説明

搬送システム

【課題】一定量の被搬送物質たる液体を、目的エリアまで安定的に搬送可能とする。
【解決手段】滴状の液体が停留するための第一及び第二の停留エリア17a,17bと、第一の停留エリア17a内の滴状の液体を第二の停留エリア17bに搬送するための弾性波18を励振する搬送電極14と、を基板12の搬送面上に備え、第一の停留エリア17a内の滴状の液体が弾性波18により搬送面上を搬送され、第二の停留エリア17b内では、搬送された液体が、第一の停留エリア17a内の液体と略同量で且つ滴状に停留するように、搬送面上の液体に対する親和性に高低差が設けられている構成とした。例えば、搬送経路16a,16bと低親和性領域19とによって、搬送面上の液体に対する親和性に高低差が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面上に発生させた弾性波の伝搬を利用して、例えば溶液などの液体を搬送する搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術を利用して、基板(チップ)上に、微少量の液体(特に、溶液)が流れる溝状の微小流路(マイクロ流路)のネットワークを形成し、さらにネットワーク上にポンプ、バルブ、センサや微小分析器等を配置して、微少量の液体(特に、溶液)の搬送、混合、分注、検出、分析等の各処理を1チップ上で行えるようにした化学分析システムを構築する試みがなされている。
【0003】
上記のような、1チップ上にマイクロ流路のネットワークを形成し、またポンプ、バルブ、センサ等の各要素を小型化し、マイクロ流路のネットワーク上に集積化した化学分析システムは、μTAS(Micro Total Analysis System)あるいはLab−on−a−chip(チップ上の実験室)と呼ばれている。そして、このシステムは、システム・装置の小型化及び低コスト化を図れる点、微量のサンプルで分析・測定が可能な点、溶液サンプルの分析で生じる廃液の量を低減できる点、測定時間の短縮化を図れる点、などの利点があるとして、注目されている。
【0004】
しかし、上記のような化学分析システムでは、チップを小型化できても、ポンプ等の各要素の開発・小型化、及び小型化した各要素の集積化は、実際上は非常に困難である。また、ポンプにより溝状のマイクロ流路内を搬送される液体(溶液)に対してマイクロ流路の側壁部分の面積が非常に大きいため、液体(溶液)と側壁部分との接触面積が大きくなり、搬送中に液体(溶液)が側壁部分に吸着してしまう。そして、こうした吸着状態は、液体(溶液)の搬送において搬送抵抗となり、搬送効率の低下を招く。
【0005】
そこで、上記のような化学分析システムにおいて、溝状のマイクロ流路による液体の搬送技術に替えて、弾性波の伝搬を利用した搬送技術を適用することで、上記問題を解消することが可能となる。
【0006】
この弾性波の伝搬を利用した搬送技術については、弾性波の伝搬を利用して物体を搬送する装置として、例えば下記特許文献1に記載されている。この装置は、レイリーモード弾性波を発生する圧電材料及びカット面からなる圧電基板と、圧電基板表面上に、レイリーモード弾性波を励振させる入力用電極と、を含む構成を有している。そして、入力用電極からの弾性波が伝搬する伝搬経路上に液体を供給し、電気信号を入力用電極に加えて圧電基板より弾性波(レイリー波)を励振させると、基板上を伝搬して液体中に入った弾性波は、伝搬面と液体の界面を伝搬しながら液体中に縦波を放射するため、この放射を受けた液体が、放射エネルギーによって弾性波の進行方向に流動する。このような原理により、被搬送物質としての液体を、弾性波を用いて搬送することを可能としている。
【0007】
以上のように、上記のような化学分析システムにおいて、溝状のマイクロ流路に替えて弾性波による搬送経路(弾性波が伝搬する伝搬経路)のネットワークをチップ上に形成させることで、溝状のマイクロ流路で生じる上記問題を解消し、効率的な搬送を行うことができるようになる。
【0008】
【特許文献1】特開平10−327590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、弾性波の伝搬を利用して液体の搬送を行う場合、液体(溶液)と基板表面との間でも、液体の基板表面への吸着現象は生じる。そして、この吸着現象が生じる状態で、弾性波による液体の搬送を行うと、被搬送物質である液体は、搬送方向に伸長した状態で搬送される。そして、搬送が停止すると、この液体は、表面張力によって自然な形状(例えば水であれば、円形状)に戻ろうとするが、搬送後の停止状態の液体には、液体と基板表面との間の吸着力が、表面張力により自然な形状に戻ろうとする力に対する抵抗力として働くため、結果的には、これらの力が釣り合った状態の形状で停止する。具体的には、搬送停止後の液体は、搬送方向に伸長した状態で停止する。
