説明

弾性波定在波法による磁気歪みの測定方法及びその方法を用いた応力検査方法

【課題】磁性体内に生じさせた弾性定在波を利用して、正確、且つ、簡便に磁性体の任意の部位の磁気歪みを求めることができる、超音波定在波法による磁気歪み測定方法、及び、その方法を用いた応力検査方法を提供する。
【解決手段】磁性体10に弾性波を伝播させると共に反射させて磁性体10中に定在波を形成して振動磁界を発生させて、この振動磁界から磁性体内に生じている磁気歪みを計測する。予め、定在波が形成された磁性体10の所定の位置で外部磁界HDCを変化させて誘導起電力及び磁気歪みの測定を行って、実効磁界に対する誘導起電力及び磁気歪みの関係を較正データとして求めておく。そして定在波が形成された磁性体10に一定の外部磁界HDCを印加し、この磁性体の弾性波伝播方向に沿って各部における振動磁界による誘導起電力の測定を行い、予め求めておいた較正データに基いて、磁性体各部における磁気歪みを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体に弾性波の定在波を発生させることにより、磁性体各部における磁気歪みを計測する、弾性波定在波法による磁気歪み測定方法、及びこの磁気歪み測定法を用いた応力検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄棒に代表される磁性体棒は、機械的強度が大きく、且つ、低コストであることから、例えば、電車の車軸等の極めて機械的負荷が大きい部分に使用されている。しかしながら、良く知られているように、機械的負荷が大きい状態で使用し続けると、金属疲労が進行し、突然の破断等の破壊を招く。このため、磁性体棒の疲労の程度を非破壊で検査する方法が必要である。
従来のこの種の検査方法には、超音波パルス法がある。また、超音波は縦波、すなわち伸縮波であるので、検査対象が鉄鋼のような磁性を持つ構造物であれば、超音波による伸縮箇所には磁気歪みが生じ、この磁気歪みによる逆磁歪効果に基づいて異方性磁界が生じる。この現象に着目し、磁性体の一端に配置した弾性波発生器からの入射弾性波と磁性体の他端からの反射弾性波とで定在波を形成し、該定在波の節に応力が生じることを利用してこの応力の逆磁歪効果で発生する振動する異方性磁界から磁性体の磁気歪みを測定する方法が知られている(特許文献1や非特許文献1)。
また、鋼板の表面にバイアス磁界を印加すると共にこのバイアス磁界と同一平面内で直交し互いに逆行するように誘導磁界を印加させることで磁歪を生じさせ、この磁歪により生じる表面波の二方向への伝播速度の違いから、内部応力を評価することも、知られている(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−287565号公報
【特許文献2】特開平7−286916号公報
【非特許文献1】籏福 寛、電気学会論文誌A、121巻8号、pp739〜744、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、超音波パルス法は、疲労が進み、ひび割れが生じた場合には有効であるが、ひび割れが生じてから、交換や補修をするのでは、安全が確保できない場合があるので十分な検査方法ではないという課題がある。
また、特許文献2の方法は、ひび割れが生じる直前の状態である内部応力の発生を検査できるが、誘導磁界により表面波を発生させるため、その発生効率が良くない。また、疲労した被測定物の残留応力を測定する場合には、疲労によって被測定物の硬度が高くなり、硬度が高くなると一般に弾性率が大きくなるために表面波の伝搬速度が大きくなり、また、疲労個所は表面全体に亘って一様ではないので、内在する応力のみに基づく表面波の二方向への伝播速度の違いを正確に測定することは困難であり、この測定方法では正確に測定することが困難であるという課題がある。
さらに、特許文献1に開示された方法では、内在する応力の大きさの異なる複数の磁性体を用いて各誘導起電力曲線を測定しておく必要があり、測定に手間がかかる。
