説明

波形鋼板耐震壁

【課題】波形鋼板耐震壁の施工誤差を吸収しつつ、複数の波形鋼板を接合用波形鋼板で接合し、波形鋼板と接合用波形鋼板が負担するせん断力による鉛直分力を相互に伝達できる波形鋼板耐震壁を提供する。
【解決手段】波形鋼板の重合部側の端部に形成された裏側端部フランジ鋼板は、接合用波形鋼板と反対側に張り出して設けられ、接合用波形鋼板の重合部側の端部に形成された表側端部フランジ鋼板は、裏側端部フランジ鋼板と反対側に張り出して設けられている。この構成により、裏側端部フランジ鋼板と表側端部フランジ鋼板が干渉することなく、波形鋼板と接合用波形鋼板を重ね合わせることができる。また、表側端部フランジ鋼板及び裏側端部フランジ鋼板を設けることで波形鋼板と接合用波形鋼板が負担するせん断力を相互に伝達できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架構を構成する周辺部材に複数の波形鋼板を取り付けて構成された波形鋼板耐震壁に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物における耐震壁としては、特許文献1に示すように、波形に加工した波形鋼板を、波形の折筋の向きを水平方向として架構の構面に配置して構成した波形鋼板耐震壁が提案されている。この波形鋼板耐震壁は、垂直方向にアコーディオンのように伸縮するため鉛直力を負担しないが、水平せん断力に対しては抵抗可能であり、せん断剛性・せん断耐力を確保しつつ優れた変形性能を有している。更に、せん断剛性及び強度については、鋼板の材質強度、板厚、重ね合わせ枚数、波形のピッチ、波高等を変えることにより調整可能であり、剛性及び設計強度の自由度が高い耐震壁を実現している。
【0003】
この波形鋼板耐震壁は、生産性、施工性等の観点から複数ピースに分割される場合が多い。図10(A)、(B)に示す波形鋼板耐震壁100は、架構102の構面に配置された波形鋼板104と波形鋼板106とを接合して構成されている。波形鋼板104と波形鋼板106とは、それぞれの端部に形成された端部フランジ鋼板108、110を突き合わせて、高力ボルト112により摩擦接合されている。ここで、各波形鋼板104、106に作用する地震荷重(せん断力)を相互に伝達するには、端部フランジ鋼板108と端部フランジ鋼板110とが隙間なく密着されていることが望ましい。密着状態が確保されない場合、各波形鋼板104、106が負担するせん断力の鉛直分力が、端部フランジ鋼板108、110を伝って、上側及び下側の梁114、116に集中的に作用(矢印A)し、梁114、116にせん断補強等が必要となるためである。しかしながら、架構102の施工誤差、波形鋼板104、106の取り付け誤差等によっては、波形鋼板104、106が傾き、端部フランジ鋼板108と端部フランジ鋼板110とを密着させることが困難な場合がある。
【0004】
一方、図11(A)、(B)に示すように特許文献2には、柱118と薄板のC形鋼からなる梁120との接合構造122が提案されている。この接合構造122は、柱118から張り出した接合金物124の凸部124Aと梁120の凹部120Aとを嵌め合わせて嵌合部とし、嵌合部をボルト128で圧着することで梁120を支持している。即ち、嵌合部における凸部124Aと凹部120Aとの嵌め合い作用によって梁120の自重(矢印B)を負担するため、凹部120Aの内壁に沿って凸部124Aが隙間なく密着していなければならない。即ち、嵌合部に隙間(遊び)を設けることができず施工誤差を吸収することができない。
【0005】
特許文献3には、図12に示すように、架構130の構面に、隙間132を空けて配置された波形鋼板134、136に接合用波形鋼板138を重ねて、溶接又はボルトで接合した波形鋼板耐震壁140が提案されている。この波形鋼板耐震壁140では、架構130の構面に波形鋼板134、136を配置した後に、波形鋼板134と波形鋼板136との間にまたがるように接合用波形鋼板138を重ねて接合するため、架構130の施工誤差等を吸収できる。また、各波形鋼板134、136と接合用波形鋼板138とを溶接により一体化することで、地震等の大きなせん断力に対しても接合状態を維持することができる。しかし、この溶接作業には熟練を要する。
【0006】