【0010】
ここで、上記のように被搬送物質である液体が搬送方向に伸長した状態で停止する現象が生じると、搬送システムにおいて以下のような問題点が生じることとなる。この問題点について、図8のような構成を有する搬送システム100を例にとって以下説明する。
【0011】
図8の搬送システム100では、まず、基板102上の第一の搬送経路106a上に液体200を供給し、第一の電極104aに高周波信号を入力して弾性波108aを第一の搬送経路106a上に伝搬させ、この弾性波108aを利用して、供給された液体200を第一の搬送経路106a上で搬送する。そして、第一の搬送経路106aと第二の搬送経路106bとの合流地点まで液体200が搬送されると、続いて第二の電極104bに高周波信号を入力して弾性波108bを第二の搬送経路106b上に伝搬させ、この弾性波108bを利用して、液体200を第二の搬送経路106b上で搬送する。こうして、被搬送物質である液体200を、第一の搬送経路106a及び第二の搬送経路106bを介して目的のエリア110まで搬送するようになっている。
【0012】
ところが、第一の搬送経路106a上における搬送処理を停止したときに、第一の搬送経路106aと第二の搬送経路106bとの合流地点において液体200が搬送方向に伸長した状態で停止すると、このような伸長した形状の液体200に第二の電極104bからの弾性波108bを当てても、液体200の全体に弾性波が当たらずに一部にだけしか当たらないといった事態が起こり得る。つまり、図8に示すように、第一の搬送経路106a上で搬送された液体200の一部が第二の搬送経路106b上で搬送されるといった事態が起こり得る。したがって、第一の搬送経路106a及び第二の搬送経路106bを介して目的のエリア110まで搬送される液体200の量は、第一の搬送経路106a上に当初供給された量よりも少量となり、上記のような搬送システム100では、当初の供給量を維持したまま目的のエリア110まで搬送できないといった問題が生じてしまう。
【0013】
そして、このような問題が生じることにより、他の問題が派生し得る。例えば上記の目的エリア110で被搬送物質である液体200のセンシング処理を行うといった場合、センシングに必要量の液体200を目的エリア110内に搬送しようとして、その必要量と同量の分だけ供給し搬送しても、目的エリア110内まで搬送された液体200は当該必要量以下となるため、量の不足によって正確なセンシングができないといった問題が生じ得る。
【0014】
また、必要量の液体200を目的エリア110内に供給しようとすれば、目的エリア110内には供給した液体200の一部しか搬送されないという点を考慮して、その必要量以上の液体200を供給しなければならないため、液体200を無駄に使用することとなる。従って、必要量以上の液体200を使用することで、処理後の液体200の廃棄物が無駄に多く発生することとなり、好ましくない。これに関しては、例えば血液を被搬送物質として適用する場合、必要量以上に血液を供給しなければならないこととなるため、必要量以上の血液を採取される被験者への負担が増大するといった問題も生じ得る。
【0015】
そこで、本発明の目的は、一定量の被搬送物質たる液体を目的エリアまで安定的に搬送可能な搬送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の搬送システムは、滴状の液体が停留するための第一及び第二の停留エリアと、
第一の停留エリア内の滴状の液体を第二の停留エリアに搬送するための弾性波を励振する電極と、を基板の搬送面上に有し、第一の停留エリア内の滴状の液体が弾性波により搬送面上を搬送され、第二の停留エリア内では、搬送された液体が、第一の停留エリア内の液体と略同量で且つ滴状に停留するように、搬送面上の液体に対する親和性に高低差が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
また、上記の搬送システムにおいて、弾性波によって液体が搬送される搬送経路が、第一の停留エリアから第二の停留エリアに伸びており、この搬送経路の両側には、搬送経路よりも液体に対する親和性の低い領域が、搬送方向に沿って形成されているようにするのが好適である。
【0018】
また、上記の搬送システムにおいて、第一及び第二の停留エリア間の搬送面上には、第一の停留エリアから両停留エリア間の任意位置までの区間では液体に対する親和性が徐々に低くなり、この任意位置から第二の停留エリアまでの区間では親和性が徐々に高くなるように、親和性の高低差が設けられているようにしても良い。
【0019】
さらに、上記の搬送システムにおいて、第一の停留エリアと第二の停留エリアとの間の距離は、電極への1パルス分の入力信号により発生した弾性波によって搬送面上を液体が搬送される距離とするのが好適である。
