説明

植物生理管理装置

【課題】植物の育成貯蔵空間を植物の育成並びに貯蔵の最適空間とし、これによって植物の育成および貯蔵をより効果的に行い得るようにし、ひいては植物市場における植物の活性流通をより効果的に行い得るようにする。
【解決手段】対象となる植物Pの生理的な特質に合わせてその植物Pを生育しながら管理する植物Pの生理管理(対象となる植物Pの呼吸や同化作用等の生理的な特質を考慮して養生、発根、育成、貯蔵等を目的として当該植物Pを適正に生育するものであり、植物Pが略密閉状態で装填される植物生理管理庫20と、負に帯電した微細な負帯電微細水滴を気流に同伴させて植物生理管理庫20内に供給するとともに、植物生理管理庫20内の雰囲気を吸引する加湿器40と、植物生理管理庫20内に装填された植物に光を照射する光源70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜、果実、草木あるいは茸類等の植物の生体を生理的に管理することによって当該植物の育成、養生(例えば接木の養生)、断根後の発根、栽培促進(例えば茸の栽培促進)、貯蔵期間中の植物の枯朽の防止等を効果的に行い得るようにした植物生理管理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水滴が分裂することにより周りの空気が負に帯電する現象はレナード効果として古くから知られている。一方、空気が負に帯電した環境は、植物の生育や食品の鮮度等に好影響を与えることが知られている。そこで、植物の生育環境や食品の貯蔵環境等を積極的に負帯電の環境にするべく、水のクラスターを分裂させて負に帯電した微細な水滴を含むいわゆる活性空気を植物の生育環境や食品の貯蔵環境等に送り込み、これらの環境を積極的に負に帯電させることが提案されている。
【0003】
前記活性空気を形成させるべく、水のクラスターを分裂させて負帯電の微細な水滴を形成させる装置(微細粒子拡散装置という)としては、例えば、特許文献1に記載されたものを挙げることができる。また、微細粒子拡散装置を利用して植物の生育環境や食品の貯蔵環境等を負帯電の環境にするものとしては、特許文献2〜4に記載されたものが知られている。
【0004】
特許文献1に記載の微細粒子拡散装置は、高速回転しているシロッコファンに水を衝突させ、この衝突時の衝撃で水のクラスターを分断させるものであり、クラスターが分断された結果得られた負に帯電している微細水滴を気流に同伴させて所定の環境へ向けて送り込むようになされている。
【0005】
特許文献2に記載の装置は、食品の鮮度を維持するためのものであり、管状体内に吹き込まれた旋回気流中に水を噴射して水滴に負の帯電を行わせる方式の微細粒子拡散装置が採用されている。かかる微細粒子拡散装置で得られた負帯電水滴を介して周りの空気が負に帯電され、この負帯電空気は、食品が貯蔵された貯蔵室に供給される。これにより当該貯蔵室内に貯蔵された食品は、負帯電空気の作用で鮮度が維持される。貯蔵室に供給された負帯電空気は旋回気流として管状体内へ戻され循環使用される。
【0006】
特許文献3に記載の装置は、植物や微生物などの生物を育成するためのものであり、特許文献2に記載のものと同様の微細粒子核酸装置が採用されている。かかる微細粒子核酸装置により負帯電水滴を介して負に帯電した空気が育成室へ供給され、当該育成室内の生物の育成に寄与される。
【0007】
特許文献4に記載の装置は、米麦類、雑穀類あるいは豆類等の農作物を活性化させるためのものであり、これも特許文献2に記載のものと同様の微細粒子核酸装置が採用されている。かかる微細粒子核酸装置により負帯電水滴を介して負に帯電した空気が保管室へ供給され、当該保管室に保管されている各種の農作物の活性化(例えば発芽の促進)に寄与される。
【0008】
このように、植物の生育環境や食品の貯蔵環境を負帯電環境にするためには、水のクラスターを分断して拡散させる微細粒子拡散装置が重要な役割を果たす。
【0009】
ところで、近年、負に帯電した水の超微細粒子を従来よりも効果的に得ることができる装置として、特許文献5に記載されているような超微粒子拡散装置が注目されている。この超部粒子拡散装置は、野菜や果物等を例えば所定のハウス内で行う、いわゆるハウス栽培時に当該ハウス内の温度および湿度を調整するために使用されるものであり、ハウス内に据え付けられて使用に供される。
【0010】
かかる超微粒子拡散装置は、水が貯留された大皿状の水槽と、この水槽上に水面と対向するように脚部を介して配設された架台と、この架台の中央部から水中にまで垂下された、水槽内の水を吸引するための上面が開放された吸引管と、この架台の下面の中央位置で吸引管回りに回転可能に設けられた、駆動モータの駆動で駆動軸回りに回転する送風羽根と、架台の上面に前記駆動軸回りに同心で一体回転可能に設けられた上窄みの筒体と、この筒状の周面から径方向の外方に向かって突設された複数枚の螺旋フィンと、筒体を覆うように架台上に同心で固定されたケーシングとを備えている。
【0011】
前記架台には、適所に上下に貫通した複数の通気孔が穿設されている。また、駆動モータは、筒体内に配置された状態で架台に支持されている。また、筒体とケーシングとの間に環状通気路が形成されている。
【0012】
このように構成された超微粒子拡散装置によれば、駆動モータの駆動による駆動軸の回転で架台下の送風羽根をおよび架台上の筒体を軸心回りに一体回転させることにより、まず、水槽の水面上に当該水面から上方に向かう気流が形成され、この気流による水面上方の減圧(すなわちエジェクター効果)で水槽内の水が吸引管を介して上方へ吸引されて架台上へ導出される。
【0013】
この架台上に導出された水は、回転している送風羽根との衝突でまず細粒子になる。この細粒子は、遠心力で送風羽根から径方向の外方に向かって吹き飛ばされ、各所に衝突しながら微細粒子になり、通気口をとおって環状通気路に導出され、ここで回転している筒体の周面の螺旋フィンおよびケーシングの内壁面に衝突して超微細粒子になる。この超微細粒子は、ケーシングの頂部開口に架設されたフィルタを通過することで最適超微細粒子になる。
【0014】
そして、この最適超微細粒子がハウス内に供給されることにより、最適超微細粒子は、その粒径が極めて小さいことにより、埃や細菌を保持することができず、従って極めて清浄な状態になっていることから、単に水を噴霧した場合に比較し、植物への雑菌の侵入をより効果的に防止することができるばかりか、水滴による葉の赤化を防止することが可能になる等、湿度による植物の生育環境を確保しつつり、植物の劣化を有効に回避することが可能になり、植物を適正に育成したり貯蔵したりすることができる。
【特許文献1】特開2002−195615号公報
【特許文献2】特開平7−135945号公報
【特許文献3】特開平7−170888号公報
【特許文献4】特開平8−89790号公報
【特許文献5】特開2005−131546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、特許文献5には、記載の超微粒子拡散装置を、例えば、農事用のハウスや倉庫などの育成貯蔵空間に単に据え付けることしか開示されておらず、据え付けられる側の育成貯蔵空間についての開示はない。
【0016】
すなわち、せっかく効果の大きい超微粒子拡散装置を育成貯蔵空間に据え付けても、当該育成貯蔵空間の環境が不適な場合、例えば、育成貯蔵空間が完全密閉される場合には、結露が生じて植物に悪影響を与える他、育成貯蔵空間が外部に対して開放空間である場合には、外気の混入で最適微細粒子が育成貯蔵空間内に留まることが困難になる等、超微粒子拡散装置の作用効果を確実に享受することができなくなる。
【0017】
また、植物を貯蔵しながら当該植物の育成を図ることも考慮した場合、育成貯留空間を単に超微粒子拡散装置で最適微細粒子の環境にしただけでは不足であり、育成環境をさらに充実したものにする必要がある。
【0018】
本発明は、かかる従来の状況に鑑みなされたものであって、超微粒子拡散装置を利用することを前提とし、植物の育成貯蔵空間を植物の育成並びに貯蔵の最適空間とし、これによって植物の育成および貯蔵をより効果的に行い得るようにし、ひいては植物市場における植物の活性流通をより効果的に行い得る植物生理管理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1記載の発明は、対象となる植物の生体を生理的に管理する植物生理管理装置であって、前記植物が略密閉状態で装填される植物生理管理庫と、負に帯電した微細な水滴を気流に同伴させて前記植物生理管理庫内に供給する加湿器と、前記植物生理管理庫内に装填された植物に光を照射する光源とが備えられていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項1記載の発明における植物の生体の「生理的な管理」とは、対象となる植物の呼吸や同化作用等における生理的な特質を考慮して養生、発根、育成、貯蔵等(以下これらを総称して生育という)を目的として当該植物を適正に管理することである。
【0021】
かかる構成によれば、略密閉状態の植物生理管理庫内に装填された植物は、加湿器から供給された負帯電微細水滴の供給を受けるとともに、必要に応じて光源からの光の照射を受けつつ当該植物の生理的な特質に合わせて生育が管理されるため、略密閉状態の空間に装填された植物は、開放状態の空間で微細水滴の供給を受ける場合に比較し、無駄なくより効率的に、かつ、均一に負帯電微細水滴が供給され、これによって植物の生態の生理的な管理が達成される。
