射出成形金型と射出成形方法
【課題】 樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、その意匠面を広い範囲に亘って意図した形状に仕上げることが可能な技術を提供する。
【解決手段】 射出成形金型31は、意匠面と非意匠面を有するとともに非意匠面からリブが突出している樹脂成形品を射出成形するためのものである。型31の内部には、リブ付き樹脂成形品に対応する形状のキャビティ27、28が形成されている。そして、射出成形金型31には、一端がリブ先端面を成形するキャビティ面に開口するとともに、他端が型の外部に連通する流路43、44が形成されている。
【解決手段】 射出成形金型31は、意匠面と非意匠面を有するとともに非意匠面からリブが突出している樹脂成形品を射出成形するためのものである。型31の内部には、リブ付き樹脂成形品に対応する形状のキャビティ27、28が形成されている。そして、射出成形金型31には、一端がリブ先端面を成形するキャビティ面に開口するとともに、他端が型の外部に連通する流路43、44が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の成形品を射出成形する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形金型の内部に形成されているキャビティに溶融樹脂を充填することによって、樹脂製品を射出成形する技術が知られている。キャビティに充填された樹脂が冷却されて凝固することによって、樹脂成形品が成形される。キャビティに充填された樹脂は、凝固するときに収縮する。樹脂が収縮してキャビティ面から剥離してしまうと、樹脂成形品を意図した形状に成形することができない。
樹脂成形品には、多くの場合、意図した形状に仕上げる必要がある意匠面(表面)と、仕上げが悪いことが許容される非意匠面(裏面)がある。意匠面は、表側キャビティ面によって成形される。非意匠面は、裏側キャビティ面によって成形される。
特許文献1には、射出成形金型のキャビティに溶融樹脂を充填した後に、裏側キャビティ面に開口する注入口から、樹脂成形品の非意匠面に向けて加圧流体を注入する技術が開示されている。注入口から加圧流体を注入すると、樹脂成形品の非意匠面と裏側キャビティ面との間に加圧流体が侵入することによって、樹脂成形品の非意匠面が裏側キャビティ面から剥離する。樹脂成形品の非意匠面が裏側キャビティ面から剥離すると、樹脂成形品の意匠面は表側キャビティ面に密着した状態を維持しながら凝固する(収縮する)。このため、樹脂成形品の意匠面が意図した形状に仕上げられる。
【0003】
【特許文献1】特開平10−58493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、裏側キャビティ面に開口する注入口から加圧流体を注入することによって樹脂成形品の非意匠面を裏側キャビティ面から剥離しようとする場合に、樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを備えていると、非意匠面と裏側キャビティ面との間を流れて欲しい加圧流体が前記リブの部分で遮断されてしまう。従って、樹脂成形品の非意匠面の広い範囲に加圧流体を注入することができず、樹脂成形品の非意匠面を裏側キャビティ面から完全に剥離することができなくなる。このため、意匠面を意図した形状に仕上げることできなくなってしまう。さりとて、注入口を多く設けると射出成形金型が複雑化され、実際的でない。
本発明は、その問題を解決するためになされたものであり、樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の射出成形金型は、意匠面と非意匠面と非意匠面から突出するリブを備えている樹脂成形品を射出成形するためのものである。本発明の射出成形金型は、樹脂成形品の意匠面を成形する表側型と、樹脂成形品の非意匠面を成形する裏側型とを備えている。
裏側型には、前記リブを成形する溝を有するキャビティ面が形成されている。裏側型はさらに流路を備えており、その流路の一端は前記キャビティ面の前記溝の底面に開口しており、その流路の他端は裏側型の外部に連通している。
この射出成形金型によれば、加圧流体をリブの先端面に向けて注入することができる。リブの先端面に向けて注入された加圧流体は、リブの先端面とそれに対応するキャビティ面(正確にいうとリブ先端面を成形する溝の底面)の間隙のみならず、リブの両側面とそれに対応するキャビティ面(溝の側面)の間隙に侵入し、さらには、リブの両サイドに位置する非意匠面と裏側キャビティ面の間隙にも広く侵入する。従って、広い範囲に亘って、樹脂成形品の非意匠面と裏側キャビティ面を剥離することができる。よって、樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能になる。
【0006】
上記の射出成形金型の場合、前記流路の一端が、前記キャビティ面の前記溝の底面を越える領域に開口していることが好ましい。この場合、流路がリブの両側面にも開口する。
流路がリブの両側面にも開口していると、リブの両側面とそれに対応するキャビティ面(溝の側面)の間隙、さらには、リブの両サイドに位置する非意匠面と裏側キャビティ面の間隙にも加圧流体が侵入しやすい。
【0007】
本発明で創作された射出成形方法は、意匠面と非意匠面と非意匠面から突出するリブを備えている樹脂成形品を射出成形する。その射出成形方法は、射出成形金型の内部に形成されているリブ付き樹脂成形品に対応する形状のキャビティに溶融樹脂を充填する工程と、射出成形金型の内側からリブ先端面に向けて加圧流体を注入する工程を備えている。
リブの先端面に向けて加圧流体を注入すると、リブの先端面とそれに対応するキャビティ面の間、ならびにリブの両側面とそれに対応するキャビティ面の間に流体が侵入するとともに、さらにリブの両サイドに存在する非意匠面と裏側キャビティ面の間にも広く加圧流体が侵入する。従って、広い範囲に亘って、樹脂成形品の非意匠面と裏側キャビティ面を剥離することができる。よって、樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、樹脂成形品の非意匠面を成形する側の型の内側からリブの先端面に向けて加圧流体を注入することによって、広い範囲に亘って、樹脂成形品の非意匠面と裏側キャビティ面を剥離することができる。樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好適な実施形態を例示する。
