説明

有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水浄化処理用酸化鉄粉末

【課題】 工業的に安価に製造でき、VOCの浄化能に優れた酸化鉄粉末を提供する。
【解決手段】 本発明は、平均一次粒子径が0.02〜0.10μm、BET比表面積が30〜100m/g、Fe2+含有量がFe全量の5〜33重量%、及びマグネシウム含有量がMgOとして0.2〜5重量%であることを特徴とする、有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末に関する。さらに、鉄含有量がFeとして70重量%以上であり、該酸化鉄の主成分がベルトライド化合物であるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌・地下水を浄化処理する酸化鉄粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
農薬や半導体工場などで使われているトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、cis−ジクロロエチレン等の有機ハロゲン化合物による土壌や地下水の汚染が深刻な環境問題になっている。有機ハロゲン化合物の現状の浄化方法には、各種触媒を使用して浄化する方法、有機ハロゲン化合物の揮発性を利用し浄化する方法、加熱処理による方法、過酸化水素やオゾンを使用して浄化する方法、鉄粉を用いて浄化する方法等がある。しかしながら、有機ハロゲン化合物が難分解性であり、対象となる土壌や地下水が大量であるため、前記の方法はいずれも効率的かつ経済的な方法とはいえないものである。
【0003】
例えば、鉄粉を用いる方法はFe2+の溶出が伴い地下水が赤く着色する赤水問題を生起する。赤水は土壌に鉄粉を混合した直後にはほとんど認められないが、処理後の時間経過とともに浸出量が増加し、処理業者並びに土地所有者のみならず、地域全体の環境問題としてクローズアップされるケースもある。また、この方法は工業的にも水素還元を行う必要があり製造コストが高くつく問題を内蔵している。
【0004】
一方、鉄粉に代わりマグネタイトが有機ハロゲン化合物を含む汚染水を浄化することが「佐々木謙一,硫酸と工業,9,13〜18(2003)」(非特許文献1)に報告され、VOC(揮発性有機化合物)浄化能が鉄粉と比較して高いことと、赤水の発生が生じない利点を有することが確認されており、土壌改良の分野でその効能が認識され始めている。しかしながら、その比表面積は約20m/gであり、通常の硫酸鉄を原料にして生成されたマグネタイトの範疇では高いものであるが、土壌中の有機ハロゲン化物を十分に低減するにはさらなる微粒化の必要がある。
【0005】
また、特開2003−230876号公報(特許文献1)には、飽和磁化値が60〜200Am/kgであり、BET比表面積が5〜50m/gであり、結晶子サイズD110が200〜500Aであり、Fe含有量が75重量%以上であり、粒子径が0.05〜0.50μmの小粒子を体積割合で20%以上含有することを特徴とする有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水浄化処理用鉄複合粒子粉末が記載されている。しかしながら、当該鉄複合粒子粉末は、湿式で製造したゲータイト又は当該ゲータイトを加熱脱水したヘマタイトを加熱還元して鉄粒子(α−Fe)とした後に、続けて気相中又は水中に取り出して表面にFeの酸化被膜を形成するものであり、工程が煩雑で工業的にはコスト的に不利である上に、実際のBET比表面積も30m/g未満のものしか得られておらず、VOC浄化能は十分とはいえない。
【非特許文献1】佐々木謙一,硫酸と工業,9,13〜18(2003)
【特許文献1】特開2003−230876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこれら従来技術の課題を解決すべくなされたもので、硫酸法酸化チタン製造工程で排出される鉄含有廃酸を原料にして製造した、土壌改良材及び地下水の浄化材として二次的な環境汚染を引き起こすことのない微粒子酸化鉄粉末を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
【0007】
すなわち、本発明は平均一次粒子径が0.02〜0.10μm、BET比表面積が30〜100m/g、Fe2+含有量がFe全量の5〜33重量%、及びマグネシウム含有量がMgOとして0.2〜5重量%であることを特徴とする、有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末に関する。このように、本発明の酸化鉄粉末は、ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理のために好ましく微粒化されかつ十分に有効な量のFe2+を含有しているためVOCの除去能が高い。
【0008】
前記の微粒化は後述する製造方法によって当該酸化鉄粉末に含有させた特定量のマグネシウム化合物に起因するものである。この見地から、本発明は、上記の通りマグネシウムをMgOとして0.2〜5重量%含有するものである。
