説明

椅子の背もたれの支持機構

【課題】 着座者の上半身が後傾したとき、その背中の複雑な動きに柔軟かつ正確に追従できる背もたれの支持機構を提供すること。
【解決手段】 椅子の座板1後方に立上げられた背もたれ支持アーム2の前面に、背もたれ3を、その下部において前記アーム2の立上がり部に水平な軸mにより軸支すると共に、前記軸支部2aより上方において当該背もたれ3の背面側の左,右部を弾性部材4を介して支持した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオフィス等で使用される椅子の背もたれの支持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のオフィス等で使用される椅子は、着座者の姿勢の変化に座板や背もたれがよく追従して動作するようにした高機能のものが多い。これはオフィス等で椅子に長時間に亘り座って事務作業を行う者を疲れにくくしたり、作業を行い易くするためであるが、背もたれについては、着座者の姿勢の変化に追従するといっても、着座者の真後ろ側への後傾に従って背もたれの支持アームと一体に後傾するだけのものが多く、着座中における着座者の背中の複雑な動きに正確に追従する構造になったものは少ない。
【0003】
即ち、従来のオフィス等で使用される椅子の背もたれは、椅子座板の後方から立ち上げられた支持アームに背もたれのアウターシェル部材を一体的に取付けた構造のものが多いが、このような背もたれでは、着座者の姿勢が後傾し乍ら左,右に傾いたときや捩れるように変位したとき、或は、後傾し乍ら背中が上,下に変位するときなどには追従できなかったり、追従が十分でないため違和感を生じていた。この違和感をなくすために、背もたれの内部に厚めにクッション材を入れて着座者の背中側の不均等な変位を吸収するようにしたものもあるが、背もたれが大きくなりすぎてしまうという問題のほか、クッション材が厚すぎると、背中がクッション材の中に沈み込んでしまうことにより別の違和感を覚えるという問題もあった。
【0004】
また、従来の椅子では、着座者の上半身の後傾に追従して背もたれも後傾するが、着座者の背中部分の傾動の中心と背もたれの支持アームの傾動の中心が異なるため、この傾動中心の相違に起因する違和感が生じていた。この違和感をなくすため、支持アーム上において背もたれが上,下方向で首を振る形態に取付けたものがあるが、首振り動作の中心は背もたれの上下幅における中間部であるため、上記の違和感を本質的に解消できるものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の椅子の背もたれに起因する問題点に鑑み、背もたれ支持アームによる背もたれの支持機構を見直し、着座者の上半身が後傾したとき、その背中の複雑な動きに柔軟かつ正確に追従できる背もたれの支持機構を提供することを、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することを目的としてなされた本発明の構成は、椅子の座板後方に立上げられた背もたれ支持アームに、背もたれを、その下部において水平な軸により軸支すると共に、前記軸支部より上方において当該背もたれの背面側の左,右部を弾性部材を介して支持したことを特徴とするものである。
【0007】
上記の背もたれは、その下部の略央部に位置する軸支点と、該支点より上方の背面側における左,右2箇所の支持により、3つの支持点が略逆三角形の頂点に位置するように形成するのが好ましい。これにより、背もたれの真後ろへの後傾と、後傾しつつ右又は左へ傾くことが実現される。また、上記の弾性部材には、ゴム又はバネを用い、また、背もたれは、背もたれ支持アームに対し上,下に変位可能に支持させることもできる。更に、背もたれ支持アームは、座板に対し前,後に傾動可能で、前傾方向に付勢されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、上記の背もたれ支持機構であるから、着座者の上半身の後傾時の複雑な動きに柔軟かつ正確に追従することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明背もたれ支持機構の一例により支持した背もたれの側面図。
【図2】図1の背もたれのA−A線矢視断面図。
【図3】図1の背もたれを説明するための分解した構成部材の斜視図。
【図4】背もたれと支持アームの取付態様を説明するための要部を拡大した斜視図。
【図5】図4に示した取付態様を別の角度から視た斜視図。
