説明

壁面緑化システム

【課題】構造物の任意の位置に緑化を施すことが可能とされ、デザインの自由度に優れるとともに、メンテナンスにも柔軟に対応可能な壁面緑化システムを提供する。
【解決手段】植栽が施される培土基盤5と培土基盤5を保持する枠部材6を備える緑化ユニット2を、構造物Tの壁面T1に沿って設置して構造物Tに緑化を施すための壁面緑化システムAであって、略水平方向に延設された断面略凹状を呈する複数の樋部材1が、開口部1a側を上方に向けた状態で構造物Tの壁面T1に支持されるとともに、上下方向に所定の間隔をあけて並設されており、枠部材6を樋部材1に着脱可能に支持させて、上下方向に並設された一対の樋部材1の間に緑化ユニット2を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の壁面に緑化を施すための壁面緑化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市部におけるヒートアイランド現象の緩和や大気中の炭酸ガスの吸収、アメニティ空間の創出などを目的として、建築物や土木構造物(構造物)の壁面に植栽を施す壁面緑化が行なわれている。
【0003】
この種の壁面緑化システムには、例えば特許文献1に開示されるような、パイプ状に形成され、その内部に土壌が収容されて植栽が施される複数の植栽ユニット(緑化ユニット)と、複数の植栽ユニットを水平に保持しつつ上下方向に所定の間隔をあけて吊り下げる吊り部材と、最上部の植栽ユニットに接続されたワイヤーと、建築物の屋上部に設けられワイヤーの繰出し及び巻取りを行って植栽ユニットを建築物の壁面に沿って昇降させる昇降装置とを備えて構成したものがある。
【0004】
この壁面緑化システムでは、上下方向に並ぶ各植栽ユニットの植物により建築物の壁面を覆って、緑化を施すことが可能とされる。また、この壁面緑化システムにおいては、昇降装置からワイヤーを繰出して地上部に垂れ下げ、そのワイヤーの下端に一つの植栽ユニットを取り付けた後、ワイヤーを若干巻き上げ上昇した植栽ユニットに別の植栽ユニットを吊り部材で連結し、このように順次植栽ユニットを連結してゆくことにより、建築物の壁面に沿って複数の植栽ユニットを設置することが可能になる。また、逆にワイヤーを順次繰出して下方の植栽ユニットから順に取り外すことにより、複数の植栽ユニットを撤去することができ、仮設足場やゴンドラを用いることなく植栽ユニットの設置や撤去を行うことができる。
【0005】
一方、例えば特許文献2に示されるような、上下横枠材と左右堅枠材と仕切り枠材と底板からなり、複数の方形状の箱を備えたフレーム枠と、このフレーム枠の複数の箱に収容される植栽基盤(培土基盤)とを備えて構成した壁面緑化システム(緑化パネル)がある。この壁面緑化システムにおいては、フレーム枠に複数のブランケットが取り付けられ、このブランケットをアンカーボルトで建築物の壁面に固定することによりフレーム枠が建築物に支持される。そして、箱内の植栽基盤に植生した植物により、壁面に緑化を施すことができる。
【0006】
さらに、例えば特許文献3に示されるような、建築物の外壁から突出した複数の腕木と、これら腕木に支持された複数のフレーム材と、フレーム材に架張したネットと、フレーム材の下端側の建築物の外周に沿う地上に置かれた複数のプランターとからなる壁面緑化システムがある。この壁面緑化システムにおいては、プランター内の植栽土壌に植栽される植物が落葉蔓性植物のツタとされ、このツタが上方に設けたネットやフレーム材に支持されつつ生育してゆき、建築物の壁面に緑化を施すことが可能になる。
【特許文献1】特開2004−248550号公報
【特許文献2】特開2002−95347号公報
【特許文献3】特開2002−34350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された壁面緑化システムにおいては、昇降装置とワイヤーによって複数の植栽ユニットの設置や撤去を容易に行なうことが可能である反面、屋上に設けた昇降装置でワイヤーの繰出しや巻上げを行なう関係上、複数の植栽ユニットを建築物の壁面に沿って垂直方向に吊り下げて並設させることが好ましく、建築物の壁面の任意の位置を緑化して美的外観を向上させたい場合などそのデザイン面の自由度が低いという問題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された壁面緑化システムにおいては、植栽基盤を収容するための比較的堅牢に形成されたフレーム枠を備えて構成されるため、緑化に掛かるコストが高いという問題がある。