説明

植生マット、及びその製造方法

【課題】製造工程においてゴミが全く発生せず、保水性や保温性にも優れ、しかも十分な流亡防止を図ることのできる植生シート及びその製造方法を、簡単な構造によって提供すること。
【解決手段】ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したマット基材11と、このマット基材11に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込み14を入れることにより形成されて、互いに連続して切れ込み端面が内側壁面11bとなる基材帯部11aと、各切れ込み14を開くことにより形成した多数の開口12と、マット基材11の表面または裏面に一体化した保形網15と、マット基材11の裏面側に一体化した植生帯13とを備えたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防や法面等における裸地の植生を行うために使用するマット、及びその製造方法に関し、特に、保温機能及び流亡防止機能を高めた植生マット、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
補修後の堤防、新規造成地の法面、あるいは道路の切り通し箇所における斜面等の裸地では、例えば特許文献1や2に示されているように、その表面に「植生」を行うことによって保護することが種々なされてきている。「植生」は、コンクリートやコンクリートブロックで法面等の表面の養生を行うのとは異なって、生きた植物を利用するものであるから、周囲の景観を維持し、保水効果も高く、環境に優しい工法として近年では多用されてきているものである。
【0003】
特許文献1には、「硬質土壌や岩盤地等の法面にもなじみやすく、かつ種子が根を張りやすい植生用マットを提供する」ことを目的として開発された「植生用マット」が記載されており、この植生用マットは、図9にも示すように、「植物種子、土壌改良材、有機質肥料、保水材等を混合して形成された植生基材4の下面に、相互に所定間隔をおいて形成された穿孔またはスリット等の貫通部2,…を有する肥料入りのジュート繊維フェルト1を設けると共に、これらの上下両面を腐食性の布または紙3,5で被覆縫合して一体的に形成している」といった構成を有しているものである。
【0004】
また、特許文献2に記載された「金網付き植生ネット」は、「積雪地帯においては、通常の植生ネットでは、雪の重みや、崩落(雪崩)等で切断されてしまうことがあり、充分に法面を保護することができない場合があった。また、合成繊維材でネットを形成した場合、腐食することがなく、あとに残るため公害問題が発生する」ことに着目して、「積雪地帯において雪の重みに耐え、かつ、公害問題を発生させないようにした植生ネットを提供すること」を目的としてなされたもので、図10に示すように、例えば「粗目のヤシネットの上片面に金網を装着し、下片面に植生マットを装着し、これら金網,ヤシネット,植生マットを一体的に適宜の目合いに縫合してあり、前記金網は、0.5〜3.0mm径の線材を使用し、30〜50mmの目合いを有し、また、前記ヤシネットが1〜10mm径のヤシ繊維の撚り紐を10×10cm当たり5〜15本になるように編織されてなり、さらに、前記植生マットは、腐食性ネットの片面に薄綿を接着したものに種子、肥料を接着してなることを特徴とする金網付き植生ネット」(請求項1)という構成を有したものである。
【特許文献1】特開平8−338025号公報、要約、代表図
【特許文献2】特許第3436662号掲載公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2に記載された「植生用マット」あるいは「植生ネット」では、
(イ)硬質土壌や岩盤地等の法面にもなじみやすく、かつ種子が根を張りやすい植生用マットを提供する(特許文献1)
(ロ)雪の重みや、崩落(雪崩)等で切断されてしまうことがないようにして、充分に法面を保護すること(特許文献2)
(ハ)合成繊維材でネットを形成した場合の公害問題発生を防止すること(特許文献2)
について考慮しているものであり、そのための構成を採用することによりそれぞれ目的としていることを達成していると考えられるが、次のような点に難があると考えられる。
【0006】
つまり、特許文献1では、図9に示したように、「植物種子、土壌改良材、有機質肥料、保水材等を混合して形成された植生基材4の下面に、相互に所定間隔をおいて形成された穿孔またはスリット等の貫通部2,…を有する肥料入りのジュート繊維フェルト1を設ける」ものであるため、植生基材4中の植物種子が発芽して根を伸ばそうとしても、この「ジュート繊維フェルト1」に邪魔される確率が高く、仮に「穿孔またはスリット等の貫通部2」が存在したとしても、生育が困難になるのではないかと考えられる。
【0007】
