説明

木造建築物における柱梁接合構造及びその柱梁接合構造に使用される柱梁接合用金具

【課題】柱材と梁材に設置されるそれぞれの接合用金具に作用する外力の軸心相互間の偏心に基づく曲げモーメントの問題を解消し、金具自体の形状過大や、重量の増加による施工性の低下を招くことなく、柱梁接合部の接合強度の強化をより合理的に図る。
【解決手段】柱側接合用金具1を柱材に連結する連結軸心(雌ネジ3の軸心)と、梁側接合用金具2と梁材に連結する連結軸心(雌ネジ4の軸心)とを、ほぼ同一線上に位置させる。それぞれの接合用金具1,2の接合面に形成したラック状の凹凸部からなる噛合い部の中心高さを、それらの接合用金具1,2と柱材又は梁材との連結軸心(雌ネジ3,4の軸心)の高さにほぼ一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造の建築物において使用される柱材と梁材との接合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木造軸組構造においては、筋交いを補強材として用いた入れ壁の剛性により耐震強度を確保する構造が広く一般的に採用されていた。そのため、所期の耐震強度を確保し得る壁構造が必要とされることから、間取りの自由度や、窓の位置、開口面積の大きさなどが制約されるという難点があった。また、筋交いを用いるということは、その筋交いや固定用金具等の材料コストのほかに、その取付け作業にも手間がかかり、コスト高につくという問題があった。さらに、柱材と梁材との接合手段として使用されている羽子板ボルトは、強度的にもあまり大きな補強効果が望めないのが実状であった。
【0003】
そこで、上述の問題点に鑑み、接合状態における保持力の大きい柱材と梁材との接合方法を開発し、従来の入れ壁の剛性に基づく耐震強度に対する依存度を削減し、間取りの自由度や、窓の位置、開口面積の大きさ等に対する制約を縮小することを目的とした技術が既に提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−115552号公報
【0004】
この特許文献1に記載されている柱梁接合方法は、柱材と梁材にそれぞれ設置される上下の柱側接合用金具及び梁側接合用金具の接合面をラック状に形成し、それら各接合用金具のラック状の凹凸部を噛合わせることにより、柱材と梁材とを接合させるものであり、従来の羽子板ボルトの場合と比較して、強固な接合状態が得られるなど、多くの利点を備えるものであった。
【0005】
ところで、この従来技術におけるラック状凹凸部の噛合わせ結合状態では、図9に例示したように、接合対象である接合用金具Aに作用する外力の軸心Caと接合用金具Bに作用する外力の軸心Cbとが、間隔Sだけ離間した偏心状態にあり、接合用金具A,Bを介して例えば引張力が作用した場合には、接合用金具Aと接合用金具Bとの噛合わせ結合部に曲げモーメントMが作用し、それらの接合用金具A,Bを互いに離す方向の外力として加算されることになる。したがって、この曲げモーメントMの付加に起因して、固定用ボルトの挿通孔による断面欠損部分で曲げ破壊が生じたり、固定用ボルトの螺合部に剪断破壊が生じるといった影響が派生し、接合用金具Aと接合用金具Bとの噛合わせ結合部の本来の性能が制限されるといった技術的問題があった。
【0006】
因みに、前記問題を解決する手段として、固定用ボルトの挿通孔による前記断面欠損部分の板厚を増やして補強したり、固定用ボルトの本数を増やしたりする対応策も考えられるが、金具自体の形状が過大になりコストが嵩むばかりでなく、金具の重量が増えて施工性を害することにもなり、偏心による曲げモーメントに対する有効な解決手段とはいえない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような従来技術の問題点に鑑みて開発したもので、それぞれの接合用金具に作用する外力の軸心相互間の偏心に基づく曲げモーメントの問題を解消し、金具自体の形状過大や、重量の増加による施工性の低下を招くことなく、柱梁接合部の接合強度の強化をより合理的に図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1の発明では、柱材側に連結される柱側接合用金具と、梁材側に連結される梁側接合用金具とを用い、それらの接合用金具の接合面に形成されたラック状の凹凸部からなる噛合わせ結合手段を介して柱材と梁材とを接合する木造建築物の柱梁接合構造において、前記柱側接合用金具と柱材との連結軸心と前記梁側接合用金具と梁材との連結軸心とをほぼ同一線上に位置させるという技術手段を採用した。