説明

波形発生装置および波形発生装置の配線遅延校正方法

【課題】ピン回路を並列に接続してピンマルチ構成とした場合にも、伝送路間のインピーダンス不整合を生じさせることなくTDR波形を取得し、配線遅延校正を行うことの可能な波形発生装置および波形発生装置の配線遅延校正方法を実現する。
【解決手段】ドライバ21の出力部における信号波形を取得するパーピンTDR手段71と、校正部9を有し、ドライバ21のそれぞれは、校正部9の指令に基づき、第二の伝送路81の一端に同時に到達するように信号を出力し、パーピンTDR手段71は、ドライバのそれぞれの出力端において、信号が出力されてから前記第二の伝送路の他端で反射して戻るまでの波形であるTDR波形を取得し、校正部9は、TDR波形の形状に基づいて第一の伝送路41、42と前記第二の伝送路81の配線遅延の和を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体試験装置等に用いられる波形発生装置および波形発生装置の配線遅延校正方法に関し、更に詳しくは、自身の伝送路によって生じる出力信号の遅延の校正を行う校正部を備えた波形発生装置および波形発生装置の配線遅延校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波形発生装置はIC等の被試験対象デバイス(以下DUT)を試験する半導体試験装置等に用いられ、DUTに対して任意の波形を出力等する装置である。
従来の波形発生装置の構成例を、図面を用いて説明する。図3は、従来の波形発生装置の構成例を示した図である。
図3において、ドライバ21の出力部は、出力抵抗R1(ここでは例として50Ωとする)の一端と接続されている。
出力抵抗R1の他端は、リレー31の一端と接続されている。
伝送路41は、インピーダンスZ1(例として50Ωとする)を有し、一端がリレー31の他端と接続されている。
伝送路41の他端は、図示しないDUTとのインタフェースを介してDUT5に接続可能である。
【0003】
コンパレータ61は、その入力端が出力抵抗R1の他端と接続されている。
なお、ドライバおよびコンパレータから伝送路に至る回路を便宜上、ピン回路と呼ぶ。
ドライバ21、出力抵抗R1、コンパレータ61、リレー31、伝送路41等を含む回路をピン回路1とする。
図3に示すとおり、ピン回路2は、ピン回路1と同一の構成であり、ドライバ22、出力抵抗R2、コンパレータ62、リレー32、伝送路42により構成される。
校正部7は、パーピンTDR(Time Domain Reflectometry)手段71を有している。
パーピンTDR手段71は、ドライバ21,22と、コンパレータ61,62とに接続されている。
【0004】
このような波形発生装置の動作を図面を用いて詳細に説明する。
図3において、伝送路41,42の配線長が異なる場合には、ドライバ21、22から同時に信号を出力したときに、伝送路41,42のそれぞれの他端での信号出力タイミングにズレが生じる。このズレのことをピン間スキューとも呼ぶ。
実際にDUT試験を行う際には、ドライバ21,22の出力タイミングを調整し、ピン間スキューを許容範囲内とするために、配線遅延(伝送路によって生じる信号の遅延)の校正を行う。
校正実行時には、DUT5は切り離され、伝送路41,42の他端を開放端としておく。
パーピンTDR手段71は、定められたタイミングでドライバ21,22が信号を出力するよう指令する。
まず、ピン回路1において、ドライバ21は、パーピンTDR手段71からの指令に基づいて信号を出力する。
ドライバ21から出力された信号は、出力抵抗R1、リレー31、伝送路41を経由して、伝送路41の他端へ達する。伝送路41の他端は開放端となっているので信号はこの開放端で全反射する。この反射波は、伝送路41を戻り、リレー31を経由して、コンパレータ61へ到達する。
パーピンTDR手段71は、コンパレータ61を用いてTDR波形を取得する。
TDR法(Time Domain Reflectometry:時間領域反射率測定法)とは、伝送路に出力した信号の反射波をオシロスコープ等で捉え伝送路の特性インピーダンスを測定する方法のことである。反射の箇所が異なれば時間軸上でも異なる位置でインピーダンス変化が観測されるため、時間(伝送路上の位置)とインピーダンスという2次元情報が得られる。
TDR波形とは、TDR法によって取得した波形のことである。
ピン回路2についてもピン回路1と同様な動作を行い、TDR波形を取得する。
【0005】
図4は、コンパレータ61,62の入力端におけるTDR波形であり、(a)、(b)は、それぞれコンパレータ61、62の入力端のものである。
