説明

水平多関節型ロボット

【課題】応答性能や位置決め精度を維持しつつ、その可動範囲を広く確保することのできる水平多関節型ロボットを提供する。
【解決手段】スカラロボットには、基台11に第1のアーム13の基端部を回動可能に支持する連結軸12が設けられ、その軸心C1を中心に第1のモータM1により正逆回転される。第1のアーム13の先端部には、第2のアーム15の基端部を支持させる支持軸14が連結されその軸心C2を中心に第2のモータM2により正逆回転される。第2のアーム15には先端部に軸心C3を有する主軸16が設けられている。第1のアーム13は軸心C1と軸心C2とを結ぶ中心線に対して偏心しており、左側面に右側に凹むかたちの凹部13dが形成され、すなわち右側に湾曲した形状に形成されている。軸心C2と軸心C3との距離は、軸心C1と軸心C2との距離よりも短いことから主軸16が凹部13dに入り込ませるかたちに配置させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットにかかり、特に複数の水平旋回するアームを有する水平多関節型ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットとしては、それを構成する複数のアームが水平関節を介して順番に連結されるスカラロボット(水平多関節型ロボット)が知られている。一般的なスカラロボットとして、2本のアームを有するスカラロボットについてその平面構造の一例を図12に示す。
【0003】
図12に示されるように、このスカラロボットは、基台51に基端部を水平旋回可能に連結された第1のアーム52と、この第1のアーム52の先端部に基端部を水平関節にて連結された第2のアーム53とを有する。
【0004】
このようなスカラロボットは、図13にその可動範囲の輪郭を示すように、第1のアーム52及び第2のアーム53の協働により最大半径Rmaxと最小半径Rminとの間に形成される可動範囲WAにおいて第2のアーム53の先端にある作業部53aを任意の位置に移動させることができる。すなわちこのスカラロボットは、その先端の作業部53aを通じて、可動範囲WAの任意の位置に配置された被加工物などの被対象物に対する各種の作業を行うことができるようになっている。
【0005】
一方、同スカラロボットにおいて、上記可動範囲WAを規定する最大半径Rmaxは、第1のアーム52の基台回転軸C11と連結回転軸C12との間の距離からなるアーム長L11と第2のアーム53の連結回転軸C12と作業軸C13との間の距離からなるアーム長L12との和からなる最大旋回半径Dmaxに基づいて定められる。また、同じく可動範囲WAを規定する最小半径Rminは、作業部53aが第1のアーム52と干渉しない条件の下で最も基台51に近づくことのできる位置Pa,Pb(図12)と基台回転軸C11との間の距離からなる最小旋回半径Dminに基づいて定められる。このようなアーム構成の場合、原理的には、最小半径Rminがアーム長L11とアーム長L12との差とされるように設定されるとき、可動範囲WAはその領域が最も広くされる。しかし、第1のアーム52のアーム躯体には、第2のアーム53などを支持するための強度及び剛性の確保のための大きさが必要であり、その小型化にも限界があるため、この最小半径Rminを小さくすることは容易でない。
【0006】
そこで従来は、このようなスカラロボットの可動範囲を拡大すべく、例えば特許文献1に記載の構成を有するスカラロボットなども提案されている。この特許文献1に記載のスカラロボットでは、基台に水平旋回可能に取り付けられた第1のアームと、第1のアームに水平関節にて連結される第2のアームとからなる構成において、第2のアームの長さを第1のアームの長さよりも長くするようにしている。すなわち、第2のアームと第1のアームとを一直線に伸ばしたときの第2のアーム先端の作業部の最大旋回半径と、アームを折り畳み、この作業部を最も基台に近づけたときの同作業部の最小旋回半径との関係において、最大旋回半径に対する最小旋回半径の比率を低減させることで、スカラロボットとしての可動範囲の拡大を図るようにしている。