一方、波形鋼板134、136と接合用波形鋼板138とをボルト接合した場合は、波形鋼板134、136の隙間132側の端部及び接合用波形鋼板138の鉛直方向の端部に補剛リブを設けて、波形鋼板134、136及び接合用波形鋼板138が負担するせん断力による鉛直分力を相互に伝達することが好ましい。しかしながら、特許文献3には補剛リブの設置方法は開示されていない。
【特許文献1】特開2005−264713号公報
【特許文献2】特開2002−138585号公報
【特許文献3】特開2006−45776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、波形鋼板耐震壁の施工誤差を吸収しつつ、複数の波形鋼板を接合用波形鋼板で接合し、各波形鋼板と接合用波形鋼板が負担するせん断力による鉛直分力を相互に伝達できる波形鋼板耐震壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、架構を構成する周辺部材に取り付けられ、間を空けて配置された複数の波形鋼板と、隣接する前記波形鋼板に架け渡された接合用波形鋼板と、前記波形鋼板と前記接合用波形鋼板とが重なり合う重合部を貫通し前記波形鋼板と前記接合用波形鋼板とを接合するボルトと、前記波形鋼板の前記重合部側の端部に形成され、前記接合用波形鋼板と反対側に張り出して設けられた裏側端部フランジ鋼板と、前記接合波形鋼板の前記重合部側の端部に形成され、前記裏側端部フランジ鋼板と反対側に張り出して設けられた表側端部フランジ鋼板と、を備えることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、波形鋼板の重合部側の端部に形成された裏側端部フランジ鋼板が、接合用波形鋼板と反対側に張り出して設けられている。また、接合用波形鋼板の重合部側の端部に形成された表側端部フランジ鋼板が、裏側端部フランジ鋼板と反対側に張り出して設けられている。そのため、裏側端部フランジ鋼板と表側端部フランジ鋼板が干渉することなく、波形鋼板と接合用波形鋼板を重ね合わせることができる。また、複数の波形鋼板を周辺部材に取り付けた後に、接合用波形鋼板を重ねてボルトにより接合するため、波形鋼板耐震壁の施工誤差・製作誤差を吸収でき、波形鋼板耐震壁の接合作業の手間を軽減することができる。
【0010】
更に、各波形鋼板が負担するせん断力による鉛直分力は、裏側端部フランジ鋼板を介して重合部に伝達される。重合部では、各波形鋼板から伝達されるせん断力による鉛直分力が表側端部フランジ鋼板を介して接合用波形鋼板に伝達される。そのため、各波形鋼板が負担するせん断力による鉛直分力が接合用波形鋼板を介して相互に伝達される。また、裏側端部フランジ鋼板及び表側端部フランジ鋼板には、波形鋼板及び接合用波形鋼板が負担するせん断力による鉛直分力がそれぞれ逆方向に作用して当該鉛直分力を打ち消し合う。従って、周辺部材に作用する集中力が軽減され、波形鋼板と接合用波形鋼板の鉛直力が打ち消し合わなければ必要となる周辺部材のせん断補強が不要となる。よって、施工性の向上、コストの削減を図ることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の波形鋼板耐震壁において、前記接合用波形鋼板が、上側又は下側の前記周辺部材に取り付けられ、下側又は上側の前記周辺部材と前記接合用波形鋼板との間に、開口部を形成することを特徴としている。
【0012】
上記の構成によれば、接合用波形鋼板を上側又は下側の周辺部材に取り付け、下側又は上側の周辺部材と接合用波形鋼板との間に開口部を形成している。そのため、接合用波形鋼板の上下方向の長さを調整することで、所望の大きさの開口部を設けることができる。従って、波形鋼板耐震壁の設計自由度が向上する。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の波形鋼板耐震壁において、前記重合部において前記波形鋼板と前記接合用波形鋼板とが接触する接触面の少なくとも一方に粗面化処理が施されていることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によれば、重合部おいて各波形鋼板と接合用波形鋼板とが接触する接触面の少なくとも一方に粗面化処理を施している。そのため、接触面の摩擦係数が大きくなり波形鋼板と接合用波形鋼板との接合強度が上がる。従って、重合部におけるせん断力の相互伝達が良好となる。また、ボルトのせん断によって波形鋼板が負担するせん断力による鉛直分力を伝達するのではなく、粗面化処理を施した部分をボルトで支圧して摩擦力を発生させることで当該鉛直分力を伝達する。