説明

壁面緑化構造

【課題】緑化に必要な面積が広い場合であっても、低コストで施工および施設維持が可能であり、また短日数で緑化を必要とする壁面全体に植物で覆うことができるようにした壁面緑化構造を提供する。
【解決手段】壁面緑化構造10において、壁面表面に、植物が植え込まれている植裁基材で構成される植裁部20と断熱材部30とを上下方向に交互に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面緑化構造に関する。
【背景技術】
【0002】
環境改善および省エネルギーの観点から、工場や学校などの建物において、屋上緑化と共に、壁面を緑化することが求められており、壁面緑化構造として、いくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1には、壁面等である起立面上に多孔性登攀助材と網状保護材とを所定間隔を保って配置し、その間で、ヘデラ類のように吸着型蔓性植物を登攀させながら育成することで、壁面を緑化する技術が記載されている。多孔質材の登攀助材として、発泡樹脂体やヤシ殻繊維などが用いられている。
【0003】
特許文献2には、土壌を充填した本体内に植裁ポットを埋め込んだ多目的緑化盤を緑化工法に用いる技術が記載されており、その図12や図15には、前記多目的緑化盤を垂直壁面に取り付けて、壁面緑化構造とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−89420号公報
【特許文献2】特開2005−176829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるような、壁面に発泡樹脂体のような材料からなる多孔性登攀助材を配置し、そこに植物を登攀させながら成長させる態様の壁面緑化工法は、小規模での緑化には有効であるが、植物が登攀しながら成長していくのに長い日数がかかる。そのために、植物が未成長の段階では、長い日数にわたって、太陽光が発泡樹脂体などである多孔性登攀助材に直接当たることになり、十分な断熱効果が得られない。そのために、大規模、特に上下方向に高さの高い壁面を緑化する工法としては、なお改善すべき点が残っている。
【0006】
特許文献2に記載のように、植裁ポットを埋め込んだ多目的緑化盤を垂直壁面に取り付けて壁面を緑化する工法は、設置した時点で当該壁面の緑化を完成することができ、規模によらず、必要な期間まで緑化を終えることができる。しかし、大規模な壁面緑化の場合には、すべての面に多目的緑化盤で設置すると、建設コストも大きく、また、設置後の維持管理のための多くの水道代などが必要となるなど、コストの面でやはり改善すべき点が残っている。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、緑化に必要な面積が広い場合であっても、低コストで施工および施設維持が可能であり、また短日数で緑化を必要とする壁面全体に植物で覆うことができるようにした壁面緑化構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による壁面緑化構造は、壁面表面に、植物が植え込まれている植裁基材で構成される植裁部と断熱材部とが上下方向に交互に配置されていることを特徴とする。
【0009】
上記の壁面緑化構造では、例えば、緑化を必要とする面積のほぼ半分を、植物が植え込まれている植裁基材で覆い、残りの部分を断熱材で覆うようにされる。一般に、植物が植え込まれている植裁基材は高価であり、一方、断熱材は比較して安価である。そのために、大規模な壁面緑化構造であっても、全体として、低コストでの施工が可能となる。また、植物が植え込まれている植裁基材で構成される植裁部は、施工後に給水等のメンテナンスが必要とされるが、壁面緑化の全面積に対して、植裁部が占める面積はその半分またはそれ以下とすることができ、給水等に要するメンテナンス費用も少なくてすむ。
【0010】
本発明による壁面緑化構造において、植裁部と断熱材部とを上下方向に交互に配置しつつ左右方向にも交互に配置することは好ましい。その配置では、植裁部同士の距離を短くできるので、施工時には植物で覆われていない断熱材部の表面を、短日数で、植裁部から成長してくる植物によって、覆うことが可能となるとともに、意匠性にも優れたものとなる。なお、各植裁部と断熱材部の上下方向や左右方向の幅は適宜選択できる。
【0011】
本発明において、植裁部は、適宜の植裁基盤に植物が予め植裁されている任意の植裁基材で構成される。植裁基材において、前記植裁基盤は、土壌であってもよく、ヤシ殻繊維のような植物繊維の集成体、さらには、マット化した植物のようなものであってもよい。保水性と通気性を備えることは望ましい。
【0012】
植裁基材に植え込む植物も任意であるが、ヘデラカナリエンシスに代表されるような登攀性植物は好ましい。また、蔓性植物も好ましい。植物は植裁基盤に直接植え込まれていてもよく、水溶性または水分解性の材料で作られたポット(例えば、土製のポット)に予め植え込んだものを植裁基盤に埋め込むようにしてもよい。また、植裁基材が、そこで用いる植裁基盤の性質から自立姿勢を維持することが困難な場合には、適宜の箱体内に収納した姿勢で用いる。その際に、前記箱体の前面には好ましくは金網のような多くの開口部を備えた保護部材を配置することもできる。
【0013】
