説明

数値制御情報作成装置

【課題】 加工工程情報および切削条件に応じて主軸の変速機構を制御する加工機において、加工機の能力に適合した数値制御情報を容易に作成する。
【解決手段】 素材形状MF、加工形状PF、工具データDTから加工工程情報MPを作成し、切削条件MCと共に工程データ格納部8に格納する。加工工程情報MPと切削条件MCに基づき、主軸回転数算出部10が主軸回転数の変動幅を算出し、所要動力算出部17が主軸の所要動力を算出する。動力線図データ格納部9は主軸回転数と主軸モータの出力値との関係を示す動力線図データを主軸回転数範囲算出部18に提供する。主軸回転数範囲算出部18は動力線図データ、主軸所要動力、主軸回転数変動幅を含む動力関連データを作成し、主軸ギヤ決定部11と表示部19とに提供する。表示部19は複数種の動力関連データを同一画面に重ねて表示し、オペレータによる主軸ギヤの選択を容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸の変速機構を備えた加工機の数値制御情報作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来の数値制御情報作成装置200を示す。数値制御情報の作成にあたり、従来装置200では、データ入力部2が、外部のデータ入力装置1により入力された加工形状(部品形状)PF及び素材形状MFを加工形状格納部5と素材形状格納部3にそれぞれ格納する。また、データ入力部2は、工具種類、刃先角、切刃角、工具長などを含む工具データDTを工具データ格納部4に格納する。
【0003】
加工工程情報作成部6は、素材形状MF、加工形状PF及び工具データDTを入力し、素材形状MFと加工形状PFとの差から切削領域を抽出し、工具データDTに基づいて切削領域を複数の領域に分割し、工具毎に異なる切削領域を算出することで、素材形状MFを加工形状PFに仕上げるに必要な加工工程情報MPを作成する。切削条件決定部7は、作成された加工工程情報MPを順に読み出し、それぞれに切削条件MCを決定し、工程データ格納部8に格納する。
【0004】
主軸回転数算出部10は、主軸が一定の周速度で回転する定周速切削の場合に、加工工程情報MPに含まれる切削領域の最大及び最小加工径と切削速度などの切削条件MCから、加工工程毎の主軸回転数Sn(最大及び最小回転数)を算出する。また、主軸が一定の回転数で駆動される定回転切削の場合は、切削条件MCに含まれる回転数が主軸回転数Snとして求められる。
【0005】
一方、データ入力部2は、データ入力装置1により入力された主軸モータの定格出力やギヤレンジなどの機械固有の動力線図データPOを動力線図データ格納部9に格納する。動力線図データ格納部9は動力線図データPOを主軸ギヤ決定部11に提供し、主軸ギヤ決定部11が動力線図データと主軸回転数Snとに基づいて加工工程毎に主軸ギヤを決定し、決定したギヤ情報SGを工程データ格納部8に格納する。
【0006】
数値制御情報作成部12は、素材形状格納部3から素材形状MFを入力するとともに、工程データ格納部8から加工工程情報MP、切削条件MC、ギヤ情報SGなどを含む工程データDMを読み出し、数値制御情報NCを作成する。そして、作成された数値制御情報NCが数値制御情報出力部13より通信回線、リムーバブルメディアなどの伝送媒体14を介して外部に出力される。
【0007】
図8は、従来装置200において主軸ギヤを決定する方法を示す。まず、加工工程情報MPと切削条件MCを生成する(S51)。例えば、図3に示すように、素材形状MFと加工形状PFの差分から切削領域を抽出し、その形状から旋削加工方法として「端面荒引き加工」を判断し、工具データDTに基づいて干渉の有無を確認し、干渉なく加工できる場合に、切削領域全体を含む一つの加工工程情報MPを生成し、合わせて切削条件MCを決定する。
【0008】
次に、切削領域を定回転切削と定周速切削のどちらの方法で加工するかを確認する(S52)。旋削加工の場合、主軸切削速度を一定にして加工する定周速切削がしばしば用いられる。定周速切削の場合は、対象工程加工時の主軸最大回転数と主軸最小回転数を算出する(S53)。続いて、主軸回転数の範囲と動力線図データとから主軸ギヤを決定する(S54)。
【0009】
一般に、加工径の大きいワークの端面部を定周速切削で加工する場合、例えば図3に示す切削領域において、素材形状MFの最外径部の最大加工径Dmaxと素材形状MFの最小径部の最小加工径Dminとの差が大きくなり、加工時における主軸最大回転数と主軸最小回転数との差も大きくなることから、切削に用いる加工機が変速機構を装備している場合に、どの主軸ギヤを選択するかが重要になる。
