説明

歩行型作業機

【課題】デフ操作機構の操作軸の配設位置を工夫して、ミッションケース全体の小型化を図る。
【解決手段】走行用推進軸13aへの伝動系と外部動力出力軸20への伝動系との分岐箇所におけるケース上縁3b側及びケース下縁3c側が共に上方へ突曲した形状となるようにミッションケース3を屈曲形成し、デフ操作機構6の操作軸61を、走行用推進軸13aへの伝動系と外部動力出力軸20への伝動系との分岐箇所の下側で、ケース下縁3c側における突曲箇所に設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン側から入力された動力を、走行用推進軸と、外部動力出力軸とに分岐伝動するミッションケースを備えた歩行型作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記歩行型作業機では、走行中における操作性と、作業中における直進性を確保し易くするために走行用推進軸に差動装置を備えている。この作動装置は、デフロック状態とロック解除状態とに切換操作可能に構成されているものであるが、従来の歩行型作業機では、前記デフロック装置を操作するための構成として、下記[1]及び[2]に示す構造のものが知られている。
[1]デフロック用の操作軸を走行用推進軸の近くに設けて、前記操作軸の軸心方向での押し引き操作によって、デフロック装置を入り切り操作可能に構成したもの(特許文献1参照)。
[2]デフロック用の操作軸を走行用推進軸の近くに設け、そのデフロック用の操作軸を軸心周りで回動操作するための操作部材をミッションケースの上部側に設けて、前記操作軸を回動操作することによってロック作動片を横移動させ、デフロック装置を入り切り操作可能に構成したもの(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−117201号公報(段落〔0012〕、〔0013〕、図1、図2、図3)
【特許文献2】特開2004−231113号公報(段落〔0017〕、〔0021〕、図3、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の歩行型作業機においては、デフロック装置の操作をミッションケース外部からの操作で行えるようにしたものであり、そのデフロック用の操作軸は、できるだけ差動装置が設けられている走行用推進軸の近くに配置される方が、その操作軸を含むデフ操作機構の小型化等のために有用である。そこで、上記[1]及び[2]に示す従来の歩行型作業機においては、前記操作軸を走行用推進軸の伝動用スプロケットの周辺部に配置してある。
しかしながら、比較的多くの伝動機構等が錯綜して配設される走行用推進軸の伝動用スプロケットの周辺部に、前記デフロック用の操作軸を配設するためのスペースを確保しなければならず、ミッションケース全体の小型化を妨げる要因となりやすく、また、組み付け加工の煩雑さを伴い易いものであった。
【0005】
本発明の目的は、デフ操作機構の操作軸の配設位置を工夫して、ミッションケース全体の小型化を図り得た歩行型作業機を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために本発明で講じた技術手段は、請求項1に記載のように、エンジン側から入力された動力を、走行用推進軸と、外部動力出力軸とに分岐伝動するミッションケースを備えた歩行型作業機において、前記ミッションケースを、前記走行用推進軸と外部動力出力軸とが前後に離れて下端側に位置し、かつ、その走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系との分岐箇所におけるケース上縁側及びケース下縁側が共に上方へ突曲した形状となるように屈曲形成し、前記走行用推進軸に差動装置を装着するとともに、その差動装置をデフロック状態とロック解除状態とに切換操作可能なデフ操作機構を備え、前記デフ操作機構の操作軸を、前記走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系との分岐箇所の下側で、前記ケース下縁側における突曲箇所に設けてあることを特徴とする。
【0007】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段1にかかる本発明の歩行型作業機では、デフ操作機構の操作軸を、走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系との分岐箇所の下側で、ミッションケースのケース下縁側における突曲箇所に設けてあるため、前記分岐箇所の下側に形成されるデッドスペースを有効利用して前記操作軸を配設することができる。したがって、ミッションケースの小型化に有効である。