しかも、このフレーム枠が建築物の壁面にアンカーボルトで固定されるため、例えば建築物の壁面を塗り替えたり、フレーム枠の箱内に収容した植栽基盤を交換するなど、建築物や壁面緑化システムのメンテナンスに柔軟に対応できないという問題があった。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された壁面緑化システムにおいては、地上に設けたプランターから建築物の壁面を覆うように設けた上方のネットにツタ植物を生育させて緑化を施すものであるため、緑化を施すための植物に限りがあり、植物選定の自由度が低いうえ、特許文献1と同様、デザイン面の自由度にも限りがあるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑み、構造物の壁面の任意の位置に緑化を施すことができ、デザインの自由度に優れるとともに、メンテナンスにも柔軟に対応可能な壁面緑化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明の壁面緑化システムは、植栽が施される培土基盤と該培土基盤を保持する枠部材を備える緑化ユニットを、構造物の壁面に沿って設置して該構造物に緑化を施すための壁面緑化システムであって、断面略凹状を呈する複数の樋部材が、それぞれ開口部側を上方に向けた状態で略水平方向に延設され、上下方向に所定の間隔をあけつつ前記構造物の壁面に支持されており、前記枠部材が前記樋部材に着脱可能に支持されて前記上下方向に隣り合う一対の前記樋部材の間に前記緑化ユニットが設置されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の壁面緑化システムにおいては、前記緑化ユニットを設置した状態で、前記培土基盤と、該培土基盤の上方に位置する前記樋部材との間には、該培土基盤に灌水するための灌水部材が設けられていることが望ましい。
【0014】
さらに、本発明の壁面緑化システムにおいては、前記緑化ユニットを設置した状態で、該緑化ユニットの下端側が、下方に位置する前記樋部材の内部に前記開口部を介して挿入されていることがより望ましい。
【0015】
また、本発明の壁面緑化システムにおいては、前記枠部材が、上下方向に延びる複数の縦部材と水平方向に延びる複数の横部材を備えて格子状で篭状に形成されており、前記培土基盤が該篭状に形成された枠部材の内部に挿入されつつ保持されて前記緑化ユニットが形成されていることがさらに望ましい。
【0016】
さらに、本発明の壁面緑化システムにおいては、前記培土基盤が、少なくとも発泡体と熱融着性繊維とを混合するとともに熱処理されて固化したものであることがより望ましい。
【0017】
また、本発明の壁面緑化システムにおいて、前記樋部材には、外面から外側に突出する支持部材が設けられ、前記緑化ユニットには、前記枠部材の少なくとも一部が前記培土基盤の上端よりも上方に突出して形成した引掛部が設けられており、該引掛部を前記支持部材に掛止することによって前記緑化ユニットが前記樋部材に支持されてもよい。
【0018】
さらに、本発明の壁面緑化システムにおいて、前記緑化ユニットには、前記枠部材の少なくとも一部が前記培土基盤の上端よりも上方に突出して鈎状に形成された引掛部が設けられており、該鈎状の引掛部を、前記樋部材の開口部を画成する上端側に掛止することによって前記緑化ユニットが前記樋部材に支持されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の壁面緑化システムにおいては、枠部材を着脱可能に支持する樋部材が、断面略凹状を呈し、水平方向に延設されて構造物の壁面に支持され、上下方向に所定の間隔をあけて複数設けられることにより、延設する樋部材の任意の位置に緑化ユニットを設置することができ、構造物の壁面に緑化を施すデザインの自由度を高くすることができる。また、緑化ユニットが着脱可能とされるため、個々の緑化ユニットを個別にメンテナンスすることができ、構造物の壁面を塗り替える場合などにおいても、緑化ユニットを容易に取り外して柔軟に対応することが可能になる。さらに、緑化ユニットを構造物の壁面に沿って設置できるため、植物選定の自由度を高くすることもできる。
【0020】
また、樋部材と緑化ユニットからなるシンプルな構成であるため、緑化に掛かるコストを低減することが可能になる。
【0021】
