説明

消火装置および消火方法

【課題】各種生産設備に設置が義務付けられた消火設備において、液体や粉末などの消火剤を用いたものは、発火源に配された生産設備を復旧させる際の手間やコストが嵩む欠点がある。
【解決手段】本発明による消火装置は、発火源を囲むように配されて消火用空間Sを画成する防火隔壁と、この防火隔壁によって画成された消火用空間Sの上端部と外部とを連通するように防火隔壁の上端部に形成された排気口29と、消火用空間S内に二酸化炭素を噴射する二酸化炭素噴射ノズル26とを具えている。発火源から火炎または煙が発生した場合、消火用空間S内に二酸化炭素を噴射し、消火用空間S内に介在する空気を排気口29から消火用空間Sの外に排出し、これによって消火用空間S内の空気を二酸化炭素で置換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を用いて消火を行う消火装置および消火方法に関し、特に各種生産設備における加工機械などで発生する火災に対して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、消火剤として気体を用いるガス系消火システムとして、二酸化炭素消火やハロゲン消火が知られており、消火剤としては泡や液体,粉末の形態が一般的である。
【0003】
二酸化炭素消火は、消火区域内に二酸化炭素を放出することにより、発火源周辺の酸素濃度を低く保ち、いわゆる窒息消火の原理で消火するものである。さらに、液体の二酸化炭素が気化膨張する際に発生する霧状のドライアイスによって、可燃物を冷却して消火を助けるという効果も期待できる。消火剤としての二酸化炭素は、通常、高圧で圧縮された液体として高圧容器に充填されており、その特性から可燃性液体や油脂,樹脂などの火災や電気機器の火災に適していると考えられている。ただし、二酸化炭素は人体に対して有害であるので、これを使用する場合には火災発生と同時に警報を発し、消火区域から人員を避難させ、消火区域が無人であることを確認してから消火作業、つまり二酸化炭素の放出を行う必要がある。
【0004】
ハロゲン消火は、ハロン1301などのハロゲン化物消火剤を放出することにより、燃焼化学反応を抑制する作用、すなわち燃焼の連鎖反応を止める作用によって消火するものである。このハロン1301消火薬剤は、上述した二酸化炭素よりも消火薬剤濃度を低く設定することができ、また人体に対する毒性も比較的低いという特徴を有する。しかしながら、フロンによるオゾン層破壊に伴う地球環境問題から、ハロゲン化物消火薬剤も使用規制の対象となっており、現在ではその製造が認められていない。また、ハロゲン消火を生産設備に適用した場合、ハロゲン化物消火剤が消火作業によって生産設備の一部を構成する工作機械や、これによる加工物である製品に大きなダメージを与えてしまい、消火活動後の復旧作業に大幅に手間取ることがあった。
【0005】
このようなことから、現実的なガス系消火システムとして二酸化炭素消火が注目を集めている。この二酸化炭素消火においては、消火区域、つまり二酸化炭素の放出容積が大きいと、消火するためには多量の二酸化炭素が必要となり、液体二酸化炭素の貯蔵容器も多数用意しなければならず、そのための広い設置スペースを確保する必要がある。また、広い消火区域に大量の二酸化炭素を放出した場合、人体に有害な二酸化炭素を消火後に消火区域から排出する必要がある。環境に悪影響を与えずに二酸化炭素を消火区域から排除するため、消火空域の容積をできるだけ小さく設定し、火災が発生した場合における二酸化炭素の放出量を少なくできるようにしたものが特許文献1にて提案されている。
【0006】
一方、射出成形機においては成形樹脂を溶融するためのヒータが組み込まれている。また、射出成形機の金型のゲート部とゲート部を介して射出するノズル部との密着が悪い場合、これらの隙間から溶融樹脂が漏出する場合がある。成形される樹脂の特性によっては、漏出した樹脂がヒータの熱およびヒータのショートにより引火して火災を発生する場合がある。このような火災に対する消火装置が特許文献2にて提案されている。この消火装置は、溶融樹脂を金型内に射出するノズルと接触する金型のノズルタッチ部の近傍に火災感知器と二酸化炭素を噴射させる噴射ノズルとを配置したものである。この消火装置によると、ノズルから漏れた樹脂がヒータに付着し、ヒータの熱およびヒータのショートにより引火する火災を検知し、自動的にこれを消火するようにしている。
