説明

木造建築物の筋交い構造

【課題】外観や外形を仕上げていない安価な筋交いが使用できるようになる木造建築物の筋交い構造を提供する。
【解決手段】下部横架材11に立設され上部横架材を支持する左右の柱15の間に対角方向で設けられ、横架材31と柱15の交わる入隅部19に端部17が当接して取り付けられる筋交い21の端部17を固定する木造建築物の筋交い構造であって、端部17に筋交い21の厚み方向dに直交する筋交スリット25が形成されるとともに、入隅部19に筋交スリット25と同一平面状の固定スリット27が形成され、筋交スリット25と固定スリット27に渡って平板状の連結板29が挿入され、横架材31、柱15、及び筋交い21の外方から打ち込まれた線条固定材33が連結板29を貫通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横架材と柱の交わる入隅部分に筋交いの端部が当接して取り付けられる木造建築物の筋交い構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筋交いを、柱と梁や土台などの横架材とで枠組みされた対角部分に固定する際には、筋交いの端部に金物が使われる。この金物は、例えば特許文献1に開示される箱型の筋交い用連結金具であったり、特許文献2に開示されるプレート状の筋交い用連結金物であったりする。通常、筋交いは、角材であり、平筋交いは横架材の幅長のおよそ半分の厚みに成形され、角筋交いは横架材の幅長と略同一の厚みに成形される。上記金物は、いずれもこれら筋交いの外面に固定する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−247599号公報
【特許文献2】特許第3691493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の木造建築物の筋交い構造は、金物を筋交いの外面に固定する構成であるため、その外面については平面であることが必要となる。筋交いは、素材の外面が曲面であったり、断面が不定形であったりすると、金物の取付が容易ではなく、筋交いとして使うことはできない。そのため、筋交いは、角材とされるのが一般的である。しかし、筋交いは、面材等に覆われて見えなくなる部分であり、外観に意匠性を必要としない。そのため、同等の強度が確保できる材であれば、不定形のもの、間伐材、丸太、或いはほぼ未加工の素材などの安価な材を使用したいという要請がある。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、外観や外形を仕上げていない安価な筋交いが使用できるようになる木造建築物の筋交い構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明の請求項1記載の木造建築物の筋交い構造は、下部横架材11に立設され上部横架材13を支持する左右の柱15の間に対角方向で設けられ、横架材31と柱15の交わる入隅部19に端部17が当接して取り付けられる筋交い21の該端部17を固定する木造建築物の筋交い構造であって、
前記端部17に筋交い21の厚み方向に直交する筋交スリット25が形成されるとともに、前記入隅部19に該筋交スリット25と同一平面状の固定スリット27が形成され、
前記筋交スリット25と前記固定スリット27に渡って平板状の連結板29が挿入され、
前記横架材31、前記柱15、及び前記筋交い21の外方から打ち込まれた線条固定材33が前記連結板29を貫通することを特徴とする。
【0007】
この木造建築物の筋交い構造では、筋交い21の端部17が入隅部19に当接されると、端部17に形成された筋交スリット25と、入隅部19に形成された固定スリット27とが連続した一つの同一平面状となり、この連続スリット部分に連結板29が挿入されることとなる。挿入された連結板29には、横架材31、柱15、筋交い21の外方から打ち込まれた線条固定材33が貫通することで、これら3つの部材が連結板29を介して一体に固定される。すなわち、筋交い21の外形状に左右されない(依存しない)固定が可能となる。
【0008】
請求項2記載の木造建築物の筋交い構造は、請求項1記載の木造建築物の筋交い構造であって、
少なくとも前記横架材31及び前記柱15には、前記連結板29の輪郭線35で外形の一部分が形成されて前記線条固定材33の打ち込み位置を示す表示手段37の付されたシール39が貼られることを特徴とする。
【0009】
この木造建築物の筋交い構造では、内部に隠れる連結板29の位置が、シール39によって把握可能となり、かつこのシール39に設けられた表示手段37の位置に線条固定材33が打ち込まれることで、線条固定材33の打ち込み位置が最適となる。