【0020】
また、上記の搬送システムにおいて、第一の停留エリアの搬送方向下流側には、電極からの弾性波によらずに液体が搬送経路上に移動するのを防ぐため、搬送経路よりも液体に対する親和性の低い領域が形成されているようにすると良く、また第二の停留エリアの搬送方向上流側には、搬送経路上から搬送された液体が搬送経路上に戻るのを防ぐため、搬送経路よりも液体に対する親和性の低い領域が形成されているようにすると良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の搬送システムによれば、一定量の被搬送物質たる液体を、目的エリアまで安定的に搬送することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明の第一の実施形態における搬送システムについて、図1を参照して説明する。図1の搬送システム10は、例えば水晶基板や圧電基板(例えばLiNbO基板やLiTaO基板等)またはガラスやシリコン等の基板表面に圧電薄膜(例えばZnOやAlN等)を有する基板などといった基板12の表面上に、弾性波を発生(励振)する弾性波発生手段14を備えた構成となっている。
【0023】
図1の搬送システム10における弾性波発生手段14は、高周波信号を発生させる駆動回路30に接続されている櫛型電極(搬送電極)である。この電極14は、駆動回路30からの高周波信号の入力によって、被搬送物質である液体を搬送するための弾性波18を励振する。
【0024】
本実施形態における駆動回路30は、例えば図2のような構成のものである。この駆動回路30によれば、まず信号発生器(Signal Generator)32から例えば図3の上段のような信号Aが発生し、パルス信号発生器34から図3の中段のようなパルス信号Bが発生する。そして、これらの信号A,Bは乗算器36で乗算された後に増幅器38で増幅され、図3の下段のような信号Cとなり、この信号Cが櫛型電極(搬送電極)14に入力される。こうして搬送電極14には間欠的に(1パルス毎に)高周波信号が入力される。そして、この1パルス分の高周波信号により励振された弾性波18が搬送可能な距離分だけ、液体は搬送されることとなる。
【0025】
また、基板12の表面には、搬送電極14の配置により、搬送電極14からの弾性波18の伝搬によって液体が搬送される搬送経路(弾性波の伝搬経路)が形成される。図1の搬送システム10では、第一の搬送経路16a及び第二の搬送経路16bが直線的に並んだ状態で形成されている。
【0026】
そして、図1に示すように、第一の搬送経路16aの一端には第一の停留エリア17aが形成され、他端(すなわち、第一の搬送経路16aと第二の搬送経路16bとの合流地点)には第二の停留エリア17bが形成され、さらに第二の搬送経路16bの他端には第三の停留エリア17cが形成されている。なお、本実施形態では、第一の停留エリア17aが、液体をこの搬送経路16a上に供給するための供給エリアとして機能する。
【0027】
これら停留エリア17a〜17cは、被搬送物質である液体が自然な形状で存在することができるように構成されたエリアである。例えば、被搬送物質として溶液が搬送される場合、この溶液は、停留エリア17a〜17c内においては、表面張力の影響により、自然な形状(例えば図1の符号20aのような円形状)の状態で存在する。本実施形態では、図1に示すように、基板12の被搬送物質(液体)に対する親和性よりも低い親和性を有する低親和性領域(被搬送物質が水である場合には、例えば疎水性ポリマー膜により形成された領域)19で囲うことで、弾性波の励振を阻害することなく停留エリア17a〜17cを形成している。ただし、液体が自然な形状の状態で安定的に存在でき、且つ搬送経路上に安定的に移動可能であれば、停留エリア17a〜17cの周囲をこのような低親和性領域で囲う必要はない。
【0028】
一方、各搬送経路16a,16bにおいても、基板12の被搬送物質(液体)に対する親和性よりも低い親和性を有する低親和性領域19が、各搬送経路16a,16bに沿って配置されている。例えば図1では、このような低親和性領域19が、それぞれ搬送経路16a,16bの両側に当該搬送経路16a,16bに沿って、自然な形状状態の液体20aの大きさ(搬送経路16a,16bの幅方向の大きさ)に比べて狭い幅だけ間隔を空けて設けられている。
【0029】
なお、上記のような低親和性領域19は、基板12の被搬送物質(液体)に対する親和性よりも低い(あるいは非親和性を有する)親和性を有する膜により形成しても良く、あるいは、基板12への表面処理によって搬送経路16a,16bの両側に当該搬送経路16a,16bに沿って形成しても良い。ここで、基板12上に親和性領域や非親和性領域を形成するための表面処理としては、シランカップリング処理等の化学的方法や基板のドライ洗浄(プラズマやオゾンによる)等がある。
