維を使用しないで、ポリエチレンの単繊維を用いた場合は、壁紙原紙に化粧層を設けた後の発泡・エンボス加工の加熱工程で200℃程度に加熱されることにより、ポリエチレンの単繊維はすべて溶融してしまい、繊維の形状が残らないため、吸水・乾燥に対する寸法変化を抑制する効果が小さく、寸法安定性が十分ではない。
また、ポリプロピレン、ポリエステルの単繊維では融点が高すぎるため、発泡・エンボス工程でパルプ繊維やポリプロピレン、ポリエステル繊維同士の融着が起こらないため、寸法安定性が前記芯鞘繊維を使用した場合よりも劣る上に層間強度が弱くなり、壁面から壁紙を剥離する際、壁紙の一部が残らないように剥離することが難しくなる。
【0017】
芯鞘繊維の芯がポリプロピレンの場合にはポリエステルと比較して柔軟で折れ曲がりやすいために、吸水・乾燥によって引き起こされるパルプ繊維の膨張・収縮に対して寸法変化を抑制する効果が劣り、寸法安定性が十分ではない。
芯鞘繊維の鞘が軟化点100℃未満の低融点ポリエステルまたは水湿潤時の融点が約100℃未満のエチレンビニルアルコールの場合には、芯鞘繊維が抄紙機のドライヤーへ付着して汚れが発生しやすくなる。
【0018】
芯鞘繊維の鞘がポリプロピレンの場合は融点が170℃付近と高いために、発泡・エンボス工程でパルプ繊維や合成繊維同士の融着が十分に起こらないため、壁面に壁紙の一部が残らないように糊層で剥離することが難しくなる。
更に水中溶解温度が60〜80℃のビニロンバインダー繊維では抄紙機のドライヤーへ繊維が付着して汚れが発生しやすくなる。水中溶解温度が99℃以上のビニロン主体繊維では、発泡・エンボス工程でパルプ繊維や合成繊維同士の融着が起こらないため、壁面に壁紙の一部が残らないように糊層で剥離することが難しくなる。
【0019】
本発明の裏打ち紙に使用する、熱可塑性合成樹脂を含む合成繊維以外の繊維成分としては、針葉樹、広葉樹の化学パルプ、機械パルプ、及び古紙から得られる再生パルプ等の木材系パルプ、靭皮パルプ、リンターパルプ、麻パルプ等の非木材系パルプ等の、天然パルプを使用することができるが、品質やコストの面から木材パルプを使用することが好ましい。
【0020】
本発明の壁紙用裏打ち紙は、発泡・エンボス工程で合成繊維とパルプ繊維または合成繊維同士を十分に融着させ、裏打ち紙の層間強度を向上させることにより糊層からの剥離性を向上させている。そのためには、灰分は低いほどよく、本発明においては3質量%未満とすることが必須である。
灰分が3質量%以上であると、裏打ち紙抄造時のパルプ繊維間の繊維間結合が阻害され毛羽立ちが発生しやすくなる上に、発泡・エンボス工程で芯鞘繊維がパルプ繊維や芯鞘繊維同士と融着することも阻害されるため、壁面に壁紙の一部が残らないように糊層で剥離することが難しくなる。
【0021】
上述したように、灰分が低いほど裏打ち紙の繊維間結合が高まるために毛羽立ちが少なくなると共に、エンボス工程後の層間強度が高まるために壁面に壁紙の一部が残らないように(糊層で)剥離しやすくなる。本発明においては、灰分3質量%未満の範囲では、焼成クレー、カオリン、デラミネーティッドカオリン、イライト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などの無機填料を含有してもよい。また、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂等の有機填料を併用してもよい。なお、灰分は、JIS P 8251に規定される方法にて算出される。
【0022】
また、本発明では、内添薬品としては、サイズ剤、定着剤、乾紙紙力剤、湿潤紙力剤、歩留り向上剤、染料、顔料等を使用することができる。使用するサイズ剤としては、酸性抄きの場合には、ロジン系サイズ剤、ロジン系エマルジョンサイズ剤、アルファカルボキシルメチル飽和脂肪酸等が挙げられ、中性抄きの場合には、中性抄紙用ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、カチオンポリマー系サイズ剤等が挙げられる。サイズ剤の添加量は特に限定されるものではなく、裏打ち紙のステキヒトサイズ度が10秒以上となることが好ましい。例えば、裏打ち紙の坪量が60g/mの場合、ロジン系サイズ剤を繊維分に対して0.35質量%以上添加することが好ましい。
【0023】
本発明の壁紙用裏打ち紙の坪量は、40g/m以上120g/m以下であることが好ましい。坪量が40g/m未満であると強度が低く、加工時に断紙が発生し易くなる。また、坪量が120g/mを超えると壁紙に加工した時に硬くなりすぎ、施工が困難となるという欠点が生じる。
【0024】
本発明の壁紙用裏打ち紙は、公知の抄紙機によって抄紙することができる。抄紙機としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機等を挙げることができる。
【0025】
