説明

既設基礎補強方法および既設基礎補強構造

【課題】コストを抑えるため鉄筋による補強とし、かつ、騒音が少ない等、環境性を向上させた「居ながら施工」により簡便にコンクリートの増打ちを行って、基礎梁部を補強することができる、既設基礎補強方法および既設基礎補強構造を提供すること。
【解決手段】基礎梁部11の側面11aの上下それぞれにおいて長手方向に所定間隔でアンカー挿入穴11a1を開設するアンカー挿入穴開設工程と、そのアンカー挿入穴11a1にアンカー体固着用カプセルを挿入した後、アンカー体4を打設するアンカー打設工程と、基礎梁部11の側面11aに沿い、かつ、接着系あと施工アンカーのアンカー4体の突出部を囲むように曲げ補強用鉄筋61およびせん断補強用鉄筋62を配設する補強用鉄筋配設工程と、曲げ補強用鉄筋61およびせん断補強用鉄筋62配設後、型枠を取り付け、コンクリートを増打ちして増打ち部7を形成するコンクリート増打ち工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の既設基礎の補強方法および補強構造に関し、特に、耐震性に劣る既存建築物の既設基礎を簡便に効率良く補強することができる既設基礎補強方法および既設基礎補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、木造建築物の中で新耐震基準以前に建設された建築物は数多く存在する。新耐震基準以前の建築物は、当時の建築基準法により設計されているため無筋コンクリートの基礎が用いられている場合が多い。その後の阪神淡路大震災等で甚大な被害を受けたことが報告されている。地震等により生じたコンクリートのクラックをコンクリートにより埋め修繕する方法も取られているが、亀裂が生じてしまった部分にコンクリートで補強しても耐力上昇を見込むことは出来ない。そのため、地震被害状況により建築基準法が見直され、所定量の鉄筋を基礎に配設するなどの耐震性能の基準が引き上げられ、既設基礎の補強方法についても、様々な工法が提案されている。
【0003】
そこで、例えば、建物における既設基礎を後施工により補強して曲げ耐力などを増大させるため、既設基礎の立ち上がり部である基礎梁部の側面に補強用の組立筋の横筋が収まるように溝を形成し、この溝に、補強用の組立筋における横筋が半分収容されるように位置決めし、ポリマーセメントモルタルを組立筋と既設基礎との間に詰め込み、さらに組立筋の上からも所定の厚さで塗工することにより、増し打ち部を形成する構造躯体の補強方法および構造躯体が提案されている(例えば、特許文献1)。この従来技術によれば、増し打ち部における横筋は、溝(凹部)に半分埋め込まれた状態になっているので、既設基礎との一体化が図られ、曲げ補強用鉄筋として機能して、既設基礎を補強することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−185549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述の従来の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造は、既設基礎の基礎梁部の長手方向に補強用鉄筋が嵌まる溝(凹部)を形成しているため、溝(凹部)の形成に手間がかかると共に、溝(凹部)の形成により既設基礎にひびや亀裂等が入り、かえって耐力が低下するおそれがある、という問題があった。
【0006】
特に、耐震改修が必要となる古い木造住宅等においては、基礎は無筋である場合が多く、また経年変化により劣化等しているので、基礎梁部に溝(凹部)を形成すると、特にひびや亀裂等が入り易く、また、住人が住んだまま改修工事を行う「居ながら施工」の場合、粉塵や騒音等の点でも、問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、コストを抑えるため鉄筋による補強とし、かつ、騒音が少ない等、環境性を向上させた「居ながら施工」により簡便にコンクリートの増打ちを行って、基礎梁部を補強することができる、既設基礎補強方法および既設基礎補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の既設基礎補強方法は、既設基礎の基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に、所定間隔でアンカー挿入穴を開設するアンカー挿入穴開設工程と、前記アンカー挿入穴開設工程により開設された前記アンカー挿入穴に、接着剤等を内包したアンカー体固着用カプセルを挿入した後、アンカー体を打設するアンカー打設工程と、前記アンカー打設工程後、前記基礎梁部の側面に沿い、かつ、前記アンカー体の突出部を囲むように補強用鉄筋を配設する補強用鉄筋配設工程と、前記補強用鉄筋配設工程後、型枠を取り付け、コンクリートを増打ちして増打ち部を形成するコンクリート増打ち工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、基礎梁部の少なくとも一方の側面に溝(凹部)を形成せずに、補強用鉄筋を配設し、その補強用鉄筋を介してコンクリートを増打ちして増打ち部を設けることができるため、既設基礎にアンカー挿入穴を開設する以外のダメージを与えることなく簡便に、かつ、騒音が少ない等、環境性を向上させた「居ながら施工」で既設基礎の基礎梁部を補強することができる。
また、本願の請求項2に係る発明の既設基礎補強方法は、請求項1記載の既設基礎補強方法において、前記補強用鉄筋配設工程では、前記基礎梁部の側面に沿い、かつ、前記アンカー体の突出部を囲むように補強用鉄筋を配設した後、鉄筋留め金具を前記アンカー体に装着し、その後、前記アンカー体の頭部にナットを通して締め付けることにより、当該補強用鉄筋を前記基礎梁部の側面に固定する、を有することを特徴とする。