また、この特許文献1では、図9に示したように、「ジュート繊維フェルト1」に「穿孔またはスリット等の貫通部2」を形成しなければならないが、この「貫通部2」は常に開いていないと意味がないため「パンチング加工」あるいは「打ち抜き加工」を施さなければならない。つまり、「パンチング加工」あるいは「打ち抜き加工」を施した際には、「貫通部2」分の大きさのゴミが「ジュート繊維フェルト1」から発生するため、処理を余儀なくされることになる。
【0008】
一方、特許文献2の植生ネットでは、「ヤシネットが1〜10mm径のヤシ繊維の撚り紐を10×10cm当たり5〜15本になるように編織」されてなるものであるから、「植生基材6」中の植物種子が発芽・生育するための水分の保水性と、保温性とが悪いと考えられる。従って、この特許文献2の植生ネットでは、「植生基材6」中に大量の保水材を添加しておかなければならないし、保温性を確保するための「水解性の紙布片3あるいは4」を必要としていると考えられる。
【0009】
そこで、本発明者等は、この種の植生シートについて、ジュート等の自然繊維を使用したマット基材を使用しながらも、開口(貫通孔)を形成してもゴミが発生せず、保水性や保温性にも優れ、しかも十分な流亡防止を図ることのできるものとするにはどうしたらよいか、について種々検討を重ねてきた結果、本発明を完成したのである。
【0010】
すなわち、本発明の目的とするところは、その製造工程においてゴミが全く発生せず、保水性や保温性にも優れ、しかも十分な流亡防止を図ることのできる植生シート及びその製造方法を、簡単な構造によって提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、まず、請求項1に係る発明の採った手段は、後述する最良形態の説明中で使用する符号を付して説明すると、
「法面20の設置面21上に設置されて、当該法面20の植生を行う植生マット10であって、
ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したマット基材11と、このマット基材11に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込み14を入れることにより形成されて、互いに連続して切れ込み端面が内側壁面11bとなる基材帯部11aと、各切れ込み14を開くことにより形成した多数の開口12と、マット基材11の表面または裏面に一体化した保形網15と、マット基材11の裏面側に一体化した植生帯13とを備えたことを特徴とする植生マット10」
である。
【0012】
すなわち、この請求項1に係る植生マット10は、図1〜図6に示すように、ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したマット基材11と、このマット基材11に形成されて、互いに連続して端面が内側壁面11bとなる基材帯部11aと、マット基材11に形成された多数の開口12と、マット基材11の表面または裏面に一体化した保形網15と、マット基材11の裏面側に一体化した植生帯13とを備えたものである。
【0013】
ここで、この植生マット10を構成しているマット基材11がジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって形成したものである必要があるが、その第1の理由は、この種の植生マット10は、一旦法面20の設置面21上に設置した後はそのまま放置しておくものであり、そのことによってこのマット基材11が自然界で自然に分解される必要があるからである。その第2の理由は、このマット基材11が分解されたものが、植生植物の肥料にもする必要があるからである。
【0014】
また、この植生マット10を構成しているマット基材11の厚さが3mm〜10cmであることが必要であるが、その第1の理由は、このマット基材11によって、保温及び保水機能を十分発揮させる必要があるからであり、第2の理由は、開口12内あるいはこれに向けて流れたきた土砂30を内側側面11bで止めてその流亡防止を図るためである。その意味では、このマット基材11の厚さが3mmより小さいと、十分な保温及び保水機能を発揮する植生マット10とすることができないからであり、逆に、このマット基材11の厚さが10cmより大きいと、植生マット10としての加工が行いにくいだけでなく、保水機能について厚くした程の効果が得られないのである。
【0015】
さらに、この植生マット10は、上述したマット基材11に、特に図2の(b)に示すように、基材帯部11aを連続状態となるように多数形成したことが必要である。これらの基材帯部11aが連続していることにより、後述する植生帯13が存在していたり、法面20の表面が凸凹であったとしても、後述する開口12の存在とも相まって、設置面21上に密着状態で設置される、つまり所謂「不陸(浮き上がり)」状態が回避されるからである。換言すれば、各基材帯部11aは、文字通り帯状物となっていることから十分な可撓性を有したものとなっているため、法面20上の凸凹に応じて容易に変形するとともに、これらの基材帯部11a間の開口12内によっても凸凹が吸収されるのである。