また、請求項2の発明では、柱材側に連結される柱側接合用金具と、梁材側に連結される梁側接合用金具とを用い、それらの接合用金具の接合面に形成されたラック状の凹凸部からなる噛合わせ結合手段を介して柱材と梁材とを接合する木造建築物の柱梁接合用金具において、それぞれの接合用金具の接合面に形成したラック状の凹凸部からなる噛合い部の中心高さを、それらの接合用金具と柱材又は梁材との連結軸心の高さにほぼ一致させるという技術手段を採用した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の木造建築物における柱梁接合構造及び柱梁接合用金具によれば、柱側接合用金具と柱材との連結軸心と梁側接合用金具と梁材との連結軸心とがほぼ同一線上に位置されるので、従来技術の欠点であった、それぞれの接合用金具に作用する外力の軸心相互間の偏心に基づく曲げモーメントを解消することができる。したがって、その曲げモーメントに基づく接合用金具間の噛合わせ結合部に対する曲げ作用も解消されることから、噛合わせ結合部の本来の結合強度を活用することができ、接合用金具自体の形状過大や、重量の増加による施工性の低下を招くことなく、柱梁接合部の接合強度の強化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明が適用される木造建築物の柱材あるいは梁材としては、間取りの自由度や窓の位置、開口面積の大きさ等に対する制約を縮小できることから構造用集成材を用いたものが望ましいが、単に所定の寸法に加工した一般的な木材でも適用し得ることはいうまでもない。また、接合用金具の具体的な外形やそのラック状の凹凸部からなる噛合わせ結合部の具体的な構成に関しては自由な選定が可能である。要は、柱材側に連結される柱側接合用金具と、梁材側に連結される梁側接合用金具とを用い、それらの接合用金具の接合面に形成されたラック状の凹凸部からなる噛合わせ結合手段を介して梁材と柱材とを接合するものであって、柱側接合用金具と柱材との連結軸心と梁側接合用金具と梁材との連結軸心とがほぼ同一線上に位置するように構成したものであればよい。さらに、柱材側に連結された柱側接合用金具と梁材側に連結された梁側接合用金具とを直接的に噛合わせ結合させる形態だけでなく、それらの柱側接合用金具と梁側接合用金具との間に連結用の中間金具を噛合わせる形態のものも可能である。
【実施例1】
【0011】
図1及び図2は本発明の第1実施例に係る柱梁接合用金具を示したもので、図1はその噛合わせ結合前の状態を示した断面図であり、図2は噛合わせ結合後の状態を示した断面図である。図中1,2は接合用金具であり、その中の一方の金具、例えば接合用金具1が柱材側に連結される柱側接合用金具として使用され、他方の接合用金具2が梁材側に連結される梁側接合用金具として使用される。それらの接合用金具1,2の端部には雌ネジ3,4が形成され、接合用金具1の端部に形成された雌ネジ3には例えば柱材側に設置されたアンカー部材の雄ネジ部が螺合され、他方の接合用金具2の端部に形成された雌ネジ4には梁材側に設置されたアンカー部材の雄ネジ部が螺合される。これにより、接合用金具1は柱材に、接合用金具2は梁材に設置されることになる。また、それらの接合用金具1,2の対向する接合面には、それぞれ噛合い可能なラック状の凹凸部5,6が形成され、噛合わせ結合部を構成している。それらの凹凸部5,6の噛合わせ状態において、固定用ボルト7,8を接合用金具2に形成した挿通孔9,10から挿入して接合用金具1に形成された雌ネジ11,12に螺合し、それらの固定用ボルト7,8により締付け固定することによって、凹凸部5,6の噛合わせ結合状態が的確に保持されるように構成されている。なお、図中13,14はワッシャである。
【0012】
