説明

室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及びその製造方法並びに該組成物の硬化物で被覆された物品

【課題】長期間優れた防汚性能が発揮され、基材との密着性が改善された室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及びその製造方法並びに得られた組成物によりコーティングされた物品を提供する。
【解決手段】(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサン、(B)1分子中にケイ素原子に結合したオキシム基を2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物、(C)式(1)


で示される1価の基を有する加水分解性有機ケイ素化合物又はその部分加水分解物(R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は1価炭化水素基)、(D)シリカ、(E)ブリードオイル、を含有する基材との密着性に優れた室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング材として好適な室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関し、特にスプレー塗装性に優れ、該塗装により均一膜厚の塗膜が得られ、得られた塗膜は、優れた塗膜強度、塗膜硬度、ゴム物性、耐水性及び耐湿性を有することから、船底塗料、発電所海水導入管用塗料、魚網塗料等の耐水性が必要なコーティング材料、LCDやPDP等の耐湿性が必要な防湿コーティング材料、電線と樹脂被覆間の接着シール、樹脂ケース、又は樹脂コネクタと電線の間の接着シール、減圧又は加圧チャンバーの接着シール等の用途に対する適合性が高く、とりわけ、船底塗料、発電所海水導入管用塗料、魚網塗料等として、これらの表面への水生生物の付着・生育を防止することが有用な室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及びその製造方法、並びに該組成物でコーティングされた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、室温でゴム状弾性体を与える室温硬化性シリコーンゴム組成物としては種々のものが知られている。室温硬化性シリコーンゴム組成物(以下、RTVシリコーンゴム組成物ということがある)から得られる硬化ゴムは、他の有機系ゴムに比較して優れた耐候性、耐久性、耐熱性、耐寒性等を具備することから種々の分野で使用され、特に建築分野においては、ガラス同士の接着用、金属とガラスとの接着用、コンクリート目地のシール用等に多用されている。また、近年では、建築物、プラント類、水管内面、水管外面等のコーティング材として広く利用されるようになってきた。
【0003】
しかし、このRTVシリコーンゴム組成物の主成分であるオルガノポリシロキサンは、帯電し易い性質を有し、大気中の塵埃を吸着し易いため、硬化したシーリング材もしくはコーティング材の表面が経時的に著しく汚れてきて美観を損ねるという問題があった。この問題を解決する方法として、例えば、RTVシリコーンゴム組成物にポリオキシエチレン基、ソルビタン残基、二糖類残基等を有する界面活性剤を添加配合せしめる方法が提案されている(特開昭56−76452号公報:特許文献1、特開昭56−76453号公報:特許文献2)。しかし、前記の方法によって十分満足できる効果を得るためには、界面活性剤を多量に添加することが余儀なくされるために、RTVシリコーンゴム組成物のシーリング材もしくはコーティング材としての重要な機能である接着性の低下をきたすという欠点がある。
【0004】
また、水中構造物が設置され又は就航すると、その飛沫部から没水部表面にわたって、海、河川等の水中に棲息しているフジツボ、ホヤ、セルプラ、ムラサキイガイ、カラスガイ、フサコケムシ、アオノリ、アオサ等の水生生物が付着・生育して種々の被害が発生する。例えば、船体に生物が付着した場合、水との摩擦抵抗が増大し、航行速度の低下が生じ、一定の速度を維持するためには燃料消費量が増加し、経済的に不利である。また、港湾施設等の水中又は水面に固定させておく構造物に生物が付着すると、これらが有する個々の機能を十分に発揮することが困難となり、基材を侵食することもある。更に、養殖網、定置網等に生物が付着すると網目が閉塞して魚類が死亡してしまうことがある。
【0005】
水中構造物への水生生物の付着・生育の防止対策としては、有機錫化合物、亜酸化銅等の毒性防汚剤を配合した防汚塗料を構造物に塗装して対応していたが、水生生物の付着・生育はほぼ防止できたものの、毒性防汚剤を用いているために、塗料の製造や塗装時において環境安全衛生上好ましくなく、しかも水中において塗膜から毒性の防汚剤が徐々に溶出し、長期的にみれば水域を汚染するおそれがあることから、その使用が法的に禁止されることとなった。
【0006】
