説明

断熱材と断熱材を利用した壁構造と断熱材の混練方法

【課題】、高い断熱性能及び不燃性を備えた断熱モルタルを提供する。
【解決手段】断熱性の骨材である有機マイクロバルーンと、難燃材料と、セメント又は石膏の何れかである水硬性材料と、この水硬性材料に比べて有機マイクロバルーンに対する親和性が大きい合成樹脂系結合材料と、を主成分としており、これら主成分を、有機マイクロバルーンの容積比が70%以上となるように配合するとともに、水を加えて各主成分を均等に混合させてなる断熱モルタルであって、合成樹脂系結合材料は、水を加えることで分散するとともに、この分散状態から乾燥により収縮する性質を有し、これにより、水とともに各主成分を混合したときに、分散した合成樹脂粒子の間に水硬性材料が入りこむように設計されており、水硬性材料は、合成樹脂系結合材料よりも容量が小さく、主成分全体に対するセメント成分の容積比を1〜3%程度とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材と断熱材を利用した壁構造と断熱材の混練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への配慮から、省エネルギーを図るために断熱材(断熱モルタルなど)の重要性が増している。従来の断熱材として、ポリウレタンフォームやポリスチレンフォームなどの有機系断熱材が一般に用いられている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
これに対して、出願人は、内部に気体を包含するマイクロバルーンの断熱性能に着目した断熱材を提案している(特許文献3、特許文献4)。その配合割合は、セメント100重量部に対して、有機マイクロバルーン1〜20重量部と、合成樹脂エマルションの固形分換算3〜50重量部、炭素繊維0.3〜5重量部である。ここで全成分に対する有機マイクロバルーンの容積比は40%程度である。
【0004】
また、この種のマイクロバルーンは、非常に比重が小さく、後述の乾式法で製造したものは、容易に空中に飛散して取り扱いにくいという性質を有する。このため、同文献の断熱材は、上述の合成樹脂エマルション・炭素繊維・有機マイクロバルーン・水などから構成される半液体状混合物に対して、早強ポルトランドセメントを混合混練して、上記の断熱材を製造するようにしている(特許文献3第3頁)。
【特許文献1】特開平8−285175号
【特許文献2】特開2001−055828号
【特許文献3】特開平4−6182号
【特許文献4】特開平4−6183号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリウレタンフォームやポリスチレンフォームなどを用いた断熱材は断熱性能に優れているものの、非常に燃え易い性質があり、不燃性が要求される場合は断熱施工の後に表面に防火処理を施す必要がある。また表面の凹凸が大きく直接仕上げができないために、仕上げ材の前に軽鉄下地または木下地をくみ石膏ボードなどを張るなどする必要がある。従って躯体から仕上げまでの厚さが厚くなり、施工手間が多くなるという欠点がある。
【0006】
またポリウレタンの中で、作業所で吹付け可能な現場発泡ウレタンに関しては、環境への配慮から発泡剤の転換が求められている。具体的には断熱性能が高いが温室効果も高い代替フロン(HFC)を用いた断熱材(熱伝導率0.026W/m・K及び地球温暖化係数約900)から、断熱性能は低いが温室効果が低い炭酸ガスを用いたノンフロン系断熱材(熱伝導率0.034W/m・K及び地球温暖化係数1)への移行である。ただし、その結果として断熱材の厚さが約3割も増えてしまうという現状がある。
【0007】
これに対して、引用文献3の断熱材は、結合材料としてセメントを含むので燃えにくく、かつ湿式施工をするので滑らかでシームレスな断熱層を構成することができるが、熱伝導率が0.05〜0.06W/m・Kと現場発泡ウレタンに比べてノンフロン系の2倍、フロン系の3倍程度であるため、現場発泡ウレタン等と同じ断熱性能を得るには、断熱材自体の塗り厚が2倍から3倍となる。また、一度に塗れる厚さには限りがあり、現場発泡ウレタンと同じ厚さにするためには工程・養生期間・手間が多くかかり、結果としてコスト高であった。そのため現場発泡ウレタン等と同じ断熱性能を確保するための施工は非常に困難であった。
【0008】
断熱性能を高めるためには、断熱性能を有する骨材の成分(有機マイクロバルーン)の割合を多くすることを考えるのが自然であるが、単純に従来の成分のままで割合を変更すると、有機系成分が大幅に増加することで燃焼性に悪影響を及ぼしたり、骨材同士の間の結合力が弱まったりするおそれなどの様々な不都合を生ずるおそれがある。