【特許文献1】特開2007−168004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スカラロボットとしては一般的に、上述のように可動範囲の広いことが望まれていることはもとより、小型化の促進、並びに高い応答性や高い位置決め精度を有することなども併せて望まれている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のスカラロボットでは、可動範囲は確かに拡大されるものの、相対的に長さの長い第2のアームの質量及び慣性が自ずと大きくなり、これが移動するときの応答性能や位置決め精度の低下を招くおそれがある。
【0009】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、応答性能や位置決め精度を維持しつつ、その可動範囲を広く確保することのできる水平多関節型ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水平多関節型ロボットは、基台に第1の回転軸を回動中心として回動可能に設けられた第1のアームと、この第1のアームに前記第1の回転軸と平行する第2の回転軸を回動中心として回動可能に設けられた第2のアームと、この第2のアームに設けられて前記第2の回転軸と平行な方向に延びる主軸とを有する水平多関節型ロボットであって、前記第2のアームは、前記第2の回転軸と前記主軸との間の距離であるアーム長が、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸とを直線で結ぶ中心線の長さである第1のアームのアーム長よりも短く構成されており、前記第1のアームは、前記中心線と前記第2の回転軸を回動中心として旋回半径が前記第2のアームのアーム長となる旋回軌道とが交差する近傍において、前記中心線に対してその回動方向の一方に偏心していることを要旨とする。
【0011】
このような構成によれば、第2の回転軸を回動中心として旋回半径が第2のアームのアーム長となる旋回軌道を有する主軸が、第1のアームの偏心された領域に入り込むかたちで中心軸に近い位置まで配置可能となる。すなわち、主軸の上記第1の回転軸に対する最小旋回半径が小さくなる分だけ主軸の可動範囲が拡大されるようになる。
【0012】
また、偏心されていない第1のアームを有する従来の水平多関節型ロボットと比較しても、第1のアームのアーム長及び第2のアームのアーム長には変更がないため、第1のアームの質量増加は最小限に抑えられるとともに、第2のアームには従来のものがそのまま用いられる。その結果、水平多関節型ロボットとしてこのような偏心した第1のアームを用いたとしても、その応答性能や位置決め精度などは従来どおりに維持されることから、不要に大型化を招くおそれもない。
【0013】
また本発明の水平多関節型ロボットは、前記第1のアームは、前記中心線と前記第2の回転軸を回動中心として旋回半径が前記第2のアームのアーム長となる旋回軌道とが交差する近傍において、前記中心線に対してその回動方向の一方に湾曲するかたちで偏心していることを要旨とする。
【0014】
このような構成によれば、上記主軸が、第1のアームの湾曲部に入り込むかたちで中心軸に近い位置まで配置可能となる。これにより、第1のアームの湾曲形状に応じて、同湾曲部に対する主軸のより円滑な収納が可能となる。
【0015】
また本発明の水平多関節型ロボットは、前記第1のアームは、前記中心線と前記第2の回転軸を回動中心として旋回半径が前記第2のアームのアーム長となる旋回軌道とが交差する近傍において、前記主軸が前記中心線の近傍に配置可能にその回動方向の一方に偏心していることを要旨とする。
【0016】
このような構成によれば、上記主軸と第1の回転軸との距離を最短距離に設定すること
ができるようになり、主軸の上記第1の回転軸に対する最小旋回半径をより小さくすることができる。すなわち、主軸の可動範囲をより広く確保することができるようになる。
【0017】
また本発明の水平多関節型ロボットは、前記基台には、前記第1の回転軸を軸心として回転する第1の連結軸が該基台から突出するかたちで設けられ、前記第2のアームには、前記第2の回転軸を軸心として回転する第2の連結軸が該第2のアームから突出するかたちで設けられ、前記第1のアームには、前記第1の連結軸と連結される基端連結部と、前記第2の連結軸と連結される先端連結部とが形成されていて、前記基端連結部は、前記第1のアームの水平方向いずれの面からも前記第1の連結軸と連結可能に形成されているとともに、前記先端連結部は、前記第1のアームの水平方向いずれの面からも前記第2の連結軸と連結可能に形成されていることを要旨とする。