【0010】
請求項3記載の木造建築物の筋交い構造は、請求項1又は2記載の木造建築物の筋交い構造であって、
前記連結板29が円形状であることを特徴とする。
【0011】
この木造建築物の筋交い構造では、連結板29が円形状であるので、筋交い21の傾斜角度が変化しても、筋交い21が、連結板29の任意の位置の弦方向で固定可能となる。
【0012】
請求項4記載の木造建築物の筋交い構造は、請求項1,2,3のいずれか1項に記載の木造建築物の筋交い構造であって、
前記連結板29には、前記柱15と前記筋交い21との境界位置、及び前記横架材31と前記筋交い21との境界位置を示す線状表示手段41が付されていること特徴とする。
【0013】
この木造建築物の筋交い構造では、予め筋交い21の端部17に連結板29が取り付けられる場合、線状表示手段41を、端部17の柱当接面17aや横架材当接面17bに一致させて、高精度な先行組み付けが行える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る請求項1記載の木造建築物の筋交い構造によれば、筋交スリットと固定スリットに挿入した連結板を介して筋交いの端部と入隅部が固定できるので、筋交いの形状についての限定がなくなり、筋交いの外形状、厚みや太さを変えることが可能になる。この結果、丸太のような材の他、整形していない材、間伐材など、外観や外形を仕上げていない安価な筋交いを使用できるようになる。
【0015】
請求項2記載の木造建築物の筋交い構造によれば、シールを貼ることで、スリット内に入ってしまう連結板の位置がわかり、線条固定具を打つ箇所が容易に確認でき、施工性を向上させることができる。
【0016】
請求項3記載の木造建築物の筋交い構造によれば、連結板が円形であることで、筋交いの角度が変わっても対応が可能となり、汎用性が向上する。
【0017】
請求項4記載の木造建築物の筋交い構造によれば、線状表示手段が付されていることで、筋交い、柱、及び横架材と、連結板との相対位置が明確になり、それぞれの部材同士の高精度な位置決めが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る木造建築物の筋交い構造を備えた軸組の側面図である。
【図2】図1に示した入隅部の拡大斜視図である。
【図3】(a)は連結板と筋交いの分解斜視図、(b)は連結板を組み付けた筋交いと入隅部との分解斜視図である。
【図4】(a)はシール貼着前の入隅部の斜視図、(b)シール貼着後の入隅部の斜視図である。
【図5】筋交いに丸太の使用された変形例の斜視図である。
【図6】(a)は連結板を後入れする変形例に係る構造の分解斜視図、(b)は連結板の後入れ方法を表す入隅部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る木造建築物の筋交い構造を備えた軸組の側面図、図2は図1に示した入隅部の拡大斜視図である。
木造建築物の筋交い構造では、土台となる横架材31である下部横架材11に立設され、梁となる横架材31である上部横架材13を支持する左右の柱(柱15a、柱15b)15の間に、筋交い21が対角方向で設けられる。筋交い21は、土台11と柱15aの交わる入隅部(下部入隅部19a)19と、梁13と柱15bの交わる入隅部(上部入隅部19b)19とに、端部17が当接して取り付けられる。すなわち、筋交い21は、端部17の柱当接面17aや横架材当接面17bが入隅部19に当接する。
【0020】
筋交い21の端部17には、筋交い21の厚み方向dに直交する筋交スリット25が形成される。筋交スリット25は、筋交い21の厚み方向dの略中央部に形成される。また、入隅部19を形成する柱15と横架材31には、この筋交スリット25と同一平面状の固定スリット27が形成される。この固定スリット27は、後述するように、横架材31に柱15が組み付けられ、入隅部19が形成された後、現場にて丸鋸によって形成することができる。なお、固定スリット27は、工場でのプレカット時に形成しても良い。
【0021】
入隅部19に、筋交い21の端部17が所定位置で配置されると、端部17の筋交スリット25と、入隅部19の固定スリット27とが同一平面状となって連続する。この筋交スリット25と固定スリット27に渡って、平板状の連結板29が挿入されている。連結板29は、厚さ1〜2mm程度の鋼板などの金属プレス成形体よりなる。本実施の形態において、連結板29の挿入は、筋交い21の端部17に予め固定された状態で行われる。連結板29の固定は、工場出荷時、或いは現場における筋交い建て込み前のいずれであってもよい。なお、後述する変形例のように、連結板29は、筋交い21を建て込んだ後であっても挿入可能とすることができる。
【0022】
