説明

淡水巻貝防除用粒剤

【課題】農薬活性成分の溶出をコントロールした淡水巻貝防除用粒剤の提供。
【解決手段】1、3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンシュウ酸塩の農薬活性成分3〜30質量%、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂50〜90質量%、及び水中溶出促進材料7〜42質量%を含有する淡水巻貝防除用粒剤。上記淡水巻貝防除用粒剤は、降雨などの外部環境に対する影響が少なく、湛水された圃場に直接散布できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性農薬活性成分の溶出をコントロールした淡水巻貝防除用粒剤に関する。更に詳細には、本発明は農薬活性成分である1、3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩(以下、カルタップ塩酸塩と略することもある)及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンシュウ酸塩(以下、チオシクラムシュウ酸塩と略することもある)を水中溶出促進材料及び熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を用いて、農薬活性成分の溶出をコントロールし、適切に淡水巻貝防除効果及びその防除効果維持期間を設定できる淡水巻貝防除用粒剤に関する。また、当該粒剤を用いた水田における淡水巻貝の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生物生態分布の移動や拡大化に伴い、従来は防除対象としていなかった生物による農作物への食害が問題になってきており、農園芸物栽培における防除対象生物は多様化してきている。水稲栽培においても、従来では作物食害生物として挙げられていなかった淡水巻貝類による食害が問題となってきている。特に外来生物であるスクミリンゴガイは、水稲栽培において稲の幼苗に対し甚大な食害を及ぼすため、効率的な防除方法が望まれている。現在知られているスクミリンゴガイ防除方法は、耕耘による機械的貝粉砕や落水管理等の物理的防除・耕種的防除や、化学的防除等が挙げられる。しかしながら機械的貝粉砕は駆除効率が低く、単独では十分な防除効果を期待できない。また落水管理は降雨の影響を受けやすく、さらに雑草繁茂を引き起こす可能性もある。また農薬による化学的防除は、水田に多量の水が存在する為、活性成分の拡散や流亡の影響を受けやすく、活性成分の防除有効濃度を維持することが困難であり、繰り返して散布を行わなければ充分な効果を得られない。しかしながらスクミリンゴガイによる甚大な食害を受ける水稲の生育初期は、梅雨期と重なることから降雨量が多く、落水管理や限られた回数の化学防除では防除が困難であり、未だ満足できる防除方法が確立されていない。
【0003】
スクミリンゴガイの化学的防除剤として農薬登録されている薬剤は、石灰窒素、IBP粒剤、カルタップ粒剤、エチルチオメトン・チオシクラム粒剤、ベンスルタップ粒剤、メタアルデヒド粒剤がある。中でもカルタップ、チオシクラム、ベンスルタップで示されるネライストキシン系薬剤が化学的防除方法の主要薬剤として挙げられる。ネライストキシン系薬剤はスクミリンゴガイに対して摂食阻害活性を示すことが知られている(非特許文献1または2)。しかしながらネライストキシン系薬剤のチオシクラムシュウ酸塩やカルタップ塩酸塩は水溶性が極めて高く、また化学的安定性が乏しいため、その粒剤を水田等に散布しても速やかに分解もしくは流亡し、限られた回数の散布では有効濃度を維持できず、十分な防除効果が得られない。この解決法として頻繁な散布や投下薬量の増大があるが、この方法では環境に対する影響の増大、労働コストの増大等の問題が生じてしまう。
【0004】
ネライストトキシン系薬剤の粒剤として、特許文献1に農薬活性成分としてチオシクラム又はカルタップ、熱可塑性樹脂、及び水中溶出促進材料を含有する育苗箱水稲用粒剤が開示されている。また特許文献2に農薬活性成分、熱可塑性樹脂、及び液状水溶性高分子を含有するコーティング型育苗箱水稲用粒剤が記載されており、農薬活性成分としてチオシクラムが適用できることが開示されている。しかし、これらネライストキシン系薬剤の粒剤は育苗箱水稲用のみに適用されるものであり、これら粒剤を育苗箱とは全く異なる環境である広大な水田等へ散布施用できることも、この用法によりそこに生息する淡水巻貝類を防除することについての記載はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−8917号公報
【特許文献2】特開2007−284429号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】和田節(2000)農業および園芸 75:215−220
