説明

炭化ケイ素前駆物質の製造方法及び炭化ケイ素粉体の製造方法

【課題】平均粒子径が50nm以下であり、大きな凝集粒子も無く、均質な炭化ケイ素粉体を得るための炭化ケイ素前駆物質の製造方法、及び、この炭化ケイ素前駆物質を基に平均粒子径が50nm以下の均質な炭化ケイ素粉体を得る炭化ケイ素粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の炭化ケイ素前駆物質の製造方法は、液状の炭素源と平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体とを混合し、得られた混合物を乾燥し、次いで炭化処理を行い、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の炭化ケイ素前駆物質とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素前駆物質の製造方法及び炭化ケイ素粉体の製造方法に関し、さらに詳しくは、平均粒子径が50nm以下でありかつ粒度分布の幅が狭い均質な炭化ケイ素粉体を得るための炭化ケイ素前駆物質を大量生産した場合においても、安定した品質を得ることが可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化ケイ素粉体は、主にアソチン法等の酸化ケイ素と炭素を高温で反応させる方法により作製されているが、この方法では、平均粒子径がサブミクロン以下の炭化ケイ素粉体を得ることが難しい。それ故に、平均粒子径がサブミクロンよりも小さいナノ粒子は、工業的には、気相熱分解反応により作製されている。
【0003】
一方、微細かつ高純度の炭化ケイ素粉体を製造する方法としては、ケイ素と炭素とを含む原料を非酸化性雰囲気で加熱して単相のβ型炭化ケイ素粉体を製造する際に、原料として、常温で液状のケイ素化合物と、官能基を有し加熱により炭素を生成する常温で液状の有機化合物と、少なくとも前記有機化合物と均一に溶化する重合または架橋触媒とを含む液を、重合または架橋反応により分子的に均一に混合して得られたケイ素、酸素及び炭素を含む前駆体物質を用いる方法が提案されでおり、この方法で得られる炭化ケイ素粉体の粒径は0.15〜0.20μmである(特許文献1)。
【0004】
ところで、従来の気相熱分解反応にて得られた炭化ケイ素粒子の平均粒子径は、20nm〜40nm程度であるが、粒度分布が広いために、平均粒子径が20nmであっても50nm以上の粒子も多く含まれており、粒度分布の幅が狭いナノメートル級の炭化ケイ素粉体を得ることができないという問題点があった。
また、この炭化ケイ素粒子は、粒子同士の凝集が強いために他の材料と混合して使用する場合、ほとんどがサブミクロン級以上の大きさの凝集体となってしまい、ナノ粒子としての特性が得られ難くなるという問題点があった。また、気相であり危険物でもある原料を使用するので、製造コストが高くなってしまうという問題点もあった。
【0005】
一方、原料にケイ素、酸素及び炭素を含む前駆体物質を用いる方法では、確かに、微細かつ均一な炭化ケイ素粉体を得ることができるが、その平均粒子径は小さいものでも100nm程度であり、平均粒子径が50nm以下の炭化ケイ素粉体を得ることは非常に難しいという問題点があった。また、前駆体物質を加熱する際の温度を低くすることにより、粉体中の結晶子の径を数10nm程度にすることができるが、結晶子を分離して単一の粒子として取り出すことは極めて難しく、やはり、粒度分布の幅が狭いナノメートル級の炭化ケイ素粉体を得ることができないという問題点があった。
【0006】
そこで、これらの問題を解決する方法として、炭素源及びケイ素源を混合して炭化ケイ素前駆体とし、この炭化ケイ素前駆体を不活性雰囲気中にて熱処理し、さらに酸化性雰囲気中にて熱処理し、得られた炭化ケイ素含有物から不純物を除去し、平均粒子径が50nm以下ありかつ粒度分布の幅が狭い炭化ケイ素粉体を得る方法が提案されている(特許文献2)。
また、高純度炭化ケイ素粉体を得る方法として、一次粒子径の小さな二酸化ケイ素粉体と液状の熱硬化性樹脂とをゾル化して混合する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平1−42886号公報
【特許文献2】特開2008−50201号公報
【特許文献3】特開2006−124257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の炭化ケイ素前駆体から炭化ケイ素粉体を得る方法では、炭化ケイ素前駆体を炭化ケイ素へと反応させる際の反応を、反応容器内で均質に生じさせることが難しく、したがって、組成が均質な炭化ケイ素粉体を得ることが難しく、さらには、製造量を増やした際に収率を悪化させるという問題点があった。
また、得られた炭化ケイ素粉体の1次粒子は、平均粒子径が50nm以下であるものの、大きな凝集粒子が存在する割合が高く、したがって、この炭化ケイ素粉体を溶液中に分散させた際にナノ粒子としての特性が得難いという問題点があった。
【0009】