(形態1)請求項に記載の射出成形金型と、流路に流体を送り込む手段を備えている射出成形装置。
(形態2)流路の型内側の開口巾はリブ先端の成形面(キャビティ面に形成されている溝の底面)の幅よりも幅広である。
(形態3)リブ先端の成形面(溝の底面)の長手方向に沿って、断続的に加圧流体の注入口が形成されている。注入口には、溝の底面よりも広い幅を持つベント部材が設置されている。ベント部材は溝の両側に張出している。
(形態4)流路の開口とリブの先端面は非対称であり、リブの片側では流路が大きくはみ出し、リブの反対側では流路が小さくはみ出している。
【実施例】
【0010】
本発明の射出成形技術に係る一実施例について、図面を参照しながら説明する。
射出成形装置30(後述する)は、図1に示す樹脂成形品10を射出成形する。樹脂成形品10は、例えば、自動車のバンパーである。樹脂成形品10は、端部11、12が同方向に折れ曲がっている本体14と、本体14から端部11、12が向く方向に突出しているリブ15、16を備えている。樹脂成形品10は、表(おもて)面17と裏面18を持っている。表面17は意匠面である。意匠面とは、形状を精度良く仕上げる必要がある面である。樹脂成形品10の裏面18は非意匠面である。非意匠面とは、形状の精度が重視されない面である。リブ15、16は非意匠面から突出している。リブ15の、左右側面20と上下側面24と先端面21は、非意匠面である。リブ16の、左右側面22と上下側面25と先端面23も、非意匠面である。
【0011】
図2に示すように、射出成形装置30は、射出成形金型31と空気供給部32を備えている。射出成形金型31は、第1型33と第2型34を有しているとともに、型開閉機構(図示省略)に駆動されて開閉する。
図2は、射出成形金型31が閉じている状態を示している。射出成形金型31が閉じている状態では、第1型33と第2型34によって、本体キャビティ26と、リブキャビティ27、28が形成される。本体キャビティ26と、リブキャビティ27、28は連通しており、全体として1つのキャビティを形成している。詳しくは後述するが、本体キャビティ26とリブキャビティ27、28に溶融した樹脂が充填され、その樹脂が冷却して凝固することによって、リブを有する樹脂成形品10が成形される。
【0012】
図2に示すように、第1型33は、第1キャビティ面35を持っている。
図3は、図2に示したのとは異なる紙面直角方向位置における第2型34の断面図である。従って、図3には、図2に図示されている流路43、44(後述する)等が描かれていない。図3に示すように、第2型34は、第2キャビティ面36と、第3キャビティ面37と第4キャビティ面38と、第5キャビティ面39と、第6キャビティ面40を持っている。第1型33の第1キャビティ面35は、樹脂成形品10の表面17(図1参照)を成形する。第2型34の第2キャビティ面36は、樹脂成形品10の裏面18を成形する。第3キャビティ面37は、リブ15のリブ側面20を成形する。第4キャビティ面38は、リブ15のリブ先端面21を成形する。第5キャビティ面39は、リブ16のリブ側面22を成形する。第6キャビティ面40は、リブ16のリブ先端面23を成形する。リブ15の一方の側面24とその反対側の側面と、リブ16の一方の側面23とその反対側の側面も、リブキャビティ27、28を画定するキャビティ面(図示省略)によって成形される。第3キャビティ面37と第4キャビティ面38は、リブ15を成形する溝を形成している。第4キャビティ面38はその溝の底面であり、リブ15のリブ先端面21を成形する。第5キャビティ面39と第6キャビティ面40は、リブ16を成形する溝を形成している。第6キャビティ面40はその溝の底面であり、リブ16のリブ先端面23を成形する。
【0013】
図2に示すように、第1型33の第1キャビティ面35には、射出口41が開口している。射出口41と第1型33の外部は、ゲート42によって連通されている。ゲート42には、射出成形金型31の外部に設けられている射出ノズル(図示省略)から、溶融した樹脂が射出される。ゲート42に射出された樹脂は、射出口41からキャビティ26、27、28に充填される。
【0014】
第2型34には、流路43、44が形成されている。流路43の一端には、開口部45が設けられている。流路43の他端は、射出成形金型31の外部に配置されている流路50(後述する)に接続されている。流路44の一端には、開口部46が設けられている。流路44の他端も、流路50に接続されている。
開口部45には、ベント部材51が装着されている。開口部46には、ベント部材52が装着されている。開口部45と開口部46、ベント部材51とベント部材52は、同様の構成を有している。従って、以下においては、特に必要がない限り、開口部45と開口部46、ベント部材51とベント部材52を、開口部45とベント部材51で代表して説明する。
【0015】
図4に示すように、ベント部材51は、浅部53、中間部54、深部55を有している。以下においては、説明の便宜上、図4の上下をベント部材51の上下とする。中間部54の側面59は、浅部53の側面62と深部55の側面60よりも内側に配置されている。深部55には、上下方向に延びる溝56が4本形成されている。図4では、4本の溝56の内の2本のみが図示されている。残りの2つの溝56は、ベント部材51の裏側に隠れている。深部55の下部には、水平方向に延びるとともに十字状に交差する溝57が2本形成されている。溝56の下端と溝57の両端は、連通している。
【0016】
図5に示すように、ベント部材51は、深部55の側面60が開口部45の側面64に当接するとともに、底面61が開口部45の底面63に当接することによって、開口部45に対して正確に位置決めされている。ベント部材51は、ボルト(図示省略)によって第2型34に固定されている。開口部45の幅は、リブキャビティ27の先端の幅よりも大きく開口している。図6に示すように、開口部45の長さは、リブキャビティ27の長手方向(図6の紙面左右方向)の長さよりも短く開口している(図6では、ベント部材51の図示を省略している)。
図5に示すように、ベント部材51が開口部45に装着された状態で、ベント部材51の上面65と第2型34の面47との間に、間隙68が確保されている。図7に示すように、ベント部材51の浅部53の側面62と開口部45の側面64との間にも、浅部53を一巡する間隙66が確保されている。
【0017】