この方法によれば、簡単かつ確実に補強用鉄筋を前記基礎梁部の側面に固定することができる。
また、本願の請求項3に係る発明の既設基礎補強方法は、請求項1または請求項2記載の既設基礎補強方法において、前記補強用鉄筋配設工程は、前記基礎梁の少なくとも一方の側面の上下それぞれにおいて長手方向に所定間隔で打設された前記アンカー体に沿って、前記基礎梁部の長手方向に延びる曲げ補強用鉄筋を少なくとも上下1本ずつ配設する曲げ補強用鉄筋配設工程と、前記基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に配設された前記曲げ補強用鉄筋を、前記基礎梁の長手方向に所定間隔で、かつ、長手方向の上下異なる位置で連結するトラス状せん断補強用鉄筋を配設するトラス状せん断補強用鉄筋配設工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、基礎梁の少なくとも一方の側面に少なくとも上下1本ずつ配設された曲げ補強用鉄筋がトラス状せん断補強用鉄筋によって連結されるので、さらに基礎梁部の補強度が向上する。
また、本願の請求項4に係る発明の既設基礎補強方法は、請求項1〜請求項3のいずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、前記アンカー打設工程と、前記補強用鉄筋配設工程との間に、さらに、前記アンカー挿入穴開設工程により開設された前記アンカー挿入穴に打設されたアンカー体と、前記基礎梁部上に設けられている少なくとも土台とを連結する補強金物を設置する補強金物設置工程と、を有することを特徴とする。
この方法によれば、さらに、既設基礎1の基礎梁部と、基礎梁部上に設けられている少なくとも土台と、増打ち部とが、接着系あと施工アンカーや、補強用鉄筋、補強金物を介して一体的に連結されるので、さらに、基礎梁部上に設けられている土台等も含め建物全体の補強度が向上する。
また、本願の請求項5に係る発明の既設基礎補強構造は、前記請求項1〜請求項4のいずれか一の請求項に記載された既設基礎補強方法により補強されたことを特徴とする。
この既設基礎補強構造によれば、既設基礎にアンカー挿入穴を開設する以外のダメージを与えることなく簡便に、かつ、騒音が少ない等、環境性を向上させた「居ながら施工」で既設基礎の基礎梁部を補強することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、基礎梁部の少なくとも一方の側面に溝(凹部)を形成せずに、補強用鉄筋を配設し、その補強用鉄筋を介してコンクリートを増打ちして増打ち部を設けることができるため、既設基礎にアンカー挿入穴を開設する以外のダメージを与えることなく簡便に、かつ、騒音が少ない等、環境性を向上させた「居ながら施工」で既設基礎の基礎梁部を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a),(b)は、それぞれ、実施形態1の既設基礎補強方法により補強した既設基礎補強構造における補強用鉄筋の配設状況を示す図、A−A線断面図である。
【図2】(a)〜(e)は、実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造における各工程を示す図である。
【図3】(a)〜(c)は、それぞれ、本実施形態1にて使用する鉄筋留め金物の一例の断面を示す断面図である。
【図4】(a),(b)は、それぞれ、実施形態1の既設基礎補強方法により補強した既設基礎補強構造における補強用鉄筋の他の配設状況を示す図、B−B線断面図である。
【図5】(a)〜(d)は、それぞれ、曲げ補強用鉄筋が基礎梁部の上下1本ずつしか設けられない場合の、本実施形態1にて使用する鉄筋留め金物の一例の断面を示す断面図である。
【図6】(a),(b)は、それぞれ、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造において使用する曲げ補強用鉄筋とトラス状せん断補強用鉄筋の配置例を示す正面図、C−C線断面図である。
【図7】(a),(b)は、それぞれ、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造において使用する曲げ補強用鉄筋とトラス状せん断補強用鉄筋の他の配置例を示す正面図、D−D線断面図である。
【図8】(a),(b)は、それぞれ、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造において使用する曲げ補強用鉄筋とトラス状せん断補強用鉄筋の他の配置例を示す正面図、E−E線断面図である。
【図9】(a),(b)は、それぞれ、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造において使用する曲げ補強用鉄筋とトラス状せん断補強用鉄筋の他の配置例を示す正面図、F−F線断面図である。
【図10】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の配置例等を示す正面図、G−G線断面図である。
【図11】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の他の配置例等を示す正面図、H−H線断面図である。
【図12】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の他の配置例等を示す正面図、I−I線断面図である。
【図13】(a),(b)は、それぞれ、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の他の配置例等を示す正面図、J−J線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の実施形態1〜3について説明する。
【0012】
実施形態1.