【0010】
この点に関し、特許文献1には、高低2段の変速機を搭載したNC旋盤において、要求される主軸回転数から低速域と高速域のどちらを使用するかを判断し、ギヤレンジ(速度域)を決める方法が提案されている。特許文献2には、多段の変速機を搭載したNC旋盤において、被加工物の加工工程情報を基にして使用するギヤレンジを選択する技術が開示されている。特許文献3には、主軸回転数の低速/高速レンジを切り換える境界となる素材径を設定することで切削領域を分割する自動プログラミング装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭59−1136号公報
【特許文献2】特公昭62−36824号公報
【特許文献3】実開昭62−72044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、従来の数値制御情報作成装置200では、主軸ギヤが複数段ある加工機において、オペレータが主軸回転数とモータ出力値との関係を示す動力線図に基づいて主軸ギヤを選択していた。しかし、定周速切削の場合、加工径の大きな部位に着目して低速ギヤを選択すると、加工が進んで加工径が小さくなった箇所で、主軸回転数が上限に達し、切削効率が低下することがある。逆に高速ギヤを選択すると、加工径が大きくなる箇所で、切削に必要な動力が主軸モータの出力値を超え、加工できなくなることもあった。
【0013】
また、切削条件(切削速度、送り、切込量)を変更しようとしても、ギヤと加工形状の両方を勘案して数値制御情報を作成しなければならず、加工の初心者には困難であった。特許文献3には、切削領域を分割する技術について示唆されているが、高速/低速レンジを切り換える境界を素材形状のどの部位にいかにして設定するかについて触れられていない。従って、従来技術によると、素材形状や加工形状が複雑になるほど、数値制御情報の作成が困難になるという問題点があった。
【0014】
そこで、本発明の目的は、加工の初心者でも加工機の能力に適合した数値制御情報を容易に作成することができる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、素材形状と加工形状に基づき、変速機構により主軸が複数の異なる出力特性を有する加工機において、次のような数値制御情報作成装置を提供する。
【0016】
(1)主軸回転数と主軸モータの出力値により出力特性を表す複数の動力線図データを記憶する動力線図データ格納手段と、素材形状と加工形状に基づき、所定工具により加工する切削領域と切削条件を生成する加工工程情報作成手段と、切削条件に基づき、所定工具により加工するときの所要動力を算出する所要動力算出手段と、切削領域と切削条件に基づき、所定工具により加工するときの主軸の回転数変動幅を算出する主軸回転数算出手段と、複数の動力線図データ、所要動力および主軸の回転数変動幅を同一画面に重ねて表示する動力関連データ表示手段とを備えたことを特徴とする数値制御情報作成装置。
【0017】
(2)主軸回転数と主軸モータの出力値により出力特性を表す複数の動力線図データを記憶する動力線図データ格納手段と、素材形状と加工形状に基づき、所定工具により加工する切削領域と切削条件を生成する加工工程情報作成手段と、切削条件に基づき、所定工具により加工するときの所要動力を算出する所要動力算出手段と、切削領域と切削条件に基づき、所定工具により加工するときの主軸の回転数変動幅を算出する主軸回転数算出手段と、主軸の回転数変動幅が複数の異なる出力特性に跨る場合、いずれの出力特性においても所要動力が得られる主軸回転数範囲を算出する主軸回転数範囲算出手段と、主軸回転数範囲と切削領域に基づき出力特性を切り換える切換点を算出し、切換点により切削領域を分割する加工工程分割手段と、分割された切削領域に基づき加工情報を作成する数値制御情報作成手段とを備えたことを特徴とする数値制御情報作成装置。
【0018】