図2に示すように、空気供給部32は、流路50、フィルタ71、レギュレータ72、ソレノイドバルブ73、コントローラ74を有している。
流路50の一端70には、空気源(例えば、工場エアー)に接続されている。流路50の他端側は、二股に分岐しており、その一方の分岐が第2型34の流路43に接続されている。流路50の他方の分枝は、第2型34の流路44に接続されている。
フィルタ71、レギュレータ72、ソレノイドバルブ73は、流路50に介装されている。フィルタ71は、空気源から供給される空気に含まれる異物を除去する。レギュレータ72は、空気源から供給される空気の圧力を所定値に調圧(減圧)する。ソレノイドバルブ73は開閉弁である。ソレノイドバルブ73が開いているときには、流路50を介して第2型34の流路43、44に、レギュレータ72によって調圧された空気が供給される。開閉弁であるソレノイドバルブ73の代わりに、流量調整弁を用いることもできる。
ソレノイドバルブ73は、コントローラ74に接続されている。コントローラ74は、ソレノイドバルブ73や、射出ノズルや、型開閉機構の動作等を統合的に制御している。
【0018】
射出成形装置30を用いて樹脂成形品10を成形する工程について説明する。
図8に示すように、樹脂成形品10を成形するときには、まず型閉め工程を実行する。型閉め工程を実行すると、射出成形金型31が閉じられる。このときには、ソレノイドバルブ73は閉じている。よって、第2型34の流路43、44に空気が供給されない。
型閉め工程に続いて、射出工程を実行する。射出工程を実行すると、射出ノズルが射出する溶融した樹脂がゲート42を通過してキャビティ26、27、28に充填されてゆく。充填された樹脂は、キャビティ26、27、28内を流動する。以下においては、リブキャビティ27とリブキャビティ28における樹脂の状態を、リブキャビティ27で代表して説明する。
図9は、充填された樹脂72が、本体キャビティ26とリブキャビティ27を流動している途中の状態を示している。図10は、リブキャビティ27に樹脂72が充填された状態を示している。リブキャビティ27に樹脂72の充填が完了しても、本体キャビティ26には、樹脂72の充填が完了していない。間隙66、68の大きさは、樹脂72が入り込まない大きさに設定されている。樹脂72が間隙66、68に入り込まないのは、樹脂72が粘性を有しているからである。
【0019】
コントローラ74は、射出成形金型31を閉じた時点からの経過時間を計時している。コントローラ74は、計時した時間に基づいて、ソレノイドバルブ73に開弁信号を出力する。ソレノイドバルブ73に開弁信号を出力するのは、リブキャビティ27に樹脂72の充填が完了したと想定されるタイミングである。そのタイミングの設定にあたっては、リブキャビティ27内の圧力計測データや、樹脂72の流動解析結果等を用いる。コントローラ74が計時を開始するタイミングは、射出成形金型31が閉じた時点に限られず、例えば、射出ノズルが樹脂の射出を開始したタイミングであってもよい。
ソレノイドバルブ73が開くことによって、図8に示す空気注入工程が開始される。上述したように、リブキャビティ27に樹脂72の充填が完了しても、本体キャビティ26には樹脂72の充填が完了していない。このため、空気注入工程は、射出工程の途中から開始される。射出工程が終了してから、空気注入工程を開始することもできる。ソレノイドバルブ73が開くと、空気が空気供給部32の流路50を経由して第2型34の流路43、44に供給される。流路43に供給された空気は、図4に矢印79で図示した方向に沿ってベント部材51の溝57に流入する。溝57に流入した空気は、さらに溝56に流入する。溝56に流入した空気は、開口部45(図5参照)の側面64とベント部材51の中間部54の側面59との間に形成される空間と、間隙66と、間隙68を通過する。
【0020】
キャビティ26、27、28に充填された樹脂72は、温度が低下することによって収縮する。樹脂72が収縮すると、リブキャビティ27の第3キャビティ面37、37と樹脂72の側面78、78との間に僅かな隙間が生じる。その僅かな隙間に、間隙68を通過した空気が注入される。空気は、リブキャビティ27の長手方向にも流れながら、第3キャビティ面37、37と樹脂72の側面78、78との間に注入される。空気は、さらに流れて第2キャビティ面36と樹脂72の裏面75との間にも注入される。すると、図11に示すように、樹脂72の裏面75が第2キャビティ面36から剥離するとともに、第3キャビティ面37、37が樹脂72の側面78、78から剥離する。裏面75と第2キャビティ面36を、広い範囲に亘って剥離することができる。間隙66と間隙68を通過した空気は、ベント部材51が配置されていない部位では、第3キャビティ面38とリブの先端面の間にも注入される。空気は、リブキャビティ27の長手方向にも流れることから、リブキャビティ27の長手方向において長い範囲に亘って第3キャビティ面38とリブの先端面の間に空気が注入される。第2型34は、中子と型本体を有している。注入された空気は、中子と、型本体との間の隙間を通過して外部に排出される。空気以外の流体を注入することもできる。
樹脂72の裏面75は、樹脂72が凝固して樹脂成形品10に成形されると、その裏面18になる。樹脂72の側面78、78は、樹脂72が凝固して樹脂成形品10に成形されると、リブ側面20、20になる。
【0021】
図8に示すように、射出工程を終了してから、保圧工程に移行する。保圧工程では、ゲート42からキャビティ26、27、28に加える圧力がほぼ一定に維持される。本実施例では、保圧工程と空気注入工程を同時に実施する。同時に実施すると、保圧工程に必要な圧力を低減することができる。すなわち、空気注入工程を実施しないで保圧工程のみを実施する場合に必要とされる圧力をP1とし、保圧工程と空気注入工程を同時に実施する場合に必要とされる圧力をP2とすると、P2はP1よりも格段に小さくてよい。同様に保圧工程を実施しないで空気注入工程のみを実施する場合に必要とされる空気圧力をP3とし、保圧工程と空気注入工程を同時に実施する場合に必要とされる空気圧力をP4とすると、P4はP2よりも格段に小さくてよい。さらに、P2+P4も低くてよく、P2+P4は、P1またはP2のいずれよりも低くてよい。保圧工程と空気注入工程を同時に実施すると、射出成形型にかかる圧力を大幅に低減することができる。
保圧工程の開始とともに、冷却工程も開始する。冷却工程では、第1型33と第2型34に設けられている冷却通路(図示省略)を流通する冷却水によって、樹脂72が冷却される。樹脂72は、冷却されると凝固する。樹脂72は、凝固する過程で収縮する。
