説明

多芯筆記具

【課題】外形の大きなインク貯留部を利用して、軸筒の胴回りを小さくできるように工夫された多芯筆記具を提供する。
【解決手段】多芯筆記具1においては、それぞれの中芯2のインク貯留部12の外面が、軸筒4の内壁面4Aに面接触し、且つ、隣接するインク貯留部12同士が、互いに線接触することにより、外形の大きなインク貯留部12の有効利用を図って、中芯2を確実に摺動させ、多芯筆記具1の各中芯2のガイド機能を達成させている。このような構成により、中芯2を軸線L方向に確実に移動させるためのガイド手段の簡素化を可能にし、部品点数の削減を図ることができる。しかも、このような構成により、軸筒4内で各中芯2を中心に寄せることができるので、軸筒4の外形を必要最小限の大きさにすることができ、軸筒4の胴回りを小さくするような小型化が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性マーカー、ボードマーカー、水性マーカー、蛍光マーカー、水性ボールペン等のように、外形の大きなインク貯留部を有する中芯の出没を可能にした多芯筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、特開2007−203682号公報がある。この公報に記載されたマーカーは、蛍光ペンであり、ノック機構によって中芯の出没を可能にしている。中芯の先端部には、軸線方向に移動自在なエアータイトスリーブが装着され、このエアータイトスリーブの前端には、ヒンジを介して開閉自在な蓋体が設けられている。この蓋体には、三角形状の係止部が設けられ、この係止部は、軸筒に形成されたストッパに当たることで、軸筒の窓部内に挿入可能である。このようなマーカーにあっては、中芯がノック機構により前進させられると、中芯と一緒にエアータイトスリーブも前進し、エアータイトスリーブに設けられた蓋部の係止部がストッパに当たることで係止部が窓部内に入り込む。このとき、エアータイトスリーブの移動がストップさせられるが、中芯の前進は続いているので、蓋部が開放されながら中芯の先端が軸筒の先端から突出することになる。このようなマーカーでは、キャップを用いずに中芯のエアータイトを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−203682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の筆記具は、単芯であり、1本の筆記具で色分けするような筆記ができない。そこで、近年、外形の大きなインク貯留部を有している中芯を複数本もった多芯の筆記具が求められている。
【0005】
本発明は、外形の大きなインク貯留部を利用して、軸筒の胴回りを小さくできるように工夫された多芯筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸筒内に配置されると共に、インクが貯留されるインク貯留部を有する中芯と、
軸筒の先端開口から中芯の先端を出没させるために、中芯を軸線方向に移動させ得る中芯出没機構と、を備えた筆記具において、
軸筒内に複数本の中芯を有し、
それぞれの中芯のインク貯留部の外面は、軸筒の内壁面に面接触し、且つ、隣接するインク貯留部の外面同士が、互いに線又は面接触することで、中芯を軸線方向にガイドすることを特徴とする。
【0007】
この多芯筆記具においては、それぞれの中芯のインク貯留部の外面が、軸筒の内壁面に面接触し、且つ、隣接するインク貯留部同士が、互いに線又は面接触することにより、外形の大きなインク貯留部の有効利用を図って、多芯筆記具の各中芯のガイド機能を達成させている。このような構成により、中芯を軸線方向に確実に移動させるためのガイド手段の簡素化を可能にし、部品点数の削減を図ることができる。しかも、このような構成により、軸筒内で各中芯を中心に寄せることができるので、軸筒の外形を必要最小限の大きさにすることができ、軸筒の胴回りを小さくするような小型化が可能になる。
【0008】
また、中芯出没機構は、軸筒に対して軸線方向に移動可能なノック部を有するノック機構であり、ノック部の先端は、中芯の後端で屈曲自在に連結されていると好適である。
このような構成を採用すると、中芯を撓ませることなく、ノック部と中芯とを確実に連動させることができる。
【0009】
また、軸筒の前端側には、中芯の進退によって開閉される蓋部が、中芯毎に設けられていると好適である。
中芯毎に対応する蓋部を設けることで、乾き易いインクを備えた多芯筆記具の筆記状態において、筆記に使用されていない他の中芯のインクの乾きを確実に防止することができる。中芯毎に蓋部を設けることは、多芯筆記具をキャップレスにする上で非常に有意義である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外形の大きなインク貯留部を利用して、軸筒の胴回りを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る多芯筆記具の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】筆記状態の多芯筆記具を示す断面図である。
【図3】図5のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】中芯の格納状態を示す斜視図である。
【図5】中芯の格納状態を示す断面図である。
【図6】蓋部が開いて、中芯が軸筒から突出する直前の状態を示す図である。
【図7】図5のVII−VII線に沿う断面図である。