【0018】
このような構成によれば、上記偏心された第1のアームを上記中心軸について反転させても、上記第1の回転軸及び第2の回転軸に対する相互接続が可能となり、当該水平多関節型ロボットとしての配置(構成)の自由度が高められるようになる。
【0019】
また本発明の水平多関節型ロボットは、前記基台には、旋回される前記第1のアームの偏心された部分と干渉する位置に配線を収納する配線ダクトが設けられていることを要旨とする。
【0020】
このような構成によれば、第2の回転軸と第1の回転軸との間に上記配線ダクトを挟むような態勢をとりつつ、第1のアームの第2の回転軸をロボットの背面方向に配置したときロボットの可動範囲を基台の後方にまで拡大することができるようになる。これにより、基台上の第1のアームと干渉する位置に上記配線ダクトが設けられている水平多関節ロボットにあっても、その可動範囲の好適な拡大が図られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明にかかる水平多関節型ロボットを具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は水平多関節型ロボット(スカラロボット)についてその斜視構造を示したものであり、図2はスカラロボットについてその上面構造を示したものである。
【0022】
図1に示すように、スカラロボットは、床面等に設置された支持体としての基台11を有して、その上端部に第1のアーム13の基端部を回転体としてこれを回動可能に支持する連結軸12が設けられている。連結軸12は、軸心C1を有する円柱形状に形成されており、基台11において同軸心C1を中心に回転可能に設けられ、基台11内に設けられた第1モータM1により正逆回転されるようになっている。すなわちこれにより、第1のアーム13は、第1モータM1により回動される連結軸12の軸心C1を回動中心として基台11に対して水平方向に回動するようになっている。
【0023】
第1のアーム13の先端部には、第2のアーム15の基端部を回転体としてこれを回動可能に支持させる支持軸14が連結されている。支持軸14は、第2のアーム15に対して軸心C2を中心に回動可能に設けられており、第2のアーム15の基端部に配設された第2モータM2に駆動連結され同第2モータM2により正逆回転されるようになっている。これにより、第2のアーム15は、第2モータM2の反力により軸心C2を回動中心として第1のアーム13に対して水平方向に回動するようになっている。
【0024】
なお本実施形態では、図2に示すように、第1のアーム13はその基端部の軸心C1と、先端部の軸心C2との間の距離がアーム長L1とされており、軸心C2が軸心C1に対してアーム長L1の旋回半径を有し旋回されるようになっている。また、第1のアーム1
3は軸心C1と軸心C2とを結ぶ中心線に対して偏心するかたちに形成されている。すなわち、第1のアーム13は図において長手方向中央付近の右側面が右側に膨らむかたちに形成され、その右側面の反対側となる同中央付近の左側面が右側に凹むかたちの凹部13dが形成され、すなわち上記中心線に対して偏心している。換言すれば、第1のアーム13はいわゆる右側に湾曲した形状に形成されている。
【0025】
図3は、第1のアーム13の構造を示す図であって、(a)は上面構造を示す図であり、(b)は(a)のA−A線断面構造を示す図であり、(c)は下面構造を示す図である。図3(a)において、第1のアーム13は、その基端部には連結軸12の連結固定される基端連結部31がその中心を軸心C1に一致させるかたちに貫通形成され、その先端部には支持軸14の連結固定される先端連結部35がその中心を軸心C2に一致させるかたちに貫通形成されている。
【0026】
図3(b)において、基端連結部31は、その厚み方向中央において軸心C1方向に突出する凸部33が形成されており、基端連結部31に挿通された連結軸12が同凸部33にて受け止められるとともに凸部33の側面32に貫通形成されているねじ孔にねじを通じるなどして連結固定されるようになっている。このような基端連結部31は、図3(a)及び(c)に示されるように、第1のアーム13のいずれの面においても同様の構造となることから、連結軸12を第1のアーム13のいずれの面に対しても連結固定することが可能となっている。なお、連結軸12の上端には基端連結部31への異物等の進入を防止するためのカバーが第1のアームの上面と同じ高さとなるかたちに取り付けられるようになっている。