ゆえに、重合部を貫通するボルトの数を削減できるため施工性が向上し、更に、波形鋼板のせん断座屈を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記の構成としたので、波形鋼板耐震壁の施工誤差を吸収しつつ、複数の波形鋼板を接合することができ、各波形鋼板と接合用波形鋼板が負担するせん断力による鉛直分力を相互に伝達できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁について説明する。
【0017】
先ず、図1、図2に示すように、鉄筋コンクリート造の柱10、12及び鉄筋コンクリート造の梁14、16に囲まれた架構18の構面には、波形に加工された2枚の波形鋼板20、22が折り筋の向きを水平方向として配置されている。波形鋼板20、22は、梁14の長手方向に間を空けて配置され、波形鋼板20と波形鋼板22との間に開口部24が形成されている。波形鋼板20、22の間には、波形に加工された接合用波形鋼板26が架け渡され、接合用波形鋼板26が開口部24の上方を区画している。また、接合用波形鋼板26は、折り筋の向きが波形鋼板20、22と同じ方向(水平方向)として波形鋼板20、22の上に重ねられている。そして、波形鋼板20、22と接合用波形鋼板26とが重なり合う重合部28、30において、接合用波形鋼板26と波形鋼板20、22とが高力ボルト32及びナット34により摩擦接合され、波形鋼板耐震壁36が構成されている。
【0018】
波形鋼板20の外周部には、補剛フレーム枠38が溶接等によって取り付けられている。補剛フレーム枠38は、波形鋼板20の柱10側の端部及び梁14、16側の端部に形成された取付フレーム40と、波形鋼板20の重合部28側の端部に形成された端部フランジ鋼板42とから構成されている。一方、柱10、12及び梁14、16にはナット44が所定の間隔で埋設され、取付フレーム40に形成された貫通孔にボルト46を通してナット44にねじ込むことにより、柱10及び梁14、16に波形鋼板20が接合されている。このように柱10及び梁14、16に波形鋼板20を接合することで、取付フレーム40を介して波形鋼板20に作用するせん断力が柱10及び梁14、16に伝達可能とされている。
【0019】
波形鋼板20と同様に、波形鋼板22の外周部には補剛フレーム枠48が溶接等によって取り付けられている。補剛フレーム枠48は、波形鋼板22の柱12側及び梁14、16側の端部に形成された取付フレーム50と、波形鋼板22の重合部30側の端部に形成された端部フランジ鋼板52とから構成され、取付フレーム50に形成された貫通孔にボルト46を通してナット44にねじ込むことにより、柱12及び梁14、16に波形鋼板22が接合されている。
【0020】
図1又は図2に示すように、接合用波形鋼板26の外周部には、補剛フレーム枠54が溶接等によって取り付けられている。補剛フレーム枠54は、接合用波形鋼板26の梁14側の端部に形成された取付フレーム56と、接合用波形鋼板26の左右の端部及び梁16側の端部に形成された端部フランジ鋼板58、60、62とから構成されている。ここで、接合用波形鋼板26は、取付フレーム56に形成された貫通孔にボルト46を通してナット44にねじ込むことにより梁14に接合されているが、取付フレーム56と梁14との間に取付フレーム40又は取付フレーム50が介在する場所では、取付フレーム56と取付フレーム40又は取付フレーム50とにボルト46を貫通させて梁14に接合している。一方、開口部24の上方には、取付フレーム40、50が存在しないため、取付フレーム56と梁14との間に隙間64が生じる。そのため、隙間64に板状のスペーサ、鉄製フィラープレート、又はゴムシート等を設け取付フレーム56と共に梁14に接合する。なお、本実施形態では、ボルト46及びナット44で取付フレーム56と梁14とを接合しているが、取付フレーム56と各取付フレーム40、50との間及び隙間64にグラウト等を充填して接合しても良い。
【0021】
