説明

流体噴射装置、及び流体噴射装置の制御方法

【課題】気泡の混入に起因した作業性の低下を防止する。
【解決手段】接続チューブ25の所定位置に、気泡センサ31を取付け、接続チューブ25を流れる流体に気泡が混入していることを検知したら(ステップS1の判定が“Yes”)、その気泡の現在位置を追跡推定する(ステップS2)。そして、気泡が警報開始位置に到達していなければ(ステップS3で“No”)、警報を出力せずに待機する。一方、気泡が警報開始位置に到達したら(ステップS3で“Yes”)、ランプ32を点灯又は点滅させると共に、ブザー33を駆動して警報音を発する(ステップS5)。そして、気泡が警報終了位置に到達したら(ステップS4で“Yes”)、ランプ32及びブザー33の駆動を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置、及び流体噴射装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、流体を噴射して対象部位の切断又は切除などを行う技術が知られている。
例えば、医療分野では、生体組織を切開又は切除する流体噴射装置として、ピエゾ素子の駆動によって容積が変化する流体室と、この流体室に連通されたノズルとを備え、流体室に流体を供給すると共に、ピエゾ素子を駆動することで、脈動する流体をノズルから高速噴射するものがあった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−082202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
流体室に供給される流体には気泡が混入することがあるため、上記特許文献1に記載された従来技術にあっては、流体室に流体を供給する過程で流体を旋回させ、その遠心作用によって気泡との分離を図り、気泡の速やかな排出を促している。
ところで、流体の噴射と気泡の排出とが同時に起こると、しぶきが飛散したり、予期せぬ反動で使用者の手元に影響を与えたりして、作業性が低下する可能性がある。
本発明の課題は、気泡の混入に起因した作業性の低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の発明は、
流体を供給する供給手段と、前記供給手段から供給された流体を噴射する噴射ユニットと、前記供給手段から前記噴射ユニットへの流体供給経路を形成するチューブと、前記チューブ内を流れる流体に気泡が混入しているか否かを検知する検知手段と、前記検知手段の検知結果を報知する報知手段と、を備えることを特徴とする。
このように、流体に気泡が混入しているか否かを検知し、その検知結果を報知することにより、しぶきの飛散や予期せぬ反動の発生などに対してユーザに警戒を促すことができる。したがって、緻密で慎重な作業が求められるような場面では、気泡が排出されるまでの僅かな時間だけ作業を中断するなど、ユーザは適切な対応をとることが可能になり、気泡の混入に起因した作業性の低下を防止することができる。
【0005】
第2の発明は、
前記噴射ユニットは、前記チューブに連通され容積を変更可能な流体室と、前記流体室の容積変更に伴って脈動状態とされた流体を噴射する噴射口と、を備えることを特徴とする。
このように、脈動状態とされた流体を噴射することで、連続噴射する場合と比べて流体が少量で済む。また、術野に飛散し滞留する流量が少ないことで回収もしやすいので、視認性の確保にも貢献する。また、切開・切除・切断する能力は、連続噴射する場合と比べても、同等か、それ以上であることが判明している。
【0006】
第3の発明は、
前記検知手段は、前記チューブに流れる流体に対して、超音波、光、及び赤外線の少なくとも一つを放射し、気泡が混入しているか否かを検知する気泡センサで構成されることを特徴とする。
このように、気泡センサを用いることで、気泡の混入を容易に検知することができる。
【0007】
第4の発明は、
前記検知手段は、前記チューブにおける前記噴射ユニットから離れた位置に設置されることを特徴とする。
