説明

海苔及びその他の海藻類を陸上設置型海水槽で養殖するためのシステム及び方法

本発明は多種の海藻の養殖に関する独特な技術、システム及び手法を提供する。海藻の種は、限定されないが、アマノリ、コンブ、ワカメ、キリンサイ、オゴノリ、アオサ、ホンダワラ、ミル、シオグサ、アスコフィルム、ダルス、フルセラリア、ヒバマタ、アオノリなどが含まれる。養殖は陸上設置型の海水水槽において行われ、該水槽は適切な気候条件と栄養素の制御がされた環境を備える。これらの陸上設置型の水槽は構造工学、建築学的な修正を加えれば、世界中のどの地域でも設置可能である。本発明は数段階の生育工程を設計する手法及び制御された環境下でそれぞれの工程を最適化する条件を定義する方法を備える。本発明は、所望の栄養素および素材を含ませて海藻の品質を向上させる技術を備え、海洋汚染物質の影響がない高品質の産物を生産する。更に、最適且つ衛生的で温度制御された安定した環境条件のもとで、最大限の生産高を生み出す。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切な気候環境のもとで栄養素の制御された陸上設置型海水槽において、Porphyra(アマノリ属)及びその他の海藻類を養殖する独自の技術、システム及び方法を提供する。陸上設置型水槽は構造工学、建築面の改良を加えれば、世界中のどの地域でも設置することが可能である。システムは、気候的・地理的に適当な場所に位置する世界の陸上地域において整備され得る、適切な海水槽の設計及び開発を含む。本発明により、育苗の様々な段階を設計する方法、制御環境下で各段階を最適に利用するための特殊な条件を決定する方法、一年中海藻の養殖を可能とする方法が提供される。本発明のシステム並びに方法により、海洋汚染物を含まない高品質な産物を生産するために、所望の栄養素及び材料でアマノリ及び他の海藻の質を高める技術、更に衛生的且つ安定的で温度制御された最適条件下で最大の生産量を生産する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
現在、漁場で養殖されるアマノリ属(海苔)及びその他の海藻類は、海に面した漁場で養殖され、慣習的に避けられない気候条件の変化に適応しながら手仕事で摘採を行っている。こういった養殖漁場は、日本、韓国、台湾、中国の沿岸にある。藻類は約7万ヘクタールの海面積を覆う網で養殖される。また約30万人の労働者が海苔養殖及び海苔摘み作業に従事している。この労働集約的な従来の養殖システムは幾つかの問題を抱えるが、現段階においては、市場出荷を目的とした海苔養殖には、この方法を利用することしか考えられない。更に、この養殖システムで養殖された海苔の産物は海水汚染、気候変動、及び環境条件に曝され、これらの外的要因が生産品質及び生産量を左右する。
海苔はタンパク質やビタミンを多く含むことから、栄養上に有用な産物と考えられており、その消費量も近年徐々に増加している。例えば、海苔市場は海藻産物の総売上高のうち大部分を占め、60億ドルを超える。また米国一国での海苔市場は年間5000万ドルにも達すると推定される。海苔は手作業で摘まれ、シート状に成形して乾燥される。全世界で、約140億の海苔が生産されている。現在も尚、大規模な海藻養殖は主に、従来から海藻の需要が高いアジア地域で行われている。日本、韓国、中国、フィリピン、インドネシア、中国、台湾、ベトナム、ロシア、米国、イタリアの11ヶ国が海藻産物を生産している。これらの国の中でも、日本、韓国、中国のみが海苔を生産している。従って、この3国は米国及び欧州市場に対して独占的に海苔を供給している。
【0003】
上述の10ヶ国で生産される他の海藻類には、コンブ属(Laminaria)、ワカメ属(Undaria)、キリンサイ属(Eucheuma)、オゴノリ属(Gracilaria)が含まれる。米国及び欧州の市場には洗練されていない商品として差別化しがたい海苔産物が供給されている。即ち、米国及び欧州の市場は低品質且つ安価な海苔を輸入している。高級且つ上質な海苔産物は主に日本国内の消費用に蓄えられるからである。1997年には約35万トンの海苔が日本で生産され、小売額にして10億ドルの市場をもつ。海苔の品種は約70種存在し、そのなかで日本には約33種が生育する。海苔養殖は日本の成熟した産業であり、技術的に改良が重ねられている。例えば、貝殻の中でコンコセリスの生長を制御する技術や、漁場養殖前のコンコセリスにより生じた胞子をノリ網に着生させる人工採苗の技術がある。