【0009】
断熱材の製造方法に関しては、上記のように半液体状態で製造し、現場に持ち込むと、水分の量だけ重量が大となり、運搬の際に不都合であるとともに、各種成分を水中で長期間安定した状態に保つことが困難であり、混合後の分散状態を適性にすることにおいても問題となることも多く見られる。
【0010】
本発明の第1の目的は、有機マイクロバルーンと難燃材料とを合成樹脂結合材料(合成樹脂で形成される結合材料をいう)で結合し、高い断熱性能及び耐火性能を備えた断熱材、この断熱材を利用した壁構造、並びに断熱材の混練方法を提供することである。
【0011】
本発明の第2の目的は、上記有機マイクロバルーンと難燃材料とを結合する樹脂の過剰な収縮を抑制するために主成分として水硬性材料であるセメントを添加した断熱材を提供することである。
【0012】
本発明の第3の目的は、上記有機マイクロバルーンと難燃材料とを合成樹脂で結合するとともに水硬性材料を添加してなる断熱材の好適な製造方法、とくに成分の計量を正確にかつ容易に行うことができる製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の手段は、
少なくとも、
断熱性の骨材である有機マイクロバルーンと、
難燃材料と、
セメント系結合材料に比べて有機マイクロバルーンとの親和性が大きい合成樹脂結合材料と、
を主成分としており、
全ての主成分を、有機マイクロバルーンの容積比が70%以上90%以下となるように配合するとともに、水を加えて各主成分を均等に混合させてなり、
合成樹脂結合材料は、水を加えることで分散するとともに、この分散状態から乾燥・硬化により収縮する性質を有する。
【0014】
本手段の特徴は、断熱材の断熱性能を高めるために有機マイクロバルーンの容積比を高めるとともに、耐火性能を維持するために難燃材料を添加したことである。こうした設計変更の効能を判り易くするために図5を参照する。有機マイクロバルーンの容積比を高めると、図5中のA→Bのように熱伝導率が著しく低下するが、それと同時に総発熱量も増大する。水酸化アルミニウムのように一般に難燃材料として使用される成分を添加すると、図5中B→Cのように総発熱量は減少した(不燃性が向上した)が、断熱性は多少低下した。これは、難燃材料を加えると相対的に包含することができる有機マイクロバルーンの量が少なくなるからである。
【0015】
そして、大容量の有機マイクロバルーンを効果的に結合させるため、結合材として、セメントに代えて合成樹脂結合材料を使用した。有機マイクロバルーンと合成樹脂結合材料との親和力により、これら両者間の結合作用が働くので、比較的少量の結合材で所定の結合力が得られる。その結果、図5のC→Dのように断熱性が向上する。結合材を少なくできれば有機マイクロバルーンの容積の比率が大となるからである。図5中D→Eの行程については、整泡剤の種類を変更することにより、結合材である合成樹脂と気泡を最適に分散させることが可能となり、さらに結合材の量の削減が可能となる。
【0016】
「マイクロバルーン」とは、平均粒径が数μm〜数百μmの中空の粒子である。マイクロバルーンのうち有機マイクロバルーンは、図2に示すように無機マイクロバルーン(ガラス・シラスバルーンなど)と比べて熱伝導率が低く、断熱性能が高い。また、有機マイクロバルーンの容積比を70%以上とした理由は、図3に示すように60〜70%の範囲で熱伝導率が急速に減少するからである。これについては後述する。
【0017】
「合成樹脂結合材料」は、セメント系結合材料よりも有機マイクロバルーンの外郭との親和力の強く結合性能のある有機材料であればよい。具体的には、各種有機系の各種重合体あるいは2以上の共重合体又はそれらの混合物とすることができる。
【0018】
「難燃材料」は、150℃〜500℃の範囲で水を放出する結晶水を持つ金属酸化物とすることができる。火災時において、結晶水を放出することにより吸熱反応によって、発熱量を抑制することができるからである。好適な例は水酸化アルミニウムである。
【0019】
本発明は、水硬化材料である結合材料を、水により収縮する合成樹脂結合材料に置き換えたことを特徴とするが、結合材料以外の用途で水硬化材料を主成分として含むものを排除するものではない。これについては後述する。さらに主成分として、強度向上のために無機マイクロバルーンを混合してもよい。なお、本明細書において、「主成分」とは、完成品たる断熱材の性状を左右する重要な成分という程度の意味であり、必ずしも容量比・重量比の多寡を指すものではない。
【0020】
第2の手段は、