【0007】
また、旋盤やフライス盤などの工作機械においては、加工液が周囲に飛散するのを防止するためのカバーが設けられている。このようなカバーは、加工中の工具の欠損に伴う欠損物の飛散を防止したり、加工中における事故から作業者を保護する役目も持っている。切削工作機械においては、加工するワークの材質や加工方法に応じて種々の加工液が用いられる。特に、引火性の高い揮発性の加工液を用いる場合、加工中の火花の発生などが生じないような充分な配慮が必要である。しかしながら、工具の欠損などが生じて欠損部分がワークなどに衝突して火花が生ずると、これが加工液に引火して火災が発生する。このような場合、カバーを開けて直ちに消火作業を行う必要が生ずるが、カバーを開けることによってほぼ密閉された状態のカバー内に新鮮な空気が流入し、却って火災が大きくなる可能性がある。このような不具合を解消するため、カバーの扉とは別に扉よりも間口の小さな開閉可能な開口部をカバーに設け、火災が発生した場合、開口部から消火器のノズルを差込んで消火することができるようにしたものが特許文献3にて提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平10−272194公報
【特許文献2】実開平2−58925公報
【特許文献3】特開2000−190161公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された消火装置は、消火対象である消火区域の空間容積を小さくし、これによって消火ガス放出量を少なくしたものである。しかしながら、消火区域の空間容積を小さくするための機構が複雑であり、しかも空間容積を小さくするため、消火ガス設備とは別に、縮小した不燃性袋を膨張させるためのガス放出装置が必要である。また、消火ガスを不燃性袋の膨張のためのガスと兼用させた場合、多量のガスを貯蔵しておく必要があるなどの課題を抱えている。
【0010】
また、特許文献2に記載された消火装置においては、成形機内に火災感知器や二酸化炭素を噴射させるための噴射ノズルを配置する必要がある。このため、その設置スペースを確保しなければならず、結果として成形機全体の設置容積が大きくなってしまうという欠点を有する。
【0011】
さらに、特許文献3に記載された消火装置の場合、発火の規模が大きいと消火のための開口部が小さいとは言っても開口部の蓋を開いた時に開口部から炎が突出してくる可能性があり、消火活動に危険性を伴うという不具合がある。
【0012】
本発明の目的は、このような従来の問題点に鑑み、人手を介することなく少量の二酸化炭素を用いて効率よく消火することができる消火装置および消火方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の形態は、発火源を囲むように配されて消火用空間を画成する防火隔壁と、この防火隔壁によって画成された前記消火用空間の上端部と外部とを連通するように当該防火隔壁の上端部に形成された排気口と、前記消火用空間内に二酸化炭素を噴射する二酸化炭素噴射ノズルとを具えたことを特徴とする消火装置にある。
【0014】
本発明においては、発火源から火炎または煙が発生した場合、二酸化炭素噴射ノズルから消火用空間内に二酸化炭素が噴射され、消火用空間内に介在する空気を排気口から消火用空間の外に排出し、消火用空間内の空気を二酸化炭素で速やかに置換する。この結果、発火源の周囲の消火用空間は二酸化炭素雰囲気となり、発火源における燃焼の継続が不可能な状態となる。
【0015】
本発明の第1の形態の消火装置において、二酸化炭素が粉粒状固体を含むことが好ましい。この場合、二酸化炭素噴射ノズルは、発火源を横切るような旋回流が消火用空間内で形成されるように、防火隔壁に沿って二酸化炭素を下向きに噴射するものであってよく、また発火源が消火用空間の下部に位置していることが好ましい。
【0016】
二酸化炭素を貯留する二酸化炭素貯溜タンクと、発火源からの火炎または煙の発生を検出するための火煙検出センサと、この火煙検出センサからの検出信号に基づき、二酸化炭素貯溜タンク内の二酸化炭素を二酸化炭素噴射ノズルに導いて消火用空間内に噴射させるための二酸化炭素供給制御手段とをさらに具えることができる。