図4(a)において、最初のステップの時刻(T1)は、ドライバ21の信号出力時刻を示し、次のステップの時刻(T2)は、伝送路41の他端からの反射波の到着時刻を示す。
図4(a)に示す、Δt1=(T2−T1)は伝送路41の往復時間であるので、ピン回路1の伝送路41による配線遅延は、Δt1/2と求められる。
図4(b)についても同様に、Δt2/2がピン回路2の伝送路42の配線遅延である。
パーピンTDR手段71は、このようにピン回路1,2の配線遅延(Δt1/2、Δt2/2)を取得する。
【0006】
実際にDUT5の試験を行う際には、図示しない制御部が各ピン回路の配線遅延に基づいて、ドライバ21,22の出力タイミングを調整し、ピン間スキューが校正された信号を発生させる。
【0007】
特許文献1には、配線遅延を校正する校正部を備えた波形発生装置の構成例が詳細に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−292565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体試験装置のデータレート(動作周波数性能)がDUTの試験条件に満たない場合等には、より高い周波数信号を出力するために、複数のピン回路の出力端同士を接続し、この接続端にDUTを接続して波形を発生させる構成とすることがある。
例えば、図5のように、図3の伝送路41,42の他端を、伝送路81を介してDUT5と接続する構成とする。この構成はピンマルチ等と呼ばれる。
ここで、伝送路41の他端から伝送路81までの経路長と、伝送路42の他端から伝送路81までの経路長は、実質的に同一となるよう接続される。
このような構成にすれば、2つのドライバを用いて元のデータレートの2倍のデータレートを得ることができる。
【0010】
伝送路81は例えばDUTインターフェース(以下DUTI/F8と呼ぶ)上に形成される。DUTI/F8は、DUTがウェハー状態の場合にはプローブカード等であり、DUTがパッケージされた状態の場合にはDUTボード等である。
ここで、伝送路81のインピーダンスであるZ3を、伝送路41,42のインピーダンスであるZ1,Z2の並列合成インピーダンスと等しくすることで、伝送路41,42と伝送路81間がインピーダンス整合することが知られている。(つまり、1/Z3=1/Z1+1/Z2の関係である。たとえば、Z1=Z2=50Ωとすると、Z3=25Ωとなる。)
【0011】
従来のパーピンTDR手段71を用いる場合には、このようにピンマルチ構成とした場合にも、配線遅延校正をピン毎に行う。
しかしながら、伝送路81のインピーダンスZ3は、並列に接続された伝送路41,42のインピーダンスZ1,Z2の並列合成インピーダンス値となっているので、ピン回路1とピン回路2それぞれ単独の信号で配線遅延の校正を行う場合、伝送路41と伝送路81、伝送路42と伝送路81においてはインピーダンス不整合となってしまう(Z1≠Z3、Z2≠Z3)。このインピーダンス不整合により伝送路間等による多重反射等が生じて、所望のTDR波形が得られず配線遅延校正を行うことができないという課題があった。
【0012】
そこで本発明は、ピン回路を並列に接続してピンマルチ構成とした場合にも、伝送路間でのインピーダンス不整合を生じさせることなくTDR波形を取得し、配線遅延校正を行うことの可能な波形発生装置および波形発生装置の配線遅延校正方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、
被試験対象に信号を出力するドライバと、このドライバの出力部が第一の伝送路の一端に接続されてピン回路を形成し、
このピン回路が二つ並列に設けられて互いの第一の伝送路の他端同士が接続され、この接続端が、前記第一の伝送路の並列合成インピーダンスと同一インピーダンスを有する第二の伝送路の一端に接続される波形発生装置において、
前記ドライバの出力部における信号波形を取得する波形取得部と、
前記ドライバと前記波形取得部に接続される校正部と、
を有し、
前記第二の伝送路の他端は開放され、
前記ドライバのそれぞれは、前記校正部の指令に基づき、前記第二の伝送路の一端に同時に到達するように信号を出力し、
前記波形取得部は、前記ドライバのそれぞれの出力端において、前記信号が出力されてから前記第二の伝送路の他端で反射して戻るまでの波形であるTDR波形を取得し、
前記校正部は、前記TDR波形の形状に基づいて前記第一の伝送路と前記第二の伝送路の配線遅延の和を求めることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明であって、
前記波形取得部は、前記ドライバの出力部に接続されたコンパレータであることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