保圧工程が終了しても、空気注入工程と冷却工程は継続する。空気注入工程と冷却工程は、同時に終了する。空気注入工程の終了は、コントローラ74が閉弁信号をソレノイドバルブ73に出力することによって行われる。閉弁信号によってソレノイドバルブ73が閉じると、キャビティ26、27、28への空気の供給が停止する。
空気注入工程と冷却工程の終了後、型開き工程に移行して射出成形金型31を開く。最後に、樹脂成形品取出し工程を実行することによって、樹脂成形品10を射出成形金型31から取出す。
【0022】
樹脂72が冷却されて収縮する過程で、樹脂72の裏面75が第2キャビティ面36から剥離していない場合を想定する。樹脂72の裏面75と第2キャビティ面36が剥離していないと、樹脂72が収縮したときに、裏面75が第2キャビティ面36から剥離しようとするし、表面76も第1キャビティ面35から剥離しようとする。裏面75と第2キャビティ面36、および表面76と第1キャビティ面35には、樹脂72が収縮するときに、剥離に抵抗する力(密着状態を維持しようとする力)が作用する。従って、裏面75側は、表面76を第1キャビティ面35から剥離させようとする。表面76側は、裏面75を第2キャビティ面36から剥離させようとする。このため、樹脂72の表面76が第1キャビティ面35から剥離して凹むことによって、そこにヒケが発生してしまうことがある。上述した保圧工程では、樹脂72が収縮すると、それを補うようにゲート42から樹脂72が本体キャビティ26に押し込まれる。樹脂72が収縮した分が完全に補われれば、ヒケが発生することはない。しかしながら、ゲート42の射出口41から遠かったり、本体キャビティ26に狭隘な部位があったりすると、保圧圧力が充分に伝達されず、ヒケが発生してしまうことがある。
【0023】
本実施例の射出成形装置30のように、空気が注入され、樹脂72の裏面75が第2キャビティ面36から剥離する(図10参照)と、冷却されて凝固する過程で樹脂72が収縮しても、樹脂72の表面76と第1キャビティ面35は密着した状態を維持する。樹脂72の裏面75が第2キャビティ面36から剥離していれば、表面76を第1キャビティ面35から剥離させようとする力が作用しないからである。この技術によれば、樹脂成形品が保圧圧力を加えるのが有効でない部位を持っていても、ヒケの発生を防止することができる。
加圧された空気が第2キャビティ面36と樹脂72の裏面75との間に注入されると、樹脂72の表面76を第1キャビティ面35に押し当てる力が作用する。このことも、樹脂72の表面76と第1キャビティ面35が密着した状態を維持するのに寄与する。
第2型32に中子を設けると、第2型32の本体と中子によって第2キャビティ面36に段差が形成されることがある。第2キャビティ面36に段差が形成されていても、裏面75が第2キャビティ面36から剥離した状態で樹脂72が凝固すれば、段差の影響が樹脂成形品10の表面17に及ぶことがない。
第3キャビティ面37、37が側面78、78から剥離していると、樹脂72が収縮するときに、リブキャビティ27に入り込んでいる樹脂72が、リブキャビティ27から抜け出す方向に移動し易くなる。このため、リブ15、16の反対側の表面(意匠面)17にヒケが発生するのが防止される。
【0024】
図12に示すように、リブキャビティ27に対して、開口部45をオフセットすることもできる。開口部45をオフセットすることによって、樹脂72の一方の側面78側と、他方の側面78側に注入する空気量を調整することができる。樹脂成形品の形状に応じて、注入する空気が広がる範囲を自由に設定することができる。
【0025】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】樹脂成形品の斜視図。
【図2】射出成形装置の系統図。
【図3】第2型の断面図。
【図4】ベント部材の斜視図。
【図5】ベント部材が開口部に装着されている状態の部分断面図。
【図6】図5のVI−VI線断面図。
【図7】図5のVII−VII線断面図。
【図8】射出成形工程図。
【図9】本体キャビティとリブキャビティに樹脂が充填される途中の断面図。
【図10】リブキャビティに樹脂が充填された状態の断面図。
【図11】樹脂がキャビティ面から剥離した状態の断面図。
【図12】ベント部材が開口部に装着されている状態の部分断面図(変形例)。
【符号の説明】
【0027】
10:樹脂成形品
11、12:端部
14:本体
15、16:リブ
17:表面
18:裏面
20:リブ側面
21:リブ先端面
22:リブ側面
23:リブ先端面
24、25:端面
26:本体キャビティ
27:28:リブキャビティ
30:射出成形装置
31:射出成形金型
32:空気供給部
33:第1型
34:第2型
35:第1キャビティ面
36:第2キャビティ面
37:第3キャビティ面
38:第4キャビティ面
39:第5キャビティ面
40:第6キャビティ面
41:射出口
42:ゲート
43、44:流路
45、46:開口部
47:面
50:流路
51、52:ベント部材
53:浅部
54:中間部
55:深部
56、57:溝
59、60:側面
61:底面
62:側面
63:底面
64:側面
65:上面
66、68:間隙
70:一端
71:フィルタ
72:レギュレータ
73:ソレノイドバルブ
74:コントローラ
75:裏面
79:矢印
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の成形品を射出成形する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形金型の内部に形成されているキャビティに溶融樹脂を充填することによって、樹脂製品を射出成形する技術が知られている。キャビティに充填された樹脂が冷却されて凝固することによって、樹脂成形品が成形される。キャビティに充填された樹脂は、凝固するときに収縮する。樹脂が収縮してキャビティ面から剥離してしまうと、樹脂成形品を意図した形状に成形することができない。
樹脂成形品には、多くの場合、意図した形状に仕上げる必要がある意匠面(表面)と、仕上げが悪いことが許容される非意匠面(裏面)がある。意匠面は、表側キャビティ面によって成形される。非意匠面は、裏側キャビティ面によって成形される。