筋交スリット25、固定スリット27に連結板29が挿入されて、建て込まれた筋交い21は、横架材31、柱15、及び筋交い21の外方から線条固定材33が打ち込まれることで、連結板29を介して入隅部19に固定される。この際、線条固定材33は、連結板29を貫通して打ち込まれる。線条固定材33は、ビス、木ねじ、タッピングスクリュー、ピン、釘など、木質部分及び鋼板を貫通可能な構成のものである。また、この線条固定材33は、その長さが柱15の幅長、或いは厚みよりも短く設定され、本実施の形態では先端が貫通して突出することがない。
【0023】
柱15、横架材31に包囲される図1に示す四角形の空間43が平行四辺形へ変形した場合には、筋交い21には軸線45に沿う方向の圧縮力又は引張力が作用する。上記のように、筋交い21は、柱当接面17aと横架材当接面17bが入隅部19に当接するので、連結板29には主に引張力が作用することになる。本構造では、連結板29に作用する圧縮力を小さくすることで、連結板29の厚みを薄くすることが可能となっている。
【0024】
連結板29は、円形状に形成される。連結板29が円形状であるので、筋交い21の傾斜角度θが変化しても、筋交い21が、連結板29の任意の位置の弦方向で固定可能となる。これにより、連結板29は、筋交いの角度が変わっても対応が可能となり、汎用性が向上する。
【0025】
次に、上記構成を有する筋交い構造の作用を説明する。
図3(a)は連結板と筋交いの分解斜視図、(b)は連結板を組み付けた筋交いと入隅部との分解斜視図である。
本実施の形態の木造建築物の筋交い構造では、図3(a)に示すように、筋交い21の筋交スリット25に、予め連結板29が取り付けられる。この際、連結板29には、柱15と筋交い21との境界位置、及び横架材31と筋交い21との境界位置を示す線状表示手段41(41a,41b)が付されている。予め筋交い21の端部17に連結板29が取り付けられる場合、この線状表示手段41を、端部17の柱当接面17aや横架材当接面17bに一致させて、高精度な先行組み付けが行える。これにより、筋交い21、柱15、及び横架材31と、連結板29との相対位置が明確になり、それぞれの部材同士の高精度な位置決めが可能となる。
【0026】
連結板29は、筋交スリット25に挿入された後、筋交い21の外面より線条固定材33が打ち込まれることで固定される。端部17に連結板29が取り付けられた筋交い21は、図3(b)に示すように、下部入隅部19aに形成した固定スリット27に連結板29が挿入される。固定スリット27は、下部入隅部19aが組み上がった後に、丸鋸等を用いて形成する。連結板29が円形状であるのは、丸鋸を使用して固定スリット27を形成するためである。連結板29は、固定スリット27内の円形状に沿わして挿入することが可能となる。
【0027】
図4(a)はシール貼着前の入隅部の斜視図、(b)シール貼着後の入隅部の斜視図である。
次に、図4(a)に示すように、少なくとも横架材31及び柱15には、連結板29の輪郭線35で外形の一部分が形成されて線条固定材33の打ち込み位置を示す表示手段37の付されたシール39が貼られる。後述する連結板29を後付する場合には、シール39が筋交い21にも貼着されるようにしてもよい。シール39を貼着した後、図4(b)に示すように、線条固定材33を、柱15a、土台11の外面から表示手段37にて示される打ち込み位置に合せて打ち込む。内部に隠れる連結板29の位置が、シール39によって把握可能となり、かつこのシール39に設けられた表示手段37の位置に線条固定材33が打ち込まれることで、線条固定材33の打ち込み位置が最適となる。これにより、線条固定材33を打つ箇所が容易に確認でき、施工性を向上させることができる。全ての線条固定材33が打ち込まれたならシール39は除去される。
【0028】
下部入隅部19aに筋交い21の端部17が固定されたなら、横架材31である梁13が建て込まれる。梁13の下面と柱15bの交わる上部入隅部19b(図1参照)には固定スリット27を形成する。筋交い21の上部の端部17には予め連結板29を固定しておく。これにより、筋交い21は、両端が連結板29を介して上下の入隅部19に固定されて、取付が完了する。
【0029】
このように、木造建築物の筋交い構造では、筋交い21の端部17が入隅部19に当接されると、端部17に形成された筋交スリット25と、入隅部19に形成された固定スリット27とが連続した一つの同一平面状となり、この連続スリット部分に連結板29が挿入されることとなる。挿入された連結板29には、横架材31、柱15、筋交い21の外方から打ち込まれた線条固定材33が貫通することで、これら3つの部材が連結板29を介して一体に固定される。すなわち、筋交い21の外形状に左右されない、別言すると、外形状に依存しない固定が可能となる。