主成分として、さらに合成樹脂結合材料の収縮を抑制する作用を有する水硬性材料を含み、水硬性材料を含めた全主成分に対する有機マイクロバルーンの容量比70%以上90%以下とした、第1の手段に記載した断熱材であって、
上記水硬性材料をセメントとし、
全体に対するセメントの容量比を1〜3%として、合成樹脂結合材料の容量比よりも小とするとともに、
主成分の重量割合を、セメント成分100重量部に対して、有機マイクロバルーン30〜50重量部、難燃材料150〜250重量部、合成樹脂結合材料30〜100重量部としている。
【0021】
本手段では、樹脂の収縮抑制手段として少量の水硬性材料を添加することを提案している。合成樹脂はエマルション状態から収縮することで有機マイクロバルーン及び難燃材料を効果的に結びつけることができるが、その収縮力が強すぎるとひび割れや亀裂などを生ずる。亀裂箇所からは熱が断熱材内部に直に流入するため、外部からの熱が躯体を通して伝達されやすくなるため、断熱性能が低下する。この問題に対処するために、本出願人は水硬性材料を樹脂に添加することで収縮を抑制することを着想した。樹脂が収縮するのは樹脂の構成成分の間に収縮力が作用するからであり、従って構成成分の間に異物が存在すれば収縮の程度は低減する筈である。そこで水硬化材料(石膏・セメント)を合成樹脂に添加して乾燥収縮を測定する実験を行った。実験により出願人の予想は裏付けられたが、予想外であったのは石膏よりもセメントを添加した方が乾燥収縮の抑制が顕著だったことである(後述の表4参照)。すなわち、セメントそのものは一般に乾燥収縮の度合いが大きい物質であるが、合成樹脂に少量添加すると、乾燥収縮を抑制する方向に作用するのである。なお、合成樹脂結合材料の重量割合を、セメント成分100重量部に対して30〜100重量部としたが、その範囲の中でも40〜70重量部が特に好適である。
【0022】
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ
上記有機マイクロバルーンを、熱可塑性樹脂からなる外殻と、この外殻に内包されかつ上記熱可塑性樹脂の軟化点以下の沸点を有する炭化水素とから構成し、
有機マイクロバルーンの平均粒径を80〜120μmとするとともに、25℃における真比重を0.018〜0.025とし、
上記炭化水素の熱伝導率が0.012〜0.016(W/m・K)であり、上記炭化水素の重量割合が上記有機マイクロバルーンの5〜15重量%であり、
上記熱可塑製樹脂がニトリル系単量体を含む単量体混合物を重合して得られ、上記ニトリル系単量体の重量割合が前記単量体混合物に対して90〜97重量%とし、
合成樹脂結合材料は、エチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、高級脂肪酸ビニルエステル、スチレン、1,3−ブタジエンのいずれかの重合体あるいは2つ以上の共重合体又はそれらの混合物としている。
【0023】
本手段では、有機マイクロバルーンの典型例の組成を明らかにし、併せてこの有機マイクロバルーンを結合するのに適した合成樹脂結合材料を提案している。
【0024】
有機マイクロバルーンの構成は、断熱性・軽量性を良好とするために設計されている。熱伝導率が0.012〜0.016(W/m・K)の炭化水素を内包ガスとして、有機バルーン全体の熱伝導率を0.034(W/m・K)以下としている。外郭の組成や外郭と内包ガスの重量割合も所要の強度を確保しながら断熱性能を最適化するように設定している。もっとも本手段における数値限定は、好適な典型例としての限定に過ぎず、本手段よりも上位の各手段に適用されるものではない。本発明の要旨は、大容量の有機マイクロバルーン及び難燃剤を合成樹脂結合材料の硬化で結合し、この硬化時の収縮をセメントで抑制することであり、本願発明の作用は内包ガスの熱伝導率など如何に関わらず実現する。
【0025】
合成樹脂結合材料は、エチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、高級脂肪酸ビニルエステル、スチレン、1,3−ブタジエンの何れか1つ又は2つ以上を成分とする。ここで高級脂肪酸ビニルエステルは、ネオデカン酸ビニルエステル、ネオナノン酸ビニルエステル、バーサチック酸ビニルエステル等を云い、商品名ではリソリューション リサーチ ネーデルランド ベスローテン フエンノートシャップ社の登録商標であるベオバを好適に用いることができる。特に合成樹脂結合材料を、(メタ)アクリル酸エステル・酢酸ビニル・高級脂肪酸ビニルエステルからなる3元共重合樹脂とすると好適である。この3元共重合樹脂は、高級脂肪酸ビニルエステルの作用で耐アルカリ・耐水性に富み、膨潤が少ないことから造膜特性がよく、結合材としてとくに優れている。この3元共重合樹脂を用いることで、壁に塗ったあとに下方へ垂れることがなくなるとともに、断熱性能も向上する。さらに鏝塗りのときの伸びがよくなるなど施工性も向上する。