特許文献1には、射出成形金型のキャビティに溶融樹脂を充填した後に、裏側キャビティ面に開口する注入口から、樹脂成形品の非意匠面に向けて加圧流体を注入する技術が開示されている。注入口から加圧流体を注入すると、樹脂成形品の非意匠面と裏側キャビティ面との間に加圧流体が侵入することによって、樹脂成形品の非意匠面が裏側キャビティ面から剥離する。樹脂成形品の非意匠面が裏側キャビティ面から剥離すると、樹脂成形品の意匠面は表側キャビティ面に密着した状態を維持しながら凝固する(収縮する)。このため、樹脂成形品の意匠面が意図した形状に仕上げられる。
【0003】
【特許文献1】特開平10−58493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、裏側キャビティ面に開口する注入口から加圧流体を注入することによって樹脂成形品の非意匠面を裏側キャビティ面から剥離しようとする場合に、樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを備えていると、非意匠面と裏側キャビティ面との間を流れて欲しい加圧流体が前記リブの部分で遮断されてしまう。従って、樹脂成形品の非意匠面の広い範囲に加圧流体を注入することができず、樹脂成形品の非意匠面を裏側キャビティ面から完全に剥離することができなくなる。このため、意匠面を意図した形状に仕上げることできなくなってしまう。さりとて、注入口を多く設けると射出成形金型が複雑化され、実際的でない。
本発明は、その問題を解決するためになされたものであり、樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の射出成形金型は、意匠面と非意匠面と非意匠面から突出するリブを備えている樹脂成形品を射出成形するためのものである。本発明の射出成形金型は、樹脂成形品の意匠面を成形する表側型と、樹脂成形品の非意匠面を成形する裏側型とを備えている。
裏側型には、前記リブを成形する溝を有するキャビティ面が形成されている。裏側型はさらに流路を備えており、その流路の一端は前記キャビティ面の前記溝の底面に開口しており、その流路の他端は裏側型の外部に連通している。
この射出成形金型によれば、加圧流体をリブの先端面に向けて注入することができる。リブの先端面に向けて注入された加圧流体は、リブの先端面とそれに対応するキャビティ面(正確にいうとリブ先端面を成形する溝の底面)の間隙のみならず、リブの両側面とそれに対応するキャビティ面(溝の側面)の間隙に侵入し、さらには、リブの両サイドに位置する非意匠面と裏側キャビティ面の間隙にも広く侵入する。従って、広い範囲に亘って、樹脂成形品の非意匠面と裏側キャビティ面を剥離することができる。よって、樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能になる。
【0006】
上記の射出成形金型の場合、前記流路の一端が、前記キャビティ面の前記溝の底面を越える領域に開口していることが好ましい。この場合、流路がリブの両側面にも開口する。
流路がリブの両側面にも開口していると、リブの両側面とそれに対応するキャビティ面(溝の側面)の間隙、さらには、リブの両サイドに位置する非意匠面と裏側キャビティ面の間隙にも加圧流体が侵入しやすい。
【0007】
本発明で創作された射出成形方法は、意匠面と非意匠面と非意匠面から突出するリブを備えている樹脂成形品を射出成形する。その射出成形方法は、射出成形金型の内部に形成されているリブ付き樹脂成形品に対応する形状のキャビティに溶融樹脂を充填する工程と、射出成形金型の内側からリブ先端面に向けて加圧流体を注入する工程を備えている。
リブの先端面に向けて加圧流体を注入すると、リブの先端面とそれに対応するキャビティ面の間、ならびにリブの両側面とそれに対応するキャビティ面の間に流体が侵入するとともに、さらにリブの両サイドに存在する非意匠面と裏側キャビティ面の間にも広く加圧流体が侵入する。従って、広い範囲に亘って、樹脂成形品の非意匠面と裏側キャビティ面を剥離することができる。よって、樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、樹脂成形品の非意匠面を成形する側の型の内側からリブの先端面に向けて加圧流体を注入することによって、広い範囲に亘って、樹脂成形品の非意匠面と裏側キャビティ面を剥離することができる。樹脂成形品が非意匠面から突出するリブを持っていても、樹脂成形品の意匠面を意図した形状に仕上げることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の好適な実施形態を例示する。
(形態1)請求項に記載の射出成形金型と、流路に流体を送り込む手段を備えている射出成形装置。
(形態2)流路の型内側の開口巾はリブ先端の成形面(キャビティ面に形成されている溝の底面)の幅よりも幅広である。
(形態3)リブ先端の成形面(溝の底面)の長手方向に沿って、断続的に加圧流体の注入口が形成されている。注入口には、溝の底面よりも広い幅を持つベント部材が設置されている。ベント部材は溝の両側に張出している。
(形態4)流路の開口とリブの先端面は非対称であり、リブの片側では流路が大きくはみ出し、リブの反対側では流路が小さくはみ出している。
【実施例】
【0010】
本発明の射出成形技術に係る一実施例について、図面を参照しながら説明する。
射出成形装置30(後述する)は、図1に示す樹脂成形品10を射出成形する。樹脂成形品10は、例えば、自動車のバンパーである。樹脂成形品10は、端部11、12が同方向に折れ曲がっている本体14と、本体14から端部11、12が向く方向に突出しているリブ15、16を備えている。樹脂成形品10は、表(おもて)面17と裏面18を持っている。表面17は意匠面である。意匠面とは、形状を精度良く仕上げる必要がある面である。樹脂成形品10の裏面18は非意匠面である。非意匠面とは、形状の精度が重視されない面である。リブ15、16は非意匠面から突出している。リブ15の、左右側面20と上下側面24と先端面21は、非意匠面である。リブ16の、左右側面22と上下側面25と先端面23も、非意匠面である。
【0011】
図2に示すように、射出成形装置30は、射出成形金型31と空気供給部32を備えている。射出成形金型31は、第1型33と第2型34を有しているとともに、型開閉機構(図示省略)に駆動されて開閉する。