このように、検知手段を噴射ユニットから離れた位置に設置することで、気泡が噴射ユニットに到達するまでに、ある程度の時間を確保することができる。これは、気泡が混入している旨を報知し、気泡が排出されるまでの僅かな時間だけ作業を中断するなど、ユーザが適切な対応をとるために必要な時間である。すなわち、気泡が混入している旨を報知した直後に、気泡が噴射ユニットに到達してしまっては、ユーザが適切な対応をとれないからである。
【0008】
第5の発明は、
前記検知手段の設置位置は、前記チューブ内を流れる流体が前記設置位置から前記噴射ユニットに到達するまでに設定時間以上を要する位置であることを特徴とする。
このように、チューブ内を流れる流体が検知手段の設置位置から噴射ユニットに到達するまでに設定時間以上を要するように、検知手段の設置位置を決定することで、気泡が混入している旨を報知し、気泡が排出されるまでの設定時間だけ作業を中断するなど、ユーザが適切な対応をとることが可能となる。
【0009】
第6の発明は、
前記報知手段は、前記検知手段が気泡の混入を検知したときに、気泡の現在位置を推定し、推定した現在位置に基づいて前記報知を行うことを特徴とする。
このように、気泡の現在位置を推定することで、気泡が混入している旨の報知を開始するタイミング、及びその報知を終了するタイミングを最適化することができる。したがって、気泡が混入している旨を報知してから実際に気泡が噴射ユニットに到達するまでに不必要に時間が空いてしまう、又は既に気泡が噴射ユニットから排出されているのに報知し続けてしまうといった事態を回避することができる。
【0010】
第7の発明は、
流体を供給する供給手段と、前記供給手段から供給された流体を噴射する噴射ユニットと、前記供給手段から前記噴射ユニットへの流体供給経路を形成するチューブと、を備えた流体噴射装置によって流体を噴射する流体噴射工程と、前記流体噴射工程が実行されているときに、前記チューブ内を流れる流体に気泡が混入しているか否かを検知する検知工程と、前記検知工程による検知結果を報知する報知工程と、を含むことを特徴とする。
このように、検知工程による検知結果を報知することにより、しぶきの飛散や予期せぬ反動の発生などに対してユーザに警戒を促すことができる。したがって、緻密で慎重な作業が求められるような場面では、気泡が排出されるまでの僅かな時間だけ作業を中断するなど、ユーザは適切な対応をとることが可能になり、気泡の混入に起因した作業性の低下を防止することができる。
【0011】
第8の発明は、
流体を供給する供給手段と、前記供給手段から供給された流体を噴射する噴射ユニットと、前記供給手段から前記噴射ユニットへの流体供給経路を形成するチューブと、前記チューブ内を流れる流体に気泡が混入しているか否かを検知する検知手段と、前記検知手段の検知結果を報知する報知手段と、を備えることを特徴とする。
このように、流体に気泡が混入しているか否かを検知し、その検知結果を報知することにより、しぶきの飛散や予期せぬ反動の発生などに対してユーザに警戒を促すことができる。したがって、緻密で慎重な作業が求められるような場面では、気泡が排出されるまでの僅かな時間だけ作業を中断するなど、ユーザは適切な対応をとることが可能になり、気泡の混入に起因した作業性の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明は、具体例の一つに過ぎず、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、適宜変更してもよい。また、参照する図面は、便宜上、模式的に描いたものであって、形状や縮尺は実際のものとは異なる点がある。
本実施形態では、医療分野で利用される流体噴射装置、つまり例えば水・生理食塩水・薬液などを利用して生体組織を切開又は切除する手術用のウォーターメスを例に説明するが、これに限定されるものではなく、顔料や染料による描画や、塗料による塗膜形成、洗浄液による洗浄、物体の切断や切除など、様々な用途に利用可能である。
【0013】
(構成)
図1は、流体噴射装置1の全体図である。
流体噴射装置1は、流体を貯留した流体容器10と、流体を吸入し吐出するポンプ20と、流体を脈動させながら高速噴射する噴射ユニット100と、ポンプ20及び噴射ユニット100を駆動制御するコントローラ30と、を備える。ポンプ20の吸入口は、接続チューブ15を介して流体容器10に連通し、ポンプ20の吐出口は、接続チューブ25を介して噴射ユニット100に連通している。したがって、ポンプ20は、接続チューブ15を介して流体容器10から流体を吸入し、接続チューブ25を介して噴射ユニット100へ流体を供給する。
