説明

振出竿及びその製造方法

【課題】 合わせ部での固着現象を抑制する振出竿を提供する。
【解決手段】 小径竿体5を大径竿体6に対して伸長状態で保持する合わせ部を形成するとともに、合わせ部を、大径竿体6の竿先端部の内周面6Aと、小径竿体5の竿尻端部に形成された大径膨出部5Aとで構成し、小径竿体5の大径膨出部5Aの竿尻端部に、不織布製の軟質プリプレグシート材を巻回した大径合わせ部5bを配置してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小径竿体を大径竿体に対して伸長状態で保持する合わせ部を形成するとともに、前記合わせ部を、大径竿体の竿先端部の内周面と、小径竿体の竿尻端部に形成された大径膨出部とで構成してある振出竿及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前記した合わせ部を構成するものとして、小径竿体の竿尻側端部の外周面と大径竿体の竿先側端部の内周面に互いに当接する状態で圧接する傾斜面を形成してある。この傾斜面同士の圧接状態によって小径竿体の伸長状態を維持するようにしてある。
このように圧接状態で小径竿体の伸長状態を保持する構成を採る場合に、圧接面に水分等が介在すると、所謂、固着状態が現出する。つまり、小径竿体を伸長状態から収縮状態に戻そうとしても、圧接部位で両傾斜面が強力に接着する状態にあるので、通常の戻し力を加えても、その伸長状態を解除することができないということが起こる。
したがって、この場合には納竿をすることができず、仕舞いに苦慮することになる。
このような点を考慮して、小径竿体としての小径竿管の後端の外周面に大径竿体としての大径竿管の先端の内周面に圧接する小突起を形成し、内外周面同士の間に水分が介在しないように排出経路を形成する構成のものがあった(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】実登第2569413号(段落番号〔0009〕〔0012〕、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
確かに、合わせ部に水分が介在すると固着現象が促進されるとは言えるものであるが、固着現象はそれだけの原因に止まらないと考えられる。つまり、上記従来技術でも示しているように、合わせ部は、大径竿体の竿先側の傾斜内周面と小径竿体の竿尻側に形成した傾斜外周面とが圧接状態になることによって起こるものである。両傾斜面が圧接状態となると、大径竿体の竿先端開口は広げられる方向の力を受け、小径竿体の竿尻側端部は収縮する力を受けて互いに弾性的に変形する状態で圧接することになる。したがって、弾性的な変形状態で圧接するので、より強力な接合状態となり、元の状態に戻すことが困難な状態になるのである。
このような圧接状態は小突起を相手側の傾斜面に圧接させる状態で達成している従来技術も例外ではないと考えられ、合わせ操作を行うと短時間でかつ短いストロークで小突起が相手側傾斜面に強く押し付けられることによって、小突起を形成していないものに比べれば固着現象に陥いり難い構成ではあっても、合わせ操作を行うと瞬時に圧接状態となる点を解消できず、更なる、合わせ部の改善を必要としていた。
一方、振出竿においては、中子落ちという現象が起こった場合に、それを修正するために、中子落ちした竿を引き出す場合に、引き出される小径竿体の竿先先端面が大径竿体の竿尻端面に接触衝突し、大径竿体の竿尻端面の内層が捲れ上がる内層剥離現象なるものが起こる可能性があった。
そのメカニズムについて説明する。
振出式の釣り竿においては、小径竿体の竿尻端外周面と、大径竿体の竿先端内周面との圧接によって互いの伸長状態を維持する構成を採っている。特に、多数本の中竿を有している渓流竿等において起こり易い。つまり、中竿としての四番竿から八番竿を伸長状態に伸ばした場合には、小径竿体としての四番竿から七番竿の竿尻端外周面と大径竿体としての五番竿から八番竿までの竿先側内周面とが圧接状態となって、伸長状態が維持されている。