【0022】
また、植物に供給される水は、微細な水滴であるため、当該微細水滴中に埃や雑菌が存在せず、従って、従来の単に植物に散水した場合に比較し、植物への埃や雑菌の付着が有効に防止される。
【0023】
さらに、植物が負に帯電した負帯電微細水滴の供給を受けるため、当該水滴の負の帯電によって生育上で好影響を受け、これによって植物は適正、かつ、効率的に生育する。
【0024】
そして、特に、光源が設けられていることにより、対象植物の生育特性を考慮した光照射を行うことが可能になり、光源が設けられていない場合に比較し、より効果的な生育管理が実行される。また、植物生理管理庫が屋内に据え付けられていて植物生理管理庫内に日光が射し込まないような場合、光源からの光照射で植物生理管理庫内の植物に光が当てられ、植物生理管理庫内の植物の光合成、蒸散および光形態形成に寄与する。
【0025】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記加湿器は、植物生理管理庫内の雰囲気を吸引するものであることを特徴とするものである。
【0026】
かかる構成によれば、植物生理管理庫内の雰囲気は、加湿器が当該雰囲気を吸飲することで循環され、この循環途中で負帯電微細水滴が形成されるため、加湿器で生成されて気流に同伴する負帯電微細水滴が植物生理管理庫内から外部に漏洩することが防止され、生成した負帯電微細水滴が無駄なく有効に使用される。
【0027】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記植物生理管理庫内に熱媒体を介して熱を供給する熱源が備えられていることを特徴とするものである。
【0028】
かかる構成によれば、植物生理管理庫内に熱源から熱媒体を介して供給される熱量(冷熱量を含む)を調節することにより、植物生理管理庫内の温度を対象植物の生育に適した好ましい温度にし得るようになる。
【0029】
このように、植物生理管理庫が据え付けられる環境に応じて熱源から熱を供給することにより植物生理管理庫内は、植物生育に適した温度条件を満たしたものになり、植物生理管理庫が向上する。
【0030】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記熱源は、前記植物生理管理庫内を加温する加温装置および前記植物生理管理庫内を冷却する冷却装置の少なくとも1つであることを特徴とするものである。
【0031】
かかる構成によれば、植物生理管理庫内に加温装置が設けられることにより、植物生理管理庫内の温度が対象植物の適正な生育にとって適正な温度より低温である場合、当該加温装置により植物生理管理庫内を昇温させることで生育温度が適正になる。また、植物生理管理庫内に冷却装置が設けられることにより、植物生理管理庫内の温度が対象植物の適正な生育にとって適正な温度より高温である場合、当該冷却装置により植物生理管理庫内を下降させることで生育温度が適正になる。加温装置と冷却装置との双方を設けた場合には、それらの運転を制御することにより、植物生理管理庫内の温度は、対象植物にとって常に好ましい温度になる。
【0032】
このように、植物生理管理庫が据え付けられる環境に応じて当該植物生理管理庫に加温装置および冷却装置のいずれか若しくは双方を設けることで、植物生理管理庫は、あらゆる設置環境に対応し得るものになり、植物生理管理庫の汎用性が向上する。
【0033】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明において、前記光源による植物への照射量を調整する照射量調整部を有し、前記植物の生理管理は、穂木が台木に挿し木されることにより形成された接木の養生であり、前記照射量調整部は、経時方向に照射量を変更させるものであり、少なくとも養生開始からの所要時間は消灯状態とすることを特徴とするものである。
【0034】
かかる構成によれば、接木に対して好ましい状態で照射量調整部により経時的に光の照射量を調整することによって接木の養生が確実に行われ、活着率が向上する。そして、少なくとも養生開始からの所要時間は消灯状態とすることでさらに確実な養生処理が実現する。
【0035】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明において、前記植物を保持した状態で前記植物生理管理庫内に挿入される植物保持台が備えられていることを特徴とするものである。
【0036】
かかる構成によれば、植物生理管理庫とは別の場所で複数の植物を搭載した状態の植物保持台を植物生理管理庫へ挿入することにより、当該植物が植物生理管理庫に装填された状態になる。
【0037】
このように植物保持台を採用することにより、植物生理管理庫における植物の生育処理と、植物の植物保持台への搭載処理とを並列して行うことが可能になるため、植物を植物生理管理庫に直接装填してから植物生理管理庫による生育処理をおこなう場合に比較して植物の生育処理の処理効率が向上する。
【0038】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記植物生理管理庫は、複数に仕切られた管理室を有し、前記植物保持台を予め定めた順番で搬送する搬送機構が備えられていることを特徴とするものである。
【0039】
かかる構成によれば、搬送機構の所定時間毎の間欠的な駆動で植物保持台を1台ずつ最上流側の植物生理管理庫へ順番に搬入していくことにより、植物生理管理庫内に搬入された植物保持台は、最上流側の植物生理管理庫から所定の時間間隔で順次下流側の植物生理管理庫へ搬送され、最下流側の植物生理管理庫から外部に搬出される。
【0040】
従って、直列に配設された複数の植物生理管理庫の各生育環境を、生育対象植物の経時的な生育過程に対応したものに設定しておくことにより、対象植物の搭載された植物保持台を所定の時間間隔で最上流側の植物生理管理庫へ搬入することにで、最下流があの植物生理管理庫から目的の生育処理済みの植物の搭載された植物保持台が搬出され、これによって植物生育の処理効率が向上する。
【0041】
請求項8記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記植物生理管理庫を所定の隙間を介して全体的に覆う外容器が設けられ、前記熱源として前記隙間内の空気を加温する加温装置と、同冷却する冷却装置とが備えられていることを特徴とするものである。
【0042】
かかる構成によれば、状況に応じて加温装置および冷却装置のいずれか一方または所定の比率で双方を使用することによって植物生理管理庫と外容器との間の隙間の空気を温度調節することができ、ひいてはこの温度調節によって広い面積を備えた植物生理管理庫の壁の温度を調節することができる。そして、かかる壁の温度調節により当該壁の内面側に形成される、またはすでに形成されている結露を利用することによって(すなわち植物生理管理庫内で蒸散している水分の凝縮潜熱または結露の蒸発潜熱を利用することによって)植物生理管理庫内の相対湿度を調節することができるため、植物生理管理庫内の空気の温度を全体的に昇降させることによって植物生理管理庫内の相対湿度を調節する場合に比較し、植物の生育に適した植物生理管理庫内の環境を維持した上で格段に効率的、かつ、迅速に植物生理管理庫内の湿度が調節される。
【発明の効果】
【0043】
請求項1記載の発明によれば、略密閉状態の植物生理管理庫内に装填された植物は、加湿器から供給された負帯電微細水滴の供給を受けつつ当該植物の生理的な特質に合わせて生育が管理されるため、開放状態の空間で微細水滴の供給を受ける場合に比較し、無駄なくより効率的に、かつ、均一に負帯電微細水滴が供給され、これによって植物の生育効率を向上させることができる。
【0044】
また、植物に供給される水は、微細な水滴であるため、当該微細水滴中に埃や雑菌が存在せず、従って、従来の単に植物に散水した場合に比較し、植物への埃や雑菌の付着が有効に防止されるとともに、植物は、負に帯電した負帯電微細水滴の供給を受けるため、当該水滴の負の帯電によって生育上で好影響を受け、これによって植物を適正、かつ、効率的に生育することができる。
【0045】
そして、特に、光源が設けられていることにより、対象植物の生育特性を考慮した光照射を行うことが可能になり、光源が設けられていない場合に比較し、より効果的な生育管理を実現することができる。
【0046】
請求項2記載の発明によれば、加湿器は、植物生理管理庫内の雰囲気を循環させ、この循環途中で負帯電微細水滴を形成するようにしているため、加湿器で生成されて気流に同伴する負帯電微細水滴が植物生理管理庫内から外部に漏洩することを防止することができ、生成した負帯電微細水滴を無駄なく有効に使用することができる。
【0047】
請求項3記載の発明によれば、熱源からの熱媒体を介した植物生理管理庫内への熱の供給で植物生理管理庫を植物の育成に適した温度に調節することが可能になり、植物の生育管理を向上させることができる。
【0048】
請求項4記載の発明によれば、植物生理管理庫が据え付けられる環境に応じて当該植物生理管理庫に加温装置および冷却装置のいずれか若しくは双方を設けることで、植物生理管理庫は、あらゆる設置環境に対応し得るものになり、植物生理管理庫の汎用性を向上させることができる。