また、上記の高純度炭化ケイ素粉体を得る方法では、均質なゾルを得るためには、原料を混合する際に二酸化ケイ素粉体に対して10倍以上の希釈溶液を添加する必要があり、したがって、得られた炭化珪素前駆物質の嵩密度が低く、均質で微細な炭化珪素粉体を得ることができないという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、平均粒子径が50nmよりも大きな粒子が無く、大きな凝集粒子も無く、均質な炭化ケイ素粉体を得るための炭化ケイ素前駆物質の製造方法、及び、この炭化ケイ素前駆物質を基に平均粒子径が50nm以下の均質な炭化ケイ素粉体を得る炭化ケイ素粉体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、液状の炭素源と平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体とを混合し、得られた混合物を乾燥し、次いで炭化処理を行うことにより、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の均質な炭化ケイ素前駆物質を得ることが可能であり、さらには、炭化ケイ素前駆物質中の雰囲気ガス及び反応により発生したガスの流れを均質化し、大量生産を行った場合においても、炭化ケイ素前駆物質内での均質な反応が可能であり、さらには、この炭化ケイ素前駆物質に、不活性雰囲気による熱処理の後に酸化性雰囲気による熱処理という2段階の熱処理を施すことにより、平均粒子径が50nm以下の均質な炭化ケイ素粉体を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の炭化ケイ素前駆物質の製造方法は、液状の炭素源と平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体とを混合し、得られた混合物を乾燥し、次いで炭化処理を行い、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の炭化ケイ素前駆物質とすることを特徴とする。
【0013】
前記液状の炭素源は、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの群から選択される1種または2種以上を含有してなることが好ましい。
前記液状の炭素源をフェノール樹脂とし、前記二酸化ケイ素粉体を前記フェノール樹脂中または前記フェノール樹脂と溶媒との混合物中に流動性を保持して分散させることのできる濃度は25質量%以上であることが好ましい。
前記混合物を400hPa以下の減圧下にて乾燥させることにより、前記嵩密度を調整することが好ましい。
【0014】
本発明の炭化ケイ素粉体の製造方法は、本発明の炭化ケイ素前駆物質の製造方法により得られた炭化ケイ素前駆物質を、不活性雰囲気中、1500℃以上かつ1700℃以下にて熱処理して、前記炭化ケイ素前駆物質を60%以上かつ98%以下の反応率にて反応させ、さらに、酸化性雰囲気中にて熱処理し、得られた炭化ケイ素含有物から不純物を除去し、平均粒子径が50nm以下の炭化ケイ素粉体とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の炭化ケイ素前駆物質の製造方法によれば、液状の炭素源中に高濃度で分散させることが可能な平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体を用いたので、この液状の炭素源と平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体とを混合し、得られた混合物を乾燥、炭化処理する際に、混合物中の雰囲気ガス及び炭化処理により生じたガスを散逸させ易くすることができ、これらのガスの滞留時間を短縮することができる。その結果、従来では得られない嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の均質な炭化ケイ素前駆物質を容易に得ることができる。
【0016】
また、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の均質な炭化ケイ素前駆物質を、不活性雰囲気中、1500℃以上かつ1700℃以下にて熱処理するので、この熱処理の際の炭化ケイ素前駆物質中の雰囲気ガス及び熱処理により生じたガスの流れを最適化することができ、この炭化ケイ素前駆物質を60%以上かつ98%以下の反応率にて均質に反応させることができる。
【0017】
また、二酸化ケイ素粉体をフェノール樹脂中またはフェノール樹脂と溶媒との混合物中に流動性を保持して分散させることのできる濃度を25質量%以上としたので、得られる炭化ケイ素前駆物質の嵩密度を向上させることができる。また、炭化処理の際のガスの滞留時間を短くすることができるので、従来の方法では得られない嵩密度が0.3g/cm以上の炭化珪素前駆物質を得ることができる。
さらに、液状の炭素源と二酸化ケイ素粉体との混合物を400hPa以下の減圧下にて乾燥させるので、乾燥時の雰囲気圧力を変えることで、炭化ケイ素前駆物質の嵩密度を調整することができ、したがって、容易に0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の嵩密度とすることができる。
【0018】
