説明

斜板式液圧回転機

【課題】特殊な加工を要することなく、焼付きなどを防止し、かつ摩耗による寿命低下の虞のない低コストな斜板式液圧回転機の提供。
【解決手段】それぞれ鉄系材料にて製作されたピストンシュー11と、環状平板のリテーナ12及び半球面状のリテーナガイド13を備えた斜板式液圧回転機において、リテーナ12及びこのリテーナ12と摺動するピストンシュー11のいずれか一方、またはリテーナ12及びこのリテーナ12と摺動するリテーナガイド13のいずれか一方の摺動面に、相手部材の形状に倣う倣い面を有する馴染み層19を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル等の建設機械に備えられ、油圧シリンダなどに作動液を供給する油圧ポンプあるいは供給された作動液により回転駆動される油圧モータとして用いられる斜板式液圧回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
斜板式液圧回転機の中でも、一般に広く用いられているものとして、可変容量型斜板式油圧モータがあり、例えば図4に示すような構造が知られている。この油圧モータは、ヘッドケーシング2及び蓋体3から成るケーシング1内に構成された密閉空間に回転可能にシリンダブロック7を設け、このシリンダブロック7には円周方向に所定間隔をもって同心上に複数のシリンダ8を穿設し、各シリンダ8にピストン10を往復移動可能に挿嵌して設ける構成としたものである。シリンダブロック7は軸受5,6により回転可能に軸支される回転軸4を回転中心に備え、吸込みポート18から順次各シリンダ8に作動液を吸入することで、各ピストン10が斜板14側に順次押し出される。するとピストン10の先端に嵌合することにより回動可能に備えられたピストンシュー11が斜板14に摺動しながら、斜板14側に押し付けられ、斜板14はピストン10の軸方向に対して傾斜しているから、ピストンシュー11は斜板14上を摺動し、押付け力の反力によってシリンダブロック7を回転させ、さらに回転軸4を回転させるようになっている。斜板14は、ピストンシュー11の摺動側とは反対面において傾転支持ブロック15にて支持され、傾転制御用ピストン16により傾斜を変えることにより、容量を変化させる。また、ピストンシュー11は、斜板14の表面上をリテーナ12に案内されて摺動する。
【0003】
リテーナ12は、そのリテーナガイド挿通穴12Aを中心に等間隔に設けられたシュー挿通穴12Bにピストンシュー11を挿通している。ピストンシュー11の斜板14側端部であるシューパッド11Aの径は、シュー挿通穴12Bの径よりも大きく設定されていることから、リテーナ12はシュー挿通穴12B近傍のシュー押さえ12Cにてシューパッド11Aと摺動し、ピストンシュー11を斜板14側に付勢しつつ回転している。リテーナガイド13は、シリンダブロック7とリテーナ12の間で凸面を斜板14側に向けて回転軸4に挿通されており、シリンダブロック7に組み込まれたばね17により、その端面を斜板14側に付勢され、その凸面状の外周面でリテーナ12のリテーナガイド挿通穴12A内面と摺動し、リテーナ12を位置決めしている。ばね17は図5に示すように、シリンダブロック7に穿設したシリンダ8と回転軸4との間に同心上に設けたばね座穴7Aに収容されている。
【0004】
上記のように、斜板式液圧回転機には、部材同士が摺動する摺動面が存在するため、これらの摺動面において焼付きやかじりの虞がある。
【0005】
この摺動面における焼付きなどを防止するため、例えば特許文献1では、可変容量型アキシャルピストン式油圧ポンプにおいて、可動斜板背面の凸状円弧面にリン酸マンガン系皮膜処理などを施した高摺動性層を設け、これと摺動する相手部材であるサポート部材の摺動面側に別途スラストメタルを設ける技術が開示されている。スラストメタルとしては、特許文献2に示されるポンプ軸受の摺動面のように、ホワイトメタルと呼称される摺動性の良好なスズ基合金が用いられるのが一般的である。また特許文献3に示される従来技術では、可変容量型アキシャルピストン式ポンプにおいてピストンシューと摺動するスラストプレートの摺動面に、やはりホワイトメタルなどの摺動性の良好な部材を用いている。特許文献2及び3において、ホワイトメタルと摺動する相手部材は特に言及されていないが、特許文献2の摩耗試験においてホワイトメタルとSUS403の組合せが評価されているので、鉄系材料である鋼材が用いられているものと推定される。
【0006】
また特許文献4では、リテーナとリテーナガイドとの摺動部の焼付きや摩耗を防止して寿命を延ばすために、リテーナガイドと摺動するリテーナのリテーナガイド挿通穴内周面を球面に加工することで、リテーナとリテーナガイドとの接触面圧を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−63157号公報
【特許文献2】特開2000−356223号公報
【特許文献3】特開平6−2648号公報