【0009】
本発明の有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末は、鉄含有量がFeとして70重量%以上であるが、その主成分は有機ハロゲン化合物の浄化能の面でベルトライド化合物であることが好ましい。ベルトライド化合物とは鉄酸化物の一種であり、化学式FeOx(1.33≦x≦1.50)で示され、マグネタイト、マグヘマイト及びその中間体を含むものであるが、本発明においては、VOC浄化能の面からFe2+がFe全量の最低5重量%必要であるため、1.33≦x≦1.48である。
【0010】
上記の通り、本発明の有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末の主成分は、鉄がFeとして70重量%以上、マグネシウムがMgOとして0.2〜5重量%であるが、その他の成分は廃酸に起因するマンガン、ケイ素、アルミニウム、カルシウム等の化合物である。
【0011】
本発明の有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末は、代表的には以下の方法で製造される。
【0012】
硫酸法酸化チタンの製造工程で発生する廃硫酸を炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムを含むアルカリで中和処理して石膏を生成させ、当該石膏成分を取り除いた後のFeとMgを含む溶液を苛性ソーダで中和し沈殿物を50℃以上に昇温し空気を通気して酸化することで微粒化された水酸化第二鉄を生成する。これに別途硫酸鉄と苛性ソーダから生成した水酸化第一鉄を混合し、50℃以上に昇温し非酸化性雰囲気下で熟成することで本発明の有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末が得られる。本発明の酸化鉄粉末は前記廃硫酸を原料にできるので、工業的に安価に製造できるメリットがある。
【0013】
廃硫酸の中和処理はpH2.5〜4.5の範囲で行うが、中和処理に使用するアルカリ中の炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムの割合は、CaCOが100重量部に対してMg(OH)が0.3〜0.5重量部である。生成した石膏を分離した後のFeとMgを含む溶液を苛性ソーダで中和する際のpHは7〜10であり、このスラリーを50℃以上で酸化反応することでマグネシウム化合物を含有した水酸化第二鉄が生成する。当該水酸化第二鉄を洗浄してマグネシウム化合物の含有量を調整した後、これに別途硫酸鉄と苛性ソーダから生成した水酸化第一鉄を、Fe(OH)/Fe(OH)のモル比で1.5〜2になるように混合し、50℃以上、非酸化性雰囲気にしてマグネタイト生成反応を行う。
【0014】
前記製造方法で重要なことは廃硫酸を中和するアルカリに炭酸カルシウムに加えて水酸化マグネシウムを使用することである。炭酸カルシウムは、廃硫酸を中和して石膏(硫酸カルシウム)にするのに使用するが、水酸化マグネシウムは後工程でのマグネタイト生成での微粒化に必要なものである。
【0015】
水酸化マグネシウムは廃硫酸の中和時に硫酸マグネシウムとしてFeを含む溶液中に残存し、これを苛性ソーダで中和する際に再び水酸化マグネシウムとなり、次の酸化反応によって生成する水酸化第二鉄を含むスラリー中に含有されるが、当該スラリーを洗浄する際のpH等の条件によって、水酸化第二鉄中に含有されるマグネシウム化合物の量を調整することができ、このときの条件によって本発明の酸化鉄粉末の粒径や比表面積を制御できる。
【0016】
湿式工程で最終的に生成するマグネタイト粉末中のマグネシウム含有量は、MgOとして、0.2〜5重量%である。0.2重量%未満の場合には平均一次粒子径が0.10μmを超え、BET比表面積が30m/g未満と粒子が大きくなり有機ハロゲン化合物の浄化能が低下するので好ましくない。また、5重量%を超える場合には、得られる酸化鉄はX線回折におけるマグネタイトのピークが認められず結晶性が弱いために、有機ハロゲン化合物の浄化能が低下するので好ましくない。尚、生成したマグネタイトは、通常は乾燥工程でFe2+の一部がFe3+に酸化されてベルトライド化合物となり、Fe2+の割合は重量にしてFe2+/全Feで5/100〜33/100、すなわちFe2+含有量がFe全量の5〜33重量%である。
【0017】
マグネタイトによる有機ハロゲン化合物の浄化機構については、マグネタイト中のFe2+が有機ハロゲン化物中のClと結合することで有機ハロゲン化合物が分解されるとの説明が文献等でなされているが、正確な反応機構は不明である。
【0018】
以下に、各特性の測定方法について説明する。
【0019】
(平均一次粒子径)
試料の10万倍の電子顕微鏡写真から、任意の300個について個数平均径として算出した。
【0020】
(BET比表面積)
島津-マイクロメリティクス製「GEMINI2375」を用いてB.E.T.一点法(定圧法)で測定した。
【0021】
(Fe含有量の分析)