【図8】中芯とノック部との連結構造を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る多芯筆記具の他の実施形態を示す断面図である。
【図10】本発明に係る多芯筆記具の更に他の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る多芯筆記具の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、ペン先側を「前方側」として以下説明する。
【0013】
図1及び図2に示されるように、多芯筆記具1は、ノック式の多色の蛍光マーカーであり、複数本(例えば3本)の中芯2を有し、それぞれの中芯2は、異なる色のインクが充填されている以外は、同一の構造である。
【0014】
多芯筆記具1は、略正三角柱形状の樹脂製の軸筒4を有し、軸筒4の後端には、軸線L方向に移動可能な3個のノック部6が装着されている。各ノック部6は、中芯出没機構Pを介して、3本の中芯2の選択的な出没を可能にしている。
【0015】
図2及び図3に示されるように、中芯出没機構Pは、ノック部6を軸線L方向に案内するガイド部7と、軸筒4内に収容されると共に、ノック部6のノック本体部6aからラジアル方向に突出する突片8と、ノック部6及び中芯2を後方に付勢するばね部9と、を備えている。
【0016】
ガイド部7は、突片8の両側面から突出するスライド凸部7aと、スライド凸部7aが挿入されると共に、ノック部6の指掛け部6bを露出させるために軸筒4で軸線L方向に延在するスリット4aを形成する壁面において、軸線L方向に延在してなるガイド溝7bと、からなる。ノック部6のスライド凸部7aが軸筒4のガイド溝7b内を摺動することにより、ノック部6を軸線L方向に確実に摺動させることができる。
【0017】
突片8には、ラジアル方向における内端側で断面三角形状の係止解除部8aが形成され、各係止解除部8aは、互いに軸線Lに接近する。ノック部6を前進させ続けると、ノック部6のスライド凸部7aがガイド溝7bの前端から外れ、これによって、ノック部6の後端が落ち込む(図2参照)。このとき、ノック部6の後端は、ガイド溝7bの前端に位置する係止壁4cに当接し、ノック部6は係止させられる。これによって、中芯2の先端が軸筒4の先端開口4dから突出した状態が維持される。
【0018】
また、中芯2の先端を軸筒4内に格納する際、他のノック部6を前進させることで、他の係止解除部8aが前進し、これによって、この係止解除部8aが筆記状態にあるノック部6の係止解除部8bを押し上げる。このとき、ノック部6の後端は、持ち上げられて係止壁4cから外れ、ばね9の付勢力によって、ノック部6のスライド凸部7aをガイド溝7bに沿って一気に後退させることができる。
【0019】
ノック部6に連結された中芯2は、軸筒4の先端開口4dから先端側の露出が可能なチップ本体部11と、チップ本体部11の後端が固定されると共に、チップ本体部11にマーカー用インクを供給するためのインク貯留部12と、を有している。
【0020】
チップ本体部11は、チップ部11aと、チップ部11aを保護する樹脂製(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン)の被覆部11bとからなり、チップ部11aの先端は、被覆部11bから露出させられている。インク貯留部12は、樹脂(例えば、ポリプロピレン)からなる円筒状の容体12aと、容体12a内に詰められてインクを吸収させるための中綿12bと、容体12aの後端開口に嵌め込まれる尾栓12cと、からなる。
【0021】
さらに、チップ部11aの後端から細長く延在するチップ延長部11cの後端は、中綿12b内に差し込まれている。従って、中綿12bに染み込ませたインクは、チップ延長部11cを通ってチップ部11aに供給することができる。そして、チップ本体部11とインク貯留部12は、可撓性を有さずに、軸線Lに沿って軸筒4内で真っ直ぐに移動する。
【0022】
図4及び図5に示されるように、軸筒4の前端側には、中芯2の進退によって開閉される蓋部20が、中芯2毎に設けられている。中芯2毎に設けられたエアータイト機構Aは、チップ部11aを包囲して、中芯2のチップ本体部11の被覆部11bに沿って摺動するエアータイトスリーブ21を備え、このエアータイトスリーブ21の前端には、ヒンジ部20aを介して開閉自在な蓋部20が設けられている。この蓋部20には、三角形状の係止部23が設けられ、この係止部23は、軸筒4に形成された窓部24内に挿入されながら開いていく。そして、係止部23が窓部24内で係止(規制)させられることで、エアータイトスリーブ21の前進がストップさせられる(図6参照)。
【0023】
中芯2と一緒に前進し続けているエアータイトスリーブ21が軸筒4内で停止させられても、蓋部20が開いた状態で中芯2が更に前進し続けると、チップ部11aを先端開口4dから突出させることができる。これによって筆記具1は筆記状態になる。そして、中芯2を後退させることで、エアータイトスリーブ21の蓋部20が締まり、エアータイトスリーブ21内にチップ部11aが封入される。
【0024】
中芯2毎に対応する蓋部20を設けることで、乾き易いインクを備えた多芯筆記具1の筆記状態において、筆記に使用されていない他の中芯2のインクの乾きを確実に防止することができる。中芯2毎に蓋部20を設けることは、多芯筆記具をキャップレスにする上で非常に有意義である。
【0025】