【0008】
〔解決手段2〕
本発明における歩行型作業機の第2の解決手段は、前記請求項1記載の歩行型作業機において、走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系とを伝動チェーンで構成し、デフ操作機構を操作するための操作軸を、前記走行用推進軸へ駆動力を伝達する伝動チェーンの回動範囲の外側に設けてあることを特徴とする。
【0009】
〔作用及び効果〕
上記の解決手段2にかかる本発明の歩行型作業機では、デフ操作機構を操作するための操作軸を、走行用推進軸へ駆動力を伝達する伝動チェーンの回動範囲の外側に設けてあるので、走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系との分岐箇所から走行用推進軸への伝動系自体の小型化を図ることができる。
つまり、走行用推進軸へ駆動力を伝達する伝動チェーンは、走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系との分岐箇所に設けられる伝動用スプロケットと、走行用推進軸に設けられる伝動用スプロケットとにわたって設けられている。このとき、デフ操作機構を操作するための操作軸を、走行用推進軸へ駆動力を伝達する伝動チェーンの回動範囲内に設けると、分岐箇所に設けられる伝動用スプロケットと走行用推進軸に設けられる伝動用スプロケットとの軸間距離は、前記各伝動用スプロケットの大きさや前記操作軸の存在位置によって制限されることになる。
これに比べて本発明のものでは、前記操作軸は、走行用推進軸へ駆動力を伝達する伝動チェーンの回動範囲の外側に設けてあるので、分岐箇所に設けられる伝動用スプロケットと走行用推進軸に設けられる伝動用スプロケットとの軸間距離は、前記操作軸の存在による影響を受けず、各伝動用スプロケットの大きさによる制限だけを受けることになる。その結果、前記軸間距離をより縮めて伝動チェーンの長さを短縮することができる。
【0010】
したがって、デフ操作機構を操作するための操作軸の存在位置によって伝動用スプロケット自体の大きさが制限されたり、分岐箇所に設けられる伝動用スプロケットと走行用推進軸に設けられる伝動用スプロケットとの軸間距離が制限されることを回避でき、この軸間距離を十分に縮めて走行用推進軸への伝動系自体の小型化、及び、その伝動系を内装するミッションケースの小型化をも図ることができる。
【0011】
〔解決手段3〕
本発明の歩行型作業機における第3の解決手段では、請求項1または2記載の歩行型作業機において、デフ操作機構は、デフロック用爪体を押し引きしてデフロック状態とロック解除状態とに切換操作するシフターと、軸心方向がミッションケースの左右幅方向に向き外部からの操作力で回転操作される操作軸と、操作軸の回転運動をシフターの押し引き操作に変換するカム機構とによって構成してあることを特徴とする。
【0012】
〔作用及び効果〕
上記のように構成された解決手段3にかかる本発明の歩行型作業機では、デフ操作機構を、操作軸の軸心方向での押し引きによる操作でデフロック状態及びロック解除状態を現出するのではなく、回転操作される操作軸と、操作軸の回転運動をシフターの押し引き操作に変換するカム機構とによって構成してあるので、ミッションケースの左右幅方向への操作軸の移動代を要さず、ミッションケースとデフ操作機構を含めての左右方向での幅寸法を大きくすることもない利点がある。
【0013】
〔解決手段4〕
本発明の歩行型作業機における第4の解決手段では、請求項1、2、または3記載の歩行型作業機において、ミッションケースの内面側に、操作軸の外周部を囲繞するように環状リブを形成してあることを特徴とする。
【0014】
〔作用及び効果〕
上記のように構成された解決手段4にかかる本発明の歩行型作業機では、操作軸の外周部を囲繞するように環状リブを備えているので、この環状リブが操作軸周りでの潤滑油の保持を効果的に行い易いものである。
しかも、前記環状リブが存在する箇所は、ミッションケースのケース下縁側における突曲箇所に設けられた操作軸周りであるから、外部応力が集中し易いケース下縁側の突曲箇所に対する補強手段としても有効に作用し得る利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】作業機の全体側面図
【図2】ミッションケース内における伝動装置の動作形態を示す線図
【図3】ミッションケースの内部を示す側面図
【図4】ミッションケース内における動力伝達構造を示す展開図
【図5】ミッションケース内における動力伝達構造を示す展開図
【図6】変速用のシフト機構を示す展開図、
【図7】変速用のシフト機構のレバーガイド部分を示す説明図