【0027】
また先端連結部35は、その厚み方向中央において軸心C2方向に突出する凸部37が形成されており、先端連結部35に挿通された支持軸14が同凸部37にて受け止められるとともに凸部37の側面36に貫通形成されているねじ孔にねじを通じるなどして連結固定されるようになっている。このような先端連結部35は、図3(a)及び(c)に示されるように、第1のアーム13のいずれの面においても同様の構造となることから、支持軸14を第1のアーム13のいずれの面に対しても連結固定することが可能となっている。なお、支持軸14の下端には先端連結部35への異物等の進入を防止するためのカバーが第1のアームの下面と同じ高さとなるかたちに取り付けられるようになっている。
【0028】
このことにより、第1のアーム13にはそのいずれの面が上面とされたときであれ、連結軸12及び支持軸14が取り付けられることができるようになっている。本実施形態では、第1のアーム13は右側に湾曲した形状に形成されていることから、その上面とする向きを変えることにより水平方向における湾曲する向きを左側にすることもできるようにもなり、このような第1のアーム13を用いればそれの上下面を反転させるのみで湾曲する向きを右側にも左側にもすることができるようになる。
【0029】
第2のアーム15の先端部には、主軸16が回転体として回転可能に、かつ、上下方向に移動可能に支持されている。主軸16は、第2のアーム15内に備えられた第3モータM3の正逆回転によって自らの軸心C3を回動中心として正逆回転するとともに、第2のアーム15内に備えられた昇降モータM4の正逆回転によって上下方向に昇降移動する。主軸16の下端部17には、被搬送物を把持するハンドなどのツールが取付けられるようになっており、その昇降移動により上下動されるツールを通じて被対象物に対する各種の作業が行なわれるようになっている。
【0030】
なお本実施形態では、第2のアーム15は基端部の軸心C2と、主軸16の軸心C3との間の距離が前記アーム長L1よりも短い長さであるアーム長L2とされており、軸心C3が軸心C2に対してアーム長L2の旋回半径を有し旋回されるようになっている。
【0031】
これにより、連結軸12の軸心C1に対する主軸16の軸心C3の旋回半径は、第1のアーム13と第2のアーム15とが一直線に伸びたときにはアーム長L1とアーム長L2との和としての最大旋回半径D1maxとなる。一方、同軸心C3の旋回半径は、同軸心C3が第1のアーム13の凹部13dに入り込むかたちにて左限界点PRaに配置されるときには同左限界点PRaと軸心C1と間の距離としての最小旋回半径D1minとなる。このとき、第1のアーム13の凹部13dの水平方向における最深部が軸心C2からアーム長L2のところに形成されるようなときには軸心C3が最も中心線に近づけられるようになり、最小旋回半径D1minとしてもその取り得る最短の長さ(=L1−L2)により近い値とされるようになる。なお第1のアーム13の膨らむ方向においては、軸心C3は右限界点PRbに配置されるようになる。
【0032】
第2のアーム15内に設けられている各モータM2〜M4の制御信号あるいはモニタ信号の各信号線はフレキシブルな配線ダクト19を介して基台11内にてまとめられ、上記第1モータM1の信号線と共に、制御装置(図示略)の各対応する端子に接続されている。なお、図2においては、説明の便宜上配線ダクト19の一部を省略している。
【0033】
配線ダクト19は、軸心C1から基台11の後方側Rに水平方向への長さL5(=L1−L2)だけ離れた位置に設けられた基台側ダクト接続部20と第2のアーム15上部にて軸心C2を中心として設けられたアーム側ダクト接続部23とを有し、それらを結ぶ形に構成されている。すなわち配線ダクト19は、基台側ダクト接続部20に固定され上方に延びる基端部21aと、基端部21aから連結軸12の軸心C1の方向に延びる変向部21bと、変向部21bから上方に延びる連結軸12の軸心C1と同一線上のダクト中心線を有する先端部21cとを有し構成されている。すなわち基端部21aが基台側ダクト接続部20に対して固定され回転されないことから、基端部21aに変向部21bを介して支持される先端部21cはそのダクト中心線が常に連結軸12の軸心C1と同一線上に配置される。
【0034】