図2は、射出成形金型31が閉じている状態を示している。射出成形金型31が閉じている状態では、第1型33と第2型34によって、本体キャビティ26と、リブキャビティ27、28が形成される。本体キャビティ26と、リブキャビティ27、28は連通しており、全体として1つのキャビティを形成している。詳しくは後述するが、本体キャビティ26とリブキャビティ27、28に溶融した樹脂が充填され、その樹脂が冷却して凝固することによって、リブを有する樹脂成形品10が成形される。
【0012】
図2に示すように、第1型33は、第1キャビティ面35を持っている。
図3は、図2に示したのとは異なる紙面直角方向位置における第2型34の断面図である。従って、図3には、図2に図示されている流路43、44(後述する)等が描かれていない。図3に示すように、第2型34は、第2キャビティ面36と、第3キャビティ面37と第4キャビティ面38と、第5キャビティ面39と、第6キャビティ面40を持っている。第1型33の第1キャビティ面35は、樹脂成形品10の表面17(図1参照)を成形する。第2型34の第2キャビティ面36は、樹脂成形品10の裏面18を成形する。第3キャビティ面37は、リブ15のリブ側面20を成形する。第4キャビティ面38は、リブ15のリブ先端面21を成形する。第5キャビティ面39は、リブ16のリブ側面22を成形する。第6キャビティ面40は、リブ16のリブ先端面23を成形する。リブ15の一方の側面24とその反対側の側面と、リブ16の一方の側面23とその反対側の側面も、リブキャビティ27、28を画定するキャビティ面(図示省略)によって成形される。第3キャビティ面37と第4キャビティ面38は、リブ15を成形する溝を形成している。第4キャビティ面38はその溝の底面であり、リブ15のリブ先端面21を成形する。第5キャビティ面39と第6キャビティ面40は、リブ16を成形する溝を形成している。第6キャビティ面40はその溝の底面であり、リブ16のリブ先端面23を成形する。
【0013】
図2に示すように、第1型33の第1キャビティ面35には、射出口41が開口している。射出口41と第1型33の外部は、ゲート42によって連通されている。ゲート42には、射出成形金型31の外部に設けられている射出ノズル(図示省略)から、溶融した樹脂が射出される。ゲート42に射出された樹脂は、射出口41からキャビティ26、27、28に充填される。
【0014】
第2型34には、流路43、44が形成されている。流路43の一端には、開口部45が設けられている。流路43の他端は、射出成形金型31の外部に配置されている流路50(後述する)に接続されている。流路44の一端には、開口部46が設けられている。流路44の他端も、流路50に接続されている。
開口部45には、ベント部材51が装着されている。開口部46には、ベント部材52が装着されている。開口部45と開口部46、ベント部材51とベント部材52は、同様の構成を有している。従って、以下においては、特に必要がない限り、開口部45と開口部46、ベント部材51とベント部材52を、開口部45とベント部材51で代表して説明する。
【0015】
図4に示すように、ベント部材51は、浅部53、中間部54、深部55を有している。以下においては、説明の便宜上、図4の上下をベント部材51の上下とする。中間部54の側面59は、浅部53の側面62と深部55の側面60よりも内側に配置されている。深部55には、上下方向に延びる溝56が4本形成されている。図4では、4本の溝56の内の2本のみが図示されている。残りの2つの溝56は、ベント部材51の裏側に隠れている。深部55の下部には、水平方向に延びるとともに十字状に交差する溝57が2本形成されている。溝56の下端と溝57の両端は、連通している。
【0016】
図5に示すように、ベント部材51は、深部55の側面60が開口部45の側面64に当接するとともに、底面61が開口部45の底面63に当接することによって、開口部45に対して正確に位置決めされている。ベント部材51は、ボルト(図示省略)によって第2型34に固定されている。開口部45の幅は、リブキャビティ27の先端の幅よりも大きく開口している。図6に示すように、開口部45の長さは、リブキャビティ27の長手方向(図6の紙面左右方向)の長さよりも短く開口している(図6では、ベント部材51の図示を省略している)。
図5に示すように、ベント部材51が開口部45に装着された状態で、ベント部材51の上面65と第2型34の面47との間に、間隙68が確保されている。図7に示すように、ベント部材51の浅部53の側面62と開口部45の側面64との間にも、浅部53を一巡する間隙66が確保されている。
【0017】
図2に示すように、空気供給部32は、流路50、フィルタ71、レギュレータ72、ソレノイドバルブ73、コントローラ74を有している。
流路50の一端70には、空気源(例えば、工場エアー)に接続されている。流路50の他端側は、二股に分岐しており、その一方の分岐が第2型34の流路43に接続されている。流路50の他方の分枝は、第2型34の流路44に接続されている。
フィルタ71、レギュレータ72、ソレノイドバルブ73は、流路50に介装されている。フィルタ71は、空気源から供給される空気に含まれる異物を除去する。レギュレータ72は、空気源から供給される空気の圧力を所定値に調圧(減圧)する。ソレノイドバルブ73は開閉弁である。ソレノイドバルブ73が開いているときには、流路50を介して第2型34の流路43、44に、レギュレータ72によって調圧された空気が供給される。開閉弁であるソレノイドバルブ73の代わりに、流量調整弁を用いることもできる。
ソレノイドバルブ73は、コントローラ74に接続されている。コントローラ74は、ソレノイドバルブ73や、射出ノズルや、型開閉機構の動作等を統合的に制御している。
【0018】
射出成形装置30を用いて樹脂成形品10を成形する工程について説明する。
図8に示すように、樹脂成形品10を成形するときには、まず型閉め工程を実行する。型閉め工程を実行すると、射出成形金型31が閉じられる。このときには、ソレノイドバルブ73は閉じている。よって、第2型34の流路43、44に空気が供給されない。
型閉め工程に続いて、射出工程を実行する。射出工程を実行すると、射出ノズルが射出する溶融した樹脂がゲート42を通過してキャビティ26、27、28に充填されてゆく。充填された樹脂は、キャビティ26、27、28内を流動する。以下においては、リブキャビティ27とリブキャビティ28における樹脂の状態を、リブキャビティ27で代表して説明する。
