説明

浴室床の製造方法

【課題】 規格寸法の防水パンを分割して接合するにも拘わらず、継ぎ目による美観の低下を防止し、しかも防水性能及び断熱性能を維持することが可能な浴室床の製造方法を提供する。
【解決手段】 平板状の床板10とその周縁から立設する側板11とからなる規格寸法の規格防水パン7を、平面形状において三つの部材15,16,17に分割する分割工程と、分割された三つの部材の中から両側の部材15,17を互いに突き合わせて接合し規格寸法よりも小さな寸法の防水パン4を製造する接合工程と、その工程によって製造された防水パン4の床板10に装飾板5を貼着する貼着工程とを順に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室床の製造方法に関するものであり、特に、ユニットバスにおける規格寸法の防水パンを利用して、任意の大きさ、または任意の形状の浴室床を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユニットバスは、浴槽パンや洗い場パン等の防水パン、壁や天井等の内装部材、浴槽、給湯設備、及び排水設備等から構成され、特に、FRP等によって成形された成形部材を現場で組合わせることにより施工されるようになっている。このユニットバスは、従来の工法に比べて、防水に対する信頼性が高く、且つ工期の迅速化が可能であることから、集合住宅は勿論、一般住宅においても普及している。なお、防水パンは、平板状の床板とその床板の周縁から立設する側板とから受け皿容器状に構成されている。
【0003】
ところが、ユニットバスは、設計に対する自由度を備えていないことから、浴室の平面形状や大きさを自由に設計することができなかった。すなわち、ユニットバスの床部を構成する防水パンとして、異なるサイズのものを製造しようとすると、夫々に応じた異なる寸法の成形金型が必要となるため、現状では数種類の規格寸法に限られており、防水パンの量産品はこれらの規格寸法を基に製造されている。このため、部屋の間取り等に応じて防水パンの形状や大きさを変更したり、浴室の隅に柱を設けたりする等の変更は困難とされていた。
【0004】
ところで、規格寸法の防水パンを利用して、規格寸法よりも小さな所望寸法の防水パンを製造することが提案されている。具体的には、規格寸法の防水パンを、平面形状において複数の部材に分割し、その後、分割された部材を適宜接合して、規格寸法よりも小さな寸法の防水パンを製造する方法である。なお、仮に、防水パンが平板状の床板のみから構成されている場合には、不要な部分を切り落すのみで足りるが、実際の防水パンは、平板状の床板とその床板の周縁から立設する側板とから受け皿容器状に構成されているため、端部側を切り落すと一部の側板がなくなり、防水パンとしての機能を果たさなくなる。そこで、一部分(例えば中央部分)を切除して両端部分を突き合せることにより、床板と側板とから構成される所望の大きさの防水パンを製造するようにしている。
【0005】
以上の従来技術は、当業者において当然として行われているものであり、出願人は、この従来技術が記載された文献を知見していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の製造方法によれば、分割した部材同士を突き合わせて接合することから、部材の繋ぎ目が表面に現れ、底板の美観を損ねていた。なお、接合部分の表面に樹脂をコーティングすれば表面をきれいに仕上げることが可能であるが、これによれば、作業に手間がかかり、ユニットバスの利点である工期の迅速化及び費用の低廉化を得ることが困難となる。また、防水パンを切断して繋ぎ合わせることから、その接合処理が不十分であると、防水性能及び断熱性能が低下し品質の低下を招く恐れがあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の実状に鑑み、規格寸法の防水パンを分割して接合するにも拘わらず、継ぎ目による美観の低下を防止し、しかも防水性能及び断熱性能を維持することが可能な浴室床の製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる浴室床の製造方法は、「平板状の床板と該床板の周縁から立設する側板とを有する規格寸法の防水パンを、平面形状において三つ以上の部材に分割する分割工程と、分割された複数の前記部材の中から少なくとも二つの部材を互いに突き合わせて接合し前記規格寸法よりも小さな寸法の防水パンを製造する接合工程と、該接合工程によって製造された前記防水パンに装飾板を貼着する貼着工程とを有する」ものである。