先端部21cとアーム側ダクト接続部23との間には連絡部22が掛け渡されており、その連絡部22は先端部21c側の端部が先端部21cに対して、アーム側ダクト接続部23側の端部が同アーム側ダクト接続部23に対してそれぞれ各軸心C1,C2を回転中心として回動可能に連結されている。すなわち、基台11に対して第1のアーム13が水平方向に回転したときであれ、軸心C1と同一線上にある先端部21cのダクト中心線と、アーム側ダクト接続部23の中心である軸心C2との距離がアーム長L1に一定に保たれるようになっている。このことにより先端部21cとアーム側ダクト接続部23との間に掛け渡された連絡部22はその両端部の距離がアーム長L1から変化しないようになっている。連絡部22はその両端部の距離が変化されないことから第1のアーム13の水平回転に関わらずその形状が一定に保たれるようになり、形状が変形されるような場合に生じる部材の疲労や磨耗が抑制されるようになり耐久性が向上されるようになる。
【0035】
本実施形態では、基台側ダクト接続部20は、軸心C1から離れている長さL5が軸心C1からの第1のアーム13の凹部13d最深部の距離と一致し、第1のアーム13の凹部13dが接近してくるようなときには第1のアーム13の中心線が最も近づいてくるようになっている。これにより、第1のアーム13は基台側ダクト接続部20がその移動平面と干渉する位置に配置されている場合であれ、基台側ダクト接続部20の後方側Rにも先端部の軸心C2とそこに連結される第2のアーム15とを配置させることができるようになる。
【0036】
次にこの水平多関節型ロボットの主軸16の可動範囲について説明する。
主軸16は、軸心C2に対しては、例えば左旋回したときの位置(図4(a))から、
右旋回したときの位置(図4(b))までの範囲の可動範囲を有する。また、主軸16を保持する軸心C2は、軸心C1に対しては、例えば左旋回したときの位置(図5(a))から、右旋回したときの位置(図5(b))までの範囲の可動範囲を有する。そしてこれらの可動範囲の組み合わせからなる主軸16の可動範囲としては、図6に示されるように最大旋回半径D1maxからなる最大半径Rmaxと最小旋回半径D1minからなる最小半径Rminとの間に可動範囲WA1として形成される。このとき主軸16が凹部13dに入り込むことによって最小旋回半径D1minが最短の長さ(=L1−L2)に近い値とされるようになることから従来の最小旋回半径Dmin(図12参照)によるものよりも軸心C1に近い部分における可動範囲が拡大される。可動範囲WA1において、一点鎖線CLで区切られた可動範囲WA1aは主軸16が中心線もしくはその左側に配置されることで到達可能な領域を示し、可動範囲WA1bは主軸16が中心線よりも右側に配置されなければ到達されない領域を示す。
【0037】
ところで、一般に主軸16の位置制御を行う場合には、各アーム13,15が連結される軸心C2が第1のアーム13の中心線に対して一方向にのみ旋回するようなかたち(片腕系)とすれば、主軸16の配置位置に対して各軸心C1、C2の取るべき角度が一つだけ特定されるようになり制御を行いやすい。すなわち、主軸16の配置位置に対してスカラロボットの姿勢としても一つに定まり、他の装置との間に生じる干渉などについても把握しやすくなる。一方、軸心C2が第1のアーム13の中心線に対して両方向に旋回される場合には、主軸16の配置位置に対して2つの姿勢が求められる領域も生じその位置制御が複雑になるとともに、他の装置との間に生じる干渉などについての把握も難しくなる。このことから、スカラロボットとしては、片腕系の動作をする場合が制御の容易性などにより利用価値が高く、現実としても片腕系の動作に伴う移動範囲のみで作業をするように移動制御される場合も多い。
【0038】
本実施形態では、軸心C2が第1のアーム13の中心線に対して左側にのみ旋回する(右腕系)ときに主軸16が動作する領域が可動範囲WA1aとなるが、この右腕系のときの可動範囲WA1aが基台11に対して正面側Fと左側とに集約されるかたちになる。すなわち第1のアーム13が湾曲する分だけ基台11に対して右側の領域が減少されるものの、そのかわりに基台11の左側及び後方側Rの領域が増加される。そしてこのような右腕系の可動範囲WA1aの分布は、組み立てラインに配置されるスカラロボットに要求されることの多い一地点から取得した部品を一地点に組み付けるものである一点供給一点組み込みの態様の組み立て動作にとっては非常に効果的である。