なお、ポンプ20は省略し、輸液バッグをスタンド等で噴射ユニット100よりも高い位置に保持することにより、流体を噴射ユニット100へと供給してもよい。これによれば、構成を簡素化することができ、さらに消毒等が容易になる利点もある。ポンプ20を用いる場合には、吐出圧は約3気圧(0.3MPa)以下に設定する。また、輸液バッグを用いる場合には、0.1〜0.15気圧(0.01〜0.15MPa)程度になるように、噴射ユニット100と輸液バッグの液上面との高度差を設定する。
【0014】
噴射ユニット100は、ウォーターパルスメスのハンドピースとして、術者によって把持される部材である。したがって、噴射ユニット100までの接続チューブ25はできるだけ柔軟であることが好ましい。そのためには、柔軟で薄いチューブで、流体を噴射ユニット100に送液可能な範囲で低圧にすることが好ましい。特に、脳手術のように、機器の故障が重大な事故を引き起こす恐れがある場合には、接続チューブ25の切断等において高圧な流体が噴出することは避けなければならず、このことからも低圧にしておく必要がある。
噴射ユニット100には、細いパイプ状の接続流路管200が接続され、接続流路管200の先端部には流路が縮小されたノズル211が挿着されている。
【0015】
図2は、噴射ユニット100の概略構成を示しており、(a)は後述する図3のA−A′断面図、(b)は分解図である。
噴射ユニット100は、容積を変更可能な流体室501を備えており、この流体室501の容積変更により、流体を脈動させながら接続流路管200及びノズル211を介して高速噴射する。
噴射ユニット100は、上ケース500と下ケース301とを対向させた状態で螺子600によって固定して構成される。下ケース301は、鍔部を有する筒状部材であって、一端側は底板311によって閉塞されており、内部には、圧電素子401が配設されている。
【0016】
圧電素子401は、積層型の圧電素子であり、積層方向に伸縮可能に構成されている。圧電素子401の一端側は上板411を介してダイアフラム400に当接し、他端側は底板311の上面312に固定されている。ダイアフラム400は、円盤状の金属薄板で構成され、その外周縁部が下ケース301における凹部303の底面に密着した状態で固定されている。ダイアフラム400の上面には、中心部に開口部を有する円盤状の金属薄板からなる補強板410が積層されている。
上ケース500は、ダイアフラム400に対向する位置に、円筒状の凹部505が形成されており、この凹部505とダイアフラム400とで囲まれた空間が流体室501となる。したがって、圧電素子401に駆動信号を入力し、圧電素子401が伸張/収縮するときに、ダイアフラム400が振動し、流体室501の容積が縮小/拡大する。
【0017】
凹部505における底面の中心には、出口流路511が形成されており、この出口流路511は、上ケース500の外周面に突設された出口流路管510の先端まで貫通している。出口流路511と凹部505との連設部は、流動抵抗を可及的に軽減するために滑らかに丸められている(R面取り)。
なお、流体室501は、円筒状に形成されているが、これに限定されるものではなく、側面視で円錐形、台形、半球形などにしてもよい。
出口流路管510には、接続流路管200が外嵌されている。この接続流路管200には、接続流路201が形成されており、接続流路201の直径は出口流路511の直径より大きい。接続流路管200は、流体圧を吸収しないように、高い剛性を有する。
ノズル211には、流体噴射開口部212が形成されており、この流体噴射開口部212の直径は、接続流路201の直径よりも小さい。
【0018】
上ケース500の外周面には、ポンプ20から流体を供給する接続チューブ25を挿着する入口流路管502が突設されており、この入口流路管502には、入口側の接続流路504が形成されている。接続流路504は、入口流路503に連通されている。入口流路503は、凹部505に連通する溝で構成される。