養殖品種の改良することによる、海苔の生産量を向上、費用効果の高い養殖過程の開発は、菌株の選定を行うといった従来の育種方法に制限されていた。(特許文献1)。
【0004】
先行技術として、アマノリから細胞質を除去しプロトプラストを生成する方法及び原形質融合技術が開示されている。原形質融合技術は、それぞれの親世代の種に含まれる遺伝物質を配合して、新規のハイブリッド型倍数性及び異数性ゲノムを生成するのに使用される。新しく生育された菌株の染色体組成を変化させ、海に面した漁場で生育できる。新規の菌株は、生育、色素成分、代謝成分において改良を示す(特許文献2)。この方法の主な欠点は、新規の菌株が開発されても、海に面した環境で海藻を養殖することが要求されるため、地理的な制約は解消されない点である。
【0005】
本発明の開示技術は、上述の課題を解消する。多種の海藻を養殖する特別な技術、システム及び方法を提供することで、海苔及び他の海藻加工品の質及び量を向上する独自の方法を開示する。これは、天然の海洋環境では養殖を行わず、陸上の水槽で養殖を行う。この陸上の水槽により、最適な養殖条件となるように十分制御された安定的な環境が提供される。これら陸上の海水槽は世界中のどの地域でも整備可能である。好ましくは、沿岸地域付近の海藻が豊富に生息し、気候や水温が生息に適している地域や、また加工及び製造プラントの立地に近い場所がよい。本養殖技術による経済的な利益はコスト削減、更にアマノリ及びその他の海藻類の品質及び生産量を制御できることである。品質及び生産量の制御は、種本来の遺伝形質を変化させる方法をとらず、水槽内の海水中に含まれる物質を変化させて生育中の藻類への栄養素供給を変化させることにより実施される。但し、この技術は遺伝子組み換え即ち遺伝子工学処理のされた種にも適用可能である。
【0006】
先行技術では海藻から抽出又は化学的処理により生成された、多種の薬学的又は医学的成分とその有用性を示している。
例えばYvin J.C.らは、細胞機能不全を改良する効果を有する成分を開示している(特許文献3)。
Winget, R.R.は、抗炎症性の作用を示す成分を開示している(特許文献4)。
Soma, G.らは、抗ヘルペス作用を示す成分を開示している(特許文献5)。
Boratyn, D.C.は天然の植物及び海藻に由来する日焼け止め効果のある成分を開示している(特許文献6、特許文献7)。
Kuriyama Sは、高グリセリド血症の治療に有効な海藻由来の成分を開示している(特許文献8)。
【0007】
先行技術として、アマノリから細胞質を除去しプロトプラストを生成する方法及び原形質融合技術が開示されている。原形質融合技術は、それぞれの親世代の種に含まれる遺伝物質を配合して、新規のハイブリッド型倍数性及び異数性ゲノムを生成するのに使用される。新しく生育された菌株は染色体組成を変化させ、海に面した漁場で生育される。新規の菌株は、生育、色素成分、代謝成分において改良を示す(特許文献2)。
【0008】
【特許文献1】特開平第11−113529号
【特許文献2】国際出願公開公報WO/99/29160号
【特許文献3】国際出願公開公報WO/99/39718号
【特許文献4】国際出願公開公報WO/94/24984号
【特許文献5】欧州特許公開公報第0462/020号
【特許文献6】米国特許第6136329号
【特許文献7】国際出願公開公報WO/00/24369号