【0016】
以上のように、この植生マット10がその基材帯部11aの存在によって法面20上に密着状態で施工されれば、下側に対する保温効果が十分となるだけでなく、散水または降雨によって吸収したあるいは法面20中の水分の保持、つまり保水効果が十分となるのである。
【0017】
このとき、マット基材11の各基材帯部11aが連続状態となっていることにより、図2の(b)中の矢印にて示すように、当該マット基材11が吸い取った雨水等の水分を上方から下方に流す一種の排水路を形成することは重要である。何故なら、降雨によって法面20上の土砂が洗掘されるのは、法面20上に対する直接的かつ急激な水流が発生するからであるが、各基材帯部11aは、法面20上を保護しているだけでなく、排水路を形成しているものであるから、法面20上に対する直接的かつ急激な水流を発生させないからである。従って、当該植生マット10は、法面20に対する「流亡防止」を果たすものとなっているのである。
【0018】
そして、これらの基材帯部11aの切り込み端面、すなわち内側壁面11bは、法面20の設置面21に対して立ち上がるものとなる必要がある。その理由は、図2の(a)及び(b)にそれぞれ示すように、この内側端面11bが、上方から流れて降りてきた、あるいは開口12内で露出した土砂30を堰止めるものとなって、土砂30の流亡防止を図る必要があるからである。
【0019】
さて、以上のマット基材11には開口12を形成する必要がある。これらの各開口12は、当該植生マット10を法面20上に設置した場合に、図1にも示すように開口していて、飛来種子を捕捉することができるものとなっているのである。この場合、各開口12内において、各基材帯部11aの内側壁面11bが法面20の設置面21に対して立ち上がっていたから、捕捉した飛来種子をその後の風等の力によって当該開口12から再び外に出てしまうことが阻止されている。
【0020】
以上のような各開口12は、図6に示すようにして簡単に形成される。すなわち、図6の(a)に示すように、まず、マット基材11に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込み14を入れる。次いで、図6の(b)に示すように、マット基材11に、各切れ込み14の方向と直交または略直交する方向の引張力を与えて、各切れ込み14を開いて各開口12とするのである。そして、これら各開口12が閉じないようにすること、つまりその保形は、マット基材11に後述する植生帯13や保形網15を一体化してマット基材11の復元力を阻止することにより行われる。
【0021】
このように各開口12を形成すれば、例えばマット基材11に打ち抜き加工(所謂パンチング)によって多数の開口12を形成する場合に比較すれば、開口12分のマット基材11を無駄にすることがなく、開口12分の切りくずをゴミとすることもないのである。
【0022】
そして、この植生シート10については、図1〜図4に示すように、そのシート基材11の表面または裏面に保形網15を一体化する必要がある。この保形網15は、後述する植生帯13の存在の有無に拘わらず各開口12の形状を維持する、つまり、各開口12が開口したままの状態を維持し易くなるようにするものだからである。
【0023】
このような保形網15としては、金属線材を網状に編み込んだもの、金属薄板にパンチングを施したもの、あるいは所定の剛性を有する合成樹脂繊維や天然繊維によって網として形成したもの、さらには厚紙に穴を多数形成したもの、いずれのものも適用できる。
【0024】
以上のように構成した植生マット10は、通常巻回して保管や運搬がなされるが、その巻回した植生マット10を、例えば法面20の上側から設置面21上に展開し、その上から目串等を法面20に対して打つことにより施工される。そうすると、この植生マット10によって、図1に示すように、法面20の設置面21上には多数の開口12が開口するとともに、この開口12を含む設置面21上は流亡や崩落が防止されることになるのである。そして、この植生マット10の施工後に、散水したり雨が降ったりすると、水の一部がマット基材11に吸収されるのである。
【0025】
従って、この請求項1の植生マット10は、その製造工程においてゴミが全く発生せず、保水性や保温性にも優れ、しかも十分な流亡防止を図ることができるものとなっているのである。
【0026】
また、上記課題を解決するために、請求項2に係る発明の採った手段は、上記請求項1に記載の植生マット10について、
「マット基材11の裏面側に植生帯13を一体化したこと」
である。
【0027】
すなわち、この請求項2の植生マット10は、そのシート基材11の裏面側に、帯内種子13aを添着または接着した植生帯13を一体化ものであることが必要である。この場合、「シート基材11の裏面側」とは、シート基材11の裏面に直接一体化する場合(図1〜図4に示したものの場合)と、シート基材11の裏面にまず後述する保形網15を一体化しておきこの保形網15を挟んで植生帯13をシート基材11に一体化する場合(図5に示したものの場合)とをも含む意味である。