【図8】デフ操作機構を示す断面図
【図9】デフ操作機構の一部を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面の記載に基づいて説明する。
〔歩行型作業機の全体構成〕
図1は、本発明に係る歩行型作業機の一例である歩行型耕耘機を示す全体側面図である。
この図に示すように、歩行型耕耘機は、エンジン11を搭載した機体フレーム10の後方側に操縦ハンドル12を備え、前記機体フレーム10を支持する左右一対の駆動自在なタイヤ式の走行車輪13,13を装備した自走機体1と、前記自走機体1の機体フレーム10の後部側に連結されたロータリー耕耘装置2とを備えて構成されている。
【0017】
前記機体フレーム10は、前記左右一対の車軸13a,13aを支持するミッションケース3と、このミッションケース3から機体前方向きに延出したエンジン支持フレーム10Aとで構成されている。
【0018】
前記操縦ハンドル12は、ミッションケース3の後部側のケース外周部分に設けたハンドル支持部3aから自走機体1の後方上方向きに延出されている。
この操縦ハンドル12には、エンジン11からの動力を前記ミッションケース3内の伝動装置に対して断続するための主クラッチ14を入り切り操作するための走行クラッチレバー15やアクセル操作具16、及び、図示しないブレーキ操作具などの操縦操作具を設けてある。
【0019】
図1に示すように、前記ロータリー耕耘装置2は、前記ミッションケース3の後部側に設けられたロータリー駆動軸(外部動力出力軸の一例)20と、そのロータリー駆動軸20に取り付けられて回転駆動される耕耘ロータ21と、接地抵抗棒22とを備える他、耕耘ロータ21の上部を覆う耕耘ロータカバー23と、整地板24とを備えている。
【0020】
〔動力伝達系の構成〕
エンジン11からの動力が、走行推進軸としての前記車軸13a,13a、及び、外部動力出力軸としてのロータリー駆動軸20に伝達される際の動力伝達系の構成について説明する。
【0021】
図1及び図2に示すエンジン11の出力軸11aに設けた出力プーリ11bと、ミッションケース3の入力軸30に設けた入力プーリ30aとにわたって、ベルト伝動機構によって構成される前記主クラッチ14を備えてある。
この主クラッチ14は、前記出力プーリ11bと入力プーリ30aとにわたって巻回された伝動ベルト14aと、この伝動ベルト14aを緊張する状態と弛緩する状態とに切換操作可能なテンションプーリ14bとを備えている。このテンションプーリ14bが前記操縦ハンドル12に備えられた走行クラッチレバー15に連係されているので、前記操縦ハンドル12に備えられた走行クラッチレバー15の操作にともなって、前記主クラッチ14を入り状態と切り状態とに、切換操作することができる。
【0022】
図3に示すように、前記ミッションケース3内には、エンジン11からの動力が伝えられる入力軸30がケース上部に、走行推進軸としての前記車軸13a,13a、及び、外部動力出力軸としてのロータリー駆動軸20がケース下部で前後に離れて配置されている。また、この他に、ミッションケース3内には第1伝動軸31と、第2伝動軸32と、第3伝動軸(後述する分岐伝動軸に相当)33との各伝動軸が配設されていて、それぞれが後述する伝動ギヤ、あるいは伝動チェーンを支持して動力伝達を行うように配置されている。
【0023】
また、このミッションケース3内には、図3乃至図7に示すように、前記入力軸30に摺動自在に外嵌された第2シフトギヤ50を操作するための第2シフト操作機構S2、及び、前記第1伝動軸31に摺動自在に外嵌された第1シフトギヤ40を操作するための第1シフト操作機構S1が装備されている。
この第1シフトギヤ40を操作するための第1シフト操作機構S1、及び第2シフトギヤ50を操作するための第2シフト操作機構S2は、図1に示す変速操作レバー17をガイド溝付きのレバーガイド18に沿わせて操作することで、各別に操作自在に構成されている。
【0024】
また、このミッションケース3内には、図3及び図8に示すように、左右一対の車軸13a,13aに装着された差動機構34と、その差動機構34をデフロック状態と、デフロック解除状態とに切換操作するためのデフ操作機構6が装備されている。
【0025】
このミッションケース3内に配備される上記の伝動装置は、図2及び図3に示すように、エンジン11からの動力が伝えられる入力軸30から、左右一対の車軸(走行用推進軸の一例)13a,13aまでの走行系伝動機構4と、前記入力軸30からロータリー駆動軸(外部出力軸の一例)までの作業系伝動機構5とで構成されている。
【0026】
〔走行系伝動機構〕
走行系伝動機構4は次のように構成されている。