試料0.3gを500mLコニカルビーカーに採取し、同ビーカーに塩酸を約10mL添加して加熱溶解後に冷却した。続けて塩化第一錫溶液で還元して塩化第二水銀溶液、混酸(体積比で硫酸150:リン酸150:水700)を加えた後、指示薬を添加して0.1N KCr溶液で滴定して分析した。
【0022】
(Fe2+含有量の分析)
試料0.5gを200mLコニカルビーカーに採取し、濃塩酸約10mLを添加し、加熱溶解、冷却後、0.1N KMnO溶液で滴定して分析した。
【0023】
(MgO含有量の分析)
試料0.5gを200mLコニカルビーカーに採取し、同ビーカーに蒸留水約100mL、濃硫酸約10mLの順に添加し、加熱溶解、冷却後、ICP発光分析装置で分析した。
【0024】
(VOCの分析)
VOCの選定は、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン(PCE)、及びcis−ジクロロエチレン(cis−DCE)の3種類とした。VOC濃度2mg/Lとした1000mLのVOC水溶液に試料25gを添加し、試料が沈降しないように100〜300rpmの範囲で撹拌しながら、所定時間毎に撹拌を止め、上澄み液をサンプリングした。サンプリング液を0.5μmミリポアフィルターでろ過後、ろ液をヘッドスペースサンプラで気化した後、GC−MSで定量分析してVOCの濃度変化を求めた。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の効果を示す実施例について説明するが、以下の実施例は単に例示のために示すものであり、発明の範囲がこれらによって制限されるものではない。
(実施例1)
硫酸法酸化チタンの製造工程で発生する廃硫酸を炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムを含むアルカリでpH2.5〜4.0で中和処理し、更に石膏成分を取り除いた後のFeとMgを含む溶液を苛性ソーダでpH7〜9で中和し沈殿物を70℃に昇温し空気を通気して水酸化第二鉄を生成した。この水酸化第二鉄を含有するスラリーをpH8.5にして洗浄し、硫酸鉄と苛性ソーダから生成した水酸化第一鉄をFe(OH)/Fe(OH)のモル比1.7で混合し、70℃に昇温し非酸化性雰囲気下で熟成してマグネタイトを生成させた。その後、ろ過、洗浄、乾燥してベルトライドを主成分とする酸化鉄粉末を得た。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、水酸化第二鉄の洗浄時のpHを8.0に変更した以外は同様に行ってベルトライドを主成分とする酸化鉄粉末を得た。
【0027】
(比較例1)
実施例1において、マグネタイトの生成を水酸化第二鉄と水酸化第一鉄を混合して非酸化性雰囲気下で熟成する方法から、硫酸鉄を当量以上のアルカリで中和して生成した水酸化第一鉄をエアー酸化する方法に変更して、マグネタイト粉末を得た。
【0028】
(比較例2)
実施例1において、水酸化第二鉄の洗浄時のpHを9.5に変更した以外は同様に行ってベルトライドを主成分とする酸化鉄粉末を得た。
【0029】
実施例及び比較例で得られた酸化鉄粉末の物性を表1に、VOC浄化能を表2〜表4に示した。
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
表2〜表4のVOC浄化能を見てもわかるように、実施例のものは最低でもVOCの70%の浄化が可能であるが、比較例のものは最高でも30%しかない。
【0034】
[発明の効果]
以上説明したように、本発明の有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末は、マグネシウム含有量を調整することにより平均一次粒子径が0.02〜0.10μmで、BET比表面積が30〜100m/gと微粒化されており、Fe2+含有量がFe全量の5〜33重量%含まれているのでVOC浄化材として好適である。また、廃硫酸を原料としているため、工業的に安価に製造できる長所を併せ持つものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が0.02〜0.10μm、BET比表面積が30〜100m/g、Fe2+含有量がFe全量の5〜33重量%、及びマグネシウム含有量がMgOとして0.2〜5重量%であることを特徴とする、有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末。
【請求項2】
鉄含有量がFeとして70重量%以上であり、該酸化鉄の主成分がベルトライド化合物である、請求項1に記載の有機ハロゲン化合物を含有する土壌・地下水の浄化処理用酸化鉄粉末。

【公開番号】特開2006−61853(P2006−61853A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248224(P2004−248224)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000109255)チタン工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】