【0026】
第4の手段は、第3の手段を有し、かつ
上記炭化水素はイソブタン、ノルマルベンタン、イソペンタン、シクロペンタンから選ばれた少なくとも一つであり、その重量割合が上記有機マイクロバルーンの5〜15重量%である。
【0027】
第5の手段は、断熱材を利用した壁構造であり、かつ
仕上げ用の薄塗り材又はモルタルと、この薄塗り材又はモルタルの下に施工した第2の手段の断熱材の層とからなり、
この断熱材の層に比べて仕上げ用薄塗り材又はモルタル板材を薄くしている。
【0028】
このモルタルは表面強度を確保するために必要なものであり、壁面などへの衝撃によって断熱層が傷つくのを防止している。平滑度自体は断熱材の層をコテ仕上げで或る程度平滑にできるため、平滑度の確保に補助的に用いる。
【0029】
第6の手段は、第2の手段の断熱材を混練する方法であって、
上記有機マイクロバルーンを、乾燥した状態で製造された乾式有機マイクロバルーンとして、この乾式有機マイクロバルーンを所定量計量し、
次にこの乾式有機マイクロバルーンと所要量の水とを容器に入れて振り動かし、
水を有機マイクロバルーンの表面に吸着させて湿化有機マイクロバルーンとしたのち、 次にこの湿化有機マイクロバルーンを他の主成分と混合し、
これら主成分が均等に混ざるように攪拌するようにしている。
【0030】
本手段は、乾式有機マイクロバルーンの状態で計量した後に水と混合して乾化有機マイクロバルーンとすることを提案している。ここで用語の説明をすると、一般にマイクロバルーンの成形法において、乾燥した環境での成形法を乾式法、水中での成形法を湿式法という。そこで乾式法により、乾いた状態で製造された有機マイクロバルーンを、乾式有機マイクロバルーンと呼び、また、湿式法により、水中で製造された有機マイクロバルーンを、湿式有機マイクロバルーンと呼ぶことにする。さらに本明細書では、乾式有機マイクロバルーンを、成形の後で(例えば施工前に)湿らせたものを、湿化有機マイクロバルーンと言うものとする。もっと詳しく説明すれば、加水量分の水を事前に計量し、乾式有機マイクロバルーンに加え表面を湿潤状態とした有機マイクロバルーンである。
【0031】
後述する水中で製造される湿式有機マイクロバルーンを計量する場合には、製造時にすでに水分と有機マイクロバルーンが一緒の状態であるから、水分と有機マイクロバルーンとを一緒に計量する必要がある。従って水分の乾燥による誤差が大きい。すなわち、この湿式有機マイクロバルーンは、重量比で水が80〜90%であるため、マイクロバルーンの比率に対して水分の重量が多いために乾燥状態によってマイクロバルーンの含入量の変化が大きくなる。これに対して乾式の状態ではマイクロバルーンの計量を正確に行うことができる。本手段の構成要件中、有機マイクロバルーン又は水に関して「所要量」という言葉が使われているが、これは第2の手段の断熱材の配合とするために必要な量という意味である。本手段の構成要件として明記されていないが、乾式マイクロバルーンとは別個に水も計量すればよく、これにより配合が一定となる。また、攪拌行程では有機マイクロバルーン、難燃材料、結合材料、水硬性材料が均等に混ざり合うようにすることができる。
【0032】
第7の手段は、第2の手段の断熱材を混練する方法であって、
上記有機マイクロバルーンを、水中で製造された湿式有機マイクロバルーンとして、この湿式有機マイクロバルーンの水分量を計測した後に、
この湿式有機マイクロバルーンを所定量計量し、
次にこの湿式有機マイクロバルーンを他の主成分と混合し、
これら主成分が均等に混ざるように攪拌する、
ことを特徴としている。
【0033】
本手段では、湿式有機マイクロバルーンとして計量することを提案している。湿式有機マイクロバルーンの特長は、乾式有機マイクロバルーンに比べて扱いに手間がかからずかつ廉価であるということである。本発明の断熱材は、有機マイクロバルーンの容積比が大きいため、廉価に製造できるということのメリットは特に大きい。
【発明の効果】
【0034】
第1の手段に係る発明によれば有機マイクロバルーンの容積比を70%以上90%以下とするとともに難燃材料を添加したことによって、断熱性能及び耐火性能がともに優れた断熱材を提供することができ、かつ有機マイクロバルーンとの親和力が大きい合成樹脂を結合材料としたことから、有機マイクロバルーンと難燃材料とをよく馴染ませることができる。
