説明

抗魚病サプリメント

【課題】魚介類養殖において、その生残率を顕著且つ安定的に高め、経済的且つ安全で安心な飼料添加剤又は飼料を開発することを課題とする。
【解決手段】バナナに藻類並びに免疫賦活物質を併用すると、そのシナジー効果が発現し、感染症による養魚介類の飼育期間中の斃死を、安定的且つ顕著に改善することを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養魚介類の飼育期間中における生残率の改善に最適な飼料添加剤及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類養殖では、過密・過給餌・環境悪化等による感染症の発生が多い。ごく一部の感染症については有効なワクチンが開発されて普及しているが、大部分の感染症では抗菌剤を投与するか、自然終息を待つかのいずれかであり、前者では耐性菌出現や薬剤残留、後者では経済的被害拡大の懸念があるため、養殖業者は大変困っているのが実情である。
生残率を高め、安全・安心な養魚介類を経済的に生産するための飼料添加剤又は飼料の開発に対する養殖業者の期待は極めて大きいが、充分な効果が期待できるものは未だ開発されていない。
【0003】
バナナの飼料への応用については、本発明者による機能性飼料(特開2004-201563号公報(特許文献1))の出願があり、その効果として「養殖生産物への活性酸素消去能の亢進と肉質改善、養殖魚介類の抗病性増強と活力増進」が挙げられている。
【0004】
養魚介類への藻類の応用については、「養殖魚の健全性に及ぼす微量栄養素」(恒星社厚生閣刊、水産学シリーズ137(非特許文献1))に抗病性を含む様々な効果例が詳しく記載されており、さらにノリの飼料への応用については、養魚育成用配合飼料(特開平8-51936号公報(特許文献2))や、本発明者による養殖用特殊飼料(特開2005-295844号公報(特許文献3))、同じく本発明者による海苔ペレット(特開2006-296254号公報(特許文献4))があり、その効果は各々、「養魚の成長及び生理状態を向上」、「養殖魚介類の黄色系体色、茶褐色系殻色、体表粘液分泌、魚介類臭又は抗病性を改善」及び「養殖魚介類の抗病性や生産性の向上及び生産魚の品質改善等」の記載がある。
【0005】
また、養魚介類の抗病性を高める効果が期待されている免疫賦活物質としては、酵母やキノコ等由来のβ―グルカン、細菌由来のペプチドグリカンやリポポリサッカライド(リポ多糖)、カニ殻由来のキチン・キトサン、牛乳由来のラクトフェリン、鶏卵卵白由来のリゾチーム等様々のものがあることは公知である。
【0006】
バナナ、藻類、免疫賦活物質等は各々それなりに有用と考えられ、また、その投与は抗生物質等抗菌剤に比較して確かに安全・安心とも言えるが、各々の単独投与のみでは、ある程度の効果は期待できても、その効果は不安定でバラツキが大きく、安定した顕著な効果を養殖現場において期待することが極めて困難であることは、養殖業界において周知の事実であり、より高い効果を示す飼料添加剤又は飼料の出現が待望されているのが実情である。
【0007】
【特許文献1】特開2004-201563号公報
【特許文献2】特開平8-51936号公報
【特許文献3】特開2005-295844号公報
【特許文献4】特開2006-296254号公報
【非特許文献1】「養殖魚の健全性に及ぼす微量栄養素」恒星社厚生閣刊、水産学シリーズ137
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
魚介類養殖において、その生残率を顕著且つ安定的に高め、経済的且つ安全・安心な飼
料添加剤又は飼料を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題設定の上に立って鋭意検討を重ねた結果、バナナに藻類並びに免疫賦活物質を併用すると、そのシナジー効果が発現し、感染症による養魚介類の飼育期間中の斃死を、安定的且つ顕著に改善することを見出し、本発明に到った。
【0010】
すなわち、本発明は
(1)バナナ、藻類及び免疫賦活物質の3成分を含有することを特徴とする養魚介類用の飼料添加剤又は飼料、
(2)藻類が微細藻類又は大型藻類であることを特徴とする(1)記載の飼料添加剤又は飼料、
(3)大型藻類がノリであることを特徴とする(2)記載の飼料添加剤又は飼料、
(4)免疫賦活物質がペプチドグリカンであることを特徴とする(1)〜(3)記載の飼料添加剤又は飼料、