ただし、圧接状態の圧接力が弱くなると、摩擦保持力が低下し、小径竿体が大径竿体内に落ち込むことがある。この状態が、図12(イ)に示す状態であり、この図では、四番竿10から六番竿12までのものが七番竿13と八番竿14の中に落ち込んでいる。この現象が一般にいわれている「中子落ち現象」である。
このような現象に陥った場合には、図12(ロ)で示すように、四番竿4から六番竿6までを引き出す必要があるが、引き出す途中の段階で、六番竿12の竿先側先端が七番竿13の竿尻開口内に入り込む際に、その七番竿13の竿尻側端や内周面に当接することがあり、その竿尻側端に亀裂や削れが発生する。そして、何回かその当接状態を繰り返すことによって、七番竿13の竿尻側端の内層部分に剥離を生ずることがあった。この現象が一般に謂われている「内層剥離現象」である。
特に、最内層のプリプレグにおいては、周方向に強化繊維を配置しているために、内層剥離現象が起こり易い傾向にあった。
【0005】
本発明の目的は、合わせ部での固着現象を抑制するとともに、内層剥離現象を抑制できる釣り竿等を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、小径竿体を大径竿体に対して伸長状態で保持する合わせ部を、大径竿体の竿先端部の内周面と、小径竿体の竿尻端部の外周面とで形成し、前記外周面の最外層に、他の部分のプリプレグに比べて弾性変形性の高い軟質プリプレグを配置して構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0007】
〔作用〕
つまり、合わせ部で相手側の面に圧接するものが弾性変形性の高い軟質プリプレグを施してあるので、その軟質プリプレグで構成される最外層が相手側の面に圧接する場合に変形する為に、圧接力が急激に大きくならず、或る一定程度の圧力を維持した状態で、合わせ操作が行われることとなる。
【0008】
〔効果〕
したがって、操作する釣り人が一定の引き出し抵抗を感じ取ることができるので、無理に小径竿体を引き出すことはなく、かつ、合わせ部の最終端が近くなっていることを認識でき、固着現象に陥ることは少ない。
【0009】
請求項2に係る発明の特徴構成は、請求項1に係る発明において、前記竿尻端部に最外層から最内層に掛けて、前記軟質プリプレグとして不織布プリプレグを配置して構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0010】
〔作用効果〕
請求項1に対応して奏することのできた作用効果に加えて、次ぎのような作用効果を奏することができる。つまり、内周表面にも不織布プリプレグを配置できたので、その不織布層においては、不規則に配置した繊維を重ね合わせ結合してあるので、落下した竿体(又は節)を引き出す状態が何回か行った場合であっても、不織布を構成する不規則に配置された繊維が、亀裂の伝播に対して抵抗力を発揮し、最内層部分が剥離することは少ない。
【0011】
請求項3に係る発明の特徴構成は、小径竿体を大径竿体に対して伸長状態で保持する合わせ部を、大径竿体の竿先端部の内周面と、小径竿体の竿尻端部の外周面に形成された大径膨出部とで構成し、前記大径膨出部における竿先側に、引き揃えた強化繊維に合成樹脂を含浸させた硬質プリプレグでなる小径合わせ部を配置するとともに、前記大径膨出部における竿尻側に、請求項1又は2記載の軟質プリプレグでなる大径合わせ部を配置してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0012】
〔作用効果〕
小径竿体の大径膨出部の構成として、竿尻端側から軟質プリプレグ製の大径合わせ部とその竿先側に硬質プリプレグ製の小径合わせ部を配置してあるので、小径竿体を大径竿体から引き出す操作を開始すると、まず、軟質プリプレグ製の大径合わせ部が大径竿体の竿先端部の内周面に接触を開始する。