【0005】
このような状況の下、本発明者は、特許文献1および非特許文献1に開示した技術内容に更に改良を加え、磁性体棒の長手方向に沿って各部の磁気歪みを容易に算出できる、弾性波定在波法による磁気歪みを着想するに至った。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、磁性体内に生じさせた弾性定在波を利用して、正確、且つ、簡便に磁性体の任意の部位の磁気歪みを求めることができる、超音波定在波法による磁気歪み測定方法、及び、その方法を用いた応力検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の弾性波定在波法による磁気歪み測定方法は、被測定磁性体の長手方向に沿って一定のバイアス磁界を印加した状態で、磁性体に弾性波を伝播させると共に反射させて磁性体中に定在波を形成して振動磁界を発生させ、上記定在波の節の位置の振動磁界を誘導起電力として測定して実効磁界を計測する方法において、上記定在波が形成された磁性体の上記定在波の節の位置で誘導起電力を測定し、この誘導起電力と、予め測定した誘導起電力と実効磁界の関係、及び予め測定した磁気歪みと実効磁界の関係とから、この節の位置の磁気歪みを求めることを特徴とする。
【0008】
この方法によれば、磁性体の長手方向に沿って印加した所定のバイアス磁界における、磁性体の任意の位置の磁気歪み量を測定することができる。すなわち、弾性波定在波法により測定される誘導起電力は、被測定磁性体の形状に基づく反磁界効果に影響されないので、誘導起電力と予め測定した誘導起電力と実効磁界の関係とから、被磁性体に形成された定在波の節の位置に実際に印加されている磁界、すなわち、実効磁界を求めることができ、また、磁性体に印加する磁界強度と磁気歪みの関係から、磁性体の節の磁気歪み量がわかる。また、弾性波の周波数を選択することにより、定在波の節の位置を選択できるので、任意の位置の磁気歪み量を測定することができる。
【0009】
また、本発明の応力検査方法は、初期状態の磁性体と、機械的ストレスを印加して疲労状態にある該磁性体とについてそれぞれ、上記弾性波定在波法による磁気歪み測定方法を用いて、磁性体の長手方向の磁気歪み分布を測定し、初期状態の磁性体の磁気歪み分布と疲労状態の磁性体の磁気歪み分布とを比較して、疲労状態の程度を判定することを特徴とする。
【0010】
この検査方法によれば、正確に磁性体の疲労状態を判定できる。すなわち、磁性体に機械的ストレスを印加すると、磁性体に応力が内在するようになり、応力が一定値を越えると破断等の破壊が生じ易くなるので、磁性体に内在する応力を測定すれば、磁性体の疲労状態を破壊前に知ることができる。磁性体に応力が内在すると、磁気歪み特性が変化するので、磁性体に磁場を印加し、磁性体全体の磁気歪みによる伸縮を測定することによって疲労度を判定できる。しかしながら、磁性体に印加されるストレスの種類によっては、磁性体の部位によって応力の方向が異なり、磁性体全体の伸縮が必ずしも疲労度に比例しない場合がある。
そこで、本発明の検査方法は、磁性体全体の磁気歪みによる伸縮ではなく、磁性体の各部位の磁気歪みによる伸縮、即ち、磁性体の磁気歪みの分布を比較して疲労度を検査するので、内部内在する応力の方向が異なる場合でも、正確に検査できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の方法は、特許文献1に記載された、被測定磁性体の長手方向に沿って一定のバイアス磁界を印加した状態で、磁性体に弾性波を伝播させると共に反射させて磁性体中に定在波を形成して振動磁界を発生させ、上記定在波の節の位置の振動磁界を誘導起電力として測定して実効磁界を計測する方法を用いるものであるので、初めにこの方法を説明する、なお、詳しくは特許文献1を参照していただきたい。
応力σを磁性体に加え、磁性体に機械的歪みεを加えると、εは磁気歪みλに等価な歪みを伴い、その結果、異方性磁界He が生じる。この効果は、磁界を印加して磁性体を機械的に歪ませることの逆であるので、逆磁歪効果という。