【特許文献8】米国特許第5089481号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この方法の主な欠点は、新規の菌株が開発されても、海に面した環境で海藻を養殖することが要求されるため、地理的な制約は解消されない点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、新規且つ独特で有用な技術、システム、及び方法に関する。より詳しくは多種の藻類の属、種を生産する大規模な海中養殖の実施に関する。藻類の属及び種には、アマノリ(Porphyra)、コンブ(Laminaria)、ワカメ(Undaria)、キリンサイ(Eucheuma)、オゴ(Gracilaria)、アオサ(Ulva)、ホンダワラ(Sargassum)、ミル(Codium)、シオグサ(Cladophora)、アスコフィルム(Ascophyllum)、ダルス(Palmaria)、フルセラリア(Furcellaria)、ヒバマタ(Fucus)、アオノリ(Enteromorpha)が含まれるが、これらに限定されない。
【0011】
本発明による技術は、安定的で十分制御され且つ環境面で安全な養殖システムを提供する陸上設置型の海水槽に焦点を当てる。これにより海苔及び/又はその他の海藻の生育が、天然の海洋に面していない環境外で可能となる。
本システム及び方法は、生長する海藻に摂取されるべき必須の栄養素及び望ましい栄養素を豊富に含む海水を満たした環境を設定する。これにより一貫して品質と生産量が確保され、汚染による影響のない収穫が可能となる。
【0012】
本発明の目的は、陸上に設置可能な水槽で食用の海藻類(例えば海苔)を養殖する、費用効率の高い技術を提供することにある。これは、海藻の養殖に適した水槽を設計及び整備し、養殖工程(種付け、育苗、及び収穫、干出及び市場出荷の準備)を確立することで実施される。気候条件に左右される海に面した環境では、このような技術は実現しない。
本発明のもう1つの目的は、食品成分、栄養補助食品、化粧品、又は薬剤として使用可能な産物を生産するために、制御された条件下で陸上設置型の海水槽内でアマノリ及びその他の海藻を生産するための方法を開発することにある。
本発明の好適な実施形態において、本技術により独特な特性を有する成分を備えたオーダーメードの海藻が提供される。その特性に含まれるものとして、抗ウイルス活性、抗菌活性、抗抗酸菌活性、抗寄生虫活性、抗潰瘍特性、内分泌効果、抗炎症効果、金属キレート特性、日焼け止めとしての放射線防止効果、免疫調節特性、創傷及び火傷治療特性、抗老化特性、抗酸化特性、抗アテローム性動脈硬化特性が挙げられるが、これらに限定されない。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決する。多種の海藻を養殖するための特別な技術、システム及び方法を提供することで、海苔及び他の海藻加工品の質及び量を改良する独特な方法を開示する。この技術は、全世界のどの地域でも整備可能な陸上用の海水槽を備える。本発明による多種の海藻類を養殖するためのシステム及び方法は、天然の海洋環境で養殖を行わずに、陸上の水槽で養殖を行う。この陸上の水槽により、最適な養殖条件を備えるよう十分制御された安定的な環境は提供される。これら陸上の海水槽は全世界のどの地域でも整備可能である。好ましくは、沿岸地域付近の海藻が豊富に生息し、気候や水温が生息に適している地域がよい。陸上の海水槽内部の周囲環境は養殖期間が一年中可能となるよう制御でき、気候条件により左右されない。海水槽の栄養素含有量は、本発明による陸上設置型の海水槽で養殖された海藻の成分や栄養素含有量を設定するために調整可能である。本養殖技術による経済的な利益はコスト削減、更に海苔及びその他の海藻類の品質及び生産量を制御できることである。本発明は生育サイクルを、生育段階に応じて数工程にわけ、各工程で最大生育量が見込めるよう環境条件を変化させ、種本来の遺伝形質を変化させる方法をとらずに水槽内の海水を変化させて生育中の藻類への栄養素供給を変化させることにより実施される。但し、この技術は遺伝子組み換え即ち遺伝子工学処理のされた種にも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の利点及び特徴は、以下の詳細な記載及び図面を参照することで、より明確になる。本発明の理解を助けるために図面を参照するが、これは本発明を限定するものではなく、例示したものにすぎない。