(3)主軸回転数と主軸モータの出力値により出力特性を表す複数の動力線図データを記憶する動力線図データ格納手段と、素材形状と加工形状に基づき、所定工具により加工する切削領域と切削条件を生成する加工工程情報作成手段と、切削条件に基づき、所定工具により加工するときの所要動力を算出する所要動力算出手段と、切削領域と切削条件に基づき、所定工具により加工するときの主軸の回転数変動幅を算出する主軸回転数算出手段と、主軸の回転数変動幅が複数の異なる出力特性に跨る場合、いずれかの出力特性における主軸モータの上限出力値を算出し、上限出力値を超えることがないよう切削条件を変更する切削条件変更手段と、変更された切削条件に基づき加工情報を作成する数値制御情報作成手段とを備えたことを特徴とする数値制御情報作成装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の数値制御情報作成装置によれば、動力線図データ、主軸の所要動力および主軸回転数の変動幅を含む動力関連データに基づいて変速機構の出力を決めるので、加工に習熟していないオペレータでも加工機の能力に適合した数値制御情報を容易に作成できるという効果がある。特に、動力関連データ表示手段が動力線図データに主軸の所要動力と主軸回転数の変動幅とを重ねて表示するので、オペレータは変速機構の出力が適切かどうかをビジュアルに判定できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態を示す数値制御情報作成装置のブロック図である。
【図2】数値制御情報作成装置の特徴的な処理を示すフローチャートである。
【図3】端面荒引き加工を示す加工モデル図である。
【図4】端面荒引き分割加工を示す加工モデル図である。
【図5】加工工程分割処理を示す動力関連データ表示部の表示モデル図である。
【図6】切削条件変更処理を示す動力関連データ表示部の表示モデル図である。
【図7】従来の数値制御情報作成装置を示すブロック図である。
【図8】従来装置による処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、この実施形態の数値制御情報作成装置100は、従来装置200(図7参照)の構成要素に加え、切削条件変更部15、加工工程分割部16、所要動力算出部17、主軸回転数範囲算出部18、動力関連データ表示部19を備えている。なお、従来装置200と同様に機能する構成要素については、図1に図7と同じ符号が付されている。
【0022】
動力線図データ格納部9は、主軸回転数と主軸モータの出力値との関係を示す複数の動力線図データPOを格納し、主軸回転数範囲算出部18に提供する。主軸回転数算出部10は、工程データ格納部8から読み出した加工工程情報MPと切削条件MCとに基づいて、対象工程加工時の主軸最大回転数Smaxと主軸最小回転数Sminを算出し、算出値を主軸回転数範囲算出部18に提供する。例えば、対象工程が定周速切削の端面荒引き加工ならば、加工工程情報MPに含まれる加工形状と素材形状から取得される最小加工径と、切削条件MCに含まれる主軸切削速度とから主軸最大回転数Smax を算出し、加工工程情報MPから取得される最大加工径と、切削条件MCに含まれる主軸切削速度とから主軸最小回転数Sminを算出する。また、対象工程が定回転切削ならば、切削条件MCに含まれる回転数が主軸回転数となる。この場合、主軸最大回転数Smaxおよび主軸最小回転数Sminは切削条件MCに含まれる回転数と等しい。
【0023】
所要動力算出部17は、工程データ格納部8から読み出した加工工程情報MPと切削条件MCとに基づいて、対象工程を加工するために所要動力PNを算出し、算出値を主軸回転数範囲算出部18に格納する。そして、主軸回転数範囲算出部18が動力線図データPO、所要動力PN、主軸回転数Smax,Sminを含むデータを動力関連データ表示部19に提供し、この表示部19が同一画面に低速ギヤ動力線図PLと高速ギヤ動力線図PH(図3,4参照)を重ねて表示する。なお、主軸回転数範囲算出部18では、所要動力PNおよび主軸最大回転数Smaxと主軸最小回転数Sminとの差分である主軸回転数の変動幅が複数の動力線図データPO(出力特性)に跨るかどうかを判定する。更に、主軸回転数範囲算出部18は、主軸回転数の変動幅が複数の出力特性に跨った場合、いずれの出力特性においても、対象工程を加工するために必要な所要動力PNを得ることができる主軸回転数の範囲を、加工工程の分割、または、切削条件を変更する方法により取得できるかどうかを判定する。
【0024】
また、動力線図データPO、所要動力PN、主軸最小回転数Smin、主軸最大回転数Smaxは主軸回転数範囲算出部18から主軸ギヤ決定部11にも提供される。主軸ギヤ決定部11は主軸変速機構の出力を決める出力決定手段として機能し、主軸ギヤ決定部11において動力関連データに基づく自動選択またはオペレータの手動選択により主軸ギヤが決定される。手動選択による場合は、データ入力部2にて指定された選択条件MGが主軸ギヤ決定部11に提供される。主軸回転数の変動幅が複数の動力線図データPOに跨らず、主軸ギヤが一意に決まる場合は、そのギヤ情報SGが工程データ格納部8に格納される。