【0017】
本発明の第2の形態は、発火源を囲んで消火用空間を画成するステップと、発火源から火炎または煙が発生したか否かを検出するステップと、発火源から火炎または煙が発生した場合、前記消火用空間内に二酸化炭素を噴射するステップと、前記消火用空間内に介在する空気を前記消火用空間の外に排出し、これによって前記消火用空間内の空気を二酸化炭素で置換するステップとを具えたことを特徴とする消火方法にある。
【0018】
本発明においては、発火源からの火炎または煙の発生を検出した場合、消火用空間内に二酸化炭素が噴射される。これにより、消火用空間内に介在する空気が消火用空間の外に排出され、消火用空間内の空気が二酸化炭素で置換される結果、発火源における燃焼の継続が不可能となる。
【0019】
本発明の第2の形態による消火方法において、二酸化炭素が粉粒状固体を含み、消火用空間内にある空気を消火用空間の外に排出するステップが二酸化炭素と空気との比重差を利用するものであってよい。
【0020】
消火用空間内に二酸化炭素を噴射するステップは、消火用空間の上方から下向きに二酸化炭素を噴射して発火源を横切るような旋回流を消火用空間内に形成するステップを含むことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の消火装置によると、発火源を囲むように配されて消火用空間を画成する防火隔壁と、この防火隔壁によって画成された消火用空間の上端部と外部とを連通するように防火隔壁の上端部に形成された排気口と、消火用空間内に二酸化炭素を噴射する二酸化炭素噴射ノズルとを具えているので、二酸化炭素よりも比重の小さな消火用空間内の空気を排気口から排出させ、消火用空間内を速やかに二酸化炭素で充満させることが可能となる。この結果、発火源を迅速に失火状態へと移行させることができる。また、二酸化炭素の使用量を消火用空間の容積に合わせて最小限に抑え、消火後の処理をより安全かつ迅速に行うことが可能となる。
【0022】
二酸化炭素が粉粒状固体を含む場合、発火源自体がドライアイスによって冷却されることとなるため、より迅速な消火を行うことが可能である。
【0023】
二酸化炭素噴射ノズルから二酸化炭素を防火隔壁に沿って下向きに噴射し、発火源を横切るような旋回流が消火用空間内で形成されるようにした場合、発火源の周囲を速やかに二酸化炭素の雰囲気に移行させることができ、迅速な初期消火を行うことが可能である。
【0024】
発火源が消火用空間の下部に位置している場合、空気との比重差によって消火用空間の下部に沈降しやすい二酸化炭素を発火源の周囲に確実に介在させることができ、より迅速な初期消火を行うことが可能である。
【0025】
二酸化炭素を貯留した二酸化炭素貯溜タンクと、発火源からの火炎または煙の発生を検出するための火煙検出センサと、この火煙検出センサからの検出信号に基づき、二酸化炭素貯溜タンク内の二酸化炭素を二酸化炭素噴射ノズルに導いて消火用空間内に噴射させるための二酸化炭素供給制御手段とをさらに具えた場合、発火源にて火災が発生しても自動的に消火を行うことが可能となる。また、火煙検出センサからの検出信号に基づいて二酸化炭素供給制御手段の作動が切り替わるため、消火し終えた場合に二酸化炭素の供給を自動的に停止することが可能となり、後処理における安全性を高めることができる。
【0026】
本発明の消火方法によると、発火源を囲む消火用空間を画成し、発火源から火炎または煙が発生したか否かを検出し、発火源から火炎または煙が発生した場合、消火用空間内に二酸化炭素を噴射し、消火用空間内に介在する空気を消火用空間の外に排出し、これによって消火用空間内の空気を二酸化炭素で置換するようにしたので、消火用空間内を速やかに二酸化炭素で充満させることが可能となり、発火源を迅速に失火状態へと移行させることができる。また、二酸化炭素の使用量を消火用空間の容積に合わせて最小限に抑え、消火後の処理をより安全かつ迅速に行うことが可能となる。
【0027】
二酸化炭素が粉粒状固体を含み、消火用空間内にある空気を消火用空間の外に排出するステップが二酸化炭素と空気との比重差を利用している場合、消火用空間の下方から二酸化炭素を消火用空間に導いて二酸化炭素よりも比重の小さな消火用空間内の空気を上方から速やかに排出させることができる。しかも、発火源自体がドライアイスによって冷却されることとなるため、より迅速な消火を行うことが可能となる。