被試験対象に信号を出力するドライバと、このドライバの出力部が第一の伝送路の一端に接続されてピン回路を形成し、このピン回路が二つ並列に設けられて互いの第一の伝送路の他端同士が接続され、この接続端が、前記第一の伝送路の並列合成インピーダンスと同一インピーダンスを有する第二の伝送路の一端に接続される波形発生装置の配線遅延校正方法において、
前記第二の伝送路の他端を開放し、
前記ドライバのそれぞれが、校正部の指令に基づき、前記第二の伝送路の一端に同時に到達するように信号を出力し、
波形取得部が、前記ドライバのそれぞれの出力端において、前記信号が出力されてから前記第二の伝送路の他端で反射して戻るまでの波形であるTDR波形を取得し、
前記校正部が、前記TDR波形の形状に基づいて前記第一の伝送路と前記第二の伝送路の配線遅延の和を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被試験対象に信号を出力するドライバと、このドライバの出力部が第一の伝送路の一端に接続されてピン回路を形成し、このピン回路が二つ並列に設けられて互いの第一の伝送路の他端同士が接続され、この接続端が、前記第一の伝送路の並列合成インピーダンスと同一インピーダンスを有する第二の伝送路の一端に接続される波形発生装置において、前記ドライバの出力部における信号波形を取得する波形取得部と、前記ドライバと前記波形取得部に接続される校正部と、を有し、前記第二の伝送路の他端は開放され、前記ドライバのそれぞれは、前記校正部の指令に基づき、前記第二の伝送路の一端に同時に到達するように信号を出力し、前記波形取得部は、前記ドライバのそれぞれの出力端において、前記信号が出力されてから前記第二の伝送路の他端で反射して戻るまでの波形であるTDR波形を取得し、前記校正部は、前記TDR波形の形状に基づいて前記第一の伝送路と前記第二の伝送路の配線遅延の和を求めるので、ピン回路を並列に接続してピンマルチ構成とした場合にも、伝送路間のインピーダンス不整合を生じさせることなくTDR波形を取得し、配線遅延校正を行うことの可能な波形発生装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例の構成図である。
【図2】図1に示す装置で取得したTDR波形である。
【図3】従来の波形発生装置の構成例を示した図である。
【図4】図3に示す装置で取得したTDR波形である。
【図5】図3に示す装置に対して、ピンマルチ構成を施した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示した構成図である。ここで、図3および図5と同一のものは同一符号を付し説明を省略する。
校正部9は、パーピンTDR手段71とピンマルチTDR手段91とを備える。
ピンマルチTDR手段91は、パーピンTDR手段71と、ドライバ21,22と、コンパレータ61,62とに接続されている。
【0019】
このような、波形発生装置の動作を、図面を用いて詳細に説明する。
パーピンTDR手段71は従来例と同様の動作を行い、ピン回路1,2の伝送路41,42の配線遅延を取得しているとする。
ピンマルチTDR手段91は、パーピンTDR手段71によって取得されたピン回路毎の伝送路の配線遅延に基づき、ピン間スキューを調整し信号を出力するよう、ドライバ21,22に指令する。
ドライバ21,22は、この指令に基づき信号を出力し、出力された信号は、ピン回路1においては出力抵抗R1、リレー30を経由し、伝送路40の他端に達し、ピン回路2においては出力抵抗R2、リレー31を経由し、伝送路41の他端に達する。
ピン回路1からの信号とピン回路2からの信号は、ピン間スキューを調整されているので、伝送路81の一端に同位相となって到達する。
【0020】
ここで、伝送路81には、伝送路41,42のそれぞれから同位相の波形信号が入力するとともに、伝送路41,42と伝送路81はインピーダンス整合しているので、伝送路41,42と伝送路81の境界における多重反射等が生じにくい。
伝送路81を進んだ信号は、開放端である伝送路81の他端で反射し、伝送路81の一端から伝送路41,42とに分かれて入力する。
伝送路41,42を経由した信号は、それぞれコンパレータ61,62に入力する。
パーピンTDR手段71は、コンパレータ61,62を用いてTDR波形を取得する。
【0021】
図2(a)、(b)は、それぞれコンパレータ61,22の入力端におけるTDR波形を示している。
図2(a)において、最初のステップの時刻(T1’)は、ドライバ21の信号出力時刻を示し、次のステップの時刻(T2’)は、伝送路41の他端からの反射波の到着時刻を示す。