一方、水生生物の付着・生育の防止効果があり、毒性防汚剤を含有しない塗料としては、塗膜の表面張力を低くして防汚性を付与させるものとして、RTVシリコーンゴム組成物に流動パラフィン又はペトロラタムを配合した無毒性防汚塗料が提案されている(特開昭58−13673号公報:特許文献3、特開昭62−84166号公報:特許文献4)。また、反応硬化型シリコーン樹脂の硬化に伴う体積収縮によって、相溶性が乏しく非反応性の極性基含有シリコーン樹脂が表面へにじみ出し、反応硬化型シリコーン樹脂のもつ低表面張力と相俟って防汚性を示す無毒性防汚塗料組成物(特許第2503986号公報:特許文献5、特許第2952375号公報:特許文献6)も提案されている。しかしながら、前記無毒性防汚塗料組成物は、相溶性が乏しく、非反応性の極性基含有シリコーン樹脂がSi原子にC−C結合を介してエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等に付加しているポリオキシエチレン基を有するシリコーン樹脂、又はSi原子にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド基を介して分子末端にアルコキシ基が導入されたシリコーン樹脂をオイルブリードさせているために、環境安全衛生に問題があった。
【0007】
このように生物付着防止効果は改善されたが、実用化に向かって課題となったのは、基材との密着性である。シリコーン樹脂をブリードさせるため、コーティング材と基材との間にオイルが介在することから生物付着防止効果が高いもの程、密着性が低下する傾向であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−76452号公報
【特許文献2】特開昭56−76453号公報
【特許文献3】特開昭58−13673号公報
【特許文献4】特開昭62−84166号公報
【特許文献5】特許第2503986号公報
【特許文献6】特許第2952375号公報
【特許文献7】特開昭54−11953号公報
【特許文献8】特開2003−12927号公報
【特許文献9】特開昭57−18758号公報
【特許文献10】特開昭63−43934号公報
【特許文献11】特開2010−65182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、長期間優れた防汚性能が発揮され、かつ、基材との密着性が改善された室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及びその製造方法、並びに得られた組成物によりコーティングされた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため、基材との密着性に関し鋭意検討した結果、脱オキシム型RTVシリコーンゴム組成物に、特定のグアニジル基を有する化合物を配合することで、基材、特にはエポキシ塗料又はシリコーン系塗料をコーティングしてなる基材との密着性に優れ、更に得られた硬化塗膜は、ゴム強度、表面平滑性に優れ、長期間優れた防汚性能が発揮されることを見出した。
【0011】
即ち、本発明では、長期間にわたって優れた防汚性能を発揮でき、付着生物の除去も容易な防汚塗膜を形成することのできる防汚性を有する組成物、更には、基材との密着性を有する組成物を鋭意検討したものである。防汚性能と基材との密着性は背反の関係にあったため、これらを両立させた組成物はなかった。
【0012】
種々検討の結果、本発明者らは、脱オキシム型RTVシリコーンゴム組成物に、接着助剤として、特定のグアニジル基を有する化合物を配合することで、防汚性に有効な硬化塗膜の表面平滑性を有したまま、基材との密着性にも優れる組成物が得られることを見出した。また、ブリードオイルを含有した防汚塗料組成物は、とりわけブリードオイルを含有しない組成物よりも基材との密着性が悪く、従来公知の接着助剤による改善は不可能であったが、この組成物にブリードオイルや溶剤を添加した場合でも、密着性が低下しないことを確認した。
【0013】
ここで、グアニジル基を有する化合物のシリコーン組成物への応用例としては、アセトン硬化型組成物の硬化触媒(特開昭54−11953号公報、特開2003−12927号公報:特許文献7,8)、防カビ性付与(特開昭57−18758号公報:特許文献9)、発泡体形成用触媒(特開昭63−43934号公報:特許文献10)等が挙げられる。また、防汚塗料組成物への硬化触媒(任意例示)としては、特開2010−65182号公報(特許文献11)が挙げられる。
先行技術には、本発明が目的とした接着付与剤としての効果に関する示唆はなく、基材との密着性を向上させるために機能する接着助剤としての効果については未検討であった。
【0014】
即ち、本発明では、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に、グアニジル基を有する化合物を接着助剤として適用することで、この組成物より得られた硬化塗膜は、ゴム強度、表面平滑性などに優れており、また基材との密着性にも優れ、更に水中構造物表面に該組成物の硬化塗膜を形成した場合、該水中構造物表面への水生生物の付着・生育を防止し得ると共に、その効果の持続性が良好であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0015】
従って、本発明は、下記に示す室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及びその製造方法並びに該組成物の硬化物で被覆された物品を提供する。
〔請求項1〕
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中にケイ素原子に結合したオキシム基を2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物:0.5〜30質量部、
(C)下記一般式(1)
【化1】