【0015】
図1によると、アマノリ属(学名Porphyra)は冬季にわたり無性生活環を持ち、半数体の大きな配偶体である葉体を備える(1)。また複相の有性生活環(2)を持ち、有性生活環(2)では倍数体の矮小な石灰質に穿孔し、胞子体となる糸状体を発生する、この世代はコンコセリス世代(12)と呼ばれる。
配偶体即ち葉体世代は、無性生活環(1)を示す。通常天然の海苔は、海に面して養殖されノリ網上で生育されるものである。半数体配偶子世代は、膜性葉体からなる。該膜性葉体は細胞1個分又は2個分の厚みで、雌雄異体又は雌雄同体であって、これらは種により異なる。雌雄同体の種では、様々な大きさの雄性細胞並びに雌性細胞が葉体の成熟に従って生長する。配偶体である葉体の世代は季節性であって、通常は果胞子が生じた後、退化して死滅する。た
有性生殖(2)の後、倍数体である果胞子が葉体から発生し、倍数体の胞子体であるコンコセリス世代(12)を発生させる。胞子体となるコンコセリスは通常、貝殻内に組み込まれた糸状体の集まりとして生長するため、天然に生息する様子は殆ど見られない。糸状体は非常に短い半径で且つ非常に長い細胞からなり、通常3乃至10ナノメートル幅でその数倍の長さを持つ。季節変化により環境条件が変化し、コンコセリスは、より大きなサイズの細胞の束、つまり枝状に分岐した形状に誘引される。これは殻胞子嚢とよばれ、通常は半径15乃至20マイクロメートルで、成熟すると倍数体の殻胞子を放出する。減数分裂は殻胞子の発芽時に起こる。通常、コンコセリス養殖は大型タンク内に移入された貝殻の中で生育され、光や温度条件の変化を通じて、収穫期前に殻胞子の発生、放出が誘引される。コンコセリスにより放出される殻胞子は、ノリ網への種付けに使用され、このノリ網を海へ出して、葉体を生育させる。その後収穫及び干出され、シート状の海苔として販売される。略全ての海苔養殖業者が、夏季を生殖時期とする有性生殖生活環を使用して年間の養殖作業を行っている。
【0016】
対照的に、海苔養殖に関する本発明の原理の特徴は、陸上設置型の海水槽を使用することであって、この特徴を図2の無性生殖生活環に示す。この様式の海苔養殖の利点は、冬季も養殖が可能であることである。無性生活環を使用することの主な利点は、一年中胞子体を用意して利用できることである。これにより屋外条件が適していれば、養殖期の拡張を図ることができる。陸上設置型の海水槽であれば条件は調整可能である。もうひとつの重要な利点として、コンコセリス世代を別途養殖していた全工程を排除できる。陸上設置型の海水槽を使用して、海苔若しくはその他の商業的に利用可能な海藻を、夏季の養殖も可能とすることができる。
本発明の技術は、陸上設置型の水槽のネットワークにうまく応用できる。これにより生育期には週当たり1kg/mの生産高の上昇が達成された。養殖期を延長させる海苔の品種及び菌株の試験が行われた。本発明により生育した干し海苔は、良質で且つタンパク質、繊維質、ミネラル、ビタミン、抗酸化物質、脂肪酸、植物性化学物質などの栄養素を多く含む。本発明の養殖制御技術による利点には、次に挙げられる事項が含まれる。
(1)汚染の影響のない海苔を良好に生育する(通常、流入する海水、排水、又は海水の富栄養化の制御が行われる)。
(2)環境劣化や異常気象の影響がない。
(3)海苔の品質と収穫高を一定に保ち生産できる。
(4)最高の質及び収穫高を上げるための最適条件を実現できる。
(5)収穫や移植を行う作業場へ容易に足を運ぶことができる。
本発明による海苔の養殖及び改良のための特別適用措置の実施例をいくつか記載するが、以下に示す事項に限定されるものではない。
【0017】
(1)海苔養殖は海に面した場所で行われ、海洋生態系や気候条件に完全に左右されていた。対照的に本発明により提供される技術は、海苔及び他の海藻を陸上設置型の海水槽で養殖するため、極端な温度変化や、暴風、栄養素含有量などの海洋条件の影響を受けない。
(2)海に面した海苔養殖では、生産量や養殖された生産品の品質を制御できない。しかし、本発明により養殖された海苔の品質及び生産量は制御できる。即ち、高収穫量が保証され、高品質且つオーダーメードの(つまり好みの)海苔が注文できる。
