排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材、並びに、その製造方法及び使用方法

【課題】排ガスに含まれる有機塩素化合物、特にダイオキシン類を低コストで効率よく吸着除去することができる吸着材、その製造方法及び使用方法を提供する。
【解決手段】多孔質の炭素質の粒子であって、比表面積が30m2/g以上、メソ孔の細孔容積が0.03mL/g以上の構造を有する疎水性固体状未燃炭素を含むことを特徴とする排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材。疎水性固体状未燃炭素を含有する原料を、非極性有機溶媒と水を用いて液液抽出により、該非極性有機溶媒側に含まれる疎水性物質と水側に含まれる親水性物質とに分離し、該分離した疎水性物質を無機酸処理することにより疎水性固体状未燃炭素を含む吸着材を抽出する。該吸着材を、排ガスに添加して排ガス中の有機塩素化合物を吸着除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中の有機塩素化合物、特にダイオキシン類を吸着する吸着材、並びに、その製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメント原料の一部として、飛灰、主灰、汚泥及び鉱滓等の廃棄物が使用されているため、セメントキルン排ガス中には、これらの廃棄物に含まれるダイオキシン類等の親油性の有機塩素化合物等が存在する。この有機塩素化合物は、キルンダストを媒体としてセメント製造装置内を循環し、その一部は高温域において分解され、未分解の有機塩素化合物の大部分は、排ガス中のダストを媒体としてセメント製造装置内を循環している。
【0003】
しかし、ダストに吸着されなかった微量の有機塩素化合物及びガス状の有機塩素化合物は、排ガスと共に大気中に放出される。そのため、これらの有機塩素化合物の排出量をさらに低減することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その解決手段として、昨今では、排ガス中のダスト等を原料として、有機塩素化合物を吸着する炭化物(活性炭等)を製造しようとする試みが注目を集めつつある。しかし、有機塩素化合物を吸着除去するには比較的大きな細孔(メソ孔)が必要であることが明らかとなっているものの、このような構造を有する炭化物を廃棄物から製造するためには、コスト面で非常に割高になるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、セメント製造装置等から排出される排ガス中の有機塩素化合物、とりわけ毒性の強いダイオキシン類を低コストで効率よく吸着除去することができる吸着材と、その製造方法及び使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材であって、多孔質の炭素質の粒子で、比表面積が30m2/g以上、メソ孔の細孔容積が0.03mL/g以上の構造を有する疎水性固体状未燃炭素を含むことを特徴とする。
【0007】
そして、本発明によれば、吸着材に含まれる上記疎水性固体状未燃炭素によって、ダイオキシン類等の親油性有機塩素化合物を効率よく捕捉することができ、排ガス中の有機塩素化合物濃度を確実に低減することが可能となる。
【0008】
本発明は、前記吸着材の製造方法であって、前記疎水性固体状未燃炭素を含有する原料を、非極性有機溶媒と水を用いて液液抽出することにより、該非極性有機溶媒側に含まれる疎水性物質と水側に含まれる親水性物質とに分離し、該分離した疎水性物質を無機酸処理することにより疎水性固体状未燃炭素を含む吸着材を抽出することを特徴とする。そして、本発明によれば、上記特徴を有する吸着材を低コストで製造することができる。
【0009】
また、前記疎水性固体状未燃炭素を含有する原料として、フライアッシュ、ボトムアッシュ、オイルコークス、オイルコークス燃焼灰のいずれか1種又は2種以上を使用することができる。
【0010】
また、前記吸着材の製造方法において、前記非極性有機溶媒を、トルエン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、又は塩化メチルとすることもできる。加えて、前記吸着材の製造方法において、前記無機酸を、塩酸、硫酸、硝酸、又はリン酸とすることもできる。
【0011】
さらに、前記吸着材を、排ガスに添加して排ガス中の有機塩素化合物を吸着除去することができる。そして、この排ガスをセメントキルン排ガスとした場合には、セメントキルン排ガスに含まれるダストを集塵する集塵装置で回収されたダストの前記疎水性固体状未燃炭素の含有率を0.2質量%以上とすることができる。
【0012】
これにより、セメント製造装置等から排出される排ガス中へ本発明に係る吸着材を添加することのみにより、排ガスから有機塩素化合物を効率よく吸着除去することができ、系外へ排出可能な程度にまで無害化することが可能となる。
【0013】
加えて、本発明に係る使用方法を用いることで、従来は焼却して無害化することが通常とされていた有機塩素化合物の処理方法を多様化させ、燃焼のために必要となる燃料やその大掛かりな設備が不要となることから、処理システム全体のコスト削減が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、セメント製造装置等から排出される排ガス中の有機塩素化合物、特にダイオキシン類を低コストで効率よく吸着除去することができる吸着材、並びに、その製造方法及びその使用方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る吸着材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明に係る吸着材の使用方法の一実施の形態を示す概略図である。