次に異方性磁界He の大きさと方向を説明する。応力σの印加により、磁性体の応力場には、磁気弾性エネルギーKe が発生する。この効果は、逆磁歪効果と呼ばれ、等方性磁性体の場合には、(1)式で表される。
e =−(3/2)λσcos2 φ (1)
ここで、λは磁気歪み量、φは応力σと磁化Iとのなす角である。異方性磁界He の大きさは次式によって表される。
e =2Ke /I (2)
異方性磁界He の方向は、(1)式の磁気弾性エネルギーKe が最小となる方向であり、単位体積当たりの磁気モーメント、すなわち磁化(磁気モーメント)Iが、Ke が最小となる方向に回転し、回転した磁化Iの方向が異方性磁界He の方向となる。
【0012】
図1は、磁性体にバイアス磁界を印加し、磁性体の一端から弾性波を伝播させたときの現象を説明するため図である。図において、磁性体10の一端11に弾性波発生器12が配置され、磁性体10の他端13には弾性波14を吸収する吸収体15が配置されている。図中の矢印は磁性体10の磁気モーメント16を表しており、概略バイアス磁界HDCの方向を向いている。
【0013】
弾性波発生器12から弾性波14を発生させると、弾性波14は磁性体中を伝搬する。図において、14aは伝搬する弾性波の張力部分を、14bは圧力部分をそれぞれ示している。
応力σが正の場合(張力が働いて伸びている状態の応力)に磁気歪みが正となる磁性体(逆磁歪効果による磁界が増える磁性体)、すなわち磁気歪み定数が正の磁性体の場合には、上記(1)式より、磁気弾性エネルギーKe が最小となる応力σと磁気モーメント16とのなす角φは、φ=0,またはπであるから、図1の14aに示したように、磁気モーメント16は弾性波の伝搬方向に平行となる。同様に、応力σが負の場合(圧力が働いて縮んでいる状態の応力)に磁気弾性エネルギーKe が最小となる角φは、φ=π/2,または3π/2であるから、図1の14bに示したように、磁気モーメント16は弾性波の伝搬方向に垂直になる。弾性波14は伝搬するから、磁性体10の一点において磁気モーメント16が平行及び垂直方向に時間的に振動することになり、磁性体中に振動磁界を発生させることができる。
また、磁気歪み定数が負の磁性体の場合には、応力σが負の部位の磁気モーメントは平行になり、応力が正の部位の磁気モーメントは垂直になる。
【0014】
図1において、17は磁性体10の一点に固定した、磁性体を取り巻いて形成したコイルであり、弾性波14の伝搬に伴って、逆磁歪効果による振動磁界が発生し、この振動磁束がコイル17に鎖交するので誘導起電力が発生し、磁性体中に発生した振動磁界振幅、すなわち、異方性磁界He を測定することができる。すなわち、誘導起電力は、上記(3)式に示した異方性磁界He と弾性波の周波数に比例するから、測定した誘導起電力と弾性波の周波数とから異方性磁界He を知ることができる。
【0015】
ところが、第1の問題として、弾性波は伝搬に伴い減衰し、磁性体の各部位に同等の応力を印加することができないことになる。
また、第2の問題として、誘導起電力には、磁束の時間変化に基づく起電力以外に、磁場勾配中を磁界源が動くことに基づく起電力が加算され、磁束の時間変化に基づく起電力のみを測定できない。すなわち、コイル17に誘導される起電力eは、Φをコイル17に鎖交する磁束、tを時間、xを位置座標、vをコイル中を振動磁界が通過する速度とすると、
e=−(∂Φ/∂t)−(∂Φ/∂x)・v (3)
で表される。磁性体10に外部磁界を印加すると、磁性体端面に磁極が発生し、反磁界効果によって磁性体端面近傍では磁束勾配(∂Φ/∂x)が存在し、この磁束勾配(∂Φ/∂x)が未知であるため、起電力eから磁束Φを求めることができず、従って、磁性体端面近傍では正確な実効磁界が求められない。
これらの問題は次のようにすることで解決される。
【0016】
