説明

放射線画像検出器

【課題】光電荷対非発生用の線状電極を備えた放射線画像検出器において、残像を防止するとともに、電極層から読取用光導電層への電荷注入を確実に阻止する。
【解決手段】光電荷対発生用の第1の線状電極5aと、第1の線状電極と同じ厚みの光電荷対非発生用の第2の線状電極5bとが交互に略平行に配列された電極層5は、第1の線状電極5aと同じ厚みで第1の線状電極5aと第2の線状電極5bとの間に介在する絶縁体5cをさらに含む。平坦な表面を有する平坦層は、積層方向において少なくとも第2の線状電極5bの対応する部分に配設された読取光に対して遮光性を有する遮光膜8aを含む。電極層5と読取用光導電層4との間には、電極層5の電極から読取用光導電層4への電荷の注入を阻止する電荷注入阻止層7が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像を担持した放射線の照射を受けて放射線画像を記録し、読取光により走査されて放射線画像に応じた信号が読み出される放射線画像検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野などにおいて、被写体を透過した放射線の照射を受けて電荷を発生し、その電荷を蓄積することにより被写体に関する放射線画像を記録する放射線画像検出器が各種提案、実用化されている。
【0003】
上記のような放射線画像検出器としては、たとえば、図5に示すような、記録光に対して透過性を有する記録光側電極層21と、記録光の照射を受けることにより潜像電荷を発生する記録用光導電層22と、潜像電荷に対しては絶縁体として作用し、かつ潜像電荷と逆極性の輸送電荷に対しては導電体として作用する電荷輸送層23と、読取光の照射を受けることにより導電性を呈する読取用光導電層24と、読取光に対して透過性を有し多数の線状電極25aを備える読取光側電極層25とが、読取光側電極層25から順に読取光に対して透過性を有する支持体29上に積層され、記録用光導電層22と電荷輸送層23との界面に形成される蓄電部26に画像情報を担持する信号電荷(潜像電荷)を蓄積する放射線画像検出器20が知られている。そして、図5に示す放射線画像検出器20では、読取用光導電層24と読取光側電極層25との間に、読取光に対する透過性を有し、読取光側電極層25の線状電極25aから読取用光導電層24への電荷注入を阻止する電荷注入阻止層(ブロッキング性能を有するブロッキング層)27が設けられている(特許文献1参照)。
【0004】
上記電荷注入阻止層27が設けられていない場合には、読取光側電極層25の線状電極25aに帯電した電荷の一部が読取用光導電層24に直接注入されてしまい、この注入された電荷が電荷輸送層23内を移動し、蓄積された潜像電荷と電荷再結合してこの潜像電荷を消滅させてしまう。この電荷再結合による潜像電荷の消滅は、読取光の照射により生ずるものではないため、いわゆるノイズ成分となるものである。したがって、上記のような電荷注入阻止層27を積層することにより、読取光側電極層25の線状電極25aに帯電した電荷の読取用光導電層24への注入を阻止し、ノイズの発生を防止することができる。
【0005】
また、特許文献2には、記録光に対して透過性を有する第1の導電層と、放射線の照射を受けることにより電荷を発生する記録用光導電層、潜像電荷に対しては絶縁体として作用し、かつ潜像電荷と逆極性の輸送電荷に対しては導電体として作用する電荷輸送層、読取光の照射を受けることにより電荷を発生する読取用光導電層、および読取光を透過する光電荷対発生線状電極と読取光を遮光する光電荷対非発生線状電極とが平行に交互に配列された第2の導電層をこの順に積層してなる放射線画像検出器が提案されている。
【0006】
特許文献2のような光電荷対非発生線状電極を備えた放射線画像検出器によれば、読取時に、光電荷対非発生線状電極に対応する読取用光導電層の部位への読取光の照射を妨げることができ、潜像電荷を蓄積する蓄電部と光電荷対非発生線状電極との間での放電を妨げることができる。その結果、光電荷対非発生線状電極を設けない場合と比較すると、光電荷対発生線状電極近傍の読取用光導電層における放電を相対的に増加させて、光電荷対発生線状電極によって放射線画像検出器から外部に取り出し得る信号電荷の量を相対的に増加させることができ、読取効率を向上させることができる。
【特許文献1】特開2001−264442号公報