【0030】
次に、上記のような構成を有する搬送システム10による液体の搬送処理について説明する。まず、供給エリアとして機能する第一の停留エリア17aに被搬送物質である液体20aを供給して搬送電極14に高周波信号を入力すると、この搬送電極14で励振された弾性波18の伝搬により、供給された液体20aは、第一の停留エリア17aから第二の停留エリア17bに向かって、搬送方向に伸長した状態で第一の搬送経路16a上を搬送される。
【0031】
このとき、第一の搬送経路16a上を搬送中の液体20bは、親和性の低い低親和性領域19上を移動するよりも、低親和性領域19間の親和性の高い部分(図1では低親和性領域19間に露出する基板表面上、すなわち第一の搬送経路16a上)を極力移動しようとする。換言すれば、搬送中の液体は、低親和性領域19とは接触角が大きく、すなわち密に接触せずに移動し、一方で低親和性領域19間の第一の搬送経路16aとは接触角が小さく、すなわち密に接触しながら、移動する。つまり、搬送中の液体20bは、低親和性領域19とは極力接触せずに第一の搬送経路16a内に収まるよう、第一の搬送経路16aの幅方向に圧縮されて変形したような状態となり、このような変形状態のまま第一の搬送経路16a上を搬送される。
【0032】
そして、第一の搬送経路16a上を搬送される液体20bの一部が第二の停留エリア17b内に入り込むと、この液体20bには、第二の停留エリア17b内では、表面張力により、第一の搬送経路16a上での変形状態から自然な形状の状態に戻ろうとする力が働く。またこれと同時に、この戻ろうとする力に対する抵抗力も第一の搬送経路16aへの吸着により生じる。しかし、第一の搬送経路16aと液体20bとの接触面積は、従来の搬送経路(低親和性領域19の存在しない場合の搬送経路)上における液体と該従来の搬送経路との接触面積よりも小さくなるため、搬送経路への吸着により生じる抵抗力も従来に比して小さくなる。その結果、図1の符号20cに示すように、表面張力により第二の停留エリア17b内で自然な形状の状態に戻ろうとする力(液体20cの矢印)は、第二の停留エリア17bに入っていない部分(第一の搬送経路16a上に未だ存する部分)にも十分働くこととなる。そして、この第二の停留エリア17b外に存する部分も第二の停留エリア17b内に収まろうとして引き込まれていき、最終的には、液体の全体が、第二の停留エリア17b内に引き込まれ、符号20aと同様の自然な形状で第二の停留エリア17bに収まることとなる。こうして、被搬送物質である液体は、従来のように伸長した液体の一部が搬送経路上に残留することなく、第一の搬送経路16a上から第二の停留エリア17bに送り渡される。
【0033】
以上のように、図1のような構成の搬送システム10によれば、基板表面(搬送面)上において、第一の停留エリア17aに供給された量と略同量の被搬送物質(液体)20aを、第一の搬送経路16aを経て第二の停留エリア17b内に安定的に搬送することが可能となる。
【0034】
次に、被搬送物質(液体)が第二の停留エリア17bに送り渡されてから、再度、搬送電極14に高周波信号を入力すると、搬送電極14で励振された弾性波18の伝搬により、この液体が第二の停留エリア17bから第三の停留エリア17cに向かって第二の搬送経路16b上を搬送される。このときも、搬送中の液体は、第一の搬送経路16a上を搬送される液体と同様に、低親和性領域19とは極力接触しないよう変形した状態となり、この変形状態のまま第二の搬送経路16b上を搬送される。
【0035】
そして、第二の搬送経路16b上を搬送される液体の一部が第三の停留エリア17c内に入り込むと、上述の第一の搬送経路16a上から第二の停留エリア17b内に送り渡される場合と同様にして、液体の全体が第三の停留エリア17c内に引き込まれ、この液体は第二の搬送経路16b上から第三の停留エリア17c内に送り渡される。こうして、第二の停留エリア17b内での物質量と略同量の液体を、第三の停留エリア17c内に安定的に搬送することができる。すなわち、図1のような構成の搬送システム10によれば、第一の停留エリア17a内に供給された物質量と略同量の液体を、第一の搬送経路16a、第二の停留エリア17b及び第二の搬送経路16bを経て、第三の停留エリア17c内に安定的に搬送することができる。
【0036】
このように、本実施形態における搬送システムでは、親和性の高低差(度合いの変化)を利用して、搬送経路上の被搬送物質(液体)を、停留エリアにおける自然な形状の状態(低ポテンシャル状態)から変形状態(高ポテンシャル状態)に変化させて搬送し、搬送先の停留エリアで再び自然な形状の状態(低ポテンシャル状態)に戻し、さらに次の停留エリアへは変形状態(高ポテンシャル状態)で搬送する、という手順を繰り返し行うことで、基板表面(搬送面)上において、一定量の液体を目的エリアまで効率的に且つ安定的に搬送していくことを可能としている。