【非特許文献2】宮原ら(1987)九州病害虫研究会報 33:106−109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は水中溶解性の高いカルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩成分を用いた農薬粒剤において、水田に散布することにより降雨などの外的環境変化に影響を受けることなく農薬活性成分濃度を維持し、長期間にわたり水田に生息する淡水巻貝防除を達成する優れた淡水巻貝防除用粒剤を提供することにある。また当該粒剤を用いた水田に生息する淡水巻貝の防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく水中溶解性の高いカルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩である農薬活性成分と相性が良い粒剤基材を用いた薬剤の溶出コントロール設計がされた農薬粒剤が、湛水された水田圃場において効率的に淡水巻貝の防除を達成できることを見出し、本発明に至ったものである。
即ち本発明は、粒剤中に、1、3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンシュウ酸塩の農薬活性成分3〜30質量%、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂50〜90質量%、及び水中溶出促進材料7〜42質量%を含有する淡水巻貝防除用粒剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の淡水巻貝防除用粒剤は農薬活性成分の溶出が一定に制御される為、降雨などで散布域への流注水があっても、当該淡水巻貝に対し一定期間にわたり防除効果を維持できるものである。すなわち水田においては、直接水稲の種を本田に散布する湛水直播栽培において、播種後約3〜4週間、また移植栽培においては田植え後2〜3週間の期間にわたり淡水巻貝防除効力が担保されるものである。本願に係る淡水巻貝防除用製剤は、農薬活性成分がカルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩であり、優れた摂食阻害効果によって防除作用を示すことから、頻繁な処理や多量の薬剤を投下する事なく淡水巻貝の加害期間である水稲等の生育初期の防除が可能であるため、水田内の生態系を大きく乱さず、自然環境に配慮した淡水巻貝防除を達成できるという優れた効果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の淡水巻貝防除用粒剤についてより詳しく説明する。
本発明の淡水巻貝防除用粒剤に使用される農薬成分は、1、3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩(カルタップ塩酸塩)及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンシュウ酸塩(チオシクラムシュウ酸塩)である。本発明に用いる際の農薬活性成分の粒剤中の含有量は、3〜30質量%であり、好ましくは5〜25質量%である。農薬活性成分の含有量が3質量%未満では、農薬活性成分の継続的な水中溶出性が担保されず、農薬活性成分の長期間の残効が達成されない。また、30質量%を超えた含有量では農薬活性成分の水中溶出コントロールが困難になり、農薬活性成分によっては早期の水中溶出により、残効が短くなる可能性が強い。また、30質量%を超えた含有量の淡水巻貝防除用粒剤では、粒剤の施用量が例えば5質量%淡水巻貝防除用粒剤に比較し、1/6程度になり、育苗箱に均等に粒剤を散布することが困難にもなり実用性が乏しくなる。
【0011】
本発明の粒剤においては、カルタップ塩酸塩、チオシクラムシュウ酸塩以外にも、20℃において水溶解度4〜60質量%程度の水中溶出性が高い農薬活性成分や農薬殺菌活性成分を併用することができる。具体的には例えば次のようなものが挙げられるがこれに限定されるものではない。例えば、農薬活性成分としては、カルタップ塩酸塩、チオシクラムシュウ酸塩以外のネライストキシン系殺虫剤、N−[(6−クロロ−3−ピリジニル)メチル]−N−エチル−N'−メチル−2−ニトロ−1,1−エテンジアミン(一般名:ニテンピラム)、(RS)−1−メチル−2−ニトロ−3−(テトラヒドロ−3−フリルメチル)グアニジン(一般名:ジノテフラム)、(E)−N−[(6−クロロ−3−ピリジル)メチル]−N'−シアノ−N−メチルアセトアミジン(一般名:アセタミプリド)、3−(2−クロロ−1,3−チアゾール−5−イルメチル)−5−メチル−1,3,5−オキサジアジナン−4−イリデン(ニトロ)アミン(一般名:チアメトキサム)等のネオニコチノイド系殺虫剤等が挙げられる。また、農薬殺菌活性成分としては、[5−アミノ−2−メチル−6−(2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシシクロヘキシロキシ)テトラヒドロピラン−3−イル]アミノ−α−イミノ酢酸(一般名:カスガマイシン)等が挙げられる。本発明に用いる際には、カルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の水中への溶出を所望の範囲に管理できればよく、本発明の組成の範囲内で有れば、これらの農薬活性成分や農薬殺菌活性成分を使用することができる。