【特許文献4】特開2007−255215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献1に示される従来技術では、可変容量型アキシャルピストンポンプにおいて、可動斜板に窒化処理やリン酸マンガン化成処理等により、高い表面硬度を有する高摺動性層を設ける一方、可動斜板が摺動する相手部材としてスラストメタルを可動斜板のサポート部材上に設けている。つまり、互いに摺動する部材において、一方に高硬度材を、他方に相対的に柔らかい材料を用いることで摺動性を確保している。このような材料の組合せにおいては、特に柔らかい側の材料の摺動による摩耗が懸念されるが、特許文献1に示される従来技術では、可動斜板とサポート部材の摺動部において、摺動面積を大きくとることにより接触面圧を小さくして、摺動による摩耗の問題を回避している。しかしながら油圧ポンプなどの液圧回転機においては、摺動部分は他にも存在し、例えばリテーナと摺動の相手部材であるピストンシューあるいはリテーナガイドの場合、リテーナとリテーナガイドが摺動するのは、リテーナのリテーナガイド挿通穴内周部においてであり、接触面積の小さい線接触であることからその面圧は非常に高く、ホワイトメタルが著しく摩耗してしまうという問題が生じる。また、リテーナとピストンシューが摺動するのはリテーナのシュー押さえとシューパッドの間であり、やはり摺動面積が小さく、接触面圧が高い。そのため、特許文献1に開示された従来技術を適用した場合、摺動面が摩耗しやすいという問題がある。
【0009】
一方、特許文献2に示す従来技術では、荷重の大きなラジアル軸受は摺動面積も大きいため接触面圧は低く、またスラスト軸受では荷重がラジアル軸受ほど大きくないため、やはり接触面圧は低くなり、摺動面に柔らかいホワイトメタルを用いても、摩耗の問題はさほど顕在化しない。そして特許文献3に示す従来技術でも、ホワイトメタルの適用されるスラストプレートの摺動面においては、摺動の相手部材となるシューの摺動面積が大きいため面圧が低くなり、摩耗の問題は顕在化しない。しかしながら、これらの従来技術においても、摺動が局所的となる部位では摺動部の接触面圧が大きくなり、摩耗の問題が顕在化するので、適用できる部位が制限される。
【0010】
また、特許文献4に示す従来技術は、リテーナとリテーナガイドの接触面圧を低減するには効果的であるものの、リテーナガイド挿通穴の内周面を球面加工するため、加工精度が要求される。このため加工コストがかさみ、大量生産品には適用しづらい。
【0011】
以上のように、リテーナと摺動する相手部材であるピストンシューあるいはリテーナガイドに対して、特許文献1〜3に開示されたような従来技術を用いて、ホワイトメタルのような摺動性は良好なものの、比較的軟らかい素材を摺動面に適用すると、摺動部の接触面積が小さいことからその面圧は非常に高く、ホワイトメタルが著しく摩耗してしまうという問題が生じる。その場合には、液圧回転機を分解して摩耗した部材を交換する必要が生じて、メンテナンスが煩雑である。また特許文献4に開示された技術は、摺動部材の接触面圧低減に効果があるものの、加工精度が要求されコスト面で適用しづらい。そこで摺動が局所的で、摺動部における接触面圧が高い部位においても、焼付きなどを防止し、かつ摩耗による寿命低下の虞のない低コストな斜板式液圧回転機が待望されていた。
【0012】
本発明は、前述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、リテーナとピストンシューあるいはリテーナガイドとの摺動面における接触面圧を速やかに低減して、焼付きなどを防止し、かつ摩耗による寿命低下の虞がない斜板式液圧回転機を低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明に係る斜板式液圧回転機は、ケーシングと、このケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、この回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、このシリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、これらの各ピストンの突出端部に装着される、鉄系材料にて製作されたピストンシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に前記各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各ピストンシューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記回転軸に挿通され前記各ピストンシューを挿通して前記斜板の摺動面に押圧する複数の挿通穴を有する、鉄系材料にて製作された環状平板のリテーナと、このリテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して前記回転軸に挿嵌され外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧する、鉄系材料にて製作された半球面状のリテーナガイドとを備えた斜板式液圧回転機において、前記リテーナ、及びこのリテーナと摺動する前記リテーナガイドのいずれか一方の摺動面に、相手部材の形状に倣う面を有する馴染み層を設けたことを特徴としている。
【0014】
このように構成した本発明では、鉄系材料同士であるリテーナとリテーナガイドのいずれか一方の摺動面が相手部材の形状に倣う面を有する馴染み層を備えているため、摺動初期に馴染み層が相手部材の形状に倣う倣い面を形成することにより、摺動面積が増大して、速やかに接触面圧を低減させることができる。また摺動部材はいずれも鉄系材料であり、ホワイトメタルのような摩耗しやすい材料ではないことから、一方の摺動部材の摺動面にある馴染み層が他方の形状に倣う倣い面を形成した後は、摩耗の進行の虞はない。すなわち、倣い面を形成して接触面圧を低減させることにより、焼付きなどを防止し、かつ摩耗による寿命低下の虞のない斜板式液圧回転機を提供することができる。