(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は1価炭化水素基である。)
で示される1価の基を有する加水分解性有機ケイ素化合物又はその部分加水分解物:0.01〜10質量部、
(D)シリカ:0.5〜200質量部、
(E)ブリードオイル:1〜300質量部
を含有することを特徴とする基材との密着性に優れた室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項2〕
更に、(F)成分として、一級及び/又は二級アミノ基、又はエポキシ基を有するシランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項3〕
(A)成分及び(D)成分を加熱混合後、(B)成分及び(C)成分を添加する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法。
〔請求項4〕
基材の最表層が、請求項1又は2記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物で被覆された物品。
〔請求項5〕
基材が、シリコーン系塗料又はエポキシ塗料で被覆された基材である請求項4記載の物品。
〔請求項6〕
水中構造物である請求項4又は5記載の物品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、低粘度であり、しかも得られる硬化塗膜は、ゴム強度、表面平滑性などにもバランスよく優れている。また、該組成物をコーティング材、特に塗料として用いると、スプレー塗装性に優れ、しかも該塗装により塗膜表面の均一性に優れた良好な塗膜が得られ、その上得られた塗膜は、塗膜強度、塗膜硬度にも優れ、また防汚塗料として用いれば、長期間優れた防汚性能が発揮される。特に水中構造物に塗装され、水中構造物の表面への水生生物の付着・生育を防止するために好適であり、その効果の持続性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中にケイ素原子に結合したオキシム基を2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物:0.5〜30質量部、
(C)下記一般式(1)
【化2】


(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は1価炭化水素基である。)
で示される1価の基を有する加水分解性有機ケイ素化合物又はその部分加水分解物:0.01〜10質量部、
(D)シリカ:0.5〜200質量部、
(E)ブリードオイル:1〜300質量部
を含有するものである。該組成物の製造方法は、上記(A)成分、(D)成分を加熱混合し、次いで残りの成分を混合するものである。
【0018】
[(A)成分]
本発明の(A)成分である1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサンは、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の主剤(ベースポリマー)であり、下記一般式(2)で表される、分子鎖両末端が水酸基及び/又は加水分解性基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンを用いることが好ましい。
【0019】
【化3】


(式中、Rは独立に非置換又は置換の1価炭化水素基、Aは独立に酸素原子又は炭素原子数1〜8の2価炭化水素基、Bは独立に水酸基又は加水分解性基であり、pはBが水酸基の場合は2、加水分解性基の場合は0又は1であり、qは25℃における粘度が20〜20,000mPa・sとなる数である。)
【0020】
上記式(2)中、Rの非置換又は置換の1価炭化水素基としては、炭素原子数1〜12、特に1〜10の1価炭化水素基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α−,β−ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基などで置換された基、例えば、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−シアノエチル基等を例示することができる。これらの中で、メチル基、ビニル基、フェニル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0021】
また、上記Aは酸素原子又は炭素原子数1〜8、好ましくは2〜4の2価炭化水素基であり、2価炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のアルキレン基、シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基等のアリーレン基、これらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基、及び上記アルキレン基とアリーレン基とを組み合わせた基などが挙げられる。Aとしては、酸素原子、エチレン基が好ましい。
【0022】
上記オルガノポリシロキサンの分子鎖末端(B)における水酸基以外の加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等のアルコキシアルコキシ基;アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;ビニロキシ基、イソプロペニルオキシ基、1−エチル−2−メチルビニルオキシ基等のアルケニルオキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基等のケトオキシム基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基;ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基等のアミノキシ基;N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基等のアミド基等が挙げられる。Bとしては、水酸基、アルコキシ基が好ましい。
なお、(A)成分は、式(1)で示されるグアニジル基を含有しないものである。
【0023】
この(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、25℃における粘度が好ましくは20〜20,000mPa・s、より好ましくは100〜10,000mPa・s、特に好ましくは500〜5,000mPa・sである。前記粘度が低すぎると、物理的・機械的強度に優れたコーティング塗膜を得ることが困難となる場合があり、高すぎると組成物の粘度が高くなりすぎて使用時における作業性が悪くなる場合がある。なお、本発明において、粘度は回転粘度計により測定できる(以下、同じ)。
【0024】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【化4】