大径合わせ部が内周面に接触を維持している間は、大径合わせ部が軟質プリプレグ製であるので、その部分の剛性がプリプレグで構成する小径合わせ部の場合に比べて大きくはないので、その剛性の低い部分が接触する間はきつくならない程度の接触抵抗が、引き出し操作をする釣り人の手に作用し、無理に小径竿体を引き出すことはなく、かつ、合わせ部の最終端が近くなっていることを認識できる。
最終的に小径合わせ部が前記内周面に当接して硬質プリプレグ製の剛性の高い部分が圧接することによる大きな圧接力が作用しても、前記したように、一定の圧が感じ取られている状態の後にこの大きな圧接力が作用するので、引き出し操作する釣り人には予めそのことが予測でき、無理に引き出そうとすることはない。これによって、未然に固着現象が回避されることとなる。
【0013】
請求項4に係る発明の特徴構成は、小径竿体を大径竿体に対して伸長状態で保持する合わせ部を形成するとともに、前記合わせ部を、大径竿体の竿先端部の内周面と、小径竿体の竿尻端部に形成された大径膨出部とで構成し、前記大径膨出部を構成するに、前記小径竿体の略全長に相当する長さの硬質プリプレグシートを第1層としてマンドレルに巻回するとともに、前記第1層の竿尻端部分に竿軸線方向に沿った長さが前記第1層に比べて短い補強プリプレグシートを第2層として巻回し、前記第1層と前記第2層の竿尻端側で前記第1層と前記第2層に接する状態で、不織布製の軟質プリプレグシート材を第3層として巻回し、焼成後研磨加工して、前記第2層に対する研磨加工面を小径合わせ部に形成するとともに、前記軟質シート材部分に対する研磨加工面を大径合わせ部に形成する点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0014】
〔作用効果〕
合わせ部を構成するのに、竿先側に位置する小径合わせ部を、二層に重ね合わせたプリプレグで剛性の高いものに構成するとともに、竿尻側に位置する大径合わせ部においては、不織布でなる軟質プリプレグシート材で構成してあるので、小径竿体を大径竿体から引き出す操作を開始すると、まず、軟質材製の大径合わせ部が大径竿体の竿先端部の内周面に接触を開始する。
そして、この大径合わせ部が前記内周面に接触を維持している間は、きつくならない程度の接触抵抗が、引き出し操作をする釣り人の手に作用し、無理に小径竿体を引き出すことはなく、かつ、合わせ部の最終端が近くなっていることを認識できる。
最終的に剛性の高い小径合わせ部が前記内周面に当接して大きな圧接力が作用しても、前記したように、一定の圧が感じ取られている状態の後にこの大きな圧接力が作用するので、引き出し操作する釣り人には予めそのことが予測でき、無理に引き出そうとすることはない。これによって、未然に固着現象が回避されることとなる。
しかも、この小径合わせ部はプリプレグを重ね合わせた剛性の高い部分であるので、合わせ部として伸長状態を確りと維持できるものであるので、中子落ち等の現象を未然に抑制できるようになった。
【0015】
請求項5に係る発明の特徴構成は、前記不織布製の軟質プリプレグシート材を巻回した後に、前記第2層と前記軟質プリプレグシート材とに亘って第4層として被覆プリプレグシートを巻回し、その後焼成するとともに、前記マンドレルを脱芯し、前記被覆プリプレグシートを取り去るとともに前記軟質プリプレグシート材から第2層の部分に至るまで研磨加工を施し、前記第2層に対する研磨加工面を小径合わせ部に形成するとともに、前記軟質プリプレグシート材部分に対する研磨加工面を大径合わせ部に形成する点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0016】
〔作用効果〕