【0039】
例えば、図7に示されるように、複数のスカラロボットからなるロボットRB1〜RB3が製品コンベアCVを正面側Fにして順に横並びされたような場合、それらの可動範囲WA1において他のロボットの可動範囲と重複する領域ならびにその領域の先にある領域が従来の可動範囲WA(図13参照)を有するような場合よりも減少される。特にロボットRB1〜RB3において利用価値の高い右腕系の可動範囲WA1aについては、その大部分が他のロボットの可動範囲WA1aとは重複しなくなり、それぞれのロボットRB1〜RB3の位置制御の自由度が極めて高くされる。なお、図12に示すような従来のスカラロボットとの比較においては、従来のスカラロボットのアーム長L11はアーム長L1と同ロボットのアーム長L12はアーム長L2であるものとする。
【0040】
さらに、従来の可動範囲WAと比較するとこの可動範囲WA1の領域幅(=Rmax−Rmin)が広くなることから、製品コンベアCVとしてもそのコンベア幅CVwを広くすることができより大型の製品などを運搬できるようにもなる。また各ロボットRB1〜RB3の左側方から各ロボットRB1〜RB3に部品を供給する部品供給装置PS1〜PS3にあっても、その装置幅PS1w〜PS3wを広くすることができるようになるとともに、可動範囲WAの後方側Rへの広がりの分だけ、一度に供給する部品の数を増やすこ
となどができるようにもなる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の水平多関節型ロボットによれば、以下に列記するような効果が得られるようになる。
(1)軸心C2を回動中心として旋回半径が第2のアーム15のアーム長L2となる旋回軌道を有する主軸16が、第1のアームの偏心された凹部13dに入り込むかたちで中心軸に近い位置まで配置可能となるようにした。これにより、主軸16の軸心C1に対する最小旋回半径D1minが小さくなる分だけ主軸16の可動範囲WA1が拡大されるようになる。
【0042】
(2)第1のアームのアーム長L1及び第2のアームのアーム長L2を、偏心されていない従来の第1のアームを有するスカラロボットのそれぞれのアーム長と同じに長さにすることもできる。これにより第1のアーム13の質量増加は最小限に抑えられるとともに、第2のアーム15には従来のものがそのまま用いられる。その結果、水平多関節型ロボットとしてこのような偏心した第1のアーム13を用いたとしても、その応答性能や位置決め精度などは従来どおりに維持されることから、不要に大型化を招くおそれもない。
【0043】
(3)主軸16が、第1のアーム13の湾曲部としての凹部13dに入り込むかたちで中心軸に近い位置まで配置可能とされることから、第1のアーム13の湾曲形状に主軸16を円滑に収納することができる。
【0044】
(4)軸心C2と軸心C1との間に配線ダクト19(基台側ダクト接続部20)を挟むような態勢をとりつつ、第1のアーム13の軸心C2をスカラロボットの後方側Rにあたる背面方向に配置したときスカラロボットの可動範囲WA1を基台11の後方側Rにまで拡大することができるようになる。これにより、基台11上の第1のアーム13と干渉する位置に配線ダクト19(基台側ダクト接続部20)が設けられているスカラロボットにあっても、その可動範囲の好適な拡大が図られるようになる。
【0045】
なお、上記実施形態は、例えば以下のような態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、主軸16が第1のアーム13の最も凹んだ部分に配置されるようにしたが、これに限らず、主軸は第1のアームの最も凹んだ部分に配置されなくてもよい。少しでも凹んでいる位置に配置されるのであれば主軸16の可動範囲は拡大される。これにより第1のアームの形状の自由度が高められるようになる。
【0046】
・また、基台側ダクト接続部20も第1のアーム13の最も凹んだ部分に配置されるようにしたが、これに限らず、基台側ダクト接続部は第1のアームの最も凹んだ部分に配置されなくてもよい。少しでも凹んでいる位置に配置されるのであれば第1のアームの可動範囲は拡大される。これによっても第1のアームの形状の自由度が高められるようになる。
【0047】