(上記各式中、R、qは上記と同じであり、B’は加水分解性基であり、p’は0又は1である。)
これらは1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0025】
[(B)成分]
本発明の(B)成分である1分子中にケイ素原子に結合したオキシム基を2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物は、本発明の組成物を硬化させるために必須の成分である。
この(B)成分であるシラン及び/又はその部分加水分解縮合物は、その分子中にオキシム基を少なくとも2個有することが必須である他には特に制限はないが、好適にはオキシム基を3個以上、特に3〜6個有することが好ましく、また、ケイ素原子にはオキシム基以外の加水分解性基、例えば、アルコキシ基、アセトキシ基、イソプロペノキシ基が結合していてもよく、更に、その分子構造はシラン又はシロキサン構造のいずれであってもよい。特に、シロキサン構造のものにあっては直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。
なお、(B)成分は、式(1)で示されるグアニジル基を含有しないものである。
【0026】
このような(B)成分としては、下記一般式(3)で表されるオキシムシラン及び/又はその部分加水分解縮合物であることが好ましい。
3aSiX4-a (3)
(式中、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜6の1価炭化水素基、Xは独立にオキシム基であり、aは0,1又は2、好ましくは0又は1である。)
【0027】
上記式(3)中、オキシム基(X)としては、例えば、メチルエチルケトオキシム基、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、メチルイソプロピルケトオキシム基、シクロへキサノキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等が挙げられる。
【0028】
上記式(3)中、オキシム基以外の基(R3)は、非置換又は置換の炭素原子数1〜10、特に1〜6の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0029】
本発明の(B)成分である1分子中にケイ素原子に結合したオキシム基を2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物の具体例としては、例えば、メチルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、フェニルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、プロピルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、テトラ(メチルエチルケトオキシム)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、3−クロロプロピルトリ(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリ(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリ(ジエチルケトオキシム)シラン、メチルトリ(メチルイソプロピルケトオキシム)シラン、メチルトリ(シクロへキサノキシム)シラン等及びこれらの部分加水分解縮合物が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0030】
(B)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して0.5〜30質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。前記配合量が0.5質量部未満であると架橋が不十分となり、また、逆に30質量部を超えると硬化物が硬くなりすぎ、また経済的に不利となる。
【0031】
[(C)成分]
本発明の(C)成分は、接着性向上剤として作用するもので、下記一般式(1)で表されるグアニジル基を有する加水分解性有機ケイ素化合物又はその部分加水分解物であり、本発明の組成物を基材へ密着させるために必須の成分である。
【0032】
【化5】


(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は1価炭化水素基である。)
【0033】
上記式(1)中、R1、R2の1価炭化水素基としては、炭素原子数1〜10、特に1〜8のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基、あるいはこれらの水素原子の一部又は全部をハロゲン原子などで置換したクロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。R1とR2は同一であっても異なっていてもよい。
また、上記式(1)のグアニジル基は、どのような基を介してケイ素原子に結合してもよいが、一般にはアルキレン基又はオキシアルキレン基を介してケイ素原子に結合されるのがよい。
【0034】
(C)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば下記一般式(4)で示されるものが挙げられる。
【化6】


(式中、R1、R2は上記の通り、Qは炭素原子数1〜6のエーテル結合酸素原子が介在してもよいアルキレン基であり、R4は独立に水素原子、炭素原子数1〜10、好ましくは1〜8の1価炭化水素基又は−OSiR4b(OR53-b(bは0,1又は2である。)であり、R5は水素原子又は炭素原子数1〜10、好ましくは1〜8の窒素原子を有していてもよい1価炭化水素基であり、yは0又は1〜5の整数であり、zは0,1又は2である。)
【0035】
上記式(4)中、Qは炭素原子数1〜6、好ましくは2〜4のエーテル結合酸素原子が介在してもよいアルキレン基であり、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のアルキレン基、メチレンオキシエチレン基、メチレンオキシプロピレン基、メチレンオキシブチレン基、エチレンオキシエチレン基等のアルキレンオキシアルキレン基等が挙げられる。
【0036】
また、R4は水素原子、炭素原子数1〜10、好ましくは1〜8の1価炭化水素基又は−OSiR4b(OR53-b(bは0,1又は2である。)であり、1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基等が挙げられる。R4としてはメチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。
【0037】
5は水素原子又は炭素原子数1〜10、好ましくは1〜8の窒素原子を有していてもよい1価炭化水素基であり、1価炭化水素基としては、上記R4と同様のものが例示できる。また、窒素原子を有する1価炭化水素基としては、例えば、−N=C(CH32、−N=C(CH3)C25、−N=C(C252などが挙げられる。OR5としては、水酸基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基等が挙げられ、R5としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロペニル基、−N=C(CH3)C25基が好ましい。
yは0又は1〜5の整数、好ましくは0又は1〜3の整数であり、zは0,1又は2、好ましくは0又は1である。
【0038】
(C)成分として具体的には、下記式で示されるものが挙げられる。なお、下記式において、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはプロピル基、Phはフェニル基を示す。
【化7】