【特許文献2】特開2003−31836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の電荷注入阻止層の厚みが厚いと、読取過程において電荷注入阻止層に不要な電荷が残留する。このような残留電荷は、次回の読取時には画像情報を担持する潜像電荷に加算されて画像信号として検出されるため、検出された画像信号に基づく放射線画像には、残留電荷による残像が現れてしまう。よって、残像を防止するためには、電荷注入阻止層を所定の厚み以下にする必要がある。
【0008】
しかしながら、電荷注入阻止層の厚みを薄くすると、読取光側電極層25の線状電極25aと支持体29との間に面段差があるため、図6に示すように線状電極25aのエッジ部分で電荷注入阻止層27が形成されない段差切れが生じる虞がある。段差切れが発生すると、この部分から読取用光導電層24へ電荷が注入され、この暗電流注入によってブロッキング性能が悪化し、S/Nが劣化するという問題を生じる。
【0009】
さらに、読取光側電極層25の電極を線状電極で構成する場合には、線状電極は、長手方向の抵抗(線抵抗)を小さくするために比較的厚くすることがあるが、線状電極が厚ければ厚いほど、上記面段差が大きくなるため、段差切れが生じやすくなる。
【0010】
また、上記の特許文献2に記載されたような光電荷対非発生線状電極を有する検出器においても、光電荷対非発生線状電極から暗電流ノイズが生じ、この暗電流ノイズが蓄電部に蓄積されオフセットノイズとなりS/N劣化の原因となるため、光電荷対非発生線状電極にも電荷注入阻止層を設ける必要がある。そして、光電荷対非発生線状電極にも電荷注入阻止層を設けた場合も、図6に示す場合と同様に面段差があるため、段差切れが生じ、ブロッキング性能の悪化が生じる虞がある。この場合は特に、光電荷対発生線状電極および光電荷対非発生線状電極の幅が狭くなりファインピッチとなるため、その悪化はより顕著なものとなる。また、光電荷対非発生線状電極には読取光に対して遮光性をもたせる必要があるため、その製造上ある程度の厚みを持つ場合があり、電極素材に遮光膜を付加するなどしてその厚さが光電荷対発生線状電極よりも厚くなる場合には上記段差によるブロッキング性能の悪化はさらに顕著なものとなる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、光電荷対非発生用の線状電極を備えた放射線画像検出器において、残像を防止するとともに、電極層から読取用光導電層への電荷注入を確実に阻止することが可能な放射線画像検出器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の放射線画像検出器は、読取光に対して透過性を有する支持体上に、平坦な表面を有する平坦層と、光電荷対発生用の第1の線状電極と、前記第1の線状電極と同じ厚みの光電荷対非発生用の第2の線状電極とが交互に略平行に配列された電極層と、前記読取光の照射により電荷を発生する光導電層とをこの順に積層してなる放射線画像検出器において、前記平坦層が、前記積層方向において少なくとも前記第2の線状電極の対応する部分に配設された前記読取光に対して遮光性を有する遮光膜を含むものであり、前記電極層が、前記第1の線状電極と同じ厚みで前記第1の線状電極と前記第2の線状電極との間に介在する絶縁体をさらに含むものであり、前記電極層と前記光導電層との間に、前記第1および第2の線状電極から前記光導電層への電荷の注入を阻止する電荷注入阻止層が設けられていることを特徴とする。
【0013】
ここで、「第1の線状電極と同じ厚み」とは、第1の線状電極の厚みの平均値±10%以内の厚みであることを意味する。
【0014】
ここで、「光電荷対発生用の第1の線状電極」とは、上記光導電層に電荷対を発生させるための電極であり、「光電荷対非発生用の第2の線状電極」とは、上記光導電層に電荷対を発生させない電極である。
【0015】
ここで、「読取光に対して遮光性を有する遮光膜」とは、読取光を完全に遮断して全く電荷対を発生させないものに限らず、その読取光に対する多少の透過性は有していてもそれにより発生する電荷対が実質的に問題とならない程度のものも含むものとする。
【0016】
なお、「少なくとも前記第2の線状電極の対応する部分」とは、第2の線状電極の対応する全領域を意味する。また、前記遮光膜は、積層方向において第1の線状電極の対応する全領域には配設されていないものとする。
【0017】
さらに、「読取光」は、静電記録体における電荷の移動を可能として、電気的に静電潜像を読み取ることを可能とするものであればよく、具体的には光や放射線等である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の放射線画像検出器によれば、第1の線状電極および第2の線状電極と同じ厚みの絶縁体が、第1の線状電極と第2の線状電極の間に介在するようにしているため、電極層を平坦化して面段差を無くすことができる。したがって、電極層と光導電層との間に電荷注入阻止層を設けてその厚みを薄くしても段差切れが生じる虞がなく、電極層から光導電層への電荷注入を確実に阻止することができる。また、電荷注入阻止層の厚みを薄くできるため、残留電荷が生じることがなく、残像を防止することができる。
