説明

流体圧機械

【課題】 液圧媒体(15)、特にイオン液体を封入した少なくとも1つの押し退け容積室(6) を備えた流体圧機械(1) を得る。
【解決手段】押し退け容積室は作動流体のための入口通路(10)と出口通路(11)とに接続可能であり、液圧媒体(15)の液柱が圧力伝達媒体として押し退け容積室内の作動流体と押し退けピストン機構(17)との間に介在している。僅かな構造的占有空間で高い押し退け能力を有する流体圧機械を提供するため、押し退け容積室(6) を軸心(4) 周りに回転可能なシリンダドラム(5) の内部に設け、押し退け容積室の軸心をシリンダドラム(5) の軸心(4) と交差する方向に向けて配置する。好ましくは押し退け容積室(6) をシリンダドラム(5) の軸心(4) と直交する向きの径方向ボアとしてシリンダドラム(5) 内に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容積形の流体圧機械に関し、特に軸心周りに回転するシリンダバレルの内部に少なくとも1つの押し退け容積室が設けられ、この押し退け容積室がシリンダバレルの回転に応じてバルブプレートの制御面にそれぞれ円弧状に形成された第1制御溝と第2制御溝を介して入口通路と出口通路にそれぞれ選択的に接続される形式のユニット形流体圧機械に関する。
【背景技術】
【0002】
冒頭に述べた形式の流体圧機械は、ポンプ又は圧縮機として、或いは原動機として利用可能であり、このような流体圧機械では、回転するシリンダバレル内の押し退け容積室とユニットのケーシングに設けられている入口通路及び出口通路との交互の接続はシリンダバレル端面と摺接するバルブプレートの制御面を介して確保される。制御面はバルブプレートの主面に形成されており、この制御面には入口通路に通じる腎臓形の第1制御溝と出口通路に通じるやはり腎臓形の第2制御溝とが設けられている。従来、各制御溝は共通の基準ピッチ円上に沿って配置されているのが通常である。
【0003】
回転するシリンダバレルの端面は固定配置のバルブプレートの主面に当接して摺動し、シリンダブロックには各押し退け容積室をそれぞれ制御面上の各制御溝に接続するための連絡通路が設けられてる。各連絡通路と各制御溝との対向間隙は漏洩が生じないように平板状シール部材によって周囲からシールされている。
【0004】
このような従来の流体圧機械では、平板状シール部材に生じる摩擦を減じるために流体圧力による静圧平衡部が設けられている。しかしながら、静圧平衡部は吸込側と吐出側との間の漏れ並びに吸込側及び吐出側からケーシング内部空間への漏れを発生させ、更には押し退け容積室間にも圧力流体の流れを発生させる。またこれらの漏れは、平板状シール部材が僅かに破損又は摩滅しただけで増加する欠点も知られている。このような漏れが不可避であることから、冒頭に述べた形式の従来の流体圧機械では最大動作圧力が制限されており、内部漏洩の増加及びそれに起因する効率の低下が顕著になると言う理由から特に1000バールにも達するような高い動作圧力で動作させるのには適していないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭50−48505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、冒頭に述べた形式の流体圧機械において、前述のような内部漏洩が極小で、従って高い動作圧力での動作に適した改良構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、本発明によれば、入口通路に連通する第1制御溝と出口通路に連通する第2制御溝とをシリンダバレルの径方向に関して相対的に離れた位置に設け、シリンダバレルには押し退け容積室を第1制御溝に連通させる第1の連絡通路と第2制御溝に連通させる第2の連絡通路とを設け、これら連絡通路の開口端部には各制御溝に対して端面で摺動する環状シール部材をそれぞれ配置することによって解決される。このように、本発明による流体圧機械では、バルブプレートの各制御溝が別々の基準ピッチ円上に沿って配置されており、これら別々の基準ピッチ円上にそれぞれ配置された連絡通路によって各押し退け容積室が対応する制御溝と連通可能であり、各押し退け容積室に通じる連絡通路の制御溝との連通を周囲からシールするためには、従来の平板状シール部材に代わって、各制御溝に対して端面で摺動する環状シール部材を各連絡通路の開口端部に配置することによって行われる。このような環状シール部材によるメカニカルシールで押し退け容積室相互間の漏れは勿論、吸込側と吐出側との間の漏れ、並びに吸込側及び吐出側からユニットのケーシング内部空間への漏れを効果的に防止することができ、かくして本発明による流体圧機械は特に1000バールに達するような高い動作圧力での使用に適合可能であるだけでなく、内部漏洩が極めて少ない高効率の動作を保証することが可能である。