【0039】
これらの中では、合成が容易であることから、下記式で示される有機ケイ素化合物が好ましい。
【化8】

【0040】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対し、0.01〜10質量部であり、0.1〜5質量部であることが好ましい。(C)成分が少なすぎると接着性の効果がなくなり、多すぎると硬化物が変色し、経済的にも不利になる。
【0041】
[(D)成分]
本発明の(D)成分であるシリカとしては、BET比表面積が10m2/g以上の疎水性シリカあるいは親水性シリカを用いることが好ましく、特に親水性シリカを用いることが好ましい。シリカには、湿式法シリカ(微粉シリカ、高純度シリカ、コロイダルシリカ、珪酸カルシウム等)、乾式法シリカ(球状シリカ、煙霧状シリカ等)がある。シリカの表面を処理していないシリカを親水性シリカ、これらシリカの表面を処理したシリカを疎水性シリカ(疎水性湿式シリカ、疎水性乾式シリカ)と呼ぶ。本発明では、疎水性シリカと親水性シリカのどちらか一方を単独で用いても、その両方を用いてもよい。
BET比表面積が10m2/g未満では、組成物の塗膜(ゴム)強度が不十分な場合がある。
【0042】
本発明において、これらシリカ成分としては、下記特性のものを用いることができる。
これらのシリカ(D)のうちで、湿式法シリカは、通常、吸着水分含量(水分含量とも言う。)が4〜8質量%程度であり、嵩密度は200〜300g/Lであり、1次粒子径は10〜30μmであり、比表面積(BET表面積)は10m2/g以上であればよいが、好ましくは30〜800m2/g、更に好ましくは50〜300m2/g程度である。
【0043】
疎水性湿式法シリカは、湿式法シリカをメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の有機ケイ素化合物で表面処理したものであり、経時的な水分吸着は少なく、嵩密度は200〜300g/Lであり、1次粒子径は1〜30μmであり、比表面積(BET表面積)は10m2/g以上であればよいが、好ましくは30〜800m2/g、更に好ましくは50〜300m2/gである。
【0044】
乾式法シリカは、通常、水分含量が1.5質量%以下である。なお、この乾式法シリカは、製造直後など初期の水分含量が例えば0.3質量%以下と低いが、放置しておくと次第に吸湿して水分含量が増加し、製造後数ヶ月経過後の時点では、例えば0.5〜1.0質量%程度になる。また、このような乾式法シリカの嵩密度はその種類により異なり一概に決定されないが、例えば50〜100g/Lであり、1次粒子径は8〜20μmであり、比表面積(BET表面積)は10m2/g以上であればよいが、好ましくは20〜400m2/g、更に好ましくは30〜300m2/g程度である。
【0045】
疎水性乾式法シリカは、乾式法シリカをメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の有機ケイ素化合物で表面処理したものであり、経時的な水分吸着は少なく、水分含量は通常0.3質量%以下、多くの場合0.1〜0.2質量%であり、比表面積(BET表面積)は10m2/g以上であればよいが、好ましくは30〜400m2/g、更に好ましくは50〜300m2/gであり、1次粒子径は5〜50μmであり、嵩密度は50〜100g/Lである。
【0046】
なお、(A)成分と共に熱処理された疎水性乾式法シリカ(熱処理疎水性乾式法シリカ)では、シリカ表面に吸着されている水分が物理的に低減・除去されており、水分含量が、通常0.2質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に0.05〜0.1質量%であり、嵩密度等のその他の物性値は、上記疎水性乾式法シリカと同様である。
【0047】
なお、本発明において、水分含量は加熱減量法、嵩密度はタップ密度測定法、1次粒子径は電子顕微鏡により測定できる。
【0048】
このような(D)成分は、(A)成分100質量部に対し、0.5〜200質量部、通常、0.5〜100質量部、好ましくは1〜50質量部、特に好ましくは3〜30質量部である。このような量で(D)成分のシリカが組成物中に含まれていると、塗膜強度、塗膜硬度に優れ、チクソ性が良好で、適度の粘度を有し、良好に塗装、特にスプレー塗装でき、例えば、垂直に起立した基材面等であっても1回の塗装で塗膜の厚膜化を図ることができる。なお、上記(D)成分が上記範囲より少ないと、十分な塗膜強度、塗膜硬度が得られず、所望のチクソ性が得られず1回の塗装、特にスプレー塗装で所望の厚膜化が図れず、また、上記(D)成分が上記範囲より多いと塗料の粘度が過度に高くなり、塗装に適した適正粘度までシンナーなどの溶剤で希釈する必要が生じ、1回のスプレー塗装による厚膜化が図れない。
【0049】
[(E)成分]
本発明の(E)成分であるブリードオイルは、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の防汚性能に必要であり、該ブリードオイルとしては、(A)成分のジオルガノポリシロキサンと縮合反応しない非反応性(非縮合反応性)の主鎖がシロキサン骨格であって、(A)成分と異なる置換基を有するシリコーンオイルを用いることができ、組成物の硬化物中からブリードしていくシリコーンオイルなら特に制限されない。
【0050】