【0035】
第2の手段に係る発明によれば、容積比で1〜3%の水硬性材料(セメント)を加えたから合成樹脂結合材料の収縮を適度に抑制することができ、多量の有機マイクロバルーンを無理なく結合することができる。
【0036】
第3の手段に係る発明によれば、有機マイクロバルーンの良好な断熱性能が得られるとともに、有機マイクロバルーンを合成樹脂結合材料で十分に結合することができる。
【0037】
第4の手段に係る発明によれば、良好な断熱性能が得られる。
【0038】
第5の手段に係る発明によれば、断熱性能の高い本発明の断熱材を施工したから、壁の厚みを薄くできる。
【0039】
第6の手段に係る発明によれば、乾式有機マイクロバルーンと水をそれぞれ別々に計量するので、計量を正確に行うことができ、配合が一定となり、混合時の飛散防止を同時に図ることができる。
【0040】
第7の手段に係る発明によれば、湿式有機マイクロバルーンを利用するから、低コストで施工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の第1実施形態に係る断熱材について説明する。この断熱材は、有機マイクロバルーン、難燃材料、合成樹脂結合材料、水硬性材料、無機マイクロバルーンを主成分とし、さらに補強用繊維、整泡剤、保水剤などを添加して製造される。図1は、この断熱材のイメージ図であり、同図中2は、有機マイクロバルーン、4は難燃材料の粒子、6は合成樹脂結合材料である。その他の成分は容積比率が小さいので省略する。
【0042】
有機マイクロバルーン2は、断熱材の骨材である。図3に示すように、有機マイクロバルーンを含む断熱材の熱伝導率は、75%以上80%以下)となるようにする。逆に有機マイクロバルーンの容積比が90%以上となると大幅に強度低下が見られるため、強度を向上させるため合成樹脂結合材を添加する必要性がでてくる。その結果、大幅なコストアップに繋がること、燃焼性の面で燃えやすくなることなどの問題点が発生する。粒径は80〜120μmであり、真比重が0.025±0.005である。有機マイクロバルーンの外殻は、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステルおよび架橋剤を重合して得られる共重合体で形成され、熱分解温度が50〜300℃の範囲にある。
【0043】
難燃材料は、水酸化アルミニウムとすることが好適である。水酸化アルミニウムの配合量は、全成分に対する容積比で2〜8%とすることが可能であり、最適な範囲は容積比3〜4%である。上記容積比の上限値を8%とした理由は、これ以上とすると形態を保持することが困難だからである。なお、難燃材料は、必ずしも水酸化アルミニウムに限らず、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよび銅(I)からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属の酸化物で、結晶水を持つものとすることができる。なお、図4は、水酸化アルミニウムの添加量と総発熱量との関係を表すグラフである。
【0044】
合成樹脂結合材料は、エチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、高級脂肪酸ビニルエステル、スチレン、1,3−ブタジエンのいずれかの重合体、あるいは2つ以上の共重合体又はそれらの混合物からなる粉体樹脂である。有機マイクロバルーンと同系統の有機材料を主体とすることで、有機マイクロバルーンとの親和性が高まり、少量の結合材で大容量の有機マイクロバルーンを結合することができる。特許文献3〜4の断熱材ではエチレン/酢酸ビニルを使用していたが、これを有機マイクロバルーンの容量比が大きい本発明に当てはめると強度が不足する。そこで(メタ)アクリル酸エステル・酢酸ビニル・ベオバ3元重合樹脂を用いた。この3元共重合樹脂の全成分に対する容積比は4〜7%程度とすることができる。これに対してセメント系の断熱材でのセメントの容量比に比べて十分に小さい数値である。
【0045】
水硬性材料は、セメントである。セメントの全成分に対する容積比は0.5〜3%とすることができ、より効果の高い範囲は1〜2%である。一般にセメントは水和反応を利用して材料強度を高めるために利用するが、合成樹脂を結合材とする本発明においては、後述の表5に示すように、セメントを添加したもの(実施例1)と添加していないもの(実施例2)とを比較すると、むしろセメントを添加していないものの方が強度が大きい。セメントを添加する目的は、合成樹脂の乾燥収縮を少なくするためである。水硬性材料の中でもセメントは収縮抑制作用が特に良好である。この現象は、粉末樹脂の粒子の間にセメント成分が介在し、何らかの理由で粒子相互の収縮を抑制するためと考えられるが、詳しい機構は不明である。セメントは早強セメントとすることができる。石膏に関しては、今回の実験では実用レベルで有用な収縮抑制作用が確認できなかった。