【0037】
ところで、搬送用の弾性波としては、基板表面に直交する方向に基板表面を変位させる弾性波(例えばレイリー波)が好適であり、水晶基板や圧電基板には、このような弾性波を伝搬させるのに好適なカット角及び伝搬方向が存在する。そこで、好適なカット角の基板を用い、好適な伝搬方向に弾性波が伝搬するよう、搬送電極を配置すると良い。また、好適な伝搬方向とは異なる方向に弾性波を利用して液体を伝搬するには、基板上に圧電薄膜を設け、この圧電薄膜上に励振させた弾性波により液体を搬送するように構成すれば良い。こうすることにより、基板や圧電薄膜の表面(搬送面)上に、複数の搬送経路を設けることが可能となる。
【0038】
そこで、上記のようにして、図1のような構成の搬送経路及び停留エリアを、例えば図4のように基板上に配置することで、一定量の液体を目的エリアまで効率的に且つ安定的に搬送可能な種々の搬送パターンを、1つの搬送システム上で実現できるようになる。
【0039】
例えば図4の搬送システムでは、第一、第二、第四及び第五の搬送経路46a,46b,46d,46eでの搬送方向が基板における弾性波の好適な伝搬方向と一致するよう第一及び第二の搬送電極44a,44bを配置している。また、第三の搬送経路46cとして、圧電薄膜(図示せず)を基板42上に設け、この圧電薄膜上に第三の搬送電極44cを配置している。さらに、第一及び第二の搬送経路46a,46b上には、それぞれ供給エリアとして機能する第一及び第二の停留エリア47a,47bを設け、さらに第一、第三及び第四の搬送経路46a,46c,46dの合流点には第三の停留エリア47cを、第二、第三及び第五の搬送経路46b,46c,46eの合流点には第四の停留エリア47dを設けている。なお、各搬送経路46a〜46e及び各停留エリア47a〜47dは、図1と同様に、低親和性領域に囲まれた構成となっており、停留エリア間での搬送については、一定量の液体を、物質量を減らさずに行うことができるようになっている。
【0040】
そして、この図4のような構成を有する搬送システム40によれば、種々の搬送パターンを実現することができる。例えば、第一の停留エリア47aに供給された一定量の液体を、第一の搬送電極44aからの弾性波48aの伝搬により、第一の停留エリア47aから、第一の搬送経路46a及び第三の停留エリア47cを経て第四の搬送経路46d上に、物質量を減らさずに搬送することができる。
【0041】
または、第一の停留エリア47aに供給された一定量の液体を、まず、第一の搬送電極44aからの弾性波48aの伝搬によって、第一の停留エリア47aから第一の搬送経路46aを経て第三の停留エリア47cまで搬送し、次に第三の搬送電極44cからの弾性波48cの伝搬によって、第三の停留エリア47cから第三の搬送経路46cを経て第四の停留エリア47dに搬送し、さらに第二の搬送電極44bからの弾性波48bの伝搬によって、第四の停留エリア47dから第五の搬送経路46e上に、物質量を減らさずに搬送することもできる。
【0042】
または、一定量の液体を第二の停留エリア47bに供給し、この液体を、第二の搬送電極44bからの弾性波48bの伝搬により、第二の停留エリア47bから、第二の搬送経路46b及び第四の停留エリア47dを経て第五の搬送経路46e上に、物質量を減らさずに搬送することもできる。
【0043】
または、第一の停留エリア47aに供給された液体を上述のようにして第四の停留エリア47dに搬送し、第二の停留エリア47bに供給された液体を上述のように第二の搬送経路46bを経て第四の停留エリア47dに搬送し、第四の停留エリア47dにおいて、搬送された各々の液体を混合することも可能である。そして、第二の搬送電極44bへの入力信号の大きさを調整する等して第二の搬送電極44bからの弾性波48bのエネルギーを調整し、混合した液体を、弾性波48bの伝搬により、第四の停留エリア47dから第五の搬送経路46e上に搬送することも可能である。この場合も、第一及び第二の停留エリア47a,47bから第四の停留エリア47dまでは、それぞれ物質量を減らさずに搬送することが可能である。
【0044】
以上のように、本発明を適用して、基板や圧電薄膜の表面(搬送面)上において、一定量の液体を目的エリアまで効率的に且つ安定的に搬送できる複数の搬送経路を設けることで、種々の搬送パターンで、一定量の液体を目的エリアまで効率的に且つ安定的に搬送することが可能となる。
【0045】