図7に示されるように、各中芯2のインク貯留部12における容体12aの外面は、軸筒4の内壁面4Aに面接触する。更に、隣接するインク貯留部12の容体12aの外面同士が、接触箇所Dで互いに線接触する。このような構成に基づいて、ノック時に、中芯2は、軸線L方向に確実にガイドされる。
【0026】
中芯2の容体12aは、円筒形をなす。これに対して、軸筒4の壁部Rは、3本の中芯2を囲むように延在する包囲壁部R1と、隣接する中芯2の間で中芯2の外面に沿って包囲壁部R1から径方向に突出する延長壁部R2とからなり、これによって、中芯2の確実なガイドがなされる。延長壁部R2の先端は、接触箇所Dに達することがなく、これによって、容体12aの外面同士の互いの線接触を図りつつ、軸筒4の内壁面4Aの面積の拡大化が図られる。
【0027】
この多芯筆記具1においては、それぞれの中芯2のインク貯留部12の外面が、軸筒4の内壁面4Aに面接触し、且つ、隣接するインク貯留部12同士が、互いに線接触することにより、外形の大きなインク貯留部12の有効利用を図って、中芯2を確実に摺動させ、多芯筆記具1の各中芯2のガイド機能を達成させている。このような構成により、中芯2を軸線L方向に確実に移動させるためのガイド手段の簡素化を可能にし、部品点数の削減を図ることができる。しかも、このような構成により、軸筒4内で各中芯2を中心に寄せることができるので、軸筒4の外形を必要最小限の大きさにすることができ、軸筒4の胴回りを小さくするような小型化が可能になる。
【0028】
さらに、図2に示されるように、軸筒4の前端側の内部には、エアータイトスリーブ21を案内するガイド孔26aが設けられ、各ガイド孔26aは、軸筒4に固定されたガイド板26に形成されている。ガイド孔26aの採用により、中芯2の移動を前側で支持するので、中芯2のガイドを更に確実なものにしている。
【0029】
図8に示されるように、ノック部6の先端は、中芯2の後端で屈曲自在に連結されている。ノック部6の前端には、軸部27aを有する突出部27が形成され、この突出部27は、中芯2の後端に配置された尾栓12cの凹部12d内に挿入される。そして、尾栓12cには、軸部27aの挿入を可能にするスリット状の軸受部12eが形成されている。軸部27aと軸受部12eとで軸連結が達成され、中芯2を撓ませることなく、ノック部6と中芯2とを確実に連動させることができる。
【0030】
本発明は、前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0031】
本発明に係る多芯筆記具は、3芯に限らず、複数芯であれば良く、例えば、図9に示されるように、外形が正四角柱形状の軸筒4A内に4本の中芯2を90度の位相角度をもって配列させ、隣接するインク貯留部12の容体12a同士が、接触箇所Dで互いに線接触している。
【0032】
また、図10に示されるように、隣接するインク貯留部32の容体32aの外面同士が、互いに面接触してもよい。この場合、各中芯2Aのインク貯留部32の容体32aには、120度の開き角度をもったV字状の合わせ面Fが形成されている。これによって、中芯2Aを軸筒4Bの中心に寄せることができ、軸筒4Aの胴回りを小さくすることができる。
【0033】
本発明は、前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。例えば、本発明に係る多芯筆記具は、乾燥し易いインクを有する油性マーカー、ボードマーカー、水性マーカー、水性ボールペン等に適用可能である。また、本発明は、カム機構を利用した回転式の筆記具への適用も可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…多芯筆記具、2,2A…中芯、4,4A,4B…軸筒、4d…軸筒の先端開口、4A…軸筒の内壁面、6…ノック部、12,32…インク貯留部、12e…軸受部、20…蓋部、27a…軸部、L…軸線、P…中芯出没機構、D…接触箇所、F…合わせ面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に配置されると共に、インクが貯留されるインク貯留部を有する中芯と、
前記軸筒の先端開口から前記中芯の先端を出没させるために、前記中芯を軸線方向に移動させ得る中芯出没機構と、を備えた筆記具において、
前記軸筒内に複数本の前記中芯を有し、
それぞれの前記中芯の前記インク貯留部の外面は、前記軸筒の内壁面に面接触し、且つ、隣接する前記インク貯留部の前記外面同士が、互いに線又は面接触することで、前記中芯を軸線方向にガイドすることを特徴とする多芯筆記具。
【請求項2】
前記中芯出没機構は、前記軸筒に対して軸線方向に移動可能なノック部を有するノック機構であり、前記ノック部の先端は、前記中芯の後端で屈曲自在に連結されていることを特徴とする請求項1記載の多芯筆記具。
【請求項3】
前記軸筒の前端側には、前記中芯の進退によって開閉される蓋部が、前記中芯毎に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の多芯筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−6317(P2013−6317A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139524(P2011−139524)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000108328)ゼブラ株式会社 (172)
【Fターム(参考)】