つまり、走行系伝動機構4は、図2乃至図6に示すように、入力軸30に摺動のみ自在で一体回転するようにスプライン係合された第2シフトギヤ50の図4中右方の一端側に形成された小幅ギヤ50aと、この第2シフトギヤ50の同図中左方の端部側に形成された広幅ギヤ50bと、第1伝動軸31に相対回転、及び摺動自在に外嵌された第1シフトギヤ40と、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41と、第2伝動軸32の図4中左方の端部側に一体形成された幅広の小径ギヤ42と、その小径ギヤ42に常時噛み合い状態で第3伝動軸33に固定された常噛み大径ギヤ43と、第3伝動軸33に一体形成された走行系出力スプロケット44と、車軸13aに一体に固定の走行系入力スプロケット46と、前記走行系出力スプロケット44と走行系入力スプロケット46との間に張設された伝動チェーン45とを備えて構成されている。
【0027】
この走行系伝動機構4では、入力軸30から車軸13aへの動力伝達状態を、次の[1]〜[4]の4種の形態に切換操作することができる。
【0028】
[1];走行停止状態
図4及び図5に示すように、前記第2シフトギヤ50を、その小幅ギヤ50a及び広幅ギヤ50bが第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41と噛合しない中立位置「N」に位置させる。第1シフトギヤ40は、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41、及び第3伝動軸33に固定された常噛み大径ギヤ43の何れにも噛合しない中立位置「N」に位置させる。
これによって、第2シフトギヤ50、及び第1シフトギヤ40よりも伝動下手側への動力伝達が断たれるので、車軸13aが駆動されない走行停止状態となる。
【0029】
[2]:前進1速走行状態
第2シフトギヤ50に形成された小幅ギヤ50aを、図4の図中左方の前進1速位置「F1」に移動させて、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41に噛合させる。第1シフトギヤ40は、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41、及び第3伝動軸33に固定された常噛み大径ギヤ43の何れにも噛合しない中立位置「N」に位置させる。
これによって、入力軸30の動力は、入力軸30→第2シフトギヤ50→大径ギヤ41→幅広の小径ギヤ42→固定常噛み大径ギヤ43→走行系出力スプロケット44→伝動チェーン45→走行系入力スプロケット46→車軸13aと伝えられ、前進1速走行状態となる。
【0030】
[3];前進2速走行状態
図4に示すように、第2シフトギヤ50を、その小幅ギヤ50a及び広幅ギヤ50bが第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41と噛合しない中立位置「N」に位置させる。第1シフトギヤ40は、図5中左方に移動させて第3伝動軸33に固定された常噛み大径ギヤ43に噛合する前進2速位置「F2」に位置させる。
これによって、入力軸30の動力は、入力軸30→第2シフトギヤ50→第1シフトギヤ40→固定常噛み大径ギヤ43→走行系出力スプロケット44→伝動チェーン45→走行系入力スプロケット46→車軸13aと伝えられ、前進2速走行状態となる。
【0031】
[4];後進1速走行状態
図4に示すように、第2シフトギヤ50を、その小幅ギヤ50a及び広幅ギヤ50bが第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41と噛合しない中立位置「N」に位置させる。第1シフトギヤ40は、図5中右方に移動させて第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41に噛合する後進1速位置「R1」に位置させる。
これによって、入力軸30の動力は、入力軸30→第2シフトギヤ50→第1シフトギヤ40→大径ギヤ41→幅広の小径ギヤ42→固定常噛み大径ギヤ43→走行系出力スプロケット44→伝動チェーン45→走行系入力スプロケット46→車軸13aと伝えられ、後進1速走行状態となる。
【0032】
〔作業系伝動機構〕
作業系伝動機構5は次のように構成されている。