さらに、本発明の壁面緑化システムにおいては、緑化ユニットの培土基盤と、この緑化ユニットの上方に位置する樋部材との間に灌水部材が設けられていることによって、緑化ユニットを樋部材に支持させつつ設置するとともに、例えば多数の孔があけられた灌水チューブなどの灌水部材を培土基盤と樋部材の間に誘導するのみで、下方に位置する緑化ユニットの培土基盤にその上端側から灌水することができ、確実に培土基盤に給水を行い、これに植生した植物を好適に生育させることが可能になる。また、灌水部材から供給されて培土基盤を浸透し、保水されずに培土基盤の下端側から排出された水を、開口部を上方に向けた下方に位置する樋部材で受けることができ、この下方の樋部材を通じて排水することが可能になる。これにより、下方の樋部材のさらに下方に配された緑化ユニットに、上方の緑化ユニットに供給した水が供給されてしまうことを防止でき、下方の緑化ユニットに過剰な水が供給されて植物の生育阻害が生じることを防止できる。
【0022】
また、本発明の壁面緑化システムにおいては、緑化ユニットを樋部材に支持させて設置した状態で、緑化ユニットの下端側が下方に位置する樋部材に挿入されることによって、この緑化ユニットの培土基盤に灌水した際に、培土基盤の下端から排出される水を、下方の樋部材とこの樋部材に挿入した培土基盤の下端側とである程度保水することができ、これにより、灌水頻度を低減することが可能になる。
【0023】
さらに、本発明の壁面緑化システムにおいては、枠部材を格子状で篭状に形成して、培土基盤がその内部に挿入されて保持されることにより、確実に培土基盤を枠部材で保持することが可能になる。
【0024】
また、培土基盤が、発泡体と熱融着性繊維とを混合して熱処理により固化して形成されることにより、培土基盤を軽量化することができ、この培土基盤を保持する枠部材を簡易なものにすることができる。これにより、緑化ユニットの軽量化を図ることが可能になるため、構造物への荷重負担を軽減することができるとともに、緑化ユニットの設置や取り外しを容易なものにでき、施工性やメンテナンス性を向上させることが可能になる。
【0025】
さらに、本発明の壁面緑化システムにおいては、樋部材に支持部材が設けられ、緑化ユニットの枠部材に、支持部材に掛止して緑化ユニットを支持させることが可能な引掛部が設けられていることによって、引掛部を支持部材に引っ掛けるという簡便な操作で緑化ユニットを設置でき、緑化ユニットの着脱を容易に行なうことができる。また、樋部材に複数の支持部材を設けておくことにより、樋部材の任意の位置に簡便に緑化ユニットを配置することが可能になり、デザイン面の自由度を高くすることが可能になる。
【0026】
また、本発明の壁面緑化システムにおいては、枠部材に鈎状に形成された引掛部が設けられることにより、樋部材の開口部を画成する上端側に引掛部を引っ掛けるという簡便な操作で緑化ユニットを設置することができ、緑化ユニットの着脱を容易に行なうことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図1から図9を参照し、本発明の一実施形態に係る壁面緑化システムについて説明する。本実施形態は、建築物や土木構造物などの構造物の外面や内面の壁面に緑化を施すための壁面緑化システムに関するものである。
【0028】
本実施形態の壁面緑化システムAは、図1から図4に示すように、構造物Tの壁面T1に固定されつつ支持されて、上下方向に所定の間隔をあけて並設された複数の樋部材1と、樋部材1に支持されつつ上下方向に隣り合う一対の樋部材1の間に配された複数の緑化ユニット2と、樋部材1と緑化ユニット2の間に配された灌水チューブ(灌水部材)3とが主な構成要素とされている。
【0029】
樋部材1は、断面略凹状を呈するように形成された、例えばC型チャンネルなどのチャンネルである。そして、樋部材1は、開口部1a側を上方に向けた状態で、かつ対向する一対の側壁部1b、1cのうち一方の側壁部1bの外面を構造物Tの壁面T1に面接触させた状態で、例えば一方の側壁部1bがアンカーボルトなどを用いて壁面T1に固定されて設けられている。また、複数の樋部材1は、それぞれ水平方向に延設され、各樋部材1の延設方向が平行するように設置されている。さらに、本実施形態において、樋部材1の前記一方の側壁部1bと対向する他方の側壁部1cの外面側には、すなわち構造物Tの壁面T1に対して外側に位置する側壁部1cの外面側には、この外面から外側に突出する、例えばビスなどの支持部材4が複数設けられている。
【0030】