ここで、波形鋼板20、22に接合用波形鋼板26を重ね合わせる前の波形鋼板耐震壁36を図3に示す。波形鋼板20の重合部28(図1参照)側の端部に形成された端部フランジ鋼板42は、図3(B)に示すように、接合用波形鋼板26(図1参照)に対して反対側に張り出して設けられている。即ち、波形鋼板20の裏面20B側に張り出して設けられ、波形鋼板20の表面20A側から張り出していない。一方、接合用波形鋼板26の端部フランジ鋼板58は、図1(B)に示すように波形鋼板20に対して反対側に張り出して設けられている。即ち、接合用波形鋼板26の表面26A側に張り出して設けられ、接合用波形鋼板26の裏面26B側に張り出していない。そのため、端部フランジ鋼板42、端部フランジ鋼板58が干渉することなく、波形鋼板20の表面20Aに接合用波形鋼板26の裏面26Bを接触・密着させることができる。また、端部フランジ鋼板42と同様に、波形鋼板22の重合部30側の端部に形成された端部フランジ鋼板52は、接合用波形鋼板26に対して反対側に張り出して設けられ、接合用波形鋼板26の端部フランジ鋼板60は、波形鋼板22に対して反対側に張り出して設けられている。従って、端部フランジ鋼板52、端部フランジ鋼板60が干渉することなく、波形鋼板22に接合用波形鋼板26を重ね合わせることができる。
【0022】
なお、接合用波形鋼板26と干渉しない範囲で、開口部24に面する端部フランジ鋼板42、52を、接合用波形鋼板26側に張り出しても良く、張り出すことで開口部24周辺のせん断耐力・剛性を補うことができる。
【0023】
図4は、重合部28の拡大断面図である。以下、重合部28について説明するが、重合部30は、重合部28と同様の構成であるため説明を省略する。波形鋼板20の折り目から折り目までを折り板66A〜66Dとし、接合用波形鋼板26の折り目から折り目までを折り板68A〜68Dとすると、重合部28では、折り板66Aと折り板68A、折り板66Cと折り板68Cが突き合わせられて接触している。そして、接合用波形鋼板26の折り板68A、68Cにそれぞれ形成されたボルト孔70及び波形鋼板20の折り板66A、66Cにそれぞれ形成されたボルト孔72に高力ボルト32を通し、反対側からナット34で締め付けることで接合用波形鋼板26と波形鋼板20とが摩擦接合されている。なお、必要に応じて折り板66B、66D、68B、68Dにボルト孔70、72を設け、高力ボルト32及びナット34で接合しても良い。
【0024】
重合部28における波形鋼板20と接合用波形鋼板26とが接触する接触面、即ち、折り板66A、66C及び折り板68A、68Cの表面には粗面化処理が施され、他の折り板よりも摩擦係数が大きくなっている。粗面化処理としては、例えば、波形鋼板20と接合用波形鋼板26とが接触する面に赤錆を自然発生させる、リン酸などの薬品を用いて砂地状に粗くすることが挙げられる。なお、粗面化処理は、必要に応じて66A、66C及び折り板68A、68Cの少なくとも一方の面に施されていれば良い。
【0025】
また、接合用波形鋼板26は、施工誤差を吸収すべく波形鋼板20の波形と異なる大きさの波形に加工されている。即ち、折り板68Cの鉛直方向の長さが折り板66Cよりも長くされ、また、折り板68Aの鉛直方向の長さが折り板66Aよりも短くされている。そのため、折り板66Bと折り板68B、折り板66Dと折り板68Dが接触せず遊び空間74、76が形成されている。そのため、架構18の施工誤差、波形鋼板20の取り付け誤差等により接合用波形鋼板26と波形鋼板20との位置合わせにずれが生じても、遊び空間74、76によって折り板66Aと折り板66C、折り板68Aと折り板68Cを接触・密着させることができる。
【0026】
なお、本実施形態では、折り板66A、66C及び折り板68A、68Cの接触面にのみ粗面化処理を施したが、波形鋼板20と接合用波形鋼板26との重なり方によっては、折り板66Bと折り板68B、折り板66Dと折り板68Dが接触する場合がある。そのため、全ての折り板66A〜66D、68A〜68Dに粗面化処理を施しておくことが好ましい。また、施工誤差の吸収のために接合用波形鋼板26と、波形鋼板20、22の波形を異ならせるのではなく、接合用波形鋼板26に形成されたボルト孔70をボルト孔72よりも径が大きいルーズ孔としても良く、更に、ボルト孔70をルーズ孔とした場合はワッシャー等を用いて摩擦力の伝達効率を上げることが好ましい。
【0027】
また、本実施形態では、接合用波形鋼板26を上側の梁14に接合したが、必ずしも梁14に接合用波形鋼板26を接合する必要はない。また、接合用波形鋼板26を下側の梁16にのみ接合して接合用波形鋼板26の上方に開口部24を形成しても良く、更には、接合用波形鋼板26を梁14、16に接合せず、接合用波形鋼板26の上方及び下方に開口部を形成しても良い。