まず、実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0013】
図1(a),(b)は、それぞれ、実施形態1の既設基礎補強方法により補強した既設基礎補強構造における補強用鉄筋の配設状況を示す図、A−A線断面図である。
【0014】
図1(a),(b)に示すように、既設基礎1は、立ち上がり部である基礎梁部11と、フーチング部12とからなる。そして、本実施形態1の既設基礎補強構造では、基礎梁部11の一方の側面11aの上下それぞれにおいて長手方向に、所定間隔で複数のアンカー体4が打設され、その複数のアンカー体4の突出部を囲むように、上下それぞれに長尺状の曲げ補強用鉄筋61を配設している。
【0015】
上下の曲げ補強用鉄筋61には、それぞれ、長手方向に所定間隔で、上下方向に伸びる複数のせん断補強用鉄筋62が溶接等により連結されており、その上からコンクリートが増し打ちされる。これにより、基礎梁部11の一方の側面11aに曲げ補強用鉄筋61や複数のせん断補強用鉄筋62を介して増打ち部7が形成される。なお、図1(a)では、曲げ補強用鉄筋61およびせん断補強用鉄筋62の配筋状況を示すため、増打ち部7を省略している。また、図1(a),(b)において、2は土台、3は柱である。
【0016】
なお、実施形態1の既設基礎補強方法は、アンカー挿入穴開設工程と、アンカー打設工程と、補強用鉄筋配設工程と、コンクリート増打ち工程とを有している。以下、これらの各工程を、図面を参照して分説する。
【0017】
図2(a)〜(e)は、実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造における各工程を示す図である。
【0018】
≪アンカー挿入穴開設工程(図2(a))≫
アンカー挿入穴開設工程では、図2(a)に示すように、既設基礎1の基礎梁部11の側面11aの上下それぞれにおいて長手方向に所定間隔でアンカー挿入穴11a1を開設する。本発明では、基礎梁部11の両側面にアンカー挿入穴11a1を設けても良いが、この実施形態1では、一方の側面11aにのみアンカー挿入穴11a1を開設するものとする。また、アンカー挿入穴11a1は、基礎梁部11の上下2箇所でなく、1箇所だけでも、さらには上下方向に3箇所以上開設して、それぞれの高さで、後述するように1本または複数本の曲げ補強用鉄筋61を固着するようにしても勿論よい。
【0019】
ここで、本実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、従来技術とは異なり、基礎梁部11の側面11aに、補強用鉄筋埋め込み用の溝(凹部)を形成しない。これにより、本実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、溝(凹部)の形成の手間が不要になると共に、溝(凹部)の形成により既設基礎1にひびや亀裂等が入ることもなくなり、既設基礎1にアンカー挿入穴11a1を開設する以外のダメージを与えることなく、簡便に「居ながら施工」で既設基礎の基礎梁部を補強することができる。
【0020】
≪アンカー打設工程(図2(b))≫
次のアンカー打設工程では、図2(b)に示すように、前のアンカー挿入穴開設工程によって基礎梁部11の側面11aの上下それぞれに形成されたアンカー挿入穴11a1に、それぞれ、アンカー体4を打設する。その際、本実施形態1では、無機系接着剤を使用したアンカー体固着用カプセル(図示せず。)をアンカー挿入穴11a1に挿入し、ハンマードリル等に装着したアンカー体4の回転と打撃によりアンカー体固着用カプセル5を破砕して、その内容物を攪拌してモルタル化して、アンカー挿入穴11a1にアンカー体4を固着する。
【0021】
ここで、本実施形態1では、機械式のあと施工アンカーではなく、接着系あと施工アンカーを使用する。これは、機械式のあと施工アンカーは、アンカー挿入穴の径も大きく、作業効率が悪いばかりか、アンカー打設後にアンカー体外周面とアンカー挿入穴内周面との間に、クリアランス(空隙部)が残り、アンカー体4にせん断力が作用した時に応力伝達が円滑に行われず、強度の点で問題が生じるおそれがあるからである。これに対し、接着系あと施工アンカーは、セメント粉体等の無機系接着剤等を内包したアンカー体固着用カプセルを使用し、アンカー体4外周面とアンカー挿入穴11a1内周面との間に無機系接着剤が含まれモルタル化したグラウトが充満して、アンカー挿入穴11a1にクリアランスが残らないため、アンカー体4にせん断力が作用した場合に、せん断力を無駄なく基礎梁部11等に伝達することができるからである。