【0012】
本発明で使用する熱可塑性生分解性プラスチック樹脂は、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネート/アジペートからなる群から選ばれる1種以上の熱可塑性生分解性プラスチック樹脂が好ましく、具体的には例えば、ポリエチレンサクシネート(代表的なものとしては、商品名ルナーレSE−P、日本触媒社製)、ポリカプロラクトン(代表的なものとしては、商品名CELGREEN PH7、ダイセル化学工業社製)、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネート(代表的なものとしては、CELGREEN CBS17X、ダイセル化学工業社製)、ポリブチレンサクシネート(代表的なものとしては、商品名ビオノーレ1000、昭和高分子社製))、ポリブチレンサクシネート/アジペート(代表的なものとしては商品名ビオノーレ3000、昭和高分子社製)等が挙げられ、これらを任意に組み合わせて使用することもできる。これら熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の中でも、ポリエチレンサクシネート及び/又はポリカプロラクトンが好ましい。
【0013】
これら熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の粒剤中の含有量は、50〜90質量%であり、好ましくは50〜70質量%である。熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の含有量が90質量%を超えると水中へのカルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の適切な溶出が著しく抑制され、効力面では基礎活性や長期間の残効性が担保されない。また、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の含有量が50質量%未満では、水中へのカルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の溶出が適切に抑えることができず、活性成分による短期間の効力発現だけになり、適切な淡水巻貝防除用粒剤は期待できない。
【0014】
本発明で使用する水中溶出促進材料は、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂のマトリックス中に入り込むことで内部構造を粗くし、水中へのカルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の溶出を増強する効果のある材料で有れば、いずれの水中溶出促進材料でも使用することができる。また水中溶出促進材料は粒剤の比重を制御できる機能も兼ね備えるものであり、水田圃場に散布された当該粒剤が速やかに水中に沈降し、圃場土壌に残存させる機能が求められる。水中溶出促進材料としては、鉱物質及び/又は有機物質が好ましい。また、水中溶出促進機能と水中沈降性機能を両立させるため、複数種類の材料を混合して使用することもできる。具体的な水中溶出促進材料としては、例えば下記のものが挙げられるがこれに限定されるものではない。鉱物質としては、クレー、珪石、タルク、炭酸カルシウム、軽石、珪藻土、バーミキュライト、アタパルジャイト、アッシュメント(汚泥の焼成品)およびホワイトカーボンなどが挙げられ、一般的に農薬水和剤、粒剤に利用される、いわゆる増量剤や担体の一種または二種以上を使用できる。有機物質としては、ショ糖、コーンコブ等や農薬活性成分の安定性等を考慮して、酸化防止剤であるフェノール系酸化防止剤や、イオウ系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤等や紫外線吸収剤である二酸化チタンなどの無機化合物系紫外線吸収剤、べンゾトリアゾールやベンゾフェノン系の有機化合物系紫外線吸収剤等やホワイトカーボンに吸着させた界面活性剤等も内部構造を粗くする効果が同様にあり、これらも使用できる。界面活性剤としては、農薬製剤に通常使用されるノニオン系イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が一般的に挙げられる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマー、ポリオキシエチレンアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のノニオン系イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフエート、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等の陰イオン性界面活性剤;アルキルベタイン、第四級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。
