説明

変速装置およびそれを備える鞍乗型車両

【課題】振動および機械雑音の発生を抑制できる変速装置およびそれを備える鞍乗型車両を提供する。
【解決手段】変速装置44は、クランクジャーナル60dおよび出力軸36を有する。クランクジャーナル60dと出力軸36との間には、回転軸90が設けられる。回転軸90には、回転ユニット100が設けられる。回転ユニット100は、回転軸90と同軸状に設けられるギア180,182、およびギア180とギア182とを連結する複数の緩衝部材184を含む。ギア180は、クランクジャーナル60dから伝達される回転に基づいて回転軸90と一体的に回転する。緩衝部材184は、ギア180とギア182との間で伝達される衝撃を緩和する。ギア182は、ギア180から緩衝部材184を介して伝達される回転に基づいて回転軸90を回転中心として回転する。ギア182の回転は、伝達機構Tを介して出力軸36に伝達される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変速装置およびそれを備える鞍乗型車両に関し、より特定的には、複数の回転部材を介して回転を伝達する変速装置およびそれを備える鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンにおいて発生された駆動力を複数のギアによって駆動輪(後輪)に伝達する変速装置が提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1に記載されている有段式自動変速装置は、入力軸、複数の中間軸および出力軸を有する。入力軸、複数の中間軸および出力軸には、それぞれ1または複数のギアが設けられる。この有段式自動変速装置を備えた鞍乗型車両では、入力軸は、エンジンにおいて発生される駆動力によって回転する。入力軸の回転は、複数のギアおよび複数の中間軸を介して出力軸に伝達される。それにより、駆動輪(後輪)が回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−68700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ギア機構によって駆動力を伝達する上述のような変速装置では、変速時またはエンジンの始動時等に、ギア機構のバックラッシュ等に起因して振動および機械雑音(machinery noise)が発生することがある。それにより、運転者に不快感を与えてしまうことがある。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、振動および機械雑音の発生を抑制できる変速装置およびそれを備える鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のある見地によれば、入力軸と出力軸とを有し入力軸の回転を出力軸に伝達する変速装置であって、入力軸から出力軸への回転の伝達経路において入力軸と出力軸との間に設けられる第1中間軸と、第1中間軸と同軸状に設けられかつ入力軸から伝達される回転に基づいて第1中間軸と一体的に回転する第1回転部材と、第1中間軸と同軸状に設けられる第2回転部材と、第1回転部材と第2回転部材とを連結しかつ第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃を緩和する緩衝部材と、第2回転部材の回転を出力軸へ伝達する伝達機構とを備え、第2回転部材は、第1回転部材から緩衝部材を介して伝達される回転に基づいて第1中間軸を中心として回転する、変速装置が提供される。
【0008】
この変速装置では、入力軸の回転が第1回転部材、緩衝部材、第2回転部材および伝達機構を介して出力軸に伝達される。ここで、緩衝部材は、第1回転部材の回転を第2回転部材に伝達しつつ、第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃を緩和できる。したがって、入力軸から第1回転部材までの回転の伝達経路において衝撃が発生した場合でも、その衝撃がそのままの大きさで第2回転部材および伝達機構に伝達されることを緩衝部材によって防止できる。これにより、第2回転部材と出力軸との間(すなわち伝達機構)において大きな衝撃が発生することを防止でき、変速装置において振動および機械雑音が発生することを抑制できる。
【0009】
好ましくは、緩衝部材は弾性部材を含む。この場合、第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃を十分に緩和できる。
【0010】
また好ましくは、弾性部材はゴムを含む。この場合、弾性部材を簡単に形成できかつ第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃を確実に緩和できる。
【0011】
また好ましくは、第1回転部材は、円板状の第1本体部、ならびに第1本体部の周方向に間隔をおいて設けられかつ第1本体部から第2回転部材側に向かって延びる第1係止部および第2係止部を有し、弾性部材は第1回転部材側に第1端部を有し、第1係止部と第2係止部との間に第1スペースが形成され、弾性部材の第1端部は第1スペースに配置され、第1端部が第1係止部または第2係止部に係止されることによって第1回転部材の回転が弾性部材に伝達される。この場合、第1回転部材から緩衝部材への回転の伝達を簡単な構成で実現できる。
【0012】
また好ましくは、弾性部材の第1端部が第1係止部および第2係止部のうちの少なくとも一方に対して隙間ができるようにかつ第1本体部に対して摺動できるように、弾性部材が形成される。この場合、弾性部材の第1端部が第1回転部材の第1本体部に対して摺動することによって、第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃のエネルギーを消費できる。これにより、第1回転部材から第2回転部材に伝達される衝撃を十分に緩和できるので、第2回転部材と出力軸との間において大きな衝撃が発生することを十分に抑制できる。その結果、変速装置において振動および機械雑音が発生することを十分に抑制できる。
【0013】
また好ましくは、弾性部材の第1端部が第1係止部および第2係止部に密着するように、弾性部材が形成される。この場合、弾性部材の摩耗を防止できるので、弾性部材の寿命を長くできる。
【0014】
また好ましくは、第2回転部材は、円板状の第2本体部、ならびに第2本体部の周方向に間隔をおいて設けられかつ第2本体部から第1回転部材側に向かって延びる第3係止部および第4係止部を有し、弾性部材は第2回転部材側に第2端部を有し、第3係止部と第4係止部との間に第2スペースが形成され、弾性部材の第2端部は第2スペースに配置され、第2端部が第3係止部または第4係止部に係止されることによって弾性部材の回転が第2回転部材に伝達される。この場合、緩衝部材から第2回転部材への回転の伝達を簡単な構成で実現できる。
【0015】
また好ましくは、弾性部材の第2端部が第3係止部および第4係止部のうちの少なくとも一方に対して隙間ができるようにかつ第2本体部に対して摺動できるように、弾性部材が形成される。この場合、弾性部材の第2端部が第2回転部材の第2本体部に対して摺動することによって、第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃のエネルギーを消費できる。これにより、第1回転部材から第2回転部材に伝達される衝撃を十分に緩和できるので、第2回転部材と出力軸との間において大きな衝撃が発生することを十分に抑制できる。その結果、変速装置において振動および機械雑音が発生することを十分に抑制できる。
【0016】
また好ましくは、弾性部材の第2端部が第3係止部および第4係止部に密着するように、弾性部材が形成される。この場合、弾性部材の摩耗を防止できるので、弾性部材の寿命を長くできる。
【0017】
また好ましくは、変速装置は、第1回転部材と第2回転部材とが互いに近づく方向に第1回転部材および第2回転部材のうちの少なくとも一方を付勢する付勢部材をさらに備える。この変速装置では、たとえば、第1回転部材と第2回転部材とが互いに接触するように設けられる場合には、付勢部材の付勢力によって第1回転部材と第2回転部材とを適切な圧力で接触させることができる。この場合、第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃のエネルギーを、第1回転部材と第2回転部材との接触部においても消費できる。これにより、第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃を適切に緩和できる。また、第1回転部材の回転を、上記接触部を介して第2回転部材に伝達することもできるので、第1回転部材の回転を第2回転部材に効率よく伝達できる。また、たとえば、緩衝部材が第1回転部材と第2回転部材とによって挟まれるように設けられる場合には、付勢部材の付勢力によって緩衝部材を第1回転部材および第2回転部材に適切に接触させることができる。その結果、第1回転部材から第2回転部材へ回転を適切に伝達できるとともに、第1回転部材と第2回転部材との間で伝達される衝撃を適切に緩和できる。
【0018】
また好ましくは、付勢部材は第1中間軸と同軸状に設けられる皿ばねを含む。この場合、皿ばねを用いて付勢部材を簡単に構成できる。
【0019】