【0049】
請求項5記載の発明によれば、少なくとも養生開始からの所要時間は消灯状態とすることでさらに確実な養生処理を達成することができる。
【0050】
請求項6記載の発明によれば、植物保持台を採用することにより、植物生理管理庫における植物の生育処理と、植物の植物保持台への搭載処理とを並列して行うことが可能になるため、植物を植物生理管理庫に直接装填してから植物生理管理庫による生育処理をおこなう場合に比較して植物の生育処理の処理効率を向上させることができる。
【0051】
請求項7記載の発明によれば、直列に配設された複数の植物生理管理庫の各生育環境を、生育対象植物の経時的な生育過程に対応したものに設定しておくことにより、対象植物の搭載された植物保持台を所定の時間間隔で最上流側の植物生理管理庫へ搬入することで、最下流があの植物生理管理庫から目的の生育処理済みの植物の搭載された植物保持台が搬出され、これによって植物生育の処理効率を向上させることができる。
【0052】
請求項8記載の発明によれば、植物生理管理庫の壁面の温度調節により当該壁面の内面側に形成される結露の凝縮潜熱、またはすでに形成されている結露の蒸発潜熱を利用することによって植物生理管理庫内の相対湿度を調節することができるため、植物生理管理庫内の空気の温度を全体的に昇降させることによって植物生理管理庫内の相対湿度を調節する場合に比較し、植物の生育に適した植物生理管理庫内の環境を維持した上で格段に効率的、かつ、迅速に植物生理管理庫内の湿度を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
図1は、本発明に係る第1実施形態の植物生理管理装置10を示す一部切欠き斜視図であり、図2は、植物保持台車(植物保持台車)30の第1実施形態を示す斜視図である。また、図3は、図1のIII−III線断面図である。なお、図1〜図3においては、X−X方向を左右方向、Y−Y方向を前後方向といい、特に−X方向を左方、+X方向を右方、−Y方向を前方、+Y方向を後方という。
【0054】
図1および図3に示すように、第1実施形態に係る植物生理管理装置10は、対象となる植物Pの生理的な特質に合わせて当該植物Pの生育を管理するように構成されたものであり、内部に植物Pを生育するための植物管理空間Vを備えた直方体状を呈する植物生理管理庫20と、植物Pが配列された状態でこの植物生理管理庫20内に挿脱可能に挿入される植物保持台車30と、前記植物管理空間V内に適正に調製された負帯電微細水滴を供給する加湿器40と、植物管理空間V内の温度を上昇させる加温装置50と、植物管理空間V内の温度を下降させる冷却装置60と、植物管理空間V内の植物Pに生育用(光合成、蒸散および光形態形成(以下光合成等という)用)の光を供給する光源70とを備えている。ここに加温装置50と冷却装置60とで植物管理空間V内に熱媒体を介した熱を供給する熱源が構成されている。
【0055】
前記植物生理管理庫20は、長短2種類の4本の根太を平面視で前後方向に長尺の長方形になるように組み合わせることで形成された基礎枠体21と、この基礎枠体21の四隅から立設された4本の支柱22と、これら4本の支柱22における隣設されたものの頂部間にそれぞれ架設される4本の梁材23とで構成された直方体状の骨格の表面側に外装板24が付設されるとともに、前記基礎枠体21の下面側に底板25が設けられることによって形成されている。
【0056】
かかる植物生理管理庫20の前面には、外装板24が例えば矩形状に切り欠かれることによって形成した出入口241が設けられ、前記植物保持台車30は、この出入口241を介して植物管理空間Vに対し挿脱される。
【0057】
そして、かかる出入口241には、開閉扉26が設けられている。前記植物保持台車30は、この開閉扉26が開放された状態で植物管理空間Vに対し挿脱される一方、植物Pを保持した植物保持台車30が植物管理空間V内に装填された状態で当該開閉扉26が閉止される。因みに、本実施形態では、開閉扉26は一対で設けられ、観音開きで開放されるようになっている。
【0058】
前記植物保持台車30は、図2に示すように、所定木口寸法の角材311が直方体状に組み合わされることによって形成された直方体状枠体31と、この直方体状枠体31の4本の支柱32に支持された、鉢植え状態の植物Pを載置するための複数段の棚板33と、各棚板33の上方で4本の支柱32に支持されたミラープレート34と、最下段の棚板33を支持する角材311の下面において4本の支柱32と対向するように設けられた4つのキャスター35とを備えている。4本の支柱32の頂部には天板321が架設されている。
【0059】
前記直方体状枠体31は、立体形状が植物生理管理庫20より若干小さく、かつ、植物生理管理庫20と略相似形に設定され、これによって前記出入口241を介して植物生理管理庫20の植物管理空間V内に対し挿脱し得るようになっている。
【0060】
前記棚板33は、本実施形態では3段とされているが、本発明は、棚板33が3段であることに限定されるものではなく、状況に応じて所定の段数、例えば2段以下であってもよいし、4段以上であってもよい。
【0061】
前記ミラープレート34は、光源70からの光を反射させて棚板33上の植物Pに万遍なく光を照射するためのものである。かかるミラープレート34は、例えば、硬質の合成樹脂製の前後方向に長尺のプラスチックボードを左右方向の中央位置で前後方向に延びる折り曲げ線に沿って下に凸に所定角度だけ折り曲げられることによって形成されている。そして、かかる折り曲げ処理が施されたプラスチックボードの凸面に蒸着処理が施されて鏡面341が形成されている。従って、光源70からの光は、下に凸の鏡面341に反射され、棚板33上の植物Pに対して万遍なく照射されることになる。
【0062】
因みに本実施形態においては、植物保持台車30を植物管理空間Vに対して挿脱するに際し、出入口241の下部の段差を埋めるために側面視で直角三角形状を呈した案内板251が設けられ、キャスター35がこの案内板251に案内されることにより植物保持台車30の植物管理空間Vに対する出し入れ操作が容易になる。
【0063】
前記加湿器40は、植物生理管理庫20の側部外方(図1および図3に示す例では右側部外方)に設けられている。かかる加湿器40は、植物生理管理庫20の右側の側板242の中央部より若干下方位置を貫通して当該側板242に支持された排気ダクト48の上流端と、植物生理管理庫20の天板243の中央部を貫通して当該天板243に支持された吸気ダクト49の下流端との間に介設された直方体状のハウジング47に内装されている。
【0064】
前記ハウジング47には、その右面に矩形状のメンテナンス開口471が設けられているとともに、このメンテナンス開口471を開閉自在に閉止するメンテナンスドアー472が設けられている。
【0065】
図4および図5は、加湿器40の一実施形態を示す図であり、図4は、一部切欠き斜視図、図5は、図4のV−V線断面図である。なお、図4および図5におけるXおよびYによる方向表示は図1の場合と同様(Xは左右方向(−X:左方、+X:右方)、Yは前後方向(−Y:前方、+Y:後方))である。
【0066】
因みに、図5においては、白抜きや印で植物管理空間V内から吸引された気流を示し、太い実線矢印で加湿器40内のケーシング46から排気ダクト481を介して植物管理空間Vに導入される負帯電微細水滴を含んだ気流を示し、細い実線矢印で水槽41に貯留されている状態から負帯電微細水滴に到る水を示している。
【0067】
まず、図4に示すように、加湿器40は、ハウジング47の底板473上に据え付けられた水が貯留される大皿状の水槽41と、この水槽41の対向する縁部間に架設された架台42と、この架台42の中央部から水槽41内の水中にまで垂下された、水槽41内の水を吸引するための上面が開放された吸引管43と、この架台42の下面の中央位置で吸引管43回りに回転可能に設けられた、駆動モータ452の駆動で駆動軸回りに回転する送風羽根44と、架台42の上面に筒体45の駆動軸回りに同心で一体回転可能に設けられた、周面に複数枚の螺旋フィン451が固定された上窄みの筒体45と、筒体45を覆うように前記架台42上に同心で固定された上窄まりの円筒状のケーシング46とを備えている。
【0068】
前記水槽41には、水位が下がると上水などの水源411からの水が給水管412を介して自動的に給水されるようになっており、これによって水槽41内には常に所定の水位で水が貯留されている。本実施形態においては、水源411として後述する冷却水源61が兼用されている。
【0069】
前記送風羽根44は、架台42から垂下された円筒状の風防441によって覆われている。また、架台42には、前記風防441の内側であって、筒体45とケーシング46との間の環状通気路450に対応した部分に上下に貫通した複数の通気孔422が穿設されている。また、前記駆動モータ452は、縦置きで筒体45内における架台42上に据え付けられている。また、ケーシング46内の上部には、筒体45の頂面を覆った状態の細かい網目のネット461が架設されているとともに、このネット461の上部には多孔質シートからなるフィルタ462が設けられている。
【0070】