【0046】
無機マイクロバルーンは必須の要素ではないが、耐火性能を挙げるために添加されている。もっとも加えすぎると断熱性能が低下する。配合量の好適な一例は、全成分に対する容積比で6〜7%である。無機マイクロバルーンは、ガラスバルーン、シラスバルーン、パーライト、セラミックバルーンのいずれかあるいは組合せである。
【0047】
補強用繊維は、強度の向上やひび割れ防止のために用いる。エステル又はアクリル、或いは炭素などの繊維とすることができる。
【0048】
整泡剤は、樹脂を混合して空気を巻き込んだ際に、その空気の泡を整える役割を有する。その泡がベアリングの役目を果すため、施工時に塗りやすくなる。また、整泡剤を使用することで可使時間が長くなる。
【0049】
保水剤は、メチルセルロースとすることができる。
【0050】
上記各成分は、粉体として提供され、モルタルとして使用するときに水を加えてエマルション状とする。この状態で分散した合成樹脂粒子の間に水硬性材料が入りこみ、次の乾燥段階で合成樹脂が収縮していくときに水硬性材料が粒子の間に介在して過剰な収縮を抑制する。水分が蒸発すると、断熱材は硬化して所要の硬度を発揮する。その状態において、断熱材は、図1に示すように有機マイクロバルーンが占める空間が大きく、僅かな合成樹脂結合材料により強固に連結される。これにより大きな断熱性能を発揮する。対比のために図11に従来の断熱材のイメージ図を示す。aは骨材であるマイクロバルーン、bはセメントなどの結合材である。
【0051】
次の表1に好適な配合例における質量比率及び容積比率を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
各成分の重量比は、セメント100重量部に対して、樹脂30〜60重量部、有機マイクロバルーン30〜50重量部、エステル又はアクリル繊維5〜10重量部、水酸化アルミニウム150〜250重量部、メチルセルロース1〜5重量部、パーライト3〜7重量部、整泡剤0〜1.0重量部であり、これに加える水は1500〜3000重量部である。
【0054】
上記本実施形態の構成によれば、特に断熱性及び不燃性に優れ、さらに現場施工性が良好であるとともに、弾性に富んだ断熱材を提供することができる。
【0055】
本発明の断熱材を混練するときには次の手順で行う。
【0056】
第1に、図6(A)に示す如く有機マイクロバルーンと水以外の成分の粉体を容器10内に入れ、同図(B)の如くミキサー12で混ぜ合わせ、混合粉体とする。この混合過程は例えば工場で行い、混合粉体をプレミックス製品として現場に搬入すればよい。すなわち、この混合粉体は既述第6の手段にいう「他の主成分」に相当し、現場では後述するように湿化有機マイクロバルーンとし、その後、他の主成分(前記混合粉体)と混合し、さらにこれら主成分と水が均等に混ざるように攪拌することで断熱材を得る。有機マイクロバルーンを除くのは次の理由である。特許文献3では、工場で有機マイクロバルーンと他の成分とを混合していたが、その際に比重の軽い有機マイクロバルーンが空気中に飛散しないようにほぼ液状のマスターペーストの形で混合していた。しかしながら有機マイクロバルーンの割合を増やすと、混合する水に比べて非常に大量となるために液状とすることができない。そこで有機マイクロバルーンだけ別に混合することとしている。一方、湿式有機マイクロバルーンの場合には、セメント成分と一緒に混合できないこと、乾式有機マイクロバルーンの場合には比重が違いすぎるため、セメント類と混合しても分離してしまうこと、分離した後空気中に飛散することなどから混合が不可能である。
【0057】
第2に、図7(A)に示す如く、乾燥した有機マイクロバルーン2を袋12入りのままで、重量を計量器14で計量する。袋の重量は既知であるものとし、測定した重量から袋の重量を差し引くことで有機マイクロバルーンの重量を計算する。そして同図(B)の如く、100重量部のドライバルーンに対して300〜400重量部の割合で、袋12内へゆっくりと注水する。そして同図(C)のように、袋12を振る。そうすると乾式有機マイクロバルーンの表面に水が吸着されて湿化有機マイクロバルーンとなり、飛散しなくなる。ついでこの湿化有機マイクロバルーンを他の主成分と残りの水300〜400重量部とを混合し、これら主成分が均等に混ざるように攪拌することで断熱材を得る(既述第6の手段の説明)。