【0030】
図5は筋交いに丸太の使用された変形例の斜視図である。
上記のように、筋交い21は、厚み方向の略中央部に筋交スリット25が形成されるので、筋交い21の外形状に左右されることがない。したがって、図例のような素材表面のままの丸太21Aを筋交いとして使用することも可能となる。
【0031】
図6(a)は連結板を後入れする変形例に係る構造の分解斜視図、(b)は連結板の後入れ方法を表す入隅部の側面図である。
上記実施の形態では、連結板29を予め筋交い21の端部17に固定したが、連結板29は筋交い21の建て込み後に取り付けることも可能となる。この場合、筋交スリット25Aは、柱当接面17aや横架材当接面17bから連結板29が飛び出さない深さで形成しておく。これにより、図6(a)に示すように、筋交スリット25Aに連結板29を装着したまま、筋交い21を外方から平行移動させて下部入隅部19a及び上部入隅部19bへ同時に挿入することができる。下部入隅部19a及び上部入隅部19bには予め固定スリット27を形成しておく。
【0032】
このようにして入隅部19に干渉しないように後退位置に退避させておいた連結板29は、筋交い21が建て込まれたなら、図6(b)に示すように、入隅部19へ接近する方向(矢印a方向)に移動させ、固定スリット27に挿入する。この場合、横架材31、柱15、筋交い21に予めシール39を貼っておけば、連結板29の位置決めを容易にできる。連結板29の位置決めがなされたなら、上記同様に表示手段37に合わせて線条固定材33を打ち込んで筋交い21の固定が完了する。
【0033】
したがって、本実施の形態に係る木造建築物の筋交い構造によれば、筋交スリット25と固定スリット27に挿入した連結板29を介して筋交い21と入隅部19が固定できるので、筋交い21の形状についての限定がなくなり、筋交い21の外形状、厚みや太さを変えることが可能になる。この結果、丸太のような材の他、整形していない材、間伐材など、外観や外形を仕上げていない安価な筋交いを使用できるようになる。
【0034】
なお、上記の実施の形態では、連結板29が円形状である場合を例に説明したが、本発明に係る木造建築物の筋交い構造は、連結板29が円形状の他、矩形状や三角、五角、六角、八角形状等の多角形状、或いは楕円や扇形などであってもよい。
【符号の説明】
【0035】
11…下部横架材(土台)
13…上部横架材(梁)
15…柱
17…端部
19…入隅部
21…筋交い
25…筋交スリット
27…固定スリット
29…連結板
31…横架材
33…線条固定材
35…輪郭線
37…表示手段
39…シール
41…線状表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部横架材に立設され上部横架材を支持する左右の柱の間に対角方向で設けられ、横架材と柱の交わる入隅部に端部が当接して取り付けられる筋交いの該端部を固定する木造建築物の筋交い構造であって、
前記端部に筋交いの厚み方向に直交する筋交スリットが形成されるとともに、前記入隅部に該筋交スリットと同一平面状の固定スリットが形成され、
前記筋交スリットと前記固定スリットに渡って平板状の連結板が挿入され、
前記横架材、前記柱、及び前記筋交いの外方から打ち込まれた線条固定材が前記連結板を貫通することを特徴とする木造建築物の筋交い構造。
【請求項2】
請求項1記載の木造建築物の筋交い構造であって、
少なくとも前記横架材及び前記柱には、前記連結板の輪郭線で外形の一部分が形成されて前記線条固定材の打ち込み位置を示す表示手段の付されたシールが貼られることを特徴とする木造建築物の筋交い構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の木造建築物の筋交い構造であって、
前記連結板が円形状であることを特徴とする木造建築物の筋交い構造。
【請求項4】
請求項1,2,3のいずれか1項に記載の木造建築物の筋交い構造であって、
前記連結板には、前記柱と前記筋交いとの境界位置、及び前記横架材と前記筋交いとの境界位置を示す線状表示手段が付されていること特徴とする木造建築物の筋交い構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−256553(P2011−256553A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130123(P2010−130123)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(595118892)株式会社ポラス暮し科学研究所 (32)
【Fターム(参考)】