【0028】
消火用空間内に二酸化炭素を噴射する際、消火用空間の上方から下向きに二酸化炭素を噴射して発火源を横切るような旋回流を消火用空間内に形成するようにした場合、発火源の周囲を速やかに二酸化炭素の雰囲気に移行させることができる。また、これによって迅速な初期消火を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明による消火方法を実施し得る消火装置の実施形態について図1〜図5を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこのような実施形態のみに限らず、特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が可能であり、従って本発明の精神に帰属する他の任意の技術にも当然応用することができる。
【0030】
図1〜図3は本発明を射出成形機に応用した第1の実施形態を示している。本実施形態における射出成形システムは、射出成形機11と、この射出成形機11にて用いられる樹脂を予め乾燥状態に調整しておくための乾燥機12と、射出成形機11に組み込まれる図示しない金型を所定温度に保持するための温調機13との3つの発火源を含み、また射出成形機11,乾燥機12,温調機13の何れかに火災が発生した場合、これらの消火を独立に制御するための制御盤14をさらに具えている
第1の発火源である射出成形機11は、成形機本体15と、この成形機本体15にペレット状の樹脂を供給するホッパ16と、このホッパ16が取り付けられる射出ユニット17と、この射出ユニット17に固定状態で取り付けられ、金型に溶融樹脂を押し込む図示しないスクリューを内部に有する射出シリンダ18とを具えている。射出ユニット17には、射出シリンダ18内の図示しないスクリューを前進(図1中、左進)または後進(図1中、右進)させる図示しない駆動装置が組み込まれている。射出シリンダ18の外周には樹脂を溶融させるための図示しないヒータが取り付けられている。
【0031】
本実施例における射出成形機11の射出ユニット17および射出シリンダ18の周囲の空間は、外部に対して基本的に仕切られた状態となっている。すなわち、射出シリンダ18の上部および後部はそれぞれ上カバー19および後カバー20にて覆われており、上カバー19には射出ユニット17と一体に図1中左右に前後進するホッパ16の往復移動を可能とするための切欠き部21が形成されている。射出シリンダ18の前部は射出ユニット17および射出シリンダ18のメンテナンスを行うためのドア22で覆われている。このドア22は取手23を用いて水平に移動可能となっており、開けた状態において射出ユニット17および射出シリンダ18を外部に対して露出させることができる。また、この射出成形機11の前部にはドア22に隣接して形成された金型交換用の開口部を塞ぐドア24が設けられ、同様のドア25が射出成形機11の後部の後カバー20に隣接して形成された金型交換用の開口部を塞ぐように設けられている。これら2つのドア24,25も水平に移動可能となっており、射出成形作業中は、すべてのドア22,24,25が閉じられ、射出シリンダ18の周囲の空間を外部に対してほぼ仕切った状態に保つことができる。
【0032】
本実施形態では、成形機本体15の一部,ドア22,上カバー19,後カバー20などによって仕切られた状態に保持される射出シリンダ18の周囲の空間が本発明における消火用空間Sに相当する。従って、これを囲む成形機本体15の一部,ドア22,上カバー19,後カバー20などが本発明の防火隔壁を構成する。
【0033】
上カバー19には、二酸化炭素を消火用空間S内に噴射するための噴射ノズル26と、消火用空間S内で火炎が発生したことを検知するための火炎検知器27と、火災に伴って煙が消火用空間S内で発生したことを検知するための煙検知器28とが固定されている。さらに、消火時に消火用空間Sに介在する空気を外部に排出させるための排気口29も形成されている。噴射ノズル26に連結された高圧配管30は、制御盤14内に収容された図示しない液化二酸化炭素ボンベに接続している。高圧配管30の途中には、この高圧配管30内の流路を開閉するための図示しない電磁弁が設けられ、その開閉作動が制御盤14からの指令に基づいて行われるようになっている。また、火炎検知器27,煙検知器28から引き出された信号線31も同様に制御盤14に電気的に接続している。