【0008】
本発明の好ましい一実施形態によれば、各環状シール部材は一端面でバルブプレートと摺接するスリーブによって構成されている。このようなスリーブの端面よる摺動シールによって各押し退け容積室の連絡通路とバルブプレート端面上の制御溝との連通を周囲から確実にシールすることが可能である。
【0009】
各環状シール部材は、それぞれスプリングによってバルブプレートへ向けて押圧付勢されていることが特に好ましい。この場合、スリーブで構成される環状シール部材はスプリングのばね力によって予め付勢されており、このスプリングによる予荷重によってスリーブの端面がバルブプレートの制御面に押し付けられている。これによりスリーブは端面でバルブプレートの制御面に確実に当接し、従って摺動中も確実なシールが保証される。
【0010】
本発明の別の好適な一実施形態によれば、各環状シール部材はそれぞれバルブプレートに向かう押圧力の作用面としての制御面を備えており、各制御面がそれぞれ連絡通路内に現れる流体圧力の受圧面を形成することによって該流体圧力によりバルブプレートへ向かって押圧付勢される。これにより、スリーブで構成される環状シール部材は前記スプリングのばね力に加えて押し退け容積室内に現れる流体圧力によって付加的に付勢される。従って、環状シール部材、即ちスリーブを連絡通路内に現れる動作圧力に応じた力でバルブプレートの制御溝に押圧付勢することができ、ユニットを高い動作圧力で動作させる場合にも制御溝に対する押し退け容積室の連通を周囲から確実にシールして漏れを極小とすることが可能である。
【0011】
この場合、各環状シール部材をそれぞれ連絡通路の端部に設けた拡径段付凹部の内部に配置することにより、これらのメカニカルシール機構を備えた連絡通路を僅かな製造コストで容易に構成することが可能である。
【0012】
本発明の更に別の好適な一実施形態によれば、各環状シール部材はそれぞれOリングによって拡径段付凹部に対してシールされている。これにより拡径段付凹部と環状シール部材(スリーブ)の外周面との間の漏れの発生を僅かな構造コストで効果的に防止することができる。
【0013】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、シリンダバレルとバルブプレートとの摺接端面間において、第1制御溝を第2制御溝に対してシールするシール機構と、第1制御溝をユニットのケーシング内部空間に対してシールするシール機構と、第2制御溝をユニットのケーシング内部空間に対してシールするシール機構とのいずれか1つ以上が更に設けられる。このような付加的なシール機構により、第2制御溝に対する第1制御溝のシール、ケーシング内部空間に対する第1制御溝と第2制御溝のそれぞれのシールを果たすことができ、これにより制御溝間の漏れの発生、制御溝からケーシング内部空間への漏れの発生を防止して、ユニットを高い動作圧力で高効率に作動させることが可能となる。
【0014】
これらのシール機構は、それぞれリング状の端面摺動シール部材によりメカニカルシールとして構成することができ、このようなリング状シール部品によるメカニカルシールで各制御溝を個々に周囲からシールすることができる。
【0015】
各シール機構をそれぞれスプリングによってシリンダバレルへ向けて押圧付勢しておくことは好ましいことである。これにより各シール機構のメカニカルシールを構成するリング状シール部品がシリンダバレルの摺接面に確実に当接した状態を維持し、各制御溝を確実に周囲からシールすることが可能となり、これも僅かな構造コストで達成可能であることは述べるまでもない。
【0016】
各シール機構がそれぞれシリンダバレルに向かう押圧力の作用面としての制御面を備えていることは特に有利である。これにより、各シール機構のメカニカルシールを構成するリング状シール部品はスプリング力に加えて付加的に流体圧力に応じた押圧力の作用でシリンダバレルへ向けて押圧付勢され、従ってユニットが高圧で動作している時にもリング状シール部品は相応の押圧力で各制御溝を相互間及びケーシング内部空間に対して確実にシールし、内部の漏洩を極小とすることができる。
【0017】