(3)海に面した海苔養殖では、菌株や遺伝形質を調整しなければ含有量や成分に対する制御はできない。しかし、本発明により養殖された海苔では、環境条件を最適条件に制御可能であるため、遺伝子組み換えの必要なく、生産品の改良が見込まれる。
(4)海に面した環境で海苔を生育すると、汚染災害や汚濁の影響を受けやすい。しかし、本発明により生産された海苔は汚染、汚濁の影響を受けない。
(5)海に面して生育した海苔は、着生生物や他の生物、砂などにより汚染されがちである。しかし、本発明により生長した海苔にはこのような問題は起こらない。
(6)海に面して生育した海苔は、原料としては通常シート状の海苔の生産にしか適さない。しかし、本発明により生育した海苔は、シート状の海苔のほかに栄養補助食品、化粧品、及び薬剤にも適した原料となる。
(7)海に面した海苔養殖は、大規模な敷地で実施される。しかし、本発明による海苔養殖では、世界中の様々な地域で、柔軟に対応して海苔養殖場が整備できる。
(8)海に面した養殖される海苔は、その地域に生息する種の海苔に限定される。しかし、本発明を使用すれば、海苔及び如何なる全ての海藻類も養殖可能である。
(9)海に面した海苔養殖システムは、気候変化や季節変化により定められた生育期がある。しかし、本発明に海苔養殖システムは温度調節を行うことで生育期を拡張することができる。
(10)海に面した海苔養殖作業は非効率的で、多くの労働力を必要とし、作業スペースは養殖場に限定される。しかし、本発明による海苔養殖作業は、効率的なシステムで比較的非常に少ない労働力で済む。また作業スペースはコンパクトな面積で、しかも利便性とコスト節約のために、処理ユニットの近くに整備することができる。
(11)以下の例は本発明の利点を説明するために示される。また同一のものを製作若しくは使用する分野の通常の技術を支援するためでもある。以下の例は如何なる場合においても本願の範囲を限定するものではない。
(12)従来のシステムではコンコセリス体を別に養殖する工程が必要で、この工程に左右されていた。通常、コンコセリス体は養殖場から離れて生育され、このコンコセリス体を養殖するための別の組織を必要とした。本発明により提供されるシステムは、コンコセリス養殖を必要としないシステムである。よって胞子から海苔原料までの全養殖工程が同じ場所、同位置で実施可能である。
【0018】
(実施例)
(例A 屋内工程)
1(胞子体の発生)
養殖期開始の3ヶ月前には、胞子が発生し、胞子母細胞を生育させる(図2及び図3を参照)。胞子形成過程は、当該分野でよく知られているが、以下のような事項を含む。
(a)前の養殖期に生育した胞子による有性胞子形成
胞子体はペトリ皿若しくは何らかの好ましくない条件下で生育する場合は、単胞子を放出する。スサビノリ(Porphyra Yezoensis、YEZ)は、胞子体は全長1乃至5mmに分解され、単胞子を大量に放出する。YEZは胞子体の全細胞を単胞子として放出する。また台湾産Porohyra sp.(TAW)は、全長1乃至2cmの単胞子を放出する。この単胞子を放出するという特徴は、胞子体の感受性の程度を認識する目安となる。
(b)前の養殖期末期に冷凍され、解凍した胞子体からの胞子形成
前の養殖期末期の胞子体及び幼葉は蒸留水で洗浄され(0.5分程度の短い洗浄)、滅菌状態で4分間乾燥させ(層流フード内で行う)、マイナス50℃で冷凍する。養殖期の開始前に、冷凍した幼葉は室温で解凍され、培地A内ですすがれ、暗所(2層の組織層で覆われる)において15℃の培養機に移される。
YEZ種は2週間以内で単胞子を放出し始める。培地Aは抗生物質を含む海水補強培養液を含有する。
(c)前の夏季に生育したコンコセリス体からの胞子形成
貝殻中で15℃で生育するコンコセリス体は生育中の基質に対して殻胞子を放出する。コンコセリス体を使用した胞子形成は、アサクサノリ(P.tenera)などの低温で生長する種にとっては重要な手段である。胞子体が僅か4ヶ月間のコンコセリス体生育後に放出でき、大量の胞子体が生産され、簡単に結果が得られるので、低温種の生殖には適している。