【0019】
また、通常は、光電荷対発生用の第1の線状電極は読取光に対して透過性を持ち、光電荷対非発生用の第2の線状電極は読取光に対して遮光性を持たせる必要があるため、従来は、第1の線状電極と第2の線状電極は別の材質で形成するか、同材質で両者を形成した場合には第2の線状電極にのみ遮光膜を形成する必要があった。これに対して、本発明の放射線画像検出器では、平坦層の第2の線状電極の対応する部分に遮光膜を設けて第2の線状電極に関する遮光性を確保しているため、第2の線状電極を読取光に対して透過性を有する材質で形成することが可能になる。これにより、第1の線状電極と第2の線状電極の材質を同じものとして、第1の線状電極と第2の線状電極とを同工程で作製することが可能になり、作製工程を簡素化できる。また、従来の第2の線状電極にのみ遮光膜を形成したものでは、第1の線状電極と第2の線状電極との厚みが異なってしまうため電極層を平坦化することが容易ではなかったが、本発明の放射線画像検出器によれば、第2の線状電極に遮光膜を形成する必要はないため、第1の線状電極と第2の線状電極とを同一の厚みにすることができ、電極層の平坦性の確保がより容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の放射線画像検出器の一実施形態について説明する。図1は本放射線画像検出器の斜視図、図2は図1に示す放射線画像検出器のA−A線断面図である。
【0021】
本放射線画像検出器10は、図1および図2に示すように、放射線画像を担持した放射線を透過する第1の電極層1、第1の電極層1を透過した放射線の照射を受けることにより電荷を発生する記録用光導電層2、記録用光導電層2において発生した電荷のうち潜像電荷に対しては絶縁体として作用し、且つ該潜像電荷と逆極性の輸送極性電荷に対しては導電体として作用する電荷輸送層3、読取光の照射を受けることにより電荷を発生する読取用光導電層4、第2の電極層5からの読取用光導電層4への電荷注入に対しブロッキング性能を有する電荷注入阻止層7、読取光を透過する第2の電極層5、平坦層8をこの順に積層してなるものである。記録用光導電層2と電荷輸送層3との間には、記録用光導電層2内で発生した電荷を蓄積する蓄電部6が形成されている。なお、上記各層は、読取光を透過するガラス基板等の支持体9上に平坦層8から順に形成されるものであるが、図1においては支持体9を省略している。
【0022】
以下に述べる実施形態は、第1の電極層1に負電荷を、第2の電極層5に正電荷を帯電させて、記録用光導電層2と電荷輸送層3との界面に形成される蓄電部6に潜像電荷としての負電荷を蓄積させると共に、電荷輸送層3を、潜像電荷としての負電荷の移動度よりも、その逆極性となる輸送極性電荷としての正電荷の移動度の方が大きい、いわゆる正孔輸送層として機能させるものとして好適なものの一例であるが、これらは、それぞれが逆極性の電荷であっても良く、このように極性を逆転させる際には、正孔輸送層として機能する電荷輸送層を電子輸送層として機能する電荷輸送層に変更する等の若干の変更を行なうだけでよい。
【0023】
第1の電極層1としては、放射線を透過するものであればよく、たとえば、ネサ皮膜(SnO)、ITO(Indium Tin Oxide)、アモルファス状光透過性酸化膜であるIDIXO(Idemitsu Indium X−metal Oxide ;出光興産(株))などを50〜200nm厚にして用いることができ、また、100nm厚のAlやAuなども用いることもできる。
【0024】
第2の電極層5は、光電荷対発生用の複数の第1の線状電極5aと、光電荷対非発生用の複数の第2の線状電極5bと、第1の線状電極5aと第2の線状電極5bとの間に介在する絶縁体5cとを含む。第1の線状電極5aと第2の線状電極5bとは、同一の厚みTを有し、平坦層8の面上に所定の間隔を空けて交互に略平行に配列されている。絶縁体5cもまた、第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bと同一の厚みTを有し、これらの間を埋めて電極層5を平坦化するように設けられている。
【0025】