図2は、磁性体中に弾性波を共振させて定在波を形成する構成を示す図である。図2(a)は、測定系の構成を示し、磁性体10の一端11には弾性波発生器12が配置され、磁性体10の他端13には先端が針状の機械的固定端30が取り付けられている。図中、符号31は弾性波発生器12によって発生した入射弾性波を表し、符号32は磁性体の他端13で反射した反射弾性波を表している。
この構成によれば、磁性体10の一端11及び他端13は弾性波の自由端として働き、一端11及び他端13が腹となる定在波が形成される。コイル17は磁性体10を取り巻いて構成されており、コイル17を弾性波の進行軸に沿って移動し、磁性体10中に生じた複数の定在波の節に発生する逆磁歪効果による異方性磁界に基づく誘導起電力を測定する。
【0017】
図2(b)は、図2(a)の構成において形成される定在波を模式的に示したものであり、縦線33は原子面を表し、縦線33の密度が大きい部位は、定在波から圧縮力を受け磁性体10が縮んでいることを表し、縦線33の密度が小さい部位は、定在波から張力を受け磁性体が伸びていることを表す。定在波の腹に位置する原子は、一斉に同一方向に変位するため応力は生じない。図2(b)にC.N.(compression node)及びT.N.(tensile node)で示すように、磁性体が圧縮される節(C.N.)と引っ張られる節(T.N.)が交互に並ぶ。
図2(c)は定在波によって発生する応力σの磁性体10中の分布を示したものであり、正の領域は圧縮応力、負の領域は引張応力を表す。
図に示すように、定在波は入射波31と反射波32が合成されて形成されるから、弾性波の伝搬に伴う磁性体中の減衰によらずに、磁性体中の全ての部位で同等の応力を発生させることができる。よって、上記第1の問題が解決する。
さらに、コイルに誘導される起電力eは、前記式(3)で表されるが、本発明では定在波を用いるので、コイル17中を振動磁界が通過する速度vが零であり、磁束勾配(∂Φ/∂x)に影響されずに、磁束の時間変化(∂Φ/∂t)に基づく起電力のみを測定でき、第2の問題が解決する。
【0018】
そこで、上記の弾性波定在波法を用いた、本発明の弾性波定在波法による磁気歪みの測定方法を説明する。本発明の方法は、以下の工程よりなる。
(1)被測定磁性体について、反磁界効果が無視でき、従って印加磁場が実効磁場に等しい、或いは、反磁界係数が既知であり、印加磁場から実効磁場が計算できる条件で、磁気歪みと実効磁場との関係、すなわち、磁気歪み特性を測定する。
(2)被測定磁性体について、反磁界効果が無視でき、従って印加磁場が実効磁場に等しい、或いは、反磁界係数が既知であり、印加磁場から実効磁場が計算できる条件で、誘導起電力と実効磁場との関係を測定する。
(3)被測定磁性体の任意の個所で誘導起電力を測定し、この誘導起電力と(2)で求めた誘導起電力と実効磁場との関係から実効磁場を求め、この実効磁場と(1)で求めた磁気歪み特性とから、磁気歪み量を求める。
すなわち、前記(1)、(2)式からわかるように、異方性磁界He 、すなわち、実効磁界を求めるためには、磁気歪みλと磁化Iを知る必要がある。特許文献2では磁気歪み曲線と磁化曲線を、反磁界効果が無視でき、従って印加磁場が実効磁場に等しい、或いは、反磁界係数が既知であり、印加磁場から実効磁場が計算できる条件で測定して実効磁界を求めているが、磁化曲線を測定するためには、専用の測定装置を必要とし、簡便ではない。そこで本発明の方法では、磁化曲線の代わりに、反磁界効果が無視でき、従って印加磁場が実効磁場に等しい、或いは、反磁界係数が既知であり、印加磁場から実効磁場が計算できる条件で被測定磁性体の一点について、誘導起電力と実効磁界の関係を求めておき、実際の測定に当たっては、測定した誘導起電力とこの関係とから実効磁界を求め、この実効磁界と予め求めた磁気歪み曲線とから、磁気歪み量を求めるものである。
磁気歪み曲線は、一般のストレインゲージを使用して比較的容易に測定できる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例を示す。
