説明

歩行型管理機

【課題】 部品の共用化を高めてコスト低減を図ることができるとともに、広範な作業を行うことができる歩行型管理機を提供する。
【解決手段】 原動機2を上端に搭載連結したミッションケース1から操縦ハンドル5を延出するとともに、ミッションケース1の左右側面を除く周面の複数箇所にケース連結部11,12を設け、各ケース連結部11,12に、同一仕様に形成された伝動ケース3,4を連結可能に構成し、一方の伝動ケース4の先端部に、原動機2からの動力で高速駆動される作業用の回転軸23を横架支承するとともに、他方の伝動ケース3の先端部に、原動機2からの動力で低速駆動される走行用の回転軸43を横架支承してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畑地での農作業や家庭菜園などで使用するのに好適な歩行型管理機に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行型管理機としては、例えば、特許文献1に示されるように、縦軸伝動式のミッションケースの上部にロータリ耕耘装置を脱着自在に取り付け、ミッションケースの下端部に軸支した車輪で推進移動しながらロータリ耕耘装置で耕耘する仕様(特許文献1の図7参照)と、ロータリ耕耘装置を取外して、ミッションケース下端部の車軸に耕耘ロータを装着する車軸作業仕様(特許文献1の図1参照)とを選択できるよう構成したものが知られている。
例えば、特許文献2に示されるように、縦軸伝動式のミッションケースの下端部にロータリ耕耘装置を脱着可能に連動連結して、ミッションケースの下端部に軸支した車輪で推進移動しながらロータリ耕耘装置で耕耘する仕様と、ロータリ耕耘装置を取外して、ミッションケース下端部の車軸に耕耘ロータを装着する車軸作業仕様とを選択できるよう構成したものが知られている。
【特許文献1】特開2000−320571号公報(段落〔0038〕,図7)
【特許文献2】実開昭63−31703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1で示された従来構造では、車輪推進によるロータリ耕耘作業と車軸作業とを選択することができる利点を備えるものであるが、ミッションケースとロータリ耕耘装置を構成する別仕様の伝動ケースとを用意しておく必要があり、コスト高になるものであった。
【0004】
特許文献2で示された従来構造では、車輪推進によるロータリ耕耘作業と車軸作業とを選択することができるとともに、車軸を横架支承したベベルギヤケース部と、ロータリ軸を横架支承したベベルギヤケース部を同一仕様に構成して一部の部品の共用化を図ることができる利点を備えるものであるが、大きく減速された車軸の動力をロータリ軸に伝達する構造のために、ロータリ軸を高速駆動することが難しく、作業範囲が限られるものであった。
【0005】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、部品の共用化を高めてコスト低減を図ることができるとともに、広範な作業を行うことができる歩行型管理機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、原動機を上端に搭載連結したミッションケースから操縦ハンドルを延出するとともに、前記ミッションケースの左右側面を除く周面の複数箇所にケース連結部を設け、各ケース連結部に、同一仕様に形成された伝動ケースを連結可能に構成し、一方の伝動ケースの先端部に、前記原動機からの動力で高速駆動される作業用の回転軸を横架支承するとともに、他方の伝動ケースの先端部に、前記原動機からの動力で低速駆動される走行用の回転軸を横架支承してあることを特徴とする。
【0007】
上記構成によると、走行用の回転軸を横架支承した伝動ケースと作業用の回転軸を横架支承した伝動ケースとを、ミッションケースの異なったケース連結部にそれぞれ連結し、走行用の回転軸に車輪を装着するとともに、作業用の回転軸に例えば耕耘ロータを装着することで、車輪で推進移動してロータリ耕耘を行う作業仕様の管理機を得ることができる。作業用の回転軸を横架支承した伝動ケースのみをミッションケースのケース連結部に連結して、作業用の回転軸に例えば耕耘ロータを装着することで、耕耘ロータで推進移動しながら耕耘する車軸作業仕様の管理機を得ることができる。