緑化ユニット2は、植栽が施される4つの培土基盤5と、4つの培土基盤5を保持する枠部材6とから構成されている。本実施形態において、各培土基盤5は、一辺の長さが例えば580mmで、この辺長よりも小さな厚さを備える略正方形平盤状に形成されており、パーライトなどの無機質発泡体(発泡体)と熱融着性繊維を混合し熱処理によって固化して形成される。また、培土基盤5は、熱融着性繊維同士の接着や繊維と発泡体の接着により三次元の網状構造が形成され、その固化した形状を好適に保持することが可能とされ、別途その形状を維持するための枠材や袋などで周囲を覆う必要のないものとされる。すなわち、緑化ユニット2を構造物Tの壁面T1に設置して、培土基盤5が風雨にさらされた場合においても、培土基盤5は、その形状を維持することが可能である。また、この培土基盤5は、主成分である無機質発泡体の単位体積当りの重量が例えば0.5kg/リットル以下とされることにより、軽量化が図られ、かつ植物の生育に対する適度な保水性と排水性を有するものとされている。
【0031】
ここで、この培土基盤5に植栽される植物は、例えばコケ、セダム、蔓性植物などが好ましいが特に限定を必要とするものではない。また、植物を培土基盤5に植栽する手法は、直接培土基盤5に播種して植物を生育させたり、例えば予め培土基盤5に窪みを設けてこの窪みにポット苗を植栽するようにしてもよい。
【0032】
枠部材6は、例えばステンレス製の鋼線からなる、上下方向に延びる複数の縦部材6aと、水平方向に延びる複数の横部材6bとを備え、格子状を呈しつつ側面視に略U字状の篭状に形成されている。また、この篭状の枠部材6は、構造物Tの壁面T1に設置した状態における壁面T1対向方向外側からの平面視に略矩形状を呈するように形成され、篭状の内部に大きな隙間を生じさせることなく4つの略正方形平盤状の培土基盤5を挿入してこれを保持することが可能な大きさとされている。また、構造物Tの壁面T1に設置した状態で外側に位置する一面6cを構成する縦部材6aのうち、水平方向両端側のそれぞれの側に位置する2本ずつの縦部材(一対の縦部材)6dが、挿入した培土基盤5の上端5aよりも上方に突出されるとともに、互いの突出方向先端側が連結されている。本実施形態においては、この一対の縦部材6dの上方に突出して連結した部分が引掛部6eとされている。
【0033】
上記のように構成された4つの培土基盤5と枠部材6とからなる緑化ユニット2は、各培土基盤5が、篭状の枠部材6の内部に上下方向に2つ、水平方向に2つずつ隙間なく並ぶように挿入され、枠部材6により安定的に保持されている。また、緑化ユニット2は、樋部材1に設けた支持部材4に、枠部材6の引掛部6eを掛止させて吊り下げ状態で設置されている。すなわち、本実施形態において、緑化ユニット2は、上方に位置する樋部材1の前記他方の側壁部1cのビス(支持部材4)に、引掛部6eが引っ掛けられて着脱可能に支持されており、このように設置された緑化ユニット2によって上方の樋部材1と下方の樋部材1の間に位置する構造物Tの壁面T1が覆われている。また、このとき、緑化ユニット2の下端2a側が、開口部1aを介して下方に位置する樋部材1の内部に挿入されており、これにより、緑化ユニット2は、上端側が上方の樋部材1に支持され、下端2a側が下方の樋部材1に保持されて、安定した状態で構造物Tの壁面T1を覆うように設置されている。また、本実施形態においては、このような緑化ユニット2が、構造物Tの壁面T1に沿って上下方向や水平方向に複数並べられ、構造物Tの壁面T1の所定の範囲を覆うように設置されている。
【0034】
一方、灌水チューブ3は、例えばチューブ内を流通する水を外部に供給するための複数の孔が所定の間隔をあけて形成されたドリップチューブとされている。また、この灌水チューブ3は、緑化ユニット2の培土基盤5の上端5aとこの緑化ユニット2を支持する上方の樋部材1の間に水平方向に誘導されて配置されている。また、灌水チューブ4には、図示せぬ例えば水道水や雨水などの水を貯留する貯水槽や、灌水チューブに貯水槽内の水を供給するためのポンプなどが接続されている。なお、灌水チューブ4に供給される水には、例えば貯水槽内に液体肥料(液肥)を供給するなどして液肥が混入されている。
【0035】
ついで、上記の構成からなる壁面緑化システムAの施工方法を説明するとともに、本実施形態の壁面緑化システムAの作用及び効果について説明する。
【0036】
はじめに、構造物Tの壁面T1に複数の樋部材1を設置した段階で、壁面T1を緑化するデザインに応じた樋部材1の任意の位置に緑化ユニット2を設置してゆく。このとき、樋部材1の他方の側壁部1cに設けられた複数の支持部材4のうち、緑化ユニット2を設置する位置に対応した支持部材4に、枠部材6の引掛部6eを引っ掛けるという簡易な操作で緑化ユニット2が設置される。また、緑化ユニット2の培土基盤5が主成分に無機質発泡体を備えて形成され、かつこの培土基盤5を保持する枠部材6が鋼線からなる格子状の篭状に形成されているため、緑化ユニット2は軽量化され、その設置作業が容易なものとされる。ついで、このように、壁面T1の緑化デザインに応じた部分に簡便に複数の緑化ユニット2を設置した段階で、灌水チューブ3を設置する。このとき、緑化ユニット2の培土基盤5の上端5aと緑化ユニット2を支持する上方の樋部材1の間を通して誘導するという簡易な操作により灌水チューブ3が設置される。このように、灌水チューブ3を設置した段階で構造物Tの壁面緑化の施工が完了する。
