説明

油圧緩衝器

【課題】 ピストンロッドの伸び切り時における転舵状態において、異音の発生が防止できるばかりでなく、耐久性も向上するリバウンド部材を備えた油圧緩衝器の構造を提供する。
【解決手段】 シリンダ3と、このシリンダ3にピストンを介して移動自在に挿入したピストンロッド5と、シリンダ3に設けた伸び切り規制部材6及びピストンロッド5に設けたストッパ部材7間に介装されて上記ピストンロッド5の伸び切り時の衝撃を緩和するリバウンド部材8とを備え、このリバウンド部材8をピストンロッドに挿入する略筒状の弾性体で形成した油圧緩衝器において、上記リバウンド部材8における伸び切り時のシリンダ3内周面との当接部に油溜め部9を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンロッドの最大伸び切り時の衝撃を緩和するためのリバウンド部材を備えた油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ピストンロッドの最大伸び切り時の衝撃を緩和するリバウンド部材を備えた油圧緩衝器うち、車両等に使用される油圧緩衝器としては、特許文献1に示すものを例示することができる。
【0003】
この油圧緩衝器は、ストラット型の油圧緩衝器であって、図6に示すように、シリンダ51端部を封止しピストンロッド52を軸支する伸び切り規制部材としてのロッドガイド53と、ピストンロッド52の基端側に設けたストッパ部材としてのフランジ部材54との間となるこのフランジ部材54の上面に、NBR、合成ゴム等の硬度の低いゴムを筒状に形成したリバウンド部材としてのリバウンドクッション55が載置されている。
【0004】
そして、この油圧緩衝器にあっては、ピストンロッド52の伸び切り時、図7に示すように、リバウンドクッション55がロッドガイド53とフランジ部材54との間で、その上下両端を規制されながらシリンダ51内周面側となる径方向外方へ弾性変形することで、この伸び切り時の衝撃を緩和するようになっている。
【特許文献1】特開平9−14328号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成されたストラット型の油圧緩衝器は、車両の操舵輪側や駆動輪側に取り付けられるが、操舵輪側に取り付けられる場合には、サスペンションの構造上、運転者のハンドル操舵によって油圧緩衝器全体がピストンロッド52の軸心を回転中心として転舵される必要がある。
【0006】
このため、従来より、油圧緩衝器と車体との間に、油圧緩衝器全体が車体に対して回動するような構造を介在させているが、要求仕様によっては車体に対してピストンロッド52のみが固定される場合がある。
【0007】
この場合には、ハンドル操舵に伴い、ロッドガイド53を固定したシリンダ51がピストンロッド52を回転中心として回動することになるが、通常、リバウンドクッション55はピストンロッド52に摺動自在に挿入されると共に、その外周面とシリンダ51内周面とが非接触状態にあるので、ピストンロッド52に固定された状態となる。
【0008】
ところが、上記ピストンロッド52の伸び切り時には、図7に示すように、リバウンドクッション55はその上下両端が規制されてシリンダ51内周面側となる径方向外方へ弾性変形するので、以下に示す課題の発生が考えられる。
【0009】
即ち、上記リバウンドクッション55は、硬度の低いゴムを筒状に形成してピストンロッド52に挿入されているので、上記径方向外方への弾性変形時にはその外周面55aがシリンダ51内周面に当接した状態となり、その当接具合によっては当接部分の作動油が掻き出されてしまい、所謂、油膜切れを起すことが考えられる。
【0010】
従って、この状態で上記ハンドル操作が行われると、ピストンロッド52に挿入されたリバウンドクッション55はこのピストンロッド52に対する締め代がシリンダ51内周面に対する摩擦抵抗より大きくなるので、このピストンロッド52と一体的に回動する。
【0011】
このため、シリンダ51内周面とリバウンドクッション55の外周面55aとは油膜切れ状態で相対回転することになり、この油膜切れに起因する異音の発生や、リバウンドクッション55自体の耐久性の低下が危惧される。
【0012】