(5)(1)〜(4)記載の飼料添加剤又は飼料を投与することによる養魚介類の生残率改
善方法
に関する。
【0011】
本発明に記載する飼料添加剤とは、モイストペレット作製時に添加、固形飼料に展着又は配合飼料の製造時に配合するものを指し、粉末状、顆粒状、ペレット状、液体状等その形態は任意である。
【0012】
本発明に記載する飼料には、乾燥粉末状飼料、乾燥顆粒状飼料、生餌と乾燥粉末状飼料を混合して成型されるモイストペレット、モイストペレット製造時に混合して使用する混ぜ込みタイプの固形飼料及びクランブルやペレット等の乾燥固形飼料が含まれる。
【0013】
本発明におけるバナナには、全ての種類のものが含まれるが、食用として大量に栽培されているジャイアントキャベンディッシュが入手しやすく最も望ましい。バナナの果肉、果皮、全果或いは茎や葉のいずれでも良いが、工業的に生産され利用しやすい果肉乾燥粉末の使用が実用上最も望ましい。本発明の飼料中に含有させるべきバナナ果肉粉末の適正添加率は0.05〜1%、望ましくは0.1%前後であり、本発明の飼料添加剤中には、その飼料への添加率に応じた量のバナナ果肉粉末を含有させる必要がある。
【0014】
本発明において藻類には、淡水産・海水産を問わず、全ての微細藻類と大型藻類が含まれる。有用な微細藻類としては、クロレラ、スピルリナ、ドナリエラ等が例示される。大型藻類中有用なものとしては、ノリ(アマノリ属)、テングサ、ワカメ、アラメ、ヒジキ、オゴノリ、ホンダワラ、コンブ、アオサ、ヒトエグサ、アスコフィルム等がある。本発明の藻類は乾燥品が取り扱いやすく、流通、保管、加工上望ましい使用形態である。本発明の飼料への乾燥微細藻類の添加量は種類にもよるが通常は0.5〜5重量%の範囲内で有効である。大型藻類は、ノリ、ワカメ、ホンダワラ、コンブ、アオサ或いはアスコフィルムの応用が望ましい。特にノリが本発明において効果的である。
【0015】
本発明の飼料中に含有させるべきこれら大型藻類の乾燥物の添加レベルは0.5〜5重量%、望ましくは1〜3重量%の範囲であり、本発明の飼料添加剤中には、その飼料への添加率に応じた量の乾燥物を含有させる必要がある。
【0016】
本発明において免疫賦活物質とは、魚介類の自然免疫系に作用して、低下した免疫能を維持・改善又は亢進する機能があるとされる物質群及びその由来素材の全てを指すが、例えば、酵母(パン酵母やトルラ酵母等)やキノコ類(スエヒロタケやシイタケ等)由来のβ―グルカン、細菌由来のペプチドグリカンやリポポリサッカライド(リポ多糖)、ミヤイリ菌の加熱死菌体末、カニ殻由来のキチン・キトサン、牛乳由来のラクトフェリン、鶏卵卵白由来のリゾチーム、甘草等の生薬類などが挙げられ、任意のものを選択できる。本発明においては、ペプチドグリカンが特に効果的である。
【0017】
本発明の飼料添加剤及び飼料には、本発明の3種の物質のほかに、魚粉、魚油、オキアミミール、小麦粉、大豆油カス、防腐剤、色素剤、強肝剤、ビタミン類、ミネラル類、展着剤等の有用成分をその使用目的に応じて任意に配合することが可能である。
【0018】
本発明を応用しうる養魚介類には、ヒラメ、トラフグ、マダイ、ブリ、カンパチ、ヒラマサ、アジ、サバ、スズキ、スギ、ハタ、シマアジ、マス、アユ、ウナギ、コイ、ギンザケ、クルマエビ、アワビなどが含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の飼料添加剤又は飼料を養殖場において応用することによって、養魚介類本来の抗病性が顕著に高まって魚病被害を安定的に軽減でき、また消費者に対しては安全・安心な食品としての養魚介類を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
[試験1]水槽試験(1)
同一種苗由来のヒラメ(平均体重210g)を40尾ずつ収容した500リットル容量のパンライト水槽8個(流水・エアレーション方式、水深70cm)を用い、基礎飼料をモイストペレットとして、それにバナナ果肉粉末、ノリ粉末及び市販免疫賦活剤であるAHS-PGアクア(ブレビバクテリウム菌体末、有効成分:ペプチドグリカン、味の素ヘルシーサプライ(株)製)の3種物質を単用または複数組み合わせで添加して給餌し、6〜9月の3ヶ月間の比較試験を行った(表1の区割り表参照)。基礎飼料に対するバナナ果肉粉末、ノリ粉末及びAHS-PGアクアの添加率は、各々0.1重量%、1.5重量%及び0.1重量%の一律とした。各区の飼料は1ケ月間隔で調製して冷凍庫に保管しておき、都度、必要量を取り出し解凍して給餌した。
【0022】
【表1】

