説明

導電性低温焼成炭素

【課題】リチウムイオン電池の充放電時に高電流で電池内へ充電するあるいは高電流で外部に放電する必要がありそのためには電極活物質の電導度を向上させる必要がありしかも充放電操作を簡単な電圧操作で駆動させる必要がある。
【解決手段】キシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を不活性雰囲気内で550℃乃至950℃で焼成し粉砕して得られるカーボンを電極活物質として構成したリチウムイオン電池のカーボン電極活物質の内部抵抗は合成黒鉛系電極活物質の内部抵抗より充放電において低いために充放電時に伴う高電流の出入が可能となるとともに一定充放電容量範囲を決定した後充放電の制御を電圧により線形に制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池およびキャパシタ用炭素系活物質である低温焼成炭素に関するものであり、リチウムイオン電池は正極と負極と電解液と分離膜から成り立っている。当該発明はこれらの構成材料の中で負極に関するものである。負極は負極活物質と結着剤と銅箔から成り立つ。負極活物質は一般に黒鉛あるいはその他の炭素系あるいはその他の元素例えばシリコン等である。銅箔は集電体であり、電子を電池外に放出するかあるいは電子を電池外から電池に導入するためである。結着剤は一般にバインダーといわれており一種ののりであって負極活物質を集電体である銅箔に均一に塗布するために負極活物質に配合される。さらにこの結着剤を分散するための溶剤も配合される。当該発明は負極活物質であるその他の炭素に含まれる一般に低温焼成炭素と言われる炭素に関するものである。低温焼成炭素は普通フェノールフォルムアルデヒド樹脂あるいはキシレンフォルムアルデヒド樹脂等前駆体を窒素等不活性ガス雰囲気で500度乃至1000度以下で焼成し粉砕し粒径を均一化して得られる炭素系多孔質ナノカーボンである。当該発明はキシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を原料として窒素ガス雰囲気で500度乃至1000度以下で焼成して得られる低温焼成炭素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年エネルギー分野において温暖化防止が全地球規模で要望されており、炭酸ガスの削減が必須条件でありそのため発電技術および電力貯蔵技術さらに電力消費技術において効率の良い技術が求められている。これら各種の改善技術の中で当該発明は電力貯蔵技術に含まれる。各種電力貯蔵技術の中で当該発明はリチウムイオン電池の効率向上技術であり、リチウムイオン電池の正極活物質の効率向上は多くの研究がなされてきた。即ち一定の容量の電力を一定時間内に放出したりまたは導入したりするためには、例えば一定時間内に大量の電力すなわち電気容量を導入するすなわち充電するためには正極および負極活物質の導電性を高める必要があり、そうすれば一定時間内に電気容量を多く充電出来ることになる。従来、正極活物質は金属酸化物のリチウム塩でありしたがって電気絶縁性であるため各種の導電性物質例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラックその他のナノカーボンを正極活物質の表面に被覆し、あるいは正極活物質の作製過程の最終過程において窒素雰囲気中で各種原料を正極活物質と焼成またはその他の熱分解技術により正極活物質表面等にナノカーボンを被覆し、導電性を付与することによりリチウムイオン電池の正極として作動することが可能となる。一方負極活物質は従来天然講演、または天然黒鉛をさらに加工した天然系黒鉛、あるいは合成黒鉛系が主なる活物質であったため導電性を考慮することは必要なかった。
しかも、一定時間内に大容量の電力を貯蔵する電池に供給するまたは電池外に放出すること、言いかえればリチウムイオン電池を貯蔵電池として一定時間内に充電するまたは放電するという現象はリチウムイオン電池内の電極例えば負極活物質に電解液からリチウムイオンを注入するあるいはドープすることでありこの化学現象と同時に外部電導線を経由してくる電子をも負極活物質内に取り込む必要がありながら電圧操作と線形に駆動させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献1】特開2004−250275
【非特許文献1】

【非特許文献2】第48回電池討論会講演要旨2A10
【非特許文献3】第50回電池討論会講演要旨1B21
【非特許文献4】第46回電池討論会講演要旨2D22