一方、前記排気ダクト48は、その上流側がハウジング47の底板473を貫通され、上流端がケーシング46の上面開口を覆った状態で当該ケーシング46に固定され、これによって加湿器40で発生した気流およびレナード効果により生成された負帯電微細水滴は、ケーシング46の頂部と排気ダクト48ン0頂部との間に介設された連絡ダクト489およびが排気ダクト48を介して植物生理管理庫20の植物管理空間V内へ供給されるようになっている。
【0071】
そして、加湿器40と、排気ダクト48と、植物管理空間Vと、吸気ダクト49とによって植物管理空間V内の雰囲気を循環させるとともに、加湿器40で生成された負帯電微細水滴を植物管理空間V内に供給する本発明に係る循環路が形成されている。
【0072】
このように構成された加湿器40によれば、駆動モータ452の駆動による駆動軸の回転で架台42下の送風羽根44および架台42上の筒体45を軸心回りに一体回転させることにより、まず、風防441内がエジェクター効果により低圧になり、これによって吸引管43の外周面に水面から上方に向かう上昇気流が形成されるとともに、水槽41内の水が吸引管43を介して上方へ吸引され、送風羽根44の基端側に供給される。
【0073】
送風羽根44の基端側に供給された水は、回転している送風羽根44に誘導されて遠心力で風防441の内周面に向けて吹き飛ばされ、風防441との衝突で細粒子になる。この細粒子は、通気孔422を通って架台42上の環状通気路450へ導入され、ここで回転している筒体45の周面の螺旋フィン451およびケーシング46の内壁面に衝突して超微細粒子になる。この超微細粒子は、ケーシング46の頂部に架設されたネット461およびフィルタ462を通過することで、水のクラスターの破砕処理に起因したいわゆるレナード効果により負に帯電した負帯電微細水滴になる。
【0074】
そして、このような負帯電微細水滴が植物生理管理庫20の植物管理空間V内に供給されると、当該負帯電微細水滴は、その粒径が極めて小さいことにより、埃や細菌を保持することがないため、極めて清浄な状態になっていることから、単に水を噴霧した場合に比較し、植物Pへの雑菌の侵入をより効果的に防止することができるばかりか、水滴による葉の赤枯れを防止することが可能になる等、湿度による植物Pの生育環境を確保しつつり、植物Pの劣化を有効に回避することが可能になり、これによって植物管理空間V内を植物Pを適正に育成したり貯蔵したりするのに最適の生育空間にすることができる。
【0075】
因みに、自然現象である滝からの水の落下により形成される負帯電微細水滴の個数は、通常、6000個/cmといわれているが、本発明に係る加湿器40では、1cm当たり数万〜数十万個(本実施形態では略200000個/cm)である。
【0076】
前記加温装置50は、植物生理管理庫20の植物管理空間V内の生育温度を上昇させるときに使用されるものであり、図1および図3に示すように、ボイラー51によって生成された熱水または蒸気が流通される昇温用蛇行管52を備えている。この昇温用蛇行管52は、植物生理管理庫20の底板25上に植物保持台車30のキャスター35と干渉しない状態で配設されている。かかる昇温用蛇行管52にボイラー51から適正な熱水または蒸気が供給されることにより、植物管理空間V内の雰囲気は、対流伝熱によって昇温されるようになっている。
【0077】
前記冷却装置60は、植物生理管理庫20の植物管理空間V内の生育温度を下降させるときに使用されるものであり、図1および図3に示すように、通常の上水道や汲み上げた地下水を供給するように構築された地下水道等の冷却水源61からの冷却水が流通される冷却用蛇行管62を備えている。
【0078】
前記冷却用蛇行管62は、植物生理管理庫20の左右方向一対の側板242の内壁面に沿うように配設されている。植物管理空間V内は、これら左右一対の冷却用蛇行管62からの冷気の対流伝熱により冷却され得るようになっている。
【0079】
そして、ボイラー51からの昇温用蛇行管52への熱水あるいは蒸気の供給量および供給タイミングと、冷却水源61からの冷却用蛇行管62への冷却水の供給量および供給タイミングとを、植物管理空間V内の温度が目標温度になるように制御することにより、植物管理空間V内を、生育対象の植物Pにとって最適の温度環境にすることができる。
【0080】
前記光源70は、植物管理空間V内に装填された植物Pに光合成等を行わせるためのものである。本実施形態では光源70として商用電源71からの電力供給によって発光する複数本の蛍光灯72が採用されている。かかる蛍光灯72は、植物生理管理庫20の左右一対の側板242の外壁面に沿って配設されている。蛍光灯72からの光を植物管理空間V内へ透過させるべく、各側板242は、透明な硬質の合成樹脂材料または透明ガラスによって形成されている。
【0081】
このように構成された植物生理管理装置10によれば、接木や苗木等の予め生育対象として調製された植物Pを、植物生理管理庫20の外部で植物保持台車30の各棚板33上にマトリックス状に積み込み、多数の植物Pが積み込まれた植物保持台車30を開閉扉26の開放された入口から植物生理管理庫20内に挿入したのち開閉扉26を閉止して植物生理管理庫20の植物管理空間V内を略密閉状態にする。
【0082】
引き続き、当該植物Pの生育条件に合わせてボイラー51からの加温用熱源を昇温用蛇行管52に供給したり、冷却水源61からの冷却水を冷却用蛇行管62に供給したりして植物管理空間V内の温度を調節するとともに、加湿器40を駆動し、生成した負帯電微細水滴を気流に同伴させて植物管理空間V内に送り込む。そうすると、加湿器40で生成した負帯電微細水滴は、排気ダクト48を介して植物管理空間V内に供給され、これによって植物管理空間V内は植物Pの生育に適した湿度環境になる。
【0083】
この状態で植物保持台車30の棚板33上に整列された各植物Pには、蛍光灯72からの光が照射され、これによる光合成等で植物Pの生育が進行する。
【0084】
そして、植物管理空間V内の雰囲気は、当該植物管理空間Vと、吸気ダクト49、加湿器40のハウジング47および排気ダクト48おとによって形成された循環路を循環するため、外気を取り入れることによって当該外気に負帯電微細水滴を同伴させる場合に比較し、一旦生成されて植物管理空間V内に供給された負帯電微細水滴が外気に同伴して外部に運び出されてしまうような不都合が生じることはなく、少ないエネルギーで必要な負帯電微細粒子を確保することが可能になり、その分運転コストの低減化を達成することができる。
【0085】
しかも、植物管理空間V内には、負の電荷で帯電した負帯電微細水滴が供給されるため、通常の散水に比較し、水滴が植物Pに付着することによる葉の赤枯れや、水滴中の埃や雑菌が植物Pに移行する等の不都合が生じることはなく、しかも微細水滴が負に帯電していることの好影響が植物Pに及び、植物Pは、順調に生育する。
【0086】
図6は、植物生理管理装置10によって生育される植物Pのいくつかの例を示す斜視図であり、図6(A)は、接木の養生、図6(B)は、断根された苗木の発根処理、図6(C)は、茸の栽培、図6(D)は、青果物の貯蔵をそれぞれ行うべく調製された植物Pを示している。
【0087】
まず、養生の対象となる植物Pが、図6(A)に示すように、接木P1である場合、当該接木P1は、根付きの状態で当該根の部分が所定のカップ81内に挿入される。かかる接木P1はカップ8ごと植物保持台車30の棚板33に整列されて植物生理管理庫20内での生育に供される。カップ8内には、空気および水が含浸された複数個の多孔質粒状物82が装填され、これら複数個の多孔質粒状物82によって接木P1を養生するに適した培地が形成されている。このような接木P1の複数本が植物保持台車30の棚板33上に縦横に整列された状態で植物生理管理庫20内において養生処理に供される。
【0088】
また、生育の対象となる植物Pが、図6(B)に示すように、断根後の断根苗P2である場合、当該断根苗P2は、複数本が束ねられた状態で、水分を吸着した濾紙のような多孔質シート83によって巻き付けられる。かかる断根苗P2の束が植物保持台車30の棚板33上に並べられ、植物生理管理庫20内で発根処理に供される。
【0089】
また、栽培の対象となる植物Pが、図6(C)に示すように、例えばシメジのような茸P3である場合、当該茸P3は、複数本が所定の培地とともにコップのような背丈の高い栽培容器84に装填され、この状態で植物保持台車30の棚板33上に整列されて植物生理管理庫20内で栽培に供される。
【0090】
さらに、貯蔵の対象となる植物Pが、図6(D)に示すように、リンゴ等の青果物P4である場合、当該青果物P4の複数個が上面開口の木箱や段ボール箱等の収納容器85に装填され、所定数の収納容器85が植物保持台車30の棚板33上に並べられた状態で植物生理管理庫20内に貯蔵される。
【0091】
そして、植物Pの種類や生育の目的に応じて(すなわち、当該植物Pの生育が接木の養生であるのか、断根された苗木の発根処理であるのか、茸の栽培であるのか、あるいは青果物の貯蔵であるのか等)に応じて植物生理管理庫20の植物管理空間V内の温度条件や湿度条件、および光合成等のための光照射の条件(照度および照射時間等)が予め決められており、これらの条件が満たされるように植物管理空間V内の環境が設定される。
【0092】
なお、図6に図示はしなかったが通常の苗木の貯蔵においても本発明に係る植物生理管理装置10が有効に使用される。
【0093】