【0022】
また、接着系あと施工アンカーの接着剤には、有機系と、無機系とがあり、本発明では、どちらでも良いが、本実施形態1では、無機系の接着剤のものを使用することとする。これは、無機系の接着系あと施工アンカーには、不燃性・耐熱性に優れる、紫外線劣化に強く、耐候性に優れる、既設基礎1のコンクリートと同質であるため、既設基礎1と一体化が図れる、揮発性有機化合物(VOC)を含んでいないため、人体・環境に優しい等の優れた効果を有するからである。また、有機系接着剤は、剛性がコンクリートより低く、変形し易い、充填量にもよるがコンクリートと同等の剛性が得難い等の不利な点も多いからである。
【0023】
≪補強用鉄筋配設工程(図2(c),(d))≫
補強用鉄筋配設工程では、基礎梁部11の側面11aに沿い、かつ、アンカー体4の突出部を囲むように補強用鉄筋として、基礎梁部11の長手方向に平行な曲げ補強用鉄筋61と、基礎梁部11の上下方向に平行なせん断補強用鉄筋62を配設する。そのため、本実施形態1の補強用鉄筋配設工程は、曲げ補強用鉄筋61を配設する曲げ補強用鉄筋配設工程と、せん断補強用鉄筋62を配設するせん断補強用鉄筋配設工程の2工程を行う。
【0024】
≪曲げ補強用鉄筋配設工程(図2(c))≫
曲げ補強用鉄筋配設工程は、アンカー打設工程により基礎梁部11の側面11aの上下それぞれにおいて長手方向に所定間隔で打設された接着系あと施工アンカーのアンカー体4に沿って、長尺状の曲げ補強用鉄筋61を配筋する。なお、図1および図2では、曲げ補強用鉄筋61を上下各2本配設した一例を示しているが、本発明では、曲げ補強用鉄筋を上下1本ずつも、3本以上使用して配設するようにしても勿論よい。
【0025】
その際、図1および図2(c)等に示すように、上下各2本の曲げ補強用鉄筋61によりそれぞれアンカー体4を上下方向から挟持するように配設する。このように配設すると、アンカー体4は、それぞれ、上下各2本の曲げ補強用鉄筋61により上下方向から挟持されるので、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の抜け出しも防止できる。
【0026】
そして、アンカー体4の突出部と、各曲げ補強用鉄筋61との緊結などは、針金やワイヤー等の結束線などにより行ってもよいが、本実施形態1の既設基礎補強方法では、図1および図2に示すように、ナット82と鉄筋留め金物81により緊結する。これにより、曲げ補強用鉄筋61を確実に固定することができると共に、曲げ補強用鉄筋61との接合によりアンカー体4の抜け出しを確実に防止できる。また、ナット82により締め付けた鉄筋留め金物81によって曲げ補強用鉄筋61とアンカー体4とを緊結しているので、確実に固着されるだけでなく、緊結作業も簡便になる。さらに、曲げ補強用鉄筋61は長尺なので、地震時に座屈するおそれがあるが、所々に設けた鉄筋留め金物81がその際の座屈止めの役割を果たす。なお、既設基礎1の基礎梁部11との応力伝達や曲げ補強用鉄筋61の座屈を防止したい場合は、アンカー体4の本数を増やし、より複数箇所で曲げ補強用鉄筋61を固定するようにする。
【0027】
図3(a)〜(c)は、それぞれ、本実施形態1にて使用する鉄筋留め金物81の一例の断面を示す断面図である。
【0028】
具体的には、図3(a)は、両端部に約1/4の円弧が形成された形状の鉄筋留め金物81a、図3(b)は、図3(a)のものにさらに平坦部を延長して設けた形状の鉄筋留め金物81b、図3(c)は、両端部半円状の凹部(窪み)を有する鉄筋留め金物81cであり、どの鉄筋留め金物81a〜81cも、曲げ補強用鉄筋61を内側に抱え込み、ナット82により確実かつ精度良く固定することができる。その結果、現場にて、接着系あと施工アンカーのアンカー体4と、曲げ補強用鉄筋61との溶接が不要となり、施工作業が簡便となる。また、アンカー体4の頭部の出っ張りも抑えることが可能であり、狭小地での施工に最適となる。
【0029】
≪せん断補強用鉄筋配設工程(図2(d))≫
次のせん断補強用鉄筋配設工程では、曲げ補強用鉄筋配設工程によって基礎梁部11の少なくとも一方の側面11aに上下2本ずつ配設され固定された曲げ補強用鉄筋61に、その長手方向に所定間隔で複数本のせん断補強用鉄筋62を配設して溶接等により結合する。これにより、既設基礎1に加わるせん断力に対抗することが可能となる。
【0030】
≪コンクリート増打ち工程(図2(e))≫