【0034】
なお、上述した排気口29に関し、消火時に消火用空間Sに介在する空気を外部に排出させることができるような空隙,通路またはダクトなどがこの射出成形機11や上カバー19などに予め存在している場合、これら空隙,通路またはダクトの本来の目的に拘らず、これらを本発明の排気口として流用または兼用させることが可能である。この場合、本実施形態の如き専用の排気口29を上カバー19に形成する必要はなくなる。
【0035】
本実施形態における消火用空間Sの断面構造を図2,図3に示す。成形機本体15には、射出シリンダ18の図示しない射出ノズルから垂れ落ちる溶融樹脂を受けるためのトレイ32が配されている。噴射ノズル26は、射出ノズルの真上ではなく、後カバー20に近接して下向きに配され、ここから二酸化炭素を噴射した場合、トレイ32の上を横切るような旋回流が消火用空間Sに形成される。これにより、消火用空間Sに介在する空気を速やかに消火用空間Sの外に排出させることができ、消火用空間S内を迅速に二酸化炭素で満たすことができる。この場合、二酸化炭素の比重は酸素を含む空気の比重よりも大きいので、トレイ32が配された消火用空間Sの底部により早く二酸化炭素が滞留し、比重の軽い空気を速やかに排気口29から排出させることができる。また、噴射ノズル26から噴射する高圧の二酸化炭素は、気化に伴う断熱膨張によってその一部が急速に冷やされ、粉粒状のドライアイスとなって発火源であるトレイ32に導かれ、発火源の温度を急速に冷却させる効果も併せ持つ。
【0036】
なお、噴射ノズル26を射出ノズルの真上に取り付けた場合、この噴射ノズル26から噴射される二酸化炭素の噴流がトレイ32に衝突した後、ドア22および後カバー20に向けて四方に分散して旋回流が形成されにくくなる。しかも、消火用空間Sに介在している空気を速やかに排気口29から排出させにくくなってしまう。
【0037】
ホッパ16に投入される樹脂の湿気を予め取り除くための乾燥機12の内部には、図示しない乾燥用ヒータが組み込まれており、この乾燥用ヒータが原因で出火する可能性がある。そのための消火設備として射出成形機11のものと同様な二酸化炭素噴射ノズル18,火炎検知器19,煙検知器20が乾燥機12の筺体に組み付けられている。この場合、乾燥機12の筺体が本発明の防火隔壁を構成し、その内部が消火用空間となることは言うまでもない。
【0038】
本実施形態では、射出成形機11内に装着される金型を所定温度に保持する温調機13を2台設置しており、例えば可動側金型と固定側金型とを異なる温度に設定できるように、それぞれ独立に温度を制御することができるようになっている。この温調機13には、熱媒体としての水を加熱する図示しないヒータと、加熱された水を射出成形機11の金型に供給するための図示しない循環ポンプとが組み込まれている。また、この温調機13には成形機本体15内の金型側に連通する図示しない温水循環配管が導かれている。本実施形態では、この温調機13に組み込まれたヒータが原因で出火する可能性があるため、その消火設備として射出成形機11のものと同様な二酸化炭素噴射ノズル18,火炎検知器19,煙検知器20が温調機13の筺体に組み付けられている。この場合、温調機13の筺体が本発明の防火隔壁を構成し、その内部が消火用空間となることは、先の場合と同じである。
【0039】
なお、本実施形態では手動にて射出成形機11,乾燥機12,温調機13の各噴射ノズル26から二酸化炭素をそれぞれ強制的に噴射させるための手動操作ボタン33が射出成形機11,乾燥機12,温調機13にそれぞれ付設されている。
【0040】