図7は、本発明に係る第2実施形態の植物生理管理装置10′を示す平面視の説明図である。なお、図7におけるXおよびYによる方向表示は、図1の場合と同様(Xは左右方向(−X:左方、+X:右方)、Yは前後方向(−Y:前方、+Y:後方))である。第2実施形態の植物生理管理装置10′は、図7に示すように、植物管理空間V内に挿入された植物保持台車30を植物管理空間V内で移動させながら植物保持台車30に保持された植物Pに対し生育処理を施すようになされている。
【0094】
第2実施形態の植物生理管理装置10′は、生育対象の植物Pが接木P1である場合の当該接木P1の養生に好適に適用されるように構成されている。このような目的で使用される植物生理管理装置10′においては、先の実施形態で採用された直方体状を呈する植物生理管理庫20に代えて、本実施形態では平面視で「コ」字状に形成された大型の植物生理管理庫20′が採用されている。
【0095】
かかる植物生理管理庫20′は、植物管理空間Vとして左側が前方から後方に向かって第1管理空間(第1管理室)V1および第2管理空間(第2管理室)V2の2空間に仕切られているとともに、右側が後方から前方に向かって第3管理空間(第3管理室)V3および第4管理空間(第4管理室)V4に仕切られている。また、植物生理管理庫20の後方には、左右方向へ延びた第2管理空間V2と第3管理空間V3とを結ぶ方向転換室V5が形成されている。
【0096】
そして、第1管理空間V1の前方壁には、開閉可能な入口扉261が設けられているとともに、第4管理空間V4の前方壁には、開閉可能な出口扉262が設けられている。また、第1および第2管理空間V1,V2間の境界位置、第2管理空間V2と方向転換室V5との間の境界位置、方向転換室V5と第3管理空間V3との間の境界位置、並びに第3および第4管理空間V3,V4間の境界位置には、各空間を開閉可能に仕切るための仕切り部材としての、例えば蛇腹式のアコーディオンカーテン263がそれぞれ設けられている。各アコーディオンカーテン263は、植物生理管理庫20′の適所にそれぞれ設けられた開閉駆動部としてのカーテン用モータ264の駆動で開閉するようになっている。
【0097】
なお、アコーディオンカーテン263は、カーテンレールに支持された張架方式が採用され、アコーディオンカーテン263の下端部と床面との間には、後述するチェーンコンベヤ(搬送機構)271を通すための隙間が形成されている。
【0098】
本実施形態では、各管理空間V1,V2,V3,V4は、2台の植物保持台車30が直列で収容され得るように搬送系が設定されている。各管理空間V1,V2,V3,V4の左右の壁面には当該左右の壁面の略全面が切り欠かれて形成された大きな開口が設けられ、これらの開口にはそれぞれ透明板244が嵌め込まれている。
【0099】
そして、各透明板244の外面側には、照明用の光源70に例えば商用電源71からの電力供給で発光する、各管理空間V1,V2,V3,V4当たり所定本数の蛍光灯72が設けられ、各蛍光灯72からの光は、前記各透明板244を透過して植物保持台車30に保持されている接木P1へ照射される。なお、本実施形態においては、各蛍光灯72と商用電源71との間には光量を調節する機能を備えた配電装置(照射量調整部)73が介設されている。この配電装置73による配電操作で各管理空間V1,V2,V3,V4における蛍光灯72の点灯本数を設定し、これによって各管理空間V1,V2,V3,V4の照度(Lx)を調節し得るようになっている。
【0100】
また、各管理空間V1,V2,V3,V4内の底板上には、その左右幅方向の中央位置に、植物保持台車30のキャスター35と干渉しない状態で前後方向に延びた状態の4系統の昇温用蛇行管52がそれぞれ敷設されている。各系統の昇温用蛇行管52の基端側には、ボイラー51から供給される昇温用流体の流量を調節する流量調節器53が設けられ、この流量調節器53による流量調節で各管理空間V1,V2,V3,V4内の昇温速度が調節される。
【0101】
また、各管理空間V1,V2,V3,V4には、各透明板244の内面に沿うように4系統の冷却用蛇行管62がそれぞれ敷設されている。各系統の冷却用蛇行管62の基端側には、冷却水源61から供給される冷却用流体の流量を調節する流量調節器63が設けられ、この流量調節器63による流量調節で各管理空間V1,V2,V3,V4内の冷却速度が調節される。
【0102】
そして、各管理空間V1,V2,V3,V4内の適所には、当該各管理空間V1,V2,V3,V4内の温度を検出する温度センサ86がそれぞれ設けられている。従って、各温度センサ86の検出結果に基づき各管理空間V1,V2,V3,V4の各昇温用蛇行管52に供給する昇温用流体の流量をそれぞれ調節するとともに、各冷却用蛇行管62に供給する冷却用流体の流量を調節することによって各管理空間V1,V2,V3,V4内の温度が予め設定された温度になるように制御することができる。
【0103】
さらに、各管理空間V1,V2,V3,V4の外側には、一方の透明板244の略中央部に対向した位置にハウジング47に内装された第1実施形態と同様の加湿器40が設けられ、この加湿器40によって生成された負帯電微細水滴が各管理空間V1,V2,V3,V4内に導入される。
【0104】
そして、各管理空間V1,V2,V3,V4内の適所には、当該各管理空間V1,V2,V3,V4内の湿度を検出する湿度センサ87がそれぞれ設けられている。従って、各湿度センサ87の検出結果に基づき各管理空間V1,V2,V3,V4内への負帯電微細水滴の供給を断続することにより、各管理空間V1,V2,V3,V4内の湿度が予め設定された湿度になるように制御することができる。
【0105】
なお、本実施形態においては、商用電源71からの電力が配電装置73を介して加湿器40内の駆動モータ452へ供給されるようになされており、この配電装置73で駆動モータ452への電力供給をオン・オフすることにより加湿器40の駆動を断続させることができる。
【0106】
そして、植物生理管理庫20′には、その内部で植物保持台車30を移動させるための移動装置27が設けられている。この移動装置27は、各管理空間V1,V2,V3,V4内に配設されたチェーンコンベヤ271と、このチェーンコンベヤ271によって第2管理空間V2から方向転換室V5へ運び込まれた植物保持台車30を、当該方向転換室V5内で第3管理空間V3に対向する位置にまで搬送するベルトコンベヤを駆動させるためのコンベヤベルト275とを備えている。
【0107】
前記チェーンコンベヤ271は、第1管理空間V1、第2管理空間V2および方向転換室V5の各左方位置における各床板上で前後方向に延びるように配設されたものと、方向転換室V5、第3管理空間V3および第4管理空間V4の右方位置における各床板上で前後方向に延びるように配設されたものとの2系列が設けられている。
【0108】
このようなチェーンコンベヤ271は、一方の端部と他方の端部とにそれぞれ設けられたスプロケット間に張設された状態でチェーン駆動モータ272の駆動で一対のスプロケット間を周回する。因みに、チェーンコンベヤ271は、アコーディオンカーテン263の下端縁部と床板との間の隙間を通して配設されているため、アコーディオンカーテン263と干渉することはない。
【0109】
一方、植物保持台車30の左右の側部には、チェーンコンベヤ271と対応した位置に連結器36がそれぞれ設けられ、植物保持台車30が第1管理空間V1内へ運び込まれたときに一対の連結器36の内の左側のものが左側のチェーンコンベヤ271に連結されるとともに、植物保持台車30がコンベヤベルト275から第3管理空間V3へ移されたときに右側の連結器36が右側のチェーンコンベヤ271と連結されるようになっている。そして、植物保持台車30が連結器36を介してチェーンコンベヤ271に連結された状態でチェーン駆動モータ272の駆動でチェーンコンベヤ271が周回することにより、植物保持台車30は植物生理管理庫20内で移動する。
【0110】
前記コンベヤベルト275は、方向転換室V5内でその左端部および右端部に配設されたローラ間に張設されている。各ローラは、方向転換室V5の床面より下方位置に配設され、これによってコンベヤベルト275の往きベルトは、床面と面一になるようになされている。かかるコンベヤベルト275は、ベルト駆動モータ276の駆動による一方のローラの駆動回転によって周回する。
【0111】
かかる移動装置27によれば、植物保持台車30がチェーンコンベヤ271の駆動で第2管理空間V2から方向転換室V5へ移されてコンベヤベルト275上に載置された時点でチェーン駆動モータ272の駆動が停止される。これと同時にベルト駆動モータ276の駆動でコンベヤベルト275が周回され、これによってコンベヤベルト275上に載置された植物保持台車30が右方へ向かって搬送される。
【0112】
そして、植物保持台車30が方向転換室V5内の右端部に到達して右側の連結器36が右側のチェーンコンベヤ271に連結された状態でベルト駆動モータ276が停止される。引き続き右側のチェーンコンベヤ271のチェーン駆動モータ272が駆動される。これによってコンベヤベルト275上の植物保持台車30は、今度は右側のチェーンコンベヤ271の周回により方向転換室V5から第3管理空間V3へ移される。
【0113】