また好ましくは、変速装置は、入力軸に設けられる第1クラッチ部および第2クラッチ部と、第1クラッチ部が接続されかつ第2クラッチ部が接続されていない場合に入力軸から第1クラッチ部に伝達された回転を第1中間軸に伝達する第1伝達部と、第2クラッチ部が接続されている場合に入力軸から第2クラッチ部に伝達された回転を第1回転部材に伝達する第2伝達部とをさらに備え、第2回転部材は、第1クラッチ部が接続されかつ第2クラッチ部が接続されていない場合には、入力軸、第1クラッチ部、第1伝達部、第1中間軸、第1回転部材および緩衝部材を介して伝達される回転に基づいて回転し、第2クラッチ部が接続されている場合には、入力軸、第2クラッチ部、第2伝達部、第1回転部材および緩衝部材を介して伝達される回転に基づいて回転する。この変速装置では、第1クラッチ部のみが接続されている場合でも、第2クラッチ部が接続されている場合でも、入力軸の回転は緩衝部材を介して第2回転部材に伝達される。言い換えると、入力軸から出力軸への回転の伝達経路が異なっても、入力軸の回転は緩衝部材を介して出力軸に伝達される。したがって、入力軸から出力軸への回転の伝達経路が変更された場合でも、入力軸から第1回転部材までの回転の伝達経路において発生した衝撃を緩衝部材によって適切に緩和できる。これにより、変速装置において振動および機械雑音が発生することを確実に抑制できる。
【0020】
また好ましくは、伝達機構は、第2回転部材から伝達される回転に基づいて回転する第2中間軸と、第2中間軸に設けられる第3クラッチ部とを含む。一般に、入力軸の回転を減速して出力軸に伝達する変速装置では、入力軸から出力軸への回転の伝達経路において上流側のトルクが下流側のトルクよりも小さくなる。したがって、入力軸から出力軸への回転の伝達経路において上流側に緩衝部材を配置した場合には、緩衝部材に大きな力が作用することを防止できる。この場合、緩衝部材の耐久性を十分に確保しつつ、緩衝部材を小型に構成できる。ここで、この変速装置では、第3クラッチ部が設けられる第2中間軸よりも上流側に緩衝部材が配置されるので、緩衝部材に大きな力が作用することを防止できる。したがって、緩衝部材の耐久性を十分に確保しつつ、緩衝部材を小型に構成できる。これにより、変速装置を小型に構成できる。
【0021】
また好ましくは、伝達機構は、第2回転部材と出力軸との間において回転を伝達するチェーンを含む。この場合、チェーンによって衝撃を緩和できる。それにより、変速装置において振動および機械雑音が発生することをより確実に抑制できる。
【0022】
変速装置を備えた鞍乗型車両では、変速装置において振動および機械雑音等が発生することによって運転者に不快感を与えてしまうことがある。したがって、振動および機械雑音の発生を抑制できる上述の変速装置は、鞍乗型車両に好適に利用できる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、振動および機械雑音の発生を抑制できる変速装置およびそれを備える鞍乗型車両が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】スクータを示す側面図である。
【図2】エンジンユニットの内部構造を示す断面図解図である。
【図3】エンジンユニットの構成要素を模式的に示す図解図である。
【図4】エンジンユニットを示す側面図解図である。
【図5】回転ユニットを示す断面図である。
【図6】回転ユニットを示す分解斜視図である。
【図7】回転ユニットを示す分解斜視図(図6とは異なる方向から見た図)である。
【図8】ギアと複数の緩衝部材との位置関係を説明するための図である。(a)は、ギアを示す側面図であり、(b)は、ギアおよび複数の緩衝部材を示す側面図である。
【図9】緩衝部材の構成を説明するための図である。(a)は、緩衝部材を示す側面図であり、(b)は、(a)のX−X線断面図である。
【図10】ギアおよび緩衝部材を示す側面図である。
【図11】回転ユニットの他の例を示す側面図解図である。
【図12】回転ユニットのさらに他の例を示す側面図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。ここでは、この発明の実施の形態に係る変速装置44を、鞍乗型車両の一例であるスクータ10に搭載した場合について説明する。この発明の実施の形態における前後、左右、上下とは、スクータ10のシート40に運転者がそのハンドル16に向かって着座した状態を基準とした前後、左右、上下を意味する。
【0026】
図1は、スクータ10を示す側面図である。図1を参照して、スクータ10は、車体フレーム12および車体フレーム12を覆うように設けられる車体カバー14を含む。なお、車体カバー14によって隠れているために図1には詳細が示されていないが、車体フレーム12の前部は前方斜め上方に向かって延び、車体フレーム12の後部は後方斜め上方に向かって延びている。車体フレーム12は、その前端部に図示しないヘッドパイプを有し、ヘッドパイプには、図示しないステアリングシャフトが回転可能に挿通される。ステアリングシャフトの上端部には、ハンドル16が取り付けられ、ステアリングシャフトの下端部には、フロントフォーク18が取り付けられる。フロントフォーク18の下端部には、前輪20が車軸22を介して回転可能に支持される。
【0027】
車体カバー14の下端部には、運転者が足を載せるためのフットステップ24が左右方向に延びるように設けられる。車体フレーム12においてフットステップ24よりも後方には、サイドスタンド26が取付部28を介して取り付けられる。車体フレーム12の下端部において取付部28よりも後方には、後方に延びるエンジンユニット30がピボット軸32を介して揺動可能に支持される。具体的には、エンジンユニット30の後述するエンジンブラケット48が、ピボット軸32を介して車体フレーム12に取り付けられる。後述するように、変速装置44(図2参照)は、エンジンユニット30に含まれる。
【0028】
エンジンユニット30の後端部には、後輪34が出力軸36を介して回転可能に支持される。車体フレーム12の後部(図示せず)とエンジンユニット30とを連結するように、クッションユニット38が設けられる。車体フレーム12の後部(図示せず)においてクッションユニット38よりも上方には、運転者が着座するためのシート40が設けられる。
【0029】
以下、エンジンユニット30を詳細に説明する。
図2は、エンジンユニット30の内部構造を示す断面図解図であり、図3は、エンジンユニット30の構成要素を模式的に示した図である。図4は、エンジンユニット30を示す側面図解図である。
【0030】
図2〜図4を参照して、エンジンユニット30は、エンジン42(図2および図3参照)、変速装置44、ケーシング46(図2および図4参照)およびエンジンブラケット48(図4参照)を含む。
【0031】
図2を参照して、ケーシング46は、ケースシング本体46aおよびケーシング本体46aの左端部に取り付けられるカバー部材46bを含む。図2および図3を参照して、エンジン42は、ケーシング本体46a(図2参照)の前端部に接続されかつ前方に延びるシリンダボディ50(図2においては一部のみ図示)、シリンダボディ50の前端部に接続されるシリンダヘッド52(図3参照)、シリンダボディ50内に設けられるピストン54(図3参照)、およびピストン54に接続されるコンロッド56(図2においては一部のみ図示)を有する。図2を参照して、ケーシング46においてシリンダボディ50よりも後方には、クランク室58が形成される。
【0032】
図2および図3を参照して、変速装置44は、クランク軸60を含む。クランク軸60は、ケーシング46(図2参照)内の前端部に設けられる。クランク軸60は、クランク室58(図2参照)に配置される一対のウェブ部60a,60b、一対のウェブ部60a,60bを連結するクランクピン60c、ウェブ部60aから左方向に延びるクランクジャーナル60d、およびウェブ部60bから右方向に延びるクランクジャーナル60eを有する。クランクピン60cには、コンロッド56の後端部が接続される。この実施形態では、クランクジャーナル60dが入力軸に相当する。
【0033】
クランク軸60は、クランクジャーナル60dの右端部に設けられるベアリング62、クランクジャーナル60eの左端部に設けられるベアリング64、およびクランクジャーナル60dの左端部に設けられるベアリング66を介してケーシング46(図2参照)に回転可能に支持される。
【0034】
図4を参照して、クランクジャーナル60d(クランク軸60(図2参照))は、エンジン42(図2参照)によって発生される駆動力に基づいて第1方向R1に回転する。変速装置44においては、クランクジャーナル60d(クランク軸60)が第1方向R1に回転することによって、後述する回転軸102,156および出力軸36が第1方向R1に回転し、後述する回転軸90,140,166が第2方向R2(第1方向R1の反対方向)に回転する。
【0035】
図2を参照して、クランクジャーナル60eの右端部は、発電機68に接続される。発電機68においては、クランクジャーナル60eの回転に基づいて発電が行われる。
【0036】
クランクジャーナル60dの内部にはオイル通路60fが形成される。オイル通路60fは、クランクジャーナル60dの左端面およびクランクジャーナル60dの外周面において開口する。
【0037】
図2および図3を参照して、クランクジャーナル60dと同軸状に第1クラッチユニット70が設けられる。第1クラッチユニット70は、円筒状のクラッチハウジング72、クラッチハウジング72の内側に設けられるインナー部材74、およびインナー部材74よりも左側に設けられるインナー部材76を含む。
【0038】
クラッチハウジング72の右端部にはギア78が取り付けられ、クラッチハウジング72の左端部には複数の環状のフリクションディスク80(図3参照)が取り付けられる。クラッチハウジング72、ギア78および複数のフリクションディスク80は一体的に回転する。
【0039】
ギア78は、ワンウェイクラッチ82を介してクランクジャーナル60dに取り付けられる。ワンウェイクラッチ82は、クランクジャーナル60dの第1方向R1(図4参照)の回転をクランクジャーナル60dからギア78(クラッチハウジング72)に伝達せず、かつギア78(クラッチハウジング72)の第1方向R1(図4参照)の回転をギア78からクランクジャーナル60dに伝達する。したがって、ワンウェイクラッチ82は、エンジン42によって発生される駆動力をギア78に伝達しない。なお、クランクジャーナル60dおよびギア78(クラッチハウジング72)がともに第1方向R1(図4参照)に回転しかつクランクジャーナル60dの回転速度がギア78(クラッチハウジング72)の回転速度よりも大きい場合には、ワンウェイクラッチ82は、ギア78(クラッチハウジング72)の第1方向R1(図4参照)の回転をクランクジャーナル60dに伝達しない。ワンウェイクラッチ82としては公知の種々のワンウェイクラッチを用いることができるので、ワンウェイクラッチ82の構成の詳細な説明は省略する。
【0040】
図2および図3を参照して、インナー部材74は、複数のクラッチシュー74aを有する。インナー部材74は、クランクジャーナル60dと一体的に回転するようにクランクジャーナル60dに取り付けられる。この実施形態では、クラッチハウジング72およびインナー部材74が遠心式の第1クラッチ部C1として機能する。第1クラッチ部C1では、クランクジャーナル60dの回転速度が所定速度に達したときに、インナー部材74の複数のクラッチシュー74aがクラッチハウジング72に接触する。これにより、クランクジャーナル60dの回転がインナー部材74を介してクラッチハウジング72に伝達される。その結果、クラッチハウジング72およびギア78が第1方向R1(図4参照)に回転する。インナー部材74の構成としては公知の種々の遠心式クラッチの構成を用いることができるので、インナー部材74の構成の詳細な説明は省略する。
【0041】
以下においては、インナー部材74がクラッチハウジング72に接触している状態を第1クラッチ部C1が接続されているといい、インナー部材74がクラッチハウジング72に接触していない状態を第1クラッチ部C1が接続されていないという。なお、変速装置44では、第1クラッチ部C1は1速用のクラッチとして機能する。
【0042】
インナー部材76は、クランクジャーナル60dに対して回転自在になるように、たとえばカラー等を介してクランクジャーナル60dに取り付けられる。インナー部材76は、押圧部76a(図2参照)を有する。図3を参照して、インナー部材76の外周部には、複数の環状のクラッチディスク84が取り付けられ、インナー部材76の左端部には、ギア86が取り付けられる。インナー部材76、複数のクラッチディスク84およびギア86は一体的に回転する。複数のフリクションディスク80と複数のクラッチディスク84とは、交互に配置される。
【0043】
この実施形態では、クラッチハウジング72、インナー部材76、複数のフリクションディスク80(図3参照)、および複数のクラッチディスク84(図3参照)が油圧式の第2クラッチ部C2として機能する。第2クラッチ部C2では、図示しないオイル源から、ケーシング46(図2参照)に形成されたオイル通路88(図2参照)およびクランクジャーナル60dのオイル通路60f(図2参照)を介してインナー部材76にオイルが供給される。これにより、複数のフリクションディスク80(図3参照)が押圧部76a(図2参照)によって複数のクラッチディスク84(図3参照)に押し付けられる。その結果、クラッチハウジング72の回転がフリクションディスク80(図3参照)およびクラッチディスク84(図3参照)を介してインナー部材76に伝達され、インナー部材76およびギア86が第1方向R1(図4参照)に回転する。インナー部材76へのオイル供給が停止されると、複数のフリクションディスク80(図3参照)と複数のクラッチディスク84(図3参照)との接触状態が解除され、クラッチハウジング72からインナー部材76への回転の伝達が遮断される。インナー部材76の構成としては公知の種々の油圧式クラッチの構成を用いることができるので、インナー部材76の構成の詳細な説明は省略する。
【0044】
以下においては、複数のフリクションディスク80と複数のクラッチディスク84とが接触している状態を第2クラッチ部C2が接続されているといい、複数のフリクションディスク80と複数のクラッチディスク84とが接触していない状態を第2クラッチ部C2が接続されていないという。なお、変速装置44では、第2クラッチ部C2は2速用のクラッチとして機能する。
【0045】
図2および図4を参照して、ケーシング46内においてクランクジャーナル60dの後方斜め下方には、回転軸90がクランクジャーナル60dに対して平行に設けられる。図2を参照して、回転軸90の右端部は、ベアリング92を介してケーシング46に回転可能に支持され、回転軸90の左端部は、ベアリング94を介してケーシング46に回転可能に支持される。この実施形態では、回転軸90が第1中間軸に相当する。
【0046】
図2および図3を参照して、ベアリング92よりも左側において回転軸90と同軸状にギア96が設けられる。ギア96は、ワンウェイクラッチ98を介して回転軸90に取り付けられる。ギア96は、ギア78と噛み合っている。ワンウェイクラッチ98は、回転軸90の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸90からギア96に伝達せず、かつギア96の第2方向R2(図4参照)の回転をギア96から回転軸90に伝達する。なお、回転軸90およびギア96がともに第2方向R2(図4参照)に回転しかつ回転軸90の回転速度がギア96の回転速度よりも大きい場合には、ワンウェイクラッチ98は、ギア96の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸90に伝達しない。この実施形態では、ギア78、ギア96およびワンウェイクラッチ98によって第1伝達部t1(図3参照)が構成され、ギア86が第2伝達部t2(図3参照)として機能する。
【0047】
ベアリング94よりも右側において回転軸90と同軸状に回転ユニット100が設けられる。回転ユニット100の後述するギア180は、回転軸90と一体的に回転するように回転軸90に取り付けられる。また、回転ユニット100のギア180は、ギア86と噛み合っている。これにより、回転ユニット100は、回転軸90が回転することによって、あるいはギア86からギア180に回転が伝達されることによって回転する。回転ユニット100の詳細は後述する。
【0048】
変速装置44においては、第1クラッチ部C1のみが接続されている場合(変速装置44のギアポジションが1速の場合)には、クランクジャーナル60dの回転が第1クラッチ部C1およびギア78を介してギア96に伝達される。それにより、ギア96が第2方向R2(図4参照)に回転する。上述のように、ワンウェイクラッチ98は、ギア96の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸90に伝達するので、ギア96が第2方向R2(図4参照)に回転することによって回転軸90が第2方向R2(図4参照)に回転する。それにより、回転ユニット100が第2方向R2(図4参照)に回転する。
【0049】
一方、第1クラッチ部C1および第2クラッチ部C2がともに接続されている場合(変速装置44のギアポジションが2速以上の場合)には、クランクジャーナル60dの回転は、ギア78に伝達されるとともに、第2クラッチ部C2を介してギア86に伝達される。それにより、ギア86は、ギア78と同じ回転速度で第1方向R1(図4参照)に回転する。回転ユニット100のギア180はギア86と噛み合っているので、ギア86が第1方向R1(図4参照)に回転することによって回転ユニット100および回転軸90が第2方向R2(図4参照)に回転する。ここで、変速装置44においては、ギア86およびギア180のギア比(減速比)は、ギア78およびギア96のギア比に比べて小さく設定される。そのため、ギア86から伝達される回転によってギア180が回転する場合、ギア180および回転軸90の回転速度はギア96の回転速度よりも大きくなる。上述したように、回転軸90の回転速度がギア96の回転速度よりも大きい場合には、ワンウェイクラッチ98は、ギア96の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸90に伝達しない。したがって、第1クラッチ部C1および第2クラッチ部C2がともに接続されている場合(変速装置44のギアポジションが2速以上の場合)には、ギア96は空転する。
【0050】
図2および図4を参照して、回転軸90の後方斜め上方には、回転軸102が回転軸90に対して平行に設けられる。図2を参照して、回転軸102の右端部は、ベアリング104を介してケーシング46に回転可能に支持され、回転軸102の左端部は、ベアリング106を介してケーシング46に回転可能に支持される。この実施形態では、回転軸102が第2中間軸に相当する。
【0051】
回転軸102の内部には、オイル通路102a,102bが形成される。オイル通路102aは、回転軸102の右端面および回転軸102の外周面において開口し、オイル通路102bは、回転軸102の左端面および回転軸102の外周面において開口する。
【0052】
図2および図3を参照して、ベアリング104よりも左側において、回転軸102と同軸状にギア108が設けられる。ギア108は、回転軸102に対して回転自在になるように、たとえばブッシュまたはカラー等を介して回転軸102に取り付けられる。
【0053】
ギア108よりも左側において、回転軸102と同軸状に第2クラッチユニット110が設けられる。第2クラッチユニット110は、円筒状のクラッチハウジング112、クラッチハウジング112の内側に設けられるインナー部材114、クラッチハウジング112よりも左側に設けられる円筒状のクラッチハウジング116、クラッチハウジング116の内側に設けられるインナー部材118、およびインナー部材114とインナー部材118との間に設けられる押圧部120(図2参照)を含む。