【0019】
2(胞子母細胞)
胞子体は暗所で発生し(2層の組織層で覆われている)、明所(1層の組織層で覆われている)、明期8時間/暗期16時間の光周期、15度、培地P又はAで発芽する。1週間後、幼胞子体は培地POに移入され、単胞子を放出しない成熟を可能とする生長機能特性が保持される。
培地POは、塩分を減らした海水補強培養液である。培地PはProvasoliタイプと類似した海水補強培養液を含む。
3(胞子形成)
全長2cmの大きさに達した胞子体は、大量に胞子を生成するための培地Pに移入される。胞子の放出はペトリ皿上で行われる。ペトリ皿はゆっくりと回転し(1日で1回転程度)、胞子が皿全体に均一に分散される。しかし同時に胞子は基質に付着する。胞子放出は、上述の胞子母細胞の生成と同一の条件で行われる。
4(初期胞子発生)
胞子は全長1mmの大きさになるまで明所で1ヶ月間特別な培養機に入れられ実験室に置かれる(図3、21)。胞子がその大きさに達すると、特別に制御された環境の水槽(コンテナ)内のプラスチック製のスリーブに胞子が移入される(図3、22)。
5(胞子体養殖)
通常、スリーブ1本に対して5乃至10枚のペトリ皿という割合で移入される。幼胞子体はプラスチック製スリーブに移入され、該胞子体は成熟して幼葉体となる。幼胞子体は丁度2週間プラスチック製スリーブ内で生育し、2週間ごとに栄養素として窒素(N)、リン(P)が添加される。NについてはNHClを0.5mM添加し、PについてはNaHPO・HOを0.05mM添加する。コンテナ内の条件は、温度マイナス15℃で、光環境は弱光の蛍光灯及び追加的に白熱灯を使用する。海水は1マイクロメッシュでフィルタリングされる。スリーブ内はプラスチック製管体を通った空気の気泡が常に生じている。2週間の工程で胞子は0.5cmに生長する。
【0020】
(例B 屋外工程)
1(第1生育工程)
図3によれば、プラスチック製スリーブ内で0.5乃至1cmの長さに生長した胞子対は、屋外条件下で小型の育苗タンク(401)に移入される。育苗タンク1体につきスリーブ1本を備える。胞子体は2乃至4cmの長さになるまで2乃至3週間、流動する海水中で育成される。海水は2週間に一度NとPの栄養素が添加される。可能性として養殖期の開始時期に冷却装置(23)を用いてタンク内の海水を冷却することも考えられる。冷却処理により海水環境を3乃至5℃下げ、養殖期間を1乃至2週間延ばすことができる。生育期間中特に第1週目には、タンクを1又は2枚のプラスチック製黒色スクリーンで覆う。
2(第2生育工程)
図4によれば、2乃至3週間経過し、小型タンク(401)の屋外条件下で胞子が成熟するまで生育すると、長さ4m、幅1m、深さ1mの大型養殖タンク「Uタンク」に幼葉体が移入される。Uタンクは収穫まで海苔を養殖できる最適な生育環境を提供する。営利目的の養殖には広い面積の養殖区画が必要であるため、成葉をUタンク内で3週間生育し、その後葉状体(この段階で10cm程度の長さに生長している)をブレンダ又は類似の葉状体を鋭利に切断できる装置で刻み、1乃至2cmの断片とする(第1切断工程)。切断装置は水懸濁中で葉状体を切断する。この処理は葉状体の細菌汚染の危険性を避けるために冷却水中で実施される。
3(第3生育工程)
図5によれば、海苔の葉状体が大型のUタンクで生育され、第1切断され、3週間が経過する。海苔の小片は植菌槽(養殖槽の1/10程度の面積を持つ区画であって、通気槽である)に移入される。葉状体の小片は植菌槽で2乃至3週間懸濁されて生育する。海水はN及びP又は他の必要な要素で強化されている。葉状体は植菌槽での養殖期間の終了後、再び刻まれる(第2切断工程)。
4(第4生育工程)
図6によれば、海苔の葉状体の小片が養殖槽に移入され、この大区画の養殖槽中で葉状体が長さ10cm、密度2.5乃至4kg/m程度となるまで2乃至3週間生育させる。その後メッシュを通して培養液を汲み上げることで、葉状体は全て摘採される。培養液は一旦養殖槽に戻し、それを次の養殖時に使用することもできる。
【0021】