【0023】
期間中の各試験区の日間給餌率は魚体重の1.5%の食い切る量を目安とし、斃死尾数とその重量を毎日記録して、1週毎にその給餌量を調整した。月曜〜土曜の6日間は給餌日とし、日曜は餌止め日とした。1区(対照区)は基礎飼料のみの給餌であるが、2〜8区ではまず第1週目の6日間は各々の試験飼料を毎日給餌し、1日の餌止めを経て、翌週の6日間は基礎飼料を給餌することを反復する、所謂、1週間隔での間欠投与を繰り返した。
【0024】
斃死魚は適宜病性鑑定を行ったが、試験期間中の斃死原因は各区とも自然発生したエドワジェラ症であった。試験期間中の水温は20〜25℃であった。
【0025】
【表2】

【0026】
各区の最終の生残尾数及び生残率は表2に示すとおりで、8区即ちバナナ果肉粉末とノリ粉末とAHS-PGアクアを併用添加した飼料の給餌区における生残率が最も高い結果となり、1区(対照区)と比較し生残率において42.5%改善した。他の2〜7区でも多少の効果は認められたが、8区はそれらのいずれよりも飛びぬけて高い生残率となったので、単なる相加効果ではなく相乗効果といえ、これら3種物質の併用によって初めて顕著なシナジー効果が発現することが分かった。
【0027】
[試験2]水槽試験(2)
試験1の途中段階で、市販免疫賦活剤であるAHS-PGアクアにバナナ粉末とノリ粉末を併用することによる高いシナジー効果が示唆されたので、この再現性の確認と免疫賦活剤を他の市販の森永ラクトフェリンMLF-1(有効成分:牛乳由来ラクトフェリン、森永乳業(株)製品)やマクロガード(有効成分:パン酵母細胞壁由来β-1,3/1,6-グルカン、ジンプロ アニマル ニュートリション(ジャパン)製品)に変えた場合の効果比較試験を別途平行して開始した。試験の区割りを表3の通りの計7区としたこと、平均体重250gのヒラメを供試したこと、基礎飼料への森永ラクトフェリンMLF-1及びマクロガードの添加率を各々0.3%及び0.1%としたこと、試験期間を8月〜10月までの3ケ月間としたことを除いて、試験実施要領は試験1と同様とした。
【0028】
【表3】

【0029】
試験期間中の水温は25〜22℃で、斃死原因は各区とも自然発生したエドワジェラ症であった。各区の最終の生残尾数及び生残率は表4の通りで、生残率は5区>7区=6区>2区>4区>3区>1区となった。この結果から、1)3種の免疫賦活剤の各々の単独投与比較では、いずれも生残率の改善効果は認められるが、ペプチドグリカンを有効成分とするAHS-PGアクアの効果が最も高いこと、2)これらの免疫賦活剤にバナナ果肉粉末とノリ粉末を併用するとシナジー効果が発現して生残率が大幅に改善すること、及び3)バナナ果肉粉末及びノリ粉末に併用する免疫賦活剤としては、AHS-PGアクアが、牛乳由来ラクトフェリンを有効成分とする森永ラクトフェリンMLF-1やパン酵母細胞壁由来β-1,3/1,6-グルカンを有効成分とするマクロガードに比して最も高いシナジー効果を示すことが判明した。
【0030】
【表4】