【0054】
ギア108は、クラッチハウジング112の右端部に取り付けられる。クラッチハウジング112の左端部には、複数の環状のフリクションディスク122(図3参照)が取り付けられる。ギア108、クラッチハウジング112および複数のフリクションディスク122(図3参照)は一体的に回転する。
【0055】
インナー部材114は、回転軸102と一体的に回転するように回転軸102に取り付けられる。図3を参照して、インナー部材114の外周部には、複数の環状のクラッチディスク124が取り付けられる。複数の環状のフリクションディスク122と複数のクラッチディスク124とは、交互に配置される。
【0056】
図2および図3を参照して、クラッチハウジング116の右端部には、複数の環状のフリクションディスク126(図3参照)が取り付けられ、クラッチハウジング116の左端部には、ギア128が取り付けられる。ギア128は、回転軸102に対して回転自在になるように、たとえばブッシュまたはカラー等を介して回転軸102に取り付けられる。クラッチハウジング116、複数のクラッチディスク126(図3参照)およびギア128は一体的に回転する。
【0057】
インナー部材118は、回転軸102と一体的に回転するように回転軸102に取り付けられる。図3を参照して、インナー部材118の外周部には、複数の環状のクラッチディスク130が取り付けられる。複数のフリクションディスク126と複数のクラッチディスク130とは、交互に配置される。
【0058】
図2および図3を参照して、ギア128の左側において回転軸102と同軸状に、ギア132が設けられる。ギア132は、回転軸102と一体的に回転するように回転軸102に取り付けられる。ギア132の右端部には、ギア132と一体的に回転するようにギア134が取り付けられる。ギア134は、回転ユニット100の後述するギア182と噛み合っている。したがって、ギア134は、回転ユニット100のギア182から伝達される回転に基づいて第1方向R1(図4参照)に回転する。これにより、ギア132および回転軸102が第1方向R1(図4参照)に回転する。
【0059】
この実施形態では、クラッチハウジング112、インナー部材114、押圧部120(図2参照)、複数のフリクションディスク122(図3参照)および複数のクラッチディスク124(図3参照)が油圧式の第3クラッチ部C3として機能し、クラッチハウジング116、インナー部材118、押圧部120(図2参照)、複数のフリクションディスク126(図3参照)および複数のクラッチディスク130(図3参照)が油圧式の第4クラッチ部C4として機能する。
【0060】
第3クラッチ部C3では、図示しないオイル源から、ケーシング46に形成されたオイル通路136(図2参照)および回転軸102のオイル通路102a(図2参照)を介して押圧部120(図2参照)にオイルが供給される。これにより、図3を参照して、複数のフリクションディスク122が押圧部120(図2参照)によって複数のクラッチディスク124に押し付けられる。その結果、回転軸102の第1方向R1(図4参照)の回転が、インナー部材114、複数のクラッチディスク124および複数のフリクションディスク122を介してクラッチハウジング112に伝達され、クラッチハウジング112およびギア108が第1方向R1(図4参照)に回転する。オイル通路102a(図2参照)から押圧部120(図2参照)へのオイル供給が停止されると、複数のフリクションディスク122と複数のクラッチディスク124との接触状態が解除され、インナー部材114からクラッチハウジング112への回転の伝達が遮断される。
【0061】
第4クラッチ部C4では、図示しないオイル源から、ケーシング46(図2参照)に形成されたオイル通路138(図2参照)および回転軸102のオイル通路102b(図2参照)を介して押圧部120(図2参照)にオイルが供給される。これにより、図3を参照して、複数のフリクションディスク126が押圧部120(図2参照)によって複数のクラッチディスク130に押し付けられる。その結果、回転軸102の第1方向R1(図4参照)の回転が、インナー部材118、複数のクラッチディスク130および複数のフリクションディスク126を介してクラッチハウジング116に伝達され、クラッチハウジング116およびギア128が第1方向R1(図4参照)に回転する。オイル通路102b(図2参照)から押圧部120(図2参照)へのオイル供給が停止されると、複数のフリクションディスク126と複数のクラッチディスク130との接触状態が解除され、インナー部材118からクラッチハウジング116への回転の伝達が遮断される。
【0062】
なお、インナー部材114、インナー部材118および押圧部120の構成としては公知の種々の油圧式クラッチの構成を用いることができるので、インナー部材114、インナー部材118および押圧部120の構成の詳細な説明は省略する。
【0063】
以下においては、複数のフリクションディスク122と複数のクラッチディスク124とが接触している状態を第3クラッチ部C3が接続されているといい、複数のフリクションディスク122と複数のクラッチディスク124とが接触していない状態を第3クラッチ部C3が接続されていないという。同様に、複数のフリクションディスク126と複数のクラッチディスク130とが接触している状態を第4クラッチ部C4が接続されているといい、複数のフリクションディスク126と複数のクラッチディスク130とが接触していない状態を第4クラッチ部C4が接続されていないという。なお、変速装置44では、第3クラッチ部C3は3速用のクラッチとして機能し、第4クラッチ部C4は4速用のクラッチとして機能する。
【0064】
図2および図4を参照して、ケーシング46内において回転軸102の後方斜め下方には、回転軸140が回転軸102に対して平行に設けられる。図2を参照して、回転軸140の右端部は、ベアリング142を介してケーシング46に回転可能に支持され、回転軸140の左端部は、ベアリング144を介してケーシング46に回転可能に支持される。
【0065】
図2および図3を参照して、回転軸140の左右方向における略中心部の外周面には、ギア歯146が設けられる。ベアリング142とギア歯146との間において回転軸140と同軸状に、ギア148が設けられる。ギア148は、回転軸140と一体的に回転するように回転軸140に取り付けられる。ギア148は、ギア108と噛み合っている。したがって、図3を参照して、第3クラッチ部C3が接続されている場合には、回転軸102の第1方向R1(図4参照)の回転は、第3クラッチ部C3およびギア108を介してギア148に伝達される。これにより、ギア148および回転軸140が第2方向R2(図4参照)に回転する。
【0066】
図2および図3を参照して、ギア歯146よりも左側において回転軸140と同軸状に、ギア150が設けられる。ギア150は、回転軸140と一体的に回転するように回転軸140に取り付けられる。ギア150は、ギア128と噛み合っている。したがって、図3を参照して、第4クラッチ部C4が接続されている場合には、回転軸102の第1方向R1(図4参照)の回転は、第4クラッチ部C4およびギア128を介してギア150に伝達される。これにより、ギア150および回転軸140が第2方向R2(図4参照)に回転する。なお、変速装置44では、第3クラッチ部C3が接続されている場合には、第4クラッチ部C4は接続されない。また、第4クラッチ部C4が接続されている場合には、第3クラッチ部C3は接続されない。
【0067】
図2および図3を参照して、ギア150とベアリング144との間において回転軸140と同軸状に、ギア152が設けられる。ギア152は、ギア132と噛み合っている。ギア152は、ワンウェイクラッチ154を介して回転軸140に取り付けられる。ワンウェイクラッチ154は、回転軸140の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸140からギア152に伝達せず、かつギア152の第2方向R2(図4参照)の回転をギア152から回転軸140に伝達する。なお、回転軸140およびギア152がともに第2方向R2(図4参照)に回転しかつ回転軸140の回転速度がギア152の回転速度よりも大きい場合には、ワンウェイクラッチ154は、ギア152の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸140に伝達しない。
【0068】
変速装置44においては、第3クラッチ部C3および第4クラッチ部C4がともに接続されていない場合(ギアポジションが1速または2速の場合)には、回転ユニット100の第2方向R2(図4参照)の回転が、ギア134およびギア132を介してギア152に伝達される。それにより、ギア152が第2方向R2(図4参照)に回転する。上述のように、ワンウェイクラッチ154はギア152の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸140に伝達するので、ギア152が第2方向R2(図4参照)に回転することによって回転軸140が第2方向R2(図4参照)に回転する。
【0069】
第3クラッチ部C3が接続されかつ第4クラッチ部C4が接続されていない場合(ギアポジションが3速の場合)には、回転ユニット100の回転は、ギア134およびギア132を介してギア152に伝達されるとともに、ギア134、ギア132、回転軸102、第3クラッチ部C3およびギア108を介してギア148に伝達される。それにより、ギア148および回転軸140が第2方向R2(図4参照)に回転する。ここで、変速装置44においては、ギア108およびギア148のギア比(減速比)は、ギア132およびギア152のギア比に比べて小さく設定される。そのため、ギア148および回転軸140の回転速度は、ギア152の回転速度よりも大きくなる。上述したように、回転軸140の回転速度がギア152の回転速度よりも大きい場合には、ワンウェイクラッチ154は、ギア152の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸140に伝達しない。したがって、変速装置44のギアポジションが3速の場合には、ギア152は空転する。
【0070】
第4クラッチ部C4が接続されかつ第3クラッチ部C3が接続されていない場合(ギアポジションが4速の場合)には、回転ユニット100の回転は、ギア134およびギア132を介してギア152に伝達されるとともに、ギア134、ギア132、回転軸102、第4クラッチ部C4およびギア128を介してギア150に伝達される。それにより、ギア150および回転軸140が第2方向R2(図4参照)に回転する。ここで、変速装置44においては、ギア128およびギア150のギア比(減速比)は、ギア132およびギア152のギア比に比べて小さく設定される。そのため、ギア150および回転軸140の回転速度は、ギア152の回転速度よりも大きくなる。上述したように、回転軸140の回転速度がギア152の回転速度よりも大きい場合には、ワンウェイクラッチ154は、ギア152の第2方向R2(図4参照)の回転を回転軸140に伝達しない。したがって、変速装置44のギアポジションが4速の場合には、ギア152は空転する。なお、ギア128およびギア150のギア比(減速比)は、ギア108およびギア148のギア比に比べて小さく設定される。したがって、第4クラッチ部C4が接続されている場合の回転軸140の回転速度は、第3クラッチ部C3が接続されている場合の回転軸140の回転速度に比べて大きくなる。
【0071】
図2および図4を参照して、ケーシング46内において回転軸140よりも後方には、回転軸156が回転軸140に対して平行に設けられる。図2を参照して、回転軸156の右端部は、ベアリング158を介してケーシング46に回転可能に支持され、回転軸156の左端部は、ベアリング160を介してケーシング46に回転可能に支持される。
【0072】
図2および図3を参照して、ベアリング158とベアリング160との間において回転軸156と同軸状に、ギア162およびギア164が設けられる。ギア162およびギア164は、回転軸156と一体的に回転するように回転軸156に取り付けられる。ギア162は、回転軸140のギア歯146と噛み合っている。したがって、回転軸140の回転は、ギア歯146を介してギア162に伝達される。それにより、ギア162、回転軸156およびギア164が第1方向R1(図4参照)に回転する。
【0073】
図2および図4を参照して、ケーシング46内において回転軸156よりも後方には、回転軸166が回転軸156に対して平行に設けられる。図2を参照して、回転軸166の右端部は、ベアリング168を介してケーシング46に回転可能に支持され、166の左端部は、ベアリング170を介してケーシング46に回転可能に支持される。
【0074】
図2および図3を参照して、ベアリング168とベアリング170との間において回転軸166と同軸状に、ギア172が設けられる。ギア172は、回転軸166と一体的に回転するように回転軸166に取り付けられる。ギア172は、ギア164と噛み合っている。したがって、回転軸156の回転は、ギア164を介してギア172に伝達される。それにより、ギア172および回転軸166が第2方向R2(図4参照)に回転する。
【0075】
図2および図4を参照して、出力軸36は、回転軸166よりも後方において回転軸166に対して平行に設けられる。図2を参照して、出力軸36は、ベアリング174およびベアリング176を介してケーシング46に回転可能に支持される。出力軸36は、ケーシング46から右側に突出するように設けられる。ケーシング46内において出力軸36と同軸状に、ギア178が設けられる。ギア178は、出力軸36と一体的に回転するように出力軸36に取り付けられる。出力軸36の右端部(図示せず)には、出力軸36と一体的に回転するように後輪34(図1参照)が取り付けられる。ギア178は、ギア172と噛み合っている。したがって、ギア172の回転は、ギア178を介して出力軸36に伝達される。それにより、出力軸36および後輪34(図1参照)が第1方向R1(図4参照)に回転する。その結果、スクータ10(図1参照)が前進する。
【0076】
図3を参照して、この実施形態では、回転軸102,140,156および166、ギア108,128,132,134,148,150,152,162,164,172,および178、ワンウェイクラッチ154、第3クラッチ部C3、ならびに第4クラッチ部C4によって伝達機構Tが構成される。
【0077】
次に、変速装置44におけるクランクジャーナル60dから出力軸36への回転の伝達経路について図3を参照しつつ簡単に説明する。
【0078】
まず、クランクジャーナル60d(クランク軸60)の回転速度が所定の速度に到達することによって第1クラッチ部C1が接続され、変速装置44のギアポジションが1速に設定される。このとき、第2クラッチ部C2、第3クラッチ部C3および第4クラッチ部C4は接続されていない。したがって、クランクジャーナル60dの回転は、第1クラッチ部C1、第1伝達部t1(ギア78、ギア96およびワンウェイクラッチ98)、回転軸90、回転ユニット100、および伝達機構T(ギア134、ギア132、ギア152、ワンウェイクラッチ154、回転軸140、ギア歯146、ギア162、回転軸156、ギア164、ギア172およびギア178)を介して出力軸36に伝達される。
【0079】
次に、第2クラッチ部C2が接続されることによって変速装置44のギアポジションが2速に設定される。このとき、第1クラッチ部C1は接続されているが、第3クラッチ部C3および第4クラッチ部C4は接続されていない。したがって、クランクジャーナル60dの回転は、第1クラッチ部C1、第2クラッチ部C2、第2伝達部t2(ギア86)、回転ユニット100、および伝達機構T(ギア134、ギア132、ギア152、ワンウェイクラッチ154、回転軸140、ギア歯146、ギア162、回転軸156、ギア164、ギア172およびギア178)を介して出力軸36に伝達される。
【0080】
次に、第3クラッチ部C3が接続されることによって変速装置44のギアポジションが3速に設定される。このとき、第1クラッチ部C1および第2クラッチ部C2は接続されているが、第4クラッチ部C4は接続されていない。したがって、クランクジャーナル60dの回転は、第1クラッチ部C1、第2クラッチ部C2、第2伝達部t2(ギア86)、回転ユニット100、および伝達機構T(ギア134、ギア132、回転軸102、第3クラッチ部C3、ギア108、ギア148、回転軸140、ギア歯146、ギア162、回転軸156、ギア164、ギア172およびギア178)を介して出力軸36に伝達される。
【0081】
次に、第4クラッチ部C4が接続されることによって変速装置44のギアポジションが4速に設定される。このとき、第1クラッチ部C1および第2クラッチ部C2は接続されているが、第3クラッチ部C3は接続されていない。したがって、クランクジャーナル60dの回転は、第1クラッチ部C1、第2クラッチ部C2、第2伝達部t2(ギア86)、回転ユニット100、および伝達機構T(ギア134、ギア132、回転軸102、第4クラッチ部C4、ギア128、ギア150、回転軸140、ギア歯146、ギア162、回転軸156、ギア164、ギア172およびギア178)を介して出力軸36に伝達される。
【0082】
以上のように、この実施形態では、変速装置44のギアポジションに関係なく、クランクジャーナル60dの回転は、回転ユニット100を介して出力軸36に伝達される。以下、回転ユニット100の構成について詳細に説明する。
【0083】
図5は、回転ユニット100を示す断面図であり、図6および図7は、回転ユニット100を示す分解斜視図である。
【0084】
図5〜図7を参照して、回転ユニット100は、ギア180、ギア182、およびギア180とギア182とを連結する複数(この実施形態では4つ)の緩衝部材184を有する。ギア180とギア182とは、互いに対向するように同軸上に設けられる。この実施形態では、ギア180が第1回転部材に相当し、ギア182が第2回転部材に相当する。
【0085】
図8(a)は、ギア180を示す側面図(ギア182側から見た図)であり、図8(b)は、ギア180と緩衝部材184との関係を示す側面図(ギア182側から見た図)である。
【0086】
図5、図6および図8(a)を参照して、ギア180は、中空略円板状の本体部186および本体部186の周方向に間隔をおいて設けられかつ本体部186の軸方向に対して平行な方向に延びる複数(この実施形態では4つ)の係止部188(図6および図8(a)参照)を含む。この実施形態では、本体部186が第1本体部に相当する。
【0087】
本体部186は、その中央部に設けられる円筒状の筒状部190、筒状部190よりも大きい直径を有しかつ筒状部190と同軸状に設けられる円筒状の筒状部192、および筒状部190の一端部(この実施形態では右端部)と筒状部192の一端部(この実施形態では右端部)とを連結する環状部194を含む。環状部194は、言い換えると、筒状部190のギア182に面していない端部(ギア182とは反対側の端部)と筒状部192のギア182に面していない端部(ギア182とは反対側の端部)とを連結するように設けられる。