次のコンクリート増打ち工程では、曲げ補強用鉄筋61およびせん断補強鉄筋62からなる補強用鉄筋配設後、型枠(図示せず。)を取り付け、図2(e)に示すように、コンクリートを打設して、増打ち部7を形成する。従って、後施工により、アンカー体4、曲げ補強用鉄筋61およびせん断補強鉄筋62等を介して、既設基礎1の基礎梁部11と増打ち部7とが一体化されるので、既設基礎1を居住しながら補強することができる。
【0031】
なお、本実施形態1の既設基礎補強方法では、図1(a)等に示すように、曲げ補強用鉄筋61の両端部は、直線のままでもよいが、図4(a),(b)に示すように、各曲げ補強用鉄筋61の両端部をお互いに内側にL字状に折り曲げるようにしても勿論よい。このようにL字状に折り曲げた場合、各曲げ補強用鉄筋61の両端部にせん断補強用鉄筋が密に複数配筋されることと等価なるので、その両端部における強度がさらに向上する。なお、図4(b)は、図4(a)におけるB−B線断面図である。
【0032】
また、本実施形態1の既設基礎補強方法では,図1(a)や図4(a)等に示すように、基礎梁部11の側面11aの上下それぞれにおいて長手方向に2本ずつ曲げ補強用鉄筋61を設けて説明したが、1本でも勿論良い。次に、1本の場合の鉄筋留め金物81について説明する。
【0033】
図5(a)〜(d)は、それぞれ、曲げ補強用鉄筋61が基礎梁部11の上下1本ずつしか設けられない場合の、本実施形態1にて使用する鉄筋留め金物81の一例の断面を示す断面図である。
【0034】
具体的には、図5(a)は、短尺のダミー鉄筋61’を使用することで図3(a)に示す2本保持する鉄筋留め金物81aと同形状のものを使用する例を示している。また、図5(b)は、2本保持する鉄筋留め金物81aと同形状の鉄筋留め金物を使用して、1本の曲げ補強用鉄筋を固定した一例である。さらに、図5(c),(d)は、それぞれ、1本の曲げ補強用鉄筋61の固定専用の鉄筋留め金物81d,81eを使用した一例を示している。このように、2本固定用の鉄筋留め金物81aや、1本固定専用の鉄筋留め金物81d、81eを使用すれば、図5(a)〜(d)に示すように、基礎梁部11の長手方向に延びる曲げ補強用鉄筋が上下1本ずつでも確実かつ簡便に固定して、十分に応力伝達を図ることができる。
【0035】
従って、本実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、既設基礎1の基礎梁部11の側面11aに溝(凹部)を形成せずに、接着系あと施工アンカーのアンカー体4や、曲げ補強用鉄筋61や、せん断補強用鉄筋62等を介して、基礎梁部11と増打ち部分7とを一体化できるので、既設基礎1に対しアンカー挿入穴11a1を開設する以外のダメージを与えることなく簡便に、新設の鉄筋コンクリート基礎と同等の基礎梁とすることが可能となる。
【0036】
また、従来技術とは異なり、基礎梁部11の側面11aに曲げ補強用鉄筋61を埋め込む溝(凹部)が不要となり、施工時の主な騒音は、基礎梁部11にアンカー挿入穴11a1を開設するときのみで済むことになるので、騒音が少ない等、環境性を向上させた「居ながら施工」で既設基礎1を補強することができる。
【0037】
また、基礎梁部11の側面11aに曲げ補強用鉄筋61が接するため、せん断補強用鉄筋62のかぶり分だけのコンクリートの増打ちで済むことから、狭小地での施工が可能になると共に、コンクリートの使用量も少なくて済むので、コストを抑えることができる。
【0038】
また、曲げ補強用鉄筋61を鉄筋留め金物81により基礎梁部11に固着する場合には、溶接等が不要になり、簡単な施工になるので、施工技術者のレベルに拠らず均一な性能を確保することができる。
【0039】
また、無機系のアンカー体固着用カプセルを使用することにより、アンカー挿入穴11a1と、アンカー体4との間が接着剤等のグラウトにより埋まり、アンカー挿入穴11a1と、アンカー体4との間に空隙部分が残らないので、後施工でも、既設基礎1の基礎梁部11と増打ち部7とが確実に一体化されて、既設基礎1の基礎梁部11と同等の強度が得られ、既設基礎1の基礎梁部11と強固に一体化を図ることができ、新設の鉄筋コンクリート基礎と同等の基礎梁とすることが可能となる。また、無機系のアンカー体固着用カプセルにより固着したアンカー体4は、その定着材料が耐久性、耐火性、耐候性に優れるため、恒久的な基礎補強が可能となる。
【0040】
また、接着系あと施工アンカーのアンカー体4周りに曲げ補強用鉄筋61やせん断補強用鉄筋62が配置されているので、アンカー体4がダボのように働き、既設基礎1の基礎梁部11と増打ち部7とのずれが防止でき、既設基礎1の基礎梁部11と増打ち部7との間の応力伝達を確実に図ることが可能となる。
【0041】
実施形態2.
