説明

歩行型耕耘機における変速規制機構

【課題】 ハンドル及び変速レバーが前後反転可能な歩行型耕耘機においてハンドルを反転させた場合に変速の規制を行う簡単な変速規制機構を提供することを課題としている。
【解決手段】 後方に向かって突出するハンドル8と変速レバー9を前後反転可能に走行機体11に取り付け、ハンドル8を前方に反転させて走行機体11をハンドル突出方向に後進走行させる際に、所定以上に高速な後進走行を規制する規制手段を変速レバー9の前方への反転操作に連係して上記規制を行う構成とした。また規制手段を、高速後進走行の規制開始を変速レバー9の反転操作開始以降の所定のタイミングに調節可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドル及び変速レバーが前後反転可能な歩行型耕耘機における変速規制機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来走行機体に対するハンドルの向きを前後反転させ、走行機体の前方側及び後方側のいずれの方向からもハンドルを持って走行機体を走行させることができる歩行型耕耘機が公知となっている(例えば特許文献1参照)。走行機体の反ハンドル側への走行を前進、ハンドル側への走行を後進とすると、ハンドルが前方に突出した反転状態で走行機体を走行させる場合は、ハンドルが後方に突出した通常状態で走行機体を走行させる場合の前進が後進となり、作業者はこの歩行型耕耘機を使用して様々な作業形態に対応して耕耘作業を行うことができる。
【0003】
上記歩行型耕耘機の走行トランスミッションは、ハンドルの通常状態における前進走行用に複数段の変速が可能となっている。そしてハンドルの反転状態で走行機体を走行させる際に、所定の段数より高速となる後進走行を規制する規制手段を備えている。ハンドルの反転状態で走行機体を走行させる場合は、ハンドルの通常状態で走行機体を走行させる場合の前進が後進となり、作業者が予期しないような高速後進が行われる場合があるため、上記規制手段によって、上記高速後進を防止している。
【0004】
上記規制手段は、ハンドルを前方に向かって反転させると、ハンドルの反転状態での所定の後進ポジションに変速レバーを入れることができないように、前記後進ポジションに自動的に阻止部材を位置させ、ハンドルを前方から後方に向かって反転させると、阻止部材による上記規制を自動的に解除するように構成されている。
【0005】
これにより上記変速規制又は規制解除を忘れることなく、ハンドルの通常状態では全てのポジションに変速操作して走行機体を走行させることができ、ハンドルの反転状態では作業者の予期しない走行機体の高速後進が防止される。
【特許文献1】特開昭59−67125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記規制手段はハンドルの反転に連動して作用(規制)と非作用(規制解除)が切り換えられる構造である。また変速の規制は所定のポジションに阻止部材を位置させ、このポジションに変速レバーを切り換えることができないようにするものであり、阻止部材を変速操作用のガイド溝の近傍で移動させる構造となっている。しかしハンドルとガイド溝とは離れて設置されているため、阻止部材を移動させる構造が複雑化し、規制手段が高コスト化するという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の歩行型耕耘機における変速規制機構は、走行機体11に後方に向かって突出するハンドル8と変速レバー9を設け、少なくとも走行機体11の前進走行を変速するトランスミッションを設け、上記ハンドル8及び変速レバー9を前後反転可能に取り付け、ハンドル8を前方に反転させて走行機体11をハンドル突出方向に後進走行させる際に、所定以上に高速な後進走行を規制する規制手段を設けた歩行型耕耘機において、該規制手段を、変速レバー9の前方への反転操作に連係して上記規制を行う構成としたことを第1の特徴としている。
【0008】
第2に規制手段を、高速後進走行の規制開始を変速レバー9の反転操作開始以降の所定のタイミングに調節可能としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
以上のように構成された本発明の構造によると、変速レバーを前方側に反転操作すると規制手段が自動的に作用して、所定以上に高速な後進走行を規制する。これによりハンドル及び変速レバーを反転させての走行開始に際して、走行変速の規制忘れが防止され、作業者の予期しない走行機体の上記高速後進が防止されるという効果がある。特に高速後進の規制が変速レバーの反転操作に連係して(関連付けされて)行われるため、規制手段を変速レバーの近傍において簡単に構成することができるという利点もある。