【0037】
上記のように施工した本実施形態の壁面緑化システムAにおいて、培土基盤5に植栽した植物に灌水を行なう際には、タイマーや手動によって前記ポンプを駆動するとともに、前記貯水槽内の液肥を含む水が灌水チューブ3を流通する。そして、灌水チューブ3の複数の孔からこの水が滴下することにより、下方に位置する緑化ユニット2の培土基盤5の上端5a側から水と液肥が供給される。ここで、このように培土基盤5の上端5a側から供給された水は、培土基盤5の上端5aから下端(緑化ユニット2の下端2a)側に供給されてゆき、培土基盤5に保水されない余剰水が下端2aから排出されることになる。従来の壁面緑化システムにおいては、上方の緑化ユニット2から排出された余剰水が、既に灌水が施された下方の緑化ユニット2に供給されてしまい、下方に配された緑化ユニット2への灌水量や施肥量が多くなりすぎて、植物に根腐れや病害が発生しやすくなるという問題があった。また、このような根腐れや病害の発生を防止するために、灌水頻度を低下させたり、1回の灌水量を減らした場合には、逆に植物が枯れてしまう場合があった。
【0038】
これに対して、本実施形態においては、各緑化ユニット2の下端2a側が断面略凹状を呈する下方の樋部材1に挿入されているため、緑化ユニット2の下端2aから排出される余剰水が樋部材1に受け止められ、この樋部材1を流通して樋部材1の延設方向端部側の開口部分から外部に排出される。これにより、構造物Tの壁面T1の下方に配置された緑化ユニット2に過剰な灌水が供給されることがなく、灌水に伴う根腐れや病害の発生が防止される。
【0039】
また、例えば図5及び図6に示すように、樋部材1の延設方向両端部1d側に、樋部材1の底板部から上方に延び、その開口部を一部締め切る壁1eを設けた場合には、緑化ユニット2の下端2a側から排出された余剰水Wが、この壁1eの高さ範囲の水位で樋部材1に貯留されることになる。さらに、壁1eの高さ範囲を上回る水位で緑化ユニット2の下端2a側から排出された余剰水Wは、壁1eの上端1fからオーバーフローして外部に排出されることになる。これにより、本実施形態の壁面緑化システムAにおいては、樋部材1に余剰水Wが、壁1eの高さに応じた量で貯留され、下端2a側が挿入された緑化ユニット2に、この貯留した余剰水Wを再度供給することが可能になる。また、このとき、樋部材1の貯水量が壁1eの高さに応じた量とされるため、壁1eの高さを適宜調整することにより、この余剰水Wが過剰に緑化ユニット2に供給されて植物に根腐れや病害が発生することがない。
【0040】
一方、本実施形態の壁面緑化システムAにおいて、例えば構造物Tの壁面T1の緑化デザインを変更したい場合、緑化ユニット2が、引掛部6eを樋部材1の支持部材4に引っ掛けて設置され、かつ軽量であることから、その取り外しは、設置時と同様、やはり簡便に行なえる。そして、取り外した緑化ユニット2をそのまま、または植栽された植物を他の植物に植え替えるなどした後に、変更デザインに対応する位置の樋部材1の支持部材4に引掛部6eを引っ掛けて緑化ユニット2を再設置することで、簡便にデザイン変更が行なえる。また、構造物Tの壁面T1を塗り替えたり、植物が枯れてしまった緑化ユニット2を交換する場合においても、上記と同様、全ての緑化ユニット2や、一部の緑化ユニット2を簡便に脱着して対応できる。
【0041】
すなわち、本実施形態の壁面緑化システムAにおいては、引掛部6eを支持部材4に引っ掛けて緑化ユニット2を設置することができ、この支持部材4が樋部材1に複数設けられているため、図7に示すように、構造物Tの壁面T1の略全面を、緑化ユニット2で覆うようにすることができるとともに、例えば図8に示すように、上下方向の1段おきに緑化ユニット2を設置することによって、ライン状のデザインで壁面T1に緑化を施したり、例えば図9に示すように緑化ユニット2を設置することによって、壁面T1に文字を描いて緑化を施すことができる。よって、本実施形態の壁面緑化システムAにおいては、樋部材1の任意の位置に簡便に緑化ユニット2を配置することが可能であるために、デザイン面の自由度を高くすることが可能になり、施工時のデザインは勿論、緑化デザインの変更にも柔軟に対応することができる。