【非特許文献5】第47回電池討論会講演要旨2D23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リチウムイオン電池負極活物質として今取り組むべき課題は、負極活物質の大容量化、導電性の付与、電圧に線形に応じてリチウムの挿入脱離(ドープとアンドープ)が行われること等である。比較されるべき基本の活物質は黒鉛である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
キシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を窒素ガス等不活性中で550℃乃至950℃で焼成して粉砕してなるリチウムイオン電池負極活物質は、すでに報告している結果であり黒鉛系負極活物質が360mAh/g乃至400mAh/gであるのに比較して600mAh/g乃至1200mAh/gでありさらに大容量化も可能であろう。特に各種の物性から優れていると考えられる焼成温度650℃のキシレンフォルムアルデヒド前駆体焼成物は初期充電容量が1176mAh/g初期放電容量が796mAh/gであって極めて大きな放電容量を表出している。従って残された導電性の付与および電圧に線形に応じる充電および放電を駆動させることが出来れば極めて好ましい。
発明者達は鋭意研究した結果、キシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を原料にして窒素ガス等不活性雰囲気で550℃乃至950℃で焼成してなる炭素活物質PPhSが従来の黒鉛系活物質より内部抵抗が低いことを発見した。さらにある種の物質あるいは天然物質たとえば蔗糖や樟脳をキシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体に配合すれば導電性は改良されることも判明した。
さらにキシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を窒素等不活性雰囲気中で550℃乃至950℃で焼成してなる炭素活物質の充放電において初期充電および初期放電を終了させた後の充電および放電はほぼクーロン効率100%でありかつ充電と放電にともなうヒステリシス現象は一定容量範囲でほぼ解消されていることを発見した。
この現象から充電および放電を駆動させる操作において電圧に応じた充電および放電が可能になることを発見した。すなわち充電および放電の負極活物質容量が外部の電圧操作に線形に対応しているということである。
【発明の効果】
【0005】
キシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を窒素ガス雰囲気中で650℃で焼成し粉砕して得られた試料PPhS650の85重量部を導電剤アセチレンブラックABの5重量部と結着剤PVDFの10重量部とを溶剤N−メチルピロリドン(NMP)を使用して塗料を作製し、銅箔に塗布し円形にくり抜きプレスして作用極とした。対極をリチウム金属、電解液を1molLiPF/EC−DMC(1:2)1Lとしてコインセルを作製した。
開始電圧3.5V,終止電圧0.001V,定電流0.4mA/cmで充放電を行った。
充放電サイクル試験の結果、初期充電容量は1176mAh/g,初期放電容量は796mAh/g二回目の充電容量は783mAh/g,二回目の放電容量は779mAh/gであり二回目クーロン効率は99.5%であった。三回目以降の充電容量はほぼ二回目の充電容量であり、三回目以降の放電容量はほぼ充電容量に同じであった。すなわち二回目以降の充放電クーロン効率はほぼ100%となり、しかもヒステリシス現象は極めて低減されており一定容量範囲でほぼ電圧に線形に対応していた。
さらに同一条件でコインセルを作製し電流休止法による内部抵抗を測定した。
開始電圧3.0V,終止電圧0.001V,充電および放電の時間は5分間、電流値は0.8mA/断面積2cmとして電流休止は1分で60回繰り返した。
比較するために、活物質に合成系黒鉛MCMB6−28の85重量部と導電剤ABの5重量部と結着剤PVDFの10重量部を溶剤Nメチルピロリドンを使用して塗料化し銅箔に塗布して円形に打ち抜きプレスして作用極とした。対極をリチウム金属とし、電解液を1molLiPF/EC−DMC(1:2)1Lとしてコインセルを作製した。開始電圧3.0V,終止電圧0.001V,充電および放電の時間は5分間、電流値は0.8mA/断面積2cmとして電流休止は1分で60回繰り返した。
その結果、PPhS650の内部抵抗は充電時に200ohm乃至100ohmであった。これに比較してMCMBの内部抵抗は280ohm乃至260ohmであった。PPhS650の内部抵抗は放電時に50ohmから400ohmに上昇し150ohmに戻った。これに比較してMCMBの内部抵抗は、260ohmを維持した。
【発明を実施するための形態】
【0006】