【0010】
また規制手段を、上記高速後進走行の規制開始を変速レバーの反転操作開始以降の所定のタイミングに調節可能とすることによって、変速レバーの反転操作中の任意のタイミングで高速後進走行の規制開始を行わせることができる。これにより本歩行型耕耘機を、より幅広く作業者の要求に答えさせ、様々な作業形態に対応させて使用することが可能となるという利点もある。
【0011】
例えばハンドル及び変速レバーを前方に反転させて走行機体を走行させるときに後進高速を行わせたいケースや、ハンドルや変速レバーを反転途中の所定姿勢としてこの姿勢のときに後進高速を行わせたい又は行わせたくないケース等に対応して規制手段の作用状態を調節することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1、図2は、本発明の変速規制機構を備えた歩行型管理機(耕耘機)の平面図及び側面図である。該歩行型管理機のフレーム1の前部にはエンジン2が搭載されている。該フレーム1の後部にはミッションケース3が搭載されている。エンジン2とミッションケース3との間には、エンジン2からミッションケース3内のトランスミッションに駆動力を伝動するベルト伝動機構4が設けられている。
【0013】
ミッションケース3の下端部には回転駆動される車軸に車輪6が取り付けられている。フレーム1の前後両端部には作業機連結用のヒッチ部7F,7Rが設けられている。ミッションケース3の上端部には前後反転可能にハンドル8及び主変速レバー9が取り付けられている。以上のように歩行型管理機の走行機体11が構成されている。
【0014】
上記トランスミッションは走行機体11を前進及び後進させることができるように車輪6の回転方向を含めて変速することができる。トランスミッションの変速は上記主変速レバー9によって操作される。本トランスミッションは、ハンドル8が真後ろに向かって突出している通常状態で、前進3段及び後進2段の変速が可能となっている。
【0015】
なお前進はハンドル8の突出方向の反対側に向かって走行機体11が走行すること、後進はハンドル8の突出方向に向かって走行機体11が走行することをいう。このためハンドル8を上記通常状態から前後反転させ、真正面を向く反転状態とすると上記通常状態の前進が後進、通常状態の後進が前進となる。
【0016】
これにより上記フレーム1の前端部又は後端部のヒッチ部7F又は7Rに耕耘作業機を取り付け、ハンドル8を通常状態又は反転状態として走行機体1を前進又は後進させて作業者は耕耘作業を行うことができる。なおハンドル8は通常状態又は反転状態から左右に所定角度振った状態で位置決めすることもでき、この状態で走行機体1を前進又は後進させることもできる。
【0017】
図3に示されるように、ミッションケース3にはトランスミッションの変速操作を行うための2本のシフタ軸12a,12bが設けられている。各シフタ軸12a,12bにはアーム13a,13bが取り付けられている。ミッションケース3側にはアーム13a,13bの操作用の操作軸14が設けられている。該操作軸14にアーム13a,13bを操作する操作アーム16が一体的に設けられている。
【0018】
該操作軸14はミッションケース3側に前後揺動自在に取り付けられたパイプ状の受け17に、左右回動自在に挿入されている。操作軸14は自身の軸心を中心に左右揺動し、受け17の揺動軸心Cを中心に前後揺動する。操作軸14の左右揺動及び前後揺動によって、操作アーム16が前後及び左右揺動する。
【0019】
操作アーム16は前後揺動によっていずれか一方のアーム13a又は13bに選択的に噛み合う。操作アーム16がいずれか一方のアーム13a又は13bに噛み合った状態で操作アーム16を左右揺動させることによってシフタ軸12a又は12bが操作されトランスミッションの変速が行われる。
【0020】
操作軸14の上方部分には主変速レバー9の基端部に設けられたボス15が外挿されている。ボス15の内面と操作軸14の外周面には、セレーションが設けられている。互いのセレーションは噛み合いが可能となっている。セレーションが噛み合う状態でボス15と操作軸14とは左右及び前後揺動において一体的となる。
【0021】
ボス15と操作軸14とをセレーションによって上記のように噛み合わせた状態とすることで、主変速レバー9の左右及び前後揺動によってトランスミッションの変速を行うことができる。ただしボス15を所定量以上に上方に持ち上げることによって上記セレーション同士の噛み合いは解除される。
【0022】