【図6】本発明背もたれ支持機構を具備する椅子の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図において、1はオフィス用回転椅子などの座板、2はこの座板1の後方から立ち上げられた背もたれの支持アームである。支持アーム2は、ここでは下部側が座板1の下側に向けて曲げられその先端部が椅子のベース部材Bに固定、或は、回動可能に取付けられている。支持アーム2がベース部材Bに回動可能に取付けられる場合、支持アーム2は、座板1に対し前,後に傾動可能で、前傾する方向にバネなどにより付勢されている。なお、Tは支持アーム2をベース部材Bに回動可能に取付けるときの枢着軸である。
【0011】
3は背もたれ支持アーム2の前面に設けられた背もたれで、ここでは背面側のアウターシェル3aと前面側の背当て部材3bを重ね合わせて形成されている。背もたれ3は、その下部に設けた枢着部3cが背もたれ支持アーム2の立ち上がり部に形成されている軸支部2aに水平な取付軸mにより取付けられ、この取付軸mを中心に背もたれ3が前,後に傾動可能である。即ち、背もたれ支持アーム2が後傾したときでも、背もたれ3は枢着部3cを中心にこの支持アーム2の前面側において前,後に傾動する自由度を保持している。
【0012】
背もたれ支持アーム2の軸支部2aに軸mにより枢支された上記背もたれ3は、上方において背面側の左,右がそれぞれ前後揺動可能に支持される。即ち、背もたれ支持アーム2の上で背もたれ3を前後揺動可能に支持する構造は、ここでは支持アーム2の上部側の左,右両端部と背シェル3aの左,右両側との間に弾性部材4,4を介在させて行っている。弾性部材4としては、図示した例では短柱状乃至は鼓状に形成したゴムを使用しているが、ゴム以外にバネ、例えば、板バネやコイルスプリングなども使用することができる。
【0013】
次に、図2〜図5により、背もたれ3の支持構造についてより詳細に説明する。背もたれ支持アーム2の上部側が左右に拡開し、その左,右両端部側が前方に弯曲していて、弯曲部の前端面がそれぞれ背もたれ3の背シェル3aの左,右に対向している。当該前端面には、その略中央部から前方に向け支持杆2b,2bが突設形成され、それぞれの支持杆2b,2bの先端側には、先端面に平行な横向きの係合溝2c,2cが形成されている。なお、2dは支持杆2bの先端面の略中央部に設けたネジ孔である。
【0014】
上記の支持杆2b,2bは、前面側にブロック状の弾性部材4,4を支持させた状態でアウターシェル3aの左,右に設けられた嵌合孔5,5に遊挿される。嵌合孔5,5は、支持杆2b,2bが上,下に変位し得るように縦長に形成されていると共に、側面側がテーパ面5aに形成されている。6は前記弾性部材4を支持して、嵌合孔5に遊挿された支持杆2bの先端部に取付けられる係止部材で、後面側が嵌合孔5のテーパ面5aに支持される弯曲面6aに形成されている。6bは前記係止部材6の後面側において弯曲面6aの前方に横向きに形成した係合片で、この係合片6bは、係止部材6を支持杆2bの先端部に取付けるとき、当該支持杆2bの先端側に形成した係合溝2cに嵌合される。
【0015】
ここで図4,図5により、背もたれ3と支持アーム2の取付態様について詳述すると、まず、支持アーム2の上部側左,右の支持杆2b,2bに弾性部材4を嵌めて保持させ(図4,図5では図示せず)、この状態で背もたれ3のアウターシェル3aに形成した左右の嵌合孔5,5を嵌合させると共に、アウターシェル3aの前面側に突出した支持杆2b,2bのそれぞれの先端部に、係止部材6,6をその係合片6b,6bを当該支持杆2b,2bの先端側の係合溝2c,2cに嵌合させ、係止部材6の略中央部に形成されている穴6c,6cに前面側からタッピングビス6d,6dを入れ、支持杆2b,2bの先端面のネジ孔2d,2dに螺入して固定する。なお、着座者が背もたれ3に寄りかかったとき、アウターシェル3aが弯曲するなどして支持杆2b,2bに対して相対的に変位しても、嵌合孔5,5のテーパ面5a,5aは係止部材6の後面側の弯曲面6aに対し摺動を許容しているので、係止部材6には余計な負荷がかからず、損壊することはない。
【0016】
なお、背もたれ3はその背面側の左,右において前,後に揺動可能に支持されるのであれば、上記以外の支持構造にしてもよい。また、背もたれ3は、その下部の略央部に位置する軸支点と、該支点より上方の背面側における左,右の2点の支持により、3つの支持点が略逆三角形状をなすように形成するのが、着座者の背中を均等に支持すると共に、着座者の右又は左に偏った後傾を支持する上で好ましい。
【0017】