本発明の壁紙は、本発明の裏打ち紙の表層に化粧層を設けることにより得られる。例えば、化粧層としてビニル層を設けたビニル壁紙、オレフィン層を設けたオレフィン壁紙、織物層を設けた織物壁紙、紙層を設けた紙壁紙、無機質層を設けた無機質壁紙等が挙げられる。何れの場合にも、化粧層を設けた後必要に応じて印刷すると共に、200℃程度に加熱して発泡加工やエンボス加工を行って化粧層とする。
【0026】
化粧層を設けた後発泡、エンボス加工を行った後の壁紙の化粧層の反対面に糊を塗工して壁に貼り付けるが、糊塗工面側の壁紙の平滑度は王研式平滑度計で、測定圧力は水柱2000mmに相当する圧力で20秒以下が好ましい。平滑度が20秒を超える場合は、壁と壁紙との接触面積が大きくなるため、接着性が低めの専用糊で接着した場合でも、糊層での剥離性が悪化し、壁面に壁紙の一部が残らないように糊層で剥離することが難しくなる。
なお、本発明において平滑度は、王研式透気度・平滑度試験機はJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5-2:2000(紙及び板紙 ―平滑度及び透気度試験方法― 第2部:王研法)に規定されている測定に準じて測定するが、測定圧力を高めとしている。
【0027】
本発明の壁紙用裏打ち紙は、塩化ビニルペーストを塗工した際等に毛羽立ちが発生しないことが望ましい。毛羽立ちは、アプリケーターを用いて塩化ビニルペーストを塗工した時に発生する、塩化ビニル塗工面の毛羽立ち個数(凸部の数)を数えることによって評価することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。各実施例及び比較例により得られた壁紙用裏打ち紙について、以下の方法により特性試験を行った。結果をまとめて表1、2に示す。
【0029】
<繊維長測定>
光学的繊維長測定装置であるMETSO社製、FIBER LABを用いて重量加重平均繊維長を測定した。
【0030】
<繊度測定>
オートバイブロ式繊度測定器Denior ComputerDC−11(サーチ制御電気製)を使用して測定した。なお、1dtexは10000メートル当りの重量(グラム数)である。
【0031】
<合成繊維の軟化点、融点の測定>
示差走査熱量計(理学電機株式会社製Thermo Plus DSC8230)にて、昇温速度10℃/分で測定を行った。
【0032】
<ドライヤー汚れ>
坪量65g/mにて乾燥後に密度0.6g/cmとなるように手抄きシートを作製し、水分50%の状態で表面温度100℃のシリンダードライヤーを通過することにより乾燥させ、シリンダードライヤー表面の繊維の付着の程度を観察した。シリンダードライヤー表面に繊維の付着が見られた場合、長網抄紙機での抄造は行わなかった。
(評価)
○:繊維の付着なし、×:繊維の付着有り
【0033】
<水中伸び>
試験片を140℃で2分間絶乾し、23℃、50%R/H雰囲気で2時間調湿後、試験片の抄紙横方向の長さを測定した。試験片を純水に浸漬し、1時間放置した後取り出し、取り出し直後の横方向の長さを測定した。水伸び(%)を以下の式により求めた。
水中伸び(%):(水浸漬後長さ−水浸漬前長さ)/水浸漬前長さ×100
【0034】
<目開き>
裏打ち紙の表面に塩化ビニルペーストを、塗工厚が200μmとなるようにアプリケーターを用い塗布し、145℃で1分間加熱してゲル化させた。得られた塩化ビニル壁紙を長さ1mで幅95cmにカットして試料とした。試料を2枚用意し、裏打ち紙面に、壁紙を壁面から剥がす際の剥離強度が弱い澱粉系の極東産機社製コナダインF(粉末糊1kgに対して水17kgの割合で溶解)を塗布し、幅2m、長さ1mのベニア板に2枚の壁紙の端が重なるように貼り付け、重なった部分をカッターでカットして繋ぎ目が見えないようした。そして、23℃、50%R/Hの雰囲気で7日間放置して完全に乾燥し、乾燥後の繋ぎ目の箇所に目開きが発生したか否かにより以下の基準で評価した。○以上であれば実用上問題がない。
(評価)
○:目開き無し、△:目開き若干あり、×:目開き有り
【0035】
<毛羽立ちの評価>
壁紙用裏打ち紙を23℃、50RH%の環境下で24時間調湿した後、32cm(MD方向)20cm(CD方向)となるように断裁した。なお、サンプリングに際しては、紙面を擦らないように十分注意した。ガラス板上に、坪量150g/mの上質紙を2枚敷き、クリップにて固定した。次に、幅250mm×長さ130mm×厚さ15mmの金属直方体(重さ約400g)にガーゼを4重に巻きつけ、上質紙の表面を2回擦ってガーゼの面をならした。
別の上質紙表面に、塩化ビニル塗工面となるF面が上になるように、壁紙用裏打ち紙のサンプルをのせ、ガーゼを巻きつけた金属直方体にて、自重により、MD方向の上から下に向かって1回擦った。壁紙用裏打ち紙の上下方向の向きを変え、同様に上から下に向かって1回擦った。