【0058】
第3に、図8(A)に示す如く、最初から湿式有機マイクロバルーンを使用してもよく、その場合には、この湿式有機マイクロバルーンの水分量を事前に計測した袋詰の状態の湿式有機マイクロバルーンとして、この湿式有機マイクロバルーンを第1にて説明した、混合させた粉体(有機マイクロバルーンと水以外の成分の粉体)入りの容器10内にいれ、さらに水を添加してミキサー12で攪拌する(既述第7の手段の説明)。またさらにこの場合、第1にて説明したプレミックス製品として製造された混合粉体を用いてミキサー12で攪拌しても良い。
【0059】
また、最初から湿式有機マイクロバルーンを使用する場合には、この湿式有機マイクロバルーンの水分量を事前に計測しておくことで、袋に水とともに入れて振る行程は省略でき、かつ配合が一定となる(既述第7の手段の説明)。
【0060】
次に施工手順は次に通りである。
(1)躯体面を洗浄し、状況に応じて目粗し、水洗いする。
(2)躯体面の乾燥状態を確認した上で吸水調整剤を塗布する。
(3)吸水調整剤の乾燥状態を確認し、上記の混練りした材料を左官鏝で塗るか、モルタル用吹付け機を用いて吹き付け施工を行った後鏝押えをし、材料全体が乾燥するまで養生を行う。
(4)表面の耐衝撃性を要求される部位に関しては、全体を平滑に均した後、材料の乾燥状態を確認した後に、下地調整塗り材などの薄塗り材を3mm程度塗る。
【0061】
図9は、本実施形態の適用例を示したものである。同図9に示すように、建物の躯体2に、本発明の断熱材で形成した断熱層22を形成し、その上に仕上げモルタル24を塗布する。この構成では、断熱層及び仕上げモルタルの厚みの合計を30mm程度とすることができる。図10は、図9と同程度の断熱性能の壁を従来技術で形成した例である。建物の躯体20の上に従来の断熱層30を形成し、その上にLGS又は木の下地32を、さらにその上に石膏ボード34を付設している。この場合、断熱層・下地・石膏ボードの厚さの合計は120〜130mm程度となる。
【0062】
第2の実施形態は、セメントの代わりに石膏を用いたものである。各成分の重量比は、石膏100重量部に対して、樹脂30〜100重量部、有機マイクロバルーン30〜150重量部、エステル又はアクリル繊維5〜20重量部、水酸化アルミニウム200〜700重量部、メチルセルロース2〜10重量部、パーライト3〜10重量部、整泡剤0〜1.0重量部、これに加える水は水1500〜3000重量部である。
[実施例]
本発明の第1実施形態と従来技術とを比較実験を行った。表2では、第1実施形態を実施例1、第2実施形態を実施例1として、セメント又は石膏を100重量部に対する各成分の重量部を記載したものである。
【0063】
【表2】

【0064】
表3は、対比のための従来技術の配合を示している。従来例1は特許文献3に、従来例2は特許文献4に属するものである。
【0065】
【表3】

【0066】
表4は、実施例と従来例との各性状の試験結果を示している。断熱性能は、本発明が0.0348、0.0345[W/m・K]であるのに対して、従来例は11.9、13[W/m・K]である。従って本発明の方が断熱性能がよい。また、燃焼性は、本発明の総発熱量が4.8、5.9[MJ/m]であるのに対して、従来例のそれは、11.9、13である。従って耐火性能も本発明の方がよい。
【0067】
【表4】

【0068】
また本発明の実施例においては、セメントを添加した実施例1での乾燥収縮は0.27%である。他方、セメントの代わりに石膏を添加した実施例2の乾燥収縮は0.51%である。乾燥収縮に関しては前者の方が良好な結果が得られている。
【0069】
なお、上記実施形態は好適な一例であり、本発明の技術的意義に照らして適宜変更できることはいうまでもない。特に実施形態の中で述べた各部材の配合量・材質などは本発明の技術的理解を容易にするために挙げており、なんらそれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係る断熱材の概念図である。
【図2】有機マイクロバルーンと他の材料との熱伝導率を比較する図である。
【図3】有機マイクロバルーンの容積比と熱伝導率との関係を示す図である。
【図4】水酸化アルミニウムの添加量と総発熱量との関係を示す図である。
【図5】本発明における不燃性と断熱性との関係を表す概念図である。
【図6】本発明の断熱材の製造方法の第1行程を示す図である。
【図7】同方法の第2行程を示す図である。
【図8】同方法の第3行程を示す図である。
【図9】本発明の断熱材を利用した壁構造の断面図である。