第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bは読取光に対して透過性を有するとともに、導電性を有する材料から形成されている。上記のような材料であれば如何なるものでもよいが、たとえば、ITOやIDIXOなどを0.1〜1μm厚にして用いることができる。また、Al、Crなどの金属を用いて読取光を透過する程度の厚さ(たとえば、10nm程度)で形成するようにしてもよい。
【0026】
絶縁体5cは、読取光に対して透過性を有するとともに、絶縁性を有する材料から形成されている。上記のような材料であれば如何なるものでもよいが、たとえば、SiOなどを用いることができる。
【0027】
記録用光導電層2は、放射線の照射を受けることにより電荷を発生するものであればよく、放射線に対して比較的量子効率が高く、また暗抵抗が高いなどの点で優れているa−Se(アモルファスセレン)を主成分とするものを使用できる。厚さは100〜1000μmが適切である。
【0028】
電荷輸送層3としては、たとえば、放射線画像の記録の際に第1の電極層1に帯電する電荷の移動度と、その逆極性となる電荷の移動度の差が大きい程良く(例えば10以上、望ましくは10以上)ポリN−ビニルカルバゾール(PVK)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1’−ビフェニル〕−4,4’−ジアミン(TPD)やディスコティック液晶等の有機系化合物、或いはTPDのポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン、PVK)分散物,Clを10〜200ppmドープしたa−Se等の半導体物質が適当である。
【0029】
読取用光導電層4としては、読取光の照射を受けることにより導電性を呈するものであればよく、例えば、a−Se、Se−Te、Se−As−Te、無金属フタロシアニン、金属フタロシアニン、MgPc(Magnesium phtalocyanine),VoPc(phaseII of Vanadyl phthalocyanine)、CuPc(Cupper phtalocyanine)などのうち少なくとも1つを主成分とする光導電性物質が好適である。厚さは0.1〜10μm程度が適切である。
【0030】
電荷注入阻止層7は、第2の電極層5の第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bから読取用光導電層4への電荷の注入を阻止するブロッキング性能を有する(障壁電位を有する)ものである。電荷注入阻止層7は、読取光に対して透過性を有する材料から形成され、たとえば有機薄膜を用いることができる。
【0031】
この電荷注入阻止層7が設けられていない場合には、第2の電極層5の線状電極5aおよび第2の線状電極5bに帯電した電荷(本例においては正電荷)の一部には読取用光導電層4に直接注入されるものが存在し、読取用光導電層4に直接注入された正電荷が電荷輸送層3内を移動し、蓄積された潜像電荷と電荷再結合してこの潜像電荷を消滅させるようになる。この電荷再結合による潜像電荷の消滅は、読取光の照射により生ずるものではないため、いわゆるノイズ成分となるものである。一方、本実施形態の放射線画像検出器10のように電荷注入阻止層7が設けられている場合には、第2の電極層5に帯電した正電荷が、障壁電位のため読取用光導電層4に注入されるようなことがなくなり、正電荷の直接注入によるノイズの発生を防止できるようになる。
【0032】
なお、電荷注入阻止層7を界面結晶化を抑制する抑制層として機能させてもよい。よく知られているように、アモルファス状態のセレン膜は、成膜時の蒸着過程において、他の金属との界面において界面結晶化(interfacial crystallization)が進行する。本放射線画像検出器10も、支持体9上に平坦層8を成膜し、第2の電極層5を成膜した後に読取用光導電層4を成膜するので、読取用光導電層4がa−Seを含むように構成した場合は、読取用光導電層4の蒸着およびその後に続く電荷輸送層3、記録用光導電層2などの蒸着過程において、電極材料とa−Seとの界面において界面結晶化が進行し、電極からの電荷注入が増えるためにS/Nが低下するという問題が生じる。電極材料として、透明酸化被膜、特にITOを用いた場合には、電極材料とa−Seの界面での界面結晶化が顕著に進行し、S/N低下が著しくなる。そこで、本放射線画像検出器10の電荷注入阻止層7を有機薄膜からなるよう構成すれば、電荷注入阻止層7を、a−Seの界面結晶化を抑制する抑制層として機能させることができ、第2の電極層5の電極材料と読取用光導電層4のa−Seとの直接接触を妨げることができ、界面におけるSeの化学変化を防止し、界面結晶化を防ぐ効果が得られ、S/N低下の問題を解消できる。