【0025】
一方、主軸回転数の変動幅が複数の動力線図データPOに跨るときで、主軸回転数範囲算出部18が加工工程を分割する方法で必要な動力を得ると判断し、一つの加工工程を加工するために複数のギヤレンジが必要となる場合には、主軸ギヤ決定部11が各ギヤレンジの境界を指定する分割径PD(図4参照)を決定する。加工工程分割部16は、加工工程がギヤレンジと一対一で対応するように、主軸ギヤ決定部11から入力された分割径PDとギヤ情報SGを用いて、工程データ格納部8から読み出した加工工程(切削領域)を分割し、分割後の加工工程情報MPAと対応するギヤ情報SGとを工程データ格納部8に格納する。
【0026】
また、主軸回転数の変動幅が複数の動力線図データPOに跨るときで、主軸回転数範囲算出部18が加工工程の分割よりも切削条件を変更する方法で必要な動力を得る方が有利と判断した場合は、切削条件変更部15が、主軸ギヤ決定部11にて決定したギヤ情報SGの動力線図データPOと主軸回転数Smin,Smaxから取得したモータ出力値の上限値Poを超えないように、切削条件MCの送り速度や切込量を再計算し、新たに算出した切削条件MCAをギヤ情報SGと共に工程データ格納部8に格納する。そして、数値制御情報作成部12が、素材形状MF、加工工程情報MPA、切削条件MCA、ギヤ情報SG等を含む工程データDMを総合して数値制御情報NCを作成する。
【0027】
図2は、上記構成の数値制御情報作成装置100の特徴的処理を示す。まず、加工形状(部品形状)PFと素材形状MFの差から切削領域を抽出し、工具データDTを用いて切削領域を加工するための加工工程情報MPと切削条件MCを生成する(S1)。続いて、加工工程情報MPに対応する切削条件MCから主軸切削速度V、送り速度F、切込量T、ワークの材質に応じた比切削抵抗Kを読み出し、工程毎の所要動力Pnを次式により算出する(S2)。
所要動力Pn=主軸切削速度V×比切削抵抗K×切込量T×送り速度F
【0028】
次に、切削条件MCに基づいて定回転切削か定周速切削かを判別する(S3)。主軸回転数を指令して加工する定回転切削の場合は、指令値どおりの数値を主軸回転数として求める。主軸切削速度を指令して加工する定周速切削の場合は、切削領域の加工に要する主軸の最大回転数と最小回転数を算出する(S4)。例えば、図3において、素材形状MFの最小加工径Dminにおける主軸回転数が主軸最大回転数Smaxとなり、素材形状MFの最大加工径Dmaxにおける主軸回転数が主軸最小回転数Sminとなり、次式より求められる。
主軸最大回転数Smax=主軸切削速度V÷(π×最小加工径Dmin)
主軸最小回転数Smin=主軸切削速度V÷(π×最大加工径Dmax)
【0029】
続いて、主軸ギヤ毎の動力線図データPO、主軸の所要動力Pnおよび主軸回転数の変動幅(Smin〜Smax)を含む動力関連データを作成し(S5)、動力関連データ表示部19の同一画面に重ねて表示させる(S6)。図5は高低2段の主軸変速機構を装備した加工機の動力関連データの表示例を示し、低速ギヤ動力線図PLと高速ギヤ動力線図PHが重ねて表示されるとともに、2本の動力線図PL,PHに主軸の所要動力Pnと主軸回転数の変動幅(Smin〜Smax)とが重ねて表示されている。
【0030】
ここで、低速ギヤ動力線図PLは、低速ギヤの有効回転数を最小回転数SLminから最大回転数SLmaxまでの範囲で示している。高速ギヤ動力線図PHは、高速ギヤの有効回転数を最小回転数SHminから最大回転数SHmaxまでの範囲で示している。そして、計算により求めた主軸回転数の変動幅(Smin〜Smax)と主軸の所要動力Pnとが、互いに重なり合う状態で、機械仕様値である動力線図PL,PHに関連付けて表示されている。
【0031】
従って、オペレータは動力関連データ表示部19の画面表示に基づいてどの主軸ギヤを選択すればよいかがビジュアルに分かる。例えば図5において、主軸回転数の変動幅を示す線分Lが低速ギヤ動力線図PLが示す低速域または高速ギヤ動力線図PHが示す高速域のどちらか一方に含まれている場合は、その一方の主軸ギヤが一意に決まる。しかし、線分Lが低速域および高速域の両方に跨っている場合は、一方の主軸ギヤだけでは効率よく加工できないことが分かる。
【0032】