図9は、充填された樹脂72が、本体キャビティ26とリブキャビティ27を流動している途中の状態を示している。図10は、リブキャビティ27に樹脂72が充填された状態を示している。リブキャビティ27に樹脂72の充填が完了しても、本体キャビティ26には、樹脂72の充填が完了していない。間隙66、68の大きさは、樹脂72が入り込まない大きさに設定されている。樹脂72が間隙66、68に入り込まないのは、樹脂72が粘性を有しているからである。
【0019】
コントローラ74は、射出成形金型31を閉じた時点からの経過時間を計時している。コントローラ74は、計時した時間に基づいて、ソレノイドバルブ73に開弁信号を出力する。ソレノイドバルブ73に開弁信号を出力するのは、リブキャビティ27に樹脂72の充填が完了したと想定されるタイミングである。そのタイミングの設定にあたっては、リブキャビティ27内の圧力計測データや、樹脂72の流動解析結果等を用いる。コントローラ74が計時を開始するタイミングは、射出成形金型31が閉じた時点に限られず、例えば、射出ノズルが樹脂の射出を開始したタイミングであってもよい。
ソレノイドバルブ73が開くことによって、図8に示す空気注入工程が開始される。上述したように、リブキャビティ27に樹脂72の充填が完了しても、本体キャビティ26には樹脂72の充填が完了していない。このため、空気注入工程は、射出工程の途中から開始される。射出工程が終了してから、空気注入工程を開始することもできる。ソレノイドバルブ73が開くと、空気が空気供給部32の流路50を経由して第2型34の流路43、44に供給される。流路43に供給された空気は、図4に矢印79で図示した方向に沿ってベント部材51の溝57に流入する。溝57に流入した空気は、さらに溝56に流入する。溝56に流入した空気は、開口部45(図5参照)の側面64とベント部材51の中間部54の側面59との間に形成される空間と、間隙66と、間隙68を通過する。
【0020】
キャビティ26、27、28に充填された樹脂72は、温度が低下することによって収縮する。樹脂72が収縮すると、リブキャビティ27の第3キャビティ面37、37と樹脂72の側面78、78との間に僅かな隙間が生じる。その僅かな隙間に、間隙68を通過した空気が注入される。空気は、リブキャビティ27の長手方向にも流れながら、第3キャビティ面37、37と樹脂72の側面78、78との間に注入される。空気は、さらに流れて第2キャビティ面36と樹脂72の裏面75との間にも注入される。すると、図11に示すように、樹脂72の裏面75が第2キャビティ面36から剥離するとともに、第3キャビティ面37、37が樹脂72の側面78、78から剥離する。裏面75と第2キャビティ面36を、広い範囲に亘って剥離することができる。間隙66と間隙68を通過した空気は、ベント部材51が配置されていない部位では、第3キャビティ面38とリブの先端面の間にも注入される。空気は、リブキャビティ27の長手方向にも流れることから、リブキャビティ27の長手方向において長い範囲に亘って第3キャビティ面38とリブの先端面の間に空気が注入される。第2型34は、中子と型本体を有している。注入された空気は、中子と、型本体との間の隙間を通過して外部に排出される。空気以外の流体を注入することもできる。
樹脂72の裏面75は、樹脂72が凝固して樹脂成形品10に成形されると、その裏面18になる。樹脂72の側面78、78は、樹脂72が凝固して樹脂成形品10に成形されると、リブ側面20、20になる。
【0021】
図8に示すように、射出工程を終了してから、保圧工程に移行する。保圧工程では、ゲート42からキャビティ26、27、28に加える圧力がほぼ一定に維持される。本実施例では、保圧工程と空気注入工程を同時に実施する。同時に実施すると、保圧工程に必要な圧力を低減することができる。すなわち、空気注入工程を実施しないで保圧工程のみを実施する場合に必要とされる圧力をP1とし、保圧工程と空気注入工程を同時に実施する場合に必要とされる圧力をP2とすると、P2はP1よりも格段に小さくてよい。同様に保圧工程を実施しないで空気注入工程のみを実施する場合に必要とされる空気圧力をP3とし、保圧工程と空気注入工程を同時に実施する場合に必要とされる空気圧力をP4とすると、P4はP2よりも格段に小さくてよい。さらに、P2+P4も低くてよく、P2+P4は、P1またはP2のいずれよりも低くてよい。保圧工程と空気注入工程を同時に実施すると、射出成形型にかかる圧力を大幅に低減することができる。
保圧工程の開始とともに、冷却工程も開始する。冷却工程では、第1型33と第2型34に設けられている冷却通路(図示省略)を流通する冷却水によって、樹脂72が冷却される。樹脂72は、冷却されると凝固する。樹脂72は、凝固する過程で収縮する。
保圧工程が終了しても、空気注入工程と冷却工程は継続する。空気注入工程と冷却工程は、同時に終了する。空気注入工程の終了は、コントローラ74が閉弁信号をソレノイドバルブ73に出力することによって行われる。閉弁信号によってソレノイドバルブ73が閉じると、キャビティ26、27、28への空気の供給が停止する。
空気注入工程と冷却工程の終了後、型開き工程に移行して射出成形金型31を開く。最後に、樹脂成形品取出し工程を実行することによって、樹脂成形品10を射出成形金型31から取出す。
【0022】
樹脂72が冷却されて収縮する過程で、樹脂72の裏面75が第2キャビティ面36から剥離していない場合を想定する。樹脂72の裏面75と第2キャビティ面36が剥離していないと、樹脂72が収縮したときに、裏面75が第2キャビティ面36から剥離しようとするし、表面76も第1キャビティ面35から剥離しようとする。裏面75と第2キャビティ面36、および表面76と第1キャビティ面35には、樹脂72が収縮するときに、剥離に抵抗する力(密着状態を維持しようとする力)が作用する。従って、裏面75側は、表面76を第1キャビティ面35から剥離させようとする。表面76側は、裏面75を第2キャビティ面36から剥離させようとする。このため、樹脂72の表面76が第1キャビティ面35から剥離して凹むことによって、そこにヒケが発生してしまうことがある。上述した保圧工程では、樹脂72が収縮すると、それを補うようにゲート42から樹脂72が本体キャビティ26に押し込まれる。樹脂72が収縮した分が完全に補われれば、ヒケが発生することはない。しかしながら、ゲート42の射出口41から遠かったり、本体キャビティ26に狭隘な部位があったりすると、保圧圧力が充分に伝達されず、ヒケが発生してしまうことがある。
【0023】