つまり、製品としては残らないが、製造工程において機能を発揮するものとして、被覆プリプレグを最外層に巻回して焼成する。そして、焼成後脱芯する際に、大径膨出部がマンドレルに付着引きずられて損傷を受けることを、この被覆プリプレグで防止するとともに、焼成時において、この被覆プリプレグで大径膨出部の外周面とマンドレルとの段差部分を覆うことができるので、プリプレグの樹脂が流れだすことを抑制する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
振出竿Aの構成について説明する。ここでは、振出竿Aの一部について説明する。図1に示すように、小径竿体5の竿尻外周面に竿尻膨出部5Aを形成するとともに、小径竿体5を大径竿体6に対して引き出した状態で、小径竿体5の竿尻膨出部5Aが大径竿体6の竿先内周面6Aに圧接される。この圧接状態で、小径竿体5が大径竿体6に対する伸長状態に保持される。
釣り操作を終えて仕舞い処理する場合には、伸長状態にある小径竿体5を保持力に抗して押込み操作することによって収縮することができる。
【0018】
次に、小径竿体5の竿尻膨出部5Aの製造方法について説明する。図2に示すように、マンドレル7に対して巻回して小径竿体5を形成するための4つのパターンを用意する。第1パターン1は小径竿体5の全長に亘る長さを備えたメインパターンである。第1パターン1は、一枚ものの硬質プリプレグシートでもよいが、ここでは、3枚の硬質プリプレグシートを重ね合わせて使用する場合について説明する。
【0019】
硬質プリプレグシートは、弾性率40〜50Ton/mm2と同等の高・中弾性率を有する炭素繊維等の強化繊維を一方向に引き揃えたものに、エポキシ等の熱硬化性樹脂を含浸させて、板状に形成されたものである。メインパターン1を構成する3枚のプリプレグシートは、最内層に配置されるもので強化繊維を竿の周方向に引き揃えたものと、中間層に配置されるもので強化繊維を竿の軸線方向に引き揃えたものと、外側層に配置されるもので強化繊維を竿の周方向に引き揃えたものとを、重ね合わせた状態でマンドレル7に巻回されることとなる。
【0020】
第1パターン1は、竿尻端側のカット面を竿の周方向に沿った直線カット部分1aとその直線カット部分1aの端部より斜めカット部分1bとに形成されている。直線カット部分1aの部分を巻回すると1プライ分に相当する幅に設定されている。この第1パターン1をマンドレル7に巻回して形成した層を第1層とする。
【0021】
第2パターン2は、第1パターン1の外側に位置するもので、かつ、竿尻端に巻回される竿の軸線方向に沿った長さの短い、合わせ研磨パターンとして機能するものである。
第2パターン2の竿尻端側のカット面は、第1パターン1の斜めカット部分1bに連続する状態で切断されるもので、前記斜めカット部分1bと同様に傾斜角を持って切断されている斜めカット部分2aである。
【0022】
第2パターン2についても、強化繊維を引き揃えたものに樹脂を含浸させて形成したプリプレグを使用する。第2パターン2としては、強化繊維を竿の周方向か又は竿の軸線方向に引き揃えた一枚もののシートか、又は、強化繊維をクロスさせた一枚もののシートか、或いは、竿の軸線方向に対して一定の傾斜角で引き揃えた強化繊維を有する上側シートと、竿の軸線を挟んで前記した上側シートの強化繊維に対して対称に引き揃え配置した強化繊維を有する下側シートとを重ね合わせたバイアスシートとを、選択して使用することができる。
この第2パターン2をマンドレル7に巻回して形成した層を第2層とする。
【0023】
第1パターン1と第2パターン2との竿尻側には第3パターン3が配置される。第3パターン3における竿の軸線方向に沿った長さLは、第2パターン2よりは更に短く、竿の周方向に沿った幅Wは、第1パターン1の幅と第2パターン2の幅とを合計した長さより長く裁断してある。