各種炭素原料の中で容易に入手できることが可能しかも品質が安定している原料として合成高分子でありかつ難黒鉛化素材であるキシレンフォルムアルデヒド前駆体を選定した。キシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体は本来熱硬化樹脂であるため加熱すれば架橋構造が構成されるため極めて強固な樹脂塊となるが窒素ガス等雰囲気において550℃乃至950℃で焼成するため高温による熱分解により水分(HO)、メチレン架橋(−CH−),水酸基(OH),カルボン酸基(−COOH)、カルボニル基(=C=0)が低減して炭素(C)骨格と末端の水素(H)が残る周端水素含有多環状炭化水素となる。
ただし、焼成温度により水素原子と炭素原子比(H/C)は変化し当然高温化するほどこのH/Cは低下する。従来各種焼成温度を変化させた結果、700℃程度を境にして結晶化による電気伝導性は上昇することは確認しているもののリチウムイオン電池の負極活物質としてのリチウムイオンのドープ量やノンドープ量すなわちリチウムイオン電池の充放電容量の高い条件、比表面積、細孔分布等を考慮して焼成温度を650℃に設定しているが、この焼成温度に限定されるものではない。
【0007】
敢えて電気伝導性の低い650℃焼成を選定してキシレンフォルムアルデヒド前駆体焼成により得られた試料PPhS650を標準試料とした。比較試料として合成系黒鉛であるMCMB6−28を選定した。さらに導電性を高めるために導電材アセチレンブラックABを選定してリチウムイオン電池構成する負極作製に配合した。しかし、比較試料として合成黒鉛系のMCMB6−28を選定したがMCMB6−28に限定されるものではない。また導電剤はアセチレンブラックABに限定されるものではない。
【0008】
キシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を窒素雰囲気内で650℃焼成した負極活物質を試験するための電解液は1molLiPF/EC−DMC(1:2)としたが特に電解液は限定されるものではない。
充放電実験ならびに電流休止法による充放電実験条件は以下の条件であるが特にこの条件に限定されるものではない。充放電条件は開始電圧3.5V,終止電圧0.001V,定電流0.8mA/断面積(2cm)であり、電流休止法による内部抵抗の条件は開始電圧3.0V,終止電圧0.001V,充電および放電の時間は5分間で電流値は0.8mA/断面積(2cm)であり電流休止は1分で60回繰り返した。
【実施例1】
【0009】
キシレンとフォルムアルデヒド縮合物であるキシレン樹脂前駆体(日本カーバイド社製)を窒素ガス雰囲気で先ず200℃で脱水させその後650℃で焼成した後、粉砕して試料PPh650を得た。試料PPhS650の0.15gに導電剤アセチレンブラック0.016g,結着剤PVDFの0.036および溶剤N−メチルピロリドン0.2CCを混合し、得られた塗料状液体を銅箔の上に塗布した。PPhS650を塗布した銅箔を約170℃で乾燥させたのち、円形に打ち抜き断面積が約2cmの銅箔とカーボンとの貼り合せたものを得た。この円形板を10MPaの圧力でプレスした。プレスを元にもどし、別に準備したスクリューセルのSUS製下基盤の中心にピンセットで設置し、上にSUS板を置き、その上からSUS製上基盤を置いてネジを絞めて測定用セルを作製した。抵抗測定機のプラス極とマイナス極をスクリューセル上下に接続して抵抗値を直接測定した。その後抵抗測定機のプラス極とマイナス極をスクリュ−セルの上下を反対に接続し抵抗値を測定しいずれの抵抗測定値も同一であることを確認した。さらに抵抗値測定後に銅箔上のPPhS650塗布径およびPPhS650の膜厚を測定した。電導度σは公式(1/R)(L/S)により計算して算出した。
ここに、Rは測定した抵抗値(ohm)、LはPPhS650の膜厚(cm)、SはPPhS650の断面積(cm)を示す。測定し計算した結果電導度(PPhS650)は3.3×10−4S/cmであった。
【実施例2】
【0010】
〔実施例1〕と同様にキシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体3重量部に対し蔗糖(C122211)2重量部を配合した原料を〔実施例1〕と同一条件で焼成し粉砕し試料を得た。実験条件は原料が〔実施例1〕と異なる外は〔実施例1〕と同一である。
得られた電導度は4.3×10−4S/cmであった。
【実施例3】
【0011】
〔実施例1〕と同様にキシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体4重量部に対し樟脳(Camphor,C1016)1重量部を配合した原料を〔実施例1〕と同一条件で焼成し粉砕し試料を得た。実験条件は原料が〔実施例1〕と異なる外は〔実施例1〕と同一である。得られた電導度は7.0×10−4S/cmであった。
【比較例1】
【0012】