一辺が5mmの断面正方形で長さ100mの鉄の角棒を熱処理して被測定磁性体とし、図2(a)に示した測定系で測定した。なお、測定位置は角棒の中心位置であり、この位置では、反磁界効果が無視でき、印加した磁界は実効磁界に等しい。弾性波発生器12には、超音波振動子(共振周波数1MHz)を用い、被測定磁性体の一端に密着させた。他端は開放端とした。
【0020】
先ず、被測定磁性体での、磁気歪み曲線と定在波による誘導起電力の実効磁界依存性を求めた。誘導起電力の実効磁界依存性は、図2(a)の測定系において、磁性体の両端から等距離の位置にある中央の節の位置において、印加磁界を変化させながら、コイル17により測定を行って求めた。また、磁気歪み曲線は、図2(a)の測定系において、同じく磁性体の両端から等距離の位置にある中央の節の位置において、印加磁界を変化させながら、磁気歪みをストレンゲージ法で求めた。
図3は、本発明の実施例における、被測定磁性体の磁気歪み曲線と誘導起電力の実効磁界依存性の結果を示す図である。左縦軸は磁気歪みで、右縦軸は誘導起電力[mV]であり、横軸は実効磁界である。
【0021】
次に、図2(a)の測定系において、定在波が形成されている被測定磁性体に一定磁界を印加し、弾性波の伝播軸方向にコイル17の位置を変化させながら、被測定磁性体各部の誘導起電力を測定した。この際、外部印加磁界は13.4kA/mとした。弾性波の周波数は354kHz、波数は6.5m-1としたので、波長は15.4mmで速度は5450mm/sであった。コイル17には、直径7.2mm、厚さ1mm、巻数100回のものを用いた。
【0022】
図4は、本発明の実施例における、被測定磁性体の長手方向の各位置における誘導起電力の分布を示す図である。図において、横軸は、被測定磁性体の長手方向の一方を正方向にとってその中心をゼロとしたときの被測定磁性体の各部位、即ち、検出用のコイル17の位置[mm]であり、縦軸は誘導起電力[mV]である。また、図中の矢印は、被測定磁性体の長手方向の中央から左右に1.75波長、すなわち、±27mmの箇所であり、定在波の節が腹の誘導起電力の符号が反転している箇所である。
【0023】
図5は、図4の測定データの定在波の腹の測定値の包絡線を求めたものである。横軸は、被測定磁性体の長手方向の一方を正方向にとってその中心をゼロとしたときの磁性体の各位置、即ち検出用のコイル17の位置[mm]であり、縦軸は誘導起電力[mV]である。図5から、磁性体の所望の位置の誘導起電力がわかり、この誘導起電力と図3の誘導起電力と実効磁界との関係から実効磁界がわかり、この実効磁界と図3の磁気歪みと実効磁界との関係から、磁性体の所望の位置の磁気歪み量がわかる。
例えば、誘導起電力0mVは実効磁界約4kA/mに対応し、実効磁界4kA/mは磁気歪み約3×10-6に対応するので、被測定磁性体の中央から27mmの部位における磁気歪みは約3×10-6の伸びと求めることができる。
また、誘導起電力が120mVは実効磁界約20kA/mに対応し、実効磁界20kA/mは磁気歪み約5×10-6と求められるので、被測定磁性体の中央では、磁気歪みは約5×10-6縮みと求めることができる。
このように、節毎に磁気歪みを求めることができる。また、定在波の波長を単位として、各部での引張りや圧縮など各種応力を評価することができる。
【0024】
次に、上記の弾性波定在波法による磁気歪みの測定方法を用いた、本発明の応力検査方法を説明する。
この測定方法は、初期状態の磁性体と、機械的ストレスを印加して疲労状態にある該磁性体とについてそれぞれ、上記弾性波定在波法による磁気歪み測定方法を用いて、磁性体の長手方向の磁気歪み分布を測定し、初期状態の磁性体の磁気歪み分布と疲労状態の磁性体の磁気歪み分布とを比較して、疲労状態の程度を判定することを特徴とする。
【0025】