そして、第3パターン3における第1パターン1と第2パターン2とに面する竿先側のカット面は、第1パターン1の直線カット部分1aに平行な直線カット部分3aと、第1パターン1の斜めカット部分1b及び第2パターン2の斜めカット部分2aに平行な斜めカット部分3bとを連続する状態で形成されている。
【0024】
第3パターン3は、軟質プリプレグとしての不織布のプリプレグで構成される。不織布は、例えば乾式法と称される製法で製作されるもので、一般的にはポリエステル等の合成短繊維a(6mm位)群を漉き上げてシート状のフリースを形成し、そのフリースに対して例えばケミカルボンド法等によって短繊維a同士の結合を促す結合処理を行い、次に、表面処理を行って仕上られたものである。不織布は、繊維aが一方向に配列されてはいないので、亀裂が入った場合であってもその亀裂が伝播することがなく、不織布を施した部分が剥離することが少ない。
【0025】
但し、ここで使用する不織布プリプレグは、弾性率の低いポリエステル等の強化繊維群にポリエチレン等の熱可塑性樹脂等を含浸させて形成することとする。
この第3パターン3をマンドレル7に巻回して形成した層を第3層とする。
ここに、弾性率の低い強化繊維としては、ポリエステル以外に、弾性率が24Ton/mm2と同等の低弾性率を有する強化繊維であればよい。
第4パターン4として、第2パターン2及び第3パターン3の外側に配置される補助パターンがある。第4パターン4は、竿の軸線方向に沿った長さが第2パターン2より長く、竿の周方向に沿った幅が第2パターン2より短い、略長方形状のものである。
第4パターン4としては、保形性の高いガラス繊維を強化繊維としたプリプレグを使用するのが適当であるが、通常の炭素繊維製のプリプレグでもよく、繊維だけを編み込んだシートを使用してもよい。
この第4パターン4をマンドレル7に巻回して形成した層を第4層とする。
【0026】
以上の構成になる四つのパターン1〜4を使用して、小径竿体5の竿尻膨出部5Aを製造する工程について説明する。
<1> 図2に示めす状態から、第1パターン1をマンドレル7に巻回する。巻回量は2プライ分である。この第1パターン1によって、竿の全長に相当する長さの筒状体が形成される。
【0027】
<2> 図3に示すように、第1パターン1を巻回して形成した筒状体の竿尻端側に第2パターン2を巻回する。巻回量は2プライ分である。巻き始めの位置は、第2パターン2における竿尻端側の端部を第1パターン1の巻き終りの竿尻端側の端部に合わせて巻回する。このように巻き始め部分を合わせることによって、第1パターン1の斜めカット部分1bと第2パターン2の斜めカット部分2aとを連続するものとすることができる。
第2パターン2は、後記するように、大径竿体6の竿先内周面6Aに圧接する竿尻膨出部5Aの一部を構成する。
【0028】
<3> 次に、図4に示すように、第3パターン3を巻回する。第3パターン3は、第1パターン1の竿尻端側に巻回する。つまり、第1パターン1における竿尻端面における直線カット部分1aに第3パターン3における直線カット部分3aを竿尻側から接する隣接する状態で巻回する。そうすると、第3パターン3における直線カット部分3aが第1パターン1の直線カット部分1aに接する状態で、かつ、第3パターン3の斜めカット部分3bが、第1パターン1の斜めカット部分1b及び第2パターン2の斜めカット部分2aに接する状態で巻回されることとなる。
【0029】
したがって、図5に示すように、第3パターン3は、4プライ分巻回されるが、第1パターン1と第2パターン2とに、各層部分で接触する状態に巻回されており、竿先側に位置する第1パターン1及び第2パターン2と、竿尻側に位置する第3パターン3との間に隙間はできていない。
【0030】
また、図5に示すように、第3パターン3は、2層目が第1パターン1の竿尻端部分に重なり、3層目4層目が第1パターン1の2層目、及び、第2パターン2の1層目2層目に重なりあっており、それらの重なり代を基端部として竿尻側に向けて片持ち支持されている。したがって、第3パターン3の竿尻端は、第1パターン1及び第2パターン2が下方に存在しないので、マンドレル7側に撓み萎み易い構成となっている。