このような第2実施形態の植物生理管理装置10′において、接木P1が搭載された植物保持台車30は、まず2台が第1管理空間V1に挿入され、ここでの第1次の温度および湿度条件並びに照度の条件(本実施形態では、温度25℃、相対湿度95%、照度については最初の6時間は0Lx、その後2000Lx)で1日目の24時間の第1工程養生処理が施される。
【0114】
ついで、1日目が経過すると、第1管理空間V1で接木P1の初期養生が完了した2台の植物保持台車30は、アコーディオンカーテン263が開かれた状態でチェーンコンベヤ271の駆動によりで第2管理空間V2へ移動され、ここでアコーディオンカーテン263が閉じられた後(因みに以後の説明ではアコーディオンカーテン263の開閉の記述は省略する)、接木P1に対し第2次の温度および湿度条件並びに照度の条件(本実施形態では、温度25℃、相対湿度90%、照度については3000Lx)で2日目の24時間の第2工程養生処理が施される。
【0115】
このとき、空になった第1管理空間V1には、複数の新たな接木P1の搭載された2台の植物保持台車30が挿入され、これらの接木P1に対して1日目の第1工程養生処理が第2管理空間V2での第2工程養生処理と同時進行される。
【0116】
ついで、2日目が経過すると、第2管理空間V2内の2台の植物保持台車30は、チェーンコンベヤ271およびコンベヤベルト275の駆動で方向転換室V5を介して第3管理空間V3へ搬入され、ここで接木P1に対し第3次の温度および湿度条件並びに照度の条件(本実施形態では、温度23℃、相対湿度80%、照度については3000Lx)で3日目の24時間の第3工程養生処理が施される。
【0117】
このとき、空になった第2管理空間V2には、第1管理空間V1内の2台の植物保持台車30が移されるとともに、空になった第1管理空間V1には、新たな接木P1の搭載された2台の植物保持台車30が挿入され、第1管理空間V1では第1工程養生処理が、第2管理空間V2では第2工程養生処理が、第3管理空間V3での第3工程養生処理と同時進行される。
【0118】
ついで、3日目が経過すると、第3管理空間V3内の2台の植物保持台車30は、チェーンコンベヤ271の駆動で方向転換室V5を介して第4管理空間V4へ搬入され、ここで接木P1に対し第4次の温度および湿度条件並びに照度の条件(本実施形態では、温度21℃、相対湿度60%、照度については5000Lx)で3日目の24時間の第3工程養生処理が施される。
【0119】
このとき、空になった第3管理空間V3には、第2管理空間V2内の2台の植物保持台車30が第3管理空間V3へ移されるとともに、その後、順次空になった第2管理空間V2には、第1管理空間V1内の2台の植物保持台車30が、空になった第1管理空間V1には、新たな接木P1の搭載された2台の植物保持台車30が順次搬入され、第1管理空間V1では第1期養生処理が、第2管理空間V2では第2工程養生処理が、第3管理空間V3では第3工程養生処理が、第4管理空間V4での第4次条件における第4工程養生処理と同時進行される。
【0120】
そして、4日目が経過すると、第4管理空間V4内の植物保持台車30は、第4管理空間V4から引き出される。このとき、空になった第4管理空間V4には第3管理空間V3内の2台の植物保持台車30が移され、同様に第3管理空間V3には、第2管理空間V2内の2台の植物保持台車30が、第2管理空間V2には、第1管理空間V1内の2台の植物保持台車30が、第1管理空間V1には、新たな接木P1の搭載された2台の植物保持台車30が順次搬入され、これによって全ての管理空間V1,V2,V3,V4に接木P1が装填された状態になる。
【0121】
第4管理空間V4から引き出された植物保持台車30に搭載されている複数本の接木P1は、加湿器40による負帯電微細水滴の作用を受けた4日間に亘る養生処理により穂木が台木に極めて高い活着率で活着した状態になっている。活着した接木P1は、商品として出荷される。
【0122】
以後、毎日、第4管理空間V4からの植物保持台車30の搬出、空いた空間への前空間からの植物保持台車30の搬入および第1管理空間V1への新しい接木P1の搬入が繰り返されることにより、通常ならば4日おきに養生処理が施された接木P1が得られるのに対し、第2実施形態に係る植物生理管理装置10′によれば、毎日、4日間の養生処理の施された植物Pを得ることができ、接木P1の養生の生産性を格段に向上させることができる。
【0123】
このように、接木P1の養生を目的として当該接木P1の生体の生育管理を行うに当たっては、第2実施形態の植物生理管理装置10′だけではなく、第1実施形態の植物生理管理装置10も含めて、接木P1を植物管理空間Vに装填してから養生処理が完了するまでの期間において温度および湿度についてはその値を漸減させる一方、照度についてはその値を漸増させることが好ましい。
【0124】
図8は、本発明に係る第3実施形態の植物生理管理装置を示す平面視の説明図である。なお、図8におけるXおよびYによる方向表示は、図1の場合と同様(Xは左右方向(−X:左方、+X:右方)、Yは前後方向(−Y:前方、+Y:後方))である。また、図8においては、実線矢印によって加湿器40′により形成された負帯電微細水滴の流れを示し、点線矢印によって温調空気の流れを示している。
【0125】
第3実施形態の植物生理管理装置10″は、植物生理管理庫20と、植物保持台車30と、加湿器40と、加温装置50と、冷却装置60と、光源70とを備えている点については第1実施形態の植物生理管理装置10と同様であるが、以下の点で第1実施形態の植物生理管理装置10と相違している。
【0126】
まず、第3実施形態においては、植物生理管理庫20が所定の隙間を介して全体的に外容器90によって覆われ、これによって植物生理管理装置10″が植物生理管理庫20と外容器90との二重構造とされている。植物生理管理庫20の外壁面と外容器90の内壁面との間には植物生理管理庫20を覆う隙間が形成され、この隙間によって植物生理管理庫20内の温度および湿度を調節するための気流を通す温調空気流通路91が形成されている。
【0127】
因みに、図8において、植物保持台車30上に植物Pとして花や接木、さらには青果物や茸等を示しているが、これは、植物保持台車30に保持される植物Pの種類としてどのようなものがあるかを例示するべくビジュアルに示しただけであり、実際にはこれらの種類の植物Pの内のいずれかが植物保持台車30に保持される。
【0128】
前記植物生理管理庫20内には、第1実施形態の昇温用蛇行管52および冷却用蛇行管62に対応するものが設けられていない。従って、植物生理管理庫20は、その内側で温度調節されることはなく、主に植物生理管理庫20内の湿度調節を目的として外側から温度調節されるようになっている。
【0129】
そして、植物生理管理庫20内の温度を外側から調節するべく、前記外容器90の壁面の適所には、一方の開口が当該壁面の右方位置に穿設された開口に臨むとともに、他方の開口が同壁面の左方位置に穿設された開口に臨むように外容器90に取り付けられた温調ダクト92が設けられている。
【0130】
かかる温調ダクト92には、先の昇温用蛇行管52に代えて昇温用コイル管54が加温装置50の構成要素として内装されているとともに、先の冷却用蛇行管62に代えて冷却用コイル管64が冷却装置60の構成要素として内装されている。さらに、温調ダクト92には、適所(本実施形態では昇温用コイル管54の右側)に当該温調ダクト92内の空気を、前記温調空気流通路91を介して循環させるための循環ファン装置93が内装されている。
【0131】
従って、循環ファン装置93を駆動させることにより、温調ダクト92内で昇温用コイル管54および冷却用コイル管64内の所定の熱媒体との熱交換によって所定の温度に温度調節された空気は、図9に点線矢印で示すように、温調ダクト92の左側の開口から温調空気流通路91内に送り込まれ、これによって植物生理管理庫20内がその壁面を介して温度調節されることになる。植物生理管理庫20内の温度調節および湿度調節に寄与した温調空気流通路91内の空気は、温調ダクト92の右側の開口から当該温調ダクト92内に戻され、以後、温調ダクト92と温調空気流通路91との間で循環する。
【0132】
すなわち、第3実施形態においては、植物生理管理庫20内は、直接温度調節されるのではなく、その外側から植物生理管理庫20の壁面を介して温度調節され、ひいては植物生理管理庫20内の相対湿度が調節されるのである。
【0133】
また、第3実施形態においては、加湿器40に空気吹き込み管413が接続されている。この空気吹き込み管413は、コンプレッサ等の図略のエア源からの空気を、加湿器40内に貯留されている水の中に吹き込み、バブリング状態で加湿器40内へ供給するためのものであり、これによって植物生理管理庫20内の植物Pに対して呼吸作用のための酸素が補給される。
【0134】
第3実施形態の植物生理管理装置10″におけるその他の構成は、詳細な設計事項で第1実施形態の植物生理管理装置10と異なっている部分があるが、基本的に第1実施形態の植物生理管理装置10と同様である。
【0135】
第3実施形態の植物生理管理装置10″によれば、温調ダクト92および温調空気流通路91を循環する、昇温用コイル管54および冷却用コイル管64により温度調節された空気が植物生理管理庫20の壁面と熱交換した上で植物生理管理庫20内の温度が調節されることになるため、植物生理管理庫20内の温度が調節されることに先立ってまず植物生理管理庫20の壁面が温度調節されることになる。
【0136】