上ケース500及び下ケース301の接合面には、ダイアフラム400の周りを包囲するように、溝状のパッキンボックス506及び304が形成されている。これらパッキンボックス506及び304によって形成される空間に、リング状のパッキン450が装入されている。
【0019】
これら上ケース500と下ケース301とを組立てると、ダイアフラム400の外周縁部及び補強板410の外周縁部が、上ケース500における凹部505の縁と、下ケース301における凹部303の底面とによって挟持される。パッキン450は、上ケース500のパッキンボックス506と、下ケース301のパッキンボックス304とによって押圧され、流体の漏洩を防止する。すなわち、流体の噴射を行う際には、流体室501が30気圧(3MPa)以上の高圧状態となるため、上ケース500、補強板410、ダイアフラム400、及び下ケース301の夫々の接触面を伝って、流体室501からパッキンボックス506及び304の側へと流体が浸入することが考えられるが、パッキン450によって、それより外側への漏出を防止している。
また、流体室501からパッキンボックス506及び304の側へと流体が浸入してくると、その圧力によってパッキン450がパッキンボックス304及び506の外周壁に向かって押圧されるので、流体の漏出を効果的に防止することができる。したがって、流体の噴射を行う際に、流体室501の高い圧力上昇を維持することができる。
【0020】
図3は、上ケース500における下ケース301との接合面である。
入口流路503は、一端側が流体室501に連通し、他端側が接続流路504に連通している。入口流路503の他端には、流体溜り507が形成されており、流体溜り507と入口流路503との連設部は、流動抵抗を可及的に軽減するために滑らかに丸められている(R面取り)。
入口流路503は、凹部505の壁面501aに対して徐々に近づくように湾曲しながら、凹部505に対して接線方向に連通している。ポンプ20から供給される流体は、凹部505の壁面501aに沿って(図3の矢印方向に)旋回する。このとき、遠心作用によって流体が凹部505の壁面501aに押し付けられることで、気泡が混入している場合には、気泡との分離が図られる。分離した気泡は、出口流路511から排出される。したがって、出口流路511は、旋回流の中心、つまり凹部505の底面中心に形成されることが好ましい。
【0021】
なお、入口流路503は、直線的に流体室501に連通してもよいが、狭いスペースの中で所望のイナータンスを得るためには、入口流路503の流路を長くする必要があることから湾曲させている。
前述したように、ダイアフラム400には補強板410を積層しているが、これはダイアフラム400の耐久性を向上させるためである。すなわち、入口流路503の流体室501との接続部には、切欠状の接続開口部509が形成されるので、ダイアフラム400を高い周波数で駆動したときに、接続開口部509近傍において応力集中が生じて疲労破壊が発生する可能性がある。そのため、切欠のない連続した開口部を有した補強板410を設けることで、ダイアフラム400への応力集中を抑制している。
【0022】
なお、補強板410とダイアフラム400とは、積層固着して一体化してもよい。固着方法は、接着剤を用いる貼着、固層拡散接合、溶接などを採用すればよく、補強板410とダイアフラム400とが、接合面で密着することが好ましい。
上ケース500の四隅には、螺子孔500aが形成されており、この螺子孔500aを介して上ケース500及び下ケース301を螺子600で固定する。
上記の構成により、術者からの駆動指令が入力されたときに、コントローラ30は、ポンプ20を駆動して流体を噴射ユニット100へ供給すると共に、圧電素子401を駆動することでダイアフラム400を振動させ、流体を脈動状態で高速噴射させる。
【0023】
噴射ユニット100の流体吐出は、入口流路側のイナータンスL1(合成イナータンスL1と呼ぶことがある)と、出口流路側のイナータンスL2(合成イナータンスL2と呼ぶことがある)との差によって行われる。
イナータンスLは、流体の密度をρ、流路の断面積をS、流路の長さをhとしたとき、L=ρ×h/Sで表される。流路の圧力差をΔP、流路を流れる流体の流量をQとした場合に、イナータンスLを用いて流路内の運動方程式を変形することで、ΔP=L×dQ/dtという関係が導き出される。