この実施形態の数値制御情報作成装置100は、オペレータによる主軸ギヤの選択を支援する表示に加え、主軸ギヤを自動的に選択するために、主軸回転数が低速域と高速域の両方に跨って変動するかどうかを判定する(S7)。具体的には、主軸回転数範囲算出部18において、動力線図データPO、所要動力Pn、主軸回転数変動幅(Smin〜Smax)を含む動力関連データを用い、主軸回転数の変動幅を示す線分Lが高速ギヤ動力線図PHと交差するか否かを判定する。
【0033】
そして、主軸回転数の変動幅が低速域と高速域の両方に跨る場合に、切削条件を変更するための処理と加工工程を分割するための処理のどちらを優先するかを確認する(S8)。加工工程を分割する場合は(S8:No)、加工形状のどの部位で切削領域を分割するかを示す分割径PDを求める(S9)。分割径PDは、主軸回転数の変動幅のうち、低速域と高速域の両方に跨る範囲、つまり主軸ギヤが低速から高速に切り換わっても主軸の所要動力Pnが主軸モータの出力値を超えない範囲、すなわち、図5に示す範囲CEの主軸回転数と対応する加工形状範囲内に好ましく求めることができる。
【0034】
具体的には、範囲CEの最大回転数Sce maxに対応する分割候補径の最小値Dce minと、範囲CEの最小回転数Sce minに対応する分割候補径の最大値Dce maxとを次式より求め、最小値Dminと最大値Dmaxの間において加工形状に分割径PDを求めることができる。
分割候補径の最小値Dce min=主軸切削速度V÷(π×最大回転数Sce max)
分割候補径の最大値Dce max=主軸切削速度V÷(π×最小回転数Sce min)
【0035】
ただし、図3に示す「端面荒引き加工」のように、加工形状は、直線要素のみで構成されることもあるし、円弧を含むこともある。円弧や直線要素の途中に分割径PDを設定すると、加工面の仕上がりに悪影響が及ぶおそれがある。このため、分割径PDは、加工形状の交点または端点に設定するのが望ましい。図4の例では、2直線の交点のX座標を分割径PDとして求めている。もちろん、範囲CEに含まれる任意の主軸回転数と対応する部位に分割径PDを設定することも可能である。
【0036】
次に、図4に示すように、分割径PDとして指定された加工形状PFの交点から水平線を引いて、対象の加工工程(切削領域)を分割する(S10)。そして、分割後の複数の加工工程にそれぞれ適切な主軸ギヤを割り当てる(S11)。なお、図4は、図3に示した切削領域を分割径PDにて切削領域Aと切削領域Bとに2分割した「端面荒引き分割加工」を示す。
【0037】
一方、図6に示すように、主軸回転数の変動幅を示す線分Lが高速ギヤ動力線図PHを僅かに越えるような場合は、加工工程を分割するよりも、切削条件を変更した方が効率よく加工できる場合もある(S8:Yes)。この場合、まず、高低2つの主軸ギヤのうち加工工程の大部分で使用する主軸ギヤを選定し、その動力線図データを読み出す(S12)。次に、高速ギヤ動力線図PHから主軸最小回転数(Smin)に対応するモータ出力値Poを主軸モータの上限出力値として求め、その出力値Poを超えることがないように、切削条件MCを変更する(S13)。
【0038】
切削条件MCとして、例えば、工具の送り速度Fを変更することができる。変更後の送り速度F’は、次式より求まる。
変更後の送り速度F’=Po÷(主軸切削速度V×比切削抵抗K×切込量T)
また、切削条件MCとして、切込み量Tを変更することも可能である。変更後の切込み量T’は、次式より求まる。
変更後の切込み量T’=Po÷(主軸切削速度V×比切削抵抗K×送り速度F)
【0039】
以上詳述したように、この実施形態の数値制御情報作成装置100によれば、主軸回転数が低速域と高速域の両方に跨って変動する場合に、加工工程の分割で対処する方法と、切削条件の変更で対処する方法の二通りを採用できる。前者の方法は、特に、最大加工径Dmaxと最小加工径Dminとの差が大きい加工形状の場合に、加工機の能力に応じ、加工工程を所要数に分割し、各工程に最適な主軸ギヤを選定できる利点がある。
【0040】
また、後者の方法は、予め主軸ギヤを選定するので、選定した主軸ギヤの動力線図に基づき、加工機の能力を超えることがないように切削条件を自動的に変更でき、特に、加工径差の小さい加工形状の場合に、効率よく加工できる利点がある。さらに、何れの方法を採用する場合も、複数種の動力関連データが表示部19の同一画面上に重ねて表示されるので、経験の浅いオペレータでも最適な主軸ギヤを容易に選択することができる。
【0041】