したがって、この第3パターン3は、第2パターン2とともに、小径竿体5の竿尻膨出部5Aを形成する。
【0031】
第4パターン4について説明する。図6に示すように、第4パターン4の竿尻端位置を第3パターン3の竿尻端位置より更に竿尻端側に突出する状態に配置して、2プライ分巻回する。図7に示すように、第4パターン4の竿尻端側に突出する部分4aが焼成によってマンドレル7側に縮小して、マンドレル7の表面と第3パターン3の巻回位置との段差部分を覆う状態となる。これによって、作用の項でも記載したように、焼成時にプリプレグの樹脂が流れ出すことを抑制できる。
【0032】
以上のように形成した竿素材に対して、図示はしていないが、全長に亘って各パターン1〜4の上からセロファン製の成形テープを螺旋状に巻き付け、焼成し、焼成後マンドレル7を脱芯し、脱芯後成形テープをウォータゼット等を使用して剥がし、所定長さに裁断し、所定の研磨工程を経て、仕上げ処理を行う。
【0033】
第4パターン4を設けてあるのは、脱芯時における粉砕破損の防止し、及び、樹脂吹出しを防止する為に設けたものであり、後記するように、第4パターン4は、研磨処理する段階で削り取られることとなる。
【0034】
前記したように、所定長さに切断した直後の竿尻膨出部5Aの断面形状を図8に示す。この断面によると、第1パターン1の竿尻端部に第2パターン2が巻回されており、第1パターン1と第2パターン2との竿尻端に連設する状態で第3パターン3が巻回され、第3パターン3と第2パターン2とに跨る状態で第4パターン4が巻回されている。
【0035】
上記のような巻回状態にある第1パターン1から第4パターン4に対して、大径竿体6の竿先内周面との合わせ部を構成するために、次ぎのような、研磨処理を行う。研磨処理の境界面Bは、図8に示すように、二点鎖線Xで示した部分であり、竿尻端側から第3パターン3の上層近くから第2パターン2を斜めに切断する状態に設定されている。
【0036】
研磨処理は境界面Bを現出する為に進めるが、工具としては、図9に示すように、センタレス研磨機8を使用し、砥石8Aとローラ8Bとで挟み込んで研磨加工を行う。研磨処理を受けた段階では、第4パターン4と、第3パターン3の上部層と、第2パターン2の上部層とが、削り取られて、研磨面が大径竿体6の竿先内周面6Aに圧接する合わせ部を形成する。
【0037】
図9に示すように、センタレス研磨機8で研磨加工を施すと、片持ち状態で不織布だけで構成されている第3パターン3は剛性が大きくない面がある。その為に、加工押し付け力と加工熱を受けて、第3パターン3の竿尻端部分3cが竿尻端を下にしてやや内向き窄み状態となる。しかし、図10に示すように、焼成時の膨張作用によって、外開き傾向を回復し、竿尻端部分3cは所定の開口径に修正されると考えられる。
【0038】
図10に示すように、研磨加工後の竿尻膨出部5Aの断面形状は、第2パターン部分が一定の傾斜面を有する小径合わせ部5aを形成するとともに、第3パターン部分が第2パターン部分に比べて穏やかな状態で傾斜度を拡大させる大径合わせ部5bに形成してある。そして、大径合わせ部5bの竿尻端の外径が最大径になっている。
【0039】
このような断面形状により、小径竿体5を大径竿体6より引き出して伸長状態を現出する場合に、まず、最大径に形成されている前記大径合わせ部5bの竿尻端が大径竿体6の竿先内周面6Aに最初に当接し、順番に大径合わせ部5bが接触していくこととなる。そうすると、前記したように、大径合わせ部5bは片持ち支持されており、大径合わせ部5b自体は不織布で構成された剛性の大きくないものであるので、大径合わせ部5bが大径竿体6の竿先内周面6Aに当接する間においては、当接点が大径合わせ部5bの竿先側に移動するにつれてその大径合わせ部5bの竿尻端の撓み量が大きくなる。