ところで、上記第一の実施形態においては、基板の被搬送物質(液体)に対する親和性よりも低い親和性を有する低親和性領域を上述の如く配置し、この低親和性領域と低親和性領域間(露出する基板表面)との間の親和性の高低差を利用して、両停留エリア間に伸びた搬送経路上で液体を変形状態(高ポテンシャル状態)にして搬送し、搬送先の停留エリアにおいて自然な形状の状態(低ポテンシャル状態)に戻すという手順を踏むことで、一定量の液体を、複数の停留エリアを介して効率的に且つ安定的に搬送していくことを可能としている。しかし、親和性の高低差を利用して、上記と同様の手順を実現可能な構成は、必ずしも上記構成に限定されるものではない。以下、一定量の液体を効率的に且つ安定的に搬送可能な他の構成について説明する。
【0046】
例えば、第一及び第二の停留エリア間において、被搬送物質である液体に対する親和性の度合いを、搬送方向に進むに従い変化させることによっても、一定量の液体をより安定的に搬送することができるようになる。具体例としては、例えば図5に示すように、第一の停留エリア57aから当該第一の停留エリア57aと第二の停留エリア57bとの間の任意の地点までの区間では、この任意地点に近付くに従い親和性が低くなり、この任意地点から第二の停留エリア57bまでの区間では、第二の停留エリア57bに近付くに従い親和性が高くなるように、両停留エリア57a,57b間の領域における親和性を変化させる。
【0047】
例えば図6(a)で示すように、被搬送物質である液体に対し親和性の低い(もしくは非親和性の)微小膜(低親和性微小膜)を、この低親和性微小膜の占める面積率が搬送方向に進むに従って変化するよう、両停留エリア57a,57b間の領域に配置することで、この液体に対する親和性の度合いを、搬送方向に進むに従い変化させることができる。具体的には、図6(a)に細かい点で示すように、第一の停留エリア57aから上記のエリア間の任意地点までの区間には、両停留エリア57a,57b間の領域において低親和性微小膜(細かい点に相当)の数が徐々に多くなるように(低親和性微小膜の占める面積率が徐々に大きくなるように)、複数の低親和性微小膜を配置する。これにより、第一の停留エリア57aから上記のエリア間の任意地点までの区間では、任意地点に近付くにつれて徐々に親和性が低くなるよう親和性が変化する。また、上記のエリア間の任意地点から第二の停留エリア57bまでの区間には、両停留エリア57a,57b間の領域において低親和性微小膜の数が徐々に少なくなるように(低親和性微小膜の占める面積率が徐々に小さくなるように)、複数の低親和性微小膜を配置する。これにより、上記のエリア間の任意地点から第二の停留エリア57bまでの区間では、第二の停留エリア57bに近付くにつれて徐々に親和性が高くなるよう親和性が変化する。
【0048】
そして、このように両停留エリア57a,57b間で親和性が変化すると、被搬送物質である液体は、親和性の低い低親和性微小膜とは接触角が大きく、すなわち密に接触せず、一方で低親和性微小膜以外の部分(露出する基板もしくは圧電薄膜の表面)とは接触角が小さく、すなわち密に接触しながら、両停留エリア57a,57b間を移動する。つまり、搬送中の液体は、低親和性微小膜とは極力接触しないよう変形した状態となり、この変形状態(高ポテンシャル状態)のまま移動する。したがって、図6(a)に示すような両停留エリア57a,57b間を移動中の液体は、まず、第一の停留エリア57aから上記のエリア間の任意地点までの区間では、徐々に親和性が低くなるのに伴って、搬送中の液体の変形の度合いは徐々に大きく(高ポテンシャル状態に)なっていく。このとき、上記任意地点を通過する際に最も変形の度合いが大きく、高ポテンシャル状態になる。そして、上記任意地点から第二の停留エリア57bまでの区間では、徐々に親和性が高くなるのに伴って、搬送中の液体の変形の度合いは徐々に小さく(低ポテンシャル状態に)なっていく。
【0049】
そして、第一の停留エリア57aから第二の停留エリア57bに向けて搬送される液体が、上記の任意地点を越えて移動し、その液体の一部が第二の停留エリア57b内に入り込むと、この液体は、第二の停留エリア57b内で、両停留エリア57a,57b間での変形状態(高ポテンシャル状態)から自然な形状の状態に戻ろうとする。このとき、この液体には、表面張力により第二の停留エリア57b内で自然な形状の状態に戻ろうとする力の他に、この力に対する抵抗力が両停留エリア57a,57b間の領域における低親和性微小膜以外の部分(露出する基板もしくは圧電薄膜の表面)への吸着により生じる。しかし、搬送中の液体と低親和性微小膜以外の部分(露出する基板もしくは圧電薄膜の表面)との接触面積は、この低親和性微小膜の存在により従来に比して小さくなっているため、吸着により生じる抵抗力も従来に比して小さくなる。その結果、表面張力により第二の停留エリア57b内で自然な形状の状態に戻ろうとする力が、両停留エリア57a,57b間に残存する液体に対しても有利に働き、第二の停留エリア57b内に自然な形状の状態で収まろうとして引き込まれ、最終的には、被搬送物質である液体の全体が第二の停留エリア57b内に引き込まれて自然な形状で収まることとなる。