合成系黒鉛MCMB6−28の85重量部と導電剤アセチレンブラック5重量部と結着剤PVDFの10重量部を配合して溶剤N−メチルピロリドンを使用して塗料を作製し銅箔上に塗布し〔実施例1〕と同様に円形試料を作製して電導度を測定した。
電導度は20.3×10−4S/cmであった。
【実施例4】
【0013】
〔実施例1〕と同様に作製したリチウムイオン電池用負極すなわち(PPhS650/導電剤AB/結着剤PVDF)/銅箔(Cu))を作用極とし、リチウム金属を対極とし、電解液1molLiPF/(EC−DMC)1Lとしてコインセルを構成し、上限電圧3.0V,下限電圧0.001V、充電および放電の時間は5分間で電流値は0.8mAとして電流休止は1分で60回繰り返した。その結果、この電流休止法で測定した抵抗値は、充電開始時に200ohmであり次第に抵抗値は降下して100ohmであった。
一方放電開始時には50ohmであり次第に上昇し400ohmまで上昇しその後150ohmまで降下した。
【比較例2】
【0014】
比較例1と同様に作製したリチウムイオン電池用負極すなわち(MCMB6−28/導電剤AB/結着剤PVDF/銅箔(Cu))を作用極とし、リチウム金属を対極とし、電解液1molLiPF/(EC−DMC)1Lとしてコインセルを構成し、上限電圧3.0V,下限電圧0.001V,充電および放電の時間は5分間で電流値は0.8mAとして電流休止は1分で60回繰り返した。その結果、この電流休止法で測定した抵抗値は充電開始時に280ohmでありその後わずかに降下して260ohmであった。
一方、放電時には260ohmでありその後も260ohmを維持した。
【実施例5】
【0015】
実施例1と同様に作製されたPPhS650の85重量部と導電剤アセチレンブラックABの5重量部と結着剤PVDFの10重量部および溶剤N−メチルピロリドンを配合して塗料を作製し銅箔に塗布した。電解液に1mol LiPF/EC−DMC(1:2)1Lを使用し開始電圧3.5V,終止電圧0.001V,定電流0.4mA/cmで充放電サイクル試験を行い初期充電容量1176mAh/g,初期放電容量796mAh/g、二回目充電容量783mAh/g.二回目放電容量779mAh/g,を得た。その後の充電容量および放電容量は二回目充電容量および二回目放電容量に同じであった。すなわち、当該発明のPPhS650を使用して予めリチウム(Li)をプリドープするかもしくは初期充電および放電を終了させた後、このリチウムイオン電池を充放電すればその充電放電はヒステリシスが少なくその充放電容量は790mAh/gであった。このことから一定容量範囲を考慮すれば充電電圧および放電電圧に線形に容量が充放電可能であることがは判明した。
【産業上の利用可能性】
【0016】
以上説明したように本発明によればリチウムイオン電池により電力を貯蔵するため負極活物質としてキシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を原料とする低温焼成炭素で構成したリチウムイオン電池の放電および充電時における内部抵抗は合成黒鉛の内部抵抗より低くそのため短時間に大電流を外部に供給出来および短時間に大電流を外部から電池へ充電が可能であり、しかも一定容量範囲を考慮すれば充電電圧および放電電圧に線形に制御できる二次電池として産業上の利用は有望である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシレンフォルムアルデヒド樹脂前駆体を原料として不活性雰囲気内で焼成してなるリチウムイオン電池用電極活物質
【請求項2】
焼成温度が550℃乃至950℃である〔請求項1〕
【請求項3】
原料に樟脳を添加した〔請求項1〕
【請求項4】
原料に蔗糖を添加した〔請求項1〕
【請求項5】
〔請求項1〕を電極活物質として構成されるリチウムイオン電池
【請求項6】
〔請求項1〕を電極活物質として構成されるリチウムイオン電池を予め初期充放電終了させた後に一定充放電容量範囲を決めてから充電電圧および放電電圧を操作させることにより当該リチウムイオン電池を充放電駆動させる方法
【請求項7】
〔請求項1〕を電極活物質として構成されるリチウムイオン電池を予めリチウムのプリドープを終了させ放電させた後に一定充放電容量範囲をきめてから充電電圧および放電電圧を操作させることにより当該リチウムイオン電池を充放電駆動させる方法

【公開番号】特開2013−84532(P2013−84532A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235439(P2011−235439)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(502435889)学校法人長崎総合科学大学 (20)
【Fターム(参考)】