【0028】
この植生帯13は、シート基材11を構成するシート材を薄く形成したものであってもよいが、紙、合成繊維や天然繊維によって網状あるいは布状に形成したもの、合成繊維や天然繊維によって形成した不織布等の素材が適用できる。また、この植生帯13には、上記帯内種子13aの他、保水材、土壌改良材、または肥料を添着または接着したもの、あるいはその近傍で採取された在来植物の種子を添着または接着したもの、さらにはこれらの保水材、土壌改良材、または肥料、あるいは在来植物の種子の混合物を添着あるいは接着したものであってもよい。
【0029】
この植生帯13は、これがマット基材11の裏面側に一体化してあることによって、切り込み14を広げて形成した上述した各開口12の閉じを阻止することになる。また、この植生帯13は法面20の設置面21上に直接接触するから、当該法面20あるいは設置面21上を直接覆うことになり、これによって法面20の流亡(法面20を構成している土が雨等の水の流れによって流れ去ってしまうこと)防止を図ることができる。
【0030】
また、植生帯13が、これに保水材、土壌改良材、または肥料を添着または接着したものである場合、帯内種子13aは勿論、各開口12によって捕捉した飛来種子を生育させるための水、土壌改良材、または肥料を供給することができるし、近傍で採取された在来植物の種子を添着または接着したものである場合、この在来植物による植生が行える。
【0031】
そして、この植生シート10についても、図1〜図4に示すように、そのシート基材11の表面または裏面に保形網15を一体化したものであるが、この保形網15は、上記植生帯13とも協働してシート基材11に形成してある各開口12の形状を維持する、つまり、各開口12が開口したままの状態を維持するのである。
【0032】
以上のように、この植生マット10が法面20上に密着状態で施工されれば、下側の植生帯13中の種子13aに対する保温効果が十分となるだけでなく、散水または降雨によって吸収したあるいは法面20中の水分の保持、つまり保水効果が十分となるのである。
【0033】
以上のように構成した植生マット10は、前述したように、通常巻回して保管や運搬がなされるが、その巻回した植生マット10を、例えば法面20の上側から設置面21上に展開し、その上から目串等を法面20に対して打つことにより施工される。そうすると、この植生マット10によって、図1に示すように、法面20の設置面21上には多数の開口12が開口するとともに、この開口12を含む設置面21上は植生帯13によって流亡や崩落が防止されることになるのである。
【0034】
この植生マット10の施工後に、散水したり雨が降ったりすると、水の一部がマット基材11や植生帯13に吸収され、気温や地温が適度である場合には、植生帯13内の帯内種子13aが発芽して生育を始めるため、施工直後の法面20の植生が果たせるのである。
【0035】
なお、植生帯13は、これに少なくとも草本類植物の種子13aを添着または接着したものであったが、その添着または接着量は、10g/m2以下であることが好ましい。こ
のような言わば少ない量の帯内種子13aであっても、特にマット基材11の各開口12から露出している部分の植生帯13においては、その周囲がマット基材11によって法面20に押さえ付けられており、植生帯13自体の吸水性によって発芽に必要な水分は確保されているため、少なくとも各開口12から露出している部分での帯内種子13aの発芽及び生育は確実になされる。
【0036】
換言すれば、以上のような量の帯内種子13aであっても、この請求項2に係る植生マット10は、施工直後の植生を十分行えるのであり、施工直後の法面20上に植物による保護ができるのである。勿論、帯内種子13aの量がこの程度であれば、各開口12にて捕捉された飛来種子の被圧をすることもなく、在来植物の駆逐を行う程の繁茂をすることもないのである。
【0037】
従って、この請求項2の植生マット10は、請求項1のそれと同様な機能を発揮することは勿論、種子13aを有する植生帯13使用したことによって、そのまま施工しても植生が行えるものとなっているのである。
【0038】
さらに、上記課題を解決するために、請求項3に係る発明の採った手段は、上記請求項1または2の植生マット10について、
「マット基材11の一部に、切れ込み14が存在せず、かつ各切れ込み14の方向と略平行となる無開口帯部16を形成したこと」
である。
【0039】
すなわち、この請求項3の植生マット10では、図7の(a)に示すように、マット基材11の一部に、切れ込み14が存在せず、かつ各切れ込み14の方向と略平行となる無開口帯部16を形成したものである。この無開口帯部16は、マット基材11を、図7の(a)の図示上下に引っ張って各切れ込み14を開いて開口12とした場合でも、図7の(b)に示すように、その上下幅が全く変わらない部分として存在するものである。
【0040】