なお、上記実施形態では、低速ギヤと高速ギヤを用いた2段変速機構を例示したが、低速、中速、高速の3段またはそれ以上の変速ギヤ機構を採用することもでき、ギヤ機構に限定されず、主軸モータの巻線を切換可能な変速機構も採用でき、さらには、ギヤと巻線の両方を切換可能な複合型変速機構も採用可能である。その他、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の構成や手順を適宜に変更して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 データ入力装置
2 データ入力部
3 素材形状格納部
4 工具データ格納部
5 加工形状格納部
6 加工工程情報作成部
7 切削条件決定部
8 工程データ格納部
9 動力線図データ格納部
10 主軸回転数算出部
11 主軸ギヤ決定部
12 数値制御情報作成部
13 数値制御情報出力部
14 伝送媒体
15 切削条件変更部
16 加工工程分割部
17 所要動力算出部
18 主軸回転数範囲算出部
19 動力関連データ表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材形状と加工形状に基づき、変速機構により主軸が複数の異なる出力特性を有する加工機の数値制御情報を作成する数値制御情報作成装置において、
主軸回転数と主軸モータの出力値により前記出力特性を表す複数の動力線図データを記憶する動力線図データ格納手段と、
前記素材形状と加工形状に基づき、所定工具により加工する切削領域と切削条件を生成する加工工程情報作成手段と、
前記切削条件に基づき、前記所定工具により加工するときの所要動力を算出する所要動力算出手段と、
前記切削領域と切削条件に基づき、前記所定工具により加工するときの主軸の回転数変動幅を算出する主軸回転数算出手段と、
前記複数の動力線図データ、所要動力および主軸の回転数変動幅を同一画面に重ねて表示する動力関連データ表示手段と
を備えたことを特徴とする数値制御情報作成装置。
【請求項2】
素材形状と加工形状に基づき、変速機構により主軸が複数の異なる出力特性を有する加工機の数値制御情報を作成する数値制御情報作成装置において、
主軸回転数と主軸モータの出力値により前記出力特性を表す複数の動力線図データを記憶する動力線図データ格納手段と、
前記素材形状と加工形状に基づき、所定工具により加工する切削領域と切削条件を生成する加工工程情報作成手段と、
前記切削条件に基づき、前記所定工具により加工するときの所要動力を算出する所要動力算出手段と、
前記切削領域と切削条件に基づき、前記所定工具により加工するときの主軸の回転数変動幅を算出する主軸回転数算出手段と、
前記主軸の回転数変動幅が複数の異なる出力特性に跨る場合、いずれの出力特性においても前記所要動力が得られる主軸回転数範囲を算出する主軸回転数範囲算出手段と、
前記主軸回転数範囲と切削領域に基づき出力特性を切り換える切換点を算出し、該切換点により切削領域を分割する加工工程分割手段と、
前記分割された切削領域に基づき加工情報を作成する数値制御情報作成手段と
を備えたことを特徴とする数値制御情報作成装置。
【請求項3】
素材形状と加工形状に基づき、変速機構により主軸が複数の異なる出力特性を有する加工機の数値制御情報を作成する数値制御情報作成装置において、
主軸回転数と主軸モータの出力値により前記出力特性を表す複数の動力線図データを記憶する動力線図データ格納手段と、
前記素材形状と加工形状に基づき、所定工具により加工する切削領域と切削条件を生成する加工工程情報作成手段と、
前記切削条件に基づき、前記所定工具により加工するときの所要動力を算出する所要動力算出手段と、
前記切削領域と切削条件に基づき、前記所定工具により加工するときの主軸の回転数変動幅を算出する主軸回転数算出手段と、
前記主軸の回転数変動幅が複数の異なる出力特性に跨る場合、いずれかの出力特性における主軸モータの上限出力値を算出し、該上限出力値を超えることがないよう切削条件を変更する切削条件変更手段と、
前記変更された切削条件に基づき加工情報を作成する数値制御情報作成手段と
を備えたことを特徴とする数値制御情報作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−155473(P2012−155473A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13094(P2011−13094)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】