【0088】
図5を参照して、回転軸90の一端部(この実施形態では左端部)の外周面には、回転軸90の軸方向に対して平行に延びるように複数の溝90aが形成される。図5、図6および図8(a)を参照して、筒状部190の内周面には、溝90a(図5参照)に対応するように、筒状部190の軸方向に対して平行に延びる複数の溝190aが形成される。図5を参照して、回転軸90の一端部は、溝90aと溝190aとが噛み合うように筒状部190に挿通される。すなわち、この実施形態では、回転軸90はスプライン軸として構成され、筒状部190はスプライン軸受として構成される。これにより、回転軸90の回転方向においてギア180が回転軸90に固定され、回転軸90とギア180とが一体的に回転する。
【0089】
図5、図6および図8(a)を参照して、筒状部192は、その外周部に複数のギア歯196を有する。ギア180は、複数のギア歯196によってギア86(図2および図3参照)と噛み合っている。これにより、ギア86の回転がギア180に伝達される。
【0090】
図6を参照して、各係止部188は、本体部186の環状部194からギア182側に向かって延びるとともに、筒状部190と筒状部192とを連結する。これにより、図6および図8(a)を参照して、筒状部190と筒状部192と環状部194とによって形成される環状のスペースが、複数(この実施形態では4つ)の係止部188によって複数(この実施形態では4つ)の扇状のスペース198に仕切られる。言い換えると、複数のスペース198は、筒状部190、筒状部192、環状部194および複数の係止部188によって区画形成される。この実施形態では、互いに隣接する任意の2つの係止部188のうちの一方が第1係止部に相当し、他方が第2係止部に相当し、各スペース198が第1スペースに相当する。
【0091】
図5および図7を参照して、ギア182は、中空略円板状の本体部200および本体部200の周方向に間隔をおいて設けられかつ本体部200の軸方向に対して平行な方向に延びる複数(この実施形態では4つ)の係止部202を含む。
【0092】
図7を参照して、本体部200は、その中央部に設けられる円筒状の筒状部204、筒状部204よりも大きい直径を有しかつ筒状部204と同軸状に設けられる円筒状の筒状部206、および筒状部204の一端部(この実施形態では左端部)と筒状部206の一端部(この実施形態では左端部)とを連結する環状部208を含む。環状部208は、言い換えると、筒状部204のギア180に面していない端部(ギア180とは反対側の端部)と筒状部206のギア180に面していない端部(ギア180とは反対側の端部)とを連結するように設けられる。
【0093】
図5を参照して、回転軸90の一端部(この実施形態では左端部)が筒状部204に挿通される。回転軸90の外周面と筒状部204の内周面とは、直接的には固定されていない。したがって、回転軸90の回転は、直接的にはギア182に伝達されない。なお、この実施形態では、回転軸90と筒状部204との間には他の部材が設けられていないが、たとえば、回転軸90と筒状部204とのうちの少なくとも一方に対して回転自在なカラーまたはブッシュ等を回転軸90と筒状部204との間に設けてもよい。
【0094】
図7を参照して、筒状部206は、その外周部に複数のギア歯210を有する。ギア182は、複数のギア歯210によってギア134(図2および図3参照)と噛み合っている。これにより、回転ユニット100の回転が、ギア182を介してギア134に伝達される。
【0095】
各係止部202は、本体部200の環状部208からギア180側に向かって延びるとともに、筒状部204と筒状部206とを連結する。これにより、筒状部204と筒状部206と環状部208とによって形成される環状のスペースが、複数(この実施形態では4つ)の係止部202によって複数(この実施形態では4つ)の扇状のスペース212に仕切られる。言い換えると、複数のスペース212は、筒状部204、筒状部206、環状部208および複数の係止部202によって区画形成される。
【0096】
図9(a)は、緩衝部材184を示す側面図(ギア182側から見た図)であり、図9(b)は、図9(a)のX−X線断面図である。
【0097】
緩衝部材184は、たとえば、弾性部材を含む。この実施形態では、緩衝部材184はゴム(たとえば、NBR(ニトリルゴム)またはHNBR(水素化ニトリルゴム))からなる。緩衝部材184は、側面視(ギア180側またはギア182側から見た場合)において扇形状を有する。
【0098】
図6、図7および図9を参照して、緩衝部材184は、基部214および突出部216,218を含む。図6および図9を参照して、基部214は、その中央部に凹部220を有する。図9を参照して、突出部216,218は、側面視(ギア182側から見た場合)において凹部220を間に挟むように間隔をおいて形成される。言い換えると、凹部220は、側面視(ギア182側から見た場合)において突出部216と突出部218との間に位置する。また、突出部216,218は、凹部220の底面220aに対して垂直な方向に延びるように形成される。図6および図7を参照して、この実施形態では、基部214はギア180側に設けられ、突出部216,218は、基部214からギア182側に向かって突出するように設けられる。この実施形態では、基部214が第1端部に相当する。
【0099】
図5および図8(b)を参照して、各緩衝部材184の基部214は、筒状部190、筒状部192および環状部194に密着するようにスペース198内に配置される。ギア180(本体部186)の周方向における緩衝部材184の長さは、ギア180(本体部186)の周方向におけるスペース198の長さよりも短い。そのため、図8(b)を参照して、スペース198に基部214を配置した際には、基部214の両側(第1方向R1側および第2方向R2側)に位置する2つの係止部188の少なくとも一方の係止部188と基部214との間には、隙間が形成される。図8(b)に示す状態では、基部214の両側の2つの係止部188に対してそれぞれ隙間が形成されるように、スペース198内に基部214が配置されている。
【0100】
なお、この実施形態では、緩衝部材184の基部214は、本体部186の筒状部190、筒状部192および環状部194に対して摺動できるように形成される。したがって、基部214は、本体部186に対して摺動しつつスペース198内をギア180(本体部186)の周方向に移動できる。
【0101】
図5、図7および図8(b)を参照して、ギア182(図5および図7参照)の各係止部202が、緩衝部材184の凹部220(図5および図8(b)参照)に差し込まれる。これにより、複数の緩衝部材184が複数の係止部202にそれぞれ取り付けられる。
【0102】
図5を参照して、回転ユニット100よりも右側において回転軸90にサークリップ222が取り付けられ、回転ユニット100よりも左側において回転軸90にサークリップ224が取り付けられる。サークリップ222と回転ユニット100との間において回転軸90と同軸状に、ワッシャ226および環状の付勢部材228が設けられる。この実施形態では、付勢部材228は皿ばねからなる。サークリップ224と回転ユニット100との間において回転軸90と同軸状に、ワッシャ230が設けられる。付勢部材228は、ギア180をギア182側に向かって付勢する。これにより、図5〜図7を参照して、筒状部190のギア182側の端面190bと筒状部204のギア180側の端面204aとが接触し、筒状部192のギア182側の端面192aと筒状部206のギア180側の端面206aとが接触する。
【0103】
以下、変速装置44の作用効果について詳細に説明する。
図10は、クランクジャーナル60d(図3参照)から伝達された回転に基づいてギア180が回転する際の、ギア180および緩衝部材184の状態を示す側面図(ギア182側から見た図)である。
【0104】
上述したように、回転ユニット100のギア180は、クランクジャーナル60dから伝達される回転に基づいて第2方向R2(図4参照)に回転する。図8(b)および図10を参照して、ギア180が第2方向R2に回転することによって、各緩衝部材184は、ギア180の本体部186に対して摺動しつつ、本体部186に対して相対的に第1方向R1に移動する。これにより、図10に示すように、各緩衝部材184は、各緩衝部材184の第1方向R1側の係止部188によって係止される。その結果、ギア180の回転が複数の係止部188を介して複数の緩衝部材184に伝達される。複数の緩衝部材184は、ギア182(図7参照)の複数の係止部202(図7参照)に係止されているので、ギア180から複数の緩衝部材184に伝達された回転は、複数の係止部202を介してギア182に伝達される。これにより、ギア182が回転軸90を回転中心として回転する。上述したように、ギア182の回転は、伝達機構Tを介して出力軸36に伝達される。
【0105】
ここで、各緩衝部材184は、ギア180の回転をギア182に伝達しつつ、ギア180とギア182との間で伝達される衝撃を緩和できる。したがって、クランクジャーナル60dからギア180までの回転の伝達経路において衝撃が発生した場合でも、その衝撃がそのままの大きさでギア182および伝達機構Tに伝達されることを緩衝部材184によって防止できる。これにより、ギア182と出力軸36との間(伝達機構T)において大きな衝撃が発生することを防止でき、変速装置44において振動および機械雑音が発生することを抑制できる。
【0106】