ところで、前記接合用金具1,2のラック状の凹凸部5,6からなる噛合い部の中心高さHa、Hbは、それらの接合用金具1,2の雌ネジ3,4の軸心の高さha,hb、すなわち接合用金具1,2と柱材又は梁材との連結軸心の高さと一致させている。したがって、図2に示したように、凹凸部5,6の噛合わせ結合状態においては、接合用金具1,2の凹凸部5,6からなる噛合い部の中心とそれらの接合用金具1,2と柱材又は梁材との連結軸心とは、全て直線上に位置することになる。これにより、接合用金具1と柱材との連結軸心と、接合用金具2と梁材との連結軸心との間の偏心は解消されるので、それらの連結軸心間の偏心に基づいて生じた従来の曲げモーメントの問題も解消されることになる。
【実施例2】
【0013】
図3は本発明の第2実施例に係る柱梁接合用金具の噛合わせ結合状態を示した断面図であり、図4はその柱梁接合用金具を示した平面図である。図中15,16は接合用金具であり、前記第1実施例と同様に、その中の一方の金具、例えば接合用金具15が柱材側に設置される柱側接合用金具として使用され、他方の接合用金具16が梁材側に設置される梁側接合用金具として使用される。また、それらの接合用金具15,16の端部には雌ネジ17,18が形成され、接合用金具15の端部に形成された雌ネジ17には例えば柱材側に設置されたアンカー部材の雄ネジ部が螺合され、他方の接合用金具16の端部に形成された雌ネジ18には梁材側に設置されたアンカー部材の雄ネジ部が螺合されることになる。
【0014】
本実施例に係る接合用金具15,16の場合には、対向するそれぞれの接合面に、両側の傾斜面19,20とそれらの傾斜面19,20より低い中間の傾斜面21とからなる噛合い可能な凹凸部が形成されている。そして、それぞれの傾斜面19,20の中間位置に対応して、それらの傾斜面19,20を固定用ボルトにより貫通した状態で締付け固定できるように、接合用金具16側に挿通孔22,23、接合用金具15側に雌ネジ24,25が傾斜面19,20を挟んで形成されている。
【実施例3】
【0015】
図5は本発明の第3実施例に係る柱梁接合用金具の噛合わせ結合状態を示した断面図である。本実施例は、前記第2実施例の変形例であり、柱材側に連結設置される接合用金具26の端部に連結用ボルト27の挿通孔28を形成するとともに、その内側に作業スペース用の凹部29を形成したものである。接合用金具26を柱材に設置する場合には、図示のように連結用ボルト27を凹部29から挿通孔28に挿通して柱材側に連結固定することになる。なお、梁材側に連結設置される接合用金具30は、前記第2実施例の接合用金具16と同様の構成からなる。
【0016】
しかして、本実施例に係る接合用金具26,30を用いて柱材と梁材を接合する場合には、図6に示したように柱材31の内部に埋設した下方のアンカー部材32の端面に形成された雌ネジに対して連結用ボルト27を螺合し、締付け固定することにより下方の柱側接合用金具26を柱材31に対して設置する。また、梁材33の内部に埋設した上下のアンカー部材34,35の端部に形成されたそれぞれの雄ネジに対して梁側接合用金具30の端部に形成した雌ネジを螺合して締付け固定することにより、上下の梁側接合用金具30を梁材33に互いに上下逆向きに設置する。因みに、後者の上下の梁側接合用金具30の梁材33への設置作業は、工場等において予め実施することが可能であり、簡便で精度のよい作業が可能である。
【0017】
その後、図7に示したように、柱材31に設置された下方の柱側接合用金具26に対して梁材33に設置された下方の梁側接合用金具30を載置し、それらの接合面に形成された凹凸部を噛合せながら固定用ボルトにより締付け固定する。しかる後、梁材33の端部に設置された上方の梁側接合用金具30に対して上方の柱側接合用金具26を載置し、それらの接合用金具26,30の接合面に形成した凹凸部を噛合せながら固定用ボルトにより締付け固定する。これと前後して、柱側接合用金具26に形成された凹部29によって形成される作業用スペースを活用して連結用ボルト27を挿通孔28に挿通し、柱材31の内部に埋設された上方のアンカー部材36の端面に形成された雌ネジに螺合して締付け固定することにより、上方の柱側接合用金具26を柱材31に連結設置する。以上の接合作業により、上下の柱側接合用金具26と上下の梁側接合用金具30との間の前記凹凸部の噛合わせ結合作用を介して柱材31と梁材33とが的確に接合されることになる。