【0042】
したがって、本実施形態の壁面緑化システムAによれば、緑化ユニット2を、構造物Tの壁面T1に設置した樋部材1の任意の位置に簡便に着脱することができ、設置した緑化ユニット2に灌水する灌水チューブ3も簡便に設置できるため、施工性を向上させることが可能になるとともに、緑化デザインの自由度を高くすることが可能になる。また、緑化を施した構造物Tや壁面緑化システムA自体のメンテナンスを容易に行なうことも可能になる。
【0043】
また、このとき、樋部材1の支持部材4に、引掛部6eを掛止するという簡便な操作で緑化ユニット2を設置できるため、緑化ユニット2の着脱を、確実に容易に行なえるとともに、複数の支持部材4を樋部材1に設けておくだけで、緑化ユニット2の設置位置を自由に選択することができる。これにより、確実かつ簡便にデザイン面の自由度を高くすることが可能になる。
【0044】
さらに、樋部材1を上下方向に並設することによって、上下方向に隣り合う一対の樋部材1の間に緑化ユニット2を配置することができ、複数の緑化ユニット2を構造物Tの壁面T1に沿って上下方向と水平方向に並べて設置できるため、例えば蔓性植物を地上から生育させて壁面T1を覆うように構成した従来の緑化システムに対して、壁面T1の緑化に用いる植物を蔓性植物に限定する必要がなく、緑化に用いる植物選択の自由度を高くすることが可能になる。
【0045】
また、緑化ユニット2が、ステンレス鋼線の篭状の枠部材6と軽量の培土基盤5とから構成されていることにより、枠部材6で確実に培土基盤5を保持することができるとともに、このようなシンプルな構成であるため、従来の壁面緑化システムのように、堅牢なフレーム材を設ける必要がなく、壁面緑化に掛かるコストを低減することが可能になる。
【0046】
さらに、緑化ユニット2の培土基盤5と樋部材1との間に灌水チューブ3が設けられていることによって、培土基盤5にその上端5a側から灌水することができ、確実に培土基盤5に給水を行って、これに植生した植物を好適に生育させることができる。また、保水されずに培土基盤5の下端2a側から排出した余剰水Wを樋部材1で受けることができ、樋部材1に壁1eを設けることによってこの余剰水Wを貯留することが可能になる。これにより、樋部材1を設けることで、排水機能と保水機能を付与できるため、植物の生育阻害を防止できるとともに、灌水頻度を低減することも可能になる。
【0047】
以上、本発明に係る壁面緑化システムAの実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、樋部材1が、C型チャンネルなどのチャンネルであるものとして説明を行なったが、断面略凹状を呈するように形成されていれば、特にその形状を限定する必要はなく、例えば断面円弧状を呈するものであってもよい。
【0048】
また、本実施形態では、緑化ユニット2の枠部材6に、一対の縦部材6dの先端を連結して形成した引掛部6eが設けられ、樋部材1の側壁部1cから突出するビスなどの支持部材4が設けられて、この支持部材4に引掛部6eを引っ掛けて掛止させることで緑化ユニット2を樋部材1に着脱可能に支持できるとしたが、図10及び図11に示すように、引掛部10を鈎状に形成し、この引掛部10を側壁部1cの上端1g側に引っ掛けて緑化ユニット2を樋部材1に支持させてもよいものである。この場合には、本実施形態の引掛部6eを支持部材4に掛止するものよりも、さらに簡便に緑化ユニット2を設置できるとともに、水平方向に延びる樋部材1の側壁部1cのどこにでも引掛部10を掛止させることができるため、さらにデザイン面の自由度を高めることが可能になる。
【0049】
また、これに加えて、図10及び図11に図示したように、掛止された引掛部10に対し外側から被せるように設置され、設置とともに引掛部10の間に位置する側壁部1cを挟み込ませるように引掛部10を外側から押圧する固定部材11を設けてもよい。この場合には、強固に引掛部10と樋部材1を固定することができ、緑化ユニット2をより安定的に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る壁面緑化システムを示す図である。
【図2】図1のX−X線矢視図である。
【図3】図1に示した壁面緑化システムにおける緑化ユニットの拡大図である。
【図4】図3のX−X線矢視図である。
【図5】図1に示した壁面緑化システムにおける樋部材の貯水状態を示す図である。