【0015】
また本発明に係る斜板式液圧回転機は、ケーシングと、このケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、この回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、このシリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、これらの各ピストンの突出端部に装着される、鉄系材料にて製作されたピストンシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に前記各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各ピストンシューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記回転軸に挿通され前記各ピストンシューを挿通して前記斜板の摺動面に押圧する複数の挿通穴を有する、鉄系材料にて製作された環状平板のリテーナと、このリテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して前記回転軸に挿嵌され外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧する、鉄系材料にて製作された半球面状のリテーナガイドとを備えた斜板式液圧回転機において、前記リテーナ、及びこのリテーナと摺動する前記ピストンシューのいずれか一方の摺動面に、相手部材の形状に倣う面を有する馴染み層を設けたことを特徴としている。このように構成した本発明では、鉄系材料同士であるリテーナとピストンシューのいずれか一方の摺動面が相手部材の形状に倣う面を有する馴染み層を備えているため、摺動初期に摺動面が相手部材の形状に倣うことにより、摺動面積が増大して、速やかに接触面圧を低減させることができる。また摺動部材はいずれも鉄系材料であり、ホワイトメタルのような摩耗しやすい材料ではないことから、一方の摺動部材の摺動面にある馴染み層が他方の形状に倣う倣い面を形成した後は、摩耗の進行の虞はない。すなわち、倣い面を形成して接触面圧を低減させることにより、焼付きなどを防止し、かつ摩耗による寿命低下の虞のない斜板式液圧回転機を提供することができる。
【0016】
また本発明に係る斜板式液圧回転機は、ケーシングと、このケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、この回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、このシリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、これらの各ピストンの突出端部に装着される、鉄系材料にて製作されたピストンシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に前記各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各ピストンシューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記回転軸に挿通され前記各ピストンシューを挿通して前記斜板の摺動面に押圧する複数の挿通穴を有する、鉄系材料にて製作された環状平板のリテーナと、このリテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して前記回転軸に挿嵌され外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧する、鉄系材料にて製作された半球面状のリテーナガイドとを備えた斜板式液圧回転機において、前記ピストンシュー及び前記リテーナガイドと摺動する前記リテーナの摺動面に、摺動する相手部材の形状に倣う面を有する馴染み層を設け、前記リテーナガイド及び前記ピストンシューには、前記馴染み層を設けないことを特徴としている。このように構成した本発明では、リテーナの摺動面にのみ相手部材であるリテーナガイド及びピストンシューの形状に倣う面を有する馴染み層を備えているため、摺動初期にリテーナの摺動面がリテーナガイド及びピストンシューの形状に倣うことにより、摺動面積が増大して、速やかに接触面圧を低減させることができる。また摺動部材はいずれも鉄系材料であり、ホワイトメタルのような摩耗しやすい材料ではないことから、リテーナの摺動面にある馴染み層がリテーナガイド及びピストンシューの形状に倣う倣い面を形成した後は、摩耗の進行の虞はない。すなわち、倣い面を形成して接触面圧を低減させることにより、焼付きなどを防止し、かつ摩耗による寿命低下の虞のない斜板式液圧回転機を提供することができる。
【0017】