【実施例4】
【0018】
図8は本発明の第4実施例に係る柱梁接合用金具の噛合わせ結合状態を示した断面図である。本実施例は、柱材側に連結設置される柱側接合用金具37と、梁材側に連結設置される梁側接合用金具38と、それらの柱側接合用金具37と梁側接合用金具38とを連結する連結用中間金具39の3つの金具から構成される形態を例示したものである。因みに、本実施例の場合にも、柱側接合用金具37と、梁側接合用金具38と、連結用中間金具39の3つの金具を、それらの接合面に形成された凹凸部を噛合わせて結合した状態において、柱側接合用金具37に形成された連結用ボルトの挿通孔40の軸心と、梁側接合用金具38の雌ネジ41の軸心とが直線上に位置するように設定し、それらの軸心間の偏心に基づく曲げモーメントが生じないように構成することはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例に係る柱梁接合用金具の噛合わせ結合前の状態を示した断面図である。
【図2】同柱梁接合用金具の噛合わせ結合後の状態を示した断面図である。
【図3】本発明の第2実施例に係る柱梁接合用金具の噛合わせ結合状態を示した断面図である。
【図4】同柱梁接合用金具を示した平面図である。
【図5】本発明の第3実施例に係る柱梁接合用金具の噛合わせ結合状態を示した断面図である。
【図6】同柱梁接合用金具を用いた柱梁接合作業を示した説明図である。
【図7】同柱梁接合作業を示した説明図である。
【図8】本発明の第4実施例に係る柱梁接合用金具の噛合わせ結合状態を示した断面図である。
【図9】従来技術におけるラック状凹凸部の噛合わせ結合状態を例示した断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1,2…接合用金具、3,4…雌ネジ、5,6…凹凸部、7,8…固定用ボルト、9,10…挿通孔、11,12…雌ネジ、13,14…ワッシャ、15,16…接合用金具、17,18…雌ネジ、19〜21…傾斜面、22,23…挿通孔、24,25…雌ネジ、26…接合用金具、27…連結用ボルト、28…挿通孔、29…凹部、30…接合用金具、31…柱材、32…アンカー部材、33…梁材、34,35…アンカー部材、36…アンカー部材、37…柱側接合用金具、38…梁側接合用金具、39…連結用中間金具、40…挿通孔、41…雌ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱材側に連結される柱側接合用金具と、梁材側に連結される梁側接合用金具とを用い、それらの接合用金具の接合面に形成されたラック状の凹凸部からなる噛合わせ結合手段を介して柱材と梁材とを接合する木造建築物の柱梁接合構造において、前記柱側接合用金具と柱材との連結軸心と前記梁側接合用金具と梁材との連結軸心とがほぼ同一線上に位置するように構成したことを特徴とする木造建築物における柱梁接合構造。
【請求項2】
柱材側に連結される柱側接合用金具と、梁材側に連結される梁側接合用金具とを用い、それらの接合用金具の接合面に形成されたラック状の凹凸部からなる噛合わせ結合手段を介して柱材と梁材とを接合する木造建築物の柱梁接合用金具であって、それぞれの接合用金具の接合面に形成したラック状の凹凸部からなる噛合い部の中心高さを、それらの接合用金具と柱材又は梁材との連結軸心の高さにほぼ一致させたことを特徴とする木造建築物における柱梁接合用金具。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−303249(P2007−303249A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135687(P2006−135687)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(505241751)
【出願人】(505242611)秋田グルーラム株式会社 (4)
【出願人】(505242932)
【Fターム(参考)】