【0050】
こうして、被搬送物質である液体は、この液体の一部が両停留エリア57a,57b間(搬送経路上)に残留することなく、第二の停留エリア57bに送り渡される。以上のようにして、両停留エリア57a,57b間の領域を図6(a)のような構成とした場合でも、第一の停留エリア57aに供給された量と略同量の液体を、第二の停留エリア57b内に安定的に搬送することが可能となる。なお、図6(a)においては、各微小膜の形状は、特に限定されるものではない。
【0051】
また、例えば図6(b)に示すように、被搬送物質である液体の大きさ(搬送方向の幅)よりも細い短冊状の微小膜であってそれぞれ太さの異なるものを、長手方向が搬送方向と略直交するように、両停留エリア57a,57b間に並べる。このとき、この短冊状の微小膜間の間隔を変化させて並べる。こうして図6(b)に示すように、細い短冊状の微小膜を、間隔を空けて並べることによっても、両停留エリア57a,57b間における液体に対する親和性の度合いを搬送方向に変化させることができる。そして、このような構成によっても、両停留エリア57a,57b間の領域では液体を変形状態(高ポテンシャル状態)にして搬送し、第二の停留エリア57bで自然な形状の状態(低ポテンシャル状態)に戻す、といった手順での搬送が行われるため、その結果、一定量の液体を第二の停留エリア57bまで効率的に且つ安定的に搬送していくことが可能となる。
【0052】
また、図6(c)に示すように、第一の停留エリア57aと第二の停留エリア57bとの間の任意地点までの区間では、第二の停留エリア57bに近付くに従って低親和性膜間(露出する基板もしくは圧電薄膜の表面)の距離が徐々に狭まり、この任意地点から第二の停留エリア57bに近付くに従って低親和性膜間の距離が再度拡がっていくような形状の親和性の低い(もしくは非親和性の)低親和性膜を、搬送方向に沿って設けても良い。
【0053】
この図6(c)に示す構成では、低親和性膜と低親和性膜間(露出する基板もしくは圧電薄膜の表面)との間の親和性の高低差を利用するため、図1の構成と同様の特徴を有していると共に、被搬送物質である液体に対する親和性の度合いが搬送方向に進むに従い変化する図5の構成と同様の特徴をも有している。したがって、このような構成によれば、両停留エリア57a,57b間では液体を変形状態(高ポテンシャル状態)にし、第二の停留エリア57bで自然な形状の状態(低ポテンシャル状態)に戻す、といった手順での搬送が行われ、その結果、一定量の液体を第二の停留エリア57bまで効率的に且つ安定的に搬送していくことが可能となる。
【0054】
以上のように、被搬送物質である液体に対する親和性の度合いを搬送方向に進むに従って変化させることによっても、親和性の高低差(度合いの変化)を利用して、両停留エリア間の液体を変形状態(高ポテンシャル状態)で搬送し、搬送先の停留エリアで自然な形状の状態(低ポテンシャル状態)に戻す、という手順を行い、液体を搬送する構成となっている。そして、このような構成により、一定量の液体を目的エリアまで効率的に且つ安定的に搬送していくことが可能となる。
【0055】
なお、上記のような低親和性膜の使用に替わり、被搬送物質である液体に対して親和性の低い(あるいは非親和性を有する)領域を、該領域が図6(a)から図6(c)のように配置されるよう形成し、この領域によって、被搬送物質である液体に対する親和性の度合いを、搬送方向に進むに従って変化させるようにしても良い。ここで、基板上に親和性領域や非親和性領域を形成するための表面処理としては、シランカップリング処理等の化学的方法や基板のドライ洗浄(プラズマやオゾンによる)等がある。
【0056】
さらに、搬送システムの停留エリア57には、例えば図7(a)に示すように、被搬送物質である液体に対して低親和性(もしくは非親和性)を有する膜(低親和性膜)59a,59bを設けても良い。この低親和性膜59a,59bは、被搬送物質(液体)の入口側(搬送方向上流側)と出口側(搬送方向下流側)にそれぞれ設けられる。入口側の低親和性膜59aによれば、一旦停留エリア57内に進入した液体は、入口側から停留エリア57外に出て行くことなく停留エリア57内に収容される。また、出口側の低親和性膜59bによれば、一旦停留エリア57内に進入した液体が、出口側から勝手に出て行かないように停留エリア57内に収容される。以上のように、入口側及び出口側の低親和性膜59a,59bを設けることで、より安定的に液体を停留エリア57内に収容することが可能となる。なお、このような低親和性膜は、被搬送物質(液体)の入口側と出口側の双方に必ずしも設けられなければならない訳ではなく、搬送パターンに応じていずれか一方側のみに設けられていても良い。
【0057】