ところで、通常、植物生理管理庫20内の相対湿度は、加湿器40から気流に同伴して負帯電微細水滴が送り込まれ続けることから非常に高い値になっている。そこで、植物生理管理庫20内の相対湿度を所望の値にまで低下させるべく、第3実施形態の植物生理管理装置10″においては、温調空気流通路91内を流通する空気の温度を植物生理管理庫20内の温度より低下させるようにしている。こうすることで、まず、植物生理管理庫20の内壁面の温度が低下して植物生理管理庫20の内壁面に結露が生じるため、その分植物生理管理庫20内の揮散している水分量が低下して相対湿度が迅速に低下する。
【0137】
これとは逆に植物生理管理庫20内の相対湿度を上昇させるときには、温調ダクト92から温調空気流通路91へ供給される空気の温度が植物生理管理庫20内の温度より高く設定される。こうすることで、植物生理管理庫20の内壁面に結露していた水滴が揮散し、これによって植物生理管理庫20内の相対湿度が迅速に高くなる。
【0138】
このように、第3実施形態の植物生理管理装置10″においては、植物生理管理庫20内の相対湿度を調節するべく、非常に広い面積を備えた植物生理管理庫20の壁面の温度を調節することによる当該壁面での結露を利用するようにしているため、植物生理管理庫20内の空気の温度を全体的に昇降させることによって植物生理管理庫20内の相対湿度を調節する場合に比較し、格段に効率的に、かつ、迅速に植物生理管理庫20内の湿度を調節することができる。
【0139】
以上詳述したように、本発明に係る第1〜第3実施形態の植物生理管理装置10,10′,10″は、対象となる植物Pの生理的な特質に合わせてその植物Pを生育しながら管理する植物Pの生理管理(対象となる植物Pの呼吸や同化作用等の生理的な特質を考慮して養生、発根、育成、貯蔵等(以下これらを総称して生育という)を目的として当該植物Pを適正に管理すること)を行うものであり、植物Pが略密閉状態で装填される植物生理管理庫20,20′と、負に帯電した微細な負帯電微細水滴を気流に同伴させて植物生理管理庫20,20′内に供給するとともに、植物生理管理庫20,20′内の雰囲気を吸引する加湿器40と、植物生理管理庫20,20′内に装填された植物に光を照射する光源70と備えている。
【0140】
植物生理管理装置10,10′,10″をこのように構成することにより、略密閉状態の植物生理管理庫20,20′内に装填された植物Pは、加湿器40から供給された負帯電微細水滴の供給を受けつつ当該植物Pの生理的な特質に合わせて生育が管理されるため、略密閉状態の空間に装填された植物Pは、開放状態の空間で微細水滴の供給を受ける場合に比較し、無駄なくより効率的に、かつ、均一に負帯電微細水滴が供給され、これによって植物Pの生育効率を向上させることができる。
【0141】
また、植物Pに供給される水は、微細な水滴であるため、当該微細水滴中に埃や雑菌が存在せず、従って、従来の単に植物Pに散水した場合に比較し、植物Pへの埃や雑菌の付着を有効に防止することができ、植物Pの生育状態を常に良好に維持することができる。
【0142】
さらに、植物Pが負に帯電した負帯電微細水滴の供給を受けるため、当該水滴の負の帯電によって生育上で好影響を受け、これによって植物Pを適正、かつ、効率的に生育させることができる。
【0143】
そして、特に、光源70が設けられていることにより、対象植物Pの生育特性を考慮した光照射を行うことが可能になり、光源70が設けられていない場合に比較し、より効果的な生育管理が実行される。また、植物生理管理庫20,20′が屋内に据え付けられていて植物生理管理庫20,20′内に日光が射し込まないような場合、光源70からの光照射で植物生理管理庫20,20′内の植物Pに光が当てられ、これによって植物生理管理庫20,20′内の植物の光合成等に寄与することができる。
【0144】
加えて、加湿器40は、植物生理管理庫20,20′内の雰囲気を循環させ、この循環途中で負帯電微細水滴を形成するようにしているため、加湿器40で生成されて気流に同伴する負帯電微細水滴が植物生理管理庫20,20′内から外部に漏洩することを確実に防止することができ、生成した負帯電微細水滴を無駄なく有効に使用することができる。
【0145】
そして、植物生理管理庫20,20′には、当該植物生理管理庫20,20′内を加温する加温装置50、植物生理管理庫20,20′内を冷却する冷却装置60、および植物生理管理庫20,20′内に装填された植物Pに光を照射する光源70が設けられているため、植物生理管理庫20,20′が据え付けられる環境や状況に応じて当該植物生理管理庫20,20′内の温度を制御することが可能になるとともに、光源70からの光照射で植物Pに光合成等を行わせることができ、植物生理管理庫20,20′をあらゆる設置環境に対応し得るものにすることが可能になり、植物生理管理庫20,20′の汎用性を向上させることができる。
【0146】
また、複数の植物Pを保持した状態で植物生理管理庫20,20′内に挿入される植物保持台車30が採用されているため、植物生理管理庫20,20′における植物Pの生育処理と、植物Pの植物保持台車30への搭載処理とを並列して行うことが可能になるため、植物Pを植物生理管理庫20,20′に直接装填してから植物生理管理庫20,20′による生育処理をおこなう直列的な処理に比較して植物Pの生育処理の処理効率を向上させることができる。
【0147】
そして、特に第2実施形態に係る植物生理管理装置10′においては、植物生理管理庫20′が複数に区分され、かつ、それぞれが単位植物生理管理庫としての機能を有する第1〜第4管理空間V1,V2,V3,V4が直列に配設され、各管理空間V1,V2,V3,V4を縦貫して植物保持台車30を移動させる搬送機構としてのチェーンコンベヤ271が備えられている。
【0148】
第2実施形態に係る植物生理管理装置10′の構成によれば、チェーンコンベヤ271の所定時間毎の間欠的な駆動で植物保持台車30を1台ずつ最上流側の植物生理管理庫へ順番に搬入していくことにより、植物生理管理庫20′内に搬入された植物保持台車30は、第1管理空間V1から所定の時間間隔で順次下流側の空間へ搬送され、最下流側の第4管理空間V4から外部に搬出される。
【0149】
従って、直列に配設された複数の植物生理管理庫の各生育環境を、生育対象植物Pの経時的な生育過程に対応したものに設定しておくことにより、対象植物Pの搭載された植物保持台車30を所定の時間間隔で最上流側の植物生理管理庫へ搬入することで、最下流があの植物生理管理庫から目的の生育処理済みの植物Pの搭載された植物保持台車30が搬出され、これによって植物生育の処理効率を向上させることができる。
【0150】
このような植物生理管理装置10,10′,10″は、具体的には、穂木が台木に挿し木されることにより形成された接木P1の養生、断根された断根苗P2の発根、茸P3の栽培並びに青果物P4(苗木を含む)貯蔵のいずれかを対象として好適に適用される。
【0151】
そして、植物生理管理装置10,10′,10″が、接木P1の養生処理に適用された場合には、当該接木P1の活着率を向上させることができ、植物生理管理装置10,10′,10″が断根された断根苗P2の発根に適用された場合には、当該断根苗の発根率を向上させることができ、植物生理管理装置10,10′,10″が茸P3の栽培に適用された場合には、茸P3の生育が極めて順調に行われて収穫期間の短縮に寄与することができ、さらに、植物生理管理装置10,10′,10″が青果物P4の貯蔵に適用された場合には、貯蔵中の青果物P4の枯朽を有効に防止することができる。
【0152】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下の内容をも包含するものである。
【0153】
(1)上記の実施形態においては、植物生理管理装置10,10′,10″に加温装置50および冷却装置60が採用されているが、本発明は、植物生理管理装置10,10′,10″に加温装置50および冷却装置60を設けることに限定されるものではなく、少なくとも加湿器40および光源70が設けられていればよい。
【0154】
(2)上記の第1実施形態の植物生理管理装置10は、所定の敷地あるいは建造物内に据え付けられるものであるが、本発明は、植物生理管理装置10を所定の定地に据え付けることに限定されるものではなく、例えば、トラックやトレーラによって輸送されるコンテナを、本発明に係る植物生理管理装置の機能を備えたものに改造したり、既存の建造物(例えば、使用しなくなった倉庫や体育館、さらには廃校になった学校の校舎など)の内部を植物生理管理装置としての機能を備えたものに改造したりしてもよい。
【0155】
特に、植物生理管理装置をコンテナ方式にすれば、例えば、原産地で調製直後の苗木をコンテナ方式の植物生理管理装置に積み込み、当該コンテナを消費地にまで輸送する間に苗木を商品として出荷し得る程度にまで生育させることが可能になり、原産地で生育させた後に消費地まで輸送するのに比べて効率的なデリバリーが実現する。
【0156】
(3)上記の実施形態においては、ボイラー51で得られる昇温用流体の温度、および冷却水源61の冷却用流体の温度を所定の温度に設定し、これら昇温用流体および冷却用流体の流量を調節することによって植物生理管理庫20,20′内の温度を制御するようにしているが、こうする代わりにボイラー51および冷却水源61から供給される加温用流体および冷却用流体の流量は一定とした上で、加温用流体および冷却用流体の温度を制御することにより植物生理管理庫20,20′内の温度を調節するようにしてもよい。