もし、このような無開口帯部16がなくて、しかも当該植生マット10が上下に長いものであると、図8に示すような現象が起きる可能性がある。すなわち、図8に示した植生マット、つまり植生マットの端縁にも多数の切れ込みが位置している植生マットを、図示上下に引っ張って各切れ込みを開いて開口としたとすると、図8の(b)に示すように、植生マットの両側に円弧状の隙間23が形成される。
【0041】
このような隙間23が形成されてしまうのは、各切れ込みを広げたときできる橋渡し部分、つまり、図2の(b)にて示した「基材帯部11a」が斜めに延びることになり、図8の左右方向に植生マットを縮ませるからだと考えられる。換言すれば、端縁にも多数の切れ込みが位置している植生マットを、図示上下に引っ張って各切れ込みを開いて開口としたときには、植生マットの上下方向の略中央部分が、図示横方向には縮んでしまうと言う現象が発生するのである。
【0042】
この植生マットは、例えば図8の(a)に示した設置箇所22内を隙間無く埋めるために使用されるのであるが、これを広げたときに、図8の(b)に示した隙間23が形成されると、この隙間23部分が法面20上に多数並んで見栄えが悪いだけでなく、当外法面20の植生が十分行えないことになる。
【0043】
その点、この請求項3の植生マット10では、マット基材11に切れ込み14が存在しない無開口帯部16を形成したから、この部分では横方向に縮むことはなく、この植生マット10を広げて法面20上の設置箇所22に設置しても、図7の(b)に示すように、隙間23を形成することは殆ど無いのである。
【0044】
従って、この請求項3の植生マット10は上記請求項1または請求項2のそれと同様な作用を発揮する他、施工箇所において、法面20上に隙間23を形成することは殆どないのである。
【0045】
そして、上記課題を解決するために、請求項4に係る発明の採った手段は、
「ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したマット基材11に、内側壁面11bが法面20の設置面21に対して立ち上がることになる基材帯部11aと、多数の開口12とを形成し、かつマット基材11に、植生帯13及び保形網15を一体化した植生マット10を、次の各工程を経て製造することを特徴とする植生マット10の製造方法。
(1)マット基材11に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込み14を入れることにより、互いに連続して切れ込み端面が内側壁面11bとなる基材帯部11aを形成する工程;
(2)マット基材11に、各切れ込み14の方向と直交または略直交する方向の引張力を与えて、各切れ込み14を開いて各開口12とする工程;
(3)マット基材11の表面または裏面に保形網15を一体化する工程」
である。
【0046】
すなわち、この請求項4の発明は、上記請求項1〜請求項3のいずれかに係るの植生マット10を具体的に製造する方法に関するものであり、これによって上述した各植生マット10を確実に製造するようにしたものである。
【0047】
まず、工程(1)では、図6の(a)に示すように、上述してきたマット基材11に互いに平行で交互に位置する切れ込み14を多数入れるのである。各切り込み14は、切り込み加工後のマット基材11がバラバラになってしまわないようにするために、互いに平行で交互に位置する必要がある。
【0048】
工程(2)では、図6の(b)に示すように、マット基材11に、各切れ込み14の方向と直交または略直交する方向の引張力を与えて各切れ込み14を開き、これによって開口12を形成するのである。そのままだと、マット基材11自体が有している復元力によって各開口12が閉じてしまうことがあるから、次の工程(3)を経るのである。
【0049】
工程(3)では、マット基材11の表面または裏面に保形網15を一体化するのである。マット基材11の表面または裏面に保形網15を一体化することによって、マット基材11自体が有している復元力によって各開口12が閉じてしまうことを防止するのである。この場合、「シート基材11の裏面側」とは、シート基材11の裏面に直接一体化する場合(図1〜図4に示したものの場合)を含むものである。
【0050】
なお、植生マット10が植生帯13を有したものとする場合には、上記工程(3)の次に、工程(4);マット基材11の裏面側に、植生帯13を一体化する、という工程を追加すればよい。この場合、上記の工程(3)中の「シート基材11の裏面側」とは、シート基材11の裏面にまず保形網15を一体化しておきこの保形網15を挟んで植生帯13をシート基材11に一体化する場合(図5に示したものの場合)をも含む意味である。
【0051】
従って、この請求項4の製造方法は、上述した請求項1〜請求項3のいずれかに係るの植生マット10を、簡単かつ確実に製造することができるのである。
【発明の効果】
【0052】
以上説明した通り、本発明においては、
「法面20の設置面21上に設置されて、当該法面20の植生を行う植生マット10であって、
ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したマット基材11と、このマット基材11に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込み14を入れることにより形成されて、互いに連続して切れ込み端面が内側壁面11bとなる基材帯部11aと、各切れ込み14を開くことにより形成した多数の開口12と、マット基材11の表面または裏面に一体化した保形網15とを備えたこと」
に主たる特徴があり、これにより、その製造工程においてゴミが全く発生せず、保水性や保温性にも優れ、しかも十分な流亡防止を図ることができる植生シート10を、簡単な構造によって提供することができるのである。
【0053】
また、請求項4の発明においては、
「ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したマット基材11に、内側壁面11bが法面20の設置面21に対して立ち上がることになる基材帯部11aと、多数の開口12とを形成し、かつマット基材11に、植生帯13及び保形網15を一体化した植生マット10を、次の各工程を経て製造することを特徴とする植生マット10の製造方法。
(1)マット基材11に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込み14を入れることにより、互いに連続して切れ込み端面が内側壁面11bとなる基材帯部11aを形成する工程;
(2)マット基材11に、各切れ込み14の方向と直交または略直交する方向の引張力を与えて、各切れ込み14を開いて各開口12とする工程;
(3)マット基材11の表面または裏面に保形網15を一体化する工程」
にその構成上の特徴があり、これにより、上記請求項1〜3の植生マット10を確実かつ簡単に製造することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
次に、上述した発明を、図面に示した最良の形態である植生マット10についてその製造方法とも併せて説明すると、次の通りである。
【0055】
図1には、最良形態に係る植生マット10を法面20の表面、つまり設置面21上に施工した状態が示してあり、この植生マット10によって施工した法面20には、多数の開口12が開口している。この植生マット10は、図3〜図6に示したように、多数の開口12を形成したマット基材11の裏面側に植生帯13を一体化したものであり、図3及び図4に示したように、マット基材11の表面に、また図5に示したように、マット基材11の裏面に保形網15を一体化したものである。
【0056】
植生マット10の基本部分となるマット基材11は、ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したシート状物であり、それ自体吸水性と生分解性を有したものである。なお、このようなジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維に、木材を細長く削って線状あるいは繊維状にしたもの、繊維くず、生分解性を有する合成繊維等の各種材料を、ある程度混入あるいは含ませることは可能である。
【0057】
このマット基材11の厚さは、実際上の加工性を考慮すると、5mm〜5cm程度が好ましく、大きさとしては、1m×10m程度となるようにするのが、通常の土木工事で使用されている基準寸法に合っていて有利である。
【0058】
さらに、このマット基材11には、特に図2の(b)に示したように、多数の基材帯部11aが互いに連続状態となるように形成してある。これらの基材帯部11aは、互いに連続しており、しかも文字通り帯状物となっていることから十分な可撓性を有したものとなっているため、法面20上の凸凹に応じて容易に変形するものとなっている。そして、これらの各基材帯部11aが連続状態となっていることにより、図2の(b)中の矢印にて示したように、当該マット基材11中に、吸い取った雨水等の水分を上方から下方に流す一種の排水路が形成されることになる。
【0059】
さらに、これらの基材帯部11aの切り込み端面、すなわち内側壁面11bは、法面20の設置面21に対して立ち上がっている。これらの内側端面11bは、図2の(a)及び(b)にそれぞれ示したように、上方から流れて降りてきた、あるいは開口12内で露出した土砂30を堰止めるものとなって、土砂30の流亡防止を図ることになる。
【0060】
このマット基材11には、多数の開口12が形成してあったが、これら各開口12は、単にマット基材11にパンチングによって形成したものであると当該開口12分の無駄な部分が発生するから、本最良形態では、図6に示したような方法によって形成するようにしている。
【0061】