ここで、入口側及び出口側の低親和性膜59a,59bにおける親和性の度合いを、例えば図7(b)のように変化させても良い。図7(b)によれば、入口側の低親和性膜59aにおける親和性の度合いは、搬送方向に徐々に親和性が低くなるように設定されているが、このような親和性の度合いの変化により、液体が停留エリア57内へ進入し易くし、且つ一旦進入した液体の入口側から停留エリア57の外へ出て行きにくくする、といった双方の効果を奏することが可能となる。
【0058】
なお、一旦進入した液体は、搬送方向とは逆方向である入口側からよりも、出口側から停留エリア57の外へ出て行き易いと考えられることから、図7(b)に示すように、入口側の低親和性膜59aにおける親和性の度合いは、出口側の低親和性膜59bにおける度合いよりも高く設定しておくと良い。
【0059】
また、出口側の低親和性膜59bについては、一旦進入した液体が出口側から勝手に出て行かないようにするためのものであることから、特に親和性の度合いを変化させていない。しかし、搬送時には出口側から次の停留エリアへ向けて停留エリア57の外に出さなければならないことを考慮して、入口側の低親和性膜59aと同様に、搬送方向に徐々に親和性が低くなるように親和性の度合いを変化させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る搬送システムの構成を示す図である。
【図2】搬送システムに用いる駆動回路の構成の一例を示す図である。
【図3】図2の駆動回路において発生する各信号を示す図である。
【図4】図1に示す搬送システムの応用例を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る搬送システムの構成を示す図である。
【図6】図5に示す搬送システムの構成の具体例を示す図である。
【図7】本発明の搬送システムにおける好適な停留エリアの構成を示す図である。
【図8】弾性波を用いた搬送システムの一般的な構成を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 搬送システム、12 基板、14 搬送電極、16a,16b 搬送経路、17a〜17c 停留エリア、18 弾性波、19 低親和性領域、20a〜20c 被搬送物質(液体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滴状の液体が停留するための第一及び第二の停留エリアと、
第一の停留エリア内の滴状の液体を第二の停留エリアに搬送するための弾性波を励振する電極と、
を基板の搬送面上に有し、
第一の停留エリア内の滴状の液体が弾性波により搬送面上を搬送され、第二の停留エリア内では、搬送された液体が、第一の停留エリア内の液体と略同量で且つ滴状に停留するように、搬送面上の液体に対する親和性に高低差が設けられている、
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送システムにおいて、
弾性波によって液体が搬送される搬送経路が、第一の停留エリアから第二の停留エリアに伸びており、
この搬送経路の両側には、搬送経路よりも液体に対する親和性の低い領域が、搬送方向に沿って形成されている、
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の搬送システムにおいて、
第一及び第二の停留エリア間の搬送面上には、第一の停留エリアから両停留エリア間の任意位置までの区間では液体に対する親和性が徐々に低くなり、この任意位置から第二の停留エリアまでの区間では親和性が徐々に高くなるように、親和性の高低差が設けられている、
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載の搬送システムにおいて、
第一の停留エリアと第二の停留エリアとの間の距離は、電極への1パルス分の入力信号により発生した弾性波によって搬送面上を液体が搬送される距離とした、
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一つに記載の搬送システムにおいて、
第一の停留エリアの搬送方向下流側には、電極からの弾性波によらずに液体が搬送経路上に移動するのを防ぐために、搬送経路よりも液体に対する親和性の低い領域が形成されている、
ことを特徴とする搬送システム。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載の搬送システムにおいて、
第二の停留エリアの搬送方向上流側には、搬送経路上から搬送された液体が搬送経路上に戻るのを防ぐために、搬送経路よりも液体に対する親和性の低い領域が形成されている、
ことを特徴とする搬送システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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