また本発明に係る斜板式液圧回転機は、前記発明において、前記リテーナガイドと摺動する前記リテーナ上の摺動面に形成されたリテーナガイド挿通穴の径が、前記リテーナガイド側に近づくにつれて広がるテーパ形状であることを特徴としている。このように構成した本発明では、球面であるリテーナガイドへの摺動によるリテーナの倣いが、リテーナガイド挿通穴の内壁面中間部を起点として開始する。このため、リテーナガイド挿通穴の厚み方向の形状を例えばストレート形状とした場合には、リテーナガイドへの倣い面の形成がリテーナガイド挿通穴の端部から開始するため、摺動開始時の接触面圧が著しく高いのに対して、テーパ形状とした場合には、摺動開始時のリテーナとリテーナガイドとの接触面圧を低くすることができる。またリテーナガイド挿通穴を球面とする場合は、リテーナとリテーナガイドとの接触面圧を低くすることができるものの、リテーナガイドの球面と曲率が一致するように高精度に加工することは、加工コストの増大を招く。
【0018】
また本発明に係る斜板式液圧回転機は、前記発明において、前記馴染み層を、前記摺動面に対して化成皮膜処理を行った後に、この化成皮膜処理を行った前記摺動面が相手部材との摺動により相手部材の形状に倣う面を形成して成ることを特徴としている。このように構成した本発明では、一般に広く用いられている化成皮膜処理を摺動面に適用した後に、稼働中に相手部材と摺動させることで、相手部材の形状に倣う倣い面を有する馴染み層を形成することができるので、倣い面を形成するための特殊な機械加工が不要となる。このため、倣い面を低コストで形成することができる。
【0019】
また本発明に係る斜板式液圧回転機は、前記発明において、前記化成皮膜処理は、リン酸マンガンによる皮膜形成処理であることを特徴としている。リン酸マンガンは化成皮膜を形成する処理に用いる薬剤の中でも、5〜15μmの比較的厚い皮膜を形成することができるので、馴染み層が相手部材の形状に倣う裕度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、斜板式液圧回転機において、リテーナ及びリテーナと摺動するリテーナガイドあるいはピストンシューの一方の摺動面に対して、相手部材の形状に倣う面を有する馴染み層を設けたので、この馴染み層を設けた方の摺動部材が相手部材と摺動することで摺動初期に相手部材の形状に倣い、摺動部材間の接触面圧を速やかに低減させることができる。これにより、同じ鉄系材料で構成されたリテーナと、リテーナガイドあるいはピストンシューとの摺動面で従来生じていたような焼付きや摩耗による寿命の低下を簡単な加工で防止することができる。すなわち特殊な加工を要することなく低コストで、大量生産に適した高性能な液圧回転機を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る斜板式液圧回転機の第1実施形態を示す要部横断面図である。
【図2】図1に示した第1実施形態を拡大して示す横断面図であり、(a)図はリテーナに設けた馴染み層がリテーナガイドの形状に倣う前の形状を示す図、(b)図は倣った後の形状を示す図である。
【図3】図1に示した第1実施形態を拡大して示す横断面図であり、(a)図はリテーナに設けた馴染み層がピストンシューの形状に倣う前の形状を示す図、(b)図は倣った後の形状を示す図である。
【図4】従来の斜板式液圧回転機の一例として挙げた可変容量型斜板式油圧モータの構成を示す横断面図である。
【図5】図4に示す可変容量型斜板式油圧モータのシリンダブロックを斜板側から見た図である。
【図6】図4に示す可変容量型斜板式油圧モータのピストンシューが斜板に片当りしている様子を示す要部横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る斜板式液圧回転機を実施するための形態を、図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は本発明に係る斜板式液圧回転機の第1実施形態に備えられるリテーナ12、リテーナガイド13及びピストンシュー11を示す要部横断面図である。なお、液圧回転機全体の基本的な構成は、図4に示した従来技術である可変容量型斜板式油圧モータと同様であるので、図1〜3では、液圧回転機の構成部材の要部のみを示し、以下必要に応じて図4に示した符号を用いて説明する。
【0024】
第1実施形態では、リン酸マンガンを用いた化成皮膜処理により、リテーナ12の表面に馴染み層19を形成している。なお、この馴染み層19の実際の厚みは10μm前後で、肉眼では確認できないが、説明を容易にするため、図1〜3においては、厚みの寸法を誇張して示してある。図2は、図1に示したリテーナガイド挿通穴12A近傍におけるリテーナ12とリテーナガイド13の摺動部を拡大して示す横断面図であり、(a)図はリテーナ12に設けた馴染み層がリテーナガイド13の形状に倣う前の形状を示す図、(b)図は倣った後の形状を示す図である。リテーナガイド挿通穴12Aの径は、前記リテーナガイド13側に近づくにつれて広がるテーパ形状となっている。リテーナガイド13は、テーパ面を有するリテーナガイド挿通穴12A内壁面に対して、その中間部で摺動する。油圧モータの回転に伴い、リテーナ12表面の馴染み層19に倣い面が形成されていき、その形状は図2の(a)図から(b)図へと変化していく。
【0025】
また図3は、図1に示したシュー挿通穴12Bのリテーナ12内周側近傍におけるリテーナ12とピストンシュー11の摺動部を拡大して示す横断面図であり、(a)図はリテーナ12に設けた馴染み層がピストンシュー11の形状に倣う前の形状を示す図、(b)図は倣った後の形状を示す図である。リテーナ12はシュー押さえ12Cにより、ピストンシュー11のシューパッド11Aを斜板14に押し付けながら摺動する。油圧モータの回転に伴い、リテーナ12表面の馴染み層19に倣い面が形成されていき、その形状は図3の(a)図から(b)図へと変化していく。