この場合、第1制御溝を第2制御溝に対してシールするシール機構の制御面及び第2制御溝をユニットのケーシング内部空間に対してシールするシール機構の制御面は第2制御溝内に現れる流体圧力の受圧面を形成し、第1制御溝をユニットのケーシング内部空間に対してシールするシール機構の制御面は第1制御溝内に現れる流体圧力の受圧面を形成していることが好ましい。本発明によるユニット形流体圧機械をポンプ又は圧縮機として動作させる場合、第1制御溝は低圧側であるユニット入口通路に接続され、第2制御溝は最大動作圧力に達する出口通路に接続される。従ってこの場合は、第1制御溝をユニットのケーシング内部空間に対してシールするシール機構は入口通路側の低圧の流体圧力によって付加的に押圧付勢されるだけであるが、第1制御溝を第2制御溝に対してシールするシール機構及び第2制御溝をユニットのケーシング内部空間に対してシールするシール機構は共に第2制御溝内に現れる出口通路側の高圧の吐出圧力によって付加的に押圧付勢されるので、結果として第1制御溝と第2制御溝とを相互間及びケーシング内部空間に対して確実にシールされた状態に維持することができる。
【0018】
これら各シール機構もそれぞれバルブプレートに設けられた環状凹部の内部に配置することができ、それによって各シール機構のメカニカルシールを構成するリング状シール部品を僅かなコストで簡単な構造により組み込むことが可能である。
【0019】
この場合、環状凹部とシール機構との間の漏れを最も単純な構造で回避するために、各シール機構をそれぞれOリングによって環状凹部に対してシールすることが好ましい。
【0020】
また本発明において、各制御溝は腎臓形制御溝として構成されていることが望ましいことは述べるまでもない。
【0021】
本発明の有利な一実施形態によれば、バルブプレートは調節機構、特に調節ピストン装置によって軸心周りに回動可能であり、これによりシリンダバレルの回転角に対する各制御溝の開口角度範囲の相対位置調整による押し退け容積室に対する入口通路及び出口通路の開閉時期、特に最大動作圧力が現れる第2制御溝側の開閉時期を極く簡単に変更して調整することが可能である。この開閉時期の調整により、最大動作圧力が現れる第2制御溝に押し退け容積室が接続される時に押し退け容積室と第2制御溝内の圧力差で生じる可能性のある圧力補償流れと圧力の脈動を最少に減じることができる。従って、本発明によるユニット形流体圧機械をポンプ又は圧縮機として作動させる場合、エネルギー消費量を高める原因となる圧力の脈動や圧力補償流れの発生を防止することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によるユニット形流体圧機械はポンプ又は圧縮機として動作させるのに適合し、また原動機として動作させるのにも適合する。作動流体としては液体にも気体にも適合でき、特に水素を作動流体とする高圧動作の流体圧機械として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるユニット形流体圧機械をピストンレス圧縮機として構成した場合の一実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1の流体圧機械におけるバルブプレートの構成をその制御面側から模式的に示す正面図である。
【図3】図1の流体圧機械におけるシリンダドラムとバルブプレートとの摺接端面間の様子を模式的に示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の上述及びその他の特徴と利点を、添付図面に概略構成を示した具体的実施形態に基づいて詳述すれば以下の通りである。
【0025】
図1は、ピストンレス圧縮機として構成した場合の本発明の一実施形態に係るユニット形流体圧機械1を模式的に示す縦断面図である。ケーシング2には、ケーシング内部に亘って駆動軸3が軸心4を中心に回転可能に軸受されている。駆動軸3には、本発明で言うシリンダバレルの一部を構成するシリンダドラム5が同期回転可能に連結され、このシリンダドラムの内部には複数の長孔状の押し退け容積室6が設けられている。この場合、各押し退け容積室6はシリンダドラム5内に穿たれた径方向ボア14として形成されており、回転軸心4の周りに放射状に配置されている。各押し退け容積室6の長手軸心7は、駆動軸3、即ちシリンダドラム5の回転軸心4に対して直交する方向に向いている。
【0026】