【0028】
また、ボルト46及びナット44を用いて架構18に波形鋼板20、22を取り付けたがこれに限らない。波形鋼板20、22に作用するせん断力を架構18に伝達できれば良く、例えば、取付フレーム40、50にスタッド等のせん断力伝達部材を取り付け、このせん断力伝達部材を左右の柱10、12、上下の梁14、16の内部に埋め込んで接合しても良い。また、柱10、12及び梁14、16の内周部にスタット等のせん断力伝達部材を備えた接合用プレートを埋め込み、接合用プレートと波形鋼板20、22に取り付けられた取付フレーム40、50とをボルト又は溶接により接合しても良い。更に、波形鋼板20、22は、必ずしも柱10又は柱12に接合する必要はなく、設計強度に応じて梁14、16にのみ接合しても良い。
【0029】
次に、本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の作用及び効果について説明する。
【0030】
架構18を施工する際には、柱10、12等の建て込み作業やナット44の埋設作業において施工誤差が発生する。このような状況下おいて、架構18に波形鋼板20、22を取り付けると波形鋼板20、22が傾く場合があり、図10に示すように端部フランジ鋼板42、52同士を密着させることが困難となる。しかし、本実施形態では、2枚の波形鋼板20、22を架構18に取り付けた後に、波形鋼板20、22にまたがるように接合用波形鋼板26を重ねて高力ボルト32により摩擦接合する。即ち、波形鋼板20、22が傾いても、波形鋼板20、22と接合用波形鋼板26とが重なる重合部28、30において波形鋼板20、22と接合用波形鋼板26とを接触・密着させることができる。また、波形鋼板20、22と接合用波形鋼板26との重なり幅を調整することにより摩擦接合に必要な接触面積を確保することができる。
【0031】
更に、重合部28、30における接触面に粗面化処理を施すことで摩擦係数が大きくなり、高力ボルト32及びナット34による摩擦接合強度が向上する。重合部28を例にすると、少なくとも波形鋼板20の折り板66A、66Cと接合用波形鋼板26の折り板68A、68Cとがそれぞれ接触した状態を確保できれば、設計時に想定した接合強度を実現し得る。この場合、波形鋼板20と接合用波形鋼板26との波形を異なる大きさとすることで波形鋼板20の折り板66A、66Cと接合用波形鋼板26の折り板68A、68Cとを容易に接触・密着できる。また、高力ボルト32のせん断によって波形鋼板20、22が負担するせん断力による鉛直分力を伝達するのではなく、粗面化処理を施した部分を高力ボルト32で支圧して摩擦力を発生させることで当該鉛直分力を伝達する。ゆえに、重合部28、30を貫通するボルトの数を削減できるため施工性が向上し、更に、ボルト孔70、72によるせん断剛性・耐力の低下を抑えることができる。
【0032】
なお、現場において波形鋼板20、22に接合用波形鋼板26を重ね合わせた後に、ボルト孔72に合わせてボルト孔70を空けても良いが、ボルト孔70をルーズ孔として施工誤差を吸収することも可能である。
【0033】
ここで、波形鋼板20及び接合用波形鋼板26が負担するせん断力の伝達イメージを図5に示す。なお、図が煩雑となるため波形鋼板22のせん断力の伝達イメージ及び高力ボルト32等は省略する。
【0034】
波形鋼板20が負担するせん断力による鉛直分力は、矢印Cのように補剛フレーム枠38に沿って伝達される。一方、接合用波形鋼板26が負担するせん断力による鉛直分力は、矢印Dのように補剛フレーム枠54に沿って伝達される。波形鋼板20の端部フランジ鋼板42と接合用波形鋼板26の端部フランジ鋼板58について見ると、波形鋼板20が負担するせん断力による鉛直分力と、接合用波形鋼板26が負担するせん断力による鉛直分力が逆方向に作用して互いに鉛直分力を打ち消し合うことがわかる。なお、端部フランジ鋼板42、58に作用するせん断力による鉛直分力について説明したが、端部フランジ鋼板52、60においても、波形鋼板22が負担するせん断力による鉛直分力と、接合用波形鋼板26が負担するせん断力による鉛直分力が逆方向に作用して鉛直分力を打ち消し合う。
【0035】
一方、図6に示すように波形鋼板20、22を接合用波形鋼板26で接合しない場合、地震荷重が作用すると各波形鋼板20、22が負担するせん断力による鉛直分力(矢印C、E)が端部フランジ鋼板42、52に沿って梁14に集中し、当該鉛直分力に対する反力R1、R2が梁14に生じる。ここで、反力R1、R2が梁14に作用した場合のモーメント図、せん断力図の略図を図7に示す。(A)は、梁14に反力R1が作用した場合の結果、(B)は、梁14に反力R2が作用した場合の結果、(C)は、(A)及び(B)に示す結果を重ね合わせたものである。なお、梁16に生じる反力は、梁14と同様であるため省略する。
【0036】
図7(C)のせん断力図から分かるように、波形鋼板20、22を接合用波形鋼板26で接合しない場合、開口部24の上方の梁14に反力R1、R2が付加せん断力Pとして作用する。そのため、当該梁14部分の応力が過大となりせん断補強等が必要となる。しかし、本実施形態であれば、上述の通り端部フランジ鋼板42及び端部フランジ鋼板58において、波形鋼板20が負担するせん断力による鉛直分力と、接合用波形鋼板26が負担するせん断力による鉛直分力が互いに打ち消し合うため、梁14作用する集中力(付加せん断力P)が小さくなる。従って、波形鋼板20と接合用波形鋼板26の鉛直力が打ち消し合わなければ必要となる梁14、16のせん断補強等が不要となり、施工性の向上、コストの削減を図ることができる。
【0037】
なお、上記したように重合部28、30は、波形鋼板20、22が負担するせん断力の伝達経路となるため、重合部28、30におけるせん断耐力及び靭性を確保しておくことが望ましい。例えば、重合部28、30における波形鋼板20、22又は接合用波形鋼板26に薄肉の鋼板を溶接して板厚を増したり、接合用波形鋼板26等を低降伏点鋼で構成し、当該部位でエネルギー吸収をしても良い。更には、接合用波形鋼板26と波形鋼板20、22との間に、粘弾性体等を配置して地震エネルギーを吸収しても良い。
【0038】
以下、本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の変形例について説明する。
【0039】
図1に示す構成では、開口部24を備えた設計自由度の高い波形鋼板耐震壁36を実現している。この波形鋼板耐震壁36は、接合用波形鋼板26の上下方向の長さを調整することで、所望の大きさの開口部24を設けることができるが、接合用波形鋼板26を梁14及び梁16に接合して開口部24を塞ぐことも可能である。図8に示す波形鋼板耐震壁82では、梁14の長手方向に間を空けて波形鋼板20、22を配置し、波形鋼板20、22に架け渡された接合用波形鋼板26を、取付フレーム56を介して梁14に接合すると共に端部フランジ鋼板62を介して梁16に接合している。そして、波形鋼板20、22と接合用波形鋼板26とが重なり合う重合部28、30を、高力ボルト32及びナット34で締め付けることで、各波形鋼板20、22と接合用波形鋼板26とが摩擦接合されている。このように接合用波形鋼板26を梁14及び梁16に接合することで梁14、16に作用する集中力を軽減することができる。従って、梁14及び16のせん断補強等が不要となり施工性の向上、コスト削減を図ることができる。
【0040】
なお、上記全ての実施形態では、重合部28、30において波形鋼板20、22と接合用波形鋼板26とが接触する接触面に粗面化処理を施したが、必ずしも粗面化処理を施す必要はなく、また、高力ボルト32に替えて通常のボルトを用いても良い。更に、粗面化処理が施されている部分を高力ボルト32で支圧して摩擦力を発生されることで各波形鋼板20、22が負担するせん断力による鉛直分力を伝達したがこれに限らず、高力ボルト32又は通常のボルトのせん断によって波形鋼板20、22が負担するせん断力による鉛直分力を伝達することも可能である。
【0041】
また、柱10、12及び梁14、16から構成された架構18の構面に波形鋼板20、22及び接合用波形鋼板26を配置した場合の例について説明したがこれに限らず、例えば、梁14、16に替えてコンクリートスラブ又は小梁等であっても良く、架構18に3枚以上の波形鋼板を配置して接合用波形鋼板で接合しても良い。更に、柱10、12及び梁14、16は、鉄筋コンクリート造に限られず、鉄骨鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造、鉄骨造、更には現場打ち工法であっても、プレキャスト工法によるものであっても良い。
【0042】
また、各種の波形鋼板20、22及び接合用波形鋼板26は、図9(A)〜(D)に示すような断面形状をした波形鋼板を用いても良い。更に、波形鋼板20、22及び接合用波形鋼板26は、波形の折り筋の向きを水平方向として架構18に配置したがこれに限らず、折り筋の向きを鉛直方向として架構18に配置しても良い。このように配置しても波形鋼板耐震壁に特有の変形性能に影響はなく、優れた耐震性能は確保される。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(A)は、本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁を示す正面図であり、(B)は、図1(A)の1−1線断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁を示す斜視図である。
【図3】(A)は、本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁のおいて、接合用波形鋼板を接合する前の波形鋼板耐震壁を示す正面図であり、(B)は、図3(A)の3−3線断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の重合部を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の断片を模式化した説明図である。
【図6】従来の波形鋼板耐震壁の断片を模式化した説明図である。
【図7】従来の波形鋼板耐震壁における梁の応力状態を示すモーメント図、せん断力図である。
【図8】(A)は、本発明の実施形態に係る波形鋼板耐震壁の変形例を示す正面図であり、(B)は、図8(A)の6−6線断面図である。
【図9】本発明の全ての実施形態に係る波形鋼板の断面形状を示す断面図である。
【図10】(A)従来の波形鋼板耐震壁を示す正面図であり、(B)は図10(A)の8−8線断面図である。
【図11】(A)は、従来技術を示す正面図であり、(B)は図11(A)の9−9線断面図である。
【図12】従来の波形鋼板耐震壁を示す正面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 柱(周辺部材)
12 柱(周辺部材)
14 梁(周辺部材)
16 梁(周辺部材)
20 波形鋼板
22 波形鋼板
24 開口部
26 接合用波形鋼板
28 重合部
30 重合部
32 高力ボルト(ボルト)
36 波形鋼板耐震壁
42 端部フランジ鋼板(裏側端部フランジ鋼板)
52 端部フランジ鋼板(裏側端部フランジ鋼板)
58 端部フランジ鋼板(表側端部フランジ鋼板)
60 端部フランジ鋼板(表側端部フランジ鋼板)
82 波形鋼板耐震壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架構を構成する周辺部材に取り付けられ、間を空けて配置された複数の波形鋼板と、
隣接する前記波形鋼板に架け渡された接合用波形鋼板と、
前記波形鋼板と前記接合用波形鋼板とが重なり合う重合部を貫通し前記波形鋼板と前記接合用波形鋼板とを接合するボルトと、
前記波形鋼板の前記重合部側の端部に形成され、前記接合用波形鋼板と反対側に張り出して設けられた裏側端部フランジ鋼板と、
前記接合波形鋼板の前記重合部側の端部に形成され、前記裏側端部フランジ鋼板と反対側に張り出して設けられた表側端部フランジ鋼板と、
を備えることを特徴とする波形鋼板耐震壁。
【請求項2】
前記接合用波形鋼板が、上側又は下側の前記周辺部材に取り付けられ、
下側又は上側の前記周辺部材と前記接合用波形鋼板との間に、開口部を形成することを特徴とする請求項1に記載の波形鋼板耐震壁。
【請求項3】
前記重合部において前記波形鋼板と前記接合用波形鋼板とが接触する接触面の少なくとも一方に粗面化処理が施されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の波形鋼板耐震壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−161984(P2009−161984A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552(P2008−552)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】