【0015】
水中溶出促進材料の粒剤中の含有量は、7〜42質量%であり、好ましくは7〜32質量%であり、更に好ましくは15〜32質量%である。水中溶出促進材料の含有量が42質量%を超えると水中溶出促進効果が高すぎ、カルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の短期間の効力発現だけになり、適切な淡水巻貝防除用粒剤は期待できない。また、水中溶出促進材料の含有量が7質量未満では、農薬活性成分の水中への溶出が著しく抑えられ、カルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の水中での濃度が所望する淡水巻貝防除効果発現レベルまで達成されない。また効果が発現しても所望の防除期間の維持はできない。
水中溶出促進材料の粒子径は様々なものが使用できるが、そのなかでも粒子径が20マイクロメートル〜200マイクロメートルが製造上、及び水中へのカルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の溶出を促す作用を導き出すのに好ましい。
また、水中溶出促進材料は、粒剤中において、上記した熱可塑性生分解性プラスチック樹脂のマトリックス中に入り込んで内部構造を粗くするようなものが好ましく、そのようなものとしては、例えば、上記した熱可塑性生分解性プラスチック樹脂の融点よりも高い融点を有するものが好ましい。
【0016】
本発明の、農薬活性成分が溶出制御された淡水巻貝防除用粒剤は、溶融させた熱可塑性生分解性プラスチック樹脂に、農薬活性成分及び水中溶出促進材料を添加して、溶融混合し、得られる混合物を造粒することにより製造することができる。より具体的には、以下の工程1から3により製造することができるが、類似の機械や工程にも適応することができ、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明における水田とは水稲移植栽培や湛水直播栽培や水稲に限らず各種の作物を水系で栽培する場所を意味する。 なお、本願防除方法は湛水している水田に本願に係わる粒剤を散布する方法であっても、もしくは湛水していない水田に当該粒剤を散布した後、潅水する方法であってもいずれにおいても施用できる。
工程1:溶融混合
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂を、溶融温度より少し高めに設定した、例えば6インチテストロール機(機械名、西村工機社製)にてロール状に溶融させ、カルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩の農薬活性成分及び水中溶出促進材料を、融点以上になった熱可塑性生分解性プラスチック樹脂に添加し、十分に均一混練した後、プレス機にてシート化する。尚、溶融加温温度は農薬活性成分の分解温度を考慮し、分解温度以下で溶融する。
【0018】
工程2:成形
溶融混合の後、得られた均一な混合物を、例えばラボプラストミル(機械名、東洋精機製作所社製、成型機)にて加熱造粒する。造粒機の種類は、目的とする造粒物の形状、粒子径等を考慮して、適宜選択する。具体的には、粒状成型物を得るためには、所望する粒径に相応したスクリーンを備えた押し出し成型部品等が例示される。造粒する温度は、用いる熱可塑性生分解性プラスチック樹脂が溶融する温度以上で且つ含有するカルタップ塩酸塩及び/又はチオシクラムシュウ酸塩が分解しない温度である。
【0019】
工程3:冷却・破砕・篩別等
得られた成型物を放冷し、破砕が必要で有れば所望する粒径に相応したスクリーンを備えた破砕機等にて破砕し、必要により篩別して、目的とする形状、粒径の粒剤とする。粒状物として使用する場合、その平均粒径は5.0mm以下が好ましく、さらに好ましくは4.0mm以下1.0mm以上である。平均粒径が5.0mmを超えると、水田への散布の際に撒きむらが生じやすく、薬効的に好ましくない。平均粒径が1.0mmより小さい場合には、散布時に十分な重量がなくなるため、風等で目的外への飛散等も考えられ好ましくない。好ましい粒径範囲に設定することで、水田に均一に散布することができ、また速やかに水中に沈降する物性を付与できる。
【0020】
本発明の溶出制御された淡水巻貝防除用粒剤は農作物を食害する淡水巻貝の防除に好適である。淡水巻貝とはカワニナ科、タニシ科、リンゴガイ科、等が挙げられる。特にリンゴガイ科のスクミリンゴガイは水稲栽培において食害を及ぼす淡水巻貝として知られている。本発明による溶出制御された淡水巻貝防除用粒剤はスクミリンゴガイの防除に好適である。