次に、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0042】
実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、せん断補強用鉄筋として、基礎梁部11の上下に設けられた接着系あと施工アンカーのアンカー体4のほぼその上下間隔でトラス状(三角形状)または波状に折り曲げられたトラス状せん断補強用鉄筋63を使用したことを特徴とする。
【0043】
図6(a),(b)は、それぞれ、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造において使用する曲げ補強用鉄筋61とトラス状せん断補強用鉄筋63の配置例を示す正面図、C−C線断面図である。
【0044】
図6(a),(b)に示すように、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造で使用していた複数本の短尺のせん断補強用鉄筋62の代わりに、基礎梁部11の上下に設けられた接着系あと施工アンカーのアンカー体4のほぼその上下間隔でトラス状に折り曲げられたトラス状せん断補強用鉄筋63を使用し、その上下の頂点部分をアンカー体4の外側を通すことで、アンカー体4部分を支点としたトラスを形成したことを特徴とする。そのため、本実施形態2では、このようなトラス状せん断補強用鉄筋63を使用することにより、トラス状せん断補強用鉄筋63が基礎梁部11に加わるせん断応力だけでなく、曲げ応力にも対抗することが可能となり、曲げ応力に対する補強度がより向上する。
【0045】
また、このトラス状せん断補強用鉄筋63は、図6(a)に示すように、接着系あと施工アンカーのアンカー体4のところでは、曲げ補強用鉄筋61と水平方向に重ねて溶接や結束線等により緊結しており、しかもその曲げ補強用鉄筋61を基礎梁部11との間で挟持する状態でアンカー体4頭部のナット82により固着されている。そのため、接着系あと施工アンカーのアンカー体4が、曲げ補強用鉄筋61およびトラス状せん断補強用鉄筋63により基礎梁部11の方向に押圧された状態で拘束されることになり、アンカー体4が増打ち部7から抜け出すことを防止でき、より安定した確実な応力伝達を図ることができる。
【0046】
なお、図6(a)に示す例では、基礎梁部11の側面11aの上下それぞれにおいて長手方向に配設された曲げ補強用鉄筋61の先端同士を突き合わせ溶接等している。また、上下それぞれの長手方向に配設された曲げ補強用鉄筋61は、上下それぞれに2本ずつ等複数本設けて、それらの先端同士を突き合わせ溶接等するようにしても勿論よい。
【0047】
図7(a),(b)は、それぞれ、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造において使用する曲げ補強用鉄筋61とトラス状せん断補強用鉄筋63の他の配置例を示す正面図、D−D線断面図である。
【0048】
図7(a),(b)に示す例では、図6(a),(b)に示す曲げ補強用鉄筋61とは異なり、上下に配置された曲げ補強用鉄筋61それぞれの両端部が重なるように内側に折り曲げて溶接等した一例を示している。それ以外は、図6(b)に示す配筋状態と同じで、トラス状せん断補強用鉄筋63および曲げ補強用鉄筋61を接着系あと施工アンカーのアンカー体4の外側を通すように配設する。これによれば、図6(a),(b)に示す配筋状態よりも、上下の曲げ補強用鉄筋61同士の結合強度が向上し、補強度が向上する。なお、トラス状せん断補強用鉄筋63を曲げ補強用鉄筋61に重ねず、曲げ補強用鉄筋61および接着系あと施工アンカーのアンカー体4の内側に配置しても、せん断補強用鉄筋としての効果は期待できる。しかし、この場合には、アンカー体4とトラス状せん断補強用鉄筋63との直接的な応力伝達を図ることが困難である
【0049】
図8(a),(b)は、それぞれ、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造において使用する曲げ補強用鉄筋61とトラス状せん断補強用鉄筋63の他の配置例を示す正面図、E−E線断面図である。
【0050】
図8(a),(b)に示す例では、図6(a),(b)や図7(a),(b)に示す両端部を内側に折り曲げた曲げ補強用鉄筋61とは異なり、両端部を折り曲げない直線状の曲げ補強用鉄筋61を使用しており、曲げ補強用鉄筋61とトラス状せん断補強用鉄筋63の接着系あと施工アンカーのアンカー体4への固着には、鉄筋留め金物81を使用している。
【0051】
そのため、この図8(a),(b)に示す例では、図上、曲げ補強用鉄筋61は、接着系あと施工アンカーのアンカー体4の外側を通る一方、トラス状せん断補強用鉄筋63はアンカー体4の内側を通り、曲げ補強用鉄筋61とトラス状せん断補強用鉄筋63とは、重ならないように配設される。これによれば、図6(a),(b)や図7(a),(b)に示す配筋状態よりも、鉄筋留め金物81の使用により施工が簡便になるだけでなく、曲げ補強用鉄筋61とトラス状せん断補強用鉄筋63との重なりが解消できるため、作業性の向上や、コンクリートの充填性の向上、コンクリートの使用量削減等の効果が得られる。
【0052】
図9(a),(b)は、それぞれ、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造において使用する曲げ補強用鉄筋61とトラス状せん断補強用鉄筋63の他の配置例を示す正面図、F−F線断面図である。
【0053】
図8(a),(b)に示す例では、接着系あと施工アンカーのアンカー体4および鉄筋留め金物81は、トラス状せん断補強用鉄筋63の上下それぞれの頂点(折れ曲げ点)に設けるように説明したが、図9(a),(b)に示す例では、トラス状せん断補強用鉄筋63の上下それぞれの頂点(折れ曲げ点)だけではなく、さらに、頂点(折れ曲げ点)間の中間点にも設けている。これにより、図9(a),(b)に示す例では、図8(a),(b)に示す例よりも、接着系あと施工アンカーのアンカー体4および鉄筋留め金物81の数が増えて、より曲げ補強用鉄筋61を基礎梁部11に固着することが可能となるので、曲げ補強用鉄筋61を介して基礎梁部11と増打ち部7との応力伝達がより確実になると共に、曲げ補強用鉄筋61の座屈をより防止できることになる。また、接着系あと施工アンカーのアンカー体4および鉄筋留め金物81を、頂点(折れ曲げ点)間の中間点以外に設けて、より補強の強度を向上させても良い。なお、図9(a)に示すように、1本の曲げ補強用鉄筋61を固着する場合、図5(a)〜(d)に示すように、ダミー鉄筋61’や1本固定専用の鉄筋留め金物81d,81eを利用してもよい。
【0054】
従って、実施形態2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、前述の実施形態1の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造と同様の効果が得られると共に、せん断補強用鉄筋として、基礎梁部11の上下に設けられた接着系あと施工アンカーのアンカー体4のほぼその上下間隔でトラス状に折り曲げられたトラス状せん断補強用鉄筋63を使用したので、トラス状せん断補強用鉄筋63のトラス構造により、さらに基礎梁部11の補強度を向上させることができる。
【0055】
実施形態3.