【0026】
ここで図6に、可変容量型斜板式油圧モータが回転する時の、シリンダブロック7からピストンシュー11にかけての各部材の状態を示す。図6においては、リテーナ12、リテーナガイド13及びピストンシュー11のいずれにも馴染み層19は設けていないが、その動作は第1実施形態に示す馴染み層を設けた場合と同じである。ここで図6に示すように、回転軸4を中心として回転するピストンシュー11の重心11Bには、回転軸4に対してシリンダブロック7の径方向外側に遠心力が作用する。そしてピストンシュー11の重心11Bは、シューパッド11Aの質量のため、ピストン10に回動自在に嵌着されているピストンシュー11の球部中心11Cよりもシューパッド11A側に位置している。このため遠心力は、球部中心11Cを回転中心にして、シューパッド11Aをシリンダブロック7の径方向外側に回転させようとするので、シューパッド11Aは斜板14から径方向外側に浮き上がり、片当りする傾向にある。また、ばね17により付勢されたリテーナガイド13が、リテーナ12のリテーナガイド挿通穴12A内壁面を付勢するので、リテーナ12の外周部は内周部に比べてピストンシュー11に対する押し付け力が弱いことも、片当りを助長する。
【0027】
なお、第1実施形態のようにリテーナ12に馴染み層19を設けた場合は、摺動初期などにリテーナ12の外周部付近のシュー押さえ12Cが、ピストンシュー11に対して仮に片当りを生じるようなことがあっても、図3の(b)図のようにリテーナ12内周部の馴染み層19に倣い面が形成されるにしたがい、リテーナ12外周部のシュー押さえ12Cに対するシューパッド11Aからの浮き上がりが減少し、最終的にはシュー押さえ12Cはシューパッド11Aと均一に摺動するようになる。
【0028】
このように構成した第1実施形態によれば、リテーナ12の摺動面に設けた馴染み層19は、摺動により相手部材であるリテーナガイド13及びピストンシュー11の形状に倣う倣い面を形成することができる。これにより摺動面積が増大して、摺動面における接触面圧を速やかに低減させることができる。すなわち、倣い面を形成して接触面圧を低減させることにより、焼付きなどを防止し、かつ摩耗による寿命低下の虞のない斜板式液圧回転機を提供することができる。
【0029】
次に、本発明に係る斜板式液圧回転機の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、リン酸マンガンを用いた化成皮膜処理により、リテーナガイド及びピストンシューに馴染み層を形成するように構成したものである。この点では、リテーナに馴染み層を形成した第1実施形態とは逆に、各摺動面において馴染み層を設けた部材がリテーナの摺動する相手部材になっている。なお、液圧回転機全体の基本的な構成は、図4に示した従来技術である可変容量型斜板式油圧モータと同様であり、摺動面における倣い面の形成過程は第1実施形態の説明に用いた図2,3に準ずるので、特に図示しない。第2実施形態においても、リテーナと摺動する相手部材にのみ馴染み層を設けているので、馴染み層を設けた部材であるリテーナガイド及びピストンシューが、馴染み層を設けない部材であるリテーナの形状に倣う倣い面を形成することにより、摺動面積が増大して、摺動面における接触面圧を速やかに低減させることができる。すなわち、倣い面を形成して接触面圧を低減させることにより、焼付きなどを防止し、かつ摩耗による寿命低下の虞のない斜板式液圧回転機を提供することができる。
【0030】
なお、第2実施形態の場合は、リテーナガイド及びピストンシューの両方に馴染み層を形成する化成皮膜処理を行う必要があるため、第1実施形態でリテーナに化成皮膜処理を行う場合に比べて、処理対象となる部材が倍増してしまう。このため、特にリテーナに馴染み層を形成することに支障がなければ、リテーナに対して馴染み層を形成することが望ましい。また、リテーナガイドのみ、あるいはピストンシューのみに馴染み層を設けることも可能ではあるが、いずれか一方にのみ馴染み層を設けた場合は、もう一方の部材がリテーナとの摺動により焼付く虞もあるため、両者の摺動面に馴染み層を設けることが望ましい。
【0031】
なお、適用できる斜板式液圧回転機は可変容量型に限定されるものではなく、固定容量型液圧回転機に適用してもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 ケーシング
2 ヘッドケーシング
7 シリンダブロック
7A ばね座穴
8 シリンダ
10 ピストン
11 ピストンシュー
11A シューパッド
11B 重心
11C 球部中心
12 リテーナ
12A リテーナガイド挿通穴
12B シュー挿通穴
12C シュー押さえ
13 リテーナガイド
14 斜板
17 ばね