【0021】
本発明の溶出制御された淡水巻貝防除用粒剤による淡水巻貝防除方法は、そのまま当該粒剤を水田に散布することにより達成される。水田は乾田または湛水状態で散布することができるが、湛水散布することが好ましい。散布量は任意に設定することができるが、農薬活性成分相当量として0.2〜10kg/10アール、より好ましくは0.5〜5kg/10アール散布することが好ましい。当該粒剤の散布間隔は任意に設定することができるが、特に限定されるものでなく粒剤中の農薬活性成分の含有量、施用方法等によって決めればよい。より具体的には、湛水された水田圃場に一様に散布する方法、及び/又は流水口などの湛水巻貝の侵入が懸念される場所にスポット散布する方法により淡水巻貝を防除することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。以下に実施例で農薬活性成分として供試したチオシクラムシュウ酸塩の純度は約89%であった。製造に関しては、前記した工程1から3で記した製造機器を利用した。
【0023】
実施例1
チオシクラムシュウ酸塩6質量部及びアッシュメント10質量部(商品名、クニミネ社製、水道局汚泥の焼成品、平均粒子径:約80μm)を、約130℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)84.0質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩5.3%粒剤を得た。
【0024】
実施例2
チオシクラムシュウ酸塩6質量部及びアッシュメント25質量部(商品名、クニミネ社製、水道局汚泥の焼成品、平均粒子径:約80μm)を、約130℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)69.0質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩5.3%粒剤を得た。
【0025】
実施例3
チオシクラムシュウ酸塩11.6質量部及びアッシュメント10質量部(商品名、クニミネ社製、水道局汚泥の焼成品、平均粒子径:約80μm)を、約130℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)78.4質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩10.3%粒剤を得た。
【0026】
参考例4
チオシクラムシュウ酸塩22.8質量部及びアッシュメント1質量部(商品名、クニミネ社製、水道局汚泥の焼成品、平均粒子径:約80μm)を、約130℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)76.2質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩20.3%粒剤を得た。
【0027】
実施例5
チオシクラムシュウ酸塩6質量部及びDLクレー10質量部(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径:約25μm)を、約130℃に熱して溶融させたCELGREEN PH5 (商品名、ダイセル化学社製、ポリカプロラクトン樹脂)84.0質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩5.3%粒剤を得た。
【0028】
実施例6
チオシクラムシュウ酸塩6質量部及びアッシュメント30質量部(商品名、クニミネ社製、水道局汚泥の焼成品、平均粒子径:約80μm)を、約130℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)64質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩5.3%粒剤を得た。
【0029】
参考例7
チオシクラムシュウ酸塩6質量部及びアッシュメント4質量部(商品名、クニミネ社製、水道局汚泥の焼成品、平均粒子径:約80μm)を、約130℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)90質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩5.3%粒剤を得た。
【0030】
実施例8
チオシクラムシュウ酸塩6質量部及びDLクレー40質量部(商品名、日東製粉社製、クレー、平均粒子径:約25μm)を、約130℃に熱して溶融させたルナーレSE−P(商品名、日本触媒社製、ポリエチレンサクシネート樹脂)54.0質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出造粒機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩5.3%粒剤を得た。
【0031】
参考例9