【図3】本発明に係る吸着材をセメントキルン排ガスから有機塩素化合物を吸着するために用いた場合の、集塵ダストの疎水性固体状未燃炭素の含有率と、集塵装置出口のダイオキシン類(DXNs)濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明に係る吸着材の製造方法について、図1を参照しながら説明する。
【0017】
フライアッシュ、ボトムアッシュ、オイルコークス、オイルコークス燃焼灰、セメント原料等の疎水性固体状未燃炭素を含有する原料を、非極性有機溶媒と水とを用いて液液抽出する(ステップS1)。この液液抽出により、原料に含まれる疎水性物質は非極性有機溶媒側へ、親水性物質は水側へ分離する。ここで、非極性有機溶媒とは、例えば、トルエン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、又は塩化メチル等をいう。
【0018】
また、本発明における疎水性固体状未燃炭素とは、未燃炭素を含む原料から製造されるものであって、疎水性を有する多孔質の炭素質の粒子をいう。特に、本発明においては、BET法による比表面積が30m2/g以上(好ましくは50m2/g以上)、BJH法によるメソ孔(2〜50nm)の細孔容積が0.03mL/g以上(好ましくは0.04mL/g以上、より好ましくは0.05mL/g以上)の構造を有するものである。上述のような所定の比表面積及びメソ孔を有することで、有機塩素化合物、特に、毒性の強い、分子の長さ1.4nm程度のダイオキシン類を効率よく吸着することが可能となる。
【0019】
尚、一般にフライアッシュ等の燃焼ガスのダスト中には未燃炭素と称される炭素成分が含まれるが、この未燃炭素は固体状炭素と油分に分けられる。本発明における疎水性固体状未燃炭素は、この固体状炭素から効率よく分離抽出される。
【0020】
次に、液液抽出後の非極性有機溶媒側の成分を回収し、疎水性固体状未燃炭素を含む固体成分と非極性有機溶媒である液体成分を固液分離する(ステップS2)。
【0021】
その後、分離された前記固体成分に対して、塩酸等の無機酸を添加し、固体成分中に含まれる炭酸化合物由来の炭素分を二酸化炭素に変化させて除去する(ステップS3)。
【0022】
無機酸処理を施した後、再び固液分離を行い(ステップS4)、乾燥させて(ステップS5)、排ガス中の有機塩素化合物を吸着することのできる疎水性固体状未燃炭素を主成分とする吸着材が得られる。
【0023】
尚、原料に含まれる疎水性固体状未燃炭素量は、上述のようにして得られた吸着材(残渣)の重量を秤量して当初の原料量をもとに残分率を求め、残分率及び残渣中の炭素量測定値をもとに、以下の計算式を用いて算出することができる。
疎水性固体状未燃炭素量(質量%)=残渣中の炭素量測定値(質量%)×残分率(質量%)/100
【0024】
表1は、本発明に係る吸着材の製造方法を用い、未燃炭素を含有する5種類の原料から疎水性固体状未燃炭素を製造し、その比表面積及びメソ孔の細孔容積を測定した結果を示したものである。ここで、原料Aはセメント原料であり、原料B、C及びEはフライアッシュ、原料Dはオイルコークス燃焼灰である。
【0025】
尚、比表面積及びメソ孔の細孔容積の測定は、島津マイクロメリティクスASP-2400(株式会社島津製作所製)を使用して行った。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果から、本発明に係る吸着材の製造方法を用いることで、廃棄処理が問題となるフライアッシュ等の産業廃棄物等を原料として利用して、有機塩素化合物の吸着に有用な所定基準以上の疎水性固体状未燃炭素からなる吸着材を製造し得ることが分かる。
【0028】
次に、本発明に係る吸着材の使用方法について、図2及び図3を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、本発明に係る吸着材によってセメントキルン排ガスに含まれる有機塩素化合物を吸着除去する場合を例にとって説明する。
【0029】
図2は、本発明に係る吸着材を用いたセメントキルン排ガス処理システム1を示したものである。この処理システム1は、セメントキルン2、プレヒータ3及び仮焼炉5を備えたセメント焼成装置に付設され、大別して、ボイラ等6を通過したプレヒータ3からの排ガスG2に吸着材Aを添加する吸着材添加装置7と、排ガスG2に含まれるダスト及び吸着材Aを集塵する集塵装置8と、集塵されたダスト(有機塩素化合物を吸着した吸着材Aを含む)Dをセメントキルン2の窯尻4に投入する輸送ルート9からなる。
【0030】
セメントキルン2、プレヒータ3、仮焼炉5は、セメント製造装置に一般的に用いられるものであり、これらについての詳細説明は省略する。また、集塵装置8には、セメント製造装置において一般的に使用される電気集塵装置やバグフィルタを用いてもよく、その他の方式からなる集塵装置を用いることもできる。但し、集塵機での温度が高いと、吸着された有機塩素化合物が脱離してしまうため、集塵装置8の内部温度は120℃以下に維持されている必要がある。
【0031】
ボイラ等6とは、排ガスG1を用いて廃熱発電を行うボイラや、排ガスG1の調温・調湿を行うスタビライザ(調湿塔)や、プレヒータ3に供給するセメント原料Rを生成するためのドライヤ、ミル等の原料系の設備である。
【0032】
吸着材添加装置7は、集塵装置8の直前、例えば集塵装置8の入口ダクト8aから吸着材Aを投入することが好ましい。これは、排ガスG1がボイラ等6を通過することにより、温度が300℃以下に低下し、排ガスG2中の有機塩素化合物の一部が生成・再合成するため、この位置で吸着材を添加することで、より効果的に有機塩素化合物を吸着することができるからである。