すなわち、イナータンスLは、流量の時間変化に与える影響度合いを示しており、イナータンスLが大きいほど流量の時間変化が少なく、イナータンスLが小さいほど流量の時間変化が大きくなる。
【0024】
また、複数の流路の並列接続や、形状が異なる複数の流路の直列接続に関する合成イナータンスは、電気回路におけるインダクタンスの並列接続や直列接続と同様に、個々の流路のイナータンスを合成して算出することができる。
なお、入口流路側のイナータンスL1は、接続流路504が入口流路503に対して直径が十分大きく設定されているので、イナータンスL1は、入口流路503の範囲において算出される。この際、ポンプ20と入口流路を接続する接続チューブは柔軟性を有するため、イナータンスL1の算出から削除してもよい。
また、出口流路側のイナータンスL2は、接続流路201の直径が出口流路511よりもはるかに大きく、接続流路管200の管部(管壁)の厚さが薄いためイナータンスL2への影響は軽微である。したがって、出口流路側のイナータンスL2は出口流路511のイナータンスと見なしてもよい。
【0025】
そして、本実施形態では、入口流路側のイナータンスL1が出口流路側のイナータンスL2よりも大きくなるように、入口流路503の流路長と断面積、及び出口流路511の流路長と断面積を設定する。
一方、図1に示すように、接続チューブ25には、流体に気泡が混入しているか否かを検知する気泡センサ31が設けられている。この気泡センサ31は、接続チューブ25に流れる流体に対して、超音波、光、及び赤外線の少なくとも一つを放射したときの透過率に応じて、気泡が混入しているか否かを検知する。気泡センサ31の設置位置については後述する。
【0026】
気泡センサ31の信号は、コントローラ30に入力され、気泡を検知したときには、ランプ32及びブザー33を駆動して、術者に対して警報を発する。
次に、コントローラ30で実行される気泡警報処理を、図4のフローチャートに従って説明する。
ステップS1では、気泡センサ31の信号に基づいて、接続チューブ25に流れる流体に気泡が混入しているか否かを判定する。気泡の混入が検知されるまでは、この判定処理を継続して行い、気泡の混入を検知したときには、ステップS2に移行する。
ステップS2では、接続チューブ25を流れる流体の流速、つまりポンプ20の回転速度と、気泡センサ31で気泡を検知してからの経過時間とに基づいて、現在の気泡の現在位置を推定する。すなわち、気泡検知位置(センサ位置)からの気泡の移動距離は、流速×経過時間で算出されるので、その移動距離分だけ気泡検知位置よりも下流に移動させた位置が現在の気泡の現在位置となる。
【0027】
続くステップS3では、気泡の現在位置が警報開始位置に到達しているか否かを判定する。この警報開始位置は、噴射ユニット100から接続チューブ25に沿って所定距離だけ離れた位置であり、少なくとも気泡センサ31よりも下流に設定される。噴射ユニット100からの距離は、気泡が噴射ユニット100に到達するまでに、設定時間を確保するためのものであって、これは術者が噴射ユニット100の噴射方向を術野から逸らすための所要時間である。したがって、気泡センサ31は、警報開始位置か、それよりも上流に設ける必要がある。ここで、気泡の現在位置が警報開始位置に到達していなければ、警報を発するには早いと判断して前記ステップS2に戻る。一方、気泡の現在位置が警報開始位置に到達していれば、警報を発する必要があると判断してステップS4に移行する。
【0028】
ステップS4では、気泡の現在位置が警報終了位置に到達しているか否かを判定する。この警報終了位置は、流体噴射開口部212の先端位置に設定されている。すなわち、気泡の現在位置が警報終了位置に到達していれば、既に気泡が排出されているので、警報は無用であると判断して前記ステップS2に戻る。一方、気泡の現在位置が警報終了位置に到達していなければ、まだ気泡が排出されていないので、警報を終了するには早いと判断してステップS5に移行する。
ステップS5では、ランプ32を点灯又は点滅させると共に、ブザー33を駆動して警報音を発してから前記ステップS2に戻る。
【0029】
(作用)