図2(a)に示す、Δt1’=(T2’−T1’)は伝送路41と伝送路81を信号が往復時間であるので、伝送路41と伝送路81による配線遅延は、Δt1’/2と求められる。
図2(b)についても同様に、Δt2’/2がピン回路2の伝送路42と伝送路81の配線遅延である。
ピンマルチTDR手段91は、このようにピンマルチ構成における各ピン回路の配線遅延(Δt1/2、Δt2/2)を取得する。
【0022】
実際にDUT5の試験を行う際には、図示しない制御部がピンマルチTDR手段91によって取得したピン回路1,2の配線遅延を考慮して、ドライバ21,22の出力タイミングを調整し、ピン間スキューが校正された信号を発生させる。
【0023】
このように本発明によれば、校正部9の指令に基づき、ドライバ21,22のそれぞれは、伝送路81の一端に同時に到達するように信号を出力し、コンパレータ61,62は、信号が出力されてから伝送路81の他端で反射して戻るまでの波形であるTDR波形を取得し、校正部9は、TDR波形の形状に基づいて第一の伝送路41,42と伝送路81の配線遅延を求めるので、ピン回路1,2を並列に接続してピンマルチ構成とした場合にも、各伝送路間のインピーダンス不整合を生じさせることなくTDR波形を取得し、配線遅延校正を行うことの可能な波形発生装置および波形発生装置の配線遅延校正方法を実現することができる。
【0024】
また、パーピンTDR手段71によって既に取得している各ピン回路の配線遅延の情報を使用するので、ピンマルチTDR手段の開発を比較的容易に行うことができるという利点もある。
【0025】
なお、本願発明ではピン回路を二つ使用して、ピンマルチ構成としたが、三つ以上を使用してピンマルチ構成としてもよい。この場合DUTI/Fの伝送路のインピーダンスは、ピン回路が有する伝送路の並列インピーダンスとなる。
例えば、3ピンによりピンマルチ構成とする場合に、ピン回路の伝送路をそれぞれ50Ωとすると、DUTI/F上の伝送路のインピーダンスは、テストヘッド側の3つの伝送路のインピーダンス50Ωの並列インピーダンスである約16.67Ωとすればよい。
【符号の説明】
【0026】
1,2 ピン回路
21,22 ドライバ
61,62 コンパレータ
41,42,81 伝送路
9 校正部
91 ピンマルチTDR手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験対象に信号を出力するドライバと、このドライバの出力部が第一の伝送路の一端に接続されてピン回路を形成し、
このピン回路が二つ並列に設けられて互いの第一の伝送路の他端同士が接続され、この接続端が、前記第一の伝送路の並列合成インピーダンスと同一インピーダンスを有する第二の伝送路の一端に接続される波形発生装置において、
前記ドライバの出力部における信号波形を取得する波形取得部と、
前記ドライバと前記波形取得部に接続される校正部と、
を有し、
前記第二の伝送路の他端は開放され、
前記ドライバのそれぞれは、前記校正部の指令に基づき、前記第二の伝送路の一端に同時に到達するように信号を出力し、
前記波形取得部は、前記ドライバのそれぞれの出力端において、前記信号が出力されてから前記第二の伝送路の他端で反射して戻るまでの波形であるTDR波形を取得し、
前記校正部は、前記TDR波形の形状に基づいて前記第一の伝送路と前記第二の伝送路の配線遅延の和を求めることを特徴とする波形発生装置。
【請求項2】
前記波形取得部は、前記ドライバの出力部に接続されたコンパレータであることを特徴とする請求項1に記載の波形発生装置。
【請求項3】
被試験対象に信号を出力するドライバと、このドライバの出力部が第一の伝送路の一端に接続されてピン回路を形成し、このピン回路が二つ並列に設けられて互いの第一の伝送路の他端同士が接続され、この接続端が、前記第一の伝送路の並列合成インピーダンスと同一インピーダンスを有する第二の伝送路の一端に接続される波形発生装置の配線遅延校正方法において、
前記第二の伝送路の他端を開放し、
前記ドライバのそれぞれが、校正部の指令に基づき、前記第二の伝送路の一端に同時に到達するように信号を出力し、
波形取得部が、前記ドライバのそれぞれの出力端において、前記信号が出力されてから前記第二の伝送路の他端で反射して戻るまでの波形であるTDR波形を取得し、
前記校正部が、前記TDR波形の形状に基づいて前記第一の伝送路と前記第二の伝送路の配線遅延の和を求めることを特徴とする波形発生装置の配線遅延校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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