本発明の一例の背もたれ支持機構の構成は以上の通りであるので、次にその動作内容について説明する。着座者の姿勢変化により背もたれ3はその支持アーム2と共に後方に傾動する。背もたれ3が後方に傾動したとき、背もたれ3の上部側は背中によって大きな荷重を受けるが、この荷重は背もたれ支持アーム2による背もたれ3の前方への付勢力と均衡を保っている。しかし、着座者の腰部を中心に傾動するその着座者の背中と椅子の座板1の下側に傾動中心が設けられた背もたれ支持アーム2とでは、それぞれの傾動の中心が異なっているので、背もたれ3が後方に大きく傾動するとき、当該背もたれ3は、支持アーム2の後傾による後方回動とその背もたれ3の支持アーム2上での軸mを中心とする後方回動との複合後傾となり、着座者の背中の後傾する動きによく追従した動作をする。
【0018】
また、背もたれ3の後傾において、着座者の姿勢が右又は左に傾いたり、捩れたりしたとき、背もたれ3はその傾いたり捩れたりした側に大きな偏荷重を受けるが、本発明背もたれ支持機構では、偏荷重を受けた側に傾動して背中の動きによく追従する。更に、本発明背もたれ支持機構では、背もたれ3が後方に大きく傾動する場合、背もたれ3はその下部が軸mにより支持アーム2に枢支されているので、背もたれ3の上部側が支持アーム2に対し上下方向に変位するが、背もたれ支持アーム2の支持杆2b,2bがアウターシェル3aの左,右に設けられた縦長の嵌合孔5,5に遊挿されこの嵌合孔5,5内において上,下に変位することにより対応できる。
【0019】
以上に説明した本発明の背もたれ支持機構を具備するオフィス用の回転椅子の一例を図6に示す。図6に示した椅子では、支持アーム2の下部側が、座板1の下側に向けて曲げられその先端部が脚の支柱7の上部に設けたベース部材Bに枢着軸Tにより回動可能に取り付けられている。8は座板1に対し前後揺動可能で、内部のバネ(図示せず)により前方に付勢されている支持アーム2の前記バネの強弱を調節する操作部である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は以上の通りであって、本発明背もたれの支持機構によれば、着座者の後傾を、支持アームの後傾とこのアームの立ち上がり部に設けた軸を中心に後傾する背もたれとで受けるようにしたので、着座者の後傾動作に背もたれの動作をよく追従させることができる。
【0021】
また、本発明背もたれの支持機構によれば、着座者の姿勢がその背中部分が後傾し乍ら左又は右に傾いたときや捩れたときでも、背もたれの上部側左右と支持アームの上部側左右に介在させた弾性部材の作用により、その傾き等に正確に追従してその傾き等による偏荷重を好適に吸収し得るので、着座者に違和感を与えることはない。
【0022】
更に、本発明背もたれの支持機構は、上記のような機能を有しながら構造が簡単で背もたれも薄手に形成することができるので、コストを低減化できる上に、デザイン的にも最近の椅子に適合するものである。
【符号の説明】
【0023】
1 座板
2 背もたれ支持アーム
3 背もたれ
4 弾性部材
5 嵌合孔
6 係合部材
7 脚の支柱
8 操作部
B ベース部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子の座板後方に立上げられた背もたれ支持アームに、背もたれを、その下部において水平な軸により軸支すると共に、前記軸支部より上方において当該背もたれの背面側の左,右部を弾性部材を介して支持したことを特徴とする椅子の背もたれの支持機構。
【請求項2】
背もたれの下部の略央部に位置する軸支点と、該支点より上方の背面側における左,右2箇所の支持点は、3つの支持点が略逆三角形の頂点に位置するように形成した請求項1の椅子の背もたれの支持機構。
【請求項3】
弾性部材は、ゴム又はバネである請求項1又は2の椅子の背もたれの支持機構。
【請求項4】
背もたれは、背もたれ支持アームに対し上,下に変位可能に支持させた請求項1〜3のいずれかの椅子の背もたれの支持機構。
【請求項5】
背もたれ支持アームは、座板に対し前,後に傾動可能で、前傾方向に付勢されている請求項1〜4のいずれかの椅子の背もたれの支持機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−451(P2011−451A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181540(P2010−181540)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【分割の表示】特願2001−213967(P2001−213967)の分割
【原出願日】平成13年7月13日(2001.7.13)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】