本実施例の射出成形装置30のように、空気が注入され、樹脂72の裏面75が第2キャビティ面36から剥離する(図10参照)と、冷却されて凝固する過程で樹脂72が収縮しても、樹脂72の表面76と第1キャビティ面35は密着した状態を維持する。樹脂72の裏面75が第2キャビティ面36から剥離していれば、表面76を第1キャビティ面35から剥離させようとする力が作用しないからである。この技術によれば、樹脂成形品が保圧圧力を加えるのが有効でない部位を持っていても、ヒケの発生を防止することができる。
加圧された空気が第2キャビティ面36と樹脂72の裏面75との間に注入されると、樹脂72の表面76を第1キャビティ面35に押し当てる力が作用する。このことも、樹脂72の表面76と第1キャビティ面35が密着した状態を維持するのに寄与する。
第2型32に中子を設けると、第2型32の本体と中子によって第2キャビティ面36に段差が形成されることがある。第2キャビティ面36に段差が形成されていても、裏面75が第2キャビティ面36から剥離した状態で樹脂72が凝固すれば、段差の影響が樹脂成形品10の表面17に及ぶことがない。
第3キャビティ面37、37が側面78、78から剥離していると、樹脂72が収縮するときに、リブキャビティ27に入り込んでいる樹脂72が、リブキャビティ27から抜け出す方向に移動し易くなる。このため、リブ15、16の反対側の表面(意匠面)17にヒケが発生するのが防止される。
【0024】
図12に示すように、リブキャビティ27に対して、開口部45をオフセットすることもできる。開口部45をオフセットすることによって、樹脂72の一方の側面78側と、他方の側面78側に注入する空気量を調整することができる。樹脂成形品の形状に応じて、注入する空気が広がる範囲を自由に設定することができる。
【0025】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】樹脂成形品の斜視図。
【図2】射出成形装置の系統図。
【図3】第2型の断面図。
【図4】ベント部材の斜視図。
【図5】ベント部材が開口部に装着されている状態の部分断面図。
【図6】図5のVI−VI線断面図。
【図7】図5のVII−VII線断面図。
【図8】射出成形工程図。
【図9】本体キャビティとリブキャビティに樹脂が充填される途中の断面図。
【図10】リブキャビティに樹脂が充填された状態の断面図。
【図11】樹脂がキャビティ面から剥離した状態の断面図。
【図12】ベント部材が開口部に装着されている状態の部分断面図(変形例)。
【符号の説明】
【0027】
10:樹脂成形品
11、12:端部
14:本体
15、16:リブ
17:表面
18:裏面
20:リブ側面
21:リブ先端面
22:リブ側面
23:リブ先端面
24、25:端面
26:本体キャビティ
27:28:リブキャビティ
30:射出成形装置
31:射出成形金型
32:空気供給部
33:第1型
34:第2型
35:第1キャビティ面
36:第2キャビティ面
37:第3キャビティ面
38:第4キャビティ面
39:第5キャビティ面
40:第6キャビティ面
41:射出口
42:ゲート
43、44:流路
45、46:開口部
47:面
50:流路
51、52:ベント部材
53:浅部
54:中間部
55:深部
56、57:溝
59、60:側面
61:底面
62:側面
63:底面
64:側面
65:上面
66、68:間隙
70:一端
71:フィルタ
72:レギュレータ
73:ソレノイドバルブ
74:コントローラ
75:裏面
79:矢印
【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠面と非意匠面とを有し、前記非意匠面から突出するリブを備える樹脂成形品を射出成形するための射出成形金型であり、
前記樹脂成形品の意匠面を成形する表側型と、
前記樹脂成形品の非意匠面を成形する裏側型とを備え、
前記裏側型に、前記リブを成形する溝を有するキャビティ面が形成されており、
前記裏側型はさらに流路を備えており、その流路の一端は前記キャビティ面の前記溝の底面に開口しており、その流路の他端は前記裏側型の外部に連通していることを特徴とする射出成形金型。
【請求項2】
前記流路の一端が、前記キャビティ面の前記溝の底面を越える領域に開口していることを特徴とする請求項1の射出成形金型。
【請求項3】
意匠面と非意匠面とを有し、前記非意匠面から突出するリブを備える樹脂成形品を射出成形する方法であり、
射出成形金型の内部に形成されているリブ付き樹脂成形品に対応する形状のキャビティに溶融樹脂を充填する工程と、
射出成形金型の内側からリブ先端面に向けて加圧流体を注入する工程と、
を備えていることを特徴とする射出成形方法。
【請求項1】
意匠面と非意匠面とを有し、前記非意匠面から突出するリブを備える樹脂成形品を射出成形するための射出成形金型であり、
前記樹脂成形品の意匠面を成形する表側型と、
前記樹脂成形品の非意匠面を成形する裏側型とを備え、
前記裏側型に、前記リブを成形する溝を有するキャビティ面が形成されており、
前記裏側型はさらに流路を備えており、その流路の一端は前記キャビティ面の前記溝の底面に開口しており、その流路の他端は前記裏側型の外部に連通していることを特徴とする射出成形金型。
【請求項2】
前記流路の一端が、前記キャビティ面の前記溝の底面を越える領域に開口していることを特徴とする請求項1の射出成形金型。
【請求項3】
意匠面と非意匠面とを有し、前記非意匠面から突出するリブを備える樹脂成形品を射出成形する方法であり、
射出成形金型の内部に形成されているリブ付き樹脂成形品に対応する形状のキャビティに溶融樹脂を充填する工程と、
射出成形金型の内側からリブ先端面に向けて加圧流体を注入する工程と、
を備えていることを特徴とする射出成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−83650(P2007−83650A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277502(P2005−277502)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300087396)株式会社ビーピーエイ (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(300087396)株式会社ビーピーエイ (10)
【Fターム(参考)】
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