【0040】
当接点が大径合わせ部5bの竿先側に移動するにつれてその大径合わせ部5bの竿尻端の撓み量が大きくなる為に、この大径合わせ部5bと大径竿体6の竿先内周面6Aに対する当接力は略一定の力を維持することとなる。
そうすると、合わせに要する力が、大径合わせ部5bが設けられている区間においては略一定の状態を維持するところから、合わせ部の固着現象を抑制できることとなる。
【0041】
次に、内層剥離を防止する構造について説明する。
後記するように、小径竿体5の最内周層で大径側端部において、内層剥離が起こることがあった。そのメカニズムについて説明する。
振出式の釣り竿においては、図1に示すように、小径竿体5の竿尻端外周面と、大径竿体6の竿先端内周面との圧接によって互いの伸長状態を維持する構成を採っている。ただし、圧接状態の圧接力が弱くなると、摩擦保持力が低下し、小径竿体5が大径竿体6内に落ち込むことがある。この状態を示すのが、図12(イ)に示す状態であり、この図では、振出竿Aとしては渓流竿等を使用してテストを行ったものを示したものであり、四番竿10から六番竿12までのものが七番竿13と八番竿14の中に落ち込んでいる。この現象が一般にいわれている「中子落ち現象」である点ついては前述した。
【0042】
このような現象に陥った場合には、図12(ロ)で示すように、四番竿10から六番竿12までを引き出す必要があるが、引き出す途中の段階で、六番竿12の竿先側先端が七番竿13の竿尻開口内に入り込む際に、その七番竿13の竿尻側端や内周面に当接することがあり、その竿尻側端に亀裂や削れが発生する。そして、何回か七番竿13を引き出すテストを、錘9を四番竿10の竿先端に取り付けて行ってみた。そのような当接状態を繰り返すことによって、七番竿13の竿尻側端の内層部分に剥離を生ずることがあった。この現象が一般に謂われている「内層剥離現象」である。
特に、最内層のプリプレグにおいては、周方向に強化繊維を配置しているために、内層剥離現象が起こり易い傾向にあった。
【0043】
そこで、前記したように最内層に不織布でなる第3パターン3を巻回してつくらた小径竿体5のように、竿尻端部の構成を七番竿13の竿尻端部の構造に適用することとする。そうすると、竿尻端部の内周面に、不織布でなる第3パターン3が配置され、その不織布層においては、繊維群が一定方向に引き揃えない状態で配置されているので、落下した竿体(又は節)を引き出す状態を何回か行った場合であっても、亀裂等が伝播することがなく、内層部分が剥離することは少ない。
【0044】
前記した不織布でなる第3パターン3によって構成されている竿尻端部に、さらに、次ぎのような構成を追加する。図11に示すように、前記した研磨工程において、前記した小径竿体5の竿尻端開口における内周面位置に、小径竿体5の内部空間の奥側に向かって、徐々に、縮径する傾斜案内面5cを形成する。
このような傾斜案内面5cを設けることによって、中子落ちした竿体に竿先端が引き出される際において、この傾斜案内面5cに当接したとしても、引き出される竿体の移動方向に対してその面が傾斜しているために、当接力が分散され、傾斜案内面が受ける面圧を低下させることができる。
面圧の低下は、内層剥離を引起す力を弱くするとともに、傾斜案内面5cの案内作用によって、その傾斜案内面5cに当接した竿体の竿先端が案内面に沿って竿軸芯側に誘導されるところから、これによっても、内層剥離を抑制できる。
【0045】
〔別実施形態〕
(1) 小径竿体5の竿尻端部における最内層を、不織布製の軟質シート材で形成しているので、内層剥離に対する防止効果が高く、このような構成を、振出形式を採る玉の柄に適用することができる。
(2) 軟質プリプレグとしては、低弾性率の強化繊維を採用するものであれば、必ずしも不織布のように繊維同士を不規則に結合させたものを使用する必要性はなく、低弾性率の強化繊維を引き揃えたものや編み込んだ織布であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】合わせ部を示す縦断側面図