このため主変速レバー9を上方に持ち上げ、ボス15と操作軸14とのセレーションの噛み合いを解除することによって、ボス15を操作軸14を軸心に旋回させることができる。これにより主変速レバー9をいったん上方に持ち上げ、旋回させ、再度下げることによって、操作軸14に対する主変速レバー9の水平方向の突出位置を変更することができる。
【0023】
上記主変速レバー9の旋回によって、本実施形態においては少なくとも主変速レバー9を前後反転させることができる。一般的にはハンドル8の通常状態では主変速レバー9を後方に突出させた通常状態として変速操作し、ハンドル8の反転状態では主変速レバー9を前方に突出させた反転状態として変速操作を行う。
【0024】
上記操作軸14側には、変速指示棒18が一体的に取り付けられている。図4に示されるように、変速指示棒18の上端部分は変速ガイド19におけるガイド溝21に挿通されている。変速指示棒18と主変速レバー9とは一体的に左右及び前後揺動するため、主変速レバー9は、変速指示棒18がガイド溝21に沿うようにのみ操作することが可能となる。
【0025】
このため上記ガイド溝21は、図5に示されるように、左右方向の2つの横溝22F,22Rが前後に設けられ、両横溝22F,22Rがつながったような形状をなし、ハンドル8の通常状態における前進3段及び後進2段の変速ポジションを備えている。
【0026】
後方の横溝22Rは左から右に順にハンドル8の通常状態における前進2速(前進中速)、前進1速(前進低速)のポジションとなっている。前方側の横溝22Fは左から右に順にハンドル8の通常状態における前進3速(前進高速)、ニュートラル、後進2速(後進高速)、後進1速(後進低速)のポジションとなっている。
【0027】
変速指示棒18が各ポジションに位置するように主変速レバー9を操作することによって各ポジションに対応する速度と回転方向にトランスミッションが変速される。これによりハンドル8の通常状態において、前進3段及び後進2段の変速が可能となっている。なおハンドル8の反転状態では、上記通常状態の前進が後進に、通常状態の後進が前進となるため、上記トランスミッションは前進2段及び後進3段の変速が可能となる。
【0028】
ただし後述する規制手段により、主変速レバー9を反転状態とすると、ハンドル8の通常状態の前進高速及び前進中速、すなわちハンドル8の反転状態での後進高速及び後進中速となるポジションが規制され、これらのポジションに変速指示棒18が位置するように主変速レバー9を操作することが不可能となる。
【0029】
このためハンドル8及び主変速レバー9を反転状態とすると、ハンドル8の通常状態の後進高速を前進2速、後進低速を前進1速、前進低速を後進として前進2段及び後進1段の変速操作が可能となる。なお変速ガイド19には、ハンドル8の通常状態でのポジションを記載したラベル23と、ハンドル8の反転状態でのポジションを記載したラベル24がそれぞれ設けられている。
【0030】
上記規制手段は、図3,図4に示されるように、変速ガイド19の底面側に設けられる規制板26と、該規制板26を操作する規制操作部27とからなる。規制操作部27は主変速レバー9のボス15に外嵌される外筒28と、該外筒28に一体的に取り付けられた操作体29とからなる。操作体29は傘状(円錐台形状)の断面形状を有し、外筒28の外周回りに、所定の範囲で設けられている。外筒28はボルト31によってボス15に固定される。
【0031】
規制板26は前後の略中間位置で変速ガイド19に回動自在に軸支されている。規制板26はガイド溝21より後方において軸支されている。規制板26の後端は規制操作部27の位置近傍に延びている。規制板26の前端は、上記ハンドル8の通常状態での前進2速のポジションを通過して前進3速のポジションの前方位置に延びている。
【0032】
操作体29は、主変速レバー9のボス15と一体回転(旋回)する。主変速レバー9を前方に突出するように回転させると、操作体29は、主変速レバー9が反転状態となるまでの間の所定のタイミング(所定の旋回角)で、規制板26の後部に接し、規制板26の後方を左側方に押し始め、図6(a),(b)に示されるように、主変速レバー9が反転状態となっても、規制板26を左側方に押し続ける。
【0033】
これにより主変速レバー9を反転状態とすると、規制板26は、前方側がハンドル8の通常状態での前進3速と前進2速のポジションを塞ぐ。このように該前進3速と前進2速のポジションに規制板26が位置している状態では、変速指示棒18が、上記前進3速と前進2速のポジションに入らないため、主変速レバー9によるこのポジションへの変速操作が規制される。
【0034】