すなわち、各開口12は、図6の(a)に示したように、まず、マット基材11に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込み14を入れることによって形成される。次に、このマット基材11に対して、図6中の矢印にて示したように、各切れ込み14の方向と直交または略直交する方向の引張力を与えて各切れ込み14を開き、これを、図6の(b)に示したように、各開口12とするのである。
【0062】
勿論、各切れ込み14を開いて各開口12としたときには、マット基材11はそれ自身が有している復元力によって縮むことがある。この縮みを阻止するためには、図4に示したように、マット基材11の裏面に植生帯13を、またマット基材11の表面に保形網15が一体化してある。なお、図5に示したように、マット基材11の裏面に一体化した後述する保形網15を介した状態で、マット基材11の裏面に植生帯13を一体化することもある。
【0063】
そして、この植生シート10は、そのシート基材11の裏面側に、帯内種子13aを添着または接着した植生帯13を一体化したものである。この植生帯13は、図1〜図4に示したように、シート基材11の裏面に直接一体化したり、図5に示したように、シート基材11の裏面に一体化した保形網15を挟んで一体化されることもあることは前述した通りである。
【0064】
この植生帯13は、シート基材11を構成するシート材を薄く形成したものであってもよいが、紙、合成繊維や天然繊維によって網状あるいは布状に形成したもの、合成繊維や天然繊維によって形成した不織布等の素材が適用できる。また、この植生帯13には、上記帯内種子13aの他、保水材、土壌改良材、または肥料を添着または接着したもの、あるいはその近傍で採取された在来植物の種子を添着または接着したもの、さらにはこれらの保水材、土壌改良材、または肥料、あるいは在来植物の種子の混合物を添着あるいは接着したものであってもよい。
【0065】
この最良形態の植生マット10においては、その植生帯13に添着または接着した草本類植物の種子13aの量は、10g/m2以下としてあり、従来のものに比して約半分以下の量としたものである。この帯内種子13aの具体的なものとしては、ヨモギ、ススキ、メドハギ、チガヤ、イタドリ、トールフェスクなどのフェスク類、ケンタッキーブルーグラスやイタリアングラスあるいはバミューダグラス等がある。
【0066】
以上のような量の帯内種子13aであっても、この植生マット10は、施工直後の植生を十分行えるのであり、施工直後の法面20上に植物による保護ができる。勿論、帯内種子13aの量がこの程度であれば、各開口12にて捕捉された飛来種子の被圧をすることもなく、在来植物の駆逐を行う程の繁茂をすることもない。
【0067】
植生帯13が、これに保水材、土壌改良材、または肥料を添着または接着したものである場合、帯内種子13aは勿論、各開口12によって捕捉した飛来種子を生育させるための水、土壌改良材、または肥料を供給するし、近傍で採取された在来植物の種子を添着または接着したものである場合、この在来植物による植生を行う。
【0068】
一方、保形網15としては、図4の(a)に示したような亀の甲(正六角形の連続物)状の網目15aを有するもの、あるいは図5の(a)に示したような格子状の網目15aを有するものに、金属線材を網状に編み込んだものが採用される。勿論、この保形網15としては、金属薄板にパンチングを施したもの、あるいは所定の剛性を有する合成樹脂繊維あるいは天然繊維によって網として形成したもの、さらには厚紙に穴を多数形成したもののいずれも適用できる。ただし、この保形網15は、各開口12による飛来種子の捕捉が行えるようにする必要があるから、図4にも示したような網目15aが存在していなければならない。
【0069】
そして、図7には、請求項3に係る植生マット10の平面図が示してあるが、この植生マット10の上述した最良形態のものと異なる点は、マット基材11の一部に、切れ込み14が存在せず、かつ各切れ込み14の方向と略平行となる無開口帯部16を形成したことである。
【0070】
この場合も、各切れ込み14は、図7の(a)にて示したように、その切れ込み方向に列として並んでいて、これらの列は互いに等間隔してある。また、隣接する列においては、それぞれの切れ込み14が交互に位置するようにしてある。これによって、各切れ込み14を開いて各開口12としたときには、図7の(b)に示したように、各開口12は無開口帯部16の上下において交互に位置することになる。
【0071】
各無開口帯部16は、図7の(a)にて示したように、各切れ込み14からなる列を2列分省略したものであってもよいし、3列分あるいは4列分省略したものであってもよい。また、これらの無開口帯部16の間に位置する切れ込み14の列は、最良形態のように5列であっても、またそれ以上であってもよいが、各切れ込み14を十分な大きさの開口12とするために、最低3列が各無開口帯部16の間に位置するようにするとよいようである。
【0072】