ここで使用する作業用および走行用の伝動ケースは同一仕様であるので、製造コストの多くを占める伝動ケースの金型コストを半減することができ、歩行型管理機全体のコスト低減に有効となる。
【0008】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記伝動ケースに、ケース延出方向に沿った伝動軸を支承し、この伝動軸とケース先端部に横架支承された前記回転軸とをウオーム減速機構を介して連動連結してあるものである。
【0009】
上記構成によると、部品点数の少ないコンパクトな構造で伝動軸の回転を大きく減速して、横架された回転軸に伝達することができ、伝動ケースの小型軽量化に有効となる。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、
前記ウオーム減速機構におけるウオームホイールの内部にデフロック可能なデフ機構を装備し、前記デフ機構に突合せ装備された左右の差動軸を前記回転軸に構成してあるものである。
【0011】
上記構成によると、左右の回転軸を車軸として利用することで、左右の車輪を差動回転させて円滑に旋回することのできる走行形態(デフロック解除状態)と、左右の車輪を一体化して左右車輪を等速駆動して直進性の優れた走行形態(デフロック状態)を選択することができ、作業条件や作業地の状況に好適な走行を行うことができる。
【0012】
第4の発明は、上記第2または第3の発明において、
前記伝動ケースの基部に、前記伝動軸を減速駆動する遊星減速機構を組み込み可能に構成してあるものである。
【0013】
上記構成によると、走行用に利用する伝動ケースに遊星減速機構を組み込むことで、この伝動ケースに車軸として横架した回転軸を大きく減速駆動することができる。この場合、伝動ケースの基部が大径になるので、ミッションケースに対する伝動ケースの連結強度を確保する上で有効となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に車輪推進仕様に構成された歩行型管理機の側面が示されている。この歩行型管理機は、ミッションケース1、その上端に搭載連結された原動機としての電動モータ2、前記ミッションケース1に連結された走行用の伝動ケース3と作業用の伝動ケース4、ミッションケース1と作業用の伝動ケース4とに亘って連結支持されて機体後方上方に向けて延出された操縦ハンドル5、等を備えている。
【0015】
図2,3に示すように、電動モータ2は縦軸姿勢で搭載され、その下向きの出力軸6がミッションケース1に突入されて、ミッションケース内に縦向き配備された第1中間伝動軸7に同心に突き合せ連結されている。電動モータ2は、直流モータが利用され、電力供給用のバッテリ8がミッションケース1の横側に配備された支持台9に搭載装備される。
【0016】
ミッションケース1は箱形に形成され、その周面における前面と下面にケース連結部11,12がそれぞれ開口形成され、各ケース連結部11,12に走行用の前記伝動ケース3と作業用の前記伝動ケース4がそれぞれ脱着可能にボルト連結されている。
【0017】
ミッションケース1における下向きのケース連結部12に連結された作業用の伝動ケース4には、その延出方向に沿って伝動軸13が配備され、この伝動軸13とミッションケース1の前記第1中間伝動軸7とが作業クラッチ14を介して同心に連動連結されている。作業クラッチ14は、第1中間伝動軸7にスライド移動可能にスプライン装着したクラッチボス15を、伝動軸13の上端部にスプライン連結固定した受動ボス16に爪咬合させるよう構成されており、シフトフォーク17を外部から支軸18周りに揺動操作してクラッチボス15をスライド移動させることで、第1中間伝動軸7から伝動軸13への動力伝達を断続するよう構成されている。
【0018】