そこで、本発明は、上記の問題点を解決するために創案されたものであって、その目的は、ピストンロッドの伸び切り時における転舵状態において、異音の発生が防止できるばかりでなく、耐久性も向上するリバウンド部材を備えた油圧緩衝器の構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明は、シリンダと、このシリンダにピストンを介して移動自在に挿入したピストンロッドと、シリンダに設けた伸び切り規制部材及びピストンロッドに設けたストッパ部材間に介装されて上記ピストンロッドの伸び切り時の衝撃を緩和するリバウンド部材とを備え、このリバウンド部材をピストンロッドに挿入する略筒状の弾性体で形成した油圧緩衝器において、上記リバウンド部材における伸び切り時のシリンダ内周面との当接部に油溜め部を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、弾性変形によりリバウンド部材がシリンダ内周面と当接するピストンロッドの伸び切り時において、油圧緩衝器自体が転舵等されてリバウンド部材にピストンロッドを回転中心とした回動力が加わると、リバウンド部材はピストンロッドに対する締め代がシリンダ内周面に対する摩擦抵抗より大きくなるので、ピストンロッドと一体的に回動し、リバウンド部材とシリンダ内周面との当接部で相対回転が生じる。
【0015】
このとき、上記当接部となるリバウンド部材に油溜め部を形成することで、この油溜め部内に作動油を積極的に溜めているので、従来例で示したようなシリンダ内周面とリバウンド部材外周面との当接部に油膜切れが生じることを防止できる。
【0016】
従って、この油膜切れに起因する異音の発生や、リバウンド部材自体の耐久性を低下させると言った虞を確実に払拭することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を自動車の操舵輪側となるサスペンション装置に使用するストラット型の油圧緩衝器に具体化した実施の形態を図に基づいて説明する。
【0018】
この油圧緩衝器1は、図1に示すように、外筒2内に挿入されたシリンダとしての内筒3と、内筒3内にピストン(図示なし)を介して出没自在に挿入されたピストンロッド5と、内筒3端部を封止しピストンロッド5を軸支する伸び切り規制部材としてのロッドガイド6と、ピストンロッド5の基端側に設けたストッパ部材7と、このストッパ部材7の上面に載置された筒状をなすリバウンド部材としてのリバウンドクッション8とを備えている。
【0019】
以下、詳細に説明すると、外筒2と内筒3とは同芯に配置され、外筒2の端部内周と内筒3の端部とに亘ってロッドガイド6が嵌合されている。ロッドガイド6はその中央にピストンロッド5を案内する案内孔11が設けられ、案内孔11内に嵌合された環状の軸受部材12を介しピストンロッド5が摺動自在に軸支されている。
【0020】
又、ロッドガイド6の上面にはピストンロッド5との隙間をシールするシール部材13が配置され、外筒2の端部を内側に折り曲げて加締めることによってロッドガイド6及びシール部材13を外筒2と内筒3に対して固定するようになっている。
【0021】
ストッパ部材7は、上部にフランジ部21を有する筒状に形成され、ピストンロッド5に挿入されてこのピストンロッド5の基端側となるピストンの直上部に溶接等により固定されている。
【0022】
そして、このストッパ部材7のフランジ部21に載置された本発明の最も特徴とする構成であるリバウンドクッション8は、天然ゴム、合成ゴム又は合成樹脂により筒状に形成されると共に、その内周面がピストンロッドに対して摺動自在に挿入されている。
【0023】
又、リバウンドクッション8は、伸び切り時に内筒3内周面との当接部となる外周面8aに対して、全周に渡って本発明の油溜め部としての一条の凹溝9が形成されている。
【0024】
この凹溝9は、断面が円弧状に形成されており、伸び切り時に上記外周面8aが内筒3内周面に当接した時、この凹溝9内に作動油を積極的に残すことで従来例で示したようなシリンダ内周面とリバウンドクッション外周面との当接部に油膜切れが生じないようになっている。
【0025】
そして、この油圧緩衝器1は、車体に対してピストンロッド5が固定された状態で転舵されるように、図示しない回動機構を介して取り付けられている。
【0026】
以上のように構成された油圧緩衝器1では、ピストンロッド5の伸び切り時、上記リバウンドクション8がロッドガイド6とストッパ部材7との間で、その上下両端を規制されながら内筒3の内周面側となる径方向外方へ弾性変形することで、この伸び切り時の衝撃を緩和する。
【0027】
この状態で運転者がハンドル操舵を行うと、油圧緩衝器1自体が転舵され、ピストンロッド5を回転中心として内筒3が回動する。
【0028】
このとき、内筒3内周面に外周面8aが当接状態のリバウンドクッション8は、ピストンロッド5に対する締め代が内筒3内周面に対する摩擦抵抗より大きくなってこのピストンロッド5と一体的に回動するので、これらは内筒3内周面と上記外周面8aとの当接部で相対回転することになる。