各押し退け容積室6は、それぞれの径方向内側端部でシリンダドラムに設けられた各2つずつの第1連絡通路8a又は第2連絡通路8bと連通しており、これらの連絡通路はシリンダドラムの一端面上に開口し、その開口端部は、第1連絡通路8aの開口端部が径方向外側に、第2連絡通路8bの開口端部が径方向内側に位置するように、シリンダドラムの径方向に関して相対的に離れた位置に設けられている。これら連絡通路の開口端部が位置するシリンダドラムの端面は、固定部品であるディスク状のバルブプレート9の対向端面に形成された制御面9aに対して摺接可能に支承され、この場合、各連絡通路は後述するようにバルブプレートの制御面に設けられた腎臓形円弧溝からなる複数の制御溝に対してシリンダドラムの回転に応じて選択的に接続されるようになっている。バルブプレートの各制御溝はケーシング2の端板12に設けられた入口通路10又は出口通路11に通じており、従ってバルブプレート9に対するシリンダドラム5の相対回転に応じて各押し退け容積室6は入口通路又は出口通路に交互に接続される。ここで、シリンダドラム5は軸心方向に関して一端面でバルブプレート9により支承され、このバルブプレートはケーシング2に固定された端板12に固定的に支承されている。
【0027】
各押し退け容積室6の内部には、圧力伝達用の液圧媒体15として特にイオン液体が封入されている。
【0028】
各押し退け容積室6はシリンダドラム内の別の連絡通路13によって斜板形アキシャルピストン機械として構成された液圧押し退けピストン機構17の各シリンダ室16と連通している。この押し退けピストン機構17は本発明で言うシリンダバレルの他の一部を構成するシリンダブロック18を備えており、このシリンダブロックの内部には、軸心4から偏心した配置円に沿って前記押し退け容積室と同数の前記シリンダ室16が軸心4と実質的に平行な向きに長手軸心を向けて配列されている。シリンダブロックはシリンダドラム5と同軸配置され、シリンダドラム5及び駆動軸3と相対回転不能に連結されている。勿論、これらのシリンダブロック18とシリンダドラム5を共通の一体化シリンダバレルとして構成することも可能である。
【0029】
アキシャルピストン機械の各シリンダ室16は、シリンダブロック18内に設けられた長手ボア20によって形成されており、これらの長手ボアの内部には、それぞれ1つずつのピストン21が長手方向に相対摺動可能に配置されている。各ピストン21の他端部はそれぞれ1つずつのスライドシュー22を介して斜板23に支承されている。個々のピストン21とスライドシュー22との間にはボールジョイント状のスライドシューヒンジが介装されている。
【0030】
アキシャルピストン機械は押し退け容積を調整可能な斜板形アキシャルピストン機械として構成されており、斜板23は傾転角を調整可能にケーシング2に支承され、図示しない傾転角調節機構によって回転軸心4に対して傾動可能である。但し、固定傾転角の斜板機構によって押し退け容積が一定のアキシャルピストン機械を構成してもよく、この場合は斜板がケーシング2と一体に固定された構造とすればよい。
【0031】
図示するように、シリンダドラム5と押し退けピストン機構17は共通の単一ケーシング2内に配置されている。
【0032】
本発明に係る流体圧機械1を圧縮機として使用する場合、外部に連結される例えば電動機により駆動軸3を介してシリンダドラム5とシリンダブロック18が回転駆動される。この場合、アキシャルピストン機械はポンプとして作動し、圧力伝達用液圧媒体15をシリンダ室16から押し退け容積室6内に押し出し、これにより入口通路10からバルブプレートの制御溝及び連絡通路8を介して押し退け容積室6に導入された流体が圧力伝達用液圧媒体15の液柱を介して圧縮され、圧縮された気体が連絡通路8からバルブプレートの制御溝を介して出口通路11へ吐出される。
【0033】
本発明による流体圧機械1を原動機として動作させる場合、外部から加圧された作動流体が入口通路10を介して押し退け容積室6内に供給される。この供給作動流体の圧力により、押し退け容積室6内の圧力伝達用液圧媒体15の液柱を介してピストン21が付勢され、アキシャルピストン機械にトルクが生成される。このトルクによってアキシャルピストン機械の斜板を介してシリンダドラム5及びシリンダブロック18が回転され、その回転トルクを駆動軸から外部へ取り出すことが可能である。
【0034】
図2は、本実施形態におけるバルブプレート9の構成をその制御面9a側から模式的に示す正面図である。バルブプレート9は、入口通路と連通する第1制御溝20と、出口通路に連通する第2制御溝21とを有し、これらの制御溝はそれぞれ円弧状の腎臓形制御溝として制御面上に形成されている。
【0035】
この場合、第1制御溝20と第2制御溝21は、シリンダドラム5の回転軸心4を中心とする互いに異なる半径の基準ピッチ円上に沿って、シリンダドラムの径方向に関して相対的に離れた位置に設けられている。個々の押し退け容積室6は、第1連絡通路8aにより第1制御溝20と接続可能であり、また第2連絡通路8bにより第2制御溝21と接続可能である。
【0036】
各連絡通路8a、8bの開口端部には、それぞれの制御溝20、21との間の連通を周囲からシールするために、対応する制御溝に沿って制御面9a上を端面で摺動する環状シール部材22a、22bがそれぞれ配置され、シリンダドラムとバルブプレートとの摺接端面間における各連絡通路と制御溝との連通部を周囲からシールするためのメカニカルシールが形成されている。
【0037】
バルブプレートの制御面9aには、シリンダドラム端面と摺接することにより第1制御溝20を第2制御溝21に対してシールするためのメカニカルシール機構25を構成する全周リング状の端面摺動シール部材25aが配置されている。
【0038】
また、バルブプレートの制御面9aには、シリンダドラム端面と摺接することにより第1制御溝20をユニットのケーシング内部空間に対してシールするための別のメカニカルシール機構26を構成する全周リング状の端面摺動シール部材26aと、同様にシリンダドラム端面と摺接することにより第2制御溝21をユニットのケーシング内部空間に対してシールするための更に別のメカニカルシール機構27を構成する全周リング状の端面摺動シール部材27aも配置されている。
【0039】
シール機構27は第2制御溝21よりも径方向内側に配置され、シール機構25は第1制御溝20と第2制御溝21との間の径方向中間位置に配置され、これらシール機構25と27との間に独立した環状室28が形成されており、この環状室28内に第2制御溝21が開口している。従って、動作状態においては、環状室28内は第2制御溝21に現れる圧力の作用下にある。シール機構26は第1制御溝20よりも径方向外側に配置され、このシール機構26と径方向中間位置に配置されているシール機構25との間に別の独立した環状室29が形成されており、この環状室29内に第1制御溝20が開口している。従って、動作状態における環状室29内は第1制御溝20に現れる圧力の作用下にある。
【0040】
バルブプレート9は、例えば調節ピストン装置51によって構成される調節機構50に連結され、この調節機構により回転軸心4を中心として回動させることにより回転角度位置を調整できるようになっている。
【0041】
図3は、本実施形態におけるシリンダドラムとバルブプレートとの摺接端面間の様子を模式的に示す拡大縦断面図である。図示するように、各連絡通路8a、8bの開口端部でメカニカルシールを構成する環状シール部材22a、22bは自身の一端面でバルブプレートの制御面と摺接するスリーブによって構成されており、これらのスリーブは、それぞれ連絡通路8a、8bの端部に設けられた拡径段付凹部30a、30bの内部に配置されている。この場合、各環状シール部材22a、22bは拡径段付凹部30a、30b内に配置されたスプリング31a、31bによってバルブプレート9の制御面へ向けて押圧付勢されている。ここで、各環状シール部材22a、22bの尾端面、即ち図3において左側に位置する端面は、それぞれスプリング31a、31bのばね力と連絡通路8a、8b内に現れる流体圧力を受けてシール部材22a、22bにバルブプレート9へ向かう押圧力を作用させるための制御面32a、32bを構成している。即ち、制御面32a、32bはばね受け面であると共に連絡通路8a、8b内に現れる圧力の受圧面を形成している。各拡径段付凹部30a、30bの内周面と各環状シール部材22a、22bの外周面との間隙はOリング33a、33bによって封止され、これにより各連絡通路8a、8bが環状室28、29内で周囲からシールされている。
【0042】
バルブプレートの制御面上で全周のメカニカルシールを形成する各シール機構25、26、27は、いずれも全周リング形状の端面摺動シール部材25a、26a、27aによって構成され、これらの端面摺動シール部材はバルブプレート9の制御面9aに設けられた環状凹部35、36、37の内部に配置されている。各シール機構の端面摺動シール部材25a、26a、27aは、それぞれ対応する環状凹部35、36、37内に配置された各1つずつのスプリング38、39、40によってシリンダバレル5の端面へ向けて押圧付勢されている。各端面摺動シール部材25a、26a、27aの尾端面、即ち図3において右側に位置する端面は、それぞれスプリング38、39、40のばね力と環状室28、29内に現れる流体圧力を受けて端面摺動シール部材25a、26a、27aにシリンダブロック5へ向かう押圧力を作用させるための制御面41、42、43を構成している。即ち、シール機構25に属する制御面41とシール機構27に属する制御面43はばね受け面であると共に環状室28内に現れる流体圧力、従って第2制御溝21に現れる流体圧力の受圧面を形成しており、シール機構26に属する制御面42はばね受け面であると共に環状室29内に現れる流体圧力、従って第1制御溝20に現れる流体圧力の受圧面を形成している。
【0043】
環状凹部35の径方向外側の内周面とシール機構25の端面摺動シール部材25aの外周面との間隙はOリング45によって封止され、これにより環状室28と環状室29との間がシールされている。
【0044】
同様に環状凹部36の径方向外側の内周面とシール機構26の端面摺動シール部材26aの外周面との間隙は別のOリング46によって封止され、このOリング46によって環状室29がケーシング内部空間からシールされている。
【0045】
最も内周側の環状凹部37の径方向内側の内周面とシール機構27の端面摺動シール部材26aの内周面との間隙は更に別のOリング47によって封止され、このOリング47によって環状室28が駆動軸3側のケーシング内部空間からシールされている。
【0046】
本発明による流体圧機械1は、圧縮機又はポンプとして動作した場合、入口通路10が吸引圧力の低圧側、出口通路11が動作圧力まで加圧された高圧側となる。従って第1制御溝20を介して入口通路10に通じる環状室29内は低圧領域であり、第2制御溝21を介して出口通路11に通じる環状室28は加圧された高圧領域である。連絡通路8aによる第1制御溝20と押し退け容積室6との連通流路は環状シール部材22aによるメカニカルシールによって周囲から確実にシールされる。また連絡通路8bによる第2制御溝21と押し退け容積室6との連通流路も環状シール部材22bによるメカニカルシールによって確実にシールされる。この場合、それぞれのメカニカルシールを形成する各環状シール部材22a及び22bは、それぞれスプリング31a、31bによる押圧付勢に加えて、各押し退け容積室6内に現れる流体圧力によってバルブプレート9へ向けて押しつけられている。第2制御溝21は、シリンダドラムの回転に応じて吐出行程にある押し退け容積室6のみが連絡通路8bを介して接続されるように限定された角度範囲に亘って円弧状に設けられている。この第2制御溝21に対しては、吐出行程で高圧となる押し退け容積室6が連絡通路8bの開口端部に設けられた環状シール部材22bによるメカニカルシールによって周囲から確実にシールされた状態で接続されるので、この接続部分から加圧流体が隣接の他の押し退け容積室へ漏洩することを保証することが可能である。
【0047】
第1制御溝20と第2制御溝21との間の漏洩はシール機構25によって防止され、このシール機構を形成する全周リング状のシール部材は、その制御面に作用するスプリング38のばね力と吐出側に現れる高圧の流体圧力とによってシリンダドラム5へ向けて押圧付勢されている。
【0048】
第2制御溝21から駆動軸3側のケーシング内部空間への漏洩は別のシール機構27によって防止され、このシール機構を形成する全周リング状のシール部材も、その制御面43に作用するスプリング40のばね力と吐出側に現れる高圧の流体圧力とによってシリンダドラム5へ向けて押圧付勢されている。
【0049】
第1制御溝20からケーシング内部空間への漏洩は更に別のシール26によって防止され、このシール機構を形成する全周リング状のシール部材も、その制御面42に作用するスプリング39と吸引側の低圧の流体圧力とによってシリンダドラム5へ向けて押圧付勢されている。
【0050】
従って、シール部材22a、22bによる各連絡通路開口端部のメカニカルシールと、シール部材25a、26a、27aで構成されるシール機構25、26、27による各環状室相互間のメカニカルシールとにより、押し退け容積室6の相互間の漏洩、第1及び第2制御溝20、21の相互間の漏洩、更には各制御溝20、21からケーシング内部空間への漏洩を確実に防止することが可能である。
【0051】
本発明によるユニット形流体圧機械は、動作時の内部漏洩が極めて少なく、従って、高い動作圧力、特に1000バールにも達する高圧の動作に適合し、圧縮機として使用した場合にエネルギー消費の低減と高効率の達成を果たすことが可能である。このことから、本発明によるユニット形流体圧機械は、特に気体用、就中、水素用の圧縮機として使用するのに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体のための入口通路と出口通路とに接続される少なくとも1つの長孔状の押し退け容積室及び押し退けピストン機構を備え、該押し退け容積室内には作動流体とは別に圧力伝達用液圧媒体、特にイオン液体が封入され、該液圧媒体の液柱が圧力伝達媒体として前記押し退け容積室内の作動流体と押し退けピストン機構との間に介在している形式の流体圧機械において、
前記押し退け容積室(6)が軸心(4)周りに回転可能なシリンダドラム(5)の内部に配置され、該押し退け容積室の軸心が前記シリンダドラム(5)の軸心(4)と交差する方向に向けられていることを特徴とする流体圧機械。
【請求項2】
押し退け容積室(6)の軸心がシリンダドラム(5)の軸心(4)に対して直交する方向に向けられていることを特徴とする請求項1に記載の流体圧機械。
【請求項3】
押し退け容積室(6)がシリンダドラム(5)に設けられた径方向ボア(14)として構成されていることを特徴とする請求項2に記載の流体圧機械。
【請求項4】
押し退け容積室(6)と入口通路(10)及び出口通路(11)との接続を制御するバルブプレート(9)を更に備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体圧機械。
【請求項5】
シリンダドラム(5)が軸心方向に関して一端面でバルブプレート(9)により支承され、更に該バルブプレートがケーシング(2)によって支承されていることを特徴とする請求項4に記載の流体圧機械。
【請求項6】
シリンダドラム(5)が軸心(4)上で駆動軸と連結されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の流体圧機械。
【請求項7】
押し退けピストン機構(17)がアキシャルピストン機械として構成され、前記押し退け容積室(6)が該アキシャルピストン機械のシリンダ室(16)と連通していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の流体圧機械。
【請求項8】
前記アキシャルピストン機械が、斜板(23)、特に傾転角を調整可能な斜板を備えた斜板式アキシャルピストン機械として構成されていることを特徴とする請求項7に記載の流体圧機械。
【請求項9】
前記アキシャルピストン機械が内部に前記シリンダ室(16)を有する筒状シリンダブロック(18)を備え、該シリンダブロック(18)が前記押し退け容積室(6)を内蔵した前記シリンダドラム(5)に対して同期回転するように連結されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の流体圧機械。
【請求項10】
前記アキシャルピストン機械のシリンダブロック(18)と前記押し退け容積室(6)を内蔵したシリンダドラム(5)とが共通の一体化シリンダバレルとして構成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の流体圧機械。
【請求項11】
前記シリンダドラム(5)と前記押し退けピストン機構(17)とが共通のケーシング(2)内に配置されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の流体圧機械。
【請求項12】
作動流体として気体、特に水素を圧縮するための圧縮機として構成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の流体圧機械。
【請求項13】
機械的トルクを取り出すための原動機として構成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の流体圧機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−112388(P2012−112388A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21009(P2012−21009)
【出願日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【分割の表示】特願2008−524399(P2008−524399)の分割
【原出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(391009659)リンデ アクチエンゲゼルシャフト (106)
【氏名又は名称原語表記】Linde Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Klosterhofstrasse 1, D−80331 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】