このようにして壁紙用裏打ち紙の擦った場所に、塗工厚が200μmとなるアプリケーターを用い、塩化ビニルペーストを塗工した後、145℃の乾燥機中に1分間入れ、塩化ビニルペーストをゲル化させた。ゲル化した塩化ビニル層表面の中央部に、CD方向に15cm×MD方向に20cmの大きさとなるように切り抜いた型紙をのせ、その中に発生した突起物(欠陥)の数を計測した。同様にして作製したサンプル3枚の計測値を合計して、1サンプル当りの突起物の数(900cm当りの個数)とした。計測した突起物の数が20個以下である場合を○、21〜30個である場合を△、31個以上である場合を×と評価した。○であれば実用上問題がない。
【0036】
<糊層での剥離性>
壁紙用裏打ち紙に塩ビペーストを150μmとなるようにアプリケーターにて塗工し、145℃の乾燥機中に1分間入れ、塩化ビニルペーストをゲル化させた。その後、送風乾燥機にて200℃で10秒間加熱・発泡した後に、線圧50kg/cmにてエンボス処理を行い、テーブルでA4サイズの壁紙を作製した。澱粉系壁紙用粉末糊(極東産機社製コナダインF)を粉末糊1kgに対して水17kgの割合で十分撹拌・溶解し、ウェット塗工量が100g/mとなるように壁紙の塩ビ塗工面の裏側に塗工し、厚さ9.5mmの準不燃石膏ボード(商品名:タイガーボード、吉野石膏社製)に貼り付け、10日間放置した後に剥がし、剥がれた状態を観察した。石膏ボードと壁紙が糊層で綺麗に剥離できたものを○、石膏ボード表面に少量壁紙の一部が残るものを△、壁紙の層間で剥離したものを×と評価した。
【0037】
<平滑度>
上記のように作製した壁紙サンプルを旭精工株式会社製デジタル型王研式透気度平滑度試験機EYO型にて、測定圧力2000mmHgで糊塗工面側の平滑度を測定した。
【0038】
[実施例1]
晒クラフトパルプのNBKP(カナダ標準ろ水度(CSF)500ml)を10質量%、LBKP(CSF500ml)を75質量%、繊維長5mm、繊度1.2dtexの芯鞘繊維(芯:ポリエステル繊維(融点256℃)、鞘:ポリエチレン繊維(融点130℃))を15質量%配合したパルプスラリー中に、pHが4.5になるように硫酸バンドを添加した後、サイズ剤としてアルファカルボキシメチル飽和脂肪酸塩(商品名:NSP−S、星光PMC(株)製)を0.15質量%添加した。更に湿潤紙力剤としてポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂(商品名:WS−547、星光PMC(株)製)を0.2質量%添加し、次に脂肪酸アミン系樹脂(商品名:N−815、星光PMC(株)製)を0.3質量%となるように添加した。得られた混合物を使用し、長網抄紙機(ヤンキードライヤー)を用いて坪量65g/mの壁紙用裏打ち紙を製造した。ヤンキードライヤーに接触した平滑度の高い面に化粧層を設け、糊層での剥離性はヤンキードライヤーに接触しない平滑度の低い面で評価した。
【0039】
[実施例2]
合成繊維の繊維長7mmの芯鞘繊維(芯:ポリエステル繊維(融点256℃)、鞘:ポリエチレン繊維(融点130℃))を配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0040】
[実施例3]
合成繊維の繊維長4mmの芯鞘繊維(芯:ポリエステル繊維(融点256℃)、鞘:ポリエチレン繊維(融点130℃))を配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0041】
[実施例4]
芯鞘繊維の繊度2.2dtexの芯鞘繊維を配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0042】
[実施例5]
芯鞘繊維の繊度0.6dtexの芯鞘繊維を配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0043】
[実施例6]
晒クラフトパルプのNBKP(カナダ標準ろ水度(CSF)500ml)を10質量%、LBKP(CSF500ml)を70質量%、芯鞘繊維の配合量を20質量%配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0044】
[実施例7]
晒クラフトパルプのNBKP(カナダ標準ろ水度(CSF)500ml)を10質量%、LBKP(CSF500ml)を80質量%、芯鞘繊維の配合量を10質量%配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0045】
[実施例8]
灰分が2.5%となるように焼成クレーを配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0046】
[実施例9]
ヤンキードライヤーに接触した平滑度の高い面に化粧層を設け、糊層での剥離性はヤンキードライヤーに接触しない平滑度の低い面で評価した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0047】