以上より、ポンプ20が「供給手段」に対応し、噴射ユニット100が「噴射ユニット」に対応し、接続チューブ25が「チューブ」に対応し、気泡センサ31、及びステップS1の処理が「検知手段」に対応し、ランプ32、ブザー33、及びステップS2〜S5の処理が「報知手段」に対応している。また、流体室501が「流体室」に対応し、流体噴射開口部212が「噴射口」に対応している。
先ず、流体室501での流体動作と作用効果について説明する。
【0030】
圧電素子401が急に伸張したときに、入口流路側のイナータンスL1、及び出口流路側のイナータンスL2が十分な大きさを有しているとすると、流体室501の圧力が急上昇して数十気圧に達する。この圧力は、入口流路503に加えられていたポンプ20による圧力より大きいため、入口流路側から流体室501内への流体の流入はその圧力によって減少し、出口流路511からの流出は増加する。したがって、入口流路側に逆止弁を設ける必要がない。
【0031】
入口流路503のイナータンスL1は、出口流路511のイナータンスL2よりも大きいため、入口流路503から流体室501へ流入する流体の減少量よりも、出口流路511から吐出される流体の増加量のほうが大きくなり、接続流路201にパルス状の流体吐出、つまり脈動流が発生する。この吐出の際の圧力変動が、接続流路管200内を伝播して、先端のノズル211の流体噴射開口部212から流体が噴射される。また、ノズル211の流体噴射開口部212の直径は、出口流路511の直径よりも小さいので、流体は更に高圧・高速のパルス状の液滴として噴射される。
流体室501は、入口流路503からの流入量の減少と、出口流路511への流出量の増加との相互作用で、圧力上昇直後に真空状態となる。その結果、ポンプ20の圧力と流体室501の真空状態との双方によって、一定時間が経過した後に、入口流路503の流体は、圧電素子401の動作前と同等な速度で、流体室501へと流れることになる。
【0032】
入口流路503で流動が再開した後、再び圧電素子401の伸張があれば、ノズル211からの脈動流を継続して噴射することができる。
このように、脈動状態で流体を噴射することで、連続噴射する場合と比べて流体が少量で済む。また、術野に飛散し滞留する流量が少ないことで回収もしやすいので、視認性の確保にも貢献する。また、切開・切除・切断する能力は、連続噴射する場合と比べても、同等か、それ以上であることが判明している。
また、前述したように、流体室501では流体が旋回するので、その遠心作用によって気泡との分離が図られ、気泡は流体室501に滞留することなく速やかに出口流路511へと排出される。これにより、流体室501の圧力変動が阻害されることなく、十分な圧力上昇が得られる。
【0033】
したがって、ポンプ20により一定圧力で入口流路503に流体を供給するため、噴射ユニット100の駆動を停止した状態においても入口流路503及び流体室501に流体を供給するため、呼び水動作をしなくても初期動作を開始することができる。
また、出口流路511の直径よりも縮小された流体噴射開口部212から流体を噴出するため、液圧を出口流路511内よりも高めることから、高速の流体噴射を可能にする。
さらに、接続流路管200が、流体室501から流動される流体の脈動を流体噴射開口部212に伝達し得る剛性を有しているので、噴射ユニット100からの流体の圧力伝播を妨げず、所望の脈動流を噴射することができる。
【0034】
また、入口流路503のイナータンスを、出口流路511のイナータンスよりも大きく設定していることから、入口流路503から流体室501への流体の流入量の減少よりも大きい流出量の増加が出口流路511に発生し、接続流路管200内にパルス状の流体吐出を行うことができる。したがって、入口流路503側に逆止弁を設けなくてもよく、噴射ユニット100の構造を簡素化できるとともに、内部の洗浄が容易になる他、逆止弁を用いることに起因する耐久性の不安を排除することができる。
なお、入口流路503及び出口流路511双方のイナータンスを十分大きく設定することにより、流体室501の容積を急激に縮小すれば、流体室501内の圧力を急激に上昇させることができる。
【0035】
また、圧電素子401とダイアフラム400とを採用し、流体室501の容積を可変にしているので、構造の簡素化と、それに伴う小型化を実現できる。また、流体室501の容積変化の最大周波数を1KHz以上の高い周波数にすることができ、高速脈動流の噴射に最適である。