本消火システムにおいては、1台の射出成形機11と、1台の乾燥機12と、2系統の温調機13とを1ユニットとし、複数ユニットを1グループとして制御盤14が制御するように構成されている。つまり、1グループ毎に制御盤14が1台ずつ配されており、図1に示した実施形態においては1ユニットを例示しているに過ぎないことに注意されたい。消火薬剤である高圧の液化二酸化炭素を充填した図示しないボンベが収容される制御盤14には、その前面に複数のユニットの発火源を示す表示パネル34が設けられている。さらに、火災が発生した場合に視覚的に火災の発生を警報する警報ランプ35や、二酸化炭素を放出することによる危険性に対し、火災現場に居合わせる作業者に避難すべく警告を発する警告音発生器36なども設けられている。また、この消火システム全体の電源をON/OFFする電源スイッチ37と、最終的に消火を確認した後にこの消火システム全体を初期状態に戻すためのリセットスイッチ38もまた、制御盤14に設けられている。
【0041】
本実施形態では、各グループに対応した複数の制御盤14からの信号を受けて消火システム全体の状況を表示する監視盤39も設けられている。この監視盤39は、監視盤39で受けた火災信号を他の消火システムを含んだ火災報知機システムに伝達したり、例えば守衛所などへ火災の発生を伝達する機能も併せ持っている。
【0042】
この消火システムは発火源毎に消火を行うものであり、以下に射出成形機11にて火災が発生した場合について説明するが、乾燥機12や2系統の温調機13の何れかにて火災が発生した場合も、同様な方法で自動消火がそれぞれ行われる。
【0043】
射出成形機11の立ち上げ時や金型の交換時あるいは射出する樹脂の交換時には、射出成形機11の内部に残留している樹脂を射出シリンダ18の射出ノズルの先端から押し出し、新たな樹脂と置き換えるパージング作業を必ず行う必要がある。このパージングの際に、ヒータの故障などによって過度に樹脂が受熱した場合、この樹脂が射出ノズルの先端から押し出されて大気に触れると、発火して燃焼する場合がある。また、パージングされた高温の溶融樹脂がヒータに付着し、発火して燃焼する場合もある。
【0044】
このように、射出成形機11内で樹脂などが発火して燃焼すると、火炎検知器27および煙検知器28の少なくとも一方が火災の発生を検知して制御盤14に火災が発生した旨の信号を送る。制御盤14は、火炎検知器27および煙検知器28の何れか一方からのみ火災発生の検知信号が発せられた場合、火災が発生したとは判断しないように設定されている。その理由は、検知器27,28の一方のみ火災発生の信号を検知した場合、検知器27,28の何れかが誤動作している可能性があるためである。従って、制御盤14は火炎検知器27および煙検知器28が両方とも火災の発生を検知している場合、実際に火災が発生していると判断する。火災と判断した制御盤14は、即座に制御盤14につながる射出成形機11,乾燥機12,2系統の温調機13のすべてのヒータに対する通電を遮断し、警報ランプ35を点灯し、警告発生器36によって例えば「火災発生、避難して下さい。」とのメッセージを発する。そして、電磁弁に所定時間通電して二酸化炭素を射出成形機11の発火源に噴射する。この場合、作業員に対する二酸化炭素の影響を考慮し、再度例えば「退避して下さい。」とのメッセージを警告発生器36により発し、所定時間後に二酸化炭素を一定時間火災源に噴射する。しかる後、制御盤14は火炎検知器27,煙検知器28による検出信号を自動的にリセットして再検出可能な状態にする。これで火災が発生していることを再度検出した場合、再度電磁弁を所定時間開いて二酸化炭素を消火用空間Sに噴射し、火炎検知器27および煙検知器28の両方が火災発生状態を検知しなくなるまで、二酸化炭素の噴射処理が自動的に繰り返される。
【0045】
このようにして火炎検知器27および煙検知器28の両方が火災の発生を検知しなくなった場合、実際に消火されていることを作業者が確認し、制御盤14のリセットボタン32を押すことにより、消火システムの全体を初期状態に戻す。
【0046】
なお、火災現場に作業員が居合わせた場合、手動操作ボタン33を操作して自動的に消火モードに移行させることが可能である。また、消火システムが誤動作によって消火モードに移行した場合、作業員が制御盤14のリセットボタン32を押して消火システムの全体を初期状態に戻すことにより、消火モードを中止させることができる。
【0047】
本実施形態における消火システムにおいては、警告発生器36による放送を開始してから二酸化炭素を噴射するまでの所定の待機時間を退避する作業員の数や退避までに要する時間を考慮してタイマーなどで調整できるようにしている。