作業用の伝動ケース4の下部には円形膨出部4aが形成され、ここに減速機構の一例であるウオーム減速機構20が組み込まれている。ウオーム減速機構20は、前記伝動軸13の下部に連結されたウオームギヤ21とこれに咬合されたウオームホイール22から構成されており、ウオームホイール22の中心に連結された回転軸23が作業軸として横架支承され、伝動ケース4の左右に突出された回転軸23に、耕耘ロータ24が外嵌連結される。図5に示すように、耕耘ロータ24は、筒状の爪軸25に耕耘爪26を所定パタ−ンで植設して構成されている。
【0019】
図3に示すように、ミッションケース1には、前方に向かうケース連結部11の中心に臨む第2中間伝動軸27が前後向きに装備され、この第2中間伝動軸27が前記第1中間軸7にベベルギヤ28,29を介して減速連動されている。
【0020】
ミッションケース1に連結された走行用の伝動ケース3には、その延出方向に沿って伝動軸30が配備され、この伝動軸30と前記第2中間伝動軸27とが伝動ケース3の基部に配備された遊星減速機構31を介して同心に連動連結されている。
【0021】
遊星減速機構31は、第2中間伝動軸27の前端に連結されたサンギヤ32、伝動軸30の後端部に連結されたキャリア33、伝動ケース3の基部に嵌入固定されたリングギヤ34、および、キャリア33に軸支されてサンギヤ32とリングギヤ34に亘って咬合された複数の遊星ギヤ35とで構成されており、第2中間伝動軸27の回転動力が大きく減速されて伝動軸30に伝達されるようになっている。
【0022】
走行用の伝動ケース3は、作業用の伝動ケース4と同一の金型で成形された同一仕様のものが用いられており、その先端部に形成された円形膨出部3aに、作業用の伝動ケース4に装備されたウオーム減速機構20と同じ咬合仕様のウオーム減速機構36が組み込まれている。このウオーム減速機構36は、前記伝動軸30の前端部に連結されたウオームギヤ37とこれに咬合されたウオームホイール38から構成され、かつ、ウオームホイール38の内部にデフロック付きのデフ機構39が装備されている。
【0023】
図4に示すように、前記デフ機構39は、ウオームホイール38と一体化されたデフギヤケース40、デフギヤケース40の対角位置に遊転自在に軸支された一対のベベルピニオンギヤ41、両ベベルピニオンギヤ41に咬合する左右一対の差動ベベルギヤ42とで構成されている。各差動ベベルギヤ42にスプライン連結されて横架された差動軸としての左右一対の回転軸43が、互いに突き合せ配備されて円形膨出部3aに軸受け支持され、伝動ケース3から突出された左右の回転軸43にそれぞれ車輪44が装着されるようになっている。
【0024】
前記ベベルピニオンギヤ41は、支軸部41aへのロックピン45の挿入によってデフギヤケース40に固定できるようになっており、ベベルピニオンギヤ41の自転を阻止することで左右の回転軸43の相対回転を阻止するデフロック状態が得られるようになっている。図4に示すように、ロックピン45を支軸部41aから抜き出したデフロック解除状態では、左右の車輪44は差動回転可能となり、滑らかな車体旋回が可能となり、ロックピン45を支軸部41aに挿入したデフロック状態では、左右の車輪44が一体回転して直進性の高い推進が可能となり、必要に応じてデフロックの入り切りを使い分けることができる。なお、ロックピン45は周方向に複数本配備されて支持リング49に装備されており、支持リング49をケース外からネジ操作などによって軸心方向にスライド操作することで、デフロック解除状態とデフロック状態を選択することができるものとなっている。
【0025】
上記のようにミッションケース1に走行用の伝動ケース3と作業用の伝動ケース4を連結した状態では、走行用の伝動ケース3に装着した車輪44で推進移動し、作業用の伝動ケース4に備えた耕耘ロータ24で耕耘を行う形態が得られる。
【0026】
車体の発進および停止、前後進の切換え、走行速度の設定は、操縦ハンドル5の手元に備えた図示されないスイッチ、操作ダイヤルや操作レバーによって行うことができる。作業クラッチ14を入り切り操作することでロータリ耕耘装置Aの駆動および停止を選択することができる。作業クラッチ14の操作レバーはミッションケース1あるいは操縦ハンドル5の手元に装備しておくとよい。