チオシクラムシュウ酸塩11.6質量部、DLクレー5質量部(商品名、日東製粉社製クレー、平均粒子径:約25μm)を、110℃に熱し溶融させたCELGREEN PH7(商品名、ダイセル化学社製、ポリカプロラクトン樹脂)83.4質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩10.3%粒剤を得た。
【0032】
実施例10
チオシクラムシュウ酸塩11.6質量部、DLクレー30質量部(商品名、日東製粉社製クレー、平均粒子径:約25μm)を、110℃に熱し溶融させたCELGREEN PH7(商品名、ダイセル化学社製、ポリカプロラクトン樹脂)58.4質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのチオシクラムシュウ酸塩10.3%粒剤を得た。
【0033】
実施例11
カルタップ塩酸塩10.8質量部(純度95%)、DLクレー10質量部(商品名、日東製粉社製クレー、平均粒子径:約25μm)を、120℃に熱し溶融させたCELGREEN PH7(商品名、ダイセル化学社製、ポリカプロラクトン樹脂)79.2質量部に溶融機にて混合溶融し、スクリーン径0.8mmの加温押出機にて押出し、篩別し、粒径約1.0mmのカルタップ塩酸塩10.3%粒剤を得た。
【0034】
比較例1
チオシクラムシュウ酸塩11.6質量部、珪砂5号(商品名、珪砂、竹折砿業所社製)81.4質量部、コスモホワイトP70(商品名、流動パラフィン、コスモ石油ルブリカンツ社製)4質量部、カープレックス#80(商品名、ホワイトカーボン、Deggusa社製)3質量部をマヨネーズ瓶に入れ、手振りでコーティングを行い、徐放性性能を有しないチオシクラムシュウ酸塩10.0%コーティング粒剤を得た。
【0035】
比較例2
パダン粒剤4(市販品、カルタップ塩酸塩4%粒剤、住友化学社製)
【0036】
試験例1:降雨条件での効力評価試験
面積2m2の雨よけしたコンクリートポットに催芽籾(品種;レイホウ)を200粒/ポット土中播種し、潤土で管理し、稲が最大1.2葉期になった播種7日後に薬剤を散布した。薬剤散布と同時に湛水(水深4cm)し、スクミリンゴガイ(貝高17.5〜22.5mm)を各区に12頭ずつ放飼した。放貝3日後に苗立ち調査(稲Max2.0葉期)し、その後、多雨条件を創設するため水道水をポット当たり約600L(300mmの降雨に相当)注入し、放水して水深を4cmに保った。その後、再度、スクミリンゴガイを9頭(貝高15〜25mm)ずつ放飼した。第2回放貝4日後には2回目の苗立ち調査(稲Max2.8葉期)し、その後、再度約600Lの水道水を注入した。第2回放貝7日後に3回目の苗立ち調査(稲Max3.6葉期)を行い、その翌日に、新たなスクミリンゴガイ(貝高20〜30mm)を6頭ずつ放飼した。第3回放貝4日後に苗立ち調査(稲Max4.0葉期)を行った。なお、試験は3区制で実施した。試験結果を表1に示した。
【0037】
試験結果:薬剤処理量4kg/10アール
表1
処理後日数における平均苗立ち数
薬剤名 3日後 7日後 10日後 14日後
実施例10 176.7 176.3 171.3 170.0
比較例1 175.7 100.3 56.7 59.3
薬剤無処理 2.5 0 0 0
【0038】
表1より、処理3日後の調査では、貝を放飼した薬剤無処理区では、苗立ち調査で、ほとんどの苗が食害されていた(平均苗立数2.5本)。このような中、実施例10では、試験終了時まで、ほとんど貝による被害が生じなかった。また、日中、貝による食害も観察されなかった。多雨条件下でも非常にすぐれた被害回避効果がみられた。これに対し、徐放性を有していないコーティング粒剤である比較例1は多雨条件開始(1回目の注水)後、徐々に被害が拡大する傾向であった。降雨条件により薬剤の流亡が起こり、防除効果を維持できなかったものと思われる。これらから徐放性を有する実施例10は多雨環境においてスクミリンゴガイに対する有効な製剤であるといえる。
【0039】
試験例2 降雨条件での効力評価試験
面積2m2雨よけしたコンクリートポットに催芽籾(品種;レイホウ)を200粒/ポット土中播種し、潤土で管理し、稲が最大1.2葉期になった播種5日後、1回目の苗立ち調査を行い、湛水(水深4cm)後に実施例10、比較例1及び3を散布しスクミリンゴガイ(貝高15.0〜25.0mm)を各区に10頭ずつ放飼した。放貝2日後に苗立数を調査し、その後、多雨条件を創設するため水道水をポット当たり約500L(250mmの降雨に相当)注入し、放水して水深を4cmに保った。その後、再度、スクミリンゴガイを8頭(貝高15〜25mm)ずつ放飼した。第2回放貝4日後には3回目の苗立ち調査(稲Max3.0葉期)し、その後、再度約500Lの水道水を注入した。その翌日に、新たなスクミリンゴガイ(貝高17.5〜27.5mm)を6頭ずつ放飼した。第3回放貝3日後に苗立数を調査(稲Max3.8葉期)した。なお、試験は2区制で実施した。試験結果を表2に示した。
【0040】
試験結果
表2.
