説明

流体昇温用フィルターおよびその製造方法

【課題】流体の温度を安定的にかつ短時間に上昇させることができる流体昇温用フィルターおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】シリコンおよび炭化ケイ素を含有しており、マイクロ波によって加熱されて用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体昇温用フィルターおよびその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、流体の温度を安定的にかつ短時間に上昇させることができる流体昇温用フィルターおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化ケイ素焼結体は、耐熱性、熱伝導性および電気伝導性に優れ、かつ化学的安定性を有しているため、高温用の各種材料として利用されている。特に、炭化ケイ素焼結体の構造を多孔質とした多孔質炭化ケイ素焼結体は、触媒担体、高温ガス浄化フィルター、溶融金属濾過用フィルター、通気性断熱材等の分野において使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭化ケイ素粉末スラリーをスポンジに含浸後、焼結させ、その後さらにシリコンの溶融含浸を行うセラミック多孔質体の製造方法が示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、マイクロ波を吸収して自己発熱する酸化鉄系複合粉末をウレタンフォームに付着後、焼成してセラミックスフォームを作製し、そのセラミックスフォームに対して、家庭用電子レンジ内にて80,200,600Wのマイクロ波を照射した場合の発熱特性、およびこのセラミックスフォーム上にカーボンブラックを付着させ、その後、マイクロ波を照射した場合の加熱除去効果について示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−109376(2000年4月18日公開)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】勝木宏昭,「電気化学的プロセスによる有害物除去システムの開発」,佐賀県窯業技術センター 平成17年度業務報告書 2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示されているセラミック多孔質体の製造方法では、基本的には炭化ケイ素スラリーを用いて、炭化ケイ素を焼結させるので、当該製造方法によって得られるセラミック多孔質体は、かさ密度が0.3未満では強度が不十分であり、好ましいかさ密度が0.45〜0.6である。そのため、上記特許文献1に示されているセラミック多孔質体の製造方法によって得られるセラミック多孔質体は、かさ密度が低く、骨格構造が細く均一な場合には、強度が不十分であり、一方、強度的に問題が無い場合には、かさ密度が高くなり、骨格部分は太く、潰れた気孔部分も多いため、マイクロ波によって加熱された場合に、その温度が全体にわたって安定的に上昇しない。
【0008】
また、上記非特許文献1に示されている流体昇温用フィルターでは、温度が100秒間で200℃上昇し、昇温速度が遅い。
【0009】
本発明の目的は、流体の温度を安定的にかつ短時間に上昇させることができる流体昇温用フィルターおよびその製造方法を提供することにある。なお、本発明の流体昇温用フィルターでは、温度が10秒間で約200℃上昇する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み、上記特許文献1に示されているセラミック多孔質体を流体昇温用として用いることができない理由を、独自の観点から鋭意検討した。
【0011】
流体全体を昇温するヒーターの構造としては、スポンジ状三次元構造が最も適している。スポンジ状三次元構造の炭化ケイ素多孔体としては、上記特許文献1に示されているセラミック多孔質体がある。当該セラミック多孔質体は、炭化ケイ素粉末スラリーをポリウレタンスポンジに付着して、炭化ケイ素粉末を焼結させることによって得られる。焼結強度をだすために、スポンジ表面に付着する炭化ケイ素粉末の量が、ある程度必要であるので、付着するスラリーを十分に絞ることができず、骨格が太く、気孔率も85%と低くなり、潰れるセルも多数ある。また、セルが潰れると、その部分の熱容量が大きくなり、昇温が不均一になるし、マイクロ波も内部に入り込めないし、圧力損失も大きくなる。
【0012】
また、上記特許文献1に示されているセラミック多孔質体は、炭化ケイ素が凝集していることが多く、炭化ケイ素が凝集している(均一な細い骨格でない)場合にマイクロ波による加熱(以下、マイクロ波加熱ともいう。)が行われても、発熱が低い。
【0013】
なお、段ボール構造では、表面しかマイクロ波による効果がなく、平面構造であるので、電気抵抗も低くなり発熱量が小さい。一方、スポンジ状多孔体であれば、骨格が細く均一なので、電気抵抗も均一となり、マイクロ波が内部まで入り込める(加熱が当該多孔体の表面だけでなく、内部でも行われる)。また、スポンジ構造の抵抗発熱体では、電極部を固定する必要があるが、低強度の多孔質発熱体部に応力がかかりやすいので固定化は困難である。
【0014】