(例C 本発明の技術を用いた2種の海苔生育工程にみられる年間養殖作業)
図7に6月から翌年5月にかけて養殖した、2種のアマノリの生育結果を示す。温度条件は変更でき、それぞれの生育工程―工程1、工程2、工程3、工程4は本発明の技術を使用して制御された。実験結果より、本発明の技術は、全ての陸上設置型の海水槽において(屋外条件が良好であれば)ほぼ一年中アマノリの生育に使用できることがわかった。したがって、海の気候条件の制約を受けずに海苔養殖が可能である。
本発明は実施例に記載された範囲に限定されるものではない。実施例は本発明の一形態を説明するものとして示したにすぎず、機能上同様の方法は本発明の範囲内である。つまり、上記の記載より、本願で明示及び記載した事項には多種の発明の改良ができることは、当業者の目に明らかである。そのような改良も本願の請求の範囲内とする。
当業者は、通常の実験を使用して、本願記載の発明の特殊な実施形態と同様の事項を認識又は解明できるであろう。そのような同様の事項も請求の範囲内に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】海苔(アマノリ属)の生活環を示す。海苔は無性生殖環(1)又は有性生殖環(2)により生育される。無性生殖環は海に面した場所で冬季に発生し(3)、有性生殖環は夏季に発生する(4)。従来の技術では、海での海苔養殖につき有性生殖環を使用していた。しかし、本発明は主な生殖手段として海苔の無性生殖環を使用するシステムを導入している。この方法は他の海藻類の無性生殖環を使用しても実施できる。海苔の無性生殖環(1)は、不動胞子(5)、配偶体(6)、複相前葉体(7)を備える。海苔の有性生殖環(2)は果胞子(8)、単相糸状体(9)、胞子体(10)、単胞子(11)、コンコセリス世代(12)、胚(13)を備える。
【図2】海苔を養殖する工程のフローチャートを示す。海苔の養殖工程には、前葉体生育ユニット(14)、タネ生産ユニット(15)、及び多種の養殖工程を備える。多種の養殖工程には、水槽において懸濁培養液中で藻類を生育する工程(16)、切断サイクル(17)、収穫工程(18)、干出及び粉砕工程(19)を含む。これらにより栄養補助食品、食品、化粧品、又は薬剤などの海苔加工品を生産する(20)。
【図3】実験室内での胞子及び糸状体(胞子体)の生成を示す(23)。この工程はおよそ1ヶ月間を要する。はスリーブ内で生育され、1つの糸状体に対して1本のスリーブが割り当てられる。スリーブは環境制御されたチャンバ(22)内にある。冷却装置(23)を温度調整のために使用してもよい。次の生育工程は、海苔養殖工程1(24)と定義され、小型タンク(401)内で実行される。この工程はおよそ2週間にわたって行われる。
【図4】海苔養殖工程2を示し、工程2は大型タンク(4m)で、2乃至3週間にわたり行われ、最終的に約2.24Kgの重量の海苔が生育される。この工程で得られた海苔につき1度目の切断が行われる。
【図5】海苔養殖工程3を示し、植菌槽(30m)内で行われ、最終的に約37.5kgの重量の海苔が生育される。この工程で得られた海苔につき2度目の切断が行われる。
【図6】海苔養殖工程4を示し、養殖槽で3乃至4週間生育され、最終的に約1250kgの重量の海苔が生育される。この工程で得られた海苔が収穫される。
【図7】陸上設置型の海水槽で生育段階により区別した年間養殖作業を示す。台湾に生育するアマノリ属の種(P.sp)及びスサビノリ(Porphyra Yezoensis)を想定する。 本発明は、温度、その他の条件が、2種の各養殖工程を制御するために最適化された設計を示す。生育工程は本発明による陸上設置型の海水槽を使用した場合のみ計画可能である。この生育工程は、海に面した環境では季節変化に関わらず海藻養殖の最適化を制御できない。 例えば、6月(25℃)、7月(28℃)、8月(30℃)の間は、胞子母細胞は実験室で生長する。 9月(29℃)、10月(26℃)、11月(23℃)、12月(20℃)、1月(19℃)の間は、胞子形成が起こり、糸状体は環境制御された実験室で生長する。 2月(18℃)、3月(18℃)、4月(19℃)及び5月(21℃)の間は、前葉体は実験室で冷凍保存される。10月から2月にかけては、2種の海苔はスリーブ内生育とは異なる工程、即ち工程1、工程2、工程3、工程4に入る。3月から4月にかけて工程2、工程3、工程4で生育する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上に設置されるとともに海藻を養殖するシステムであって、該システムは、