【0027】
なお、操縦ハンドル5を走行用の伝動ケース3に連結すれば、車輪44の機体前方に耕耘ロータ24を位置させた仕様でロータリ耕耘作業を行うことができる。
【0028】
図6に、車軸作業仕様でロータリ耕耘作業を行う形態が示されている。この車軸作業仕様では、走行用の伝動ケース3は取外されてケース連結部11がカバー46で閉塞され、作業用の伝動ケース4に装備された耕耘ロータ24による回転で推進と耕耘を行う。この作業仕様では、操縦ハンドル5に備えた抵抗棒47を圃場に突き刺し、抵抗棒46の突入量を加減して推進抵抗を調整することで前進速度を調整する。
前記抵抗棒46の上端には取っ手48が備えられており、車体持上げを容易に行うことができるよう構成されている。
【0029】
〔他の実施例〕
(1)ミッションケース1に搭載連結する原動機2としては、上記のように電動モータを利用する他に、小型の縦軸型エンジンを利用することもできる。
(2)上記実施例とは逆に、作業用の伝動ケース4を前方のケース連結部11に連結し、走行用の伝動ケース3を下方のケース連結部12に連結して、耕耘ロータ24を車輪44の前方に位置させて走行する形態で実施することもできる。
(3)原動機2にエンジンを使用する場合、エンジンの出力軸と第1中間伝動軸7との間に主クラッチを介在しておくとよい。この場合の主クラッチとしては、エンジン回転速度が設定速度(例えばアイドリング回転速度)まで下がると自動的にクラッチ切り状態となり、エンジン回転速度が設定速度より高くなると自動的にクラッチ入り状態となる遠心クラッチを用いると、専用のクラッチ操作レバーなどを要することなく、原動機2のアクセル操作で主クラッチの入り切りを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】車輪推進仕様に構成した歩行型管理機の全体側面図
【図2】伝動構造を示す縦断側面図
【図3】伝動構造一部を示す縦断側面図
【図4】伝動構造一部を示す縦断正面図
【図5】耕耘ロータの正面図
【図6】車軸作業仕様に構成した歩行型管理機の全体側面図
【符号の説明】
【0031】
1 ミッションケース
2 原動機
3 伝動ケース
4 伝動ケース
5 操縦ハンドル
11 ケース連結部
12 ケース連結部
13 伝動軸
20 ウオーム減速機構
23 回転軸
30 伝動軸
31 遊星減速機構
36 ウオーム減速機構
38 ウオームホイール
39 デフ機構
43 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機を上端に搭載連結したミッションケースから操縦ハンドルを延出するとともに、前記ミッションケースの左右側面を除く周面の複数箇所にケース連結部を設け、各ケース連結部に、同一仕様に形成された伝動ケースを連結可能に構成し、一方の伝動ケースの先端部に、前記原動機からの動力で高速駆動される作業用の回転軸を横架支承するとともに、他方の伝動ケースの先端部に、前記原動機からの動力で低速駆動される走行用の回転軸を横架支承してあることを特徴とする歩行型管理機。
【請求項2】
前記伝動ケースに、ケース延出方向に沿った伝動軸を支承し、この伝動軸とケース先端部に横架支承された前記回転軸とをウオーム減速機構を介して連動連結してある請求項1記載の歩行型管理機。
【請求項3】
前記ウオーム減速機構におけるウオームホイールの内部にデフロック可能なデフ機構を装備し、前記デフ機構に突合せ装備された左右の差動軸を前記回転軸に構成してある請求項2記載の歩行型管理機。
【請求項4】
前記伝動ケースの基部に、前記伝動軸を減速駆動する遊星減速機構を組み込み可能に構成してある請求項2または3記載の歩行型管理機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−167671(P2008−167671A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1587(P2007−1587)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】