説明

炭化ケイ素粉末の低温焼結方法

【課題】炭化ケイ素焼結体を、液相を形成せずに、低温で焼結する。
【解決手段】炭化ケイ素粉末に、炭素源として炭素または炭化することが可能な物質を炭素換算量で1wt%から10wt%、及びホウ素源としてホウ素またはホウ素化合物をホウ素換算量で0.1wt%−5wt%混合した混合物を準備し、この混合物に対して1800℃以上でマイクロ波焼結を行う。これにより、このような低温焼結にも変わらず、例えば図に示すような、緻密でかつ異常粒成長が抑制された炭化ケイ素粉末の焼結体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波加熱により高密度の炭化ケイ素焼結体を低温で得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)焼結体は高温構造材料や耐摩耗性材料として多用されている。この焼結体を得るための焼結方法には、再結晶法、反応焼結法、微粉末の液相焼結法と固相焼結法など多くのものがこれまで提案、使用されてきた。
【0003】
近年応用が拡大した半導体製造部品用炭化ケイ素焼結体は、固相反応焼結法によっている。炭化ケイ素粉末の焼結において工業的に利用されている手法は炭化ケイ素粉末に焼結助剤としてホウ素(B)と炭素(C)を加え、2100℃前後で焼結するものである。アルミニウム−B−C系助剤で低温での焼結が可能であることが報告されているが、これは低温で粒界に液相が生成し高温構造材料としての特性を劣化する原因となる。また、焼結温度を低くするためにホットプレスを用いる場合もあるが、部品としての形状付与を行うことが難しい。例えば、非特許文献1は、SiC粉末をマイクロ波で焼結しているが、助剤に液相となる酸化物(マイクロ波を吸収しにくい物質)を使っているため、従来の焼結と同様に1950℃の高温を必要としている。非特許文献2はSiC粉末の固相焼結法を初めて開発した米国GE社のProchazkaの解説であるが、粒界での液相生成を伴うことなく低温焼結を行うことは開示されていない。非特許文献3では、液相焼結を用いてSiC粉末を緻密化しているが、高温での強度が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解消し、適切に選択された助剤を使用することで、理論密度の89%の密度の炭化ケイ素焼結体を、液相を形成することなく、マイクロ波加熱によって得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、炭化ケイ素粉末に、炭素源として炭素または炭化することが可能な物質を炭素換算量で1wt%から10wt%、及びホウ素源としてホウ素またはホウ素化合物をホウ素換算量で0.1wt%−5wt%混合した混合物を準備し、前記混合物に対して1750℃以上でマイクロ波焼結を行う、炭化ケイ素粉末の焼結方法が提供される。
【0006】
前記炭素または炭化することが可能な物質の比率は炭素換算量で2.5wt%から5wt%であってよい。
【0007】
前記炭素または炭化することが可能な物質の比率は炭素換算量で3wt%から5wt%であるとともに、前記マイクロ波焼結の温度が1700℃以上であってよい。
【0008】
前記マイクロ波焼結の温度が2500℃以下であってよい。
【0009】
前記炭素源が炭化することが可能な物質であり、前記マイクロ波焼結の前に、真空中で前記混合物を昇温状態に維持してよい。
【0010】
前記混合物を予め加圧により成型してよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、理論密度の89%以上という緻密な炭化ケイ素焼結体を従来よりもはるかに低温で作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】焼結助剤としての炭素が3wt%になるようにフェノール樹脂を添加して成形体を作製し、マイクロ波焼結機を用いて1800℃で30分保持した焼結体の微構造組織写真(表1の番号5に対応)。
【図2】焼結助剤としての炭素が4wt%になるようにフェノール樹脂を添加して成形体を作製し、マイクロ波焼結機を用いて1800℃で30分保持した焼結体の微構造組織写真(表1の番号6に対応)。
【図3】焼結助剤としての炭素が4wt%になるようにフェノール樹脂を添加して成形体を作製し、抵抗加熱炉を用いて1800℃で30分保持した焼結体の微構造組織写真(表1の番号12に対応)。