つまり、作業系伝動機構5は、図2乃至図6に示すように、入力軸30に摺動のみ自在で一体回転するように外嵌された第2シフトギヤ50の図4中右方の一端側に形成された小幅ギヤ50aと、同図中左方の端部側に形成された広幅ギヤ50bと、第1伝動軸31に相対回転のみ自在に外嵌された幅広の第1ギヤ51と、第2伝動軸32に相対回転のみ自在に外嵌された大径の第2ギヤ52と、その大径の第2ギヤ52と一体回転するように形成された小径の第3ギヤ53と、前記第3ギヤ53に対して常時噛み合い状態で第3伝動軸33に相対回転のみ自在に外嵌された常噛み第4ギヤ54と、その常噛み第4ギヤ54と一体に形成された作業系出力スプロケット55と、ロータリー駆動軸20に一体に固定の作業系入力スプロケット57と、前記作業系出力スプロケット55と作業系入力スプロケット57との間に張設された伝動チェーン56とを備えて構成されている。
【0033】
この作業系伝動機構5では、入力軸30からロータリー駆動軸20への動力伝達状態を、次の[1]〜[3]の3種の形態に切換操作することができる。
【0034】
[1];耕耘停止状態
図4及び図5に示すように、前記第2シフトギヤ50を、その小幅ギヤ50a及び広幅ギヤ50bが第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41と噛合しない中立位置「N」に位置させる。第1シフトギヤ40は、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41、及び第3伝動軸33に固定された常噛み大径ギヤ43の何れにも噛合しない中立位置「N」に位置させる。
これによって、第2シフトギヤ50、及び第1シフトギヤ40よりも伝動下手側への動力伝達が断たれるので、ロータリー駆動軸20が駆動されない耕耘停止状態となる。このとき、第1伝動軸31の幅広の第1ギヤ51は、第2伝動軸32の大径の第2ギヤ52に対して常噛みであるが、第1ギヤ51も、第1シフトギヤ40も、第1伝動軸31に対して相対回転自在に装備されているので、動力は伝達されない。
【0035】
[2];正転駆動状態
第2シフトギヤ50に形成された小幅ギヤ50aを、図4の図中右方の正転位置「正」に移動させて、第2伝動軸32に相対回転自在に支持された大径の第2ギヤ52の正転用歯部52aに噛合させる。このとき、前記第2シフトギヤ50の広幅ギヤ50bは、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41に噛合する。第1シフトギヤ40は、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41、及び第3伝動軸33に固定された常噛み大径ギヤ43の何れにも噛合しない中立位置「N」に位置させる。
これによって、入力軸30の動力は、耕耘作業の系では、入力軸30→第2シフトギヤ50→大径の第2ギヤ52→小径の第3ギヤ53→常噛み第4ギヤ54→走行系出力スプロケット55→伝動チェーン56→走行系入力スプロケット57→ロータリー駆動軸20と伝えられ、正転駆動状態となる。
このとき、第2伝動軸32の大径の第2ギヤ52は、その連係用歯部52bが、第1伝動軸31の幅広の第1ギヤ51に対して常噛みであるが、第1ギヤ51も、第1シフトギヤ40も、第1伝動軸31に対して相対回転自在に装備されているので、第1ギヤ51からは動力を受けない。
そして、入力軸30の動力は、走行駆動の系にも伝達され、前記前進1速の場合と同様に、入力軸30→第2シフトギヤ50→大径ギヤ41→幅広の小径ギヤ42→固定常噛み大径ギヤ43→走行系出力スプロケット44→伝動チェーン45→走行系入力スプロケット46→車軸13aと伝えられ、前進1速走行状態となる。
【0036】
[3];逆転駆動状態
第2シフトギヤ50に形成された小幅ギヤ50aを、図4の図中さらに右方の逆転位置「逆」に移動させて、第1伝動軸31に相対回転自在に支持された幅広の第1ギヤ51に噛合させる。このとき、前記第2シフトギヤ50の広幅ギヤ50bは、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41に噛合する。第1シフトギヤ40は、第2伝動軸32に固定された大径ギヤ41、及び第3伝動軸33に固定された常噛み大径ギヤ43の何れにも噛合しない中立位置「N」に位置させる。
これによって、入力軸30の動力は、耕耘作業の系では、入力軸30→第2シフトギヤ50→幅広の第1ギヤ51→大径の第2ギヤ52→小径の第3ギヤ53→常噛み第4ギヤ54→走行系出力スプロケット55→伝動チェーン56→走行系入力スプロケット57→ロータリー駆動軸20と伝えられ、逆転駆動状態となる。
このとき、入力軸30の動力は、走行駆動の系にも伝達され、前記前進1速の場合と同様に、入力軸30→第2シフトギヤ50→大径ギヤ41→幅広の小径ギヤ42→固定常噛み大径ギヤ43→走行系出力スプロケット44→伝動チェーン45→走行系入力スプロケット46→車軸13aと伝えられ、前進1速走行状態となる。
【0037】
〔シフト操作機構〕