なお、各切れ込み14を開口12とするには、当該シート基材11を機械に掛けて順に引っ張るのであるが、各無開口帯部16は変化しないものであるから、この機械による引っ張り力をシート基材11にうまく掛けることができて、各開口12を均等な大きさのものにすることができるといった作用を、当該無開口帯部16は発揮することにもなる。
【0073】
換言すれば、開くことがない無開口帯部16が、シート基材11に、均等に存在していることによって、各切れ込み部14を機械的に開く作業を、シート基材11の一部だけについて、つまり二本の無開口帯部16間の寸法範囲で行えばよいので、機械の構成自体もコンパクトなものとすることができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のようにした植生マット10は、マット基材11を生分解性のものを主として利用し、これを飛来種子のための肥料にもするものであるから、例えばゴミ処理問題を解決する一つの手段としても採用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る植生マットを施工した法面を示す斜視図である。
【図2】図1中の植生マットの一部を拡大して示したもので、(a)は法面の縦断面図、(b)はマット基材の拡大平面図である。
【図3】図1中の植生マットの一部を拡大して示した部分拡大斜視図である。
【図4】植生帯及び保形網を有した植生マットを部分的に示すもので、(a)は分解斜視図、(b)は施工時の断面図である。
【図5】植生帯及び保形網を有した植生マットの他の例を部分的に示すもので、(a )は分解斜視図、(b)は施工時の断面図である。
【図6】植生マットを構成するマット基材に開口を形成する方法を示すもので、(a)は切り込みを入れた状態の部分平面図、(b)は切り込みを広げて開口とした状態の部分平面図である。
【図7】請求項3に係る無開口帯部を有した植生マットを示すもので、(a)は各切れ込みを広げていない状態の平面図、(b)は各切れ込みを広げた状態の平面図である。
【図8】無開口帯部を有していない植生マットを示すもので、(a)は各切れ込みを広げていない状態の平面図、(b)は各切れ込みを広げた状態の平面図である。
【図9】従来の技術を示す部分破断斜視図である。
【図10】従来の他の技術を示す部分破断斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
10 植生マット
11 マット基材
11a 基材帯部
11b 内側壁面
12 開口
13 植生帯
13a 帯内種子
14 切り込み
15 保形網
15a 網目
16 無開口帯部
20 法面
21 設置面
30 土砂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面の設置面上に設置されて、当該法面の植生を行う植生マットであって、
ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したマット基材と、このマット基材に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込みを入れることにより形成されて、互いに連続して切れ込み端面が内側壁面となる基材帯部と、前記各切れ込みを開くことにより形成した多数の開口と、前記マット基材の表面または裏面に一体化した保形網とを備えたことを特徴とする植生マット。
【請求項2】
前記マット基材の裏面側に植生帯を一体化したことを特徴とする請求項1に記載の植生マット。
【請求項3】
前記マット基材の一部に、前記切れ込みが存在せず、かつ前記各切れ込みの方向と略平行となる無開口帯部を形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の植生マット。
【請求項4】
ジュート、綿、あるいはパルプ等の天然繊維によって、厚さ3mm〜10cmに形成したマット基材に、内側壁面が法面の設置面に対して立ち上がることになる基材帯部と、多数の開口とを形成し、かつ前記マット基材に、植生帯及び保形網を一体化した植生マットを、次の各工程を経て製造することを特徴とする植生マットの製造方法。
(1)前記マット基材に互いに平行で交互に位置する多数の切れ込みを入れることにより、互いに連続して切れ込み端面が内側壁面となる基材帯部を形成する工程;
(2)前記マット基材に、前記各切れ込みの方向と直交または略直交する方向の引張力を与えて、前記各切れ込みを開いて前記各開口とする工程;
(3)前記マット基材の表面または裏面に保形網を一体化する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−262879(P2007−262879A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48696(P2007−48696)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000226747)日新産業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】