次に、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造について説明する。
【0056】
一般に、木造住宅は、柱材にいわゆるホゾが設けられ、土台に差し込まれることで立てられている。しかし、地震の上下動などによりホゾが抜け出て、建物が倒壊する事例が多く見受けられる。現在は建築基準法の法改正があり、ホールダウン金物と呼ばれる金物等により柱や土台と基礎が連結されているが、新耐震基準以前の建築物には取り付けられていないことが多い。また、土台は、基礎と細いアンカーボルトにより固定されているので、土台と基礎のより強固な連結も必要である。
【0057】
そこで、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、前述の実施形態1,2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造に対し、さらに、土台と基礎の補強金物を取り付ける補強金物設置工程を追加したことを特徴とする。
【0058】
つまり、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造では、前述の実施形態1,2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造のアンカー打設工程と、補強用鉄筋配設工程との間に、さらに、基礎梁部11の側面11aの上下それぞれにおいて長手方向に所定間隔で形成されたアンカー挿入穴11a1に打設された接着系あと施工アンカーのアンカー体4と、基礎梁部11上に設けられている少なくとも土台2とを連結する補強金物を設置する補強金物設置工程を設ける。
【0059】
図10(a),(b)は、それぞれ、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の配置例等を示す正面図、G−G線断面図である。
【0060】
具体的には、図10(a),(b)に示す例は、図1等に示す実施形態1の既設基礎補強構造に対し、さらに、柱3のある箇所では、長尺補強金物91により、柱3と土台2が既設基礎1に連結する一方、柱3のない箇所では、短尺補強金物92により、土台2が既設基礎1に連結している。そして、この場合、図10(a)に示すように、短尺補強金物92は、釘やネジ等により土台2に連結される一方、上側の1本のアンカー体4により基礎梁部11に連結される。これに対し、長尺補強金物91は、釘やネジ等により柱3と土台2に連結される一方、上下2本のアンカー体4により基礎梁部11に連結される。これにより、柱3や、土台2、基礎梁部11および増打ち部7が長尺補強金物91や短尺補強金物92を介して一体化されるので、地震等により柱3や土台2に作用した応力を、確実に基礎梁部11や増打ち部7とに伝達することができる。
【0061】
また、本実施形態3では、図10(a),(b)に示すように、基礎梁部11の側面11aに、補強金物91,92を接触させ、その上に曲げ補強用鉄筋61、せん断補強用鉄筋62、鉄筋留め金物81、ナット82という順番に重ねて固着している。そのため、柱3や、土台2、基礎梁部11および増打ち部7が長尺補強金物91を介してより一体化されるので、地震等により柱3や土台2に作用した応力を、より確実に基礎梁部11と増打ち部7とに伝達することができる。
【0062】
図11(a),(b)は、それぞれ、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の他の配置例等を示す正面図、H−H線断面図である。
【0063】
具体的には、図11(a),(b)に示す例は、実施形態2のトラス状せん断補強用鉄筋63を使用した既設基礎補強構造に対し、さらに、図10(a),(b)に示す場合と同様に、柱3のある箇所では、長尺補強金物91により、柱3と土台2が既設基礎1に連結する一方、柱3のない箇所では、短尺補強金物92により、土台2が既設基礎1に連結する。これにより、図10(a),(b)に示す場合と同様に、柱3や、土台2、基礎梁部11および増打ち部7が長尺補強金物91等を介して一体化されるので、地震等により柱3や土台2に作用した応力を、確実に基礎梁部11と増打ち部7とに伝達することができる。
【0064】
図12(a),(b)は、それぞれ、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の他の配置例等を示す正面図、I−I線断面図である。
【0065】
図12(a),(b)に示す例は、図11(a),(b)と同様に、実施形態2のトラス状せん断補強用鉄筋63を使用した既設基礎補強構造に対し、さらに、曲げ補強用鉄筋61のみを固定する鉄筋留め金物81を、上下それぞれの曲げ補強用鉄筋61上であって、トラス状せん断補強用鉄筋63の頂点(折れ曲がり点)間の中間点に設けている。そして、上側の曲げ補強用鉄筋61上におけるトラス状せん断補強用鉄筋63の頂点(折れ曲がり点)間の中間点に設けられた鉄筋留め金物81を、短尺補強金物92により、土台2が既設基礎1に連結する。これにより、図11(a),(b)示す例の場合よりも、さらに、トラス状せん断補強用鉄筋63の頂点(折れ曲がり点)間の中間点でも短尺補強金物92により土台2が既設基礎1に連結されるので、土台2と基礎梁部11と増打ち部7との一体化がさらに向上し、補強力がより向上する。
【0066】