【図4】焼結助剤としての炭素が4wt%になるようにフェノール樹脂を添加して成形体を作製し、抵抗加熱炉を用いて2200℃で30分保持した焼結体の微構造組織写真(表1の番号14に対応)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願発明者は、炭素を含む焼結助剤を用い、さらにマイクロ波加熱を行うことで、1700℃〜1950℃という低温で、理論密度に対する密度(相対密度)が89%以上となる炭化ケイ素焼結体が得られることを見出した。もちろんこの焼結方法はこの上限よりも高い焼結温度の場合も使用可能であるが、2500℃以下が好ましい。この温度よりも高温で焼結を行うと、炭化ケイ素の分解の問題が現れるからである。マイクロ波加熱による焼結温度の下限は、更に好ましくは1750℃、更には1800℃である。1700℃よりも低い温度では89%という相対密度は達成できないと考えられる。
【0014】
マイクロ波加熱の特徴として、物質内部からの自己発熱と選択加熱があげられる。この発明は、これら二つの特徴を用いている。炭素は炭化ケイ素よりもマイクロ波を吸収しやすい。この場合には、選択加熱されることにより、マイクロ波は炭素に優先的に吸収されて自己発熱する。このことにより、本発明の方法においては、高温が必要となる助剤部分のみが高温になることで焼結が促進される。なお、マイクロ波加熱に使用するマイクロ波の波長は、最も広い意味で使用されている「マイクロ波」の範囲であればよい。具体的には1mから1μmの範囲であればよい。
【0015】
助剤および発熱体として作用する炭素の添加方法は、炭素を添加してもよいし、あるいは炭化することが可能な化合物として添加してもよい。炭素添加量としては、炭素換算量で1wt%から10wt%とすることが好ましいが、2.5wtから5wt%の範囲が一層有効である。更には、特に3wt%から5wt%が一層有効である。ホウ素(B)の添加に関しては、BまたはB化合物の形態で加える。その添加量は、Bに換算して0.1wt%−5wt%とする。
【0016】
焼結の低温化のために助剤を添加する場合には、低い温度で液相となることで低温焼結が促進された。しかし、このことは他方では高温における粒界相の軟化などの原因となり、上述のように、高温での強度などの機械特性の劣化を引き起こすこととなる。
【0017】
それに対して、マイクロ波を用いた場合には、焼結助剤である炭素がある粒界付近のみが非常に局所的な範囲で高温状態となるが、焼結体全体は比較的低温のままである。従って、焼結体の温度をあまり上昇させない場合に従来技術で必要とされたところの、低い温度で液相となる助剤を必要としない。これにより、高温での焼結体の機械特性の劣化を防ぐことができる。
【0018】
また、本発明の方法によれば、組織粒内部は、焼結中期間中、比較的低温となっているので、粒成長しにくい。そのため、出来上がった焼結体を、異常粒成長が抑えられた微細組織粒とすることが出来る。
【0019】
更には、マイクロ波は被加熱物にだけ吸収され、雰囲気などの温度を上昇させない物質の自己発熱であるため、本来的に、通常の抵抗炉のような外部加熱に比べて効率の良い加熱手法である。本発明では、高温が必要となる粒子表面の焼結助剤自身を集中して発熱させるため、一層省エネルギーとなる。
【0020】
なお、上述したように、本発明では助剤がマイクロ波を優先的に吸収することで選択加熱されることを利用している。従って、炭化ケイ素よりもマイクロ波を吸収しやすい物質であれば、炭素以外の助剤を用いて同様に低温での焼結を行うことが可能となる。
【実施例】
【0021】
平均粒径0.45μmの炭化ケイ素粉末に、平均粒径0.8μmのホウ素粉末と、炭素供給源としてフェノール樹脂を添加し、エタノールを溶媒として遊星型ボールミルを用いて8時間混合した。それぞれが重量百分率で95.7:0.3:4となるように秤量した。これを乾燥させて150meshのふるいにかけた粉末を1軸加圧(10MPa)で成形し、その後に392MPaにて冷間静水圧プレスをした。この成形体を28GHzのマイクロ波によって加熱した。はじめにフェノール樹脂を炭化させるため1500℃までは真空中にて加熱しながら30分保持し、その後にArガスを導入し1800℃の焼結温度まで昇温して30分保持した。いずれも昇温速度は30℃/minとした。この焼結体の密度は理論密度に対して97%となり、組織粒の平均粒径が数μmとなった。
【0022】