【0009】
ここで、「分割工程」では、防水パンにおける床板及び側板が、丸鋸等の切断装置によって切断されることにより分割される。また、「装飾板」は、床板全体の大きさに相当する一枚の部材から構成してもよく、床板よりも小さな一定寸法の部材を並設することにより構築してもよい。
【0010】
本発明の浴室床の製造方法によれば、まず、規格寸法の防水パンが、平面形状において三つ以上の部材に分割される。なお、分割の際には、分割される複数の部材の中から少なくとも一つの部材を取り除くことにより、防水パンの縦方向または/及び横方向の幅が所望の寸法となるように切断される。分割後、複数の部材の中から不要となる部分の部材が取り除かれ、残りの部材同士が互いに突き合わせられる。そして、部材同士を接合することにより、規格寸法よりも小さな寸法の防水パンが製造される。
【0011】
続いて、接合工程によって製造された防水パンの床板に、装飾板が貼着される。このため、部材同士の繋ぎ目が装飾板によって覆われ、繋ぎ目の露出がなくなる。また、装飾板によって浴室床における防水性能及び断熱性能が高められる。
【0012】
ところで、本発明の浴室床の製造方法において、「前記装飾板は、タイルまたは断熱性樹脂板等の断熱性薄板からなり、前記貼着工程では、複数枚の前記断熱性薄板を前記床板面上に並設させる」発明とすることができる。
【0013】
これによれば、装飾板が断熱性薄板から構成されているため、浴室床の断熱性能が一層高められ、さらに快適な入浴が可能になる。また、複数枚の断熱性薄板が並設されるため、隣接する断熱性薄板の間に目地が形成される。したがって、入浴中における床面の滑りを抑制し、入浴者の安全性を高めることが可能となる。
【0014】
特に、上記の製造方法を採用するにあたって、「前記貼着工程では、前記断熱性薄板を並設させる際、隣接する前記断熱性薄板同士の接合部と、前記接合工程において形成される前記部材同士の接合部とが、互いに重ならないように、前記断熱性薄板を配置する」ことが好ましい。
【0015】
これによれば、断熱性薄板同士の接合部(即ち目地)と、部材同士の接合部とが、互いに重ならないため、二つの接合部が上下方向において連続することが防止される。このため、夫々の接合部に加わる力を低減し、浴室床の強度を高めることができる。また、浴室床の防水性能が高められ、品質の信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明の浴室床の製造方法では、防水パンの床板に装飾板が貼着されるため、部材同士の繋ぎ目が装飾板によって覆われ、繋ぎ目による美観の低下を防ぐことができる。また、装飾板によって浴室床における防水性能及び断熱性能を高めることができる。さらに、装飾板によって浴室床の高級感が醸し出され、満足度の高い浴室床を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態である浴室床の製造方法、及びその浴室床を備えるユニットバスについて、図1乃至図3に基づき説明する。図1はユニットバスの概略構成を示す斜視図であり、図2は浴室床の製造方法を説明するための説明図であり、図3は浴室床の構成を示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、本例のユニットバス1は、浴室床2と浴槽3とを有している。なお、図示しないが、ユニットバス1には、周知の構成である、壁や天井等の内装部材、給湯設備、及び排水設備等も備えられている。浴室床2は、FRPによって成形された防水パン4とその上に敷設された装飾板5とから構成されている。詳しく説明すると、図2(b)及び図3に示すように、防水パン4は、個々の建物における間取りや柱の配置等に応じた所望の大きさに加工されたものであり、平板状の床板10と、その床板10の周縁から立設する側板11と、側板11の上端から水平外方向に折れ曲がった壁載置部12aと、壁載置部12aの周縁から立ち上がった立上り部12bとから構成されている。なお、側板11の高さは、排水が溢れない高さ、すなわち防水パン4上に排水される水量と防水パン4からの排水能力との関係に基づいて設定されている。また、壁載置部12a及び立上り部12bによって、内装材の一部である壁パネル(図示しない)の載置を可能にしている。一方、床板10の一部には、排水トラップ等に連結された排水口13が穿設されており、床板10の表面は、排水口13に向かって下り勾配となっている。