本発明の炭化ケイ素粉体の製造方法によれば、本発明の炭化ケイ素前駆物質の製造方法により得られた炭化ケイ素前駆物質を、不活性雰囲気中にて熱処理し、さらに、酸化性雰囲気中にて熱処理し、得られた炭化ケイ素含有物から不純物を除去するので、平均粒子径が50nmよりも大きな粒子が無く、大きな凝集粒子も無く、均質な炭化ケイ素粉体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の炭化ケイ素前駆物質の製造方法及び炭化ケイ素粉体の製造方法を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
[炭化ケイ素前駆物質の製造方法]
本実施形態の炭化ケイ素前駆物質の製造方法は、液状の炭素源と平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体とを混合し、得られた混合物を乾燥し、次いで炭化処理を行い、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の炭化ケイ素前駆物質とする方法である。
【0021】
以下、本実施形態の炭化ケイ素前駆物質の製造方法について詳細に説明する。
まず、熱により炭素を残存させることができる液状の炭素源と、平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体とを混合する。
炭素源としては、液状のものでしかも加熱した際の残炭率が高い有機化合物、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等の樹脂のモノマーやプレポリマーが好適に用いられる。その他、セルロース、しょ糖、ピッチ、タール等も使用可能である。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
一方、二酸化ケイ素粉体としては、平均粒子径が40nm以下であれば制限は無いが、粒子径の小さく分散性の良い炭化ケイ素粉体を得るためには、できる限り小さいものを使用することが好ましく、平均粒子径が5nm以上かつ15nm以下の二酸化ケイ素粉体が好適に用いられる。
なお、平均粒子径が5nm未満の二酸化ケイ素粉体は、嵩密度が0.05〜0.1g/cmと低く、得られる炭化ケイ素前駆物質の嵩密度も0.3g/cmより低くなるので、好ましくない。
【0023】
この二酸化ケイ素粉体としては、粉体の状態でもよく、溶媒中に分散した分散液の状態でもよいが、特に、四塩化ケイ素を酸水素炎中にて高温加水分解させることにより製造される微細粉体(フュームドシリカ)が、40nm以下の粒子径のものが容易に得られ、純度が高く、しかも安価であることから好適に用いられる。
【0024】
この二酸化ケイ素粉体としては、表面状態が疎水性のものであっても、あるいは親水性のものであっても、どちらでも良く、炭素源や分散させる溶媒に合わせて適宜選択することができる。
この二酸化ケイ素粉体と炭素源との親和性を高くする目的で、この二酸化ケイ素粉体の表面に予め表面処理を施してもよい。
【0025】
この炭素源と二酸化ケイ素粉体とを混合する場合、この炭素源と二酸化ケイ素粉体とを容易に混合することができるのであれば、この炭素源と二酸化ケイ素粉体とを直接混合してもよい。
混合装置としては、ホモジナイザー(乳化器)、超音波分散装置、ビーズミル、ボールミル、遊星式ボールミル等の湿式混合装置、アルティマイザー等の二流衝突式混合装置等、通常の混合工程に用いられる装置を使用することができる。
【0026】
一方、炭素源と二酸化ケイ素粉体との混合が容易でない場合には、これらを混合し易くしかつ粘度を調整することを目的として、炭素源を溶媒を用いて希釈することが好ましい。
この溶媒としては、炭素源を溶解させることができるものであればよく、例えば、水、またはエタノール、メタノール、2−プロパノール等の有機溶媒から適宜選択使用することができる。また、二酸化ケイ素粉体との親和性を向上させるために分散剤を使用してもよい。
【0027】
炭素源を溶媒で希釈する場合、炭素源と溶媒の合計質量が二酸化ケイ素粉体の質量の3倍以下とすることが好ましい。
炭素源と溶液の合計質量が二酸化ケイ素粉体の質量の3倍を超えると、この炭素源及び溶媒と二酸化ケイ素粉体との混合物を乾燥する際に、炭素源が偏析して不均一になり易くなり、その結果、均質な炭化ケイ素粉体が得られなくなるので、好ましくない。
【0028】
この二酸化ケイ素粉体の炭素源への分散性は、二酸化ケイ素粉体の表面状態、すなわち疎水性か、親水性かの違い以外に、製造条件によっても異なる。そこで、二酸化ケイ素粉体を炭素源中または炭素源と溶媒との混合物中に流動性を保持して分散させることのできる濃度(以下、流動性保持濃度と称する。)の測定を行い、流動性保持濃度が25質量%以上となる二酸化ケイ素粉体を用いることが好ましい。
特に、炭素源として、フェノール樹脂、またはフェノール樹脂と有機溶媒との混合物を用いた場合、二酸化ケイ素粉体のフェノール樹脂中またはフェノール樹脂と有機溶媒との混合物中の流動性保持濃度は25質量%以上であることが好ましい。
【0029】