【0048】
上述した実施形態では、射出成形設備に本発明を適用したが、発火源がカバーなどで囲まれた工作機械などに用いることも可能である。このような本発明の他の実施形態による工作機械の外観を図4に示し、その主要部の構造を図5に示すが、先の実施形態と同一機能の要素には先の実施形態のものと同一符号を記すに止め、重複する説明は省略するものとする。
【0049】
この工作機械41は、旋盤などのいわゆる汎用工作機械を念頭にしており、操作パネル42によってその作動が制御される。このような工作機械41を用いてワークWを加工する場合、ワークWの材質や工具の材質あるいは加工方法などの条件に応じて各種切削液が併用される。その中には、揮発性があって引火性の高いものも存在する。このような切削液を使用する場合、切削により発生する切粉aも切削液を含んだ状態で加工室Rの底部に溜まる。このような状態で加工を進めていると、例えばワークWに対して工具を切り込む際、火花が発生して切粉aに含まれた揮発性の高い切削液に引火し、切削液が燃焼して火災となる場合がある。
【0050】
工作機械41の加工室Rは、取手43を用いて開閉可能なカバー44により外部に対して仕切られた状態となっている。この加工室Rは、本発明における消火用空間Sに該当し、従ってこれを仕切るカバー44や工作機械本体45などが本発明における防火隔壁を形成している。工作機械41は、操作パネル42によってその作動をプログラム制御することができるようになっている。工作機械41の加工室Rには、主軸46に装着されたチャック47や、このチャック47と対向して図示しない刃物台に取り付けられるバイトなどの工具が配されている。チャック47の爪48により把持されるワークWを回転させつつ工具に切り込み送りを与えることにより、発生した切粉aを加工室Rの底部に落下させるようになっている。さらに、切削液がワークWの加工に伴って発生する熱により、切削液の一部が蒸発し、これによって発生するオイルミストを加工室R内から排除するため、一端がチャック47近傍に開口する排気ダクト49が加工室R内に導かれている。加工室R内のオイルミストは、工作機械41の外部に設けられた図示しない吸引ポンプにより、この排気ダクト49を介して吸引排除される。カバー44は、ワークWの加工時に用いられる切削液の飛散や、バイトなどの工具の欠損による欠損物の飛び出しから作業者を防御する役目を持つ。上述した排気ダクト49は、本発明における排気口29としても機能するが、この排気ダクト49の開口端を加工室Rの上端部に形成することも有効である。
【0051】
加工室Rの上部には、二酸化炭素を噴射する噴射ノズル26が発火源となる加工室Rの底部に向けて下向きに設置され、同様に火災の発生を検出するための火炎検知器27および煙検知器28も加工室Rの上部に設けられている。本実施形態においても、噴射ノズル26から二酸化炭素を噴射した場合、火災源となる加工室Rの底部を横切るような旋回流が形成されるように、噴射ノズル26の位置などが適切に設定されている。
【0052】
本実施形態においては、加工室R内で火災が発生した場合でもカバー44を閉じたまま消火活動を自動的に行うことが可能である。このため、従来のように消火のためにカバー44を開けることによって外部から加工室R内に空気が流入し、却って火災が大きくなるといった危険性を未然に防止することができる。また、カバー44を閉じた状態で消火できるので、消火用空間Sの容積を小さく限定することができ、結果として二酸化炭素の消費量を少なくすることが可能となる。
【0053】
上述したように、各種加工機械の多くは隔壁で囲われた小容量の区画を有している。この特長を利用して、区画内で材料や切粉が発火した場合、極めて少量の二酸化炭素を噴射することによって酸欠状態を作って消火することができる。また、消火用空間の上端部に排気口を形成すると共に消火用空間内にて発火源を横切るような二酸化炭素の旋回流を形成すべく、二酸化炭素噴射ノズルの位置および向きを適切に選択することにより、消火用空間から短時間で効率良く空気を追い出し、二酸化炭素に置換することができる。
【0054】