例えば、全てがメチル基であるジメチルシリコーンオイル、これらのジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部がフェニル基に置換されたメチルフェニルシリコーンオイル、モノアミン、ジアミン又はアミノ・ポリエーテル基に置換されたアミノ変性シリコーンオイル、エポキシ、脂環式エポキシ、エポキシ・ポリエーテル又はエポキシ・アラルキル基に置換されたエポキシ変性シリコーンオイル、カルビノール基に置換されたカルビノール変性シリコーンオイル、メルカプト基に置換されたメルカプト変性シリコーンオイル、カルボキシル基に置換されたカルボキシル変性シリコーンオイル、メタクリル基に置換されたメタクリル変性シリコーンオイル、ポリエーテル又はポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル基に置換されたポリエーテル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル又は長鎖アルキル・アラルキル基に置換された長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル基に置換された高級脂肪酸変性シリコーンオイル、フロロアルキル基に置換されたフロロアルキル変性シリコーンオイル等が挙げられ、なかでもメチルフェニルシリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル基に置換されたポリエーテル変性シリコーンオイル等が好ましい。
【0051】
(E)成分の25℃における粘度は20〜30,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは50〜10,000mPa・sである。25℃における粘度が低すぎると防汚耐久性が劣る場合があり、高すぎると組成物の粘度が高すぎて作業性が低下する場合がある。
【0052】
本発明においては、このようなシリコーンオイルのうちのいずれか1種又は2種以上を用いることができる。
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1〜300質量部、好ましくは10〜200質量部である。このシリコーンオイルの量が上記範囲にあると、例えば、防汚塗料として用いた場合に、防汚性、塗膜強度共に優れた(防汚)塗膜が得られ、上記範囲より少ないと防汚性が低下し、また上記範囲より多いと塗膜強度が低下し、基材との密着性が低下する。
【0053】
[(F)成分]
本発明の組成物には、更に(F)成分として、一級及び/又は二級アミノ基、又はエポキシ基を有するシランカップリング剤を含有することができる。該シランカップリング剤を配合することにより、更にシリコーン塗膜への密着性が向上するという効果が得られる。なお、(F)成分は、式(1)で示されるグアニジル基を含有しないものである。
【0054】
このようなシランカップリング剤として、具体的には、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(N−アミノメチルベンジルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン等の一級あるいは二級アミノ基含有シランカップリング剤、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤が例示できる。これらの中でもN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−アミノメチルベンジルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンが好ましい。
【0055】
(F)成分を配合する場合、その添加量は、(A)成分100質量部に対して0.05〜20質量部、特に0.1〜10質量部であることが好ましい。添加量が多すぎると皮膜形成(タックフリー)が製造直後あるいは経時で遅くなったり、硬化物が着色する場合があり、少なすぎると接着性向上の効果がなくなる場合がある。
【0056】
[その他の配合成分]
本発明の組成物には、硬化をより促進させるための触媒を添加してもよい。このような硬化用触媒としては、縮合硬化型の室温硬化性組成物に使用されている種々のものを使用することができ、具体例として、鉛−2−エチルオクトエート、ジブチルすずジオクトエート、ジブチルすずアセテート、ジブチルすずジラウレート、ブチルすず−2−エチルヘキソエート、鉄−2−エチルヘキソエート、コバルト−2−エチルヘキソエート、マンガン−2−エチルヘキソエート、亜鉛−2−エチルヘキソエート、カプリル酸第1すず、ナフテン酸すず、オレイン酸すず、ブタン酸すず、ナフテン酸チタン、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸亜鉛等の有機カルボン酸の金属塩;テトラブチルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)チタネート等の有機チタン酸エステル;オルガノシロキシチタン、β−カルボニルチタン、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンテトラ(アセチルアセトナート)等の有機チタン化合物、有機チタンキレート;アルコキシアルミニウム化合物;ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン等のアミン化合物及び酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、臭酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン等を挙げることができる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0057】
上記硬化用触媒を用いる場合、その使用量は特に制限されず、触媒としての有効量でよいが、通常、(A)成分100質量部に対して0.01〜20質量部であることが好ましく、特に0.1〜10質量部であることが好ましい。この触媒を用いる場合、この触媒の含有量が上記範囲の下限未満の量であると、架橋剤の種類によっては得られる組成物の硬化性が不十分となるおそれがあり、一方、上記範囲の上限を超えると、得られる組成物の貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0058】