【0029】
ところが、この当接部となるリバウンドクッション8の外周面8aには本発明の油溜め部としての一条の凹溝9が全周に渡って形成されており、図2に示すように、この凹溝9内には作動油が掻き取られずに残っているので、従来例で示したようなシリンダ内周面とリバウンドクッション外周面との当接部に油膜切れが生じることを防止できる。
【0030】
従って、この油膜切れに起因する異音の発生や、リバウンドクッション8自体の耐久性を低下させると言った虞を確実に払拭することができる。
【0031】
又、本発明は、リバウンドクッション8の外周面8aの一部を形状変更することで達成できるので、材質を変更して油膜切れを起さないようにすることよりもリバウンドクッション8自体が要求されているばね特性に合わすことが容易にでき、簡単に具体化可能である。
【0032】
尚、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、例えば、次のように変更して具体化することも可能である。
【0033】
1)本実施の形態では、本発明の油溜め部としての一条の凹溝9をリバウンドクッション8の全周に亘って形成したが、これに限定されるものではなく、図3に示すように、二条以上の凹溝9でも良く、又、部分的に不連続状態の凹溝9でも良い。
【0034】
更には、油溜め部として凹溝9ではなくて図4に示すように、凹部10を複数個設けるようにしても良い。
【0035】
2)図5に示すように、リバウンドクッション8内部に半径方向に弱い脆弱部14を設けても良く、この場合、伸び切り時にリバウンドクッション8自体に圧力が加わると、脆弱部14がこの圧力に耐えかねて半径方向に凹んで当該脆弱部14に対応するリバウンドクッション8の外周面の一部を半径方向に凹ませ、上記凹溝9と同様な油溜め部が形成される。
【0036】
3)本実施の形態では、複筒型のストラット型の油圧緩衝器1に具体化したが、単筒型の油圧緩衝器に具体化しても良い。
【0037】
4)本実施の形態では、自動車用の油圧緩衝器1に具体化したが、それ以外の油圧緩衝器に具体化しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態を示す油圧緩衝器の要部断面図である。
【図2】図1の伸び切り状態を示す要部断面図である。
【図3】本発明の別例を示す油圧緩衝器の要部断面図である。
【図4】本発明の別例を示すリバウンドクッションの正面図である。
【図5】本発明の別例を示すリバウンドクッションの要部断面図である。
【図6】本発明の従来例を示す一部破断断面図である。
【図7】図6の伸び切り状態を示す一部破断断面図である。
【符号の説明】
【0039】
3 内筒(シリンダ)
4 ピストン
6 ロッドガイド(伸び切り規制部材)
7 ストッパ部材
8 リバウンドクッション(リバウンド部材)
8a 外周面
9 凹溝(油溜め部)
10 凹部(油溜め部)
14 真空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、このシリンダにピストンを介して移動自在に挿入したピストンロッドと、シリンダに設けた伸び切り規制部材及びピストンロッドに設けたストッパ部材間に介装されて上記ピストンロッドの伸び切り時の衝撃を緩和するリバウンド部材とを備え、このリバウンド部材をピストンロッドに挿入する略筒状の弾性体で形成した油圧緩衝器において、上記リバウンド部材における伸び切り時のシリンダ内周面との当接部に油溜め部を設けたことを特徴とする油圧緩衝器。
【請求項2】
上記リバウンド部材は天然ゴム、合成ゴム又は合成樹脂により筒状に形成され、伸び切り時におけるシリンダ内周面との当接部となる外周面に全周に亘る凹溝を形成して上記油溜め部とした請求項1記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
上記リバウンド部材は天然ゴム、合成ゴム又は合成樹脂により筒状に形成され、伸び切り時におけるシリンダ内周面との当接部となる外周面に独立した複数の凹部を形成して上記油溜め部とした請求項1記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
上記伸び切り時におけるシリンダ内周面との当接部の少なくとも一部が、凹部として変形して上記油溜め部となるようにリバウンド部材内部に真空部を形成した請求項1記載の油圧緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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