以上のように主変速レバー9を反転状態とすると、主変速レバー9の反転操作に連係して自動的にハンドル8の通常状態での前進3速と前進2速への変速が規制され、ハンドル8及び主変速レバー9を反転状態として走行機体11を走行させる場合、上記のように自動的に後進の高速側2段が規制され、高速後退が防止される。
【0035】
なお操作体29は主変速レバー9の変速操作を行うための左右揺動によって規制板26との当接が解除されないような範囲に設けられている。そして主変速レバー9を通常状態に戻すと、操作体29と規制板26との当接が解除され、規制板26は自由に揺動するため、変速指示棒18は上記前進3速と前進2速のポジションに自由に入る。このためハンドル8及び主変速レバー9を通常状態に戻して走行機体11を走行させる場合は、前進3段、後進2段の変速を自由に行うことが自動的に可能となる。
【0036】
上記のように規制手段は、変速ガイド19の近傍に位置する主変速レバー9のボス15の回りに構成され、主変速レバー9の変速操作の規制を変速ガイド19(ガイド溝21)において行う構造となっている。そして本規制手段は、主変速レバー9のボス15に取り付けられ、主変速レバー9の反転操作に連係して回転する規制操作部27と、変速ガイド19に軸支される規制板26によって簡単に構成されている。
【0037】
上記のように規制部分(ガイド溝21)の近傍に規制手段を構成することによって、ハンドル8を反転状態として走行機体11を走行させる際の自動的な主変速レバー9の変速操作規制手段を簡単に且つローコストで設けることができる。
【0038】
また上記規制操作部27は、外筒28をボス15に対して回転させることによって、規制板26による上記変速規制の開始タイミング(主変速レバー9の旋回角度)を容易に変更調節することができる。これによりハンドル8や主変速レバー9を走行機体11の真後ろや真正面から左右に所定角度振った状態で、走行機体11を走行させる場合に、上記変速規制を行わせたり、行わせなかったりすること等が可能となる。
【0039】
さらに図7(a),(b)に示されるように、主変速レバー9を反転状態とした場合に、上記変速の規制が作用しないように規制手段を調節することもできる。これによりハンドル8及び主変速レバー9を反転状態とした場合に、ハンドル8及び主変速レバー9が通常状態の時の前進2速及び前進3速に対応する、ハンドル8及び主変速レバー9が反転状態での高速後進を行わせることができ、より幅広く作業者の要求に答えることが可能となり、走行可能な速度のバリエーションを増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】歩行型管理機の平面図である。
【図2】歩行型管理機の側面図である。
【図3】ミッションケース上部の要部側面透視図である。
【図4】ミッションケース上部の要部平面透視図である。
【図5】変速ガイドの平面図である。
【図6】(a)は主変速レバーが反転状態のときのミッションケース上部の要部平面透視図、(b)は主変速レバーが反転状態のときのミッションケース上部の要部側面透視図である。
【図7】(a)は規制手段による変速規制が行われないように調節した主変速レバーが反転状態のときのミッションケース上部の要部平面透視図、(b)は規制手段による変速規制が行われないように調節した主変速レバーが反転状態のときのミッションケース上部の要部側面透視図である。
【符号の説明】
【0041】
8 ハンドル
9 変速レバー
11 走行機体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体(11)に後方に向かって突出するハンドル(8)と変速レバー(9)を設け、少なくとも走行機体(11)の前進走行を変速するトランスミッションを設け、上記ハンドル(8)及び変速レバー(9)を前後反転可能に取り付け、ハンドル(8)を前方に反転させて走行機体(11)をハンドル突出方向に後進走行させる際に、所定以上に高速な後進走行を規制する規制手段を設けた歩行型耕耘機において、該規制手段を、変速レバー(9)の前方への反転操作に連係して上記規制を行う構成とした歩行型耕耘機における変速規制機構。
【請求項2】
規制手段を、高速後進走行の規制開始を変速レバー(9)の反転操作開始以降の所定のタイミングに調節可能とした請求項1の歩行型耕耘機における変速規制機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−224845(P2006−224845A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41936(P2005−41936)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】