また、本発明の組成物には、補強又は増量の目的で充填剤を用いてもよい。このような充填剤としては、例えば、石英、けいそう土、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化鉛、酸化鉄、カーボンブラック、ベントナイト、グラファイト、炭酸カルシウム、マイカ、クレイ、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、ガラス繊維、ポリ塩化ビニルビーズ、ポリスチレンビーズ、アクリルビーズ等を挙げることができる。
【0059】
上記充填剤を用いる場合、その使用量は特に制限されるものではないが、通常、(A)成分100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、特に5〜30質量部であることが好ましい。これらの充填剤を用いる場合、この充填剤の含有量が上記範囲の下限未満の量であると、硬化後のゴム物性が低下するおそれがあり、一方、上記範囲の上限を超えると、組成物の粘度が高くなりすぎて混合及び施工時の作業性が悪くなるおそれがある。
【0060】
なお、本発明の組成物には、必要に応じて可塑剤、顔料等の着色剤、難燃性付与剤、チキソトロピー剤、防菌・防バイ剤、接着向上剤等の所定量を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜添加配合することは何ら差し支えない。
【0061】
[室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造]
本発明で得られる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、予め、(A)成分と(D)成分とを常圧下又は減圧下で混合し、加熱下、好ましくは50℃以上で配合成分の熱分解温度未満、より好ましくは80〜300℃、特に好ましくは100〜200℃で、通常30分〜3時間程度加熱処理した後、残部の成分とを混合することによって製造する。残部の成分の混合は、通常80℃以下、好ましくは50℃以下、特に好ましくは室温(加熱も冷却も必要としない温度)で混合すればよい。(A)成分と(D)成分を混合し、熱処理する時に、(A)成分は全量使用してもよいし、その一部だけ使用してもよいが、半量以上使用することが好ましい。
予め(A)成分の一部又は全部と(D)成分とを加熱混合することにより、硬化塗膜の表面平滑性、経時での粘度安定化を達成することが可能となる。
【0062】
なお、(E)成分のブリードオイルは、(A)成分と(D)成分を熱処理後、通常80℃以下、好ましくは50℃以下、特に好ましくは室温(15〜45℃)で混合する。この混合は、上記の残部の成分と一緒に混合してもよいし、残部の成分混合の前に混合しても後に混合してもよい。
【0063】
本発明の製造方法で得られた組成物をコーティング材、塗料、特に防汚塗料等として用いると、調製・保管・貯蔵時の安定性にも優れ、得られる塗膜は、硬さ、引張強さ、伸び等のゴム物性にバランスよく優れ、しかも、防汚塗膜として用いると防汚性等も優れたものとなる。
特に、エポキシ塗料で被覆された基材やシリコーン系塗料で被覆された基材に対し好適に用いられ、優れた接着性を与える。
【0064】
なお、本発明の組成物は、25℃における粘度が200,000mPa・s以下、特に150,000mPa・s以下、とりわけ100〜100,000mPa・sと、塗装に適した粘度とすることができる。
【0065】
本発明の製造方法で得られた組成物は、船底塗料、発電所海水導入管用塗料、魚網塗料等の耐水性が必要なコーティング材料、LCDやPDP等の耐湿性が必要な防湿コーティング材料、電線と樹脂被覆間の接着シール、樹脂ケース、又は樹脂コネクタと電線の間の接着シール、減圧又は加圧チャンバーの接着シール等の用途に対する適合性が高く、とりわけ、船舶、港湾施設、ブイ、パイプライン、橋梁、海底基地、海底油田掘削設備、発電所の導水路管、養殖網、定置網等の水中構造物にコーティングすることができ、該組成物の硬化塗膜は、無毒であり、環境面において何らの問題もなく、かつ、長期間にわたって水生生物の付着・生育を防止し、優れた防汚性を示すものとなり得る。
【0066】
本発明の製造方法で得られた組成物の基材へのコーティング量としては特に限定されるものではないが、硬化膜厚が10〜1,000μm、特に50〜500μmとなる量とすることが好ましい。なお、本発明の製造方法で得られた組成物は、室温(常温)で塗布、硬化させればよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部は質量部を示したものであり、粘度は回転粘度計により測定した25℃での測定値を示したものであり、比表面積はBET法により測定したものである。
【0068】
[実施例1]
粘度が1,500mPa・sのα,ω−ジヒドロキシ−ジメチルポリシロキサン75部、比表面積が50m2/gの煙霧状シリカ(アエロジル50、日本アエロジル製商品名)15部を均一に混合し、150℃で2時間加熱減圧混合した。これに、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン10部と、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.3部を減圧下で均一になるまで混合、更に下記式(5)で示されるポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル15部を減圧下で均一になるまで混合して組成物を調製した。
【化9】