第1シフトギヤ40を操作するための第1シフト操作機構S1、及び第2シフトギヤ50を操作するための第2シフト操作機構S2は、図3及び図6に示すように構成されている。
すなわち、第1シフト操作機構S1は、第1シフトギヤ40の長さ方向中間位置に係合する第1シフトフォーク36と、その第1シフトフォーク36を軸端に備えた第1シフトロッド36Aと、第1シフトロッド36Aの操作位置を安定的に維持するためのデテント機構38とで構成されている。
デテント機構38は、前記第1シフトロッド36Aの外表面に形成した位置決め用凹部38aと、その位置決め用凹部38aに対してコイルスプリング38cによって圧接するように弾性付勢された鋼球38bとで構成されている。そして、各位置決め用凹部38aが、それぞれ、前進2速位置「F2」、中立位置「N」、後進1速位置「R1」に対応して設けてあることにより、第1シフトギヤ40を、これらの各位置で安定的に位置決めすることができる。
【0038】
第2シフト操作機構S2は、第2シフトギヤ50の長さ方向の一端側に係合する第2シフトフォーク37と、その第2シフトフォーク37を軸端に備えた第2シフトロッド37Aと、第2シフトロッド37Aの操作位置を安定的に維持するためのデテント機構38とで構成されている。
デテント機構38は、前記第2シフトロッド37Aの外表面に形成した位置決め用凹部38aと、その位置決め用凹部38aに対してコイルスプリング38cによって圧接するように弾性付勢された鋼球38bとで構成されている。そして、各位置決め用凹部38aが、それぞれ、前進1速位置「F1」、中立位置「N」、正転駆動位置「正」、逆転駆動位置「逆」、に対応して設けてあることにより、第2シフトギヤ50を、これらの各位置で安定的に位置決めすることができる。
【0039】
図7は、変速レバー17の操作を案内するためのガイド溝付きのレバーガイド18を示しており、図中、上側のガイド溝に沿うレバー操作で第2シフト操作機構S2による変速操作を行い、下側のガイド溝に沿うレバー操作で第1シフト操作機構S1による変速操作を行うように構成してある。
【0040】
〔変速機構〕
上記のように構成された走行系伝動機構4及び作業系伝動機構5は、入力軸30から、分岐伝動軸である第3伝動軸33に至るまでの伝動系路では、互いにその伝動のための構成要素が他方の伝動機構の構成要素と重複して構成された構造となっており、分岐伝動軸である第3伝動軸33よりも伝動下手側において、伝動のための構成要素が互いに独立した構造となるように、分岐した伝動構造として構成されている。
【0041】
そして、前記入力軸30から、分岐伝動軸である第3伝動軸33に至るまでの伝動系路においては、前述したように、その伝動のための構成要素である各ギヤ及びその各ギヤを支持する各伝動軸を含めての配置構造が、入力軸30に伝達された動力を多段に変速して走行系伝動機構4及び作業系伝動機構5の出力側の車軸13a及びロータリー駆動軸20に伝達するための変速機構としての役割も果たしている。
また、この変速機構中で用いられる前記第1シフトギヤ40及び第2シフトギヤ50も、互いに噛合した状態で用いられていることにより、これも動力伝達を行う伝動機構の一部として機能している。
【0042】
図4乃至図6に示すように、前記入力軸30に装着された第2シフトギヤ50とともに、この変速機構による全変速段を現出するための第1シフトギヤ40、及び幅広の第1ギヤ51は、第1伝動軸31に対して、ニードルベアリングを介して相対回転自在に支持されている。
前記第1シフトギヤ40は、その摺動方向の中間位置に、第1シフトフォーク36が係合する環状溝からなる係合凹部を備え、このシフトギヤ40の回転を許すとともに、第1伝動軸31の軸線方向でスライド操作自在に構成されている。
【0043】
上記の第1シフトギヤ40を枢支する第1伝動軸31は、図4乃至図6に示すように、ミッションケース3に対して、そのミッションケース3の内壁面に形成された軸受け凹部3dに支持されている。そして、第1伝動軸31の一方の軸端には、その軸外周部が一部切除された段部31aを設けてあり、ミッションケース3に対して、第1伝動軸31を回り止めした状態で回転しないように装着してある。
その結果、この回転しない第1伝動軸31に支持される前記第1シフトギヤ40、及び幅広の第1ギヤ51の外周縁が、入力軸30を支持するボールベアリング30bの外周縁よりも入力軸30の外周面に近づくように配設された状態となっている。
【0044】
〔デフ操作機構〕
図3、及び図8に示すように、ミッションケース3の内部には、左右一対の車軸(走行用推進軸の一例)13a,13aの相対回動を規制及び規制解除できるように、差動機構34をデフロック状態とロック解除状態とに切換操作可能なデフ操作機構6が設けられている。