また、図6を参照して、回転ユニット100においては、各緩衝部材184の基部214(緩衝部材184のギア180側の端部)がギア180の本体部186(筒状部190、筒状部192および環状部194)に対して摺動することによって、ギア180とギア182との間で伝達される衝撃のエネルギーを消費できる。これにより、ギア180からギア182に伝達される衝撃を十分に緩和できるので、ギア182と出力軸36との間において大きな衝撃が発生することを十分に抑制できる。その結果、変速装置44において振動および機械雑音が発生することを十分に抑制できる。
【0107】
また、緩衝部材184の基部214がギア180の本体部186(筒状部190、筒状部192および環状部194)に対して摺動する際に摩擦力が発生することによって、ギア180の回転が緩衝部材184を介してギア182に伝達される。これにより、ギア180からギア182への回転の伝達を円滑に開始することができる。
【0108】
また、図5を参照して、ギア180は、付勢部材228によってギア182側に向かって付勢される。これにより、ギア180の端面190b,192aとギア182の端面204a,206aとを適切な圧力で接触させることができる。この場合、ギア180とギア182との間で伝達される衝撃のエネルギーを、端面190bと端面204aとの接触部および端面192aと端面206aとの接触部においても消費できる。これにより、ギア180とギア182との間で伝達される衝撃を適切に緩和できる。また、ギア180の回転を、上記接触部を介してギア182に伝達することもできるので、ギア180の回転をギア182に効率よく伝達できる。また、ギア180がギア182側に向かって付勢されることによって、ギア180とギア182とによって挟まれる緩衝部材184を、ギア180およびギア182に適切に接触させることができる。これにより、ギア180からギア182へ回転を適切に伝達できるとともに、ギア180とギア182との間で伝達される衝撃を適切に緩和できる。また、ギア180がギア182側に向かって付勢されることによって、緩衝部材184の基部214を十分な圧力でギア180の本体部186に接触させることができる。これにより、緩衝部材184の基部214が本体部186に対して摺動する際に、ギア180とギア182との間で伝達される衝撃のエネルギーを十分に消費できる。なお、緩衝部材184の摩耗を抑制して緩衝部材184の寿命をより向上させたい場合には、緩衝部材184をギア180の本体部186に積極的に押し付けなくてもよい。具体的には、たとえば、緩衝部材184が大きな力でギア180の本体部186に押し付けられないように、緩衝部材184の寸法または付勢部材228の付勢力を調整してもよい。
【0109】
また、図3を用いて説明したように、変速装置44では、ギアポジションに関係なく、クランクジャーナル60dの回転は、回転ユニット100(緩衝部材184)を介して出力軸36に伝達される。したがって、クランクジャーナル60dから出力軸36への回転の伝達経路が変更された場合でも、クランクジャーナル60dから回転ユニット100(ギア180)までの回転の伝達経路において発生した衝撃を緩衝部材184によって適切に緩和できる。これにより、変速装置44において振動および機械雑音が発生することを確実に抑制できる。
【0110】
また、変速装置44では、回転ユニット100は、クランクジャーナル60dから出力軸36への回転の伝達経路において、第3クラッチ部C3および第4クラッチ部C4が設けられる回転軸102よりも上流側に配置される。ここで、変速装置44では、クランクジャーナル60dの回転を減速して出力軸36に伝達するので、クランクジャーナル60dから出力軸36への回転の伝達経路において上流側のトルクが下流側のトルクよりも小さくなる。したがって、クランクジャーナル60dから出力軸36への回転の伝達経路において上流側に回転ユニット100を配置した場合には、緩衝部材184に大きな力が作用することを防止できる。そこで、変速装置44では、回転軸102よりも上流側に回転ユニット100を配置することによって、緩衝部材184に大きな力が作用することを防止している。これにより、緩衝部材184の耐久性を十分に確保しつつ、緩衝部材184を小型に構成できる。その結果、変速装置44を小型に構成できる。
【0111】
上述の回転ユニット100では、複数の緩衝部材184がギア182の複数の係止部202にそれぞれ取り付けられているが、複数の緩衝部材184が、複数の係止部202ではなく、ギア180の複数の係止部188にそれぞれ取り付けられてもよい。この場合、ギア180の各係止部188が、緩衝部材184の突出部216,218の間および凹部220に差し込まれる。また、緩衝部材184の基部214は、ギア182の本体部200(筒状部204、筒状部206および環状部208)に密着するようにかつ本体部200に対して摺動できるようにスペース212に配置される。なお、ギア182(本体部200)の周方向における緩衝部材184の長さは、上記周方向におけるスペース212の長さよりも短い。そのため、スペース212に基部214を配置した際には、基部214の両側(第1方向R1側および第2方向R2側)に位置する2つの係止部202の少なくとも一方の係止部202と基部214との間には、隙間が形成される。このように構成された回転ユニットでは、複数の緩衝部材184は、ギア180が回転することによってギア180と一体的に回転する。より具体的には、複数の緩衝部材184は、ギア182の本体部200に対して摺動しつつギア182に対して相対的に回転する。これにより、複数の緩衝部材184が複数の係止部202にそれぞれ係止され、ギア180の回転が複数の緩衝部材184を介してギア182に伝達される。この実施形態では、本体部200が第2本体部に相当し、互いに隣接する任意の2つの係止部202のうちの一方が第3係止部に相当し、他方が第4係止部に相当し、各スペース212が第2スペースに相当し、基部214が第2端部に相当する。
【0112】
上述の実施形態では、基部214がギア180の本体部186(またはギア182の本体部200)に対して摺動できるように緩衝部材184が形成されていたが、緩衝部材の構成は上述の例に限定されない。
【0113】
図11は、回転ユニットの他の例を示す側面図解図である。図11に示す回転ユニット100aが上述の回転ユニット100と異なるのは、緩衝部材184aの形状である。緩衝部材184a以外の回転ユニット100aの構成は、緩衝部材184以外の回転ユニット100の構成に等しい。したがって、緩衝部材184a以外の回転ユニット100aの構成については説明を省略する。なお、図11においては、図面が煩雑になることを避けるために、ギア182(図7参照)の本体部200(図7参照)は図示せず、複数の係止部202のみを図示している。
【0114】
図11に示す緩衝部材184aが上述の緩衝部材184と異なるのは以下の点である。すなわち、ギア180(本体部186)の周方向において、緩衝部材184aの基部214a、突出部216aおよび突出部218aの長さはそれぞれ、衝部材184(図8(b)参照)の基部214、突出部216および突出部218の長さよりも長い。より具体的には、基部214aが緩衝部材184aの両側に位置する2つの係止部188に密着できるように、緩衝部材184aの上記周方向における長さはスペース198(図8(a)参照)の上記周方向における長さよりも長い。
【0115】
回転ユニット100aでは、基部214aが2つの係止部188に密着しているので、基部214aがギア180の本体部186に対して摺動することを防止できる。この場合、緩衝部材184aの摩耗を防止できるので、緩衝部材184aの寿命を長くできる。この実施形態では、基部214aが第1端部に相当する。
【0116】
なお、複数の緩衝部材184aを、複数の係止部202ではなく、ギア180の複数の係止部188にそれぞれ取り付けてもよい。この場合、各緩衝部材184aの基部214aは、ギア182(図7参照)の互いに隣接する2つの係止部202(図7参照)に密着するようにスペース212に配置される。この実施形態では、本体部200が第2本体部に相当し、互いに隣接する任意の2つの係止部202のうちの一方が第3係止部に相当し、他方が第4係止部に相当し、各スペース212が第2スペースに相当し、基部214aが第2端部に相当する。
【0117】
上述の実施形態では、ギア180の複数の係止部188とギア182の複数の係止部202とのうちのいずれか一方に複数の緩衝部材184(または緩衝部材184a)が取り付けられていたが、係止部188および係止部202の両方に緩衝部材が取り付けられてもよい。
【0118】
図12は、係止部188および係止部202の両方に緩衝部材184が取り付けられた回転ユニットの一例を示す側面図解図である。図12に示す回転ユニット100bが上述の回転ユニット100と異なるのは、複数(この実施形態では4つ)の緩衝部材184が複数(この実施形態では4つ)の係止部202にそれぞれ取り付けられるとともに、他の複数(この実施形態では4つ)の緩衝部材184が複数(この実施形態では4つ)の係止部188に取り付けられる点である。各係止部188にも緩衝部材184が取り付けられる点を除いて、回転ユニット100bの構成は回転ユニット100の構成と等しい。なお、図12においては、図面が煩雑になることを避けるために、ギア182(図7参照)の本体部200(図7参照)は図示せず、複数の係止部202のみを図示している。
【0119】
図12を参照して、回転ユニット100bでは、ギア180の係止部188に取り付けられた緩衝部材184とギア182の係止部202に取り付けられた緩衝部材184とが密着する。この場合、各緩衝部材184の基部214がギア180の本体部186(またはギア182の本体部200)に対して摺動することを防止できる。これらの結果、緩衝部材184の摩耗を防止できるので、緩衝部材184の寿命を長くできる。
【0120】