【0157】
(4)上記の第2実施形態に係る植物生理管理装置10′においては、植物生理管理庫20′が平面視で「コ」字状に形成されているが、本発明は、植物生理管理庫20′が「コ」字状であることに限定されるものではなく、真っ直ぐに直線状に形成してもよい。こうすることで、方向転換室V5を設ける必要がなくなり、その分植物生理管理庫20′のコンパクト化に貢献することができる。
【0158】
また、上記の第2実施形態においては、植物生理管理庫20′が第1〜第4管理空間(室)V1,V2,V3,V4に区分されているが、本発明は、植物生理管理庫20′が第1〜第4管理空間(室)V1,V2,V3,V4に区分されることに限定されるものではなく、生育対象となる植物Pの種類や目的に応じて管理空間Vを所定の室数、例えば3室以下にしてもよいし、5室以上にしてもよい。
【0159】
(5)上記の実施形態においては、植物生理管理庫20,20′内に加温装置50、冷却装置60が設けられているとともに、植物生理管理庫20,20′外に光源70が設けられているが、本発明は、植物生理管理庫20,20′に加温装置50、冷却装置60および光源70の全てを設けることに限定されるものではなく、植物生理管理庫20,20′が設けられる環境や状況に応じて加温装置50,冷却装置60および光源70の内のいずれかを省略したり、これらの全てを省略したりすることができる。
【0160】
例えば、ガラス張りの温室や、ビニールハウスを植物生理管理庫20,20′として使用する場合であって、実際の昼夜のサイクルで植物Pに生理管理処理を施す場合には、加温装置50、冷却装置60および光源70を設ける必要はない。
【0161】
これに対し、植物生理管理庫20,20′が屋内に据え付けられるような場合には、生育対象の植物Pに光合成等を行わせるべく、少なくとも光源70は必要になる。
【0162】
また、植物生理管理庫20,20′が温暖地に設けられ、しかも夏場に植物Pの植物生理管理庫20,20′による生育管理が行われるような場合には、加温装置50は不要になるし、植物生理管理庫20,20′が寒冷地に設けられ、かつ、当該植物生理管理庫20,20′が冬場に植物Pの植物生理管理庫20,20′による生育管理が行われるような場合には冷却装置60は不要になる。
【0163】
(6)上記の実施形態においては、光源70として蛍光灯72が採用されているが、本発明は、光源70が蛍光灯72であることに限定されるものではなく、白熱電球、水銀灯、ハロゲンランプあるいはLED(light emitting diode)等であってもよい。
【0164】
(7)上記の実施形態においては、加湿器40における水の微細水滴化処理において水のクラスターの分断が行われることに起因した、いわゆるレナード効果によって当該微細水滴に負の電荷を付与するようになされているが、これに代えて、あるいはこれに加えて微細水滴を含む気流にリング状に形成されたいわゆるリング電極の輪の中を潜らせ、これによって微細水滴に負の電荷を付与するようにしてもよい。
【0165】
(8)上記の第2実施形態において採用された各管理空間V1,V2,V3,V4内の温度、湿度および照度は、接木P1の養生を目的としたものである。従って、植物Pの種類や生体の生理管理の目的に応じて適宜変更される。
【0166】
(9)上記の第3実施形態において、植物生理管理庫20の内壁面に形成された結露を樋等によって集め、植物Pの根の部分に供給するようにしてもよい。こうすることによって、植物Pの根の部分の環境が水不足になることを解消することができる。
【0167】
(10)上記の第3実施形態においては、植物生理管理庫20内の雰囲気温度の調節を、当該植物生理管理庫20の外壁面を、加温装置50および冷却装置60のいずれか一方または双方により温度調節された気流を前記外壁面に供給することにより行っているが、こうする代わりに通電発熱体を前記外壁面に当接させたり、冷媒が流通する配管を前記外壁面に当接させたりして植物生理管理庫20の外壁面を直接加熱したり冷却したりすることで植物生理管理庫20内の雰囲気温度を調節してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明に係る第1実施形態の植物生理管理装置を示す一部切欠き斜視図である。
【図2】植物保持台車の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図1に示す植物生理管理装置のIII−III線断面図である。
【図4】加湿器の一実施形態を示す図である。
【図5】図4に示す加湿器のV−V線断面図である。
【図6】植物生理管理装置によって生育される植物のいくつかの例を示す斜視図であり、図6(A)は、接木の養生、図6(B)は、断根された苗木の発根処理、図6(C)は、茸の栽培、図6(D)は、青果物の貯蔵をそれぞれ行うべく調製された植物を示している。
【図7】本発明に係る第2実施形態の植物生理管理装置を示す平面視の説明図である。
【図8】本発明に係る第3実施形態の植物生理管理装置を示す平面視の説明図である。
【符号の説明】
【0169】
10 植物生理管理装置 20 植物生理管理庫
21 基礎枠体 22 支柱
23 梁材 24 外装板
241 出入口 242 側板
243 天板 244 透明板
25 底板 251 案内板
26 開閉扉 261 入口扉
262 出口扉 263 アコーディオンカーテン
264 カーテン用モータ 27 移動装置
271 チェーンコンベヤ(搬送機構)
272 チェーン駆動モータ 275 コンベヤベルト
276 ベルト駆動モータ 30 植物保持台車(植物保持台)
31 直方体状枠体 311 角材
32 支柱 33 棚板
34 ミラープレート 341 鏡面
35 キャスター 36 連結器
40 加湿器 41 水槽
411 水源 412 給水管
42 架台 422 通気孔
43 吸引管 44 送風羽根
441 風防 45 筒体
450 環状通気路 451 螺旋フィン
452 駆動モータ 46 ケーシング
461 ネット 462 フィルタ
47 ハウジング 471 メンテナンス開口
472 メンテナンスドアー 473 底板
48 排気ダクト 489 連絡ダクト
49 吸気ダクト 50 加温装置(熱源)
51 ボイラー 52 昇温用蛇行管
53 流量調節器 60 冷却装置(熱源)
61 冷却水源 62 冷却用蛇行管
63 流量調節器 70 光源
71 商用電源 72 蛍光灯
73 配電装置(照射量調整部)
81 カップ 82 多孔質粒状物
83 多孔質シート 84 栽培容器
85 収納容器 86 温度センサ
87 湿度センサ P 植物
P1 接木 P2 断根苗
P3 茸 P4 青果物
V 植物管理空間
V1 第1管理空間(第1管理室)
V2 第2管理空間(第2管理室)
V3 第3管理空間(第3管理室)
V4 第4管理空間(第4管理室)
V5 方向転換室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる植物の生体を生理的に管理する植物生理管理装置であって、
前記植物が略密閉状態で装填される植物生理管理庫と、
負に帯電した微細な水滴を気流に同伴させて前記植物生理管理庫内に供給する加湿器と、
前記植物生理管理庫内に装填された植物に光を照射する光源とが備えられていることを特徴とする植物生理管理装置。
【請求項2】
前記加湿器は、植物生理管理庫内の雰囲気を吸引するものであることを特徴とする請求項1記載の植物生理管理装置。
【請求項3】
前記植物生理管理庫内に熱媒体を介して熱を供給する熱源が備えられていることを特徴とする請求項1または2記載の植物生理管理装置。
【請求項4】
前記熱源は、前記植物生理管理庫内を加温する加温装置および前記植物生理管理庫内を冷却する冷却装置の少なくとも1つであることを特徴とする請求項3記載の植物生理管理装置。
【請求項5】
前記光源による植物への照射量を調整する照射量調整部を有し、
前記植物の生理管理は、穂木が台木に挿し木されることにより形成された接木の養生であり、
前記照射量調整部は、経時方向に照射量を変更させるものであり、
少なくとも養生開始からの所要時間は消灯状態とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の植物生理管理装置。
【請求項6】
前記植物を保持した状態で前記植物生理管理庫内に挿入される植物保持台が備えられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の植物生理管理装置。
【請求項7】
前記植物生理管理庫は、複数に仕切られた管理室を有し、前記植物保持台を予め定めた順番で搬送する搬送機構が備えられていることを特徴とする請求項6記載の植物生理管理装置。
【請求項8】
前記植物生理管理庫を所定の隙間を介して全体的に覆う外容器が設けられ、前記熱源として前記隙間内の空気を加温する加温装置と、同冷却する冷却装置とが備えられていることを特徴とする請求項3記載の植物生理管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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