このデフ操作機構6は、差動機構34に設けられたデフロック用爪体35を車軸13aの軸心方向で押し引き操作するためのシフター60と、そのシフター60のボス部60Aを貫通した状態で支持する操作軸61と、操作軸61の回転運動をシフター60の押し引き操作に変換するカム機構62とによって構成してある。
【0045】
上記カム機構62は、操作軸61の外周面から操作軸61の放射方向に突設させたピン62aと、そのピン62aに摺接するように前記シフター60のボス部60Aに形成された傾斜カム面62bとで構成されている。また、シフター60は、操作軸61の外周側に設けたコイルスプリング63によって、常にロック解除側に弾性付勢されている。
したがって、ミッションケース3の外側へ突出する操作軸61の一端側に設けた操作レバー61Aを一方向へ回動操作することにより、操作軸61のピン62aがシフター60のボス部60Aに形成された傾斜カム面62bに接触してシフター60を図8における左方へ押し、デフロック用爪体35を係合させて差動機構34をデフロック状態とすることができる。
操作レバー61Aを逆方向へ回動操作すると、シフター60はコイルスプリング63に押されて図8中における右方へ移動し、デフロック用爪体35の係合を解除して、差動機構34をデフロック解除状態とすることができる。
前記操作レバー61Aの操作は、図示しないが、操縦ハンドル12の適所に設けた操作具に操作ワイヤーなどで連係させ、操作具の操作位置を維持する手段を備えておくことで、その操作レバー61Aの操作状態を維持することができる。
【0046】
図8に示すように、前記操作軸61の外周側周辺におけるミッションケース3のうちの一方の分割ケース単位体3Aの内面側には、シフター60のボス部60Aよりも径の大きい環状リブ64が形成されている。
この環状リブ64は、ミッションケース3のケース下縁3cの突曲部分に対する補強部材としての役割を果たすものであるとともに、カム機構62の外周側を囲繞して、そのカム機構62部分での潤滑油の確保を行い易く構成してある。
【0047】
また、前記環状リブ64の内周面側には、図9に示すように、シフター60のボス部60Aに前記傾斜カム面62bを設けたことによって形成された凹部60Bに入り込む状態でガイド突起64aが形成されている。このガイド突起64aは、前記操作軸61が回動操作されて、ピン62aが傾斜カム面62bに接当し、シフター60をデフロック側へ押し操作しようとした場合に、前記シフター60のボス部60Aに接当してボス部60Aの回り止めを行うように機能する。したがって、シフター60に無用な回転操作力を与えずにデフロック用爪体35の操作を円滑に行い易くでき、また、デフロック解除時にシフター60を元の姿勢に戻す際には案内手段としても役立つ。
【0048】
尚、他方の分割ケース単位体3B側には特に前記環状リブ64のように径の大きな環状リブ部分は設けていないが、操作軸61の他端側を支承する軸受け部3dが、その分割ケース単位体3B側でのケース下縁3cの突曲部分の強度向上に役立つ環状リブの機能をも兼ねている。
【0049】
〔ミッションケース〕
ミッションケース3は、左右一対の分割ケース単位体3A,3Bを組み合わせて構成したものであり、図3に示すように側面視で、前記走行用推進軸である車軸13aと外部動力出力軸であるロータリー駆動軸20とが前後に離れて下端側に位置するように、前後に長く形成されている。
そして、前記車軸13aとロータリー駆動軸20との前後方向での中間部に第3伝動軸33が設けられている。この第3伝動軸33が、走行系伝動機構4と作業系伝動機構5との伝動系の途中で、前記入力軸30に伝達された動力を車軸13aとロータリー駆動軸20とに分岐伝動するための単一の分岐伝動軸に相当する。
【0050】
ミッションケース3は、前記分岐伝動軸である第3伝動軸33よりも上側のケース上縁3b側、及びケース下縁3c側がともに上方へ突曲した形状に屈曲形成されている。
そして、車軸13aへの伝動系とロータリー駆動軸20への伝動系との分岐箇所である前記第3伝動軸33の下方側で、前記ケース下縁3c側における突曲箇所には、前記車軸13aへ駆動力を伝達する伝動チェーン45の回動範囲の外側に位置させて前記デフ操作機構6の操作軸61が設けてある。したがって、伝動チェーン45の回動範囲の内側には、前記デフ操作機構6の操作軸61を設けるためのスペースを設ける必要がない。
【0051】
このミッションケース3内において、前記入力軸30から取り込まれた動力を伝達する各種ギヤ等の伝動要素は、後段の各伝動軸31,32,33の軸線方向での一方側に入力された伝動上手側からの動力を、軸線方向での他方側寄りの位置から伝動下手側の各伝動軸31,32,33に伝達する伝動要素と、各伝動軸31,32,33の軸線方向での前記他方側に入力された伝動上手側からの動力を、軸線方向での前記一方側寄りの位置から伝動下手側の各伝動軸31,32,33に伝達する伝動要素とが混在する状態で設けられている。