比較として炭素抵抗加熱炉にて、同じ条件(1500℃までは真空中にて加熱し30分保持、その後にArガスを導入し1800℃の焼結温度まで昇温、30分保持)で焼結した試料では、理論密度78%となり、緻密化することは出来なかった。
【0023】
表1に実験条件を変化させて行った本発明の実施例と比較例を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1からわかるように、1700℃という従来に比べて大幅に低い焼結温度でも、炭素成分の組成比を調節することによって89%以上という高い相対密度を実現できた。更に、焼結温度をわずかに上げて1800℃とするだけで、炭素成分の組成比を2.5wt%まで下げても94%以上という更に緻密な焼結体を得ることができた。
【0026】
図1は表の番号5に対応する焼結体の写真である。この写真からわかるように、この条件で作成した焼結体は緻密化されていることが確認できる。更には、組織粒は等軸粒となっており、破壊の起点となる異常粒成長している組織粒がない。
【0027】
図2は表の番号6に対応する焼結体の写真である。この場合も、焼結体は緻密化されていることが確認できる。また、組織粒は等軸粒となっており、破壊の起点となる異常粒成長している組織粒がない。
【0028】
これに対して、常圧焼結した番号7以降は、いずれも相対密度が57%〜77.8%と、本発明により作成された焼結体の相対密度にはるかに及ばない。
【0029】
図3は表の番号12に対応する比較例の焼結体の写真である。この写真には、このようにして作成された焼結体には穴が多く緻密化されていないことが明確に示されている。
【0030】
図4は表の番号14に対応する比較例の焼結体の写真である。この写真には、2200℃という高温での緻密化では、組織粒が異方的に異常粒成長しており、破壊の起点となりやすい組織粒が多くなっていることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、低温で高密度であるとともに、破壊の起点となる異常粒成長が抑制された高品質の炭化ケイ素焼結体を、低温かつ低消費エネルギーで得ることができるため、本発明は、このような炭化ケイ素焼結体を必要とする応用分野へ供給される炭化ケイ素焼結体の焼結方法として広く利用されることが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0032】
【非特許文献1】J. Euro. Cera., 22 (2002) 1891-1896
【非特許文献2】Bull. Amer. Ceram. Soc., 52号885-891 1973年
【非特許文献3】J. Mater. Sci., 35 (2000) 3849-3855

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素粉末に、炭素源として炭素または炭化することが可能な物質を炭素換算量で1wt%から10wt%、及びホウ素源としてホウ素またはホウ素化合物をホウ素換算量で0.1wt%−5wt%混合した混合物を準備し、
前記混合物に対して1750℃以上でマイクロ波焼結を行う、
炭化ケイ素粉末の焼結方法。
【請求項2】
前記炭素または炭化することが可能な物質の比率が炭素換算量で2.5wt%から5wt%である、請求項1に記載の炭化ケイ素粉末の焼結方法。
【請求項3】
前記炭素または炭化することが可能な物質の比率が炭素換算量で3wt%から5wt%であるとともに、前記マイクロ波焼結の温度が1700℃以上である、請求項1に記載の炭化ケイ素粉末の焼結方法。
【請求項4】
前記マイクロ波焼結の温度が2500℃以下である、請求項1から3の何れかに記載の炭化ケイ素粉末焼結方法。
【請求項5】
前記炭素源が炭化することが可能な物質であり、
前記マイクロ波焼結の前に、真空中で前記混合物を昇温状態に維持する
請求項1から4の何れかに記載の炭化ケイ素粉末の焼結方法。
【請求項6】
前記混合物を予め加圧により整形する、請求項1から5の何れかに記載の炭化ケイ素粉末の焼結方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−246295(P2011−246295A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118851(P2010−118851)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】