以上のことに鑑み鋭意検討した結果、本発明者は、シリコンを炭化ケイ素とともに存在させることによって、炭化ケイ素がシリコン中に分散した状態を保持することができること、かさ密度が低くて強度もある多孔質体を作製することができること、均一な骨格の多孔質体を得ることができること、炭化ケイ素をシリコンとともに存在させたフィルターをマイクロ波によって加熱された際にその温度が当該フィルター全体にわたって安定的に上昇することを見出し、しかも加熱された当該フィルターがその高温状態を安定的に維持することを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の流体昇温用フィルターは、上記の課題を解決するために、骨格が細くセル径が均一であり、シリコンおよび炭化ケイ素を含有しており、マイクロ波によって加熱されて用いられることを特徴としている。
【0016】
上記の構成によれば、シリコンおよび炭化ケイ素の両方を含有しているので、シリコン中に炭化ケイ素が分散した状態を保持することができる。これにより、当該フィルター全体にわたって炭化ケイ素を存在させることができる。
【0017】
その結果、本発明の流体昇温用フィルターは、マイクロ波加熱によって、当該フィルターの温度が当該フィルター全体にわたって安定的に上昇し、かつ加熱された当該フィルターがその高温状態を安定的に維持する。それゆえ、本発明の流体昇温用フィルターは、流体の温度を安定的にかつ短時間に上昇させることができるので、流体の昇温用として使用することができる。
【0018】
さらに、本発明の流体昇温用フィルターは、マイクロ波加熱によって、当該炭化ケイ素が自己発熱するので、流体を短時間に昇温させることができる。
【0019】
また、本発明の流体昇温用フィルターは、かさ密度が、0.05g/cmよりも高く、0.3g/cm未満の範囲内であることが好ましい。
【0020】
これにより、本発明の流体昇温用フィルターは、軽量となり、かつ圧力損失を小さくすることができる。
【0021】
また、本発明の流体昇温用フィルターは、全体に対する上記炭化ケイ素の含有量が、20重量%以上、90重量%以下の範囲内であることが好ましい。なお、上記炭化ケイ素の含有量は多い方が好ましい。また、骨格の太さが細くて均一なほど、均一加熱される。
【0022】
これにより、本発明の流体昇温用フィルターは、マイクロ波加熱によって、当該炭化ケイ素がマイクロ波を吸収する。その結果、本発明の流体昇温用フィルターは、マイクロ波加熱によって、当該フィルターの温度が当該フィルター全体にわたってより一層安定的に上昇し、かつ高温状態をより一層安定的に維持する。
【0023】
また、本発明の流体昇温用フィルターは、全体に対する上記シリコンの含有量が、10重量%以上、80重量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0024】
これにより、本発明の流体昇温用フィルターは、シリコン中に炭化ケイ素が分散した状態を保持しやすくなる。また、骨格が細いのでマイクロ波が内部に入り易く、抵抗加熱で昇温するので発熱もし易い。その結果、本発明の流体昇温用フィルターは、マイクロ波加熱によって、当該フィルターの温度が当該フィルター全体にわたってより一層安定的に上昇し、かつ高温状態をより一層安定的に維持する。
【0025】
また、アーク放電を避けるため、本発明の流体昇温用フィルターは、酸化物等の電気抵抗の高い材料によって電気抵抗を上げるように被覆されていることが好ましい。なお、シリコン層を酸化すれば酸化ケイ素層で被覆されるが、酸化ケイ素以外の酸化物等を被覆する場合にも、その前に、シリコン層を酸化して濡れ性を改善しておくことが好ましい。
【0026】
本発明の流体昇温用フィルターにおいて、当該フィルターの表面に金属シリコンが存在する場合には、アーク放電を生じることがある。そこで、当該フィルターの表面を酸化処理することによって、アーク放電を防止することができる。この酸化処理は、空気中で300℃程度以上の温度にて焼成することによって、容易に形成できる。また、この酸化処理によって、表面が親水性になるので、更にアルミナ、酸化チタン等をコーティングすれば耐食性や耐酸化特性を改善できる。
【0027】
また、本発明の流体昇温用フィルターは、上記炭化ケイ素を含有するセラミックスからなるスポンジ状の立体骨格部および該立体骨格部の間に形成された連続気孔部を有する炭化ケイ素系多孔質構造体と、上記シリコンを含有する、上記立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層と、上記金属シリコン層の少なくとも一部が酸化されて形成された酸化ケイ素層と、からなることが好ましい。
【0028】
また、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、炭素源となる樹脂およびシリコン粉末を含有しているスラリーに対して、更に炭化ケイ素粉末を混合することが好ましい。
【0029】
従来、炭化ケイ素粉末のスラリーにポリウレタンスポンジを浸けて、当該ポリウレタンスポンジ表面に余剰のスラリーを付着させて、この粉末を焼結させることによって、炭化ケイ素を含有するフィルターを製造していた。焼結体の強度が十分高くになるためには、余剰のスラリーが必要であり、このため、ポリウレタン骨格が太くなり、潰れたセルも多数存在する。この場合、骨格構造が均一では無いので、マイクロ波加熱をする場合、昇温が不均一であり、マイクロ波が内部まで浸透できない。
【0030】