したがって、例えば伝動上手側の伝動軸31,32,33部分では、各伝動要素が左右方向で入力プーリ30aが存在する側に配設されていても、後段の各伝動軸31,32,33部分では、各伝動要素が逆に前記入力プーリ30aが存在する側の近くに配置されるので、ミッションケース3の左右方向厚みの無用な増大が制限される。
【0052】
また、前記車軸13aへ駆動力を伝達する伝動チェーン45、及び前記ロータリー駆動軸20へ駆動力を伝達する伝動チェーン56は、単一の分岐伝動軸である第3伝動軸が、それよりも伝動上手側の各伝動軸30,31,32よりも同等以下の低い位置に配設されている。その結果、上手側の各伝動軸30,31,32の下側をくぐらせて前記伝動チェーン45,56はを配置することが可能となり、平面視で上手側の各伝動軸30,31,32の存在箇所と重複する状態に配設できる。このことによっても、ミッションケース3の左右方向での厚みを削減し得る利点がある。
【0053】
〔別実施形態の1〕
走行推進軸は上記実施形態のように車軸13aである必要はなく、例えば、車輪13を用いずに小型のゴムクローラを用いた場合などには、駆動用スプロケットを直接、または間接に駆動する軸であってもよい。
【0054】
〔別実施形態の2〕
外部動力出力軸は上記実施形態のようにロータリー駆動軸20である必要はなく、用いられる作業装置の種類に応じて、その駆動力を出力するための軸であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明における歩行型作業機としては、歩行型耕耘機に限らず、野菜移植機や歩行型田植機などに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0056】
2 ロータリー耕耘装置
3 ミッションケース
3b ケース上縁
3c ケース下縁
4 走行系伝動機構
5 作業系伝動機構
6 デフ操作機構
11 エンジン
13a 車軸(走行用推進軸)
20 ロータリー駆動軸(外部動力出力軸)
30 入力軸
33 第3伝動軸(分岐伝動軸)
34 差動機構
35 デフロック用爪体
40 第1シフトギヤ
45 伝動チェーン
50 第2シフトギヤ
56 伝動チェーン
60 シフター
61 操作軸
62 カム機構
64 環状リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側から入力された動力を、走行用推進軸と、外部動力出力軸とに分岐伝動するミッションケースを備えた歩行型作業機であって、
前記ミッションケースを、前記走行用推進軸と外部動力出力軸とが前後に離れて下端側に位置し、かつ、その走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系との分岐箇所におけるケース上縁側及びケース下縁側が共に上方へ突曲した形状となるように屈曲形成し、
前記走行用推進軸に差動装置を装着するとともに、その差動装置をデフロック状態とロック解除状態とに切換操作可能なデフ操作機構を備え、
前記デフ操作機構の操作軸を、前記走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系との分岐箇所の下側で、前記ケース下縁側における突曲箇所に設けてあることを特徴とする歩行型作業機。
【請求項2】
走行用推進軸への伝動系と外部動力出力軸への伝動系とを伝動チェーンで構成し、デフ操作機構の操作軸を、前記走行用推進軸へ駆動力を伝達する伝動チェーンの回動範囲の外側に設けてある請求項1記載の歩行型作業機。
【請求項3】
デフ操作機構は、デフロック用爪体を押し引きしてデフロック状態とロック解除状態とに切換操作するシフターと、軸心方向がミッションケースの左右幅方向に向き外部からの操作力で回転操作される操作軸と、操作軸の回転運動をシフターの押し引き操作に変換するカム機構とによって構成してある請求項1または2記載の歩行型作業機。
【請求項4】
ミッションケースの内面側に、操作軸の外周部を囲繞するように環状リブを形成してある請求項1、2、または3記載の歩行型作業機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−190322(P2010−190322A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35385(P2009−35385)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】