【図10】従来の断熱材を利用した壁構造で断面図ある。
【図11】従来例に係る断熱材の概念図である。
【符号の説明】
【0071】
2…有機マイクロバルーン 4…難燃材料 6…合成樹脂結合材料
10…容器 12…袋 14…計量器
20…建物躯体 22…本発明断熱層 24…仕上げモルタル 30…断熱層
32…下地 34…石膏ボード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
断熱性の骨材である有機マイクロバルーンと、
難燃材料と、
セメント系結合材料に比べて有機マイクロバルーンとの親和性が大きい合成樹脂結合材料と、
を主成分としており、
全ての主成分を、有機マイクロバルーンの容積比が70%以上90%以下となるように配合するとともに、水を加えて各主成分を均等に混合させてなり、
合成樹脂結合材料は、水を加えることで分散するとともに、この分散状態から乾燥により収縮する性質を有することを特徴とする断熱材。
【請求項2】
主成分として、さらに合成樹脂結合材料の収縮を抑制する作用を有する水硬性材料を含み、水硬性材料を含めた全主成分に対する有機マイクロバルーンの容量比70%以上90%以下とした、請求項1記載の断熱材であって、
上記水硬性材料をセメントとし、
全体に対するセメントの容量比を1〜3%として、合成樹脂結合材料の容量比よりも小とするとともに、
主成分の重量割合を、セメント成分100重量部に対して、有機マイクロバルーン30〜50重量部、難燃材料150〜250重量部、合成樹脂結合材料30〜100重量部としたことを特徴とする断熱材。
【請求項3】
上記有機マイクロバルーンを、熱可塑性樹脂からなる外殻と、この外殻に内包されかつ上記熱可塑性樹脂の軟化点以下の沸点を有する炭化水素とから構成し、
有機マイクロバルーンの平均粒径を80〜120μmとするとともに、25℃における真比重を0.018〜0.025とし、
上記炭化水素の熱伝導率が0.012〜0.016(W/m・K)であり、上記炭化水素の重量割合が上記有機マイクロバルーンの5〜15重量%であり、
上記熱可塑製樹脂がニトリル系単量体を含む単量体混合物を重合して得られ、上記ニトリル系単量体の重量割合が前記単量体混合物に対して90〜97重量%とし、
合成樹脂結合材料は、エチレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、高級脂肪酸ビニルエステル、スチレン、1,3−ブタジエンのいずれかの重合体あるいは2つ以上の共重合体又はそれらの混合物である
ことを特徴とする、請求項2に記載の断熱材。
【請求項4】
上記炭化水素はイソブタン、ノルマルベンタン、イソペンタン、シクロペンタンから選ばれた少なくとも一つであり、その重量割合が上記有機マイクロバルーンの5〜15重量%である、請求項3に記載の断熱材。
【請求項5】
仕上げ下地層と、この仕上げ下地層の下に施工した請求項2の断熱材の層とからなり、
この断熱材の層と仕上げ下地層を密着させて、断熱材の層に比べて仕上げ下地層を薄くしたことを特徴とする、断熱材を利用した壁構造。
【請求項6】
請求項2の断熱材を混練する方法であって、
上記有機マイクロバルーンを、乾燥した状態で製造された乾式有機マイクロバルーンとして、この乾式有機マイクロバルーンを所定量計量し、
次にこの乾式有機マイクロバルーンと所要量の水とを容器に入れて振り動かし、
水を有機マイクロバルーンの表面に吸着させて湿化有機マイクロバルーンとしたのち、 次にこの湿化有機マイクロバルーンを他の主成分と混合し、
これら主成分が均等に混ざるように攪拌する、
ことを特徴とする、断熱材の混練方法。
【請求項7】
請求項2の断熱材を混練する方法であって、
上記有機マイクロバルーンを、水中で製造された湿式有機マイクロバルーンとして、この湿式有機マイクロバルーンの水分量を計測した後に、
この湿式有機マイクロバルーンを所定量計量し、
次にこの湿式有機マイクロバルーンを他の主成分と混合し、
これら主成分が均等に混ざるように攪拌する、
ことを特徴とする、断熱材の混練方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−121416(P2010−121416A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298652(P2008−298652)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(592067395)日本化成株式会社 (11)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】