説明

接続材料付き半導体素子およびその製造方法

【課題】はんだ接続時の接続不良を低減し、パワー半導体素子を歩留りよく接続することができる接続材料付き半導体素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体材料1の表面に設けられた電極2となる金属層と、前記金属層の表面であって前記半導体材料の表面に接する面とは異なる面上に設けられた、前記金属層を被接続部材に接続させるための接続金属層5と、を備え、前記接続金属層5は、Al濃度が0mass%より大きく10mass%以下であるZn−Al合金、またはZnとAlとを積層させて形成された積層体からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、Pbフリーの接合材料をパワー半導体素子側に備えた接続材料付き半導体素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体パッケージ内部に用いられるはんだ材、あるいはパワー半導体素子(単に半導体素子ともいう。)のダイボンディングに用いられるはんだ材などには、従来、鉛(Pb)を多く含み融点が300℃近傍のはんだ(いわゆる高鉛はんだ)が使用されてきた。
【0003】
例えば、電源や電力などの制御や供給を行うダイオード、トランジスタなどのパワー半導体(単に半導体ともいう。)では、これまで融点300℃程度の高Pbはんだにより、パワー半導体素子をリードフレームなどに接続されることが多かった。その理由は、汎用のパワー半導体素子を用いた半導体パッケージの場合は、半導体パッケージを基板に接続する際のはんだ付けで260℃などに加熱されるので、半導体パッケージ内部でパワー半導体素子とリードフレームを接合するはんだが溶けないように、融点の高い高Pbはんだを使用する必要があったためである。
【0004】
またパワーモジュールと呼ばれるパワー半導体を多数実装する機器では、両面に電極が形成されたセラミック基板の片面に、高Pbはんだを用いてパワー半導体を実装し、もう片方の面は、融点の低いはんだを用いて放熱用のプレートなどに接続してきた。この場合も、融点の低いはんだでセラミック基板とプレートを接続する時に、パワー半導体とセラミック基板との接続部が溶けて不具合が生じることを回避するために、パワー半導体の接続部には、高Pbはんだが用いられてきた。
【0005】
しかし、近年では、環境意識の更なる高まりから、高Pbはんだの代替材料がパワー半導体業界において、強く求められている。そして、このような状況に対応するため、高耐熱なPbフリーはんだとして以下のようなものが提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、Zn−Al−Mg−Ga組成の高温はんだ付け用Zn合金が開示されている。この特許文献1では、共晶温度が340℃付近にあるZn−Al−Mg系3元共晶合金に、Gaを加えることで、高鉛はんだに近い265〜350℃の融点を実現する高温はんだ付け用Zn合金とすることが提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、共晶温度が380℃付近にあるZn−Al系共晶合金に、Ge、Mg、さらにSn、Inを添加することで、共晶温度をPb系はんだ合金に近い高温はんだ付けZn合金とすることが提案されている。
【0008】
特許文献3には、半導体素子とフレームを接続するはんだとして、Zn/Al/Znの三層にクラッドした高温はんだ付きZn合金が提案されている。この高温はんだ付きZn合金は、一般的に強固な酸化膜を形成するAlをZnでクラッドすることで、Al酸化膜の形成を回避して、濡れ性向上を図るものである。
【0009】
また特許文献4には、フレームにSiチップをはんだ付けする鉛フリーはんだとして、Zn−4Al−1In系はんだの表面に、AuまたはAgをコートし、Zn−4Al−1In系はんだの表面の酸化を抑止してぬれ性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−172352号公報
【特許文献2】特開平11−288955号公報
【特許文献3】特開2008−126272号公報
【特許文献4】特開2002−261104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、高Pbはんだの代替材料が種々提案されているが、これら代替材料を用いて、パワー半導体素子をリードフレームなどにはんだ接続する場合、はんだ供給プロセスが重要である。
【0012】
例えば、極めて高価な半導体であるレーザーダイオードをセラミック基板にはんだ接続する場合には、通常、セラミック基板上に、はんだ材料を蒸着によりはんだ膜を形成しておき、接合時に、レーザーダイオードの電極をはんだ膜に押し付けて、加熱してはんだ膜を溶融させて接続するようにしている。
【0013】
このはんだ膜は、蒸着やスパッタで形成するので、通常のはんだ材に比べて高価であるが、レーザーダイオードが極めて高価であるため、高い接続歩留りを確保するため、高品質なはんだ膜つきの基板が用いられてきた。
【0014】
パワー半導体では、従来のSiではなく、損失の少ないSiCやGaNなどの半導体材料を用いた半導体素子も開発され始めている。これらの半導体材料では、Siに比べて欠陥の少ない単結晶を造るのが難しく、半導体素子一つ当たりの価格も高い。このため、このような半導体材料を用いた高価なパワー半導体素子をリードフレームなどの被接続部材に歩留りよく接続するため、高Pbはんだの代替となるはんだ材で、高品質なはんだ膜を形成する必要がある。
【0015】
しかし、一般的なパワー半導体素子の接続プロセスを考えた場合に、上述した高品質なはんだ膜を形成した場合であっても、リードフレームなどの被接続部材との接続が不十分となり、接続不良が発生する可能性がある。
【0016】
例えば、汎用のパワー半導体パッケージを作製する場合、線材、あるいはリボン材に加工されたはんだ材を、リードフレームに押し付けて溶融させ、この溶融したはんだ材の液滴の上からパワー半導体素子を押し付けて接続するものであるが、このような接続プロセスでは、溶融したはんだ材の液滴に酸素が混入し、酸化膜を形成してしまう問題がある。
【0017】
すなわち、パワー半導体素子とリードフレームとの接続面であるはんだ材の表面に酸化膜が存在すると、濡れ性を劣化させることになり、パワー半導体素子およびリードフレームとはんだ材との接続が不十分となる。従って、一般的な接続プロセスでは、パワー半導体素子をリードフレーム上のはんだ材にダイボンディングする際の接続不良によって高い歩留まりが得られない場合があった。
【0018】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、はんだ接続時の接続不良を低減し、歩留りよく接続することができる接続材料付き半導体素子およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、半導体材料の表面に設けられた電極となる金属層と、前記金属層の表面であって前記半導体材料の表面に接する面とは異なる面上に設けられた、前記金属層を被接続部材に接続させるための接続金属層と、を備え、前記接続金属層は、Al濃度が0mass%より大きく10mass%以下であるZn−Al合金、またはZnとAlとを積層させて形成された積層体からなることを特徴とする接続材料付き半導体素子である。
【0020】
請求項2の発明は、前記接続金属層は、前記金属層の表面に接する面と対向する面上に酸化防止金属層が形成されている請求項1に記載の接合材料付き半導体素子である。
【0021】
請求項3の発明は、前記酸化防止金属層は、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、Ptのうちの一つの金属層、またはこれらを複合した金属からなる請求項2に記載の接続材料付き半導体素子である。
【0022】
請求項4の発明は、前記接続金属層は、前記金属層の表面に接する面と対向する面上に、Al、Ti、Cr、Wのいずれかの金属からなる拡散抑制層、および前記酸化防止金属層がこの順に積層されている請求項2又は3に記載の接続材料付き半導体素子である。
【0023】
請求項5の発明は、前記酸化防止金属層の厚さは、10μm以下である請求項2〜4のいずれかに記載の接続材料付き半導体素子である。
【0024】
請求項6の発明は、半導体材料の表面に設けられた電極となる金属層と、前記金属層の表面であって前記半導体材料の表面に接する面とは異なる面上に設けられた、前記金属層を被接続部材に接続させるための接続金属層と、を備えた半導体素子の製造方法において、前記接続金属層は、Al濃度が0mass%より大きく10mass%以下であるZn−Al合金、またはZnとAlとを積層させて形成された積層体からなると共に該積層体を蒸着法またはスパッタ法によって形成することを特徴とする接続材料付き半導体素子の製造方法である。
【0025】
請求項7の発明は、前記接続金属層に、Al、Ti、Cr、Wのいずれかの拡散抑制層、酸化防止金属層を蒸着法またはスパッタ法によって、さらに形成する請求項6記載の接続材料付き半導体素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、例えばパワー半導体のダイボンディングなどに、従来使用されてきた高鉛はんだの代替材料である鉛フリーはんだ材として、Zn−Al系はんだ材料を適用する際に、パワー半導体の電極(金属層)にZn−Al系はんだ材料を蒸着やスパッタ等にて予め形成しておくことで、リードフレームとの接合時に高い歩留りで接続できる半導体素子、およびその製造方法を提供することができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の接続材料付き半導体部品の一実施の形態を示す図である。
【図2】本発明において、接続金属層の構成の一例を示す図である。
【図3】本発明において、接続金属層の構成の他の例を示す図である。
【図4】本発明において、接続金属層の構成のさらに他の例を示す図である。
【図5】Zn−Al系合金の平衡状態図である。
【図6】図2に示した接続金属層に酸化防止金属層を設けて構成した接続金属層の一例を示す図である。
【図7】図4に示した接続金属層に拡散抑制層と酸化防止金属層を設けて構成した接続金属層の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0029】
図1は接続材料付き半導体素子の断面図を示したものである。
【0030】
図1において、Si、あるいはSiO、GaAs、GaNなどからなる半導体材料1の下面には、コレクタ電極2が形成され、上面には、エミッタ電極3、ゲート電極4が形成される。半導体材料1とコレクタ電極2である金属層からなる半導体素子Dの表面には、すなわち、金属層の表面であって半導体材料1の表面に接する面とは異なる面(図1では半導体材料1の表面に接する面と対向する面)上には、金属層を被接続部材に接続させるための接続金属層5が形成され、本発明の接続材料付き半導体素子Sが構成される。
【0031】
なお、本実施の形態では、コレクタ電極2を金属層として、その表面上に接続金属層5を形成した例で説明するが、これに限定されず、エミッタ電極3やゲート電極4を金属層として、その表面上に接続金属層5を形成することであっても構わない。
【0032】
接続金属層5は、Al濃度が0mass%より大きく10mass%以下であるZn−Al合金、またはZnとAlとを積層させて形成された積層体からなるもので、コレクタ電極2の表面に蒸着法またはスパッタ法によって形成する。
【0033】
このような接続金属層5の形成は、ダイシング前のパワー半導体素子、電極が形成された半導体ウェハに、レジストによるマスク(A)、あるいはメタルマスク(B)を用いて、蒸着やスパッタで形成することができる。
【0034】
レジストマスク(A)を用いる場合は、二通りの方法が挙げられる。
【0035】
一つ目の方法(A−1)は、半導体ウェハに、接続金属層を蒸着かスパッタにより所定の厚さで全面に形成し、その上にレジストをスピンコートして、ベーク、露光、ベーク、現像という処理で接続金属層を形成すべき部分以外にレジストが無いレジストパターンを形成し、その後ミリングあるいはエッチングにより余分な接続金属層を除去し、最後にレジストを除去、洗浄することで電極上に、パターン化された接続金属層5を形成する、という方法、いわゆる、ミリング法、エッチング法と呼ばれている方法で形成する。
【0036】
レジストマスクを用いる場合のもう一つの方法(A−2)は、電極形成まで完了した半導体ウェハに、レジストをスピンコートする。次にベーク、露光、ベーク、現像という処理で、接続金属層が形成されるべき場所に穴があいたレジストパターンを形成する。そして、蒸着やスパッタにより接続金属層を形成する。レジストパターンの穴のあいた部分では、接続金属層が電極に直接接触して密着する。その後、テープなどを利用して、レジストパターン上に形成されている接続金属層を剥ぎ取る。最後にレジストパターンを除去、洗浄することで、パターン化された接続金属層5を形成する。この方法はいわゆるリフトオフと呼ばれる方法である。
【0037】
A−1のミリング法やエッチング法のメリットは、接続金属層のパターンの輪郭がきれいにできることである。一方、接続金属層以外の部分が、ミリングやエッチングによりダメージを受ける可能性がある。A−2のリフトオフ法のメリットは、接続金属層以外の部分がダメージを受けないが、接続金属層の外周の輪郭がきれいにならず、バリが含まれる場合がある、というデメリットがある。
【0038】
もう一つの方法は、メタルマスク(B)を用いる方法である。
【0039】
メタルマスクは、金属箔をエッチングすることで穴をあけたもので、このメタルマスクを半導体ウェハに密着させ、治具などを用いて固定し、その状態で蒸着やスパッタを用いて、接続金属層を成膜する。メタルマスクの穴を通過した金属粒子が電極上に堆積して、接続金属層5が形成される。
【0040】
メタルマスク(B)のメリットは、工程が簡略であること、マスクの繰り返し使用が可能であること、デメリットは、メタルマスクと半導体ウェハの間に隙間があると、そこに金属粒子が入り込んで、意図しない部分に接続金属層のパターン形成される場合があること、などである。
【0041】
上記に述べたA、Bの方法のいずれにもメリット、デメリットがある。レジストパターンを用いる場合は、レジストパターンの厚さが薄いと、リフトオフがうまく出来ないことがある。
【0042】
また接続金属層5が厚いと、ミリングやエッチングでパターン形成する場合、レジストの下も、端から徐々に削られる、いわゆるサイドエッチングの問題もある。したがって、数μm程度の比較的薄い接続金属層5を得る場合は、レジストパターンを用いる方法が適している。厚い接続金属層5を得たい場合は、メタルマスクを厚くして、メタルマスク上に堆積した金属粒子と、電極上に堆積した金属粒子がつながらないようにしてやれば、対応できるので、メタルマスクを用いる方法は、厚い接続金属層5に向いている。
【0043】
一般にパワー半導体素子を、リードフレームや基板に接続する場合、従来技術で述べたように、パワー半導体素子とリードフレームや基板などの被接続材料間に接続金属層を介在させ、パワー半導体素子を押し付けて接続する。しかし、接続金属層の表面に酸化膜が形成されている場合には、それが濡れ性を阻害する懸念がある。
【0044】
本発明においては、接続金属層5を、蒸着法またはスパッタ法にてパワー半導体材料1と金属層(コレクタ電極2又はエミッタ電極3)からなる半導体素子Dに予め形成しておくことで、酸化膜による影響をなくすことができるようにしたものである。
【0045】
すなわち、蒸着装置やスパッタ装置などでは、蒸着やスパッタ等の真空下にて接続金属層を形成するものであり、コレクタ電極2又はエミッタ電極3である金属層と接続金属層5間には酸化膜は存在せず、またその後接続金属層5をリードフレームにはんだ接合する際には、その接続設備では、例えば、スパッタやミリング、あるいはプラズマ洗浄などを備えており、接続金属層5を形成した後に、仮に接続金属層5の表面の酸化膜が形成されていても、接続時に、その酸化膜を除去してから接続できるため、接続金属層の形成後に、仮にその表面に酸化膜が形成されていても、それ程大きな問題とならない。
【0046】
次に、図2〜図5により、接続金属層5の具体的な実施形態を説明する。
【0047】
図2は、本実施の形態に係る接続材料付き半導体素子Sにおいて、接続金属層5から半導体材料1までの積層構造を示す拡大断面図である。
【0048】
パワー半導体材料1の下面に、電極層6、電極表面層7からなるコレクタ電極2が形成されて半導体素子Dが構成される。電極層6は、半導体材料1とのオーミックコンタクト、密着性を考慮して形成されている。電極表面層7は、Au、Ag、Cu、Ni、Pt、Pdなどが好適である。
【0049】
この電極表面層7の下面に、電極表面層7側からZn層8、Al層9が順次形成されて接続金属層5が構成されている。Zn層8を形成する前に、電極表面層7の表面をクリーニングした方が、Zn層8との密着を高めることができる。Zn層8を形成してから、Al層9は、蒸着、あるいはスパッタの真空槽をあけることなく、連続で成膜する。
【0050】
その理由は、途中で真空槽をあけてしまうと、表面が酸化され、層間の密着が得られなくなるためである。
【0051】
Zn層8、Al層9の厚さの比は、例えばZn9:Al1.5などが好適である。このような比にすることで、Zn−6Al共晶(融点382℃)組成となる。この比をそのまま厚さとすると、例えば、Zn9μm、Al1.5μmになり、トータルの厚さが10.5μmの接続金属層5となる。
【0052】
図3は、半導体素子Dの下面に形成する接続金属層5としてのZn層8とAl層9の配置を、図2の配置と逆にしたものであり、電極表面層7の下面に、電極表面層7側からAl層9、Zn層8がこの順で形成されて接続金属層5が構成されている。製造方法や、厚さ、組成については図2の実施の形態と同様である。
【0053】
図4は、半導体素子Dの下面に形成する接続金属層5としてのZnとAlを分離せず、Zn−Al合金層10を形成して接続金属層5を構成するものである。Zn−Al合金層の厚さは、数μm以上、10μm以下程度が好適である。
【0054】
これまでに述べたZnとAlからなる接続金属層5は、組成はZn−6Al共晶組成が好適ではあるが、必ずしもこの組成に限定されるものではない。
【0055】
図5に、Zn−Al系共晶合金の平衡状態図を示す。
【0056】
図5において、lは液相線、sは固相線で、Alの融点660.452℃、Znの融点419.58℃であり、共晶温度は381℃、共晶点はZn濃度94.0mass%、Al濃度6.0mass%である。
【0057】
パワー半導体素子の接続には、耐熱性の観点から純Znを適用することは可能である。したがって、純Znの融点(419.58℃)と同等の温度である図示の一点鎖線と液相線lが交わるZn濃度は90mass%、Al濃度は10mass%であり、Al濃度が0mass%より大きく10mass%以下の範囲のZn−0〜10Alは、接続に用いることができ、その溶融温度は、共晶点(Zn濃度94.0mass%、Al濃度6.0mass%)の381℃から純Znの融点、Zn−10Alの溶融温度である419.58℃の範囲にあるものを用いることができる。
【0058】
図2、図3、図4に示した実施の形態では、Zn、Alがいずれも表面を露出した状態となっている。この状態は、表面の酸化膜による濡れ不良の懸念があるので、リードフレームと接続する際には、事前の酸化膜除去が必要であるが、それでも酸化膜の除去が不足の場合は接続時の半導体素子のスクラブ(擦りつけ)を念入りに行う必要がある。
【0059】
酸化膜除去ができるような特殊な接続設備は、設備自体のコストが大きくなる。より一般的な、熱圧着のみで接続できるような設備では、接続金属層の表面の酸化を抑制する必要がある。このためには、接続金属層5の表面に、すなわち金属層の表面に接する面と対向する面上に、酸化防止金属層を形成するのが好適である。このような酸化防止金属層としては、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、Ptのうちの一つからなる金属、またはこれらを複合した金属が好適である。
【0060】
このような酸化防止金属層は、図2、図3、図4に示した実施の形態において、図2の例では、Al層9に連続して、図3の例ではZn層8に連続して、図4の例では、Zn−Al合金層10に連続して、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、Ptのうちの一つ或いはこれらを複合した金属を、蒸着、あるいはスパッタで酸化防止金属層を形成する。つまり、酸化防止金属層は、Al層9、Zn層8、Zn−Al合金層10の表面上にそれらの層と接するように設けられている。
【0061】
このように接続金属層5の表面に酸化防止金属層を形成することにより、接続金属層5の表面酸化が抑制され、濡れ性を向上させることができる。
【0062】
なお、酸化防止金属層がZn層8やZn−Al合金層10に接するように連続して形成された場合、酸化防止金属層へのZnの拡散が速いため、酸化防止金属層による酸化防止の効果をより安定して得られるようにZn層8、あるいはZn−Al合金層10と酸化防止金属層の間に、拡散抑制層を配置することで、酸化防止金属層へのZnの拡散を抑制することがよい。
【0063】
拡散抑制層には、Al、Ti、Cr、Wなどの金属が好適である。これらの金属を用いる場合に注意すべきことは、本質的に拡散を抑制できる金属は、溶融時に溶解しにくいということである。このため拡散抑制層の形成では厚さに注意する必要がある。Ti、Cr、Wは、融点が高い金属であるため、溶解が遅い。したがって、厚さは0.05〜0.2μm程度の厚さとすべきである。一方、Alは、Znの拡散抑制効果が得られる金属でありながら、Zn−Alはんだの成分でもある。したがって、Zn層、Zn−Al層の表面上にAl層を配置することでAl層の拡散抑制効果を得ることができる。
【0064】
図6は、図2で説明した実施の形態において、Zn層8、Al層9で構成された接続金属層5のAl層9の下面に、酸化防止金属層の一例としてCu層11を形成した実施の形態を示したものである。
【0065】
この図6に示す実施の形態においては、Al層9の下面に、酸化防止金属層としてCu層11を形成することで、Al層9が、接続金属層5を構成するのと同時に拡散抑制層としての機能も発揮するものである。
【0066】
Zn層8、Al層9、Cu層11の厚さの比は、例えばZn9:Al1.5:Cu0.1などが好適である。このような比にすることで、Zn−6Al共晶(融点382℃)にCuが僅かに添加された組成となる。この比をそのまま厚さとすると、例えば、Zn9μm、Al1.5μm、Cu0.1μmになり、トータルの厚さが10.6μmの接続金属層5となる。
【0067】
このような構成とすることで、Al層がZnの拡散を抑制し、Cu層による酸化抑制効果を長期間得ることができる。
【0068】
また、図3で説明した実施の形態の接続金属層5では、その下面にZn層8が、図4で説明した実施の形態の接続金属層5では、その下面にZn−Al合金層10が形成され、これら層に酸化防止金属層であるCu層11を直接形成するとZnがCu層11に拡散してしまう。
【0069】
そこで、図4で説明した実施の形態において、酸化防止金属層を形成する場合には、図7に示すように、Zn−Al合金層10の表面に、拡散防止層としてのAl層9、酸化防止金属層の一例としてCu層11を形成することが好ましい。
【0070】
接続金属層5の厚さは数μm〜10μm程度が好適である。Zn−Al合金層10の組成を、例えばZn−5Alにしておき、拡散防止層としてのAl層9の厚さは、ちょうど接続金属層5の平均組成がZn−6Alとなるような厚さを選択することで、全体を共晶近傍の組成とすることができる。
【0071】
また酸化防止金属層であるCu層11の厚さは、0.1μmなどが好適である。
【0072】
なお、すべての実施の形態で、原理的には、ZnやAlを厚く形成し、それに伴い酸化防止金属層を厚くして酸化を防止することができるが、本発明では、酸化防止金属層の厚さの上限を10μm、接続金属層の厚さの上限を20μmとする。
【0073】
その理由は、極端に厚いはんだ材を形成するのは不経済であること、あまりに厚い接続金属層では、はみ出してショートする可能性が高くなるためである。
【0074】
次に、接続金属層、酸化防止金属層の各層厚と組成比の具体例を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1において、比較例1、2は、純Znで層厚を、それぞれ5μm、10μmにして接続金属層を形成したもの、実施例1、2は、Zn−10Al合金で層厚を、それぞれ5μm、10μmにして接続金属層を形成したもの、比較例3、4は、比較例1、2の接続金属層に酸化防止金属層としてCu層を、層厚0.05μm、0.10μmにそれぞれ形成したもの、実施例3、4は、Zn−6Al合金で、層厚を、それぞれ5μm、10μmにして接続金属層を形成し、さらにCu層を、層厚0.05μm、0.1μmにそれぞれ形成したもの、実施例5、6は、純Znで層厚を、それぞれ4.5μm、9μmにし、そのZn層の表面上にAl層を、それぞれ0.75μm、1.5μmにして積層してZn/Al積層体からなる接続金属層を形成し、さらにCu層を、層厚0.05μm、0.1μmに、それぞれ形成したものである。
【0077】
比較例1、2は、純Znで接続金属層が形成されているため、Alと同様に酸化膜が形成されやすく、また比較例3、4は、酸化防止金属層のCuを形成しても、CuにZnが拡散してしまい、酸化膜が形成されやすい。
【0078】
これに対して、実施例1、2は、Zn−10Al合金で層厚を、それぞれ5μm、10μmにして接続金属層を形成しており、また実施例3、4は、Zn−6Al合金からなる接続金属層にCu層からなる酸化防止金属層を形成したものであり、リードフレームとの濡れ性がよい。
【0079】
ここで、最も濡れ性に優れるのは、実施例5、6の構成である。
【0080】
ここでは実施例6を具体的な例として説明する。
【0081】
実施例6は、層厚が10.6μmとなるので、メタルマスクを用いた方が作製しやすい。具体的には、メタルマスクをデバイス、電極を形成したSiウェハからなる半導体材料の表面上に治具を用いて固定し、その治具をスパッタ装置、あるいは蒸着装置にセットする。そして、Znを9μm、Alを1.5μm、Cuを0.1μmで成膜して接続材料付きの半導体素子を形成する。
【0082】
治具から半導体素子を取り出し、ダイシングした後、各半導体素子は、ダイボンド装置でダイシングテープからピックアップされて、390℃などに加熱されたリードフレームに押し付けられて、接続金属層が溶融してリードフレームに接続される。
【0083】
上記に述べた構成が最適である理由を述べる。
【0084】
まず、酸化防止金属層としては最も低価格なCuが好適である。Cuは酸化するが、一般的に半導体素子は還元雰囲気中で接続されるため、Cuの酸化は問題とならない。
【0085】
Zn/Al積層体のAl層は拡散抑制層としての機能も果たすと同時に、Znと共晶して溶解する、接続金属層としての一成分でもある。したがって、固体状態では拡散を抑制し、溶融するときには、溶解性に優れる。接続金属層の全体の厚さについては、数μmで接合は可能であるが、薄くなるほど、半導体素子を強い力で押し付ける必要がある。10μm程度の厚さがあれば、比較的小さい力の押し付けで接続できる。
【0086】
Cu以外の酸化防止金属層として、Au、Ag、Ni、Pt、Pdなどを用いることができる。これらの金属はCuよりも値段が高い傾向があり、高コストとなるが、厚さを薄くすれば、コスト的に問題なく使用できる。
【0087】
また、拡散抑制層として、Cr、Ti、Wなどを用いることができる。これらの金属は、高融点な金属であり、溶融しにくいが、これらの金属を用いる場合は、厚さを薄くして用いれば容易に溶融できる。
【符号の説明】
【0088】
1 半導体材料
2 コレクタ電極(金属層)
5 接続金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体材料の表面に設けられた電極となる金属層と、前記金属層の表面であって前記半導体材料の表面に接する面とは異なる面上に設けられた、前記金属層を被接続部材に接続させるための接続金属層と、を備え、前記接続金属層は、Al濃度が0mass%より大きく10mass%以下であるZn−Al合金、またはZnとAlとを積層させて形成された積層体からなることを特徴とする接続材料付き半導体素子。
【請求項2】
前記接続金属層は、前記金属層の表面に接する面と対向する面上に酸化防止金属層が形成されている請求項1に記載の接合材料付き半導体素子。
【請求項3】
前記酸化防止金属層は、Au、Ag、Cu、Ni、Pd、Ptのうちの一つの金属層、またはこれらを複合した金属からなる請求項2に記載の接続材料付き半導体素子。
【請求項4】
前記接続金属層は、前記金属層の表面に接する面と対向する面上に、Al、Ti、Cr、Wのいずれかの金属からなる拡散抑制層、および前記酸化防止金属層がこの順に積層されている請求項2又は3に記載の接続材料付き半導体素子。
【請求項5】
前記酸化防止金属層の厚さは、10μm以下である請求項2〜4のいずれかに記載の接続材料付き半導体素子。
【請求項6】
半導体材料の表面に設けられた電極となる金属層と、前記金属層の表面であって前記半導体材料の表面に接する面とは異なる面上に設けられた、前記金属層を被接続部材に接続させるための接続金属層と、を備えた半導体素子の製造方法において、前記接続金属層は、Al濃度が0mass%より大きく10mass%以下であるZn−Al合金、またはZnとAlとを積層させて形成された積層体からなると共に該積層体を蒸着法またはスパッタ法によって形成することを特徴とする接続材料付き半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記接続金属層に、Al、Ti、Cr、Wのいずれかの拡散抑制層、酸化防止金属層を蒸着法またはスパッタ法によって、さらに形成する請求項6記載の接続材料付き半導体素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−80863(P2013−80863A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221027(P2011−221027)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】