【0033】
また、電荷注入阻止層7として、弾力性のある材質のものを用いて、該電荷注入阻止層7を、支持体9と読取用光導電層4との間の熱ストレスを和らげる緩衝層として機能させるようにしてもよい。さらにまた、電荷注入阻止層7は、読取用光導電層4と第2の電極層5とを密着強化する層として機能させるようにしてもよい。
【0034】
ここで、電荷注入阻止層7を、熱ストレスを和らげる緩衝層としても機能させるには、例えば、弾力性に富んだ有機薄膜の層とすることが好ましい。この有機薄膜としては、例えば米国特許第 4,535,468号に示されているポリアミド(polyamide)やポリイミド(polyimide)、あるいは、ポリエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネートなどの、読取光(例えば青光)に透明であり、且つ正孔ブロッキング性能の良好な、絶縁性有機ポリマーの薄膜を使用することができる。また、有機バインダーと、約0.3%〜3%重量比(by weight)のニグロシン(nigrosine)などの低分子有機材料からなる混合膜の薄層を使用することもできる。
【0035】
電荷注入阻止層7を構成する有機薄膜の膜厚としては0.05〜5μm程度にするとよいが、熱ストレス緩衝の点では0.1〜5μmの範囲が好ましい一方、残像のない良好なブロッキング性能のためには0.05〜0.5μmの範囲が好ましく、両者のバランスの上では0.1〜0.5μmの範囲とするとよい。
【0036】
平坦層8は、積層方向において第2の線状電極5bの対応する部分に配設された遮光膜8aと、遮光膜8aを埋め込んで平坦な表面を形成するオーバーコート8bとを有する。遮光膜8aは、読取光に対して遮光性を有する必要があるが、必ずしも絶縁性を有するものでなくてもよく、遮光膜8aの比抵抗が2×10−6Ω・cm以上(さらに好ましくは1×1015Ω・cm以下)のものを使用することができる。例えば金属材料であればAl、Mo、Crなどを用いることができ、有機材料であればMoS、WSi、TiNなどを用いることができる。なお、遮光膜8aの比抵抗が1Ω・cm以上のものを使用するとより好ましい。
【0037】
オーバーコート8bは、読取光に対して透過性を有するものであり、たとえばアクリル樹脂を用いることができ、その厚みは約1μm以下が望ましい。遮光膜8aの部材として金属材料など導電性の部材を使用したときには、遮光膜8aと第2の線状電極5bとの直接接触を避けるためオーバーコート8bは絶縁体とする。
【0038】
遮光膜8aにより、第2の線状電極5bへの読取光の入射を遮光できるため、第2の線状電極5bに対応する読取用光導電層16内では、信号取出しのための電荷対を発生させないようにすることができる。また、表面が平坦なオーバーコート8bにより、第2の電極層5を設ける面(第2の電極層5の平坦層8側の面)の平坦性を確保することができ、第2の電極層5の電荷注入阻止層7側の面の平坦性をより好適に確保できる。
【0039】
また、平坦層8に上記のような遮光膜8aを設けることにより、第2の線状電極5b自身に遮光性を持たせる必要がなくなり、第1の線状電極5aと第2の線状電極5bとを読取光を透過させる同一材質で形成可能になり、第1の線状電極5aと第2の線状電極5bとを同工程で作製することが可能になる。
【0040】
遮光膜8aの面内方向(図2の水平方向)の幅Wは、遮光膜8aと第2の線状電極5bの中心位置が積層方向において一致しており、第1の線状電極5aの幅、第2の線状電極5bの幅、絶縁体5cの幅がそれぞれW、W、Wであるとしたとき、W≦W≦(W+2×W)を満足するようにすることが望ましい。この条件式は、遮光膜8aが少なくとも第2の線状電極5bを完全にカバーし、且つ読取光の透過部分として少なくとも第1の線状電極5aの幅W分だけ確保し、第1の線状電極5aに対応する部分には遮光膜8aが掛からないようにすることを示している。ただし、第2の線状電極5bの幅W分だけでは遮光が不十分であり、また読取光の透過部分が第1の線状電極5aの幅W分だけでは第1の線状電極5aに到達する読取光が不十分になる虞れがあるので、(W+W/2)≦Ws≦(W+W)を満足するようにする方が好ましい。
【0041】