培養液中で胞子及び胞子体を生育するのに適した実験設備と、
胞子体の成熟を可能とする複数のスリーブと、
栄養素が添加された海水を含む複数の小さな植菌槽であって、最適条件下で前記胞子体を成熟させ海藻片に生長させることが可能な植菌槽と、
該海藻片を移入して該海藻片を最大の大きさに生育させる複数の大型の養殖槽とからなることを特徴とするシステム。
【請求項2】
陸上で海藻を養殖するためのシステムであって、該システムは複数の陸上設置型海水槽を備え、該海水槽は、栄養素が添加された海水を含むとともに、該海水槽は最適な温度、光、空気条件が保たれ、1年中海藻を最適に生育可能となることを特徴とするシステム。
【請求項3】
前記海藻は、陸上設置型海水槽で生育され、該海藻の種類はアマノリ、コンブ、ワカメ、キリンサイ、オゴノリ、アオサ、ホンダワラ、ミル、シオグサ、アスコフィルム、ダルス、フルセラリア、ヒバマタ、アオノリを含むことを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記海水中に栄養素が添加され、前記生育された海藻が、栄養補助食品、食品成分、薬剤若しくは化粧品に使用可能となることを特徴とする請求項3記載のシステム。
【請求項5】
前記海藻が、
胞子及び胞子体を発生させる工程と、
小型タンクで生育される生育工程1と、
大型タンクで生育される生育工程2と、
植菌槽で生育される生育工程3と、
養殖槽で生育される生育工程4とからなるサイクルを経て得られることを特徴とする請求項1記載の海藻を養殖するシステム。
【請求項6】
前記胞子及び胞子体を発生させる工程と、生育工程1と、生育工程2と、生育工程3と、生育工程4が、陸上設置型海水槽で行われ、これら各工程が1年中実施可能となることを特徴とする請求項5記載のシステム。
【請求項7】
陸上設置型海水槽で海藻を養殖する方法であって、該方法は、
実験設備内で管理された培養液中で胞子及び胞子体を生成する段階と、
最適生育条件下において懸濁液中で胞子体を生育する段階と、
早期生育を可能とするために、成熟した胞子体を大型の養殖槽に移入する段階と、
完全に生長した海藻片を収穫する段階と、
収穫された海藻を干出及び粉砕する段階と、
最終的な海藻産物を販売するための準備をする段階とからなることを特徴とする方法。
【請求項8】
前記大型の養殖槽が栄養素を含み、有用な特性をもつ海藻産物の高い生産量を確保することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記海藻産物を生産する方法は、薬剤利用に適した産物を製造するのに適用されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記海藻産物を生産する方法は、食品成分として有用な産物を製造するのに適用されることを特徴とする請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−512025(P2007−512025A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541559(P2006−541559)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/039004
【国際公開番号】WO2005/051073
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506168680)ノリテク シーウィード バイオテクノロジーズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】