【図6】図5のX−X線矢視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る壁面緑化システムにおいて、緑化ユニットを構造物の壁面全面を覆うように設置した状態を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る壁面緑化システムにおいて、構造物の壁面に、緑化ユニットをライン状に設置した状態を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る壁面緑化システムにおいて、構造物の壁面に、緑化ユニットを文字状に設置した状態を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る壁面緑化システムの樋部材で緑化ユニットを支持する構造の変形例を示した図である。
【図11】図10のX−X線矢視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 樋部材
2 緑化ユニット
2a 下端
3 灌水チューブ(灌水部材)
4 支持部材(ビス)
5 培土基盤
5a 上端
6 枠部材
6a 縦部材
6b 横部材
6d 一対の縦部材
6e 引掛部
10 引掛部
11 固定部材
A 壁面緑化システム
T 構造物
T1 壁面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植栽が施される培土基盤と該培土基盤を保持する枠部材を備える緑化ユニットを、構造物の壁面に沿って設置して該構造物に緑化を施すための壁面緑化システムであって、
断面略凹状を呈する複数の樋部材が、それぞれ開口部側を上方に向けた状態で略水平方向に延設され、上下方向に所定の間隔をあけつつ前記構造物の壁面に支持されており、前記枠部材が前記樋部材に着脱可能に支持されて前記上下方向に隣り合う一対の前記樋部材の間に前記緑化ユニットが設置されることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項2】
請求項1記載の壁面緑化システムにおいて、
前記緑化ユニットを設置した状態で、前記培土基盤と、該培土基盤の上方に位置する前記樋部材との間には、該培土基盤に灌水するための灌水部材が設けられていることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の壁面緑化システムにおいて、
前記緑化ユニットを設置した状態で、該緑化ユニットの下端側が、下方に位置する前記樋部材の内部に前記開口部を介して挿入されていることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の壁面緑化システムにおいて、
前記枠部材が、上下方向に延びる複数の縦部材と水平方向に延びる複数の横部材を備えて格子状で篭状に形成されており、前記培土基盤が該篭状に形成された枠部材の内部に挿入されつつ保持されて前記緑化ユニットが形成されていることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の壁面緑化システムにおいて、
前記培土基盤が、少なくとも発泡体と熱融着性繊維とを混合するとともに熱処理されて固化したものであることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の壁面緑化システムにおいて、
前記樋部材には、外面から外側に突出する支持部材が設けられ、前記緑化ユニットには、前記枠部材の少なくとも一部が前記培土基盤の上端よりも上方に突出して形成した引掛部が設けられており、該引掛部が前記支持部材に掛止されることによって前記緑化ユニットが前記樋部材に支持されることを特徴とする壁面緑化システム。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の壁面緑化システムにおいて、
前記緑化ユニットには、前記枠部材の少なくとも一部が前記培土基盤の上端よりも上方に突出して鈎状に形成された引掛部が設けられており、該鈎状の引掛部が、前記樋部材の開口部を画成する上端側に掛止されることによって前記緑化ユニットが前記樋部材に支持されることを特徴とする壁面緑化システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−222015(P2007−222015A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43633(P2006−43633)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000100469)みのる産業株式会社 (158)
【Fターム(参考)】