【0019】
図2(c)に示すように、装飾板5は、平面が略正方形状のタイルから構成されており、防水パン4の床板10上、特に洗い場に相当する部位に、碁盤の目状に並設されている。この装飾板5は断熱性を有しており、表面には色彩や模様が施されている。なお、排水口13に対応する部分には、排水口13に合致する大きさの開口部が形成されている。ここで、装飾板5が本発明の断熱性薄板に相当する。
【0020】
次に、浴室床2の製造方法について図2を基に説明する。なお、本例では、浴室床2におけるX方向の長さを規格寸法と同一の長さとし、Y方向の長さを規格寸法よりも短い所望の長さに設計した場合を例として説明する。まず、図2(a)に示すように、FRPで成形された規格寸法の規格防水パン7を切断し、Y方向において三つの部材、すなわち第一部材15、第二部材16、及び第三部材17に分割する(本発明の分割工程に相当)。ここで、三つの部材15,16,17に分割する際には、二ヶ所において切断されることになるが、この切断位置は、第二部材16を取り除くことによりY方向における長さが設計した長さとなるように設定される。換言すれば、第一部材15及び第三部材17を合わせたY方向の長さが設計寸法に一致するように、各部材15,16,17の大きさが夫々設定される。なお、切断する際には、丸鋸等、周知の切断装置を使用することから、鋸刃の厚み、すなわち、加工の際に切り落とされる加工代の部分を勘案して各部材15,16,17の寸法を算出するようにしている。
【0021】
その後、図2(b)に示すように、第一部材15と第三部材17との端面同士を突き合わせ、互いに接合することにより、所望の大きさの防水パン4を製造する(本発明の接合工程に相当)。なお、接合方法としては、防水性能が確保できる処理であれば特に限定されるものではないが、本例では、接合部分にUV型のFRP剤を塗布して紫外線によって硬化させることにより、水密性の高い接合を可能にしている。
【0022】
続いて、接合工程によって製造された防水パン4上、特に、洗い場に対応する部分に、複数枚の装飾板5を配列させ、接着剤によって貼着する(本発明の貼着工程に相当する)。これにより、第一部材15と第三部材17との接合部18における繋ぎ目が装飾板5によって覆われる。なお、複数の装飾板5を並設する際、隣接する装飾板5同士の間に目地20(図3参照)が形成され、セメントなど無機質系の目地材が打設される。また、装飾板5を並設させる際には、化粧部材5同士の接合部19が、第一部材15及び第三部材17間の接合部18に対して、上下方向において重ならないように並べられる。このため、接合部19及び接合部18に大きな力が加わることが防止され、浴室床2の強度を高められるとともに、防水性能を一層向上させることが可能になる。
【0023】
このように、上記の浴室床2の製造方法によれば、接合工程によって製造された防水パン4の床板10に装飾板5が貼着されるため、接合部18における繋ぎ目が装飾板5によって覆われ、繋ぎ目による美観の低下を防ぐことができる。また、装飾板5は断熱性を有しているため、浴室床2の断熱性能を高め、入浴者の快適性を向上させることができる。
【0024】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0025】
すなわち、本実施形態の製造方法では、装飾板5としてタイルを貼着させるものを示したが、タイルの代わりに断熱性樹脂板を貼着させるようにしてもよい。但し、本例のようにタイルを貼着するようにすれば、高級感を醸し出すとともに、色彩のバリエーションが豊富になり、満足度の高い浴室床2を提供することが可能になる。また、目地20を形成することにより、床面の滑りを抑え、入浴者の安全性を高めることができる。
【0026】