また、流体室501内で旋回流を発生させることで、流体を遠心力により流体室の外周方向に押しやり、旋回流の中心部に気泡が集中し、出口流路511から気泡を排除することができる。このことから、流体室501内に気泡が滞留することによる圧力振幅の低下を防止することができ、噴射ユニット100の安定した駆動を継続することができる。
さらに、流体が入口流路503を通過するだけで旋回流が発生するので、容易に旋回流を発生させることができる。
【0036】
また、入口流路503は溝によって形成されているので、部品数を増やすこともない。
また、ダイアフラム400の上面に補強板410を備えていることにより、ダイアフラム400は補強板410の開口部外周を支点として駆動するため、応力集中が発生しにくく、ダイアフラム400の耐久性を向上させることができる。なお、補強板410のダイアフラム400との接合面の角部を丸めておけば、ダイアフラム400の応力集中を更に緩和することができる。
【0037】
また、補強板410とダイアフラム400とを積層し、一体に固着すれば、噴射ユニット100の組立性を向上させることができる他、ダイアフラム400の外周縁部の補強効果もある。
また、ポンプ20から流体を供給する入口側の接続流路504と入口流路503との接続部に、流体を滞留する流体溜り507を設けているために、接続流路504のイナータンスが入口流路503に与える影響を抑制することができる。
さらに、上ケース500と下ケース301との接合面において、ダイアフラム400の外周方向に離間した位置にリング状のパッキン450を備えているために、流体室501からの流体の漏洩を防止し、流体室501内の圧力低下を防止することができる。
【0038】
次に、気泡警報動作と作用効果について説明する。
流体の噴射と気泡の排出とが同時に起こると、しぶきが飛散したり、予期せぬ反動で術者の手元に影響を与えたりして、作業性が低下する可能性がある。
そこで、本実施形態では、接続チューブ25の所定位置に、気泡センサ31を取付け、接続チューブ25を流れる流体に気泡が混入しているか否かを検知する。気泡センサ31が気泡を検知したら(ステップS1の判定が“Yes”)、その気泡の現在位置を追跡推定する(ステップS2)。このように、気泡センサ31を用いることで、気泡の混入を容易に検知することができる。気泡の現在位置は、気泡検知位置(センサ位置)からの気泡の移動距離を算出すればよい。したがって、ポンプ20の回転速度と、気泡を検知してからの経過時間とに基づいて、気泡の現在位置を推定する。
【0039】
そして、気泡が警報開始位置に到達していなければ(ステップS3で“No”)、警報を出力せずに待機する。一方、気泡が警報開始位置に到達したら(ステップS3で“Yes”)、ランプ32を点灯又は点滅させると共に、ブザー33を駆動して警報音を発する(ステップS5)。
これにより、しぶきの飛散や予期せぬ反動の発生などに対して術者に警戒を促すことができる。したがって、緻密で慎重な施術が求められるような場面では、気泡が排出されるまでの僅かな時間だけ施術を中断するなど、術者は適切な対応をとることが可能になり、気泡の混入に起因した作業性の低下を防止することができる。
【0040】
また、気泡が警報開始位置に到達してから警報の出力を開始するので、警報を出力してから実際に気泡が噴射ユニット100に到達するまでに不必要に時間が空いてしまう、といった事態を回避して、警報を開始するタイミングを最適化することができる。
気泡センサ31は、噴射ユニット100から接続チューブ25に沿って所定距離だけ離れた位置に設置されているので、気泡が噴射ユニット100に到達するまでに、ある程度の時間を確保することができる。これは、警報を発し、術者が警報を認識して、気泡が排出されるまでの僅かな設定時間だけ施術を中断するなど、術者が適切な対応をとるために必要な時間である。すなわち、気泡の混入を検知した直後に、気泡が噴射ユニット100に到達してしまっては、術者が適切な対応をとれないからである。
【0041】
そして、気泡が警報終了位置に到達したら(ステップS4で“Yes”)、ランプ32及びブザー33の駆動を終了する。
これにより、既に気泡が噴射ユニット100から排出されているのに、警報を出力し続けてしまうといった事態を回避して、警報を終了するタイミングを最適化することができる。