本発明において、断熱材部で用いる断熱材には、断熱性を備えた適宜の材料が用いられる。強度と、軽量性、取り扱い性、コスト等の観点から、例えば発泡ポリスチレンのような発泡樹脂体であることは好ましい。また、断熱材が発泡樹脂体の場合、片面または両面に不織布層を備えた発泡樹脂体であることは好ましい。不織布層を備えることにより、不織布の持つ強度によって風によって生じる正圧および負圧に対する各断熱材の耐性を向上させることかできるとともに、紫外線による発泡樹脂体の劣化を防止することができる。不織布としては、坪量70g/m程度のものが好適である。
【0014】
本発明において、断熱材部に用いる断熱材は、壁面に対向する側とは反対の側に植物が登攀しやすい材料からなる表面層を備えることが望ましい。植物が登攀しやすい材料の具体例としては、発泡ポリスチレンシートや綿シートが挙げられる。さらに、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの発泡シートであってもよく、発泡モルタルや発泡ウレタン樹脂なども挙げられる。上記した材料は多孔性であり、それを利用して、植物は表面層に張り付いた状態で、迅速に登攀していくことができる。前記表面層は、断熱材の表面に直接積層されていてもよい。断熱材が壁面に対向する面とは反対の側の面に不織布層を備えた発泡樹脂体である場合には、表面層は不織布層の上に積層される。表面層を備えることにより、紫外線による断熱材(例えば発泡樹脂体)の劣化を防止することもできる。
【0015】
前記表面層は表面に凹凸を有することは好ましい。その理由は、例えばノエゼンカズラのような付着タイプの登攀系植物は、目地に沿って登っていく性質があり、表面を凹凸形状とすることにより、植物の茎の部分は、凹凸の凹の部分に入り込むようにして直線的に伸びて生育することが期待されることによる。また、平坦面とするよりも凹凸面とすることで、表面積が増大し、植物の登攀することが可能な面積がさらに大きくなることから、登攀スピードが促進することも期待できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、施工コストおよび維持コストの双方においてコスト低減可能な壁面緑化構造が得られる。また、施工後の短日数で全面緑化が可能な壁面緑化構造が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による壁面緑化構造の一形態を説明する図。
【図2】本発明による壁面緑化構造の他の形態を説明する図。
【図3】植物が植え込まれている植裁部を構成する植裁基材の一例を断面で示す図。
【図4】断熱材部を構成する断熱材の一例を断面で示す図。
【図5】本発明による壁面緑化構造の他の形態を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による壁面緑化構造の実施の形態を説明する。
図1に示す形態において、壁面緑化構造10は、学校や工場などの建物のコンクリート壁1の壁面表面に沿うようにして作られる。壁面緑化構造10は、植物が植え込まれている植裁基材で構成される植裁部20と断熱材部30とが上下方向に交互に配置されている。この例において、最下段に植裁部20が位置し、その上に、断熱材部30と植裁部20とが交互に多段に位置している。
【0019】
コンクリート壁1の表面に植裁部20と断熱材部30とを取り付ける態様に、特に制限はないが、ここでは、所要本数のC形鋼材2を所定間隔でコンクリート壁1に垂直方向にアンカーで固定し、該C形鋼材2に対して、水平方向に所定の間隔をおいて、C形鋼材3あるいはH形鋼材4をボルトおよびナットにより固定すると共に、該鋼材3,4を利用して、植裁部20と断熱材部30とをコンクリート壁1の壁面表面に沿うようにして配置している。また、図示の例において、各植裁部20の上部には、図示しない給水部に接続する、表面に多数の透水孔を有する給水管25が配置されている。
【0020】
この例において、植裁部20は、図3に一例を示す植裁基材21の1個または複数個から構成される。植裁基材21は、例えば樹脂製材料からなるメッシュ状の箱体22と、該箱体22内に充填した例えばヤシ殻繊維である植裁基盤23と、植物Pとを備える。植物Pは、水溶性または水分解性の材料で作られたポット24内に植え込まれており、ポット24ごと植裁基盤23内に埋め込まれている。なお、図1では、1個の植裁基材21に1個のポット24が図示してあるが、実際には、複数個のポット24が埋め込まれる。もちろん、ポット24を用いずに、多数の植物Pを植裁基盤23に直接植え込んでもよい。図3には示されないが、箱体22に収容した植裁基盤23が外に飛び出さないように、箱体22の前面には好ましくは金網のような多くの開口部を備えた保護部材が配置することもできる。
【0021】
この例において、断熱材部30は、1枚または複数枚の例えば発泡ポリスチレンである断熱材31で構成される。断熱材31の両面には不織布32が積層体として貼り付けられている。この断熱材31は、不織布32を積層していることにより、断熱材部30の表面側および背面側を流れる風によって生じる正圧および負圧に対して、高い耐性を備える。
【0022】