ここで、流動性とは、上記の混合物を攪拌してから静置した後、容器内で表面が平坦になるまでの時間をもって判定されるもので、例えば、1秒以内に表面が平坦になった場合、流動性が高いと判定され、また、1秒以上経過した後においても表面が平坦にならなかった場合、流動性が低いと判定される。このように、流動性が低いものでは、1秒以上経過した後においても形状の変化は小さい。
【0030】
この流動性保持濃度は、炭素源と二酸化ケイ素粉体とを混合する以前に、炭素源中、または炭素源を有機溶媒にて希釈した炭素源溶液中での分散性を測定することで示される値である。ここでは、炭素源を有機溶媒により10倍に希釈した溶液中に、二酸化ケイ素粉体を5質量%となるように投入し、ホモジナイザーで分散させた後、ロータリーエバポレーターで有機溶媒を散逸させ、流動性が低くなったときの二酸化ケイ素の濃度を流動性保持濃度とする。
【0031】
ここで、流動性保持濃度が25質量%よりも小さい二酸化ケイ素粉体を使用すると、この二酸化ケイ素粉体と炭素源との混合物を乾燥した後の嵩密度が低くなり、その結果、炭化ケイ素前駆物質の嵩密度を0.3g/cm以上とすることができなくなるので、好ましくない。
このように、流動性保持濃度が25質量%以上の二酸化ケイ素粉体を用いることにより、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の炭化ケイ素前駆物質を得ることができる。
【0032】
これら炭素源及び二酸化ケイ素を混合する際の混合割合としては、特に制限は無いが、ケイ素源が多いと、熱処理後に酸化ケイ素が多く残存し、一方、炭素源が多いと、遊離した炭素が多く残存し、いずれにしても一方が過多になると、得られる炭化ケイ素の品質及び形状に悪影響を及ぼす。したがって、得られる炭化ケイ素前駆物質の炭素の二酸化ケイ素に対するモル比(C/Si)を2.5以上かつ3.5以下とすることが好ましい。
【0033】
炭素源と二酸化ケイ素粉体との混合物の粘度は、混合に使用する装置や得ようとする混合物の最適な粘度に合わせて適宜選択することができる。特に、粘度が高く流動性の小さな混合物を作製する場合、混合装置としては、粘度の高い物質を混合することができるニーダー、プラネタリミキサ、3本ロールミル等が好適に用いられる。
【0034】
一方、粘度が低く流動性の大きな混合物を作製する場合、混合装置としては、ホモジナイザー(乳化器)、超音波分散装置、ビーズミル、ボールミル、遊星式ボールミル等の湿式混合装置、アルティマイザー等の二流衝突式混合装置等、通常の混合工程に用いられる装置を使用することができる。
【0035】
次いで、炭素源と二酸化ケイ素粉体との混合物を乾燥する。
この乾燥過程で混合物に含まれる溶媒や炭素源に含まれる揮発成分が散逸し、樹脂と二酸化ケイ素粉体との複合体となる。
乾燥は、溶媒が散逸する温度と雰囲気圧力を満たしていればよく、特に制限は無いが、急激に乾燥すると、炭素源が偏析して得られる炭化ケイ素が不均一になる。したがって、乾燥させる雰囲気圧力下での沸点より50℃以下高くした温度とすることが好ましい。
【0036】
ここで、流動性のある混合物を得るために、混合物中の溶媒の量を多くした場合、この混合物をロータリーエバポレーター等で濃縮して流動性の低い混合物とした後に、乾燥することが好ましい。
この混合物の嵩密度が高い場合には、減圧下で乾燥させて混合物中に気泡を発生させることで、嵩密度を調整することができる。
減圧下での雰囲気圧力は、400hPa以下が好ましく、200hPa以下がより好ましい。ここで、雰囲気圧力が400Paより高いと、十分な減圧効果が得られなくなる。
【0037】
次いで、得られた乾燥物に炭化処理を施す。
炭化処理としては、例えば、アルゴン(Ar)や窒素ガス(N)等の不活性雰囲気中、500℃以上かつ1100℃以下、好ましくは600℃以上かつ800℃以下の温度範囲にて、1分以上かつ10時間以下、好ましくは15分以上かつ2時間以下保持することが好ましい。
この炭化処理は、後述する不活性雰囲気中での熱処理と連続して行ってもよい。
この炭化処理により、乾燥物中の炭素源が炭化し、炭素と二酸化ケイ素を含み、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の炭化ケイ素前駆物質が得られる。
【0038】
ここで、この炭化ケイ素前駆物質の嵩密度を0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下と限定した理由は、この嵩密度の範囲が、この炭化ケイ素前駆物質を後述する不活性雰囲気中にて熱処理する際に、炭化ケイ素前駆物質中の雰囲気ガス及び熱処理により生じたガスの流れを最適化することができ、この炭化ケイ素前駆物質を60%以上かつ98%以下の反応率にて均質に反応させることができる範囲だからである。
【0039】
ここで、炭化ケイ素前駆物質の嵩密度が0.3g/cm未満であると、炭化ケイ素前駆物質の密度にムラが生じ、したがって、炭化ケイ素前駆物質中の雰囲気ガス及び熱処理により生じたガスの流れが不均一となり、均一な粒子径の炭化ケイ素粉体が得られず、一方、嵩密度が1.3g/cmを超えると、ガスの流れが妨げられ、炭化ケイ素前駆物質が均一に反応せず、未反応な塊が形成されることとなるので好ましくない。
【0040】
[炭化ケイ素粉体の製造方法]
本実施形態の炭化ケイ素粉体の製造方法は、本実施形態の炭化ケイ素前駆物質の製造方法により得られた炭化ケイ素前駆物質を、不活性雰囲気中、1500℃以上かつ1700℃以下にて熱処理して、前記炭化ケイ素前駆物質を60%以上かつ98%以下の反応率にて反応させ、さらに、酸化性雰囲気中にて熱処理し、得られた炭化ケイ素含有物から不純物を除去し、平均粒子径が50nm以下の炭化ケイ素粉体とする方法である。
【0041】
以下、本実施形態の炭化ケイ素粉体の製造方法について詳細に説明する。
まず、炭化ケイ素前駆物質を不活性雰囲気中にて熱処理することにより、この炭化珪素前駆物質中の炭素と二酸化ケイ素を反応させ、炭化ケイ素を生成させる。
この不活性雰囲気としては、アルゴン(Ar)、窒素ガス(N)等の不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性雰囲気にて熱処理を行う熱処理炉としては、所定の温度及び雰囲気を満たすものであればよく、連続式の熱処理炉であっても、バッチ式の熱処理炉であっても、いずれでもよい。
【0042】
炭化ケイ素前駆物質を熱処理炉へ投入する方法としては、炭化ケイ素前駆物質の粉砕物を原料ホッパー等で投入してもよいが、炭化ケイ素前駆物質を蓋付きの黒鉛坩堝に投入し、この黒鉛坩堝毎、炉内に搬送する方法が好適である。
坩堝に蓋をすることで坩堝内の温度や雰囲気が一定になり、したがって、炭化ケイ素前駆物質を均一に反応させ易くなる。坩堝の大きさに制限は無く、熱処理炉の形状に合わせて適宜決定すればよい。
【0043】
この不活性雰囲気中における熱処理温度は、1500℃以上かつ1700℃以下が好ましい。また、最高温度における保持時間は、1分以上かつ4時間以下、好ましくは30分以上かつ2時間以下である。
ここで、不活性雰囲気における熱処理温度を1500℃以上かつ1700℃以下とした理由は、熱処理温度が1500℃より低いと、炭化ケイ素前駆物質中の炭素と二酸化ケイ素とが充分に反応せず、一方、熱処理温度が1700℃より高いと、生成する炭化ケイ素微粒子の粒子径が大きくなり過ぎてしまい、平均粒子径が50nm以下でありかつ粒度分布の幅が狭い(最大粒子径が平均粒子径の2.5倍以下)炭化ケイ素粉体が得られなくなるからである。
これにより、生成した炭化ケイ素微粒子を含む炭化ケイ素含有物が得られる。
【0044】
この炭化ケイ素含有物の色調は、黒色または灰褐色であり、外観と、この後の未反応物除去工程での重量変化により、坩堝内で均一に反応したか否かの評価を行うことができる。
この炭化ケイ素含有物全体の反応率は、熱処理工程での重量変化から求めることができる。
例えば、不活性雰囲気における熱処理後の質量減少量を、熱処理による反応の終点である1800℃における熱処理後の重量減少量で割ることにより、不活性雰囲気における熱処理後の炭化ケイ素含有物全体の反応率を求めることができる。
【0045】
例えば、炭素源と二酸化ケイ素粉体とを反応させて炭化ケイ素を作製する際に、主として一酸化炭素ガスの生成による質量減少、微量の二酸化ケイ素の蒸発による質量減少、微量のフリーカーボン(free−C)の生成、が生じる。
この場合、1800℃以上の温度で熱処理すれば、炭素源と二酸化ケイ素粉体との反応が完結したと見なすことができるので、1800℃以上の温度における質量減少から熱処理後の炭化ケイ素含有物全体の反応率を求めることができる。
【0046】
この反応率としては、60%以上かつ98%以下が好ましい。
ここで、反応率を上記の範囲に限定した理由は、反応率が60%未満であると、炭化ケイ素含有物に多くの未反応の炭素や二酸化ケイ素が含まれることとなり、得られた炭化ケイ素粉体の均質性が低下するからである。また、原料に無駄が多く、不経済でもある。一方、反応率が98%を超えると、炭化ケイ素微粒子の粒成長が急激に進行し、50nm以下の平均粒子径の炭化ケイ素粉体を得ることが難しくなるからである。
【0047】
次いで、この炭化ケイ素含有物を酸化性雰囲気中にて熱処理し、未反応の炭素を除去する。
この酸化性雰囲気としては、大気の他、酸素ガスを19〜23体積%含む窒素ガス(N)等が好ましい。ここで、炭化ケイ素粒子の表面の酸化膜の量を削減するためには、水蒸気や炭酸ガス等を用いてもよい。
この酸化性雰囲気中における熱処理温度は、500℃以上かつ1600℃以下が好ましく、より好ましくは600℃以上かつ900℃以下である。
また、この熱処理温度における保持時間は、熱処理温度にもよるが、1分以上かつ4時間以下、好ましくは1時間以上かつ2時間以下である。
【0048】
ここで、酸化性雰囲気における熱処理温度を500℃以上かつ1600℃以下とした理由は、熱処理温度が500℃より低いと、生成した炭化ケイ素の分散効果が小さく、また、未反応の炭素が焼成されないで残ってしまうからである。また、熱処理温度が500℃より高くなるにしたがって炭化ケイ素の分散が容易になり、残留する炭素も少なくなるが、熱処理温度が1600℃を越えると、炭化ケイ素が酸化して酸化ケイ素となる割合が高くなるので、好ましくない。
【0049】
次いで、フッ化水素酸を含む溶液または強塩基性溶液を用いて洗浄し、炭化ケイ素含有物に含まれる二酸化ケイ素等の不純物を除去し、本実施形態の炭化ケイ素粉体を得る。
強塩基性溶液としては、2N〜8Nの水酸化ナトリウム水溶液、2N〜8Nの水酸化カリウム水溶液等が好適である。
このようにして得られた炭化ケイ素粉体は、平均粒子径が50nm以下でありかつ粒度分布の幅が狭いものになっている。また大量生産するために同時に大量の処理を行っても均一な特性の炭化ケイ素粉体が得られる。
【0050】
ここで、「粒度分布の幅が狭い」とは、粒度分布の最大粒子径と平均粒子径を比較した場合に、最大粒子径が平均粒子径の2.5倍以下となることであり、最大粒子径を平均粒子径の2.5倍以下とすることにより、ナノ粒子としての特性を発現することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
炭素源としてフェノール樹脂1404gと希釈用溶媒としてメタノール80gとを混合し、フェノール樹脂−メタノール混合溶液を得た。また、二酸化ケイ素粉体としては、この混合溶液に対する流動性保持濃度が35%でありかつ粒径が30nmの親水性二酸化ケイ素粉体800gを使用した。ここでは、フェノール樹脂−メタノール混合溶液の全質量を二酸化ケイ素粉体の1.9倍とした。
これらをプラネタリミキサーを用いて30分間混練して、粘度が高く、流動性が無く、透光性を有する混合物を得た。
【0053】
得られた混合物を60℃、80hPaの圧力下にて乾燥を行い、気泡を多く含んだ白褐色の固体を得た。
次いで、この白褐色の固体を窒素雰囲気中、650℃にて1時間、炭化処理を行い、二酸化ケイ素と炭素からなる炭化ケイ素前駆物質を得た。この前駆物質のC/Si(モル比)は3.3であり、嵩密度は0.73g/cmであった。
次いで、この炭化ケイ素前駆物質を内径200mm、高さ50mmの黒鉛製の坩堝に充填して蓋をし、アルゴン雰囲気中、1600℃にて4時間、熱処理を行い、反応生成物を得た。熱処理後の坩堝内の反応生成物の質量から求めた全体の反応率は85%であった。この反応生成物の外観を目視にて調べたところ、坩堝内の位置による外観の違いは認められなかった。
【0054】
この坩堝内の反応生成物の中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれから試料を採取し、酸化性雰囲気中、700℃にて2時間熱処理を行い、次いで、これらの試料から、フッ化水素酸を用いて未反応の二酸化ケイ素を溶解除去し、中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれに対応した2種類の炭化ケイ素粉体を得た。
この粉体を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、坩堝の外周付近及び中心付近それぞれから得られた粉体共、平均粒子径は30nm、最大粒子径は40nmであった。
【0055】
[実施例2]
炭素源としてフェノール樹脂1123gと希釈用溶媒としてメタノール448gとを混合し、フェノール樹脂−メタノール混合溶液を得た。また、二酸化ケイ素粉体としては、この混合溶液に対する流動性保持濃度が28%でありかつ粒径が7nmの疎水性二酸化ケイ素粉体640gを使用した。ここでは、フェノール樹脂−メタノール混合溶液の全質量を二酸化ケイ素粉体の2.5倍とした。
これらをプラネタリミキサーを用いて30分間混練して、粘度が高く、流動性が無く、透光性を有する混合物を得た。
【0056】
得られた混合物を80℃、400hPaの圧力下にて乾燥を行い、気泡を多く含んだ白褐色の固体を得た。
次いで、この白褐色の固体を窒素雰囲気中、650℃にて1時間、炭化処理を行い、二酸化ケイ素と炭素からなる炭化ケイ素前駆物質を得た。この前駆物質のC/Si(モル比)は3.5であり、嵩密度は0.40g/cmであった。
次いで、この炭化ケイ素前駆物質に、実施例1に準じてアルゴン雰囲気中にて熱処理を行い、反応生成物を得た。熱処理後の坩堝内の反応生成物の質量から求めた全体の反応率は89%であった。この反応生成物の外観を目視にて調べたところ、坩堝内の位置による外観の違いは認められなかった。
【0057】
この坩堝内の反応生成物の中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれから試料を採取し、実施例1に準じて酸化性雰囲気中の熱処理、及びフッ化水素酸を用いた未反応の二酸化ケイ素の溶解除去を行い、中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれに対応した2種類の炭化ケイ素粉体を得た。
この粉体を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、坩堝の外周付近及び中心付近それぞれから得られた粉体共、平均粒子径は15nm、最大粒子径は33nmであった。
【0058】
[実施例3]
炭素源としてキシレン樹脂2100gと希釈用溶媒としてメタノール900gとを混合し、キシレン樹脂−メタノール混合溶液を得た。また、二酸化ケイ素粉体としては、この混合溶液に対する流動性保持濃度が25%でありかつ粒径が7nmの疎水性二酸化ケイ素粉体1000gを使用した。ここでは、キシレン樹脂−メタノール混合溶液の全質量を二酸化ケイ素粉体の3.0倍とした。
次いで、キシレン樹脂−メタノール混合溶液を用いて、実施例1に準じて炭化ケイ素前駆物質を得た。この前駆物質のC/Si(モル比)は2.5であり、嵩密度は0.30g/cmであった。なお、製造途中で得られる混合物は流動性の小さなものであった。
【0059】
次いで、この炭化ケイ素前駆物質を内径200mm、高さ50mmの黒鉛製の坩堝に充填して蓋をし、アルゴン雰囲気中、1650℃にて4時間、熱処理を行い、反応生成物を得た。熱処理後の坩堝内の反応生成物の質量から求めた全体の反応率は98%であった。この反応生成物の外観を目視にて調べたところ、坩堝内の位置による外観の違いは認められなかった。
【0060】
この坩堝内の反応生成物の中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれから試料を採取し、実施例1に準じて中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれに対応した2種類の炭化ケイ素粉体を得た。
この粉体を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、坩堝の外周付近及び中心付近それぞれから得られた粉体共、平均粒子径は13nm、最大粒子径は22nmであった。
【0061】
[実施例4]
炭素源として水分散型のフェノール樹脂2230gと希釈用溶媒として水1120gとを混合し、水分散型フェノール樹脂−水混合溶液を得た。また、二酸化ケイ素粉体としては、この混合溶液に対する流動性保持濃度が30%でありかつ粒径が40nmの疎水性二酸化ケイ素粉体1500gを使用した。ここでは、水分散型フェノール樹脂−水混合溶液の全質量を二酸化ケイ素粉体の2.5倍とした。
これらをプラネタリミキサーを用いて30分間混練して、流動性が無く、透光性を有する混合物を得た。
【0062】
得られた混合物を100℃、90hPaの圧力下にて乾燥を行い、気泡を多く含んだ茶褐色の固体を得た。
次いで、この茶褐色の固体を窒素雰囲気中、650℃にて1時間、炭化処理を行い、二酸化ケイ素と炭素からなる炭化ケイ素前駆物質を得た。この前駆物質のC/Si(モル比)は2.8であり、嵩密度は1.3g/cmであった。
次いで、この炭化ケイ素前駆物質を内径200mm、高さ50mmの黒鉛製の坩堝に充填して蓋をし、アルゴン雰囲気中、1500℃にて8時間、熱処理を行い、反応生成物を得た。熱処理後の坩堝内の反応生成物の質量から求めた全体の反応率は70%であった。この反応生成物の外観を目視にて調べたところ、坩堝内の位置による外観の違いは認められなかった。
【0063】
この坩堝内の反応生成物の中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれから試料を採取し、実施例1に準じて中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれに対応した2種類の炭化ケイ素粉体を得た。
この粉体を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、坩堝の外周付近及び中心付近それぞれから得られた粉体共、平均粒子径は28nm、最大粒子径は40nmであった。
【0064】
[実施例5]
炭素源としてフェノール樹脂1123gと希釈用溶媒としてメタノール448gとを混合し、フェノール樹脂−メタノール混合溶液を得た。また、二酸化ケイ素粉体としては、この混合溶液に対する流動性保持濃度が28%でありかつ粒径が7nmの疎水性二酸化ケイ素粉体640gを使用した。ここでは、フェノール樹脂−メタノール混合溶液の全質量を二酸化ケイ素粉体の2.5倍とした。
これらをホモジナイザーを用いて分散させ、粘度が高いゾルとした後、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、流動性が無く、透光性を有する混合物を得た。
【0065】
得られた混合物を80℃、50hPaの圧力下にて乾燥を行い、気泡を多く含んだ白褐色の固体を得た。
次いで、この白褐色の固体を窒素雰囲気中、650℃にて1時間、炭化処理を行い、二酸化ケイ素と炭素からなる炭化ケイ素前駆物質を得た。この前駆物質のC/Si(モル比)は3.5であり、嵩密度は0.40g/cmであった。
次いで、この炭化ケイ素前駆物質を内径200mm、高さ50mmの黒鉛製の坩堝に充填して蓋をし、アルゴン雰囲気中、1700℃にて30分間、熱処理を行い、反応生成物を得た。熱処理後の坩堝内の反応生成物の質量から求めた全体の反応率は95%であった。この反応生成物の外観を目視にて調べたところ、坩堝内の位置による外観の違いは認められなかった。
【0066】
この坩堝内の反応生成物の中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれから試料を採取し、実施例1に準じて中心付近の位置及び外周付近の位置それぞれに対応した2種類の炭化ケイ素粉体を得た。
この粉体を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、坩堝の外周付近及び中心付近それぞれから得られた粉体共、平均粒子径は32nm、最大粒子径は48nmであった。
【0067】
[比較例1]
混合物の乾燥を100℃、大気圧下にて行った他は、実施例1に準じて炭化ケイ素前駆物質を得た。
得られた炭化ケイ素前駆物質は、5mm角以上の塊状であり、嵩密度は1.43g/cmであった。
次いで、この炭化ケイ素前駆物質を、実施例1に準じて熱処理を行い、反応生成物を得た。熱処理後の坩堝内の反応生成物の質量から求めた全体の反応率は55%であった。
【0068】
この反応生成物の外観を目視にて調べたところ、坩堝内の位置による外観の違いは認められなかったが、塊状の炭化ケイ素前駆物質の表面のみが反応して中心部に反応していない部分が残っており、炭化ケイ素前駆物質は均一に反応していないことが分かった。したがって、塊状の炭化ケイ素前駆物質の平均粒子径を測定することができなかった。
【0069】
[比較例2]
炭素源としてフェノール樹脂1123gと希釈用溶媒としてメタノール1500gとを混合し、フェノール樹脂−メタノール混合溶液を得た。また、二酸化ケイ素粉体としては、この混合溶液に対する流動性保持濃度が20%でありかつ粒径が7nmの疎水性二酸化ケイ素粉体640gを使用した。ここでは、フェノール樹脂−メタノール混合溶液の全質量を二酸化ケイ素粉体の5.0倍とした。
これらをプラネタリミキサーを用いて30分間混練して混合物を得た。
【0070】
得られた混合物を、実施例1に準じて処理し、炭化ケイ素前駆物質を得た。この前駆物質のC/Si(モル比)は3.5であり、嵩密度は0.20g/cmであった。
次いで、この炭化ケイ素前駆物質を内径200mm、高さ50mmの黒鉛製の坩堝に充填して蓋をし、アルゴン雰囲気中、1600℃にて4時間、熱処理を行い、反応生成物を得た。この反応生成物の外観を目視にて調べたところ、この坩堝内の反応生成物の表面と外周付近は緑色の粉体であり、この反応生成物の内部は黒色の粉体であった。
【0071】
この坩堝内の反応生成物の表面と外周付近の位置(緑色の粉体)及び内部の位置(黒色の粉体)それぞれから試料を採取し、実施例1に準じて酸化性雰囲気中の熱処理、及びフッ化水素酸を用いた未反応の二酸化ケイ素の溶解除去を行い、表面と外周付近の位置及び内部の位置それぞれに対応した2種類の炭化ケイ素粉体を得た。
この粉体を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、表面と外周付近の位置(緑色の粉体)から得られた炭化ケイ素粉体の平均粒子径は200nm、最大粒子径は300nm、内部の位置(黒色の粉体)から得られた炭化ケイ素粉体の平均粒子径は20nm、最大粒子径は43nmであった。
実施例1〜5及び比較例1、2の評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の炭化ケイ素前駆物質の製造方法は、液状の炭素源と平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体とを混合し、得られた混合物を乾燥し、次いで炭化処理を行い、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の炭化ケイ素前駆物質とすることにより、平均粒子径が50nmよりも大きな粒子が無く、大きな凝集粒子も無い均質な炭化ケイ素前駆物質を容易に得ることができるものであるから、平均粒子径が50nmよりも小さくかつ均質な炭化ケイ素粉体が要求される様々な工業分野においても、その効果は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の炭素源と平均粒子径が40nm以下の二酸化ケイ素粉体とを混合し、得られた混合物を乾燥し、次いで炭化処理を行い、嵩密度が0.3g/cm以上かつ1.3g/cm以下の炭化ケイ素前駆物質とすることを特徴とする炭化ケイ素前駆物質の製造方法。
【請求項2】
前記液状の炭素源は、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの群から選択される1種または2種以上を含有してなることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素前駆物質の製造方法。
【請求項3】
前記液状の炭素源をフェノール樹脂とし、
前記二酸化ケイ素粉体を前記フェノール樹脂中または前記フェノール樹脂と溶媒との混合物中に流動性を保持して分散させることのできる濃度は25質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素前駆物質の製造方法。
【請求項4】
前記混合物を400hPa以下の減圧下にて乾燥させることにより、前記嵩密度を調整することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の炭化ケイ素前駆物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の炭化ケイ素前駆物質の製造方法により得られた炭化ケイ素前駆物質を、不活性雰囲気中、1500℃以上かつ1700℃以下にて熱処理して、前記炭化ケイ素前駆物質を60%以上かつ98%以下の反応率にて反応させ、さらに、酸化性雰囲気中にて熱処理し、得られた炭化ケイ素含有物から不純物を除去し、平均粒子径が50nm以下の炭化ケイ素粉体とすることを特徴とする炭化ケイ素粉体の製造方法。