【0031】
[試験3]ヒラメ養殖場での試験(1)
上記の生残率改善結果を養殖現場において検証するため、四国地区のヒラメ陸上養殖場の飼育池(底面積62m2、流水方式)2面を使用し、一方を試験区、他方を対照区とし、同一種苗由来のヒラメ(平均体重約350g)を前者には1384尾、後者には1287尾収容して開始した。試験区のモイストペレット(以下、添加飼料と称す)にはAHS-PGアクア(0.1重量%)、バナナ果肉粉末(0.1重量%)及びノリ粉末(1.5重量%)を添加し、対照区のモイストペレット(無添加飼料)にはこれらを全く添加しなかった。
【0032】
日間給餌率は推定総魚体重の2%を目安として、試験区と対照区の間で大きな差異を生じないよう適宜調整した。両区とも月曜から土曜の6日間を給餌日とし、日曜は餌止め日とした。試験期間は8月下旬から11月中旬までのほぼ2ヶ月半とした。試験区では、当初の約1ケ月間(前期)は添加飼料のみを連続して投与し、残りの約1ヶ月半(後期)は、それを1週間間隔での間欠投与として、連続投与と間欠投与の効果の差異についても検討した。試験期間中の投薬治療は行わなかった。毎日の斃死尾数と飼育水温を記録し、また斃死原因を特定するため適宜病性鑑定を行った。
【0033】
試験期間中の飼育水温は26〜21℃であり、その間の斃死原因はエドワジェラ症であった。表5に示すとおり、前期の連続投与試験では、試験区と対照区の生残率は各々78.5%と76.0%でその区間差が2.5%と小さな改善に止まったが、後期の間欠投与試験では、試験区と対照区の生残率は各々52.8%及び43.3%と区間差が大きくなり、添加飼料の投与によって9.5%の改善効果が認められた。なお、通期での試験区及び対照区の生残率は、各々41.5%と32.9%となり、添加飼料使用による生残率の改善効果は8.6%であった。
【0034】
【表5】

【0035】
この試験成績から、AHS-PGアクア、バナナ果肉粉末及びノリ粉末の3種の物質の併用投与によって生残率が改善すること、エドワジェラ症に起因するヒラメの斃死を軽減できること、及び連続投与よりも1週間隔での間欠投与のほうが有効であることが養殖場において実証された。
【0036】
[試験4]ヒラメ養殖場での試験(2)
試験3と平行して中部地区のヒラメ陸上養殖場において1週間隔での間欠投与による効果検証試験を行った。試験期間は6月下旬から9月上旬までの約2ヶ月半とした。この間の飼育水温は21〜26℃であった。同一種苗由来のヒラメ(開始時平均体重200g)が分養されている底面積約100m2の流水飼育の8角池5面を使用し、その内の3面を対照区とし、残り2面を試験区とした。基礎飼料にはモイストペレットを使用し、試験区にはAHS-PGアクア(0.1重量%)、バナナ果肉粉末(0.1重量%)及びノリ粉末(1.5重量%)の3種物質を添加したモイストペレット(添加飼料)を給餌し、対照区にはこれらを添加しないモイストペレット(無添加飼料)を給餌した。月曜から土曜までの6日間を給餌日とし、日曜は餌止め日とした。試験区では添加飼料と無添加飼料を1週間隔で交互に給餌する間欠投与方式とした。
【0037】
日間給餌率は推定魚体重あたり1.5%を目安とし、試験区と対照区で大きな差異とならないよう適宜調整した。毎日、斃死魚を取り上げ、その尾数を記録し、適宜病性鑑定も行った。
【0038】
試験期間中の斃死原因はエドワジェラ症であった。各池の開始時尾数、最終的な累積斃死尾数及び生残率は表6に示すとおりで、対照区3面の生残率の平均値が50.3%であったのに対し、試験区2面の平均値は69.7%となり、試験区における生残率が19.4%高くなった。このことを換言すれば、対照区において平均1708尾(総尾数÷3×(1−生残率))死亡したのに対し、試験区の死亡尾数は平均1175尾(総尾数÷2×(1−生残率))に留まり、対照区に較べて試験区では1面あたりの平均で533尾多くヒラメが生残出来たということであり、養殖業界においては画期的な成果であった。
【0039】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明におけるバナナ、藻類及び免疫賦活物質の3種物質の併用は、動物に本来備わっている自然免疫能を最大限に発揮させ、その結果として魚病被害を安定的且つ顕著に軽減できという意味で、抗生物質等を使用するよりも環境に優しく、養殖業者の経営安定に寄与でき、さらに養魚介類の安全・安心上の観点からも、実用性と有用性において産業的価値のある発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナナ、藻類及び免疫賦活物質の3成分を含有することを特徴とする養魚介類用の飼料添加剤又は飼料。
【請求項2】
藻類が微細藻類又は大型藻類であることを特徴とする請求項1記載の飼料添加剤又は飼料。
【請求項3】
大型藻類がノリであることを特徴とする請求項2記載の飼料添加剤又は飼料。
【請求項4】
免疫賦活物質がペプチドグリカンであることを特徴とする請求項1〜3記載の飼料添加剤又は飼料。
【請求項5】
請求項1〜4記載の飼料添加剤又は飼料を投与することによる養魚介類の生残率改善方法。

【公開番号】特開2008−220277(P2008−220277A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63788(P2007−63788)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000232612)日本農産工業株式会社 (8)
【出願人】(593057861)ニッチク薬品工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】