【0033】
輸送ルート9は、有機塩素化合物を吸着した吸着材Aを含むダストDをセメントキルン2の窯尻4に投入するために備えられる。
【0034】
次に、上記構成を有するセメントキルン排ガス処理システム1の動作について説明する。
【0035】
セメントキルン2の運転時に、プレヒータ3に供給されたセメント原料Rは、プレヒータ3で予熱され、仮焼炉5で仮焼された後、セメントキルン2にて焼成されてセメントクリンカが生成される。一方、セメントキルン2から排出された排ガスは、セメントキルン2の窯尻4、仮焼炉5を経てプレヒータ3から排出され、プレヒータからの排ガスG1をファン等(不図示)を介して集塵装置8に導入する。
【0036】
そして、排ガスG1の有機塩素化合物濃度が所定値以上の場合には、ガス吸着材添加装置7により排ガスG1にガス吸着材Aを添加して有機塩素化合物を吸着する。次に、集塵装置8で回収されたダストDを輸送ルート9を介して直接セメントキルン2の、900〜1000℃と高温の窯尻4へ戻すことで、ダストD中の有機塩素化合物を燃焼分解する。これにより、セメント製造装置からの排ガスG1の有機塩素化合物濃度を低減することができる。ここで、窯尻4に投入されたダストDに含まれるガス吸着材Aの一部が燃焼してしまうため、ガス吸着材添加装置7により排ガスG2にさらにガス吸着材Aを添加する。
【0037】
図3は、集塵装置8で回収された集塵ダストDの疎水性固体状未燃炭素含有率と、集塵装置8の排ガスG3中のダイオキシン類の濃度との関係を示すグラフである。
【0038】
このグラフから明らかなように、集塵装置8で回収された集塵ダストDの疎水性固体状未燃炭素量が増加するに伴い、集塵装置8の排ガスG3中のダイオキシン類の濃度が減少するという負の相関を有していることが分かる。そして、集塵装置8で回収された集塵ダストDの疎水性固体状未燃炭素含有が0.2質量%以上となるように、ガス吸着材添加装置7から集塵装置8の入口ダクト等へ吸着材Aを投入することで、排ガスG3中のダイオキシン類の濃度を環境基準の0.1ng−TEQ/m3N以下に低減することができる。
【0039】
尚、上記実施の形態においては、本発明に係る吸着材をセメントキルンの排ガスに用いた場合について説明したが、セメントキルンの排ガス以外にも、他の焼成装置等から排出されたガスに含まれる有機塩素化合物を吸着除去するのに用いることもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 セメントキルン排ガス処理システム
2 セメントキルン
3 プレヒータ
4 窯尻
5 仮焼炉
6 ボイラ等
7 吸着材添加装置
8 集塵装置
8a 入口ダクト
9 輸送ルート
A 吸着材
D ダスト
G1〜G3 排ガス
R セメント原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の炭素質の粒子であって、比表面積が30m2/g以上、メソ孔の細孔容積が0.03mL/g以上の構造を有する疎水性固体状未燃炭素を含むことを特徴とする排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着材の製造方法であって、前記疎水性固体状未燃炭素を含有する原料を、非極性有機溶媒と水を用いて液液抽出により、該非極性有機溶媒側に含まれる疎水性物質と水側に含まれる親水性物質とに分離し、
該分離した疎水性物質を無機酸処理することにより疎水性固体状未燃炭素を含む吸着材を抽出することを特徴とする排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材の製造方法。
【請求項3】
前記疎水性固体状未燃炭素を含有する原料がフライアッシュ、ボトムアッシュ、オイルコークス、オイルコークス燃焼灰のいずれか1種又は2種以上であるであることを特徴とする請求項2に記載の排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材の製造方法。
【請求項4】
前記非極性有機溶媒は、トルエン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、又は塩化メチルであることを特徴とする請求項2又は3に記載の排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材の製造方法。
【請求項5】
前記無機酸は、塩酸、硫酸、硝酸、又はリン酸であることを特徴とする請求項2又は3に記載の排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の吸着材を、排ガスに添加して排ガス中の有機塩素化合物を吸着除去することを特徴とする排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材の使用方法。
【請求項7】
前記排ガスは、セメントキルン排ガスであって、該セメントキルン排ガスに含まれるダストを集塵する集塵装置で回収されたダストの前記疎水性固体状未燃炭素の含有率が0.2質量%以上であることを特徴とする請求項6に記載のセメントキルン排ガス中の有機塩素化合物を吸着する吸着材の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−111549(P2013−111549A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261663(P2011−261663)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】