(式中、Meはメチル基であり、R6
【化10】


であり、R7は−C36O(C24O)9−COCH3であり、R8は−(CH27CH3である。また、各繰り返し単位は平均値を示し、これら繰り返し単位の配列はランダムである。)
【0069】
[実施例2]
実施例1において、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル15部を粘度が300mPa・sのジメチルジフェニルシリコーンオイル15部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0070】
[実施例3]
実施例1において、N−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.0部を追加したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0071】
[比較例1]
実施例1において、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.3部をN−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.0部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0072】
[比較例2]
比較例1において、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル15部を配合しないこと以外は、比較例1と同様にして組成物を調製した。
【0073】
[比較例3]
実施例2において、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.3部をN−2(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.0部に変更したこと以外は、実施例2と同様にして組成物を調製した。
【0074】
[比較例4]
実施例1において、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン10部をビニルトリス(イソプロペノキシ)シラン8部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0075】
<性能試験>
上記で得られた組成物を用いて、下記に示す試験方法により各種性能試験を行った。
[試験方法]
【0076】
(I)密着性:
エポキシ系防食塗料(膜厚200μm)を用いて予め塗装した被塗板を、23℃/50%RHの条件で7日間かけて硬化させた。硬化後の試験塗板に実施例及び比較例で調製した組成物を硬化膜厚が200μmになるように塗装して、23℃/50%RHの条件で7日間かけて硬化させた。JIS K 5600−5−6記載の付着性(クロスカット法)により評価を実施した。
【0077】
(II)密着性:
シリコーン系防汚塗料(膜厚200μm)を用いて予め塗装した被塗板を、23℃/50%RHの条件で7日間かけて硬化させた。硬化後の試験塗板に実施例及び比較例で調製した組成物を硬化膜厚が200μmになるように塗装して、23℃/50%RHの条件で7日間かけて硬化させた。JIS K 5600−5−6記載の付着性(クロスカット法)により評価を実施した。
【0078】
密着性評価(JIS参照)
0 はがれなし
1 小さなはがれ 5%未満
2 ややはがれ 5%以上15%未満
3 はがれ 15%以上35%未満
4 大はがれ 35%以上65%未満
5 はがれの程度が65%以上
【0079】
(III)防汚性:
エポキシ系防食塗料(膜厚200μm)を用いて予め塗装した被塗板に、実施例及び比較例で調製した組成物を硬化膜厚が200μmになるように塗装して試験塗板とした。このように作製した試験塗板を、23℃/50%RHの条件で7日間かけて硬化させた。硬化後の試験塗板を神奈川県海岸の沖合いに1.5mの深さで24ヶ月間にわたって懸垂試験を行った。フジツボ等の貝類、海藻類の付着状況を観察し、下記基準で評価した。
【0080】
付着状況の判別基準
A:海中生物の付着面積が0%
B:海中生物の付着面積が0%を超え10%未満
C:海中生物の付着面積が10%以上25%未満
D:海中生物の付着面積が25%以上50%未満
E:海中生物の付着面積が50%以上100%以下
【0081】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中にケイ素原子に結合したオキシム基を2個以上有するシラン及び/又はその部分加水分解縮合物:0.5〜30質量部、
(C)下記一般式(1)
【化1】


(式中、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子又は1価炭化水素基である。)
で示される1価の基を有する加水分解性有機ケイ素化合物又はその部分加水分解物:0.01〜10質量部、
(D)シリカ:0.5〜200質量部、
(E)ブリードオイル:1〜300質量部
を含有することを特徴とする基材との密着性に優れた室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
更に、(F)成分として、一級及び/又は二級アミノ基、又はエポキシ基を有するシランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(A)成分及び(D)成分を加熱混合後、(B)成分及び(C)成分を添加する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法。
【請求項4】
基材の最表層が、請求項1又は2記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物で被覆された物品。
【請求項5】
基材が、シリコーン系塗料又はエポキシ塗料で被覆された基材である請求項4記載の物品。
【請求項6】
水中構造物である請求項4又は5記載の物品。

【公開番号】特開2012−131898(P2012−131898A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284636(P2010−284636)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】