支持体9としては、読取光に対して透明であればよく、たとえばガラス基板や有機ポリマー材料を使用することができる。支持体9は、その熱膨張率が平坦層8の物質の熱膨張率と比較的近い物質を使用するとより望ましく、この場合には、特別な環境下、例えば寒冷気候条件下での船舶輸送中などにおいて、大きな温度サイクルを受けても、支持体9と平坦層8との界面で熱ストレスが生じ、両者が物理的に剥離する、平坦層8が破れる、あるいは支持体9が割れるなど、熱膨張差による破壊の問題が生じることがない。なお、ガラス基板に比べて有機ポリマー材料は衝撃に強いというメリットがある。
【0042】
以下に、本放射線画像検出器10の製造工程の一例について図3を参照しながら説明する。
【0043】
まず、ガラス基板からなる支持体9上に多数の線状の遮光膜8aを形成する。その製造過程は一般的なフォトリソグラフィ法を利用するものであり、以下にその説明する。支持体9の上面にCr膜を略0.1μmの厚さで蒸着により形成する。そして、そのCr膜の上面全体にカラーレジストを塗布し、第2の線状電極5bに対応する位置に遮光膜8aの形状に応じたマスクを使用して紫外線を露光し、現像、洗浄(リンス)処理を施してCr膜の上面に遮光膜8aの形状に応じたレジストパターンを形成する。そして、Cr膜にエッチング処理を施し、レジストを除去することにより、遮光膜8aが支持体9上に形成される(図3(1))。なお、図3では、Cr膜の図示は省略している。
【0044】
次に、遮光膜8aを埋め込むようにアクリル樹脂によりオーバーコート8bを形成し、研磨等により表面を平坦化して平坦層8を形成する(図3(2))。
【0045】
平坦層8が形成された支持体9の上面全面に第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bの材料である透明導電膜(ITO(Indium Tin Oxide))11を一様に形成する(図3(3))。透明導電膜11を形成する方法としては真空蒸着法やディップ法などがある。そして、フォトリソグラフィ法を利用して、上記と同様に第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bの形状に応じたパターンを形成し、エッチングを行い、第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bを形成する(図1(4))。
【0046】
次に、第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bが形成された支持体9全面に第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bを埋めるように透明絶縁膜(SiO)12を形成する(図3(5))。透明絶縁膜12を形成する方法としては、スパッタリングや真空蒸着法、ディップ法(dippinng)などがある。そして、第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bと同じ厚みとなるように透明絶縁膜12を研磨して、絶縁体5cを形成する(図3(6))。
【0047】
上記のように、同一厚みの第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bと絶縁体5cとにより平坦化された第2の電極層5の上に、電荷注入阻止層7を形成する材料を、所定の厚さとなるように塗布等により成膜する(図3(7))。本実施形態では、第2の電極層5は平坦化されているため、塗布方向を問題とすることがなく、例えばスピンコーティングなどの方法を用いて容易に塗布することができる。その他の電荷注入阻止層7の成膜法としては、ディップ法、スプレー法(Spraying)、バーコーティング法、スクリーンコーティング法などを用いることができる。
【0048】
次に、本放射線画像検出器10の作用について説明する。
【0049】
まず、図4Aに示すように、放射線画像検出器10の第1の電極層1に高電圧源15により負の電圧を印加した状態において、放射線源から被写体に向けて放射線が照射され、その被写体を透過して被写体の放射線画像を担持した放射線が放射線画像検出器10の第1の電極層1側から照射される。
【0050】
そして、放射線画像検出器10に照射された放射線は、第1の電極層1を透過し、記録用光導電層2に照射される。そして、その放射線の照射によって記録用光導電層2において電荷対が発生し、そのうち正の電荷は第1の電極層1に帯電した負の電荷と結合して消滅し、負の電荷は潜像電荷として記録用光導電層2と電荷輸送層3との界面に形成される蓄電部6に蓄積されて放射線画像が記録される(図4B参照)。
【0051】