[比較例1]
合成繊維として繊維長10mm、繊度1.2dtexの芯鞘繊維(芯:ポリエステル繊維(融点256℃)、鞘:ポリエチレン繊維(融点130℃))を配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0048】
[比較例2]
合成繊維として繊維長3mm、繊度1.2dtexの芯鞘繊維(芯:ポリエステル繊維(融点256℃)、鞘:ポリエチレン繊維(融点130℃))を配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0049】
[比較例3]
合成繊維として繊維長5mm、繊度4.4dtexの芯鞘繊維(芯:ポリエステル繊維(融点256℃)、鞘:ポリエチレン繊維(融点130℃))を配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0050】
[比較例4]
晒クラフトパルプのNBKP(カナダ標準ろ水度(CSF)500ml)を10質量%、LBKP(CSF500ml)を60質量%、芯鞘繊維の配合量を30質量%配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0051】
[比較例5]
晒クラフトパルプのNBKP(カナダ標準ろ水度(CSF)500ml)を10質量%、LBKP(CSF500ml)を87質量%、芯鞘繊維の配合量を3質量%配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0052】
[比較例6]
灰分が5%となるように焼成クレーを配合した以外は、実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0053】
[比較例7]
合成繊維を無配合、NBKPの配合量を10質量%、LBKPの配合量を90質量%とした以外は実施例1と同様に作製し、水中伸度、目開き、毛羽立ち、糊層からの剥離性を評価した。
【0054】
[比較例8]
合成繊維として、繊維長5mm、1.2dtexの芯鞘繊維(芯:高融点ポリエステル繊維(融点256℃)、鞘:低融点ポリエステル繊維(軟化点80℃、))を15重量%配合とした以外は実施例1と同様に作製した。
【0055】
[比較例9]
ビニロンバインダー繊維(水中溶解温度70℃、繊維長4mm、繊度1.1dtex)を15重量%配合し実施例1と同様に作製した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1、2に示されるように、芯鞘繊維を特定の範囲の繊維長と繊度を有する合成繊維を特定量含有させ、灰分を特定の範囲とした本発明の壁紙用裏打ち紙は、糊塗工面側の平滑度が大きい実施例9の剥離性がやや劣っていたものの、ドライヤー汚れが発生せず、寸法安定性に優れ、毛羽立ちが少なく、糊層からの剥離性が良好であることが実証された。
一方、芯鞘繊維の繊維長が7mmを超える比較例1では毛羽立ちが劣り、芯鞘繊維の繊維長が4mm未満の比較例2では糊層からの剥離性が劣っていた。また、芯鞘繊維の繊度が4.0dtexを超える比較例3でも毛羽立ち、糊層からの剥離性が劣る結果となった。芯鞘繊維の配合量が多い比較例4では毛羽立ちが劣り、芯鞘繊維の配合量が少ない比較例5と芯鞘繊維を含まない比較例7については、毛羽立ちは良好であったが、目開きが発生し、糊層からの剥離性も劣った。灰分の多い比較例6は毛羽立ちの発生量が多く、糊層からの剥離性が劣った。芯部高融点ポリエステル、鞘部低融点ポリエステル(80℃)の芯鞘繊維を用いた比較例8、PVA繊維を用いた比較例9ではドライヤー汚れが発生し、裏打ち紙を製造することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む合成繊維を5〜25質量%含有し、灰分が3%未満の壁紙用裏打ち紙であって、前記合成繊維は、芯部が融点200℃以上のポリエステル、鞘部が軟化点100℃以上150℃以下の、ポリエチレン又は低融点ポリエステルからなる芯鞘繊維であり、かつ、繊維長が4mm以上7mm以下、繊度が0.5dtex以上3.0dtex以下であることを特徴とする壁紙用裏打ち紙。
【請求項2】
請求項1に記載された壁紙用裏打ち紙を使用した壁紙。
【請求項3】
壁紙製造後の糊塗工面側の王研式平滑度が水柱2000mmに相当する測定圧力で20秒以下であることを特徴とする請求項2に記載された壁紙。

【公開番号】特開2011−208323(P2011−208323A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77763(P2010−77763)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】