図13(a),(b)は、それぞれ、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造の補強金物設置工程における補強金物の他の配置例等を示す正面図、J−J線断面図である。
【0067】
図13(a),(b)の例では、図11(a),(b)および図12(a),(b)と同様に、実施形態2のトラス状せん断補強用鉄筋63を使用した既設基礎補強構造に対し、上下それぞれの曲げ補強用鉄筋61上であって、トラス状せん断補強用鉄筋63の頂点(折れ曲がり点)間の中間点に、曲げ補強用鉄筋61のみを固定する鉄筋留め金物81を設けない形態を示している。
【0068】
しかし、図13(a),(b)の例では、図11(a),(b)に示す例の場合とは異なり、さらに、下側の曲げ補強用鉄筋61まで伸びている中尺補強金物93により、土台2を既設基礎1に接着系あと施工アンカーのアンカー体4等により連結している。これにより、図11(a),(b)に示す例の場合とは異なり、基礎梁部11に設けられた接着系あと施工アンカーのアンカー体4は、必ず、長尺補強金物91、短尺補強金物92、あるいは中尺補強金物93により、柱3や土台2と基礎梁部11とを連結するので、柱3や土台2と基礎梁部11とをアンカーボルトやホールダウン金物等により連結している場合と較べると、柱3や土台2と基礎梁部11や増打ち部7との一体化がより増進することになり、柱3や土台2、基礎梁部11、増打ち部7等の建物全体として補強度がさらに向上する。
【0069】
なお、補強金物91〜93は、プレート状のものでも、隅柱3などの外側を覆うようなL字状断面を有する金物でも良い。
【0070】
従って、実施形態3の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造によれば、前述の実施形態1,2の既設基礎補強方法および既設基礎補強構造と同様の効果が得られると共に、接着系あと施工アンカーのアンカー体4と、基礎梁部11上に設けられている土台2や柱3が補強金物91〜93によって連結されるので、さらに、既設基礎1上に設けられている土台2や柱3等も含めた建物全体としての補強度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
1 既設基礎
11 基礎梁部
11a 側面
11a1 アンカー挿入穴
12 フーチング部
2 土台
3 柱
4 アンカー体
61 曲げ補強用鉄筋
62 せん断補強用鉄筋
63 トラス状せん断補強用鉄筋
7 増打ち部
81,81a〜81e 鉄筋留め金物
82 ナット
91 長尺補強金物
92 短尺補強金物
93 中尺補強金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設基礎の基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に、所定間隔でアンカー挿入穴を開設するアンカー挿入穴開設工程と、
前記アンカー挿入穴開設工程により開設された前記アンカー挿入穴に、接着剤等を内包したアンカー体固着用カプセルを挿入した後、アンカー体を打設するアンカー打設工程と、
前記アンカー打設工程後、前記基礎梁部の側面に沿い、かつ、前記アンカー体の突出部を囲むように補強用鉄筋を配設する補強用鉄筋配設工程と、
前記補強用鉄筋配設工程後、型枠を取り付け、コンクリートを増打ちして増打ち部を形成するコンクリート増打ち工程と、
を有することを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項2】
請求項1記載の既設基礎補強方法において、
前記補強用鉄筋配設工程では、
前記基礎梁部の側面に沿い、かつ、前記アンカー体の突出部を囲むように補強用鉄筋を配設した後、鉄筋留め金具を前記アンカー体に装着し、その後、前記アンカー体の頭部にナットを通して締め付けることにより、当該補強用鉄筋を前記基礎梁部の側面に固定する、
ことを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の既設基礎補強方法において、
前記補強用鉄筋配設工程は、
前記基礎梁の少なくとも一方の側面の上下それぞれにおいて長手方向に所定間隔で打設された前記アンカー体に沿って、前記基礎梁部の長手方向に延びる曲げ補強用鉄筋を少なくとも上下1本ずつ配設する曲げ補強用鉄筋配設工程と、
前記基礎梁部の少なくとも一方の側面の長手方向に配設された前記曲げ補強用鉄筋を、前記基礎梁の長手方向に所定間隔で、かつ、長手方向の上下異なる位置で連結するトラス状せん断補強用鉄筋を配設するトラス状せん断補強用鉄筋配設工程と、
を有することを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一の請求項に記載の既設基礎補強方法において、
前記アンカー打設工程と、前記補強用鉄筋配設工程との間に、さらに、
前記アンカー挿入穴開設工程により開設された前記アンカー挿入穴に打設されたアンカー体と、前記基礎梁部上に設けられている少なくとも土台とを連結する補強金物を設置する補強金物設置工程と、
を有することを特徴とする既設基礎補強方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一の請求項に記載された既設基礎補強方法により補強されたことを特徴とする既設基礎補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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