この検査方法によれば、正確に磁性体の疲労状態を判定できる。すなわち、磁性体に機械的ストレスを印加すると、磁性体に応力が内在するようになり、応力が一定値を越えると破断等の破壊が生じ易くなるので、磁性体に内在する応力を測定すれば、磁性体の疲労状態を破壊前に知ることができる。磁性体に応力が内在すると、磁気歪み特性が変化するので、磁性体に磁場を印加し、磁性体全体の磁気歪みによる伸縮を測定することによっても疲労度を判定できる。しかしながら、磁性体に印加されるストレスの種類によっては、磁性体の部位によって応力の方向が異なり、磁性体全体の伸縮が必ずしも疲労度に比例しない場合がある。
そこで、本発明の検査方法は、磁性体全体の磁気歪みによる伸縮ではなく、磁性体の各部位の磁気歪みによる伸縮、即ち、磁性体の磁気歪みの分布を比較して疲労度を検査するので、内部内在する応力の方向が異なる場合でも、正確に検査できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上の説明から理解されるように、被測定磁性体の実効磁界と磁気歪み及び誘導起電力との関係を求めておき、一定磁界中に置かれた被測定磁性体の長手方向の各部における誘導磁界を検出することで、上記関係に基いて、被測定磁性体の長手方向の各部の磁気歪みを評価することができる。よって、被測定磁性体の全体の伸び縮みの量ではなく、各被測定磁性体の各部における伸び縮みを求めることができる。
従って、各種の磁性体の非破壊検査に用いれば、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】磁性体にバイアス磁界を印加し、磁性体の一端から弾性波を伝播させたときの現象を説明する図である。
【図2】磁性体中に弾性波を共振させて定在波を形成する構成を示す図で、(a)は測定系の構成図、(b)は形成される定在波の模式図、(c)は定在波によって発生する応力の磁性体中の分布図である。
【図3】本発明の実施例における、磁性体の磁気歪み曲線と、誘導起電力の実効磁界依存性を示す図である。
【図4】本発明の実施例における、被測定磁性体の長手方向の各位置における誘導起電力の分布を示す図である。
【図5】図4における、定在波の腹の位置における誘導起電力の包絡線を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
10 磁性体
11 一端
12 弾性波発生器
13 他端
14 弾性波
14a 弾性波の張力部分
14b 弾性波の圧力部分
15 弾性波吸収体
16 磁気モーメント
17 コイル
30 機械的固定端
31 入射弾性波
32 反射弾性波
33 原子面
C.N.圧縮される節
T.N.引っ張られる節
DC 外部磁界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定磁性体の長手方向に沿って一定のバイアス磁界を印加した状態で、磁性体に弾性波を伝播させると共に反射させて磁性体中に定在波を形成して振動磁界を発生させ、上記定在波の節の位置の振動磁界を誘導起電力として測定して実効磁界を計測する方法において、
上記定在波が形成された磁性体の定在波の節の位置で誘導起電力を測定し、この誘導起電力と、予め測定した誘導起電力と実効磁界の関係、及び、予め測定した磁気歪みと実効磁界の関係とから、この節の位置の磁気歪みを求めることを特徴とする、弾性波定在波法による磁気歪み測定方法。
【請求項2】
初期状態の磁性体と、機械的ストレスを印加して疲労状態にある該磁性体とについてそれぞれ、請求項1に記載の弾性波定在波法による磁気歪み測定方法を用いて、磁性体の長手方向の磁気歪み分布を測定し、初期状態の磁性体の磁気歪み分布と疲労状態の磁性体の磁気歪み分布とを比較して、疲労状態を判定することを特徴とする、弾性波定在波法による磁気歪み測定方法を用いた応力検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−57396(P2007−57396A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243511(P2005−243511)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】