【0042】
(変形例)
なお、本実施形態では、ランプ32及びブザー33を駆動して警報を発しているが、これに限定されるものではなく、ディスプレイに警報内容を表示したり、スピーカで音声による警報内容を出力したりしてもよい。
また、本実施形態では、流体を脈動状態で高速噴射する噴射ユニット100について説明したが、これに限定されるものではなく、流体を連続して高速噴射するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】流体噴射装置1の全体構成である。
【図2】噴射ユニット100の概略構成である。
【図3】上ケース500の接合面である。
【図4】気泡警報処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1…流体噴射装置、10…流体容器、15…接続チューブ、25…接続チューブ、20…ポンプ、30…コントローラ、31…気泡センサ、32…ランプ、33…ブザー、100…噴射ユニット、200…接続流路管、201…接続流路、211…ノズル、212…流体噴射開口部、401…圧電素子、501…流体室、503…入口流路、511…出口流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を供給する供給手段と、
前記供給手段から供給された流体を噴射する噴射ユニットと、
前記供給手段から前記噴射ユニットへの流体供給経路を形成するチューブと、
前記チューブ内を流れる流体に気泡が混入しているか否かを検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果を報知する報知手段と、を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記噴射ユニットは、前記チューブに連通され容積を変更可能な流体室と、前記流体室の容積変更に伴って脈動状態とされた流体を噴射する噴射口と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記検知手段は、前記チューブに流れる流体に対して、超音波、光、及び赤外線の少なくとも一つを放射し、気泡が混入しているか否かを検知する気泡センサで構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記検知手段は、前記チューブにおける前記噴射ユニットから離れた位置に設置されることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記検知手段の設置位置は、前記チューブ内を流れる流体が前記設置位置から前記噴射ユニットに到達するまでに設定時間以上を要する位置であることを特徴とする請求項4に記載の流体噴射装置。
【請求項6】
前記報知手段は、前記検知手段が気泡の混入を検知したときに、気泡の現在位置を推定し、推定した現在位置に基づいて前記報知を行うことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の流体噴射装置。
【請求項7】
流体を供給する供給手段と、前記供給手段から供給された流体を噴射する噴射ユニットと、前記供給手段から前記噴射ユニットへの流体供給経路を形成するチューブと、を備えた流体噴射装置によって流体を噴射する流体噴射工程と、
前記流体噴射工程が実行されているときに、前記チューブ内を流れる流体に気泡が混入しているか否かを検知する検知工程と、
前記検知工程による検知結果を報知する報知工程と、を含むことを特徴とする流体噴射装置の制御方法。
【請求項8】
流体を供給する供給手段と、
前記供給手段から供給された流体を噴射する噴射ユニットと、
前記供給手段から前記噴射ユニットへの流体供給経路を形成するチューブと、
前記チューブ内を流れる流体に気泡が混入しているか否かを検知する検知手段と、
前記検知手段の検知結果を報知する報知手段と、を備えることを特徴とする手術装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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