・上記実施形態では、第1のアーム13に貫通形成された基端連結部31には連結軸12が、先端連結部35には支持軸14がそれぞれ挿通され、ねじ孔を通じてねじなどにより連結固定された。しかしこれに限らず、第1のアームへの連結軸や支持軸の連結固定はどのような態様でもよい。例えば第1のアームを上下に貫通するようなボルトにより連結軸や支持軸と連結されてもよいし、溝のある基端連結部や先端連結部に連結軸や支持軸が差し込まれるようなかたちにて連結されてもよい。これにより第1のアームの構造の自由が高められる。
【0048】
・上記実施形態では、第1のアーム13のいずれの面にも連結軸12及び支持軸14の連結が可能であったが、これに限らず、連結軸12及び支持軸14がそれぞれ第1のアー
ム13のいずれか一方にのみ連結可能であってもよい。そうすれば、第1のアームの加工などが容易にされる。
【0049】
・上記実施形態では、主軸16が中心線と重なる位置まで移動できなかったが、これに限らず、主軸が中心線と重なるような位置まで移動できるようにしてもよい。主軸が中心線に近くなれば最小旋回半径がより小さくされて主軸の可動範囲が広げられる。これにより、スカラロボットとして可動範囲の拡大が図られ、可動範囲をより広く確保することができるようになる。
【0050】
・上記実施形態では、第1のアーム13の全体形状が右側に湾曲する形状であったが、これに限らず、第1のアームの形状としては、主軸の旋回軌道と重なる部分において主軸が第1のアームの中心線に近づけられる態様であればどのような形状でもよい。例えば、主軸の旋回軌道と重なる部分だけが凸状に水平方向に突出するような形状であっても、そのような部分の水平方向の幅を薄くして水平方向への凹みのみがあるような形状であってもよい。これにより、第1のアームの形状の自由度が高められる。
【0051】
・上記実施形態では、第1のアーム13が右側に膨らむかたちに湾曲したが、第1のアームは左側に膨らむかたちに湾曲されてもよい。例えば、図8に示すように、スカラロボットは、最大旋回半径D2maxと最小旋回半径D2minを有するが、アーム長L1とアーム長L2が同じであればこれらの値は上記実施形態の最大旋回半径D1maxと最小旋回半径D1minとそれぞれ同じになる。このときには、第1のアーム13の湾曲方向の向きの違いから主軸16は、軸心C2に対しては、例えば右旋回したときの位置(図9(a))から、左旋回したときの位置(図9(b))までの範囲の可動範囲を有する。また、主軸16を保持する軸心C2は、軸心C1に対しては、例えば右旋回したときの位置(図10(a))から、左旋回したときの位置(図10(b))までの範囲の可動範囲を有する。そしてこれらの可動範囲の組み合わせからなる主軸16の可動範囲としては、図11に示されるように最大旋回半径D2maxからなる最大半径Rmaxと最小旋回半径D2minからなる最小半径Rminとの間において可動範囲WA2として形成される。このときも主軸16が右限界点PLbにて凹部に入り込むことによって最小旋回半径D2minが最短の長さ(=L1−L2)に近い値とされるようになることから軸心C1に近い部分における可動範囲が拡大される。可動範囲WA2において、一点鎖線CLで区切られた可動範囲WA2bは主軸16が中心線もしくはその右側に配置されること(左腕系)で到達可能な領域を示し、可動範囲WA2aは主軸16が中心線よりも左側になければ到達されない領域を示す。このときに左腕系の可動範囲WA2bが基台11に対して正面側Fと右側に集約されるようになり位置制御の容易性などにより利用価値が高められるようになる。また、当該スカラロボットとしての配置(構成)の自由度が高められるようにもなる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施形態の水平多関節型ロボットの斜視構造を示す斜視図。
【図2】同実施形態の水平多関節型ロボットの上面構造を示す平面図。
【図3】同実施形態のアーム構造を示す図であって、(a)は上面構造を示す平面図、(b)は図(a)のA−A線断面構造を示す断面図、(c)は底面構造を示す底面図。
【図4】同実施形態の水平多関節型ロボットの第2のアームの可動範囲の状態を示す状態図であって、(a)は左回りに旋回したときの状態を示す図、(b)は右回りに旋回したときの状態を示す図。
【図5】同実施形態の水平多関節型ロボットの第1のアームの可動範囲の状態を示す状態図であって、(a)は左回りに旋回したときの状態を示す図、(b)は右回りに旋回したときの状態を示す図。
【図6】同実施形態の水平多関節型ロボットの各軸の平面軌道及び主軸の可動範囲を示す領域図。