【図2】各パターンをマンドレルに巻回する前の状態を示す構成図
【図3】第1、第2パターンをマンドレルに巻回した状態を示す側面図
【図4】第3パターンをマンドレルに巻回する前の状態を示す側面図
【図5】第3パターンをマンドレルに巻回した状態を示す側面図
【図6】第4パターンをマンドレルに巻回する前の状態を示す側面図
【図7】第4パターンをマンドレルに巻回した状態を示す側面図
【図8】研磨処理を行われる前の合わせ部の状態を示す縦断側面図
【図9】研磨処理を行っている状態を示す縦断側面図
【図10】研磨処理を行った状態を示す縦断側面図
【図11】竿尻端に傾斜案内面を形成した状態を示す縦断側面図
【図12】(イ)は中子落ち状態を示す縦断側面図、(ロ)は内層剥離が起こる状態を示す縦断側面図
【符号の説明】
【0047】
5 小径竿体
5A 大径膨出部
5a 小径合わせ部
5b 大径合わせ部
6 大径竿体
6A 竿先内周面
7 マンドレル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小径竿体を大径竿体に対して伸長状態で保持する合わせ部を、大径竿体の竿先端部の内周面と、小径竿体の竿尻端部の外周面とで形成し、前記外周面の最外層に、他の部分のプリプレグに比べて弾性変形性の高い軟質プリプレグを配置して構成してある振出竿。
【請求項2】
前記竿尻端部に最外層から最内層に掛けて、前記軟質プリプレグとして不織布プリプレグを配置して構成してある請求項1又は2記載の振出竿。
【請求項3】
小径竿体を大径竿体に対して伸長状態で保持する合わせ部を、大径竿体の竿先端部の内周面と、小径竿体の竿尻端部の外周面に形成された大径膨出部とで構成し、前記大径膨出部における竿先側に、引き揃えた強化繊維に合成樹脂を含浸させた硬質プリプレグでなる小径合わせ部を配置するとともに、前記大径膨出部における竿尻側に、請求項1又は2記載の軟質プリプレグでなる大径合わせ部を配置してある振出竿。
【請求項4】
小径竿体を大径竿体に対して伸長状態で保持する合わせ部を形成するとともに、前記合わせ部を、大径竿体の竿先端部の内周面と、小径竿体の竿尻端部に形成された大径膨出部とで構成し、前記大径膨出部を構成するに、前記小径竿体の略全長に相当する長さの硬質プリプレグシートを第1層としてマンドレルに巻回するとともに、前記第1層の竿尻端部分に竿軸線方向に沿った長さが前記第1層に比べて短い補強プリプレグシートを第2層として巻回し、前記第1層と前記第2層の竿尻端側で前記第1層と前記第2層に接する状態で、不織布製の軟質プリプレグシート材を第3層として巻回し、焼成後研磨加工して、前記第2層に対する研磨加工面を小径合わせ部に形成するとともに、前記軟質プリプレグシート材部分に対する研磨加工面を大径合わせ部に形成する振出竿の製造方法。
【請求項5】
前記不織布製の軟質シート材を巻回した後に、前記第2層と前記軟質シート材とに亘って第4層として被覆プリプレグシートを巻回し、その後焼成するとともに、前記マンドレルを脱芯し、前記被覆プリプレグシートを取り去るとともに前記軟質シート材から第2層の部分に至るまで研磨加工を施し、前記第2層に対する研磨加工面を小径合わせ部に形成するとともに、前記軟質シート材部分に対する研磨加工面を大径合わせ部に形成する請求項4記載の振出竿の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−202433(P2007−202433A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22819(P2006−22819)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】