なお、図12に示した回転ユニット100bでは、係止部188に取り付けられた緩衝部材184と係止部202に取り付けられた緩衝部材184とが密着しているが、係止部188に取り付けられた緩衝部材と係止部202に取り付けられた緩衝部材との間に隙間ができるように、各緩衝部材を形成してもよい。
【0121】
上述の実施形態では、緩衝部材184,184aがゴムからなる場合について説明したが、緩衝部材の構成は上述の例に限定されない。たとえば、緩衝部材がコイルばねまたは板ばね等のバネ部材を含んで構成されてもよい。
【0122】
上述の実施形態では、回転ユニット100の右側に付勢部材228が設けられているが、回転ユニット100の左側に付勢部材228を設けてもよい。この場合、付勢部材228によって、ギア182をギア180側に向かって付勢することができる。
【0123】
上述の実施形態では、付勢部材228が皿ばねからなる場合について説明したが、付勢部材の構成は上述の例に限定されない。具体的には、ギア180とギア182とが互いに近づく方向にギア180およびギア182のうちの少なくとも一方を付勢することができるように付勢部材が構成されていればよい。たとえば、付勢部材としてコイルばねを用いてもよい。この場合、たとえば、ギア180とギア182とが互いに近づく方向にギア180,182を付勢できるように、ギア180,182をコイルばねによって連結してもよい。
【0124】
上述のギア180(図8参照)では、複数の係止部188が、筒状部190と筒状部192との間のスペースを複数のスペース198に仕切っているが、係止部の構成は上述の例に限定されない。具体的には、ギア(第1回転部材)の回転方向において緩衝部材を係止できるように係止部が構成されていればよく、複数のスペース198が係止部によって完全に仕切られていなくてもよい。たとえば、側面視において隣接するスペース198とスペース198とが繋がるように、係止部に切り欠きが形成されてもよい。同様に、スペース212とスペース212とが繋がるように、係止部に切り欠きが形成されてもよい。
【0125】
上述の実施形態では、伝達機構Tは、複数のギアの組み合わせによって回転を伝達しているが、伝達機構の構成は上述の例に限定されず、伝達機構が回転の伝達手段としてチェーンを含んで構成されてもよい。たとえば、回転軸140と出力軸36とを連結するチェーンを設け、回転軸140の回転をチェーンを介して出力軸36に伝達してもよい。この場合、チェーンによって衝撃を緩和できるので、変速装置において振動および機械雑音が発生することをより確実に抑制できる。
【0126】
上述の実施形態では、第1クラッチ部として遠心式の第1クラッチ部C1が設けられているが、第1クラッチ部として油圧式のクラッチを設けてもよい。この場合、第1クラッチ部および第2クラッチ部をそれぞれ接続することによってギアポジションが2速になるように変速装置を構成してもよく、第1クラッチ部を接続せずに第2クラッチ部を接続することによってギアポジションが2速になるように変速装置を構成してもよい。
【0127】
上述の実施形態では、2速用、3速用、および4速用のクラッチとしてそれぞれ油圧式のクラッチ部C2、クラッチ部C3およびクラッチ部C4が設けられているが、2速用、3速用および4速用のクラッチのいずれかまたは全てが遠心式のクラッチであってもよい。
【0128】
上述の実施形態では、4速のギアポジションを有する変速装置44について説明したが、2速、3速または5速以上のギアポジションを有する変速装置にも本発明は適用できる。
【0129】
また、この発明が適用される鞍乗型車両はスクータ10に限定されない。具体的には、この発明は、モペット等の他のタイプの自動二輪車、不整地走行用車両(ALL−TERRAIN VEHICLE)、およびスノーモービル等の他の鞍乗型車両にも適用できる。
【符号の説明】
【0130】
10 スクータ
30 エンジンユニット
36 出力軸
42 エンジン
44 変速装置
46 ケーシング
60 クランク軸
60d クランクジャーナル
90、102、140、156、166 回転軸
100、100a、100b 回転ユニット
180、182 ギア
184、184a 緩衝部材
186、200 本体部
188、202 係止部
198、212 スペース
214、214a 基部
216、216a、218、218a 突出部
228 付勢部材
C1 第1クラッチ部
C2 第2クラッチ部
C3 第3クラッチ部
C4 第4クラッチ部
T 伝達機構
t1 第1伝達部
t2 第2伝達部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と出力軸とを有し前記入力軸の回転を前記出力軸に伝達する変速装置であって、
前記入力軸から前記出力軸への前記回転の伝達経路において前記入力軸と前記出力軸との間に設けられる第1中間軸と、
前記第1中間軸と同軸状に設けられかつ前記入力軸から伝達される回転に基づいて前記第1中間軸と一体的に回転する第1回転部材と、
前記第1中間軸と同軸状に設けられる第2回転部材と、
前記第1回転部材と前記第2回転部材とを連結しかつ前記第1回転部材と前記第2回転部材との間で伝達される衝撃を緩和する緩衝部材と、
前記第2回転部材の回転を前記出力軸へ伝達する伝達機構とを備え、
前記第2回転部材は、前記第1回転部材から前記緩衝部材を介して伝達される回転に基づいて前記第1中間軸を中心として回転する、変速装置。
【請求項2】
前記緩衝部材は弾性部材を含む、請求項1に記載の変速装置。
【請求項3】
前記弾性部材はゴムを含む、請求項2に記載の変速装置。
【請求項4】
前記第1回転部材は、円板状の第1本体部、ならびに前記第1本体部の周方向に間隔をおいて設けられかつ前記第1本体部から前記第2回転部材側に向かって延びる第1係止部および第2係止部を有し、
前記弾性部材は前記第1回転部材側に第1端部を有し、
前記第1係止部と前記第2係止部との間に第1スペースが形成され、
前記弾性部材の前記第1端部は前記第1スペースに配置され、
前記第1端部が前記第1係止部または前記第2係止部に係止されることによって前記第1回転部材の回転が前記弾性部材に伝達される、請求項2または3に記載の変速装置。
【請求項5】
前記弾性部材の前記第1端部が前記第1係止部および前記第2係止部のうちの少なくとも一方に対して隙間ができるようにかつ前記第1本体部に対して摺動できるように、前記弾性部材が形成される、請求項4に記載の変速装置。
【請求項6】
前記弾性部材の前記第1端部が前記第1係止部および前記第2係止部に密着するように、前記弾性部材が形成される、請求項4に記載の変速装置。
【請求項7】
前記第2回転部材は、円板状の第2本体部、ならびに前記第2本体部の周方向に間隔をおいて設けられかつ前記第2本体部から前記第1回転部材側に向かって延びる第3係止部および第4係止部を有し、
前記弾性部材は前記第2回転部材側に第2端部を有し、
前記第3係止部と前記第4係止部との間に第2スペースが形成され、
前記弾性部材の前記第2端部は前記第2スペースに配置され、
前記第2端部が前記第3係止部または前記第4係止部に係止されることによって前記弾性部材の回転が前記第2回転部材に伝達される、請求項2または3に記載の変速装置。
【請求項8】
前記弾性部材の前記第2端部が前記第3係止部および前記第4係止部のうちの少なくとも一方に対して隙間ができるようにかつ前記第2本体部に対して摺動できるように、前記弾性部材が形成される、請求項7に記載の変速装置。
【請求項9】
前記弾性部材の前記第2端部が前記第3係止部および前記第4係止部に密着するように、前記弾性部材が形成される、請求項7に記載の変速装置。
【請求項10】
前記第1回転部材と前記第2回転部材とが互いに近づく方向に前記第1回転部材および前記第2回転部材のうちの少なくとも一方を付勢する付勢部材をさらに備える、請求項1から9のいずれかに記載の変速装置。
【請求項11】
前記付勢部材は前記第1中間軸と同軸状に設けられる皿ばねを含む、請求項10に記載の変速装置。
【請求項12】
前記入力軸に設けられる第1クラッチ部および第2クラッチ部と、前記第1クラッチ部が接続されかつ前記第2クラッチ部が接続されていない場合に前記入力軸から前記第1クラッチ部に伝達された回転を前記第1中間軸に伝達する第1伝達部と、前記第2クラッチ部が接続されている場合に前記入力軸から前記第2クラッチ部に伝達された回転を前記第1回転部材に伝達する第2伝達部とをさらに備え、
前記第2回転部材は、前記第1クラッチ部が接続されかつ前記第2クラッチ部が接続されていない場合には、前記入力軸、前記第1クラッチ部、前記第1伝達部、前記第1中間軸、前記第1回転部材および前記緩衝部材を介して伝達される回転に基づいて回転し、前記第2クラッチ部が接続されている場合には、入力軸、前記第2クラッチ部、前記第2伝達部、前記第1回転部材および前記緩衝部材を介して伝達される回転に基づいて回転する、請求項1から11のいずれかに記載の変速装置。
【請求項13】
前記伝達機構は、前記第2回転部材から伝達される回転に基づいて回転する第2中間軸と、前記第2中間軸に設けられる第3クラッチ部とを含む、請求項1から12のいずれかに記載の変速装置。
【請求項14】
前記伝達機構は、前記第2回転部材と前記出力軸との間において回転を伝達するチェーンを含む、請求項1から13のいずれかに記載の変速装置。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の変速装置を備える、鞍乗型車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−19479(P2013−19479A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153564(P2011−153564)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】