壁面緑化構造10では、施工直後には、図1に示すように、植物Pは植裁部20の表面にのみ存在する状態にある。必要時に給水管25から植裁部20に給水することにより、植物Pは次第に上方に位置する断熱材部30に向かって成長していく。そして、短い日数の間に、植物Pは断熱材部30の全表面を覆うようになる。植物Pがヘデラカナリエンシスに代表されるような登攀性植物の場合には、その登攀は確実かつ速い速度で進行する。
【0023】
本発明による壁面緑化構造10では、緑化を必要とする壁面のほぼ半分は植裁部20で覆われており、残りの部分は断熱材部30で覆われている。前記したように、一般に、植物が植え込まれている植裁基材21は高価であり、断熱材31は比較して安価である。そのために、大規模な壁面緑化構造であっても、低コストでの施工が可能となる。また、植裁部30は、施工後に給水等のメンテナンスが必要とされるが、壁面緑化の全面積に対して、植裁部30が占める面積はその半分程度であり、給水等に要するメンテナンス費用も少なくてすむ。さらに、短日数で、断熱材部30を含む全壁面を植物Pで覆うことができる。
【0024】
図2は、本発明による壁面緑化構造10の他の形態を示す、図1に相当する図である。ここでは、前記植裁部20と断熱材部30の表面側の全面が、金網のような多くの開口部を備えた支持材40によって覆われている。なお、該支持材40は、前記した植裁部20と断熱材部30を配置するために取り付けたC形鋼材3あるいはH形鋼材4にビス41またはボルトおよびナット等によって固定されている。他の構成は、図1に示した壁面緑化構造10と同じであり、同じ符号を付している。
【0025】
この態様の壁面緑化構造10では、表面側に支持材40を固定したことにより、風に対する植裁部20および断熱材部30の安定性が、一層向上する。
【0026】
図4は、断熱材31の他の形態を示す。この断熱材31は、断熱材31の施工後にコンクリート壁1に対向する面には不織布32が積層体として貼り付けられるとともに、施工後にコンクリート壁1に対向する面とは反対の面に、植物が登攀しやすい材料からなる表面層33がさらに積層されている。この例において、表面層33は綿シートであり、表面に凹凸を有している。表面層33としては、他に、エンボス加工を施した発泡樹脂シートなども用いることができる。
【0027】
前記したように、一般に付着タイプの登攀系植物は、目地に沿って登っていく性質があるので、表面を凹凸とした表面層33を断熱材31の表面に備えることにより、植物の茎の部分は、凹凸の凹の部分に入り込むようにして直線的に伸びて生育することが期待できる。また、平坦面とするよりも凹凸面とすることで、表面積が増大し、植物の登攀することが可能な面積がさらに大きくなることから、植物の登攀スピードが促進することが期待できる。それにより、より短い日数で、断熱材部30の表面全面を植物で覆うことが可能となる。
【0028】
図5は、本発明による壁面緑化構造10の他の形態を示す、図1に相当する図である。ここでは、前記植裁部20と断熱材部30とが、上下方向および左右方向に交互に配置された千鳥配置となっている。この態様によれば、植裁部20は断熱材部30の上下方向だけでなく左右方向にも位置することとなり、断熱材部30が植物Pで覆われるスピードが促進することが期待できるとともに、意匠性にも優れたものとなる。
【符号の説明】
【0029】
P…植物、
1…コンクリート壁、
2、3,4…鋼材、
10…壁面緑化構造、
20…植物が植え込まれている植裁基材で構成される植裁部、
21…植裁基材、
22…箱体、
23…植裁基盤、
24…ポット、
25…給水管、
30…断熱材部、
31…断熱材、
32…不織布、
33…植物が登攀しやすい材料からなる表面層、
40…支持材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面緑化構造であって、壁面表面に、植物が植え込まれている植裁基材で構成される植裁部と断熱材部とが上下方向に交互に配置されていることを特徴とする壁面緑化構造。
【請求項2】
前記植裁部と前記断熱材部とが左右方向にも交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の壁面緑化構造。
【請求項3】
前記断熱材は、壁面に対向する側とは反対の側に植物が登攀しやすい材料からなる表面層を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の壁面緑化構造。
【請求項4】
前記断熱材は、片面または両面に不織布層を備えた発泡樹脂体であることを特徴とする請求項1または2に記載の壁面緑化構造。
【請求項5】
前記断熱材は片面または両面に不織布層を備えた発泡樹脂体であり、該断熱材における壁面に対向する側とは反対の側には、植物が登攀しやすい材料からなる表面層を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の壁面緑化構造。
【請求項6】
前記植物が登攀しやすい材料からなる表面層は表面に凹凸を有することを特徴とする請求項3または5に記載の壁面緑化構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227045(P2010−227045A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79613(P2009−79613)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】