また、本実施形態の製造方法では、洗い場及び浴槽部からなる浴室全体に亘って敷設される浴室床2を製造するものを示したが、洗い場のみ、あるいは浴槽部のみに対応した大きさの浴室床を製造する場合でも、前記実施形態と同様、規格寸法の防水パン(洗い場側防水パン、または浴槽側防水パン)を利用して浴室床を製造することができる。また、浴室床2として、洗い場及び浴槽部における床面の高さが同一のもの、すなわち全体的に平板状に形成された防水パンを対象とするものを示したが、図4に示すように、浴槽部における床面21の高さが洗い場における床面22よりも低くなるように段差状に形成された防水パン23を対象としても、本発明を適用することができる。
【0027】
本実施形態の製造方法では、防水パン4のY方向に関して縮小させるものを示したが、X方向に関して縮小させるようにしてもよく、あるいはX方向及びY方向の両方向をともに縮小させるようにしてもよい。つまり、規格寸法よりも短い寸法であれば、分割の方向及び分割数を適宜設定することにより、所望の大きさの防水パン4を製造することができる。また、寸法だけでなく、防水パン4の形状も変更させるようにしてもよい。つまり、例えばユニットバス1の隅部に支柱を設ける場合には、図5に示すように支柱が位置する部位24が切り欠かれた防水パン25を製造することとなるが、この場合には、X方向及びY方向の両方向において複数の部材に分割させ、それを適宜組合わせるようにすれば、隅部分のみが切り欠かれた防水パン25を製造することが可能になる。
【0028】
本実施形態の製造方法では、防水パン4の床板10上に、複数枚の装飾板5を並設させるものを示したが、一枚の装飾板5によって床板10全体を覆うようにしてもよい。これによれば、極めて容易に装飾板5を貼ることが可能になり、工期のさらなる迅速化が可能となる。
【0029】
さらに、本実施形態の製造方法では、第一部材15及び第三部材17の接合部18にFRP剤を塗布して接合させるものを示したが、例えば接合面間にパッキン等のシール材を介在させ、ボルト及びナット等の締結手段によって第一部材15と第三部材17とを互いに締結させるようにしてもよい。これによれば、防水に対する信頼性が一層高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態である浴室床の製造方法によって製造されるユニットバス1の概略構成を示す斜視図である。
【図2】浴室床の製造方法を示す説明図である。
【図3】浴室床の構成を示す断面図である。
【図4】他の構成の防水パンを示す斜視図である。
【図5】他の例の浴室床の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
2 浴室床
4 防水パン
5 装飾板(断熱性薄板)
7 規格防水パン(防水パン)
10 床板
11 側板
15 第一部材(部材)
16 第二部材(部材)
17 第三部材(部材)
18 接合部
19 接合部
23,24 防水パン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の床板と該床板の周縁から立設する側板とを有する規格寸法の防水パンを、平面形状において三つ以上の部材に分割する分割工程と、
分割された複数の前記部材の中から少なくとも二つの部材を互いに突き合わせて接合し前記規格寸法よりも小さな寸法の防水パンを製造する接合工程と、
該接合工程によって製造された前記防水パンの床板に装飾板を貼着する貼着工程と
を有する浴室床の製造方法。
【請求項2】
前記装飾板は、タイルまたは断熱性樹脂板等の断熱性薄板からなり、
前記貼着工程では、複数枚の前記断熱性薄板を前記床板面上に並設させることを特徴とする請求項1に記載の浴室床の製造方法。
【請求項3】
前記貼着工程では、前記断熱性薄板を並設させる際、隣接する前記断熱性薄板同士の接合部と、前記接合工程において形成される前記部材同士の接合部とが、互いに重ならないように、前記断熱性薄板を配置することを特徴とする請求項2に記載の浴室床の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−2368(P2006−2368A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177386(P2004−177386)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(301051839)日比野化学工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】