そして、次に、図4Cに示すように、第1の電極層1が接地された状態において、平坦層8側から読取光が照射され、読取光は平坦層8のオーバーコート8bおよび第2の電極層2の第1の線状電極5aを透過して読取用光導電層4に照射される。読取光の照射により読取用光導電層4において発生した正の電荷が蓄電部6における潜像電荷と結合するとともに、負の電荷が第2の電極層5の第1の線状電極5aに帯電した正の電荷と結合する。
【0052】
そして、上記のような負の電荷と正の電荷との結合によってチャージアンプ16に電流が流れ、この電流が積分されて画像信号として検出され、放射線画像に応じた画像信号の読取りが行われる。
【0053】
以上述べた本実施形態の放射線画像検出器10によれば、平坦化された第2の電極層5と読取用光導電層4の間に電荷注入阻止層7を設けているため、第2の電極層2から読取用光導電層4への電荷注入を確実に阻止することができ、S/N劣化を防止できる。また、電荷注入阻止層7の厚さを薄くすることができるため、電荷注入阻止層7に残留電荷が生じることもなく、残像の発生を防止できる。
【0054】
また、本実施形態の放射線画像検出器10では、電荷注入阻止層7および絶縁体5cを設けることにより、電界の集中する第1の線状電極5aおよび第2の線状電極5bのエッジ部分が光導電層と接触するのを回避でき、暗電流ノイズに起因するオフセットノイズや点欠陥に起因する残像を抑制できる。さらに、第2の電極層5に低誘電率の絶縁体5cを設けたことで、放射線画像検出器10自身の静電容量が小さくなり、放射線画像検出器10に電圧を印加したときの電気ノイズを低減できる。
【0055】
なお、上記実施形態は、放射線の照射を受けてその放射線を直接電荷に変換することにより放射線画像の記録を行う、いわゆる直接変換方式の放射斜線画像検出器に本発明を適用したものであるが、これに限らず、たとえば、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷に変換することにより放射線画像の記録を行う、いわゆる間接変換方式の放射線画像検出器に本発明を適用するようにしてもよい。
【0056】
また、本発明の放射線画像検出器における放射線画像検出器の層構成は上記実施形態のような層構成に限らずその他の層を加えたりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の放射線画像検出器の一実施形態の概略構成図
【図2】図1に示す放射線画像検出器のA−A線断面図
【図3】図1に示す放射線画像検出器の製造工程の一例を説明するための図
【図4A】図1に示す放射線画像検出器への放射線画像の記録の作用を説明するための図
【図4B】図1に示す放射線画像検出器への放射線画像の記録の作用を説明するための図
【図4C】図1に示す放射線画像検出器への放射線画像の記録の作用を説明するための図
【図5】従来の放射線画像検出器の構成を示す図
【図6】従来の放射線画像検出器における電荷注入阻止層の段差切れを説明するための図
【符号の説明】
【0058】
1 第1の電極層
2 記録用光導電層
3 電荷輸送層
4 読取用光導電層
5 第2の電極層
5a 第1の線状電極
5b 第2の線状電極
5c 絶縁体
6 蓄電部
7 電荷注入阻止層
8 平坦層
8a 遮光膜
8b オーバーコート
10 放射線画像検出器
11 透明導電膜
12 透明絶縁膜
15 高電圧源
16 チャージアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
読取光に対して透過性を有する支持体上に、
平坦な表面を有する平坦層と、
光電荷対発生用の第1の線状電極と、前記第1の線状電極と同じ厚みの光電荷対非発生用の第2の線状電極とが交互に略平行に配列された電極層と、
前記読取光の照射により電荷を発生する光導電層とをこの順に積層してなる放射線画像検出器において、
前記平坦層が、前記積層方向において少なくとも前記第2の線状電極の対応する部分に配設された前記読取光に対して遮光性を有する遮光膜を含むものであり、
前記電極層が、前記第1の線状電極と同じ厚みで前記第1の線状電極と前記第2の線状電極との間に介在する絶縁体をさらに含むものであり、
前記電極層と前記光導電層との間に、前記第1および第2の線状電極から前記光導電層への電荷の注入を阻止する電荷注入阻止層が設けられていることを特徴とする放射線画像検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−47749(P2008−47749A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223015(P2006−223015)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】