本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、炭素源となる樹脂およびシリコン粉末を含有しているスラリーに対して、あるいは更に炭化ケイ素粉末を混合するので、当該炭化ケイ素の含有量を増加させることができる。シリコン粉末は、平均粒径が30μm以下の微粉末が好適である。粒径が大きなものは、ボールミルなどによって粉砕して用いることが好ましい。また、樹脂とシリコン粉末とを含むスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を混合したスラリーを用いることもできる。炭化ケイ素粉末は、平均粒径が10μm以下、好ましくは5μm以下が望ましい。また、炭化ケイ素粉末重量は、シリコン粉末重量の3倍以内の範囲とするのが好ましい。炭化ケイ素粉末重量がシリコン粉末重量の3倍を超えると、混合が不十分となる場合がある。
【0031】
また、スラリー含浸後、セルがスラリーで潰れないようにしっかり絞ることができるのが特徴である。炭素化後は、ポリウレタン骨格と同じ骨格構造の多孔質炭素質構造になる。そして、樹脂からの炭素とシリコン粉末とが反応焼結して、多孔質の炭化ケイ素になる。この骨格中の気孔にシリコンを更に溶融含浸して、余剰の炭素と反応させれば、緻密な炭化ケイ素になり、余剰のシリコンは骨格中の気孔部分を埋めて、骨格部分を緻密にするので、スポンジと同じ太さの骨格であるが、緻密で高強度の多孔質体が得られる。これに対して、従来の焼結法では、炭化ケイ素粉末が焼結するので、炭化ケイ素付着量が少なければ、強度が極端に低下する。
【0032】
その結果、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法で、マイクロ波加熱によって温度が上昇するフィルターを製造することが可能となる。
【0033】
また、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、上記スラリーが、アルコール等を溶媒としてさらに含有していることが好ましい。樹脂を溶解する溶剤であれば水でもアルコールでもよい。炭素源である樹脂としては、溶媒に溶解して溶液となるものを用いることができ、フェノール樹脂、フラン樹脂、あるいはポリカルボシラン等の有機金属ポリマーなどが例示される。これらから選ばれる一種でもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末、カーボンブラック等を添加してもよい。
【0034】
これにより、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、スラリー中のフェノール樹脂を炭素化することにより得られる炭素原子とシリコンとの反応によって生じた炭化ケイ素に加えて、あるいは更にスラリーに加えた炭化ケイ素粉末を含有させることができるので、マイクロ波加熱によって温度がより一層上昇するフィルターを製造することが可能となる。
【0035】
また、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、ポリウレタン、ポリエチレンまたはゴムからなるスポンジに、上記スラリーを含浸させて、スラリー液が連続気孔部を塞がれない程度にまで絞り、乾燥させてスポンジ状多孔質体を形成する含浸工程、上記スポンジ状多孔質体を炭素化して、炭素化多孔質体を形成する炭素化工程、並びに上記炭素化多孔質体に対して、上記シリコン粉末と炭素とを反応焼結させる焼成工程、その後に、さらに溶融含浸用シリコンを溶融含浸させる溶融含浸工程からなる。得られたシリコン/炭化ケイ素多孔質体を空気中300℃以上で酸化させ、表面を酸化ケイ素(SiO)層にすることにより、アーク放電を防ぐ。
【0036】
これにより、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、含浸工程を含んでいるので、上記スポンジの内部にまでシリコンおよび炭化ケイ素を含有させることができる。また、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、スラリー液が連続気孔部を塞がない程度にまで絞るので、余分なスラリーによってセルが潰れることがほとんどない。その結果、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、均一な細い骨格の多孔質材となり、マイクロ波加熱によって温度がより一層上昇するフィルターを製造することが可能となる。
【0037】
また、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、上記溶融含浸工程にて立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層の少なくとも一部を酸化して、該立体骨格部に酸化ケイ素層を形成する酸化工程をさらに包含することが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の流体昇温用フィルターは、以上のように、シリコンおよび炭化ケイ素を含有しており、マイクロ波によって加熱されて用いられるものである。なお、本発明の流体昇温用フィルターは、表面を酸化して放電を防いでいることが好ましい。
【0039】
それゆえ、本発明の流体昇温用フィルターは、流体の温度を安定的にかつ短時間に上昇させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例におけるシリコンおよび炭化ケイ素を含有する流体昇温用フィルターの外観を示す図である。
【図2】本発明の一実施例(13メッシュのフィルターで10秒加熱)におけるマイクロ波照射後の降温過程を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施例(8メッシュのフィルターで10秒加熱)におけるマイクロ波照射後の降温過程を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施例(8メッシュのフィルターで5秒加熱)におけるマイクロ波照射後の降温過程を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の一実施形態について、以下に詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施し得るものである。具体的には、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0042】
<本発明の流体昇温用フィルター(構造体)>
本発明の流体昇温用(多孔質)フィルターは、シリコンおよび炭化ケイ素を含有しているものである。また、本発明の流体昇温用フィルターは、マイクロ波によって加熱されて用いられるものである。また、本発明の流体昇温用フィルターは、かさ密度が、0.05g/cmよりも高く、0.3g/cm未満の範囲内であることが好ましい。また、本発明の流体昇温用フィルターは、全体に対する上記炭化ケイ素の含有量が、20重量%以上、90重量%以下の範囲内であることが好ましい。また、本発明の流体昇温用フィルターは、全体に対する上記シリコンの含有量が、10重量%以上、80重量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0043】
<本発明に用いられる流体>
本発明の流体昇温用フィルター(構造体)において、流体(当該フィルターに通す物質)としては、気体、特にディーゼル排気ガス等のアイドリング時に生じるすす、VOC(Volatile Organic Compounds/揮発性有機化合物)、液体などが挙げられる。
【0044】
<本発明に用いられる炭化ケイ素>
本発明の流体昇温用フィルターには、炭化ケイ素(SiC)が含有されている。上記フィルター全体に対する上記炭化ケイ素の含有量は、20重量%以上、90重量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0045】
本発明に用いられる炭化ケイ素は、粒径10μm以下、好ましくは5μm以下の粉末であることが好ましい。なお、粒径が大きなものは、ボールミル等により粉砕して微粉化すればよい。
【0046】
ここで、炭化ケイ素粉末は、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質との混合物として用いることもできる。
【0047】
なお、炭化ケイ素は、軽量であること、耐熱性を有していること、耐磨耗性や耐食性に優れていること等の利点がある。
【0048】
<本発明に用いられるシリコン>
本発明の流体昇温用フィルターには、シリコン(Si)が含有されている。上記フィルター全体に対する上記シリコンの含有量は、10重量%以上、80重量%以下の範囲内であることが好ましく、30重量%以上、60重量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0049】
なお、炭化ケイ素のみでは、かさ密度0.1g/cm程度の強度のある軽量スポンジ状多孔質体は作製が困難であり、このような超軽量多孔質体では、フリーシリコンが含まれる。
【0050】
本発明に用いられるスラリー用のシリコンは、粒径10μm以下の粉末であることが好ましい。なお、粒径が大きなものは、ボールミル等により粉砕して微粉化すればよい。
【0051】
ここで、シリコン粉末は、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデンおよびタングステンからなる群より選ばれる少なくとも1種の物質との混合物として用いることもできる。
【0052】
<本発明に用いられるスラリー中のシリコンに対する炭化ケイ素の重量割合(重量比)>
スラリーにおける樹脂とシリコン粉末との混合比は、原子比でSi/C=0.05〜5.00の範囲内とするのが好ましい。この原子比が0.05未満では、反応焼結で生じる多孔質炭化ケイ素量が少なくなり、発熱体として実用的でない。また、この原子比が5.00を超えると、スラリー中のシリコン粉末量が多くなって沈殿し易くなる。
【0053】
本発明に用いられるシリコンに対する炭化ケイ素の重量割合(重量比)は、0.1以上、3以下の範囲内であることが好ましく、0.5以上、2以下の範囲内であることがより好ましい。炭化ケイ素粉末重量がシリコン粉末重量の3倍を超えると、混合が不十分となる場合がある。
【0054】
<本発明におけるマイクロ波加熱>
本発明におけるマイクロ波加熱とは、マイクロ波と被加熱物質との相互作用によって、被加熱物質の内部から熱を生じさせることをいう。その熱は、被加熱物質内の荷電粒子、電気双極子等が、マイクロ波による振動電磁場の影響によって回転または振動するために生じる。
【0055】
炭化ケイ素のような電気伝導性がある物質は、抵抗成分によってマイクロ波が吸収されて誘導加熱される。しかし、金属のように電気伝導性が高いものは、表面付近で電界をショートしてしまうので、表面付近で放電が生じる。一方、絶縁体は、誘電損失によって誘電加熱される。
【0056】
なお、被加熱物の骨格が細いほど、マイクロ波が侵入しやすいので、当該被加熱物の内部まで加熱できると考えられる。
【0057】
また、炭化ケイ素が含まれていれば、マイクロ波加熱が可能である。炭化ケイ素の場合、誘導加熱(ジュール発熱)で温度が上がる。これに対して、水の場合、誘電加熱で温度が上がる。さらに、炭化ケイ素の骨格が均一で細い程、均一加熱に適している。
【0058】
本発明におけるマイクロ波加熱は、マイクロ波吸収物質にマイクロ波を照射することによって行われる。マイクロ波吸収物質にマイクロ波が照射されると、当該マイクロ波吸収物質が自己発熱(自己加熱)することによって加熱が行われる。
【0059】
本発明におけるマイクロ波加熱は、マイクロ波を用いて加熱する方法であれば特に限定されず、例えば、(家庭用)電子レンジでの加熱等が挙げられる。家庭用電子レンジでのマイクロ波加熱の場合には、電子レンジ内のマイクロ波の照射が不均一であるため、当該家庭用電子レンジ内部での置き場所、置き方等により多少昇温効果が変化するが、例えば500Wのマイクロ波を10秒照射することによって、100℃の急速加熱が可能である。
【0060】
本発明のシリコンおよび炭化ケイ素を含有するフィルターは、マイクロ波加熱が行われると、当該フィルター自体の温度が上昇する(自己発熱する)。当該フィルターにおける自己発熱の具体例については後述する。
【0061】
<本発明におけるマイクロ波吸収物質>
本発明におけるマイクロ波吸収物質としては、炭化ケイ素を用いる。
【0062】
<マイクロ波加熱後のフィルター>
マイクロ波加熱後のフィルターにおいて、表面に金属シリコンが存在している場合には、そのままではアーク放電を生じる危険性がある。そこで、当該表面を酸化処理することによって電気伝導性を下げ、アーク放電を防ぐことが可能である。
【0063】
当該表面を酸化処理する方法としては、例えば、電気炉にて空気中、300℃以上、1200℃以下の範囲内の温度で加熱する方法が挙げられる。保持時間は短くてもよい(無しでもよい)。加熱温度は、600℃以上、800℃以下の範囲内が最適である。
【0064】
ここで、当該表面を酸化処理する方法は、当該表面を加熱酸化処理して、当該表面に数十μmの薄いシリカ(二酸化ケイ素/SiO)層を生じさせることによって、アーク放電を抑えている。
【0065】
<本発明における耐酸化剤>
上述したように、マイクロ波加熱後のフィルターにおいて、アーク放電を防止するために、当該フィルターの表面を酸化処理することがある。
【0066】
そこで、アーク放電を抑えるために、本発明のフィルターの表面が、アルミナ、シリカ、ムライト、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の耐酸化剤によって被覆(コーティング)されていることが好ましい。また、このコーティング剤が各種触媒やマイクロ波吸収物質、例えば酸化鉄等でもよい。
【0067】
上記耐酸化剤を被覆する方法は特に限定されないが、例えば、アルミナゾル等の各種ゾル、ポリカルボシラン等の有機ケイ素化合物などの溶液を被覆する方法が挙げられる。また、当該溶液を被覆する方法としては、ディップコーティング法、CVD(chemical vapor deposition/化学蒸着法)、スパッタリング法などが挙げられる。
【0068】
なお、シリコンおよび炭化ケイ素を含有しているものでは、シリコンの導電性が高いため、アーク放電を生じる。(炭化ケイ素は半導体であり、導電性はあるがアーク放電を生じないと考えられる。一方、シリコンは抵抗が低いので、アーク放電を生じると考えられる。)これを抑えるためには、表面の抵抗を少し高くする必要がある。(絶縁体になるまで表面の抵抗を高くする必要はない。)そのためには、表面を酸化してシリカ層にすればよい。
【0069】
<本発明の流体昇温用フィルターの製造方法>
本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、シリコン粉末を含有しているスラリーに対して、炭化ケイ素粉末を混合することが好ましい。また、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、上記スラリーが、樹脂および溶媒をさらに含有していることが好ましい。
【0070】
炭素源である樹脂としては、溶媒に溶解して溶液となるものを用いることができ、フェノール樹脂、フラン樹脂、あるいはポリカルボシラン等の有機金属ポリマーなどが例示される。これらから選ばれる一種でもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、添加剤として、炭素粉末、黒鉛粉末、カーボンブラックなどを添加してもよく、骨材や酸化防止剤として窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素、ホウ素粉末などを添加することもできる。
【0071】
シリコン粉末は、平均粒径が30μm以下の微粉末が好適である。粒径が大きなものは、ボールミルなどによって粉砕して用いることが好ましい。シリコン粉末は、純シリコン粉末であってもよいし、Mg、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Wなどの金属を含むシリコン合金粉末、あるいは純シリコン粉末とこれらの金属粉末との混合粉末を用いることもできる。
【0072】
スラリーにおける樹脂を炭素化して得られる炭素とシリコン粉末との混合比は、原子比でSi/C=0.05〜5.00の範囲とするのが好ましい。この原子比が0.05未満では、反応焼結で生じる多孔質炭化ケイ素量が少なくなり、シリコンの溶融含浸が生じない。また、この原子比が5.00を超えると、スラリー中のシリコン粉末量が多くなって沈殿し易くなる。
【0073】
また、樹脂とシリコン粉末とを含むスラリーにさらに炭化ケイ素粉末を混合したスラリーを用いることもできる。この場合、炭化ケイ素粉末重量は、シリコン粉末重量の3倍以内の範囲とするのが好ましい。炭化ケイ素粉末重量がシリコン粉末重量の3倍を超えると、混合が不十分となる場合がある。
【0074】
スラリー中の固形分濃度は、有機多孔質構造体にスラリーを含浸可能な粘度であれば特に制限されない。また、スラリーに用いられる溶媒は特に制限されないが、樹脂を溶解可能なものが用いられる。スラリーを有機多孔質構造体に含浸するには、単に浸漬して引き上げるだけでもよいし、減圧下で含浸させることも好ましい。
【0075】
除去工程では、有機多孔質構造体から余剰のスラリーを除去し、有機多孔質構造体の骨格およびその表面にスラリーが付着した前駆体を形成する。有機多孔質構造体から余剰のスラリーを除去するのは、連続気孔部に充填されたスラリーを除去するためであり、遠心分離、有機多孔質構造体から余剰のスラリーを吸引する方法、あるいは有機多孔質構造体を絞って余剰のスラリーを除去する方法などを用いて行うことができる。余剰のスラリーが除去されることで、有機多孔質構造体の骨格内部や表面にスラリーが付着した前駆体が形成される。
【0076】
また、本発明の流体昇温用フィルターの製造方法は、ポリウレタン、ポリエチレンまたはゴムからなるスポンジに、上記スラリーに対して上記炭化ケイ素を混合した炭化ケイ素含有スラリーを含浸させて、スポンジ状多孔質体を形成する含浸工程、上記スポンジ状多孔質体を炭素化して、炭素化多孔質体を形成する炭素化工程、並びに上記炭素化多孔質体に対して、上記シリコンを反応焼結させる焼成工程、上記シリコンを反応焼結させた後に溶融含浸用シリコンを溶融含浸させる溶融含浸工程を含む。
【0077】
ここで、「・・・後」とは、「・・・の直後」だけでなく、時系列的に「・・・の後」であれば本発明に含まれる。例えば、「シリコンを反応焼結させた後にシリコンを溶融含浸させる」という操作には、「シリコンを反応焼結させた後に、他の工程を行い、該他の工程の後にシリコンを溶融含浸させる」という操作も含まれる。
【0078】
<本発明に用いられるシリコンを含有しているスラリー、炭化ケイ素含有スラリー>
本発明に用いられるシリコンを含有しているスラリーは、シリコン以外に、他の物質を含有していてもよい。また、本発明に用いられる炭化ケイ素含有スラリーは、シリコンおよび炭化ケイ素以外に、他の物質を含有していてもよい。
【0079】
<本発明に用いられる溶媒>
本発明に用いられる溶媒としては、特に制限されないが、樹脂を溶解可能なものが用いられ、例えば、エチルアルコール、メチルアルコール等が挙げられる。その中でも、安全性という理由から、エチルアルコールが好ましい。なお、アルコールは、変性アルコールを用いてもよい。
【0080】
<ポリウレタン、ポリエチレンまたはゴムからなるスポンジ>
本発明におけるポリウレタン、ポリエチレンまたはゴムからなるスポンジは、ポリウレタン、ポリエチレンまたはゴムを主成分とする吸水性のあるものであれば特に限定されない。すなわち、ポリウレタン、ポリエチレンまたはゴムを主成分としていれば、ポリウレタン、ポリエチレン、ゴム以外の物質が含まれていても本発明に含まれる。なお、本発明では、ポリウレタンからなるスポンジでセル膜を除去したものを用いることが最も好ましい。
【0081】
<本発明の流体昇温用フィルターの好適な製造方法>
本発明のシリコンおよび炭化ケイ素を含有する流体昇温用フィルターの製造方法は、上記スポンジにシリコン粉末あるいは更に炭化ケイ素粉末を含むスラリーを含浸させた後、連続気孔部に充填されたスラリーを除去する。
【0082】
本発明のシリコンおよび炭化ケイ素を含有する流体昇温用フィルターの製造方法は、スラリー含浸後に、乾燥させることが好ましい。乾燥は、70〜90℃で3時間程度行うことが好ましい。
【0083】
また、本発明のシリコンおよび炭化ケイ素を含有する流体昇温用フィルターの製造方法は、上記スポンジにシリコン粉末あるいは更に炭化ケイ素粉末を含むスラリーを含浸させた後、該スポンジを絞ることが好ましい。上記スポンジを絞る方法は、特に限定されない。
【0084】
本発明のシリコンおよび炭化ケイ素を含有する流体昇温用フィルターは、例えば、以下のようにして得ることができる。
【0085】
まず、ポリウレタン、ポリエチレンまたはゴムからなるスポンジに、シリコン粉末あるいは更に炭化ケイ素粉末を含むスラリーを含浸後、余剰のスラリーを除去し、不活性雰囲気下において800℃〜1300℃で炭素化する。有機物の熱分解を促進するためには、より好適には900℃〜1300℃にて炭素化する。このようにして得られる炭素化多孔質体は、上記スポンジが熱分解してなくなるため、樹脂等が炭素化した炭素部分とシリコン粉末あるいは更に炭化ケイ素粉末とが混ざり合った構造体として得られる。
【0086】
次いで、この炭素化多孔質体を真空あるいは不活性ガスの雰囲気下で1300℃以上の温度で炭素とシリコン粉末とを反応焼結させ、溶融シリコンと濡れ性のよいポーラスな炭化ケイ素を生成し(この反応は約38%の体積減少を伴う)、この炭化ケイ素と残存炭素とに、真空あるいは不活性ガスの雰囲気下、1400℃〜1800℃で更にシリコンを溶融含浸させることによって、上記スポンジの形とほぼ同一形状のシリコンおよび炭化ケイ素を含有するフィルターを得ることができる。溶融含浸用シリコンは、粉末状、顆粒状、あるいは塊状でもよい。
【0087】
上記スラリーは、上記条件を満足することができるようにその配合条件を適宜設定すればよく、その配合条件は、特に限定されるものではない。また、上記スラリーは、使用成分等に応じて、上記スポンジに付着させるのに適した濃度に設定されていることが望ましく、フェノール樹脂と溶媒(例えばエタノール)との重量割合を例に挙げれば、15〜50重量%程度の濃度に調整されていることが好ましく、20〜40重量%程度の濃度に調整されていることがより好ましい。
【0088】
<本発明における流体の温度を上昇させる方法>
本発明における流体の温度を上昇させる方法は、シリコンおよび炭化ケイ素を含有している構造体をマイクロ波によって加熱(マイクロ波加熱)する工程、および加熱された該構造体に流体を通過させる工程を包含する方法である。
【0089】
本発明に用いられる構造体としては、フィルター等が挙げられる。また、シリコン、炭化ケイ素、マイクロ波加熱、流体の説明については上述したとおりである。
【実施例】
【0090】
以下に、本発明の流体昇温用フィルターおよびその製造方法について、実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明の流体昇温用フィルターおよびその製造方法は、以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0091】
〔実施例1〕
フェノール樹脂の炭素化による炭素と、シリコンとのモル比がSi/C=1になる割合にて、フェノール樹脂と、シリコン粉末(平均粒径約20μm)との混合量を設定し、さらに、シリコン粉末の重量に対して0.5倍の重量の炭化ケイ素粉末(平均粒径約3μm)を添加し、シリコン粉末の重量に対して約3.3倍の重量のエチルアルコールによってフェノール樹脂を溶解してスラリーを調製し、シリコン粉末の粒径を小さくするために1日間ボールミルにて混合した。
【0092】
そして、8および13メッシュ(セル数/インチ)のポリウレタンスポンジ(イノアック社製、商品名「モルトフィルター」)に、この分散スラリーを含浸させ、余分なスラリーを絞って除去した後、70℃で3時間乾燥して、乾燥サンプルを得た。その後、乾燥サンプルを、アルゴンガス雰囲気下にて1000℃で加熱して炭素化した。
【0093】
次に、適量のシリコン顆粒を炭素化した炭素質スポンジ状多孔体の表面に置き、真空中にて1450℃で1時間焼成した。この焼成では、まずシリコンの融点(約1410℃)以下の温度にて、炭素がシリコン粉末と反応して、多孔質の炭化ケイ素と未反応の炭素とが形成された。さらに、シリコンの融点以上の温度にて、シリコン顆粒が溶融し、未反応の炭素と反応して炭化ケイ素が生成されるとともに、余剰の金属シリコンによって反応焼結したスポンジ状多孔体の架橋部分が補強され、Si/SiCフィルター(シリコンおよび炭化ケイ素を含有するフィルター)を得た。このSi/SiCフィルター形状は、約5.5cm×3cm×3cmであった。
【0094】
家庭用電子レンジを用いて、得られたSi/SiCフィルターのマイクロ波加熱実験を200ワットにて行った。具体的には、ターンテーブルの上にアルミナの板を置き、その上にSi/SiCフィルターを置き、所定の時間加熱後、扉を開けて、サーモグラフィにて表面を測温した。
【0095】
その結果、10秒後における13メッシュのSi/SiCフィルターは162℃であり、10秒後における8メッシュのSi/SiCフィルターは104℃であった。また、5秒後における8メッシュのSi/SiCフィルターは51℃であった。
【0096】
〔実施例2〕
シリコン粉末の重量に対して1倍の重量の炭化ケイ素粉末を添加し、分散スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0097】
その結果、10秒後における13メッシュのSi/SiCフィルターは156℃であり、10秒後における8メッシュのSi/SiCフィルターは98℃であった。また、5秒後における8メッシュのSi/SiCフィルターは61℃であった。
【0098】
〔実施例3〕
シリコン粉末の重量に対して2倍の重量の炭化ケイ素粉末を添加し、分散スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0099】
その結果、10秒後における13メッシュのSi/SiCフィルターは138℃であり、10秒後における8メッシュのSi/SiCフィルターは108℃であった。また、5秒後における8メッシュのSi/SiCフィルターは60℃であった。
【0100】
〔実施例4〕
シリコン粉末の重量に対して0倍の重量の炭化ケイ素粉末を添加し(炭化ケイ素粉末を添加せずに)、分散スラリーを調製したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0101】
その結果、10秒後における13メッシュのSi/SiCフィルターは140℃であり、10秒後における8メッシュのSi/SiCフィルターは98℃であった。また、5秒後における8メッシュのSi/SiCフィルターは48℃であった。
【0102】
〔実施例まとめ〕
実施例1〜4の結果を表1にまとめた。
【0103】
【表1】

【0104】
実施例1〜4では、炭化ケイ素粉末を添加して分散スラリーを調製したことによって、マイクロ波加熱を行った場合に、無添加の場合と比べてSi/SiCフィルターの温度を少し上昇させることができるという結果になった。
【0105】
ここで、図1は、Si/SiCフィルターにおける観察の結果を示す平面図(写真)である。
【0106】
図1に示されたSi/SiCフィルターにおいて、開気孔率は約95%であり、かさ密度は約0.1g/cmである。ただし、上記開気孔率および上記密度は調整可能であり、該密度は0.1g/cmよりも高くすることが可能である。また、図1に示されたSi/SiCフィルターにおいて、BET(Brunauer Emmett Teller)比表面積は0.1m/g以下である。また、図1に示されたSi/SiCフィルターは、低圧力損失を有している。また、図1に示されたSi/SiCフィルターは、耐熱性および耐熱衝撃性を有している。さらに、図1に示されたSi/SiCフィルターは、角が鋭いので、原料のポリウレタンスポンジとほぼ同じ構造を有していることが分かる。
【0107】
また、図2〜4は、実施例1〜4におけるマイクロ波照射後の降温過程を示すグラフである。図2は13メッシュのフィルターで10秒加熱、図3は8メッシュフィルターで10秒加熱、図4は8メッシュフィルターで5秒加熱の結果である。図2〜4において、(a)は実施例3の結果を示し、(b)は実施例2の結果を示し、(c)は実施例1の結果を示し、(d)は実施例4の結果を示している。
【0108】
なお、実施例における実験中、一部にアーク放電を生じるサンプルがあった。このサンプルを空気中にて800℃で加熱酸化して、当該サンプルの表面に数十μmの薄いシリカ(二酸化ケイ素、SiO)層を生じさせることによって、このアーク放電を抑えることができた。また、この加熱酸化処理による昇温特性への影響は見られなかった。加熱酸化処理後において、Si/SiCフィルターの表面はシリカ層になっているので、導電性は無い。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のシリコンおよび炭化ケイ素を含有する流体昇温用フィルターは、マイクロ波加熱が行われることによって、短時間での気体の加熱処理、特にディーゼル排気ガス等のアイドリング時に生じるすすの瞬時加熱処理やVOC(Volatile Organic Compounds/揮発性有機化合物)の酸化分解処理などに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンおよび炭化ケイ素を含有しており、
マイクロ波によって加熱されて用いられることを特徴とする流体昇温用フィルター。
【請求項2】
かさ密度が、0.05g/cmよりも高く、0.3g/cm未満の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の流体昇温用フィルター。
【請求項3】
上記炭化ケイ素を含有するセラミックスからなるスポンジ状の立体骨格部および該立体骨格部の間に形成された連続気孔部を有する炭化ケイ素系多孔質構造体と、
上記シリコンを含有する、上記立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層と、
上記金属シリコン層の少なくとも一部が酸化されて形成された酸化ケイ素層と、
からなることを特徴とする請求項1または2に記載の流体昇温用フィルター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体昇温用フィルターを製造する方法であって、
シリコン粉末を含有しているスラリーに対して、あるいは更に炭化ケイ素粉末を混合し、
上記スラリーが、溶媒をさらに含有しており、
ポリウレタン、ポリエチレンまたはゴムからなるスポンジに、上記スラリーを含浸させて、該スラリーが連続気孔部を塞がないように該スポンジ絞り、その後、該スポンジを乾燥させてスポンジ状多孔質体を形成する含浸工程、
上記スポンジ状多孔質体を炭素化して、炭素化多孔質体を形成する炭素化工程、
上記炭素化多孔質体に対して、シリコンと炭素とを反応焼結させて反応焼結体を形成する焼成工程、並びに
上記反応焼結体に対して、更にシリコンを溶融含浸させる溶融含浸工程
を包含する
ことを特徴とする流体昇温用フィルターの製造方法。
【請求項5】
上記溶融含浸工程にて立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層の少なくとも一部を酸化して、該立体骨格部に酸化ケイ素層を形成する酸化工程をさらに包含することを特徴とする請求項4に記載の流体昇温用フィルターの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−236070(P2011−236070A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107309(P2010−107309)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】