19 馴染み層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、このケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、この回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、このシリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、これらの各ピストンの突出端部に装着される、鉄系材料にて製作されたピストンシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に前記各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各ピストンシューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記回転軸に挿通され前記各ピストンシューを挿通して前記斜板の摺動面に押圧する複数の挿通穴を有する、鉄系材料にて製作された環状平板のリテーナと、このリテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して前記回転軸に挿嵌され外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧する、鉄系材料にて製作された半球面状のリテーナガイドとを備えた斜板式液圧回転機において、
前記リテーナ、及びこのリテーナと摺動する前記リテーナガイドのいずれか一方の摺動面に、相手部材の形状に倣う倣い面を有する馴染み層を設けたことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項2】
ケーシングと、このケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、この回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、このシリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、これらの各ピストンの突出端部に装着される、鉄系材料にて製作されたピストンシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に前記各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各ピストンシューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記回転軸に挿通され前記各ピストンシューを挿通して前記斜板の摺動面に押圧する複数の挿通穴を有する、鉄系材料にて製作された環状平板のリテーナと、このリテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して前記回転軸に挿嵌され外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧する、鉄系材料にて製作された半球面状のリテーナガイドとを備えた斜板式液圧回転機において、
前記リテーナ、及びこのリテーナと摺動する前記ピストンシューのいずれか一方の摺動面に、相手部材の形状に倣う倣い面を有する馴染み層を設けたことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項3】
ケーシングと、このケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、この回転軸と一体に回転するように前記ケーシング内に設けられ周方向に離間して軸方向に伸長する複数のシリンダが形成されたシリンダブロックと、このシリンダブロックの各シリンダ内に往復動可能に挿嵌され軸方向の一端側が前記シリンダから突出した複数のピストンと、これらの各ピストンの突出端部に装着される、鉄系材料にて製作されたピストンシューと、前記シリンダブロックと対向して前記ケーシング内に設けられ前記シリンダブロックと対向する面に前記各シューが摺動する摺動面が形成された斜板と、前記各ピストンシューと前記各ピストンの突出端部との間に位置して前記回転軸に挿通され前記各ピストンシューを挿通して前記斜板の摺動面に押圧する複数の挿通穴を有する、鉄系材料にて製作された環状平板のリテーナと、このリテーナと前記シリンダブロックとの間に位置して前記回転軸に挿嵌され外周面によって前記リテーナを前記斜板に向けて押圧する、鉄系材料にて製作された半球面状のリテーナガイドとを備えた斜板式液圧回転機において、
前記ピストンシュー及び前記リテーナガイドと摺動する前記リテーナの摺動面に、摺動する相手部材の形状に倣う倣い面を有する馴染み層を設け、前記リテーナガイド及び前記ピストンシューには、前記馴染み層を設けないことを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項4】
請求項1または3に記載の斜板式液圧回転機において、
前記リテーナガイドと摺動する前記リテーナ上の摺動面に形成されたリテーナガイド挿通穴の径が、前記リテーナガイド側に近づくにつれて広がるテーパ形状であることを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の斜板式液圧回転機において、
前記馴染み層を、前記摺動面に対して化成皮膜処理を行った後に、この化成皮膜処理を行った前記摺動面が相手部材との摺動により相手部材の形状に倣う倣い面を形成して得ることを特徴とする斜板式液圧回転機。
【請求項6】
請求項5に記載の斜板式液圧回転機において、
前記化成皮膜処理は、リン酸マンガンによる皮膜形成処理であることを特徴とする斜板式液圧回転機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate