説明

波長選択スイッチ

【課題】使用温度範囲全域において分散素子の分散特性を補正することのできる波長選択スイッチを提供する。
【解決手段】波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、入力部からの光を受光し、光を分散させる分散素子と、分散素子によって波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、光偏向部材によって偏向された分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、分散素子の入射側に配置した2つ以上の偏向プリズムと、を備え、温度変化による、2つ以上の偏向プリズムから分散素子に向けて出射される順方向の光の出射角の変化の2次成分の絶対値と、温度変化前における順方向の光が分散素子から出射する光に沿った光であって、かつ、温度変化後における逆方向の光の分散素子から出射される光の、温度変化による出射角の変化の2次成分の絶対値と、が略一致する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
激増するインターネットトラフィックを収容するため、波長分割多重通信(WDM:Wavelength Division Multiplexing)を中核としたネットワークの光化が急ピッチで進んでいる。近年では、任意の波長を任意の方向に切り替え可能とする波長選択スイッチが注目されている。
【0003】
図33、図34は、波長選択スイッチ100の概念を示す図である。図33は、波長選択スイッチ100を側面から見た図であり、図34は、波長選択スイッチ100を上面から見た図である。
波長選択スイッチ100は、入出力ポートアレイ110、レンズアレイ120、分散素子130、集光レンズ140、及び偏向素子150から構成される。入出力ポートアレイ110は、複数のポートにより構成され、各ポートは、入力ポートまたは出力ポートとして機能する。
【0004】
入出力ポートアレイ110の入力ポートから出射した光は、レンズアレイ120の対応するレンズを経て、分散素子130により波長毎に分散され、集光レンズ140によって、偏向素子150上に集光される。ここで、入出力ポートアレイ110から、偏向素子150に進行する光を順方向の光として考える。偏向素子150は、一般的に複数のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーで構成されており、MEMSミラーを傾けることによって、入力ポートから出射された光は、出力ポートに入射する。MEMSミラーは、例えば、光周波数間隔が100GHzの場合約40個のMEMSミラーが設けられ、光周波数間隔が50GHzの場合は約80個のMEMSミラーが設けられる。
【0005】
波長選択スイッチ100の性能を示す指標の1つとして透過帯域がある。この透過帯域は各波長に対応したMEMSミラーに集光する光のスポット径ωとMEMSミラーの有効幅Wの比率(W/ω)が大きいほど、また、MEMSミラーの位置に対するスポットのずれが小さいほど広くなる。
【0006】
透過帯域(透過帯域幅)が広いと、対応可能なビットレートの上限を上げることが可能になる。なぜなら、高ビットレートの光はスペクトル幅が広がるが、透過帯域が広ければ、広がった分のスペクトル幅も透過帯域幅内に収まるからである。また、透過帯域が広いと、波長選択スイッチ100を多段に接続した場合でも、帯域ずれの蓄積量が小さいので、波長選択スイッチ100の多段接続数を増やすことが可能になる。このように、波長選択スイッチ100の透過帯域を広くすることで、良好な伝送特性を確保することが可能である。
【0007】
透過帯域を広くするにはスポット径ωを小さくする方法があるが、スポット径ωの大きさは限られている。その理由を以下に説明する。波長に対応してMEMSミラーの傾きを制御する波長選択スイッチにおいて、任意の入力ポートのある波長の光が出力ポートに出力された状態で、違う入力ポートに切り替えたい場合、意図しない入力ポートの光が出力ポートに出力されてはいけない。意図しない入力ポートの光が出力ポートに出力されることを防ぐ方法として、MEMSミラーを一度、角度分散方向に振って、繋がっていた入力ポートの光強度を十分に落とすものがある(例えば特許文献1)。その角度分散方向のMEMSミラーの振れ幅は、光強度を充分に落とす必要があるためスポット径ωに依存している。MEMSミラーは構造上大きく振れないため、スポット径ωを小さくするには限界がある。
【0008】
また、透過帯域を広くするためにMEMSミラーの有効幅Wを大きくする方法がある。この方法では、MEMSミラーを大きくするには、以下の式(2)に示すように集光レンズ140の焦点距離f100を大きくするか、分散素子130の分散角φを大きくする必要がある。
W=f100sinΦ (2)
【0009】
集光レンズ140の焦点距離f100を大きくする場合は、分散素子130と集光レンズ140との間隔、及び、集光レンズ140とMEMSミラーとの間隔を大きくする必要があるため、波長選択スイッチ100の大きさが大きくなってしまう。
一方、分散角φを大きくする場合として、例えば特許文献2に示される図35のような分散素子230をシリコン材質のイマージョングレーティングにすると約3倍もの分散角が得られる。図35は、波長選択スイッチ200の構成を示す斜視図である。ここで、ファイバアレイ210から、マイクロレンズアレイ220、分散素子230、及びレンズ240を経て、マイクロミラーアレイ250側へ進行する光を順方向の光として考える。
【0010】
ここで、波長選択スイッチ100および波長選択スイッチ200を構成する各要素は温度特性を有しており、初期設定時にMEMSミラー上での集光位置をMEMSミラー中心に集光するように一致させたとしても、使用環境等によって温度が変化すると、集光位置がMEMSミラー中心位置から変動し、透過帯域幅が狭くなる。特に分散素子230の材質はシリコンであり、シリコンは温度によって屈折率が大きく変化するため、分散特性が大きく変わる。そうすると、集光位置が温度変化時にMEMSミラー中心位置からずれるため、透過帯域が逆に狭くなるという問題があった。これに対して、特許文献2では温度変化によって分散特性が変化することに対して、図36のように偏向プリズム260で補正した順方向の光を分散素子230へ入射させる方法を用いている(例えば特許文献2)。ここで、図36は、補正のための偏向プリズム260と分散素子230との配置を示す図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6798941号明細書
【特許文献2】特開2010−156680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図37は、常温と高温における分散素子230への順方向の入射光の屈折状態を概念的に示す図である。図38は、図37における分散素子230からの順方向の光の出射角α100と温度の関係を示すグラフである。図39は、常温と高温における偏向プリズム260への入射光の屈折状態を概念的に示す図である。図40は、図39における偏向プリズム260からの出射角α200と温度の関係を示すグラフである。図37、図39において、常温状態の屈折は実線で示し、高温状態は破線で示している。
【0013】
図38においてα100と温度Tは次式(3)の関係となる。
α100=(1.9×10−5)T−(1.4×10−2)T+1.0×10 (3)
図40においてα200と温度Tは次式(4)の関係となる。
α200=−(1.5×10−5)T+(1.3×10−2)T+6.8×10 (4)
ここで、Tは温度(°C)である。
【0014】
図37、図39において、分散素子230及び偏向プリズム260の材質はシリコンである。図37、図39では、高温にすることによるシリコンの屈折率変化によって、入射光が常温状態と違う位置を通る様子を示している。分散素子230及び偏向プリズム260に入射する入射角が一定であった場合、使用温度範囲全域の出射角の変化は図38、図40のような曲線を示す。但し、シリコンの屈折率は以下の式(5)のように変化した場合である。
n=−0.00000022T+0.00016T+3.47 (5)
【0015】
図41は、図37における出射側から分散素子230に入射する光が常温及び高温において屈折する状態を概念的に示す図である。図42は、図41における分散素子230からの出射角α300と温度の関係を示すグラフである。図42において出射角α300と温度Tは次式(6)の関係となる。
α300=−(1.7×10−5)T+(1.3×10−2)T+1.7×10 (6)
【0016】
仮に、図41のように分散素子230の出射側から、使用温度範囲全域において、入射角を一定に、光が入射すると仮定すると、使用温度範囲全域の出射角α300の変化は図42のような曲線を示す。このように、順方向の光の分散素子230の出射側から、分散素子230を介して、偏向プリズム260に向かうと仮定した光線を、逆方向の光線と考える。特許文献2においては、温度変化によって分散特性が変化することを課題として取り上げ、その解決策として、図36のように偏向プリズム260で補正した光を分散素子230へ入射させている。
【0017】
分散素子230から出射する順方向の光の出射角を一定にするには図40に示す偏向プリズム260の曲線と図42に示す分散素子230の曲線のそれぞれの1次の項及び2次の項の絶対値を揃える必要がある。それぞれの曲線の0次の項は一致しなくても良い。なぜなら、それぞれの曲線の0次の項は違っていても、偏向プリズム260を通り、分散素子230から出射する順方向の光の出射角の温度による変化は起こらないためである。それぞれの1次の項及び2次の項の絶対値を揃えると、分散素子230から出射する順方向の光の出射角を温度によらず一定にする事が可能となる。
【0018】
図40に示す偏向プリズム260の曲線と図42に示す分散素子230の曲線の1次の項の絶対値は一致させる必要があるが、符号を揃える必要はない。それは分散素子230と偏向プリズム260の配置によって符号は自由に変化できるためである。また、同様に、これらの2つの曲線の2次の項の絶対値を一致させる必要があるが、符号を揃える必要はない。しかし、2次の項の符号に関しては1次の項の符号が一致していれば、2次の項も一致させる必要があり、1次の項の符号が一致していなければ、2次の項の符号を一致させず絶対値の値を揃える必要がある。つまり、2つの曲線のそれぞれの項の符号の関係は図43のようになる。ここで、図43は、図40に示す出射角α200の曲線及び図42に示す出射角α300の曲線における符号の関係を示す表である。
【0019】
偏向プリズム260に入射する順方向の光の入射角と頂角を最適に選ぶことで、偏向プリズム260の曲線の1次成分の絶対値と分散素子230の曲線の1次成分の絶対値を一致させることは可能であるが、これらの曲線の2次成分の絶対値を一致させることはできない。このことは、使用温度範囲全域の分散素子230の出射角を偏向プリズム260によって揃えることはできないことを意味している。したがって、従来の波長選択スイッチでは、使用温度範囲全域において分散素子230の分散特性を偏向プリズム260だけでは完全に補正することはできないという問題がある。
【0020】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、使用温度範囲全域において分散素子の分散特性を補正することのできる波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある態様に係る波長選択スイッチは、波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、入力部からの光を受光し、光を分散させる分散素子と、分散素子によって波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、光偏向部材によって偏向された分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、分散素子の入射側に配置した2つ以上の偏向プリズムと、を備え、温度変化による、2つ以上の偏向プリズムから分散素子に向けて出射される順方向の光の出射角の変化の2次成分の絶対値と、温度変化前における順方向の光が分散素子から出射する光に沿った光であって、かつ、温度変化後における逆方向の光の分散素子から出射される光の、温度変化による出射角の変化の2次成分の絶対値と、が略一致することを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る波長選択スイッチは、使用温度範囲全域において分散素子の分散特性を補正することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る波長選択スイッチの概念を示す側面図である。
【図2】第1実施形態に係る波長選択スイッチの概念を示す上面図である。
【図3】第1実施形態に係る波長選択スイッチのうち分散素子及び集光レンズを拡大して示す図である。
【図4】ミラーアレイの構成を示す斜視図である。
【図5】X方向にミラーが並んだミラーアレイのうち、3つのミラーを抜き出して示す平面図である。
【図6】横軸に周波数、縦軸に出力をとり、透過帯域を示したグラフである。
【図7】常温及び高温状態における逆方向の光の分散素子からの出射角αを示す図である。
【図8】図7における分散素子からの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。
【図9】常温及び高温状態における順方向の光の第2偏向プリズムからの出射角αを示す図である。
【図10】図9における第2偏向プリズムからの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。
【図11】図8に示す出射角αの曲線及び図10に示す出射角αの曲線における符号の関係を示す表である。
【図12】分散素子からの出射角αと温度の関係を示すグラフである。
【図13】図12の一部を拡大して示す図である。
【図14】一般的な光学材料の温度に対する屈折率の変化を示すグラフである。
【図15】図14に示した材料のdn/dtを示す表である。
【図16】分散素子及び第1偏向プリズムの材質がシリコンであった場合において、第2偏向プリズムの材質を図14及び図15の光学材料にしたときの使用温度範囲における出射角曲線αの1次成分及び2次成分を示す表である。
【図17】一般的な偏向プリズムについての入射及び出射の特性を示す図である。
【図18】図17に示す偏向プリズムにおいて、頂角εを変えたときの式(12)における係数A、B、Cの変化を示す表である。
【図19】頂角εを45度とした偏向プリズムについての入射及び出射の特性を示す図である。
【図20】入射角α10=aX+Dの関数のDの値によって変化するα20の関数の係数A、B、Cの値を示す表である。
【図21】第2偏向プリズムにZEONEXを用いた場合の光の進み方を示す図である。
【図22】第1偏向プリズムの材質が高分子材料であるZEONEXを用いた場合の順方向の光が第1偏向プリズムから入射し、第2偏向プリズムを通り、分散素子から光が出射される様子を示す図である。
【図23】第2偏向プリズムの材質として図15に示す光学材料を用いた場合の使用温度範囲における第2偏向プリズムの出射角曲線αの1次成分及び2次成分を示す表である。
【図24】第2実施形態における第2偏向プリズムと第1偏向プリズムの構成を示す図である。
【図25】反射型グレーティングを用いた場合の光学系の構成例を示す図である。
【図26】図25の分散素子の基材をSilicaで、回折格子のピッチを1/900とした場合の入射角αと出射角αを示す図である。
【図27】図26における分散素子からの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。
【図28】常温及び高温状態における第1偏向プリズムからの出射角αを示す図である。
【図29】図28における第1偏向プリズムからの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。
【図30】常温及び高温状態における第1偏向プリズムへの入射角αと第2偏向プリズムからの出射角αを示す図である。
【図31】図30における第2偏向プリズムからの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。
【図32】分散素子からの出射角αと温度の関係を示すグラフである。
【図33】波長選択スイッチの概念を示す側面図である。
【図34】波長選択スイッチの概念を示す上面図である。
【図35】波長選択スイッチの構成を示す斜視図である。
【図36】補正のための偏向プリズムと分散素子との配置を示す図である。
【図37】常温と高温における分散素子への入射光の屈折状態を概念的に示す図である。
【図38】図37における分散素子からの出射角と温度の関係を示すグラフである。
【図39】常温と高温における偏向プリズムへの入射光の屈折状態を概念的に示す図である。
【図40】図39における偏向プリズムからの出射角と温度の関係を示すグラフである。
【図41】図37における出射側から分散素子へ入射させた光が常温及び高温において屈折する状態を概念的に示す図である。
【図42】図41における分散素子からの出射角と温度の関係を示すグラフである。
【図43】図40に示す出射角α200の曲線及び図42に示す出射角α300の曲線における符号の関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明のある態様に係る波長選択スイッチの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により、特許請求の範囲に記載された本発明が限定されるものではない。すなわち、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
<第1実施形態>
図1、図2は、第1実施形態に係る波長選択スイッチ10の概念を示す図である。図1は波長選択スイッチ10の側面図、図2は波長選択スイッチ10の上面図である。波長選択スイッチ10は複数の入出力ポート11とレンズアレイ12、第1偏向プリズム13、第2偏向プリズム14、分散素子15、集光レンズ16、ミラーアレイ17を有している。図3は、波長選択スイッチ10のうち分散素子15及び集光レンズ16を拡大して示す図である。
【0025】
まず、常温状態の波長選択スイッチ10の形態について説明する。
入出力ポート11は、例えば図1に示すように、4つの入力ポート11a〜11dと、1本の出力ポート11eと、が出力ポート11eを中心に第1方向A1に等間隔で並んだ状態で構成されている。なお、入出力ポートの本数、入力ポートと出力ポートの並び等はこの状態で限定されるものではない。また、図1では、入力ポート11aのみ、光が入力されている様子を簡略化して示しているが、実際は複数の入力ポートから、波長多重された光が入力されている。
【0026】
レンズアレイ12は、入出力ポート11を構成する複数のポートにそれぞれ対応したレンズを有している。入力ポート11a、11b、11c、11dから出射した光は、レンズアレイ12を構成するレンズのうち各入力ポートに対応するレンズによって、それぞれコリメートされ、第1偏向プリズム13に入射する。
【0027】
レンズアレイ12のレンズから出射した光は、第1方向A1とは異なる第2方向B1においてαだけ傾いて第1偏向プリズム13に入射する。その後、第2方向B1において光の向きを変えて第1偏向プリズム13を出射し、第2偏向プリズム14に入射する。つまり、第1方向A1においては、第1偏向プリズム13に入射した光は向きを変えることなく、第1偏向プリズム13から出射する。これに対して、第2方向B1においては、第1偏向プリズム13に入射した光は、違う向きに出射して行き、第2偏向プリズム14に入射する。
【0028】
第2偏向プリズム14においても、第1偏向プリズム13と同様に、第2偏向プリズム14に入射した光を第2方向B1において違った向きに変える。第2偏向プリズム14から出射した光は、分散素子15に対して第2方向B1においてαだけ傾いて入射する。分散素子15は、第2偏向プリズム14から出射した光を第1方向A1とは異なる第2方向B1において、波長に応じて角度分散させる。分散素子15に入射する波長多重された光は、各波長に応じて第2方向B1において異なる角度α3a〜α3eの角度範囲の間で進行する。分散素子15において分散する様子は、図2では簡略化して5つの波長のみ図示しており、分散素子15からの出射角度α3a〜α3eを「α3a...」と表示している。また、分散素子15は図1のような反射型のイマージョングレーティングを例として示しているが、これに限定される物ではなく、透過型グレーティング、反射型グレーティングを用いても良い。
【0029】
集光レンズ16の焦点距離は、fであり、分散素子15により分散された各波長の光は、集光レンズ16によってミラーアレイ17のミラー17m上にそれぞれ集光される。分散素子15と集光レンズ16は焦点距離fだけ離れて配置することが望ましい。なぜなら、分散素子15と集光レンズ16が焦点距離fからずれた間隔で配置されると、集光レンズ16から出射した各波長の光のミラー17mへの入射角度が波長ごとに異なってしまう為である。つまり、分散素子15と集光レンズ16の間隔がfであると、集光レンズ16から出射した光は、波長ごとに一致した方向にミラーアレイ17のミラー17mに向かって進む。さらには、分散素子15により波長ごとに異なる方向に分散された各波長の光は、ミラーアレイ17を構成する、各波長に対応した複数のミラー17m上にそれぞれ集光する。その集光位置は複数の入力ポートの光が交わる位置である。
【0030】
ミラーアレイ17は、第2方向B1に沿った方向に並んだ複数のミラー17mを有している。ミラーアレイ17の各ミラー17mは少なくとも第2方向B1に波長多重された波長の数だけ配列されている。仮に、波長多重される波長の数がλ〜λの18個であるとすると、ミラーは第2方向B1に18個並んでおり、その各波長のビームの第2方向B1方向における中心位置と、その波長に対応したミラーの第2方向B1の中心とが一致するように設置されている。
集光レンズ16によって集光される位置の第2方向B1の座標をXとおくとXは次式(7)で表される。
=fsin(α2a−θ) (7)
ここで、θは図3に示すように、集光レンズ16の光軸17cと分散素子15の法線のなす角である。
【0031】
ミラーアレイ17の各ミラー17mは、図4に示すように、X軸に平行な軸Xmを中心に角度Xθと、Y軸に平行な軸Ymを中心に角度Yθと、にそれぞれ独立して回転することが可能である。軸Xmは第2方向B1、軸Ymは第1方向A1に対応している。各ミラー17m上に集光される光は、各ミラーの反射面に対して斜めに入射し、入射方向とは異なった方向に反射される。ここで、図4は、ミラーアレイ17の構成を示す斜視図である。図4においては、各波長の光の集光位置を結んだ軸と、回転軸Xmと、は一致する。
なお、ミラーアレイ17に代えて、再帰反射器や、液晶素子や光学結晶、反射型の液晶表示パネルであるLOCS(Liquid crystal on silicon)を用いて構成することもできる。
【0032】
ミラーアレイ17の各ミラー17mによって反射された光は、広がりを持ったビーム形状で集光レンズ16に入射する。集光レンズ16に入射した各波長の光はコリメート光となって集光レンズ16から分散素子15に向かって進む。集光レンズ16からの光が分散素子15に入射する各波長の光は、ミラーアレイ17の各ミラー17mの回転角が同じなので、分散素子15上で一点に集まる。
【0033】
分散素子15によって波長多重された光は、コリメート状態を保ったまま第2偏向プリズム14、第1偏向プリズム13の順に入射し、それぞれ第2方向B1において光の進む向きを変えながら進んで行き、出力ポート11eに対応したレンズアレイ12のレンズに入射し、出力ポート11eに集光する。
【0034】
波長選択スイッチのミラーと透過帯域の関係を、図5、図6を用いて説明する。図5は、X方向にミラーが並んだミラーアレイ17のうち、3つのミラー17m1、17m2、17m3を抜き出して示す平面図である。図6は、横軸に周波数、縦軸に出力をとり、透過帯域を示したグラフである。
【0035】
ミラーアレイ17のミラー上には、分散素子15によって分散され、集光レンズ16によりミラーアレイ17のミラー17m上に集光された光によるビームスポットが形成される。
ミラーアレイ17上におけるビームスポットの位置は、各々の波長に従って変化する。一般に、ミラーアレイは、ミラーの中心にITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するように、設計・調整される。つまり、ビームスポットの波長がITUグリッドの波長から離れるに従って、ビームスポットはミラー中心から離れた位置に形成されることになる。すなわち、図5において、ミラー中心mcのビームスポット18aに対して、ビームスポットの波長がITUグリッドの波長から離れると、ミラー中心から離れたビームスポット18b、18cとなる。
ここで、ITUは国際電気通信連合によって定められたグリッド規格である。
【0036】
ミラーを用いた波長選択スイッチの場合、分散素子で分散された各波長の光がミラーアレイのミラー上に集光したときに、ミラー端部に入射するビームスポットの一部がミラーからはみ出すことによって、透過率が減少する。透過帯域を、ITUグリッドに対する透過率が±0.5dBとなる周波数領域(図6)とすると、従来の波長選択スイッチの場合の透過帯域は、ミラー両端で0.5dB分のビームはみだしが許容制限となる。この場合、ミラー幅W、分散方向のビームスポット径ω、及び隣接するミラーとのミラー中心間隔Dが決まれば透過帯域は一義的に決まることになる(図5)。
【0037】
ミラーアレイ17は、通常、常温状態で組み立てられる。その際、ミラーの中心にITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するように、ミラーアレイ17は設計・調整される。しかし、波長選択スイッチは常温状態のみ使用されるのではなく、高温状態又は低温状態で使用される可能性があり、その際でも、ミラーの中心にはITUグリッドの波長に一致する波長のビームスポットがミラーに集光するようにしなければならない。仮に集光位置がずれてしまうとそのずれた量だけ透過帯域の幅は狭くなってしまう。
【0038】
波長選択スイッチにおいて、温度変化の影響を受けやすい部材は分散素子15である。仮に分散素子15の高い分散を確保するために、イマージョングレーティングで材質をシリコンで構成し、回折格子のピッチを1/2500(mm)で構成したとする。この場合、入射角度一定で温度変化を与えたとすると、分散素子15の波長が1550nmのときの順方向の光の出射角度は図38のような変化を示す。その大きな要因は式(5)に示すような温度変化において、高い屈折率変化を示す特性にある。ここで、入出力ポート11から、レンズアレイ12、第1偏向プリズム13、第2偏向プリズム14、分散素子15、及び集光レンズ16を経て、ミラーアレイ17側へ進行する光を順方向の光と考え、逆にミラーアレイ17から入出力ポート11側へ進行する光を逆方向の光と考える。
【0039】
このように分散素子15の出射角度が温度によって変化してしまうと集光レンズ16によって集光される光の第2方向B1の位置が変化してしまう。温度変化による出射角度変化量をΔαとすると、X方向における位置の変化量ΔXは次式(8)で求めることができる。
ΔX=fsin(Δα) (8)
【0040】
集光レンズ16によって集光される位置がΔXだけ変化すると、前述したようにずれた量だけ透過帯域の幅は狭くなってしまう。したがって、温度変化における出射角度変化量をΔα≒0にすることができれば、その変化量ΔXをなくすことができる。
【0041】
温度変化による出射角度変化量Δαは、温度変化を与えて分散素子15に入射する光の入射角αに図42のような変化を与えることにより、Δα=0にすることが可能となる。
【0042】
一方、図36のように、分散素子230の前に偏向プリズム260を置いただけでは、使用温度範囲全域において完全に出射角を一致させることはできない。なぜなら、それぞれのシリコンの温度による屈折率変化の影響による出射角変化の曲線である図42と図40が完全に一致しない為である。その理由は図40の曲線の1次成分の絶対値を図42の曲線の1次成分の絶対値に偏向プリズム260の頂角を最適に設定して一致させたとしても、曲線の2次成分の絶対値が一致しないことにある。これによって、使用温度範囲全域において、分散素子230から出射する順方向の光の出射角は一定ではなくなる。
【0043】
温度変化の影響を受けやすい例として、分散素子15及び第1偏向プリズム13の材質がシリコンであり、第2偏向プリズム14の材質がN−LASF40(商標)であった場合がある。この場合において、分散素子15に入射する逆方向の光の入射角が一定であり、かつ、第1偏向プリズム13に入射する順方向の光の入射角が一定であり、シリコンの温度による屈折率変化を上式(5)の関係としたとき、それぞれの使用温度範囲全域の出射角の変化の様子を図7、図9に示し、その出射角変化を図8、図10に示している。但し、分散素子15に入射する光は分散された光が出射される側から温度によって入射角が一定の1550nmの光を入れた場合の特性を示している。また、ここでは分散素子15及び第1偏向プリズム13の材質をシリコンを例に挙げて説明するが、材質はこれに限定されるものではない。
【0044】
図7は、常温及び高温状態における分散素子15からの逆方向の光の出射角αを示す図である。図7において、常温状態の屈折は実線で示し、高温状態は破線で示している。図8は、図7における分散素子15からの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。図8において出射角αと温度Tは次式(9)の関係となる。
α=−(1.7×10−5)T+(1.3×10−2)T+1.7×10 (9)
図9は、常温及び高温状態における第2偏向プリズム14からの順方向の光の出射角αを示す図である。図10は、図9における第2偏向プリズム14からの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。図10において出射角αと温度Tは次式(10)の関係となる。
α=(1.7×10−5)T−(1.3×10−2)T+5.5×10 (10)
【0045】
図8、図10の両方の曲線を比較すると曲線の1次成分及び2次成分の絶対値が一致していることが分かる。また、それぞれの曲線の1次成分及び2次成分の符号の関係が図11のような関係になっており、分散素子15から出射する出射角の温度変化が無いような符号の組み合わせを選ぶ必要がある。これにより、使用温度範囲全域において、温度変化における出射角度変化量Δαをほぼゼロにすることができ、集光レンズ16によって集光される位置の変化量をほぼ無くすことが可能となる。ここで、図11は、図8に示す出射角αの曲線及び図10に示す出射角αの曲線における符号の関係を示す表である。
なお、装置に求められ精度に応じて、図8および図10の曲線の1次成分及び2次成分は、必ずしも、完全に一致する必要はない。
【0046】
図12は、分散素子15からの出射角αと温度の関係を示すグラフである。図13は、図12の一部を拡大して示す図である。図12、図13において、実線は、図1に示すような第1偏向プリズム13、第2偏向プリズム14、及び分散素子15を配置した場合、破線は第1偏向プリズム13と分散素子15の間に第2偏向プリズム14を挟まない場合、一点鎖線は分散素子15のみの場合の分散素子15からの出射角αの変化をそれぞれ示している。
【0047】
図12、図13の実線で示す第1実施形態の構成では、破線で示すように第2偏向プリズム14を分散素子15と第1偏向プリズム13との間に配置しない場合と比較すると、曲線の2次成分がなくなり、出射角αがほぼ一定になっている。また、一点鎖線で示す、第1偏向プリズム13と第2偏向プリズム14を入れない場合と比較すると、第1実施形態の構成では、第1偏向プリズム13を入れたことによって、曲線の1次成分が大きく改善されていることが分かる。
【0048】
図14は、一般的な光学材料の温度に対する屈折率の変化を示すグラフである。図14の縦軸は、測定温度における屈折率nと20°Cにおける屈折率n20との差である。また、図14中に示す材料名は、シリコン以外はいずれも商標である。図15は、図14に示した材料のdn/dtを示す表である。ここで、dn/dtは、各材料の温度変化に対する屈折率の変化である。
【0049】
図15に示すように、光学材料は、種類によって、dn/dTが正であったり負であったり、様々のdn/dTの値を示す。このような光学素子を、第2偏向プリズム14に用いても、使用温度範囲全域において、図42の曲線と、第2偏向プリズム14からの出射角曲線と、において1次成分及び2次成分の絶対値を一致させることが可能である。
【0050】
図16は、分散素子15及び第1偏向プリズム13の材質がシリコンであった場合において、第2偏向プリズム14の材質を図14及び図15の光学材料にしたときの使用温度範囲における出射角曲線αの1次成分及び2次成分を示す表である。
第2偏向プリズム14の材質がどのような材質であっても出射角曲線αの成分の絶対値を一致させることは可能である。図16には、第2偏向プリズム14を用いない場合の結果も示している。図16から、第2偏向プリズム14を用いた場合の第2偏向プリズム14からの出射角曲線の1次成分は、第2偏向プリズム14を用いない場合と同等な値であることが分かる。この現象の理由を以下に説明する。
【0051】
図17は、一般的な偏向プリズム(頂角ε)についての入射及び出射の特性を示す図である。
この偏向プリズムに入射する順方向の光の入射角α10を、次式(11)のような関数で変化を与えると、
α10=aX+b (11)
偏向プリズムから出射する順方向の光の出射角α20は、次式(12)のような関数で表される。
α20=AX+BX+C (12)
但し、
a=1、b=30、
偏向プリズムの屈折率は1.5、
係数A、B、Cは偏向プリズムの頂角εの値によって様々な値になる。
【0052】
図18は、図17に示す偏向プリズムにおいて、頂角εを変えたときの上式(12)における係数A、B、Cの変化を示す表である。図18から、偏向プリズムの頂角εによっては、入射角α10の1次成分aと出射角α20の1次成分Bがほぼ同じ値になる場合があることが分かる。
【0053】
図19は、頂角εを45度とした偏向プリズムについての入射及び出射の特性を示す図である。図19に示す偏向プリズムは、屈折率を1.5としている。
図19に示す偏向プリズムに入射する順方向の光の入射角α10を次式(13)のような関数で変化を与えると、
α10=aX+b (13)
偏向プリズムから出射する順方向の光の出射角α20は、次式(14)のような関数で表される。
α20=AX+BX+C (14)
ただし、a=1である。
【0054】
図20は、入射角α10=aX+Dの関数のDの値によって変化するα20の関数の係数A、B、Cの値を示す表である。
Dの値によっては頂角εの場合と同様に入射角α10の1次成分aと出射角α20の1次成分Bがほぼ同じ値になる場合がある。頂角εや、Dの値を最適な値にすることで1次成分aと出射角α20の1次成分Bが同じ値にすることは可能であるが、そのときの出射角α20の2次成分Aは常に同じ値にはならない。つまり、頂角εや、Dの値によって、入射角α10の1次成分aと出射角α20の1次成分Bを同じ値にしたまま、出射角α20の2次成分Aの値を自由に変化させることできる。
【0055】
波長選択スイッチ10では、このような偏向プリズムの特性を第2偏向プリズム14に利用しており、第2偏向プリズム14が以下の式(15)を満たすような材質及び頂角、第2偏向プリズム14に入射する順方向の光の入射角を選定する。これにより、分散素子15から出射する順方向の光の出射角αを、温度変化に対して、容易にほぼ一定にすることが可能となる。式(15)において、bは第2偏向プリズム14に入射する光の温度変化における入射角変化の曲線の1次成分であり、Bは第2偏向プリズム14から出射する光の温度変化における出射角変化の曲線の1次成分である。
0.5≦|B|/|b|≦1.5 (15)
このように、第1偏向プリズム13と第2偏向プリズム14を用いることによって、分散素子15に入射する光の入射角の曲線の1次成分および2次成分の絶対値を図8の出射角αの曲線の1次成分および2次成分の絶対値と完全に一致させることが可能となる。
【0056】
図21は、第2偏向プリズム14にZEONEXを用いた場合の光の進み方を示す図である。第2偏向プリズム14にZEONEXを用いた場合、第2偏向プリズム14にそれ以外の材料を用いた場合に対して、第2偏向プリズム14の頂角の向きが図21のように逆転する。具体的には次のとおりである。
【0057】
まず、第2偏向プリズム14がN−LASF40、N−FK5、Silica、シリコンの場合は、第1偏向プリズム13と第2偏向プリズム14は、図2に示すように、第1偏向プリズム13の点Pと第2偏向プリズム14の点Qとを結ぶ線PQを含んだ面を光が通過するように配置されている。
ここで、点Pは第1偏向プリズム13において光が通過する第1面と第2面が交わる点であり、点Qは、第2偏向プリズム14において光が通過する第1面と第2面が交わる点である。また、第1偏向プリズム13の頂角は点Pにおける内角であり、第2偏向プリズム14の頂角は点Qにおける内角である。
【0058】
それに対し、第2偏向プリズム14がZEONEXの場合では、図21に示すように、点Pと点Qを結んだ線を含んだ面を光が通過しないように配置されている。
図2と図21に示す例から、第2偏向プリズム14の頂角の向きは第1偏向プリズム13の頂角の向きに対して依存性はないといえる。
【0059】
一般的な偏向プリズムの特性を図17及び図18の例を挙げて説明した。これは、出射角曲線を最適にするには、偏向プリズムの屈折率変化も考慮しないといけないためである。以上述べたように、第2偏向プリズム14の材質はどのような材質であっても出射角曲線の1次成分及び2次成分の絶対値を一致させることが可能である。
【0060】
図22は、第1偏向プリズム13の材質が高分子材料であるZEONEXを用いた場合の順方向の光が第1偏向プリズム13から入射し、第2偏向プリズム14を通り、分散素子15から光が出射される様子を示す図である。
図23は、第2偏向プリズム14の材質として図15に示す光学材料を用いた場合の使用温度範囲における第2偏向プリズム14の出射角曲線αの1次成分及び2次成分を示す表である。
【0061】
図23には、比較のために第2偏向プリズム14を用いない場合の結果も示している。図23から、第2偏向プリズム14を入れることによって、出射角曲線の1次成分を変化させることなく、出射角曲線の2次成分を図8の曲線αの2次成分に近づけることができることが分かる。
【0062】
図22に示す例では、第2偏向プリズム14の材質がシリコンであり、第1偏向プリズム13と第2偏向プリズム14は、第1偏向プリズム13で光が通過する第1面と第2面が交わる点Pと、第2偏向プリズム14で光が通過する第1面と第2面が交わる点Qと、を結ぶ線PQを含んだ面を光が通過するように配置されている。それに対し、第2偏向プリズム14がN−LASF40、N−FK5、Silica、ZEONEXの場合は、図21示す例と同様に、線PQを含んだ面を光が通過しないように配置されている。
【0063】
図22に示す配置において第2偏向プリズム14の材質がN−LASF40、N−FK5の場合、出射角曲線の1次成分を変化させることなく、出射角曲線の2次成分を図8の曲線αの2次成分を完全に揃えることが出来る。しかし、第2偏向プリズム14の材質がSilica、シリコン、ZEONEXの場合では、出射角曲線の2次成分を図8の曲線αの2次成分を完全に揃えることが出来ない。
【0064】
第2偏向プリズム14は、材質、頂角、及び入射角を最適にしただけでは、出射角曲線の1次成分を変化させることなく2次成分を図8の曲線αの2次成分に近づけることは出来ても、完全に揃えることができない場合がある。そのような場合として、第2偏向プリズム14の材質の温度による屈折率変化dn/dTが大きな場合がある。したがって、第2偏向プリズム14の材質は温度による屈折率変化dn/dTが小さな材質を選定する必要がある。この選定基準として、以下の式(1)を満たすような屈折率変化の材質を選ぶと出射角曲線の2次成分を図8の曲線αの2次成分に揃えることが出来る。
|dn/dT|<2.5×10−6 (1)
【0065】
第2偏向プリズム14は、一般的な偏向プリズムの特性を用いている為、一般的な光学素子から選定できる。このため、波長選択スイッチ10の光学系を安価に構成することができる。また、第2偏向プリズム14は、温度による屈折率変化dn/dTが小さければ良いため、光学素子に起因する屈折率もさまざまな値の物を選出することが可能となる。第2偏向プリズム14は屈折率が変化すると第2偏向プリズム14に入射する順方向の光の入射角及び頂角が変化するため、レイアウトが変わる。つまり、第2偏向プリズム14の材質によって、レイアウトが自由に変えられることができ、設計の自由度が増す。
【0066】
<第2実施形態>
図24は、第2実施形態における第2偏向プリズム24と第1偏向プリズム13の構成を示す図である。図24において、常温状態は実線で示し、高温状態は破線で示している。ここで、第1偏向プリズム13から、第2偏向プリズム24側へ進行する光を順方向の光と考える。
第1実施形態の波長選択スイッチ10では第1偏向プリズム13と分散素子15の間に1つの第2偏向プリズム14を配置したが、図24に示すように複数個の偏向プリズムを用いて構成しても良い。図24では第2偏向プリズム24を偏向プリズム25、26の2つの偏向プリズムで構成しているが、偏向プリズムの頂角の方向及び偏向プリズムの個数はこれに限定されるものではない。このように複数個の偏向プリズムで第2偏向プリズムを構成すると、分散素子15に入射する順方向の光の入射角を温度使用領域において、精度良く変化させることが可能となり、分散素子15から出射する順方向の光の出射角を一定にすることが可能となる。
なお、その他の構成、作用、効果については、第1実施形態と同様である。
【0067】
<第3実施形態>
分散素子をシリコンのイマージョングレーティングで構成し、回折格子のピッチを1/2500とした場合、シリコンの屈折率が温度によって変化し、分散素子から出射する順方向の光の出射角変化が発生する。これに対して第1実施形態の波長選択スイッチ10においては、第1偏向プリズム13及び第2偏向プリズム14でその出射角変化を補正していた。
これに代えて、図25に示すように分散素子35を反射型グレーティングで構成してもよい。この構成によれば、第1偏向プリズム33及び第2偏向プリズム34によって順方向の光の向きを補正することにより、温度変化によって回折格子のピッチが膨張及び収縮したとしても、分散素子35から出射する順方向の光の出射角が変化することを抑制することが可能である。図25は、反射型グレーティングを用いた場合の光学系の構成例を示す図である。この出射角の補正について、詳細を次に説明する。ここで、入出力ポート11から、分散素子35側へ進行する光を順方向の光と考える。
【0068】
図26は、図25の分散素子35の基材をSilicaで、回折格子のピッチを1/900とした場合の順方向の光の入射角αと出射角αを示す図である。図26において、常温状態の反射は実線で示し、高温状態は破線で示している。図27は、図26における分散素子35からの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。図27において出射角αと温度Tは次式(16)の関係となる。図26において、分散素子35に入射する順方向の光の入射角αを温度変化において一定にしたときの分散素子35から出射する順方向の光の出射角が変化する様子を示し、その出射角変化を図27に示している。
α=(3.1×10−11)T+(5.9×10−5)T+4.6×10 (16)
但し、その入射角は図25で示している分散素子35の1550nmの順方向の光の出射角αと同じ角度である。
また、分散素子35の基材は一般的に用いられるSilicaを例に挙げて説明をするが、材質はこれに限定されるものでなく、また、回折ピッチである1/900の値も同様に限定されるものではない。
【0069】
図25の第1偏向プリズム33は、温度によって分散素子35の回折格子のピッチが膨張及び収縮したことによる出射角αの変化の1次成分を補正している。図28は、常温及び高温状態における第1偏向プリズム33からの出射角αを示す図である。図28において、常温状態の屈折は実線で示し、高温状態は破線で示している。図29は、図28における第1偏向プリズム33からの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。
図29は、第1偏向プリズム33に対して、波長が1550nmであって、温度によらずに一定の入射角を保った光を入れた場合の温度による出射角特性を示している。図29に示す例では、その曲線の1次成分の絶対値と図27の曲線の1次成分の絶対値を一致させるように、第1偏向プリズム33の入射角、頂角、及び材質を選定している。具体的には、入射角αは10.55°、頂角は11.68°、材質はN−LASF40である。
ここで、図29において出射角αと温度Tは次式(17)の関係となる。
α=(9.0×10−8)T+(5.9×10−5)T+1.1×10 (17)
【0070】
図25の第2偏向プリズム34は、温度によって分散素子35の回折格子のピッチが膨張及び収縮したことによる出射角αの変化の2次成分を補正している。図30は、常温及び高温状態における第1偏向プリズム33への入射角αと第2偏向プリズム34からの出射角αを示す図である。図31は、図30における第2偏向プリズム34からの出射角αと温度Tとの関係を示すグラフである。図30において、常温状態は実線で示し、高温状態は破線で示している。
図31は、第1偏向プリズム33に対して、波長が1550nmであって、温度によらずに一定の入射角を保った光を入れた場合の温度による出射角特性を示している。図31に示す例では、その曲線との2次成分の絶対値と図27の曲線の2次成分の絶対値を一致させるように、第1偏向プリズム33の頂角及び材質を選定している。具体的には、頂角は20.63°、材質はN−K5である。
ここで、図31において出射角αと温度Tは次式(18)の関係となる。
α=(−3.1×10−11)T−(5.9×10−5)T+3.5×10−1 (18)
【0071】
図27及び図31の両方の曲線を比較すると、曲線の1次成分及び2次成分の絶対値が一致していることが分かる。これにより、使用温度範囲全域において、温度変化における出射角度変化量ΔαをΔα≒0にすることができ、集光レンズ16によって集光される位置の変化量をほぼ無くすことは可能となる。
【0072】
図32は、分散素子35からの出射角αと温度の関係を示すグラフである。図32の実線で示す第3実施形態の構成では、破線で示す第2偏向プリズム34を、第1偏向プリズム33と分散素子35の間に配置しない場合と比較すると、2次成分が補正され、出射角αがほぼ一定になっている。また、一点鎖線で示すように、第1偏向プリズム33と第2偏向プリズム34を配置しない場合と比較すると、第3実施形態の構成では、第1偏向プリズム33を配置したことによって、1次成分が大きく改善されていることが分かる。
なお、その他の構成、作用、効果については、第1実施形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明に係る波長選択スイッチは、使用温度が変化しても高い分散特性が必要な波長選択スイッチに有用である。
【符号の説明】
【0074】
10 波長選択スイッチ
11 入出力ポート
11a、11b、11c、11d 入力ポート
11e 出力ポート
12 レンズアレイ
13 第1偏向プリズム
14 第2偏向プリズム
15 分散素子
16 集光レンズ
17 ミラーアレイ
17m ミラー
33 第1偏向プリズム
34 第2偏向プリズム
35 分散素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
前記入力部からの前記光を受光し、前記光を分散させる分散素子と、
前記分散素子によって波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、
前記分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、
前記光偏向部材によって偏向された前記分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、
前記分散素子の入射側に配置された2つ以上の偏向プリズムと、
を備え、
温度変化による、前記2つ以上の偏向プリズムから前記分散素子に向けて出射される順方向の光の出射角の変化の2次成分の絶対値と、
温度変化前における前記順方向の光が前記分散素子から出射する光に沿った光であって、かつ、温度変化後における逆方向の光の前記分散素子から出射される光の、温度変化による出射角の変化の2次成分の絶対値と、が略一致することを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
前記2つ以上の偏向プリズムのうち、前記分散素子の入射側に近い偏向プリズムに前記入力部側から入射する光の入射角が温度によって変化し、
温度変化による前記入射角の変化の曲線の1次成分がbで表され、
前記偏向プリズムのうち、前記分散素子の入射側に近い偏向プリズムから出射する光の出射角が温度によって変化し、
温度変化による前記出射角の変化の曲線の1次成分がBで表される場合、
1次成分bと1次成分Bのそれぞれの絶対値が略一致することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項3】
前記入力部から出射した光が複数の前記偏向プリズムのうち、前記分散素子の入射側から最も遠い偏向プリズムを通過して前記偏向プリズムから出射する光の出射角が温度によって変化し、
温度変化による前記出射角の変化の曲線の1次成分がbで表され、
前記入力部から出射した光が前記複数の偏向プリズムを通過して前記分散素子に入射する前記光の入射角が温度によって変化し、
温度変化による前記入射角の変化の曲線の1次成分がBで表される場合、
1次成分bと1次成分Bのそれぞれの絶対値が略一致することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項4】
前記偏向プリズムのうち、少なくとも1つの偏向プリズムの温度変化による屈折率の変化がdn/dTで表される場合、次式(1)を満足することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
|dn/dT|<2.5×10-6 (1)
【請求項5】
前記偏向プリズムのうち、前記分散素子の入射側に近い偏向プリズムの温度変化による屈折率の変化がdn/dTで表される場合、次式(1)を満足することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
|dn/dT|<2.5×10-6 (1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【公開番号】特開2012−173718(P2012−173718A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38782(P2011−38782)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】