【図7】同実施形態の水平多関節型ロボットの生産設備における配置の一例を示す配置図。
【図8】その他の実施形態の水平多関節型ロボットの上面構造を示す平面図。
【図9】同じくその他の実施形態の水平多関節型ロボットの第2のアームの可動範囲の状態を示す状態図であって、(a)は右回りに旋回したときの状態を示す図、(b)は左回りに旋回したときの状態を示す図。
【図10】同じくその他の実施形態の水平多関節型ロボットの第1のアームの可動範囲の状態を示す状態図であって、(a)は右回りに旋回したときの状態を示す図、(b)は左回りに旋回したときの状態を示す図。
【図11】同じくその他の実施形態の水平多関節型ロボットの各軸の平面軌道及び主軸の可動範囲を示す領域図。
【図12】従来の水平多関節型ロボットの上面構造を示す平面図。
【図13】従来の水平多関節型ロボットの各軸の平面軌道及び主軸の可動範囲を示す領域図。
【符号の説明】
【0053】
11…基台、12…第1の連結軸としての連結軸、13…第1のアーム、13d…凹部、14…第2の連結軸としての支持軸、15…第2のアーム、16…主軸、17…下端部、19…配線ダクト、20…基台側ダクト接続部、21a…基端部、21b…変向部、21c…先端部、22…連絡部、23…アーム側ダクト接続部、31…基端連結部、32,36…側面、33,37…凸部、35…先端連結部、C1…第1の回転軸としての軸心、C2…第2の回転軸としての軸心、C3…軸心、CV…製品コンベア、M1…第1モータ、M2…第2モータ、M3…第3モータ、M4…昇降モータ、PS1,PS2,PS3…部品供給装置、RB1,RB2,RB3…ロボット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台に第1の回転軸を回動中心として回動可能に設けられた第1のアームと、この第1のアームに前記第1の回転軸と平行する第2の回転軸を回動中心として回動可能に設けられた第2のアームと、この第2のアームに設けられて前記第2の回転軸と平行な方向に延びる主軸と
を有する水平多関節型ロボットであって、
前記第2のアームは、前記第2の回転軸と前記主軸との間の距離であるアーム長が、前記第1の回転軸と前記第2の回転軸とを直線で結ぶ中心線の長さである第1のアームのアーム長よりも短く構成されており、前記第1のアームは、前記中心線と前記第2の回転軸を回動中心として旋回半径が前記第2のアームのアーム長となる旋回軌道とが交差する近傍において、前記中心線に対してその回動方向の一方に偏心していることを特徴とする水平多関節型ロボット。
【請求項2】
前記第1のアームは、前記中心線と前記第2の回転軸を回動中心として旋回半径が前記第2のアームのアーム長となる旋回軌道とが交差する近傍において、前記中心線に対してその回動方向の一方に湾曲するかたちで偏心している
請求項1に記載の水平多関節型ロボット。
【請求項3】
前記第1のアームは、前記中心線と前記第2の回転軸を回動中心として旋回半径が前記第2のアームのアーム長となる旋回軌道とが交差する近傍において、前記主軸が前記中心線の近傍に配置可能にその回動方向の一方に偏心している
請求項1または2に記載の水平多関節型ロボット。
【請求項4】
前記基台には、前記第1の回転軸を軸心として回転する第1の連結軸が該基台から突出するかたちで設けられ、
前記第2のアームには、前記第2の回転軸を軸心として回転する第2の連結軸が該第2のアームから突出するかたちで設けられ、
前記第1のアームには、前記第1の連結軸と連結される基端連結部と、前記第2の連結軸と連結される先端連結部とが形成されていて、前記基端連結部は、前記第1のアームの水平方向いずれの面からも前記第1の連結軸と連結可能に形成されているとともに、前記先端連結部は、前記第1のアームの水平方向いずれの面からも前記第2の連結軸と連結可能に形成されている
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水平多関節型ロボット。
【請求項5】
前記基台には、旋回される前記第1のアームの偏心された部分と干渉する位置に配線を収納する配線ダクトが設けられている
請求項1〜4のいずれか一項に記載の水平多関節型ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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