処理後日数
処理量 0日後 2日後 6日後 9日後
実施例10 1kg/10アール 162 154 121 88
実施例10 2kg/10アール 161 155 139 122
比較例2 4kg/10アール 143 143 27 9
薬剤無処理区 − 150 5 0 0
【0041】
表2より薬剤無処理群は試験開始2日目でほとんどスクミリンゴガイによる食害を被ったのに対し、薬剤処理群は食害を抑制した。しかしながら降雨を想定した水500L注入後には、比較例2では著しい防除効果低減が認められ、薬剤の流亡を受けたものと考えられた。これに対し、本発明による実施例10処理群は、多雨条件の設定にもかかわらずスクミリンゴガイによる食被害を抑制できた。この結果は降雨の有無による環境変化の影響を受けずにスクミリンゴガイの防除効果を長期間維持できることを示しており、実際の湛水田圃場における散布において十分な防除効果を示すことを示唆するものである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上の試験例から総合的に判断すると、本発明の淡水巻貝防除用粒剤は水田等の湛水された農作物栽培圃場に散布することにより環境による影響が少なく効率的に淡水巻貝を防除できることが明らかであり、簡便で効率的な淡水巻貝防除用粒剤を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1、3−ジカルバモイルチオ−2−(N、N−ジメチルアミノ)−プロパン塩酸塩及び/又は5−ジメチルアミノ−1,2,3−トリチアンシュウ酸塩の農薬活性成分3〜30質量%、熱可塑性生分解性プラスチック樹脂50〜90質量%、及び水中溶出促進材料7〜42質量%を含有する淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項2】
農薬活性成分5〜25質量%を含有する請求項1に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項3】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂50〜70質量%を含有する請求項1に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項4】
水中溶出促進材料7〜32質量%を含有する請求項1に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項5】
水中溶出促進材料が鉱物質及び/又は有機物質である請求項1〜4のいずれか一項に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項6】
水中溶出促進材料の平均粒子径が20マイクロメートル〜200マイクロメートルである請求項1〜5のいずれか一項に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項7】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂が、ポリエチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン/ブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネート/アジペートからなる群から選ばれる1種以上の熱可塑性生分解性プラスチック樹脂である請求項1〜6のいずれか一項に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項8】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂がポリエチレンサクシネート及び/又はポリカプロラクトンである請求項7に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項9】
溶融させた熱可塑性生分解性プラスチック樹脂に、農薬活性成分及び水中溶出促進材料を添加して、溶融混合し、得られる混合物を造粒してなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項10】
熱可塑性生分解性プラスチック樹脂のマトリックス中に、水中溶出促進材料が入り込んでその内部構造を粗くした構成を有する、請求項9に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項11】
淡水巻貝がスクミリンゴガイである請求項1〜10のいずれか一項に記載の淡水巻貝防除用粒剤。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の淡水巻貝防除用粒剤を水田に散布することによる淡水巻貝の防除方法。

【公開番号】特開2010−208984(P2010−208984A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55945(P2009−55945)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(392029074)日東化成工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】