上述した実施形態においては各種生産設備に対して本発明を適用したが、これらのような生産設備に限らず、発火源を取り囲む容積の小さな消火用空間を防火隔壁によって画成することができさえすれば、本発明による消火装置または消火方法を適用し得るものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明による消火方法を実現し得る消火装置を射出成形機に応用した一実施形態の概念図である。
【図2】図1に示した実施形態における主要部の断面図であり、火災発生直後の状態を表す。
【図3】図1に示した実施形態における主要部の断面図であり、消火直後の状態を表す。
【図4】本発明による消火装置が組み込まれた汎用工作機械の一実施形態の外観を表す立体投影図である。
【図5】図4に示した実施形態における主要部の構造を模式的に表す概念図である。
【符号の説明】
【0056】
11 射出成形機
12 乾燥機
13 温調機
14 制御盤
15 成形機本体
16 ホッパ
17 射出ユニット
18 射出シリンダ
19 上カバー
20 後カバー
21 切欠き部
22 ドア
23 取手
24,25 ドア
26 噴射ノズル
27 火炎検知器
28 煙検知器
29 排気口
30 高圧配管
31 信号線
32 トレイ
33 手動操作ボタン
34 表示パネル
35 警報ランプ
36 警告音発生器
37 電源スイッチ
38 リセットスイッチ
39 監視盤
41 工作機械
42 操作パネル
43 取手
44 カバー
45 工作機械本体
46 主軸
47 チャック
48 爪
49 排気ダクト
S 消火用空間
W ワーク
R 加工室
a 切粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発火源を囲むように配されて消火用空間を画成する防火隔壁と、
この防火隔壁によって画成された前記消火用空間の上端部と外部とを連通するように当該防火隔壁の上端部に形成された排気口と、
前記消火用空間内に二酸化炭素を噴射する二酸化炭素噴射ノズルと
を具えたことを特徴とする消火装置。
【請求項2】
二酸化炭素が粉粒状固体を含むことを特徴とする請求項1に記載の消火装置。
【請求項3】
前記二酸化炭素噴射ノズルは、発火源を横切るような旋回流が前記消火用空間内で形成されるように、前記防火隔壁に沿って二酸化炭素を下向きに噴射することを特徴とする請求項2に記載の消火装置。
【請求項4】
発火源が前記消火用空間の下部に位置していることを特徴とする請求項3に記載の消火装置。
【請求項5】
二酸化炭素を貯留する二酸化炭素貯溜タンクと、
発火源からの火炎または煙の発生を検出するための火煙検出センサと、
この火煙検出センサからの検出信号に基づき、前記二酸化炭素貯溜タンク内の二酸化炭素を前記二酸化炭素噴射ノズルに導いて前記消火用空間内に噴射させるための二酸化炭素供給制御手段と
をさらに具えたことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の消火装置。
【請求項6】
発火源を囲んで消火用空間を画成するステップと、
発火源から火炎または煙が発生したか否かを検出するステップと、
発火源から火炎または煙が発生した場合、前記消火用空間内に二酸化炭素を噴射するステップと、
前記消火用空間内に介在する空気を前記消火用空間の外に排出し、これによって前記消火用空間内の空気を二酸化炭素で置換するステップと
を具えたことを特徴とする消火方法。
【請求項7】
二酸化炭素が粉粒状固体を含み、前記消火用空間内にある空気を前記消火用空間の外に排出するステップは、二酸化炭素と空気との比重差を利用していることを特徴とする請求項6に記載の消火方法。
【請求項8】
前記消火用空間内に二酸化炭素を噴射するステップは、前記消火用空間の上方から下向きに二酸化炭素を噴射して発火源を横切るような旋回流を前記消火用空間内に形成するステップを含むことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の消火方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−159868(P2007−159868A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361029(P2005−361029)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】